最新更新日2021/12/12☆☆☆

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昨今ではさまざまな出版社から年間のミステリーランキングが発表されるようになってきています。それらのランキングは面白い作品を探す指針として大いに参考になる反面、ランキングから漏れた作品はつまらないという誤解を生む原因にもなっています。しかし、実際はランクインしなかった作品がすべてつまらないというようなことは決してありません。ランキングの趣旨から外れている、あるいは投票者の好みに合わないなどといった理由でランキングから外れてしまったものの、読む人が違えば非常に面白く感じる作品も少なくないのです。そこで、各種ミステリーランキングにランクインしていない、それどころか下記のリンク先でランキング候補にすら挙がっていないものの中からおすすめの作品を紹介していきます。
このミステリーがすごい!2022年版 海外ベスト20予想
2022本格ミステリ・ベスト10 海外版予想

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パリ警視庁迷宮捜査班 魅惑の南仏殺人ツアー(ソフィー・エナフ)
アンヌ・カペスタン警視正率いる特別捜査班の元に新たな殺人事件が舞い込む。被害者には拷問の跡があり、しかも、殺されたのはアンヌの元夫の父親だった。事件の捜査には刑事部やフランス国家警察も介入し、三つ巴の様相をみせる。やがて、過去の2つの未解決殺人事件との関連性が浮かび上がるが...。
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前作はフランス版特捜部Qなどといわれていましたが、この第2弾ではコメディ色が鮮明に打ち出されています。もともと前作の段階から個性豊かなキャラクターが揃っていたところに、新たに濃いメンバーが2人追加されたことによってドタバタぶりに拍車がかかる結果となったのです。特に、レヴィッツとポルシェのエピソードは抱腹絶倒です。また、そうしたドタバタや事件の捜査などを通して互いの信頼関係が高まっていくくだりなどもチームものとして読ませます。捜査が遅々として進まなかった割に最後はあっさり解決してしまったので事件そのものの印象は薄いものの、キャラの魅力だけで十分楽しめる好編です。


夜(ベルナール・ミニエ)
ノルウェーの教会で女性の惨殺死体発見され、オスロ警察の女性刑事シュステンが捜査に乗り出すが、遺体からは彼女の名を記したメモが発見される。さらに、被害者の勤務先である北海の石油プラットフォームからはセルヴィス警部の宿敵である連続殺人鬼ジュリアン・ハルトマンのDNAが発見され...。
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セルヴィス警部シリーズの第4弾です。今回も物語は刺激的。序盤こそ少々冗長なものの、中盤以降は急転直下の連続で息つく暇もありません。むしろ、どんどん話が転がっていくので読んでいて疲れてくるほどです。特に、シリーズを通しての宿敵であるハルトマンの登場シーンはどれもハッタリが効いていてワクワクしてきます。その他にも、セルヴィスが撃たれて生死の境をさ迷い、彼とコンビを組むことになったシュステンと濃厚なラブロマンスを繰り広げ、さらには息子のために肝臓移植に望むといった具合にイベントもりだくさんです。フランスでベストセラーになったのもうなずける面白さだといえるでしょう。ただ、なかには「詰め込み過ぎで胃もたれを起こしそう」「いくらなんでもハルトマン無双すぎ」「エログロが強烈すぎてキツイ」などといった不満を覚える人もいるかもしれません。その辺は好みの分かれるところです。
夜 (ハーパーBOOKS)
ベルナール ミニエ
ハーパーコリンズ・ジャパン
2021-05-17


最後の巡礼者(ガード・スヴェン)
2003年。第2次世界大戦の英雄、カール・オスカーの他殺死体が自宅で発見される。ナチスの鉤十字が刻まれたナイフでめった斬りされたのだ。捜査は行き詰るが、トミー・バーグマン刑事は2週間前に発見された3体の白骨死体との関連性を見出す。そして、ときは1939年に遡る........。
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2014年ガラスの鍵賞受賞作品です。現代と過去をめまぐるしく行き来するので最初は状況の把握に苦労するかもしれません。しかし、一通り理解したあとは世界大戦時における英国の二重スパイと現代の殺人事件が絡んだ二転三転の展開にぐいぐいと惹き込まれていきます。また、日本ではあまり知られていない世界大戦時のノルウェイについて知ることができる点も興味深いものがあります。本作は、そのノルウェイにおける戦後処理と戦争犯罪の問題をスパイ小説&警察小説の形で描いた力作です。
最後の巡礼者 (上) (竹書房文庫)
スヴェン,ガード
竹書房
2020-10-01
最後の巡礼者 (下) (竹書房文庫)
スヴェン,ガード
竹書房
2020-10-01


