最新更新日2023/12/04☆☆☆

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このミス2024
対象作品である2022年10月1日~2023年9月30日発売のミステリー&エンターテイメント作品の中からベスト20の順位を予想していきます。ただし、あくまでも個人的予想であり、順位を保証するものではありません。また、予想は作家の知名度や人気、ジャンルや作風、話題性などを考慮したうえで票が集まりそうな作品の順に並べたものであり、必ずしも予想順位が高い作品ほど優れているというわけでもありません(たとえば、物語としては感動的だがミステリー要素が希薄、マイナー出版社から発売されたために知名度が低いなどといった作品は面白くても予想順位は低めです)。以上の点はあらかじめご了承ください。
※紹介作品の各画像をクリックするとAmazon商品ページにリンクします


このミステリーがすごい!国内版最終予想(2023年11月18日)

1位.鵼の碑(京極夏彦)
1954年。薔薇十字探偵社の探偵助手・益田龍一は失踪した薬局店主の捜索を依頼される。一方、京極堂たちと日光のホテルに滞在していた作家の関口巽はメイドから忌まわしい過去を告白される。さらに、刑事の木場は戦前に起きた消えた死体の謎を追う。果たして一連の出来事の繋がりとは?
番外編を除く長編としては百鬼夜行シリーズ17年ぶりの新作です。京極堂をはじめとするレギュラー陣は相変わらず魅力的で、彼らがそれぞれの角度から事件を追う物語は捜査小説として読み応えあり。
鵼の碑 (講談社ノベルス)
京極 夏彦
講談社
2023-09-14


2位.あなたが誰かを殺した(東野圭吾)
夏の夜の別荘地で起きた無差別殺人。犯人はすぐに自首をしたものの、それ以後は完全黙秘を貫いていた。家族を殺された者たちは納得がいかず、関係者を集めて事件の検証会を行うことになる。長期休暇中の刑事・加賀恭一郎もアドバイザーとして参加するが、そこで意外な事実が明らかになり…。
序盤で事件前後の経緯を一気に語るので最初は登場人物を把握しきれず、読みづらさを感じます。しかし、そこから先の検証会は二転三転の展開と人間ドラマが絡み合い、息つく暇もない面白さです。
あなたが誰かを殺した
東野 圭吾
講談社
2023-09-21


3位.存在のすべてを(塩田武士 )
平成3年の児童同時誘拐事件。身代金受け渡し時の犯人逮捕に失敗し、小学生の少年はその後無事発見されるも、4歳の少年は犯人と共に姿を消す。それから30年。当時警察担当だった新聞記者の門田は誘拐された少年の今を知る。それが契機となり、門田は事件の真相を求めて再取材を始めるが…。
事件関係者のその後を取材し、それぞれの人生を浮き彫りにしていくヒューマンドラマ。切ない家族の物語には心を揺さぶられる一方で、誘拐サスペンスを期待した人はもの足りなさを覚えるかも。
存在のすべてを
塩田 武士
朝日新聞出版
2023-09-07


4位.世界でいちばん透きとおった物語(杉井光 )
ミステリ界の巨匠・宮内彰吾が癌で61歳の生涯に幕を閉じた。彼には複数の愛人が存在し、その一人から生まれたのがぼくだ。ある日、彼の長男からぼくに連絡が入る。遺作原稿『世界でいちばん透きとおった物語』について何か知らないかと。成り行きからぼくはその原稿を探すことになるが...。
心理描写・情景描写ともにシンプルでさくさくとテンポよく読める作品ですが、その分、物語に深みはありません。しかし、その理由が明らかになっていくにつれて鳥肌が。前代未聞の驚愕ミステリ。


5位.十戒(夕木春央)
亡くなった叔父が所有していた孤島を父が相続し、リゾート開発の話を持ち掛けられる。美大浪人の里英は父や関係者とともに視察に訪れるが、一夜明けると1人が殺されていた。さらに、十箇条からなる犯人からの指示書が見つかる。しかも、指示に背けば爆弾で島を吹き飛ばすと書かれており…。
『方舟』に続くシリーズ第2弾で、犯人の指示を十戒に見立てた趣向が秀逸。緊迫感こそ前作に及ばないものの、真相に迫っていく過程は読み応えがあります。また、ドンデン返しもよく出来ています。
十戒
夕木春央
講談社
2023-08-08


6位.アリアドネの声(井上真偽)
救助災害ドローン開発のベンチャー企業に就職したハルオは障害者支援都市を訪れ、巨大地震に遭遇する。ほとんどの人は無事避難するが、1人の少女が危険地帯に取り残されてしまう。しかも、彼女は視覚・聴覚・発話能力に障害を抱えていた。ハルオはドローンで彼女を誘導しようとするが…。
制限時間6時間のなかでいかにして三重苦の少女を助けるかという災害救助モノで、息詰まる展開に引き込まれます。感動のラストに加えて、ミステリーとしてのどんでん返しも見事な傑作です。
アリアドネの声 (幻冬舎単行本)
井上真偽
幻冬舎
2023-06-21


7位.ちぎれた鎖と光の切れ端(荒木あかね)
2020年8月4日。8人の男女が海上コテージのある孤島・徒島(あだしま)に向かう。その一人・樋藤清嗣は、先輩の無念を晴らすべく、自分とコテージ管理人を除く6名を皆殺しにつもりでいた。だが、彼が計画を実行に移す前に標的の一人が他殺死体となって発見される。やがてそれは連続殺人に発展し…。
前半は典型的なクローズドサークルですが、そこから別の連続殺人へと繋がっていく構成が面白い。雰囲気が大きく異なる第一部と第二部が結び付き、事件の全体図が浮かび上がってくる展開が秀逸です。
ちぎれた鎖と光の切れ端
荒木あかね
講談社
2023-08-29


8位.エレファントヘッド(白井智之)
精神科医の象山は愛する妻と2人の娘に囲まれ、幸福な日々を送っていた。だが、ある日、小さな亀裂がもとで家族の絆は失われてしまう。絶望した彼は正体不明のドラッグを飲み、過去へ戻ることで危機を回避する。だが、その薬にはある副作用があり、そのうえ、何故か予期せぬ怪死事件まで起き...。
前半は主人公の幸福が崩壊するまでが描かれており、先の読めないサスペンスが秀逸です。後半は怪事件が起きて推理合戦が始まるもこれがあまりに奇想天外。ある意味、白井ワールドの到達点です。


