最新更新日2023/11/15☆☆☆

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本ミス2024
対象作品である2022年11月1日~2023年10月31日の間に発売された謎解き主体のミステリー作品の中か らベスト20の順位を予想していきます。ただし、あくまでも個人的予想であり、順位を保証するものではありません。また、予想は作家の知名度や人気、作風、話題性などを考慮したうえで票が集まりそうな作品の順に並べたものであり、必ずしも予想順位が高い作品ほど優れているというわけでもありません。それらの点についてはあらかじめご了承ください。
※紹介作品の各画像をクリックするとAmazon商品ページにリンクします
2024本格ミステリ・ベスト10
探偵小説研究会
原書房
2023-12-07



本格ミステリベスト10国内版最終予想(2023年11月15日)

1位.エレファントヘッド(白井智之)
精神科医の主人公が愛する家族を襲った悲劇の真相を探っていく多重解決ものですが、グロ描写満載で倫理観の欠片もない物語は好みが分かれるところ。推理自体もSF要素を絡めた設定が複雑すぎて理解しがたい部分があるも、様々なアイディアが投入されており、本格としての魅力は満載です。


2位.十戒(夕木春央)
犯人捜しをしたら島を爆破されるという設定がクローズサークルものとして秀逸。前作『方舟』と比べるとサスペンス感には欠けるものの、緻密なロジックに基づく推理やドンデン返しといった要素は健在で、本格としてかなりの完成度。ただ、勘の良い人なら犯人はなんとなく見当がつくかも。
十戒
夕木春央
講談社
2023-08-08


3位.しおかぜ市一家殺害事件 あるいは迷宮牢の殺人(早坂吝)
迷宮牢でのデスゲームという趣向のなかにさまざまな仕掛けを盛り込む手腕が見事。小ネタ大ネタが入り乱れ、本格としての密度の濃さはかなりのものです。巧みに張巡られた伏線を終盤で一気に回収する手管にも唸らされます。ただ、登場人物のキャラと台詞回しは癖が強くて好き嫌いが分かれそうです。


4位.ちぎれた鎖と光の切れ端(荒木あかね)
孤島での連続殺人と都会での事件が意外な形で結び付き、全体の構図が浮かび上がっていく展開がよくできています。また、死体の第一発見者が必ず次の犠牲者になるという謎に対し、第一部と第二部でそれぞれ別の解を用意している点も秀逸。反面、第一部の犯人が分かりやすい点には物足りなさも。
ちぎれた鎖と光の切れ端
荒木あかね
講談社
2023-08-29


5位.あなたが誰かを殺した(東野圭吾)
逮捕された無差別殺人の犯人が完全黙秘を貫くので真実を明らかにしたい遺族たちが集まって事件の検証会を行うという話です。本編のほとんどが検証会に費やされているのですが、要所要所で衝撃の事実を明らかにしていき読者を飽きさせません。そのうえ、捻りの効いた真相も申し分なしです。
あなたが誰かを殺した
東野 圭吾
講談社
2023-09-21


6位.アミュレット・ホテル(方丈貴恵)
犯罪者御用達のホテルで起きた事件をホテル探偵が捜査し、もみ消していく連作短編です。SF設定でなくても著者ならでは緻密なロジックは健在で凝った謎解きを楽しむことができます。4つの中短編は力作揃いですが、なかでも密室殺人解明ののちに意外な事件の構図が浮かび上がる表題作がベスト。
アミュレット・ホテル
方丈 貴恵
光文社
2023-07-20


7位.鵼の碑(京極夏彦)
17年ぶりに発表された百鬼夜行シリーズ正規長編第10弾。初期のようなおどろおどろした怪奇性には欠けるものの、複数の視点から戦前の怪事件を紐解いていく物語は非常に読み応えがあります。レギュラー陣も魅力的。ただ、800頁を超える長大な物語の割に解決編のカタルシスはいま一つです。
鵼の碑 (講談社ノベルス)
京極 夏彦
講談社
2023-09-14