続・用心棒(ディヴィット・ゴードン)
かつて陸軍特殊部隊にいたジョー・ブロディ―は用心棒として暗黒街でも一目置かれる存在になっていた。そんな彼の元に裏社会の顔役たちの依頼が舞い込む。テロ計画の原資となっているヘロインを奪い、供給元を潰してほしいいうのだ。ジョーは各分野のエキスパートを集め、計画を実行に移すが....。
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用心棒シリーズの第2弾。今回は強奪ミッションということで、個性豊かな仲間とチームを組むというB級映画の王道的な快作に仕上がっています。ド派手なアクションが用意されており、主人公以外にも一人一人見せ場が用意されているのが好印象です。なかでも、金庫破りの名人で、FBI捜査官のドナと並んでヒロイン格のエレーナが魅力的。前作に続いての大活躍にほれぼれします。予定調和的な展開には少々物足りなさを感じるかもしれませんが、その分、安心して楽しむことができます。
続・用心棒 (ハヤカワ・ミステリ 1966)
デイヴィッド・ゴードン
早川書房
2021-04-01


森の中に埋めた(ネレ・ノイハウス)
キャンプ場でトレーラーが突如炎上し、大爆発を起こす。車内からは男性の焼死体が発見され、オリヴァーとピアは捜査を開始した。ほどなくしてトレーナーの持ち主はオリヴァーの級友の母親と判明するが、彼女は何者かに殺される。しかも、次々と起きる事件の関係者はオリヴァーの知人ばかりで.....。
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オリヴァー&ピアシリーズ第8弾。今回はとにかく登場人物の多さに圧倒されます。しかも、謎を解く鍵は42年前の事件にあるため、本をスムーズに読み進めようと思えば、まず5ページに渡る登場人物表に加えてそれに付随する家系図を頭に叩き込んでおかなくてはなりません。必然的にかなり手ごわい読書になりますが、登場人物が一通り揃ったころには物語もテンポアップし、ぐっと面白くなってきます。一癖も二癖もある関係者たちの40年以上に渡る過去を洗い直し、一見のどかな村に秘められた醜悪な人間関係が次第に明るみになっていくプロセスは読み応え満点です。また、本作はシリーズ主人公であるオリヴァー自身の事件でもあり、彼の少年時代のトラウマと事件の関連性についても大いに興味をそそられます。オリヴァーの生い立ちを含め、閉鎖社会の悲劇を描いた傑作です。
森の中に埋めた (創元推理文庫)
ネレ・ノイハウス
東京創元社
2020-10-30


テムズ川の娘(ダイアン ・セッターフィールド)
19世紀後半のイギリス。テムズ川流域に位置する村の居酒屋に重傷を負った男が少女の死体を抱えて現れる。酒場は騒然となるが、少女が息を吹き返したことで酔っ払いたちは沸き立った。その噂はたちまち近隣一体に広がり、その少女の家族だという者たちが3組も現れる。果たして彼女は何者なのか?
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『13番目の物語』の大ヒットで知られる著者の幻想歴史ミステリーです。ただ、ミステリーとしては大した話ではありません。実際、700ページに及ぶ長大な物語において謎解きは先送りされ、どんどんわき道にそれていきます。ミステリーを期待した人にとってはそれが退屈だと思うかもしれません。しかし、そこで語られる村の生活や村人たちの生い立ちなどからはビクトリア時代ならではの空気が濃密に感じられ、読み応え満点です。謎解きそのものよりも芳醇な物語世界の香りを満喫するための作品だといえるでしょう。
テムズ川の娘 (小学館文庫)
ダイアン・セッターフィールド
小学館
2021-09-07