9位.木挽町のあだ討ち(永井紗耶子)
雪の降る夜、木挽町の芝居小屋の裏で若衆の菊之助は、父親の仇を見事に討ち果たす。血まみれの首を高々と掲げる姿は語り草となり、人々の賞賛を集めることになった。それから2年。菊之助の縁者だという侍が仇討の顛末を知りたいと芝居小屋を尋ねてくる。彼は目撃者の話を聞いて回るが…。 
第169回直木賞。章ごとにスポットの当たる人物が交代し、そのつど語られる彼らの生き様が面白くて読み応えがあり。しかし、そこで油断すると、まさかの真相に驚かされることになります。感動傑作。
木挽町のあだ討ち
永井紗耶子
新潮社
2023-01-18


10位.黄色い家 (川上未映子)
水商売の母親と2人暮らしの花は17歳の夏に家を飛び出した。そして、母と同業者の黄美子や居場所を失った少女2人とスナックを始める。しかし、経営が軌道に乗り始めた矢先にスナックは火事で焼失し、彼女たちの生活は暗転する。生きるためにカード詐欺などの犯罪を重ねる花たちだったが…。
居場所を失った少女たちが疑似家族を形成し、犯罪に身を染めていくさまがノンストップで描かれており、思わず引き込まれます。次第に壊れていく主人公の描写が圧巻の傑作ガールズノワールです。
黄色い家
川上未映子
中央公論新社
2023-02-20


11位.君のクイズ (小川 哲 )
三島玲央はTV生放送のクイズ番組・Q-1グランプリ決勝に勝ち進むも対戦相手の本庄絆に破れてしまう。しかも、彼は最終問題で一文字も読まれていないうちに早押しボタンを押し、正答してみせたのだ。なぜそんな芸当が可能だったのか?三島は自らの人生を振り返りつつ、真相へと迫っていくが.....
クイズ番組の内幕を描きつつ、早押しクイズのテクニックについて詳しく解説してくれる点が知的好奇心をくすぐります。真相もエピソードの積み重ねによって説得力を持たせている点が見事です。
君のクイズ
小川 哲
朝日新聞出版
2022-10-07


12位.黒石-ヘイシ-新宿鮫Ⅻ(大沢在昌)
半グレたちの情報ネットワーク・金石シンジの幹部が公安に保護を求めてきた。彼の話によると、幹部の一人である徐福と名乗る人物が黒石という殺し屋を使って自分に反発する他の幹部を殺しているというのだ。正体をみせない不気味な相手に対し、新宿署の鮫島と公安の矢崎が懸命の捜査を続けるが...。
シリーズの愛読者にとっては一匹狼でなくなった鮫島に違和感を覚えるかもしれませんが、警察小説としては水準以上の面白さです。それに、ヒーローを自称する殺し屋・黒石のインパクトが強烈。
黒石(ヘイシ) 新宿鮫12
大沢 在昌
光文社
2022-11-24


13位.777 トリプルセブン(伊坂幸太郎)
天道虫と呼ばれる不運な殺し屋・七尾は部屋までプレゼントを届けるという簡単な仕事を請け負い、超高層ホテルにやってくる。だがそこで、驚異的な記憶力を持ち、そのことで6人の殺し屋に命を狙われている女性・紙野結花と遭遇する。七尾は助けてほしいと懇願する彼女を拒絶仕切れず…。
息つく暇もない見せ場の連続でページをめくる手が止まりません。自分のツキのなさをぼやきながらも難局を乗り越えていく七尾が格好いいですし、その他の登場人物も悪役を含めて皆魅力的です。


14位.でぃすぺる(今村昌弘 )
小学校最後の半年。優等生のサツキと一緒に壁新聞係とになったコースケは、去年亡くなったサツキの従姉・マリ姉の死の真相を追うことになる。マリ姉の死体は雪の降り積もったグランドで発見され、凶器は未だ発見されていない。事件の謎を解く鍵は奥郷町の七不思議にあるらしいのだが…。
著者十八番のホラーミステリですが、探偵役が普通の小学生ということもあって本格としてはもの足りなさが残ります。しかし、謎解きを通して主人公たちが成長していく物語としては読み応えあり。
でぃすぺる (文春e-book)
今村 昌弘
文藝春秋
2023-09-21


15位.ヴァンプドッグは叫ばない(市川憂人)
現金輸送車襲撃事件の応援要請を受け、マリアと漣は州都フェニックス市へ向かう。だが、厳重な検問を敷く真の理由は研究所を脱出した連続殺人犯・ヴァンプドッグ確保のめだった。やがて、ヴァンプドッグと同様の手口の殺人事件が発生。一方、逃亡中の襲撃犯も潜伏先で仲間の1人が殺され...。
マリア&漣シリーズ第5弾。本作ではシリーズキャラクターが一挙登場し、話を盛り上げていきます。ホラー色満載の謎も魅力的。怒涛の伏線回収も圧巻ですが、推理が煩雑なのがやや気になるところ。


16位.可燃物(米澤穂信)
雪山で遭難した2人の男が同じ場所で発見されるも1人は刺殺されていた。状況から重傷を負って生死をさ迷っているもう1人が犯人だと思われたが、凶器がどこにも見当たらない。雪には限られた足跡しかなく、凶器を遠くに捨てていくことは不可能だった。葛警部が導き出した答えとは?
全5話収録。葛警部が安楽椅子探偵を務める本格ミステリですが、事件関係者や警察内部の人間模様もテンポ良く掘り下げられ、警察小説としても読み応えがあります。両者のバランスが取れた傑作。
可燃物 (文春e-book)
米澤 穂信
文藝春秋
2023-07-25


17位.ゴリラ裁判の日(須藤古都離)
ニシローランドゴリラのローズは人間並みの知能を持ち、機械を通して人と会話をすることができる。研究者のすすめによってアメリカの動物園で暮らすことになった彼女だったが、そこで出会った夫の雄ゴリラを子供を救うためという理由で射殺されてしまう。納得できないローラは裁判に訴えるが...。
ハランベ事件をモチーフにした作品ですが、社会派ミステリというにはちょっと奇想天外すぎて評価しずらい。むしろ、雌ゴリラの数奇な運命を描いたファンタジー作品として抜群に面白い作品です。
ゴリラ裁判の日
須藤古都離
講談社
2023-03-14