8位.世界でいちばん透きとおった物語(杉井光 )
ミステリ作家の遺作原稿を愛人の子が探す話ですが、物語的には特筆すべき点はありません。しかし、本書の真骨頂はそこに組み込まれた仕掛けにあります。次第に頭をもたげていく違和感にゾクゾクし、真相が明らかになった瞬間はまさに衝撃的です。紙の本ならでは仕掛けが炸裂する傑作。


9位.ヴァンプドッグは叫ばない(市川憂人)
マリア&漣シリーズ第5弾。施設から逃げ出した殺人犯ヴァンプドッグによるものと思われる連続殺人と、現金輸送車襲撃事件の犯人たちが潜伏していている隠れ家で起きる密室殺人が並行して語られる展開は刺激的で読み応えあり。そのうえでの行われる怒涛の伏線回収やどんでん返しが見事です。


10位.化石少女と七つの冒険(麻耶雄嵩)
全7話の化石少女シリーズ第2弾。前作は全体的に小粒でしたが、本作は1話ごとに趣向が凝らされており、本格ミステリとしての魅力が大幅アップしています。それになんといってもラストが秀逸です。作品のテーマとして提示された前作のオチを踏まえてさらなる仕掛けが炸裂するのが素晴らしい。
化石少女と七つの冒険
麻耶雄嵩
徳間書店
2023-03-01


11位.涜神館殺人事件(手代木正太郎)
怪しげな幽霊屋敷に集められた霊媒師たちが奇怪な状況で次々と殺されていくゴシックホラーミステリーです。個性豊かな霊媒師のエピソードがいちいち面白く、しかも、それが事件の謎を解く重要な伏線となっているのが見事です。リアリティはないものの、ぶっ飛んだトリックにも驚かされる怪作です。
涜神館殺人事件 (星海社 e-FICTIONS)
手代木正太郎
講談社
2023-10-17


12位.でぃすぺる(今村昌弘 )
ジュブナイルのような雰囲気のなかで語られるミステリなのかホラーなのか判然としない物語にゾクゾクします。そして、その末にたどり着く真相がロジカルでありながらどこか歪なのも著書ならではです。しかし一方で、剣崎比留子シリーズと比べると本格として小粒な点はもの足りなさも。
でぃすぺる (文春e-book)
今村 昌弘
文藝春秋
2023-09-21


13位.好きです、死んでください(中村あき)
孤島で行われた恋愛リアリティショーの最中に連続殺人が起こる話ですが、設定をうまく利用して完成度の高いフーダニットミステリに仕上げています。首ない死体を巡る推理も見事ですし、なにより、特異な状況によって生み出された密室トリックには唸らされました。技巧に満ちた傑作です。
好きです、死んでください
中村あき
双葉社
2023-09-21


14位.可燃物(米澤穂信)
警察小説としての体裁を整えながらも本格ミステリとしての魅力もたっぷりと味わえる連作短編です。葛警部が探偵役を務める収録5編はどれも読み応え満点ですが、なかでも、犯人が死体をバラバラにした理由に迫る「いのちの恩」、ファミレスの立て篭もり事件が反転する「本物か」が秀逸。
可燃物 (文春e-book)
米澤 穂信
文藝春秋
2023-07-25


15位.帆船軍艦の殺人(岡本好貴)
第33回鮎川哲也賞受賞作。18世紀末を舞台に海洋を航行中の英国軍艦で起きた連続不可能殺人事件を描いているのですが、まず、海洋冒険小説として読み応えがあります。そして、その物語を伏線として謎解きに結びつける手管が見事です。さらに、設定を活かしたトリックもなかなかにユニーク。
帆船軍艦の殺人
岡本 好貴
東京創元社
2023-10-10


16位.或るスペイン岬の謎 (柄刀一)
エラリー・クイーンの国名シリーズを模した柄刀版国名シリーズ第4弾にして最終巻。収録三編のうち頭一つ抜けているのが表題作で、切れ味抜群のロジックが素晴らしい。また、「チャイナ橙」と「ニッポン樫鳥」も密室などの仕掛けに工夫がみられます。正統派本格として読み応えのある佳品です。