咆哮(アンドレアス・フェーア)
湖の凍てついた氷の下から16歳の少女の死体が発見される。プリンセスドレスを身にまとい、口には数字の書かれたブリキのバッジが押し込められていた。発見者であるクロイトナー上級巡査が手柄を立てようと躍起になるなか、捜査を指揮するヴァルナ―の自宅の屋根から新たな少女の死体が発見され.....。
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ドイツを代表するミステリ作家の一人であるアンドレアス・フェーアが2009年に発表したデビュー作です。ミステリーとしての切れ味はいまひとつながらも、チームで地道に捜査を続けるヴァルナ―と野生の勘で突っ走る暴走警官のクロイトナーとの対比が楽しく、警察小説として読み応えがあります。また、悲惨な事件を扱いながらも合間合間にユーモアを散りばめ、シリアスな話から一瞬でギャグに転換するパターンがインパクト大です。荒削りな部分も散見されるものの、クロイトナーの破天荒な魅力がそれらの欠点を補っています。
咆哮 (小学館文庫)
アンドレアス・フェーア
小学館
2021-01-04



羊の頭(アンドレアス・フェーア)
上級巡査のクロイトナーはトレーニングのためにリーダーシュタイン山の頂上まで足を運び、そこで小悪党のクメーダーと出くわすも、突然気分が悪くなって嘔吐する。そして、振り返るとクメーダーは頭部が吹き飛んだ遺体となって横たわっていた。クメーダーの恋人が失踪した2年前の一件との関連は?
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ヴァルナー&クロイトナーシリーズの第2弾です。さまざまな事件が複雑に絡み合い、回想シーンも多いので最初は読みづらさを感じるも、それらが一つに結びついて驚愕の真相へと至る後半は読み応え十分。DV絡みの重苦しい事件を刑事たちの突飛な行動でギャグへと転化する手法も相変わらずです。一方、クロイトナーは前作で冴えまくっていた野生の勘が影をひそめ、狂言回しに徹しています。しかし、二転三転の末に意外な真相へとたどりつくなど、ミステリーとしてはより面白くなっています。ただ、勧善懲悪が果たされず、すっきりしないラストに関しては好みがわかれそうです。
羊の頭 (小学館文庫)
アンドレアス・フェーア
小学館
2021-09-07



パッセンジャー(リサ・ラッツ)
わたしがシャワー室から出てくると夫が非常階段から落ちて死んでいた。逃げないとという思いにかられ、その日からわたしの逃亡生活が始まった。別人になりすましてスタートした第二の人生。だが、たちまち正体不明の追手による襲撃を受ける。その窮地を女バーテンダーが救ってくれたのだが......。
◆◆◆◆◆◆
自分が殺したわけでもないのになぜか逃亡生活を始める主人公の不可解さと迷走っぷりが気になり、物語に引き込まれていきます。テンポが良く、ややご都合主義な点が散見されるものの、疾走感溢れる逃走劇はスリリングで読み応え満点です。序盤は多少のもたつきを感じるかもしれませんが、中盤を越えてラストまでは一気呵成の展開で息つく間もありません。そして、溜飲の下がる結末も好印象。一種のロード―ムービー的なミステリーであり、非常に映像化向きな作品です。
パッセンジャー
リサ・ラッツ
小鳥遊書房
2021-09-06


クロス・ボーダー(サラ・パレツキー)
探偵のヴィクは親友ロティの又甥にあたるフェリックスが殺人の容疑を掛けられていることを知り、助けに向かう。殺人事件の謎を追うヴィクだったが、今度は元夫のディックの姪が行方不明になったとの報せが入る。2つの事件を同時に調べることになったヴィクは次々と襲撃犯に襲われることになり.....。
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1982年にスタートした女探偵 V・I・ウォーショースキーシリーズの第20弾であり、本国アメリカでは2018年に発売されています。主人公のヴィクはもういい年のはずなのに今回も大男を相手に取っ組み合いを繰り広げるなど相変わらずのタフっぷりで、満身創痍の活躍をみせてくれます。ちなみに新しいロマンスも始まり、恋多き女性という属性も未だ健在です、今回は若者たちから信用されず、なかなか協力してもらえないというジェネレーションギャップに苦戦するものの、弱きを助け強きを挫く物語は安定の面白さです。
クロス・ボーダー 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
サラ パレツキー
早川書房
2021-09-16