18位.金環日蝕(阿部暁子)
大学生の春風は知り合いの老婦人がひったくりにあう瞬間を目撃し、偶然居合わせた少年・錬ともに犯人を追うも、すんでのところで取り逃がす。落し物から手掛かりを得た春風は半ば強引に探偵コンビを組まされた錬と犯人探しをはじめる。だが、その先にあったのはひったくりよりさらに深い闇で...。
コバルト文庫出身者ならではのライトな文体ながらも、物語は特殊詐欺や貧困問題に切り込んだ重苦しいものに。考えさせられると同時に、二転三転の末に衝撃の真相へと辿り着くミステリとしても秀逸。
金環日蝕
阿部 暁子
東京創元社
2022-10-31


19位.未明の砦(太田愛)
警視庁組織犯罪対策部は大手自動車メーカー〈ユシマ〉の非正規工員4人を共謀罪で逮捕すべく動いていた。しかし、突如発生した火災の混乱に乗じて4人は逃亡する。何者かが彼らに警察の動きを伝えたのだ。所轄の刑事・薮下は、この逮捕劇には裏があると読んで独自に捜査を開始するが…。
格差社会の問題などを掘り下げて描きつつも、エンタメ作品としても面白い社会派ミステリーの傑作です。特に、4人の工場労働者が搾取されている現実に気づき、立ち上がるさまは感動的です。
未明の砦 (角川書店単行本)
太田 愛
KADOKAWA
2023-07-31


20位.黒真珠 恋愛推理レアコレクション(連城三紀彦)
2年前から既婚者との交際を続けている女の元に男の妻が訪ねてくる。男との関係解消を迫られるのかと思えば、逆に夫と一緒になってほしいという。彼女は4年前から年下の男と付き合っており、彼と結ばれるために首尾良く夫と別れたいというのだ。女は彼女が演技をしているのではないかと疑うが…。
全14編の単行本未収録短編集。どの作品も男女間の愛憎劇を軸に、人間の業の深さをミステリーの形を借りて描いています。短いなかに連城節が凝縮されており、得意の反転も存分に堪能出来る名品です。



その他注目作品50

21.楽園の犬(岩井圭也)
1940年。サイパンに元英語教師の麻田健吾が降り立つ。南洋庁サイパン支庁庶務係としてだが、実際は日本海軍のスパイだった。この地には各国のスパイが跋扈しているため、開戦に備えて情報収集を行うのが使命だ。あるとき、漁師の自殺の真相を追っていた彼は南洋群島の闇に踏み込み…。
序盤は主人公が謎を追う面白さがありますが、次第に「戦争と生きる権利」という重いテーマが浮き彫りになってきます。そのため、盛り上がりには欠けるものの、涙腺崩壊のラストは素晴らしい。
楽園の犬 (角川春樹事務所)
岩井圭也
角川春樹事務所
2023-09-03


22.ヨモツイクサ(知念実希人) 
アイヌの人々から禁域と恐れられた黄泉の森でホテル会社が開発を始める。ほどなくして作業員が行方不明になってしまう。現場には大型の獣が暴れた痕跡が残されていた。外科医の佐原茜は7年前に自身の家族が神隠しにあった事件との関連性を感じ、姉の婚約者だった刑事と共に事件を探るが…。
ジャンルはバイオホラーですが、前半の人喰い熊の話などは冒険小説としても読み応え十分。また、ミステリーの技巧を用いたどんでん返しにも驚愕必至です。さらに、ホラーとしても抜群の面白さ。
ヨモツイクサ
知念実希人
双葉社
2023-05-17


23.上海灯蛾(上田早夕里)
1934年。農村出身の吾郷次郎は成功を夢見て上海に渡る。租界で雑貨屋を始めた次郎だったが、謎の女が極上の阿片を持ち込んだことで彼の運命は大きく動き始めた。阿片の取引を仕切る顔役の知己を得て、次郎は上海の裏社会へと足を踏み入れていく。そこで待ち受けるのは果たして栄光か破滅か?
野望を胸に抱く男たちの友情と裏切りの物語は善悪では割り切れないギラついた魅力があります。また、阿片を巡る上海黒社会と関東軍の抗争も読み応えあり。歴史ノワールの傑作です。
上海灯蛾
上田早夕里
双葉社
2023-03-23


24.しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人(早坂吝)
女探偵・死宮遊歩は迷宮牢で目を覚まし、姿なきゲームマスターが「六つの迷宮入り凶悪事件の犯人を集めた。各人に与えられた武器で殺し合い、生き残った一人が解放される」と告げる。集められた男女はみな無実を訴えるが、1人また1人と殺されていく。果たしてゲームマスターの目的は?
二転三転の展開に振り回され、アクロバティックな仕掛けに驚かされるいつもの早坂作品です。ただ、キャラの魅力に欠け、仕掛けも強引さが目立つ点については物足りなさを覚えます。


25.午後のチャイムが鳴るまでは(阿津川 辰海 )
昼休みに学校を抜け出した高校生2人がさまざまな難関をくぐり抜けて時間内にラーメンを食べて戻ってくるミッションに挑戦する「RUN! ラーメン RUN!」、文化祭で販売する部誌の表紙イラストが紛失して昼休みの校内を捜索する「いつになったら入稿完了?」など全5話収録。
等身大の高校生を描いたノスタルジー溢れる連作短編です。青春に重きを置いているためにミステリ的な仕掛けは小粒ながら、著者ならではのロジカルな推理は十分に堪能出来ます。爽やかな佳品。
午後のチャイムが鳴るまでは
阿津川 辰海
実業之日本社
2023-09-21


26.栞と噓の季節(米澤 穂信)
高校で図書委員を務める堀川次郎と松倉詩門は図書室の返却本の中に押し花でできた栞を発見する。しかも、その花は猛毒のトリカブトだったのだ。密かに持ち主を探す2人はやがて校舎裏で栽培されていたトリカブトを発見する。そして、男性教師がトリカブトの中毒で搬送される。果たして犯人は?
図書委員シリーズ第2弾。驚くような仕掛けがあるわけはありませんが、小さな矛盾を起点として真相に迫っていくプロセスはよくできています。また、ダークな青春ものとしても読み応えあり。