17位.午後のチャイムが鳴るまでは(阿津川 辰海 )
高校を舞台にした連作短編です。学園生活の一コマをユーモアたっぷりに描きつつも、その中にさまざまな謎を仕込んで楽しませてくれます。なかでも、ポーカーゲームのイカサマを巡る話が秀逸です。反面、エピソードによっては真相が分かりやすいものがあもあり、その点は物足りなさも。
午後のチャイムが鳴るまでは
阿津川 辰海
実業之日本社
2023-09-21


18位.八角関係(覆面冠者)
愛慾変態推理小説と銘打たれて1951年に雑誌連載された作品ですが、本格としての魅力が満載。8人の男女が暮らす屋敷で4つの密室殺人が起きる趣向に加え、2次元の密室や4次元の密室などといったワードが飛び出し、読み手のミステリマインドをくすぐります。特に、第1の殺人における雪密室が秀逸。
八角関係 (論創ノベルス)
覆面冠者
論創社
2023-08-25


19位.密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック (鴨崎暖炉)
『密室黄金時代』時代に続くシリーズ第2弾。次々に密室殺人が起きる基本プロットは前作と同じですが、トリックがド派手になり、それを図式で説明してくれるのが嬉しいところ。テンポもよくて謎解きを気軽に楽しめます。あとはファンタジーレベルの奇想天外トリックを受け入れられるかがポイント。
20位.大雑把かつあやふやな怪盗の予告状 警察庁特殊例外事案専従捜査課事件ファイル(倉知淳)
3編収録の連作集。警察庁が名探偵を派遣という発想が楽しく、ミステリとしても不可解な犯行を合理的に説明するホワイダニットものとしてよく出来ています。特に、緩すぎる犯行予告に思わぬ意図が隠されている表題作が見事です。逆転の発想が光る「手間暇かかった分かりやすい見立て殺人」も秀逸。



その他注目作品50

21.私雨邸の殺人に関する各人の視点(渡辺 優)
嵐の山荘で密室殺人が起こり、推理合戦で犯人を特定しようとする展開に目新しさはなく、テンプレの寄せ集めだといえます。しかし、本格好きなとってはそのテンプレが楽しく、また、語り手が変わることを利用した巧みなミスディレクションもよくできています。お約束を逆手に取る手口も見事。


22.すべてはエマのために(月原渉)
陰鬱な空気が立ち込める第一次大戦下のルーマニアを舞台にした館での事件はムード満点。二転三転の展開やタイトルにもなっているエマがあまり登場しない理由などもよく考えられています。ただ、いささかこねくり回しすぎという感はありますし、シリーズ探偵のシズカの登場も余計だった気が...。


23.不実在探偵(アリス・シュレディンガー)の推理(井上悠宇)
刑事の甥である菊理現にしか視認できない不実在探偵という設定がユニーク。事件そのものにはそれほど凝った仕掛けはないものの、不実在探偵は言葉をしゃべれないのでダイズの目で「はい」や「いいえ」といった単純な受け答えしかできないのがミソ。その結果生じる試行錯誤の推理が楽しい。
不実在探偵の推理
井上悠宇
講談社
2023-06-27


24.黒真珠-恋愛推理レアコレクション(連城三紀彦)
著者の単行本未収録作品の中から男女の愛憎劇をテーマにした作品を14編収録。著者十八番の反転を堪能出来る作品が揃っており、なかでも、切れ味抜群の「過剰防衛」が秀逸です。他にも、二転三転の展開が読み手を翻弄する表題作や最後に明かされる秘密が衝撃的な「ひとつ蘭」などが印象的。


25.アリアドネの声(井上真偽)
地震で危険地帯に閉じ込められた三重苦の少女をドローンを使って救出する話で、一見本格ミステリの色は薄いように思えます。しかし、インポッシブルなミッションをいかにクリアするかという問題にはハウダニットものに通ずる面白さがあります。加えて、伏線を回収してのどんでん返しも見事です。
アリアドネの声 (幻冬舎単行本)
井上真偽
幻冬舎
2023-06-21