夜の爪痕(アレクサンドル・ガリアン)
パリ警視庁のフィリップ警視は長年売春斡旋業取締部に勤務して夜の街を駆けまわっていたが、妻との関係を修復するために夜の世界を離れて犯罪捜査部に異動する。ところが、その直後に彼の情報提供者だったエスコートガールが全裸の惨殺死体となって発見される。捜査が難航する中、第2の事件が......。
◆◆◆◆◆◆
パリ警視庁賞受賞作。パリの街並みが生き生きと描かれており、夜のパリを知りつくした主人公の捜査もリアリティ満点です。そのあたりは、さすが書き手が現職警官だけのことはあるといったところでしょうか。また、情緒に流されることのない落ち着いた文章も作品のテーマと合致して読みやすくなっています。ただ、そのために人によっては盛り上がりに欠けて退屈だと感じるかもしれません。終盤には衝撃的な展開が用意されているのですが、それに対しても描写が淡々としすぎている点は賛否が分かれそうです。
夜の爪痕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 カ 12-1)
アレクサンドル・ガリアン
早川書房
2021-07-01


完璧すぎる結婚(グリア・ヘンドリックス)
裕福で優しいリチャードとの婚約。だが、それからというものネリーは無言電話や見知らぬ女性からの視線に悩まされるようになる。しかも、リチャードの部屋にまで怪しげな女性が訪ねてきたのだ。一方、リチャードの前妻であるヴァネッサは彼の婚約を知り、なんとか結婚を阻止しようとするが.......。
◆◆◆◆◆◆
一見よくある恋愛サスペンスといった印象ですが、第一部の終盤ですべてがひっくり返されます。あまりにも衝撃的過ぎるので頭が混乱するほどです。ただ、続く第2部が予定調和的な展開で思ったほど盛り上がらないのが物足りなく感じます。とはいえ、一度混乱した頭を整理したい人にとってはちょうど良い塩梅かもしれません。そして、第3部に入るとサスペンス感が増し、二転三転していく展開に手に汗握ります。このタイプの作品としては珍しく、読後感が意外と爽やかなのも好印象。


汚れなき子(ロミー・ハウスマン)
真夜中の病院にひと組の母娘が搬送されてくる。母親は自動車事故で重傷を負っていたものの、娘の方は無傷だった。ただ、その娘に話を聞いても要領を得ない。やがて、彼女の口からは小屋での奇妙な暮らしぶりと、その末に母が自分たちを監禁していた父を殺そうとしたことなどを語り始めるが......。
◆◆◆◆◆◆
冒頭から語り手がめまぐるしく代わり、異様な雰囲気を醸し出しながら真相を巧みに隠蔽していく手管が秀逸です。語り手があまりにも多い故に多少の分かりにくさはあるものの、謎だらけの物語から次第に真実が浮かび上がってくる物語は無類の面白さです。苦しく暗い話ながらも真相が気になってページをめくる手が止まらなくなります。そして、それまで第三者からのみ語られてきた母親のレナが最後の最後で自ら心情を吐露する構成が見事。ただ、人間不信になりそうな残酷シーンが結構あるのでそういうのが苦手な人は注意が必要です。
汚れなき子 (小学館文庫 ハ 12-1)
ロミー・ハウスマン
小学館
2021-06-07


誘拐の日(チョン・ヘヨン)
難病に侵された娘の治療費を手に入れるためにやむなく誘拐を企てるミョンジュン。ところが、標的に定めた11歳の少女ロヒを誤って車ではねてしまう。命に別状はなかったものの、彼女は記憶喪失に。そのうえ、ロヒの両親はすでに殺されていたことが判明する。そして、事態は思わぬ方向へ......。
◆◆◆◆◆◆
韓国発のユーモアミステリー。ミステリーとしては少々ご都合主義な部分があるものの、誘拐を諦めて親に連絡しようとすると、いろんな出来事がつながっていって思いもよらぬ自体を引き起こしていくという展開は先が読めずにぐいぐいと引き込まれていきます。それに加え、散りばめられた伏線の数々が最後にきっちり回収されるのも見事です。また、この手の作品ではありがちですが、ジンとくるハートフルな要素もあり、きっちりと感動させてくれます。非常によくできたエンタメ作品です。
誘拐の日 (ハーパーBOOKS)
チョン ヘヨン
ハーパーコリンズ・ジャパン
2021-06-17