27.梅雨物語(貴志祐介)
老いた元教師のもとにかつて教え子だった女性が訪ねてくる。彼女は結婚後に自殺した双子の兄が生前に作成したという句集を取り出した。そして、この句集を全部燃やせと母がいうのだが、元俳句部顧問であるに先生に句の内容からその理由を読み解いてほしいというのだ。男は推理を始めるが…。
中短編シリーズ第2弾。収録3編はいずれも秀作ですが、なかでも俳句の解釈を巡って不穏な空気がたちのぼってくる「皐月闇」が圧巻です。他の2編と違って怪異は登場しないのに一番ゾッとします。
梅雨物語 (角川書店単行本)
貴志 祐介
KADOKAWA
2023-07-14





28.化石少女と七つの冒険(麻耶雄嵩)
神舞まりあは廃部寸前の古生物学部部長を務める化石おたくのお嬢様であり、誰からも認められることのない女子高生探偵だった。男子の制服を着て死んでいた女生徒、殺されたのちに焼かれた書道教師、赤い紐で手首を結びあった3人の死体。まりあは次々起きる怪事件に後輩の桑島彰とともに挑むが...。
シリーズ第2弾。名探偵とワトソン役の関係性にこだわった著者らしい作品であり、特に最後のオチには驚かされます。個々の事件も前作に比べてミステリーとしての面白さが大幅にアップした良作です。
化石少女と七つの冒険
麻耶雄嵩
徳間書店
2023-03-01


29.彼女はひとり闇の中(天祢涼)
横浜で暮らす千弦の元に幼なじみの玲奈から相談したいことがあると記されたLINEが送られてきた。だが、その翌日に玲奈は近所の小道で刺殺死体となって発見される。事件の真相を明らかにしたい千弦は独自に事件を追い、やがて大学で玲奈のゼミを担当していた犯罪社会学者の葛葉に行きつくが...。
現代人の心の闇がもたらした悲劇の物語は社会派ミステリーとして読み応えあります。作中には様々な仕掛けが施されており、どんでん返しによってテーマ性を浮かび上がらせる構成には唸らされました。
彼女はひとり闇の中
天祢 涼
光文社
2023-02-22


30.逆転美人 (藤崎翔)
シングルマザーの佐藤香織(仮名)は娘の教師に襲われたのを機に四葉社から一冊の手記を発表する。それは美人故にイジメや誘拐未遂など、さまざまな悲劇に見舞われた自身の半生を描いたものだった。しかも、その手記は発売されるや否や世間を震撼させる大事件を引き起こすことになり...。
主人公の幼少期から現在までが綴られている手記は重苦しく、読むほどに心が削られていきます。しかし、本作がその真価を発揮するのは終盤からで、2段仕掛けの反転劇には誰しも驚愕必至です。
逆転美人 (双葉文庫 ふ 31-03)
藤崎 翔
双葉社
2022-10-13


31.アンリアル(長浦京)
沖野修也には他人の敵意を赤い目の光として視認できる能力があった。その能力故に引きこもりとなった修也だが、両親の死の真相を探るべく警察官を志す。だが、警察学校在学中に特殊能力を買われた修也は国際交流課二係への異動を命じられる。そこは警察とは名ばかりのスパイ組織で…。
19歳の若者が特殊能力を活かして活躍するスパイ小説。万能すぎない程良い能力がミッション達成のプロセスを盛り上げていきます。主人公の成長物語としても秀逸。ただ、終盤がやや散漫な印象。
アンリアル
長浦京
講談社
2023-06-27


32.香港警察東京分室(月村了衛 )
増加する国際犯罪に対抗すべく設立された特殊共助係。インターポールの仲介により実現した日本と中国の警察官からなる合同チームだ。しかし、警察内部では各所の厄介者を集めた香港警察東京分室と揶揄されていた。その初任務は香港でデモを扇動して多数の死者を出した元教授の逮捕だったが...。
著者十八番のポリスアクションもので現実の政治的問題を交えつつも極上のエンタメ作品に仕上げた傑作です。水越真希枝警視をはじめとして捜査官が魅力的で特に中盤の銃撃戦は手に汗握ります。
香港警察東京分室
月村了衛
小学館
2023-04-21


33.アミュレット・ホテル(方丈貴恵)
警察の介入が一切なく、偽造パスポートも武器もルームサービスでお届け可能な犯罪者御用達のアミュレット・ホテル。宿泊客が守るべきルールはホテルに損害を与えないことと敷地内で傷害・殺人に及ばないという2点だけ。そのルールが破られたとき、ホテル探偵が独自の捜査で犯人を追いつめる。
連作短編でも著者ならではの緻密なロジックは健在。ただ、話が短い分、説明に終始している印象が強くて物語として味気なさを感じてしまいます。全員悪人という割に緊迫感に欠ける点もマイナス。
アミュレット・ホテル
方丈 貴恵
光文社
2023-07-20


34.骨灰(冲方丁)
大手デベロッパーIR部の松永光弘は自社が請け負っている建設中ビルの地階を降りていた。欠陥工事を糾弾するツイートが見つかったので騒ぎになる前に真偽を確かめるためだ。建築物自体に大きな問題はなかった代わりに、謎の祭祀場と穴の中で鎖に繋がれた男を発見する。それが悪夢の始まりだった。
人身御供や呪術の世界がディテール豊かに描かれており、オカルト好きの人にとっては引き込まれる内容となっています。それだけに、それらの道具立てを後半活かし切れず、最後があっさりなのが残念。
骨灰 (角川書店単行本)
冲方 丁
KADOKAWA
2022-12-09


35.素敵な圧迫(呉勝浩)
自分の体を隙間に収めることに安らぎを覚える女性が理想の男性に出会うも彼の妻に不倫がばれる表題作、金をくれなければ犯罪も辞さないと脅してくる息子に対して父親が論戦を挑む「論リー・チャップリン」、現実とそっくりな別の世界で悪行三昧を行う「パノラマ・マシン」など、全6篇収録。
ミステリとして評価しずらい作品もあるものの、バラエティに富んだユニークな作品が揃っています。なかでもボクシング小説の「ダニエル・《ハングマン》・ジャービスの処刑について」 が秀逸。
素敵な圧迫 (角川書店単行本)
呉 勝浩
KADOKAWA
2023-08-30