26.彼女はひとり闇の中(天祢涼)
著者十八番の社会派テーマを盛り込んだ本格ミステリですが、本作は特に凝った仕掛けが施されています。冒頭から罠が仕掛けられており、終盤になって見えていた風景を反転させてみせる手管は見事です。本格と社会派テーマが表裏一体となった傑作。ただ、伏線不足による唐突感は気になるところ。
彼女はひとり闇の中
天祢 涼
光文社
2023-02-22


27.友が消えた夏 終わらない探偵物語 (門前典之)
建築士探偵・蜘蛛手啓司シリーズ。恒例の館が舞台の不可能犯罪に加え、今回はそれが窃盗犯が所持していた記録によって語られるという特異なプロットで楽しませてくれます。一方で、十八番のバカトリックは控えめでその点に期待する肩すかしを覚えるかもしれません。ブラックなラストは衝撃的。
28.エフェクトラ 紅門福助最厄の事件(霞流一)
足跡のない殺人や人間消失など、魅力的な謎は多いものの、ミステリとしての仕掛け自体に特筆すべき点はありません。その代わり、トリックの扱いは上手く、見立て殺人の意表ついた狙いもユニークです。それに、なんといっても、サブタイトルの意味が分かる最後のサプライズがインパクト大。


29.栞と噓の季節(米澤 穂信)
図書委員シリーズ第2弾。高校の図書館で発見された猛毒トリカブトの栞を巡る事件を描いた青春ミステリです。謎解きよりもダークな青春物語に主眼を置いた作品ですが、作中にさりげなく伏線を絡ませて最後に回収していく手管には感心させられました。ただ、ガチの本格を期待すると肩すかしかも。
栞と噓の季節
米澤 穂信
集英社
2022-11-04


30.毒入りコーヒー事件(朝永理人 )
クローズサークルものですが、サスペンスよりもロジックに力を入れた作品。散りばめた伏線を回収しながら12年前と現在の毒死事件と白紙の遺書を巡る謎に迫っていく展開は本格ミステリの醍醐味であり、特に、100頁に及ぶ終盤の推理が圧巻です。ただ、心理描写に納得しがたい点があるのは難。
毒入りコーヒー事件 (宝島社文庫)
朝永理人
宝島社
2023-08-04


31.クローズドサスペンスヘブン(五条紀夫)
登場人物全員がすでに死んでおり、なぜ死んだのかを天国で推理するという設定がユニーク。天国には独自のルールがあってそのルールを紐解いていくことで真相に迫っていくという設定もよく出来ています。ただ、特殊設定に基づいてロジックをこねくり回した割に真相が凡庸な点には物足りなさも。


32.名探偵のままでいて(小西 マサテル )
第21回『このミステリーがすごい!』大賞受賞の安楽椅子探偵ものです。ユニークなのは探偵役が認知症の老人という点であり、その病状を活かした仕掛けも用意されています。各話とも多重解決の趣向や古典ミステリの蘊蓄などが楽しい一方で、こじつけめいた推理が多い点にはものたりなさも。
名探偵のままでいて
小西マサテル
宝島社
2023-01-07


33.世界の終わりのためのミステリ (逸木裕)
人工人体に人間の意識をコピーしたカティスという存在が、人類のいなくなった世界を旅しながらさまざまな謎に挑んでいくSFミステリです。全4が収録されており、「屋根の上に置かれている冷蔵庫」など、謎もバラエティに富んでいます。カティスの設定を絡めた仕掛けもなかなかに巧妙です。


34.その謎を解いてはいけない(大滝瓶)
癖が強い登場人物が次々と出てくるなか、事件とは関係ない他人の黒歴史を次々と暴いていくコメディ作品です。オタクネタが多くて好き嫌いは分かれそうですが、探偵小説のパロディとして楽しい作品ですし、本格ミステリとしても意外によく出来ています。特に、挑戦状付のラスト2話が秀逸。
その謎を解いてはいけない
大滝 瓶太
実業之日本社
2023-06-01