平凡すぎる犠牲者(レイフ・GW・ペーション)
年金生活を送っているアルコール依存症の男が撲殺死体となって発見される。よくある簡単な事件だと誰もが考えていた。だが、有力な容疑者に挙げられていた第一発見者の新聞配達人が何者かに殺され、事件は混迷の色を深めていく。ベックステレーム警部はこの事態をいかに打開していくのか?
◆◆◆◆◆◆
シリーズ第2弾。主人公である警部は客観的に見れば下品なだけの無能警官なのですが、それがなぜか事件を解決してしまうところに独自の面白さがあります。60~70年代にブラックユーモアを基調としたミステリーとして人気を博したドーヴァー警部シリーズを彷彿とさせる部分も多く、好感度ゼロの探偵役を笑い飛ばせるかどうかで好き嫌いが分かれそうな点も共通しています。実際、シリーズ第1弾では主人公に対する嫌悪感が作品を楽しむ上での大きなネックになっていたのですが、本作ではそれらの要素がかなりこなれてきていて笑いとして転化できているのでおすすめです。また、最後には意外な真相も用意されており、北欧の今を描いた社会派ミステリーとしても秀逸です。
平凡すぎる犠牲者 (創元推理文庫)
レイフ・GW・ペーション
東京創元社
2021-01-09


リトル・グリーンメン(クリストファー・バックリー)
20世紀末。米国とエイリアンが手を結んで秘密兵器を作っていると思わせ、共産圏を牽制していた政府機関のMJ-12。だが、部局員のネイサンが独断で、超売れっ子のパーソナリティ・バニオン氏のUFO拉致事件を演出したことで、バニオン氏はUFO信者となってしまい、思わぬ騒動へと発展していく...。
◆◆◆◆◆◆
世間では数多くの陰謀論が渦巻いていますが、本作はそれを極端にしたようなドタバタコメディです。トンデモ陰謀論に基づく事件をもっともらしく演出しようとする涙ぐましい努力が描かれており、そのバカバカしくも現代のフェイクニュース問題に通じる点がブラックな笑いを生んでいます。また、それが次第に大事になっていく展開も読み応えありです。訳文もわかりやすく、テンポの良い快作に仕上がっています。ただ、なかにはアメリカならではの躁的なユーモアセンスが合わないという人もいるかもしれません。
リトル・グリーンメン 〈MJ-12〉の策謀 (創元推理文庫)
クリストファー・バックリー
東京創元社
2021-05-31



プエルトリコ行き477便 (ジュリー・クラーク)
夫のDVに悩まされていたクレアは家出を決意するも、夫のスケジュールが変更になったことで計画が頓挫しそうになる。そこに夫を安楽死させて警察から追われているエヴァという女性が現れ、飛行機チケットの交換を持ちかけられる。提案に乗るクレアだったが、彼女が乗るはず飛行機が墜落し......。
◆◆◆◆◆◆
序盤から緊迫した展開が続き、一気に引き込まれます。そのうえ、次々と予想外の出来事が起こり、サスペンスとしての読み応えは申し分なしです。ヒロインが逃げおおせることが出来るかどうかで手に汗握りますし、同時になぜ彼女がここまで苦境に陥ったかの背景も詳しく語られており、現代の社会問題として考えさせられるものがあります。一方、エヴァの複雑なキャラクター性も魅力的。それに、単純なハッピーエンドでないビターで切ないラストも物語に深みを与えています。


ローン・ガールハードボイルド(コトニー・サマーズ)
ラジオの人気DJ・マクレイの元に自分が祖母代わりに育ててきた19歳の少女・セイディが失踪したので探してほしいという電話がかかってくる。乗り気ではないマクレイだが、上司の要請もあり、調査を開始する。その結果、セイディが妹のマティを殺した義父の命を狙っているという事実が判明し......。
◆◆◆◆◆◆
エドガー賞ヤングアダルト部門受賞作品です。メインストーリー自体はよくある悲劇的な事件の顛末を描いたものですが、その描き方が秀逸です。まず、セイディの視点で事の発端が語られ、のちにマクレイの調査でその顛末を補足するという手法がサスペンス感を高めています。また、ヒロインが犯人を探し求めて調査の旅を続ける物語もロードムービー的なミステリーとして読み応えありです。ただし、特に謎解きの要素があるわけではなく、邦題に反してハードボイルド的な要素も皆無なのでその辺りに期待していると肩すかしをくらうことになります。