36.八角関係(覆面冠者)
親からの莫大な遺産によって贅沢三昧の暮らしをしている三兄弟と妻。それに加えて、屋敷には警察官と女流作家が同居していた。しかも、男たちは長男が次男の妻、次男が三男の妻といった具合に自分の妻とは別の女と関係を持っている。そんななか、広大な屋敷内で恐るべき連続殺人が発生し…。
1951年に雑誌オール・ロマンスに連載されて以降、初の書籍化。愛慾変態推理小説と銘打たれた官能小説のような内容ながら、4つの不可能犯罪が描かれるなど、探偵小説としても魅力満載です。
八角関係 (論創ノベルス)
覆面冠者
論創社
2023-08-25


37.月夜行路(秋吉理香子)
45歳の涼子は冷え切った家庭に耐えかねて家を飛び出す。彼女が向かったのは夫の愛人が勤めるクラブのあるビル。1階のBARに入ると性別は男だというママが話しかけ、持ち前の洞察力で涼子の悩みや素性を言い当てる。そして、かつて本気で愛していたカズトに探す旅に出ることになるが…。
著者本来のイヤミスと比べると随分とライトで気軽に楽しむことが出来ます。大阪にちなんだ文学の蘊蓄や旅先で殺人事件に巻き込まれる展開も楽しい。そして、ラストのサプライズに泣かされます。
月夜行路
秋吉理香子
講談社
2023-08-08


38.踏切の幽霊(高野和明 )
1994年冬。元新聞記者で今は女性雑誌の記者をしている松田は、読者投稿の心霊写真に基づいて取材を開始する。しかし、撮影場所の踏切では列車の非常停止が相次いでおり、自らも心霊現象に遭遇するのだった。彼は写真に写っている女幽霊の身元を調べ始めが、やがてそれは思わぬ事件と結び付き…。
『ジェノサイド』以来11年ぶりの新作。ミステリとしてもホラーとしても突出した点はないものの、両者を掛け合わせて上手く話を盛り上げています。最後には切なさがこみ上げる幽霊譚の秀作です。
踏切の幽霊
高野 和明
文藝春秋
2022-12-13


39.好きです、死んでください(中村あき)
作家で大学生の小口栞は恋愛リアリティショーに出演するため、芸能人やスタッフたちとともにコテージのある孤島にやってくる。だが、若手人気女優の松浦花火が首吊り死体となって密室で発見される。調べてみると首を絞めた跡が残されていた。しかも、何者かによって外部との連絡が絶たれ…。
クローズド・サークルと恋愛リアリティショー相性が思いのほか良く、相互作用によってうまくサスペスを盛り上げています。また、ミスデレクションよって真相をミスリードさせる手管も絶妙です。
好きです、死んでください
中村あき
双葉社
2023-09-21


40.エフェクトラ――紅門福助最厄の事件(霞流一) 
数多の死体を演じ、ダイプレイヤーと称された俳優の忍神健一。彼の役者生活四十周年を記念してセレモニーが開かれる。ところが、その準備中に不可解な出来事が続き、ついには関係者の変死体が発見される。しかも、現場である雪の降り積もったバンガローには残されているはずの足跡がなく…。
最初は平板で冗長さを感じますが、足跡のない殺人や犯人消失といった魅力的な謎が次々と現れるようになると、一気に引き込まれます。当時に、サブタイトルの意味が分かる最後のヒネりも印象的。


41.名探偵のままでいて(小西 マサテル )
元小学校校長で頭脳明晰な祖父は孫娘の楓が血まみれで倒れているのを発見し、警察に通報する。だが、それはレビー小体型認知症による幻覚だった。以来、介護を受けながら暮らしていたが、ある日、小学教師である楓が身の回りで起きた不思議な体験を話すと、名探偵の如き推理を披露し始め...。
第21回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。安楽椅子探偵ものですが、探偵役が幻視に悩まされる認知症の老人という設定がユニークです。祖父と孫娘の関係も魅力的で最終話では涙腺が緩みます。
名探偵のままでいて
小西マサテル
宝島社
2023-01-07


42.風配図 WIND ROSE(皆川博子)
1160年5月。バルト海に位置するゴットランド島に難破船が漂着する。そして、その積荷の所有権を巡って生存者のドイツ人商人と島民との間で決闘裁判が行われることとなる。重傷のドイツ人商人に代わって決闘の場に立ったのは15歳の少女・ヘルガ。義妹・アグネが見守る中、裁判の幕が開くが...。
北上するドイツ商人やロシアの政争など、当時の世相を交えた物語は大河小説として読み応えあり。戯曲や詩を交えた独自のスタイルも印象的で93歳の著者がこれだけの力作をものにした事実に驚き。
風配図 WIND ROSE
皆川 博子
河出書房新社
2023-05-09


43.或るスペイン岬の謎 (柄刀一)
名探偵・南美希風は彼の心臓移植を執刀した恩人の娘であるエリザベス・キッドリッジと日本中を旅していた。そして行く先々で2人は怪事件に遭遇する。すべてが反転したあべこべの部屋、降りしきる雨の中で庭に放置されていた全裸の被害者、森の中に佇む殺人鬼。果たして南美希風の推理は?
シリーズの第4弾にして最終巻。「スペイン岬」「チャイナ橙」「ニッポン樫鳥」の3話が収録されており、どの作品も謎解きの魅力詰まっています。なかでも、ロジックの切れ味が抜群な表題作が秀逸。


44.私雨邸の殺人に関する各人の視点(渡辺 優
山奥に建てられた私雨邸には資産家の孫たちを含め、11人の男女が集まっていた。やがて、嵐の到来とともに事件が起きる。資産家のオーナーが密室で刺殺死体となって発見されたのだ。探偵不在のまま犯人探しが行われるが、私雨邸に閉じ込められた人々はみな怪しい者ばかり。果たして犯人は?
クローズドサークルから、密室、ダイイングメッセージ、推理合戦に読者への挑戦と本格要素満載で楽しませてくれます。目新しい要素こそないものの、誰もが怪しく思える展開は読み応えがあり。