35.恋する殺人者(倉知淳)
従姉の死の真相を追う大学生の物語と犯人のモノローグを交互に配置した本格ミステリであり、かなり大胆な仕掛けが施されています。しかし、難易度はさほど高くなく、ミステリマニアなら仕掛けに気づくのは決して難しくないでしょう。その代り、巧みな伏線やロジカルな推理は読みごたえあり。
恋する殺人者 (幻冬舎単行本)
倉知淳
幻冬舎
2023-06-07


36.11文字の檻: 青崎有吾短編集成(青崎有吾)
様々なジャンルが混在した短編集ですが、現実の列車事故をモデルに意外な結末を描いた「加速していく」、ガラス張りの密室殺人に挑戦した「噤ヶ森の硝子屋敷」などはミステリとして読み応えがあります。そしてなんといっても、切れ味抜群のロジックが光るパスワード当てミステリの表題作が秀逸。


37.ロジカ・ドラマチカ(古野まほろ)
周囲から漏れ聞こえてくる言葉を拾ってその裏に潜む真実をエリート警官と官房長官の孫娘が推理し合う、『九マイルは遠すぎる』のオマージュ作品です。ややまわりくどく感じないでもないですが、日本語ならではの特質を活かしての推理はよく出来ています。知的遊戯の書として読み応えあり。
ロジカ・ドラマチカ
古野 まほろ
光文社
2023-05-24


38.梅雨物語(貴志祐介)
「秋雨物語」に続くホラーミステリーの括りのオムニバス作品集第2弾で、全3編が収録されています。前作よりミステリー要素が強くなり、なかでも中編「皐月闇」の俳句を巡る不穏な推理が本格として読み応えがあり。ただ、推理が丁寧すぎて途中で真相が分かってしまうのが本格としてはマイナス。
梅雨物語 (角川書店単行本)
貴志 祐介
KADOKAWA
2023-07-14





39.ローズマリーのあまき香り(島田荘司)
伝説的なバレリーナが殺された後も大勢の観客の前で踊り続けていたという謎は著者らしい幻想性に溢れ、魅力的。それに加え、別の不可解な謎も加わり、ワクワクが止まりません。こういった読者を惹き込んでいくうまさはさすが島田荘司です。ただ、それだけに魅力不足な真相には不満も。


40.時計泥棒と悪人たち(夕木春央)
元泥棒が探偵役を務めるシリーズ第2弾。どのエピソードにも本格要素がふんだんに盛り込まれており、読み応えがあります。なかでも、特殊な舞台を活かしたロジックに驚かされる「光川丸の妖しい晩餐」や一見不可能な連続宝石盗難事件に対し意表を突く真相を提示する「宝石泥棒と置時計」が秀逸。
時計泥棒と悪人たち
夕木春央
講談社
2023-04-25


41.ぎんなみ商店街の事件簿 Brother編/Sister編(井上真偽)
全3話の連作ミステリですが、それぞれの事件を4兄弟が活躍するBrother編と3姉妹のSister編に分け、独立したエピソードにしている点がユニークです。ただ、Brother編とSister編で大きく真相が変わるわけではなく、互いに欠けている部分の穴埋めをしているだけなのでまどろっこしく感じる面も。


42.ドールハウスの惨劇(遠坂八重)
高校生2人が豪邸で起きた殺人の謎に挑む青春ミステリ。事件が起きるまでが長いものの、不穏な空気の中でサスペンスを高めていく手管は見事です。途中アリバイや密室の謎も用意しつつ、最後に事件の構図を一変させるプロットに唸らされます。ただ、本格ミステリとしては伏線不足が気になるところ。
ドールハウスの惨劇
遠坂八重
祥伝社
2023-01-13


43.怪物のゆりかご (遠坂八重)
蓮司&麗一シリーズ第2弾。今回は、少年がイジメを告発をしたのちに飛び降り自殺を図った事件の真相を探っていく話ですが、調べるほどに辻褄が合わない事実が出てくる錯綜したプロットがよくできています。それに加え、怪物の正体に迫っていく後半の展開も謎解き&サスペンスとして秀逸。
怪物のゆりかご
遠坂八重
祥伝社
2023-09-08