45.誰が勇者を殺したか(駄犬)
魔王が倒されて4年。平和を取り戻した王国は亡き勇者を称えるべく、その偉業を文献にまとめる事業を立ち上げる。騎士レオン、僧侶マリア、賢者ソロンらに勇者のエピソードについて尋ねていくが、彼の死の真相については一様に言葉を濁すのだった。果たして勇者を死に至らしめたのは誰なのか?
視点が変わるごとに徐々に全体像が見えてくる構成が素晴らしい。インタビューと回想によるテンポの良い語りにぐいぐいと引き込まれる、ファンタジーミステリーとして読み応え満点の傑作です。


46.化け者手本(蝉谷めぐ実 )
江戸後期の文政。稀代の人気女形だった元役者の魚之助と鳥屋を営む青年・藤九郎のもとに奇怪な事件の話が持ち込まれる。舞台の幕が下りたとき、首の骨が折られたうえに両耳から棒が突き出た死体が客席に転がっていたというのだ。演目は「仮名手本忠臣蔵」で死人はこれで2人目だというが…。
化け者シリーズ第2弾。江戸時代の芝居の世界を活写しつつ、役者の業の深さを浮き彫りにしていく物語は読み応え満点で魚之助と藤九郎のコンビも魅力的。ただし、ミステリとしての弱さは否めず。
化け者手本
蝉谷 めぐ実
KADOKAWA
2023-07-28


47.バールの正しい使い方(青本雪平)
転校を繰り返す小学生の礼恩はいつしか力関係を察してクラスに溶け込む術を身につけていた。同時に、行く先々で出会うクラスメイトたちが嘘つきであることにも気付く。なぜ彼らは嘘をつくのか?さらに、どの学校でもバールに関する噂が広まっているのはなぜか?礼恩はバールを手にとるが...。
全6編の連作短編であり、各エピソードで嘘を巡るエピソードが展開されていきます。謎解きが見事であるのと同時に、哀愁を帯びた嘘の理由が心に刺さります。特に、エピローグでの伏線回収が鮮やか。
バールの正しい使い方
青本雪平
徳間書店
2022-12-10


48.時計泥棒と悪人たち (夕木春央)
とある事情から不治の病に冒された実業家所有の美術館に忍び込んだところ不可解な謎に遭遇する『加右衛門氏の美術館』、ごくつぶし一家の家計を支えていた男が密室で殺される「悪人一家の密室」、大雪の日に誘拐事件に続いて足跡なき殺人が発生する「誘拐と大雪」など全7編収録。
元泥棒が探偵役を務めるシリーズ第2弾。大正浪漫な雰囲気の中で繰り広げられる謎解きにワクワクします。事件もバラエティに富んでおり、それを解き明かすロジックの冴えも申し分なしです。
時計泥棒と悪人たち
夕木春央
講談社
2023-04-25


49.最後の祈り(薬丸岳)
教誨師の保阪宗佑は精神的救済を求める囚人たちと向かい合っていたが通り魔によって妊娠中の娘を殺されてしまう。しかも、4人の命を奪って死刑判決を受けた犯人はサンキューといって高笑いをしたのだ。犯人を地獄に突き落としたいとの思いに駆られた宗佑は教誨師として彼と対話を始めるが....。
犯人の抱える闇や罪の意識、遺族の心の問題などが臨場感豊かに描かれており、重い話なのにぐいぐいと引き込まれていきます。加害者の罪と罰について問い続けてきた著者の到達点ともいうべき力作。
最後の祈り (角川書店単行本)
薬丸 岳
KADOKAWA
2023-04-21


50.ノウイットオール あなただけが知っている(森バジル)
クリスマスイヴの夜。暴力団の事務所で組員が殺され、警察沙汰にしたくない組長は界隈で最も有能かつ口の堅い私立探偵・青影千織に犯人捜しの依頼をする。助手の森崎を引き連れて現場を訪れた青影は依頼料が1400万円になることを告げたうえで、この事件は身内の犯行であると指摘するが…。
第30回松本清張賞受賞作。同賞のお堅いイメージに反したポップな作風にビックリ。ジャンルの異なる独立した5つの物語はどれも面白く、実は相互干渉しあっていたというプロットも秀逸です。


51.大雑把かつあやふやな怪盗の予告状 警察庁特殊例外事案専従捜査課事件ファイル(倉知淳)
並の刑事では解決不可能な難事件に対処すべく名探偵を派遣する部署・通称探偵課が発足。しかし、警察の人間ではない探偵は勝手に捜査をすることが出来ない。そこで随行員が必要となり、キャリア警官として入庁したばかりの木村が指名される。だが、組まされる名探偵は皆癖の強い奴らばかりで…。
もしも名探偵が警察庁公認だっらだら?という発想で書かれた3編収録の中編集です。独特のユーモアが楽しく、ホワイダニットを中心とした謎解きもよく出来ています。特に意外性抜群の表題作が秀逸。


52.ぎんなみ商店街の事件簿 Brother編/Sister編(井上真偽)
元太・福太・学太・良太の4兄弟は早くに母を亡くし、父は海外に赴任中。ある日、近所の商店街車が店に突っ込む事故が起きる。運転手は即死だったのだが、死因は焼き鳥の串が喉に突き刺さったというもの。それを目撃していた末弟の証言に違和感を覚えた兄たちは独自に調査を始めるが…。
4兄弟と3姉妹が別の視点から事件を推理する全3話×2部構成の連作ミステリ。独自のスタイルに加え、家族愛の描写や掛け合いの楽しさも魅力的です。ただ、同じ事件を2回描くので冗長なのが難。


53.ローズマリーのあまき香り(島田荘司)
1977年10月。ニューヨークのバレエシアターで上演されたスカボロゥの祭りにて生ける伝説と呼ばれるバレリーナ・フランチェスカ・クレスパンが幕の合間に控室で殺される。しかも、観客たちの証言によると、彼女は死後も踊り続けていたというのだ。この奇怪な謎に名探偵・御手洗潔が挑むが...。
『占星術殺人事件』以前の事件を描いた御手洗潔シリーズの第31弾。謎解きの切れ味は往年の作品には及ばないものの、幻想的な事件には惹き込まれますし、冒険譚としては十分に楽しめる出来です。