44.鏡の国(岡崎琢磨)
身体醜形障害に悩む主人公の物語を反転させてみせる手管はよくできています。ただ、キャラクターの描写から勘の良い人なら仕掛けに気付くかもしれません。一方、作中作の事件は意外性満点で面白いのですが、リアリティの点でやや難があります。削除されたエピソードの謎は蛇足にしか思えず。
鏡の国
岡崎 琢磨
PHP研究所
2023-09-13


45.まるで名探偵のような: 雑居ビルの事件ノート (久青玩具堂)
喫茶店で出会ったJKが日記を残して失踪した大学生の行方や古書に記された江戸時代の密室殺人といった謎を解いていく日常の謎ミステリー。全5話の連作短編ですが、特に「名刺は語らない」と「日記の読み方」における推理のプロセスが良くできています。ただ、以降は尻すぼみなのが残念。


46.ラザロの迷宮(神永学)
イベントで参加者たちが洋館に閉じ込められ、連続殺人に発展する展開はサスペンスに満ちていて読み応えあり。並行して語られる記憶喪失の男を巡る刑事サイドの物語との関係も面白い。なにより怒涛の伏線回収が秀逸。ただ、本格としてはメインのネタが手垢のついた反則技だったのが残念。
ラザロの迷宮
神永学
新潮社
2023-09-19


47.焔と雪  京都探偵物語(伊吹亜門)
大正時代の京都を舞台にした全5話の連作ミステリです。幼なじみの探偵2人によるバディものなのですが、謎解きの面白さは今一つ。そう思っていると途中で驚きの展開が待っています。その展開も予想済という人もいるかもしれませんが、それを布石として最終話でもうひとひねりあるのが心憎い。


48.蜘蛛の牢より落つるもの(原浩)
21年前に蜘蛛だらけのキャンプ場で起きた集団生き埋め事件が不気味すぎてぞっとします。また、現代パートでの連続怪死事件もかなりの恐ろしさです。どうみても怪異の仕業であり、推理の介入できる余地など皆無に思えますが、怒涛の伏線回収による終盤での反転はなかなかよくできています。
蜘蛛の牢より落つるもの
原 浩
KADOKAWA
2023-09-26


49.地羊鬼の孤独(大島清昭)
中国の妖怪を模した連続猟奇殺人の謎を追うホラーミステリ。ミッシングリンクや連続密室殺人の謎を解き明かす過程には一定の面白さがあります。また、終盤にはゾッとする展開も用意されており、ミステリとホラー両ジャンルの良さを引き出しています。ただ、詰め込みすぎで深みには欠けるきらいも。
地羊鬼の孤独
大島 清昭
光文社
2022-11-24


50.答えは市役所3階に 2020心の相談室(辻堂ゆめ)
新型コロナの流行によって夢や希望を失った人々が市役所のお悩み相談で話を聞いてもらう内に立ち直っていくという連作作品ですが、その裏に秘められた秘密をカウンセラーが見抜いていくくだりが謎解きとしてよくできています。ハートフルなドラマとミステリーとしての反転を同時に楽しめる佳品。


51.死神邸日和(久頭一良)
第5回文芸社文庫NEO小説大賞。偏屈なJKと謎めいた老婆がコンビを組んで身の回りの謎を解いていく日常の謎ミステリーです。驚くような仕掛けこそないものの、テンポの良い謎解きが心地よさをかんさせてくれます。青春ものとしてよくできており、ラストも爽やかな佳品です。
死神邸日和 (文芸社文庫NEO)
久頭 一良
文芸社
2022-11-15


52.むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。(青柳碧人)
昔話と本格ミステリの融合で注目を集めた”むか死”シリーズの完結編。謎解きのインパクトは1作目には及ばないものの、複数の昔話を融合させてより凝った謎を提示するなど、趣向の面白さには磨きがかかっています。特に、クリスティばりの大仕掛けが炸裂する最終話「金太郎城殺人事件」が圧巻


53.歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理(三津田信三)
刀城言耶の助手である天弓馬人が女子大生の瞳星愛が持ち込む怪異譚の謎を解く、刀城言耶シリーズのスピンオフ作品です。ミステリーとしては本家よりも軽量級ながら、ファンサービス的な仕掛けが楽しい。ディクスン・カーについての言及が多い点もマニアにとってはうれしいところ。