54.鈍色幻視行(恩田陸)
飯合梓の『夜果つるところ』は三度映像化が試みられたがすべて頓挫しおり、呪われた小説と呼ばれていた。飯合梓の謎を追う小説家の蕗谷梢は関係者が一堂に介するクルーズ旅行に夫の雅春と参加する。彼女は『夜果つるところ』に対して並々ならぬ思い入れのある人々にインタビューを行うが…。
これぞ恩田ワールドといった感じで、取材やインタビューを通して様々な事実が明らかになり、さまざまな謎を紐解いていく過程はゾクゾクする面白さに満ちています。ただ、結末が弱いのもいつも通り。
鈍色幻視行 (集英社文芸単行本)
恩田陸
集英社
2023-05-26


55.夜果つるところ(恩田陸)
幼い私はものごころついた頃からずっと人里離れた遊郭・墜月荘で暮らしていた。そんな私には産みの母・和江、育ての母・莢子、名義上の母・文子という3人の母がいた。ある時、館に出入りする3人の男たちの宴に迷い込むが、私は彼らに近しいものを感じる。だが、それは惨劇の始まりで...。
著者の別作品『鈍色幻視行』において呪われた映画として語られる同タイトルの原作小説という位置付けの作品です。妖しげなムードの中で繰り広げられる惨劇と驚愕の事実。独自の空気感が魅力的。


56.恋する殺人者(倉知淳)
大学生の沢木高文が姉同然に慕っていた従姉の真帆が転落死する。警察は事故として処理するも納得がいかない高文は彼に片想いしているフリーターの来宮美咲を助手に真相を探っていく。担当刑事の鷲尾にあしらわれながも独自捜査を続ける高文だったが、彼が協力を要請した人が次々と殺されていき…。
大胆な仕掛けが施されているものの、ミステリを読みなれた人なら真相にたどりつくのは比較的容易です。テンポ良く気軽に楽しむことができるという点も含め、どちらかといえば初心者向けの作品。
恋する殺人者 (幻冬舎単行本)
倉知淳
幻冬舎
2023-06-07


57.11文字の檻: 青崎有吾短編集成(青崎有吾)
JR福知山線脱線事故に遭遇したカメラマンが事故の経緯に違和感を覚える「加速していく」、全面がガラス張りという奇妙な屋敷で起きた不可能殺人の顛末を描いた「噤ヶ森の硝子屋敷」、漫画『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い』のノベライズ「前髪は空を向いている」など、全8篇収録。
本格からSF、果ては漫画のノベライズと非バラエティに富んだ短編集。なかでも、面白さ抜群なのが百合ロードノベルの「恋澤姉妹」です。ミステリとしては表題作や「噤ヶ森の硝子屋敷」も秀逸。


58.焔と雪  京都探偵物語(伊吹亜門)
大正時代の京都。伯爵のご落胤で病弱な露木と豆腐屋の倅で元刑事の鯉城の2人は幼なじみで探偵事務所の共同経営者だ。あるとき、鯉城は女から恋人のふりをしてほしいという依頼を受ける。その後、彼女につきまとっていた男は自らに火を付け焼死したという。だが、彼の死には不可解な点があり...。
全5話の連作短編。大正時代の京都が情感たっぷりに描かれているのが印象的。ミステリとしては弱い感じがするものの、後半に入ると一変。どんでん返しとそれに伴う切なさが心を揺さぶります。


59.秋雨物語(貴志祐介)
失踪した作家のパソコンから眠ると勝手にテレポートする悩みを綴った文章が発見される「フーグ」、33歳まで一度も恋人ができない男が前世の呪いについて語る「餓鬼の田」、一緒にこっくりさんをした死にたがりの小学生たちが18年後に再びこっくりさんを行う「こっくりさん」など全4編収録。
ホラー短編集と銘打たれていますが、実際は多彩なジャンルのエッセンスを散りばめて楽しませてくれます。特に、奇妙な味の「餓鬼の田」が秀逸。ただし、全体的にラストのインパクトは今ひとつです。
秋雨物語 (角川書店単行本)
貴志 祐介
KADOKAWA
2022-11-29





60.フォトミステリー ―PHOTO・MYSTERY― (道尾 秀介)
魔法使いに石にされた男の話を孫娘に語っていた祖母が最後に意外な一言を口にする「静かな午後」、お兄ちゃんはなんでずっと帰ってこなかったの?と尋ねる幼い妹に対して兄はどうしようかずっと迷ってたからと答える「お兄ちゃんの髪は濡れていた」など、全50篇のショートショート集。
本文は数十文字から数百文字程度で、小説というよりは写真を見て面白い回答に挑戦する大喜利のようなノリの作品です。著者ならではのブラックが味わいは悪くないものの、小説とは言い難い。
フォトミステリー ―PHOTO・MYSTERY―
道尾 秀介
ワニブックス
2023-06-16


61.レモンと殺人鬼(くわがきあゆ)
小林姉妹の父は10年前に通り魔によって殺され、母も失踪。結果、2人は別々の親戚に預けられ、不遇の日々を過ごすこととなる。ある時、妹の妃奈が遺体で発見される。しかも、被害者であるはずの彼女に保険金殺人の容疑がかけられたのだ。姉の美桜は妹の無実を信じ、独自に調査を開始するが…。
第21回 『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ。前半は重たい展開が続くも、中盤以降怒濤の展開が始まり、一気に引き込まれます。ただ、どんでん返しの繰り返しははいささかくどすぎ。
レモンと殺人鬼 (宝島社文庫)
くわがきあゆ
宝島社
2023-04-06


62.魔女と過ごした七日間(東野圭吾 )
AI監視システムが張り巡らされた近未来の日本で、指名手配犯捜しのスペシャリストだった元刑事が何者かによって殺害された。中学3年生の陸真は友人の純也とともに父を殺した犯人を探っていき、やがて円華という名の女性と出会う。彼女は不思議な力で彼らを真相へと導かれていくが…。
ラプラスの魔女シリーズ第3弾。少年たちのひと夏の冒険譚&成長物語として非常に読み応えがあります。ただ、事件は円華のの力によってあっさり解かれるのでミステリとしては物足りなさも。
魔女と過ごした七日間
東野 圭吾
KADOKAWA
2023-03-17