54.動くはずのない死体 森川智喜短編集(森川智喜 )
5編収録の短編集ですが、ベストは「フーダニット・ リセプション 名探偵粍島桁郎、虫に食われる」です。コーヒーをこぼした原稿の文章を推理していくのですが、それだけにとどまらない趣向に驚かされます。逆に、「ロックトルーム・ブギーマン」はユニークな趣向を活かしきれてないのが残念。





55.虚構推理短編集 岩永琴子の密室(城平京)
虚構推理シリーズ第6弾の短篇集。今回はファンが安心して楽しめる軽めの話が多いのが特徴。そんななか、犯人が苦労して作った密室を妖怪が片っ端から開けていくという状況が愉快な「みだりに扉を開けるなかれ」と妖怪は登場しないながらも謎解きの完成度が高い「飛島家の殺人」がよくできいます。


56.異分子の彼女 腕貫探偵オンライン(西澤保彦)
謎の公務員が市民の悩みを解決するシリーズ第8弾。今回は時世を反映してリモート相談窓口による安楽椅子もので著者らしいブラックな味わいが堪能できる中編3編が収録されています。なかでも挙式当日に夫を殺された妻が34年後に新しい夫に殺された事件の意外な動機が浮き彫りなる表題作が秀逸。
異分子の彼女 腕貫探偵オンライン
西澤 保彦
実業之日本社
2023-01-23


57.アンデッドガール・マーダーファルス 4 (青崎有吾 )
未だ語られることのなかったレギュラー陣の過去を描いた連作集であり、小泉八雲や安倍晴明との共演や人魚の法廷劇など、さまざな趣向で楽しませてくれます。ただ、本格ミステリの要素は今までのなかで一番薄め。その中にあって、「人魚裁判」はロジカルな推理を楽しむことの出来る好編です。


58.真相崩壊 (小早川真彦)
第1回論創ミステリ最終候補作。台風にが引き起こした土砂崩れによって壊滅したニュータウンのなかから一家4人の他殺死体が発見される謎に興味がそそられます。天気予報士という自身の経歴を活かした謎の構築や二転三転の展開が面白く、フーダニットミステリーとしてよくできています。
真相崩壊 論創ノベルス
小早川真彦
論創社
2023-04-21


59.灰色の家(深木章子 )
老人ホームを巡る連続自殺事件の背景には、高齢者問題を扱った社会派ミステリーの味わいもある一方で、過去作にみられた派手な仕掛けやギミックなどは皆無です。しかし、どちらかと言えば地味な作品ではあるものの、フーダニットや逆トリックなどのロジックはよく出来ています。
灰色の家
深木 章子
光文社
2023-04-19


60.ハートフル・ラブ (乾 くるみ)
全7篇の技巧に満ちた短編集ですが、出来不出来が相半ばといった感じです。そのなかにおいては病気で死別することになった若い夫婦の思い出を妻の視点から描いた時間逆行ミステリ「夫の余命」が傑作です。また、二転三転の展開が楽しめる「数学科の女」や切れ味鋭い「なんて素敵な握手会」も秀逸。
ハートフル・ラブ (文春文庫)
乾 くるみ
文藝春秋
2022-12-06


61.星くずの殺人(桃野雑派)
武侠ミステリで乱歩賞を受賞した前作とはがらりと趣向を変え、宇宙を舞台にしたSFミステリーに挑戦しています。宇宙空間ならではのトリックを複数用意して楽しませてくれますが、理系知識がなければ推理しようがない点か難だといえます。また、予想外の動機についても賛否が分かれそうです。
星くずの殺人
桃野雑派
講談社
2023-02-21


62.あの魔女を殺せ(市川哲也)
 グロテスクな人形作りで人気の三姉妹が山奥の館で新作発表を行ったのちに密室で殺されていくといった感じの物語。異様な登場人物が織りなすホラーミステリーで、館×密室×オカルトに加えてクローズドサークルの要素が雰囲気を盛り上げていきます。ただ、ミステリとしての目新しさは特になし。
あの魔女を殺せ
市川 哲也
東京創元社
2023-09-29


63.不死探偵・冷堂紅葉 01.君とのキスは密室で (零雫 )
GA文庫大賞銀賞を受賞したラノベ作品で、通常の密室に加えて異能力絡みの密室殺人が起きるという2段構えの構図がユニーク。ラノベ要素をトリックとして使用するなど作品の特性を活かした仕掛けも見事です。ただ、異能力絡みの密室殺人については真相を説明されても納得しがたいのが難。


64.落語刑事サダキチ-泥棒と所帯をもった女 (愛川晶)
昭和を舞台に新人女刑事と落語好き刑事のコンビが事件を追い、名探偵の落語家が謎を解く全3編の連作ミステリーです。掏摸や空き巣など犯罪を対象とした謎解きは3作ともよくできています。なかでも出色なのが「三人の香典師」で、伏線回収によって浮かび上がる意外な真相には驚きです。


65.彼女はそこにいる(織守きょうや)
ある賃貸住宅の怪異を巡るホラーミステリー。3部構成になっており、第1部は少女が体験する怪異譚としてよくできています。続く第2部は怪異の謎を挑む推理パートですが、次第に真相に迫っていくプロセスが秀逸です。ただ、犯人の目安が付きやすく、3部の真相編は本格ミステリとしてはいま一つ。
彼女はそこにいる (角川書店単行本)
織守きょうや
KADOKAWA
2023-06-30


66.カンブリアⅢ 無化の章-警視庁「背理犯罪」捜査係 (河合莞爾)
特殊能力が存在する世界を背景に東京都知事選を巡る事件を描いた警察小説の完結編。まず、シリーズ全体に張り巡らせた伏線を一気に回収されていくのが圧巻。また、進化論の扱いも興味深くて話に引き込まれていきます。ただ、ヒントがあからさまで真相の一部がバレバレだったのはやや残念。


67.虹の涯(戸田義長)
天狗党の乱の首領格とされる藤田小四郎を主人公に据えた歴史ミステリーです。とはいえ、全4話中ラスト1話以外の3話は不可解な事件の謎を解き明かす本格ミステリ仕立てになっています。ただ、密室なども扱っているものの、本格としては弱め。それよりも、壮絶な終盤のドラマが印象的です。
虹の涯
戸田 義長
東京創元社
2022-11-18


68.走馬灯交差点(西澤保彦)
『人格転移の殺人』を彷彿とさせる作品で特殊設定に基づく謎解きは安定の面白さです。真相の意外性も申し分ありません。ただ、謎解きの前提となる物語がわかりずらく、下手をすると何が起こっているのかすら分からないのは難。そのため、謎解きの面白さを十分に味わえない可能性があります。
走馬灯交差点
西澤 保彦
ホーム社
2023-03-24


69.勿忘草をさがして(真紀涼介)
第32回鮎川哲也賞優秀賞受賞作。植物の蘊蓄を絡めたハートフルな物語としてよく出来ており、小説として抜群の完成度を誇っています。一方、ミステリーとしては植物の知識がポイントとなる謎を用意しているのですが、仕掛けが単純なため、真相が容易に予想できてしまうのが難点です。
勿忘草をさがして
真紀 涼介
東京創元社
2023-03-30


70.グッドナイト(折原一)
不眠に悩むアパートの住人が3階の心理研究所に相談しに行くと女所長が解消方を授けてくれるという全7篇の連作ミステリ。どの話でも不眠は解消されるものの思わぬオチが待っています。全盛期と比べると仕掛けが冗長で騙し技の切れ味が鈍ったように思えますが、最終章でのどんでん返しは流石です。
グッドナイト
折原 一
光文社
2022-11-24



2023年12月7日追記
予想結果
ベスト5→5作品中2作的中
ベスト10→10作品中7作的中
ベスト20→20作品中15作的中
順位完全一致→20作品中1作品

Previous⇒2023本格ミステリ・ベスト10 国内版予想




2024本ミス国内