63.魔女の原罪(五十嵐 律人)
鏡沢高校は自由な校風で知られ、校則はないうえに服装や髪の色も自由。ただ、法律だけは厳守しなければならない。違法行為は厳罰に処され、校内にはいたるところに監視カメラが設置されていた。そして、ある変死事件をきっかけに学校や街の秘密が暴かれていく。街の住人がおそれる魔女とは?
前半は謎解き要素を絡めつつ学園ものの雰囲気で進んでいきますが、一生ラストで衝撃の展開が。荒唐無稽さはあるものの、後半の怒涛の展開が素晴らしく、法廷ミステリーとしても読み応えありです。
魔女の原罪 (文春e-book)
五十嵐 律人
文藝春秋
2023-04-24


64.歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理(三津谷信三)
刀城言耶に研究室の留守を任された青年作家の天弓馬人。彼は極度の怖がりで女子大生の瞳星愛が持ち込む怪異譚にひびりまくる。そして、恐怖から逃れるために一連の怪異に合理的な説明をつけようするのだった。陸に上がった亡者、子供の腹を裂く狐鬼、密室の座敷婆。果たして天弓の推理は?
刀城言耶シリーズのスピンオフ作品。本家と比べるとミステリーとしてもホラーとしても物足りなさはあるものの、馬人と愛の関係が微笑ましく、連作短編として楽しい作品に仕上がっています。


65.新・教場(長岡弘樹)
警察学校第九十四期初任科短期課程の教官となった風間公親は生徒の暗部を暴いていく。交番実地研修中に通り魔を逮捕したブラジリアン柔術有段者の生徒に現場の再現を命じる『殺意のデスマスク』、卒業式の祝辞を読むのを辞め、最終講義を始める『カリギュラの犠牲』など、全6話収録。
シリーズ第6弾。風閒の鋭い洞察で真実に迫るプロセスがスリリングに語られていく点は相変わらずの面白さ。加えて、事件の陰湿さが薄れて読みやすいのも好印象です。ただ、若干のマンネリ感も。
新・教場
長岡弘樹
小学館
2023-03-15


66.60% (柴田祐紀) 
新興暴力団の若頭・柴崎は職も家庭も失った元銀行員の後藤喜一を使ってマネーロンダリングの会社を立ち上げる。一方で、中国マフィアとのヤクの取引を柴崎自ら受け持つも担当を外された部下がヤクの横流しを試みたことで中国マフィアとの対立を生んでしまう。やがて、日本に殺し屋を送り込まれ…。
第26回日本ミステリー文学大賞新人賞。カリスマ極道の柴崎や闇社会に自分の居場所を求める元銀行員の後藤など登場人物みな皆魅力的。一方で、柴崎が超人すぎるなどリアリティの面ではやや難も。
60%
柴田 祐紀
光文社
2023-02-22


67.そして、よみがえる世界。(西式豊)
テレパスと呼ばれる脳内インプラントにより、介助用ロボットや仮想空間でのアバターの直接操作が可能となった近未来。記憶と視覚を失った少女エリカに対する視覚再建装置の埋め込み手術が行われる。しかし、術後彼女は黒い影の幻に脅かされるようになり、手術を行った院内でも謎の事件が...。
第12回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。序盤は技術的な説明が続くために少々冗長ですが散りばめられた伏線が回収される中盤以降一気に面白くなります。ミステリーよりもSFとして魅力的な傑作。
そして、よみがえる世界。
西式 豊
早川書房
2022-11-16


68.むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。(青柳碧人)
こぶとりじいさんの子孫が殺人事件に巻き込まれる「こぶとり奇譚」、芳一が平家の亡霊から身を守るため全身にお経を書いて一夜を過ごしていたところいつの間にかそばに死体が転がっていた「陰陽師、耳なし方一に出会う」、三年寝太郎が名探偵を務める「三年安楽椅子太郎」など、全5編収録。
昔話の世界で事件が起きる”むか死シリーズ”の最終巻。いつも趣向に加えて方一と陰陽師、三年寝太郎と雪女&笠地蔵といった複数の作品のコラボが楽しい。特殊設定ものとして安定の面白さです。
69.赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。(青柳碧人)
赤ずきんは森の中でキツネとネコが運んでいた袋の中から人形の腕が落ちるのを目撃する。その腕は赤ずきんの前で動き出し、紙とペンを与えると自分はピノキオでサーカス団に捕まっているので助けてほしいと訴える。救出に向かった赤ずきんだったが、キツネ殺しの犯人として逮捕されてしまい...。
赤ずきんシリーズ第2弾。ミステリーとしても安定の面白さですが、それ以上に、童話キャラ共演のドラマがよくできています。特に、『白雪姫』を皮肉たっぷりに描いた『女たちの毒リンゴ』が秀逸


70.蒼天の鳥(三上幸四郎) 
大正13年7月の鳥取市。女性の地位向上を訴える田中古代子は作家として本格的に活動するために娘の千鳥と内縁の夫・涌島義博の3人で東京に引っ越す計画を立てていた。しかし、活動写真「兇賊ジゴマ」を市内の劇場で千鳥と観劇中、場内で火事が発生。しかも、ジゴマが現れて男を1人殺害し...。
第69回江戸川乱歩賞受賞。実在の女流作家の目を通して大正時代の空気や女性の立場などを描いた物語は読み応えあり。娘との関係もぐっときます。ただ、ミステリとしてはいささか弱過ぎな気が...。
蒼天の鳥
三上幸四郎
講談社
2023-08-22



チェック漏れ作品

鏡の国(岡崎琢磨)
和製クリスティと呼ばれた大御所ミステリー作家の室見響子の死後、彼女の遺稿が見つかる。それはデビュー前に書いた私小説的な内容だった。担当編集者は著作権継承者である響子の姪に「この原稿には削除されたエピソードがあると思う」と告げる。果たしてその物語に隠された秘密とは?
自分を醜いと思い込む身体醜形障害に悩む元アイドルという主人公の設定に伏線を絡ませて反転させる手管が見事です。作中での事件もかなりの面白さですが、削除されたエピソードの件は蛇足かも。
鏡の国
岡崎 琢磨
PHP研究所
2023-09-13


2023年12月4日追記
予想結果
ベスト5→5作品中2作的中
ベスト10→10作品中7作的中
ベスト20→20作品中12作的中
順位完全一致→20作品中0作品

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