ロンドン謎解き結婚相談所(アリスン・モントクレア)
1946年のロンドン。戦争中情報部に所属していたアイリスと戦争で夫を失ったグエンは共に結婚相談所を立ち上げる。ところが、会計士の青年に女性を紹介したところ、その女性が殺されしまう。しかも、青年が逮捕されてしまったのだ。それがマスコミに報道され、結婚相談所は経営の危機に陥るが....。
◆◆◆◆◆◆
逮捕された青年の無実を信じて真相究明に奔走する女性2人のバディもの。それぞれのキャラが立っており、テンポが良くてさくさく読むことが出来ます。ヒロイン2人の掛け合いが小気味良く、洒落た会話が秀逸です。同時に、2人の友情が次第に深まっていくプロセスにはぐっとくるものがあり、バディものとして極めて上質な作品だといえるでしょう。戦後復興期のロンドンの様子が詳しく描かれているのが興味深く、物語の中心となる犯罪組織との対決もスリリングです。
ロンドン謎解き結婚相談所 (創元推理文庫)
アリスン・モントクレア
東京創元社
2021-02-12


ベイカー街の女たちと幽霊少年団(ミシェル・バークビイ)
入院したハドソン夫人は同室の患者に覆いかぶさる黒い影を目撃し、そのうえ、彼女がいる特別病棟では不可解な死が繰り返される。一方、見舞いに訪れたワトソン夫人からはロンドンで少年の失踪事件が相次いでいるという話を聞く。2人はストリートキッズの力を借りて2つの事件を調べ始めるが......。
◆◆◆◆◆◆
シャーロック・ホームズでおなじみのミセス・ハドソン&メアリー・ワトソンの活躍を描いたシリーズ第2弾。今回は当時の英国における社会的背景を踏まえたうえで、母と子の関係性に焦点が当てられています。また、精神異常者による犯罪や貧困などにも言及されていて、当時のロンドンを知るうえで興味深い内容となっています。このように、かなりシリアスなテーマを内包しているものの、物語自体はあくまでもハドソン&メアリーの活躍がメインなので雰囲気的にはそれほど暗いわけではありません。今回もホームズの世界が上手く描かれており、安定の面白さですが、肝心のホームズの出番が少ないのはやや残念。それに、後味の悪い結末も好みの分かれるところです。


白が5なら、黒は3(ジョン・ヴァーチャー)
クリントン大統領時代のアメリカ。黒人の父親と白人の母親の間に生まれたビルは自分に黒人の血が流れていることを周囲に隠していた。そんな彼の元に旧友のアローンが現れ、黒人青年に対する傷害事件を起こす。アーロンは逃走に手を貸すことになり、警察に怯える。しかも死んだはずの父が現れ......。
◆◆◆◆◆◆
アメリカで深刻な問題となっている人種差別をシリアスな筆致で描いたクライムノベルです。アメリカの暗部に対する描写は生々しく、リアリティに満ちています。同時に、話のトーンはひたすら暗く、読み進めるほどに人種の間に横たわる溝の深さを突き付けられて暗澹たる気持ちになってしまいます。主人公の絶望に最後まで付き合わされることになり、はっきりいってつらい読書体験です。読後も尾を引き、いろいろと考えずにはいられなくなります。しかし、それこそが作者の狙いなのでしょう。そういう意味では非常に良くできた作品です。
白が5なら、黒は3 (ハヤカワ・ミステリ)
ジョン・ヴァーチャー
早川書房
2021-02-03


毒花を抱く女(ルイース・ボイイエ・アブ・イェンナス)
1年前にレイプされたうえに愛する父も事故で亡くしたサラは、過去を乗り越えて新たな人生を踏み出すべく田舎から首都・ストックホルムに出て仕事を始める。だが、死んだはずの父から電話があり、自分の入浴写真がインスタに投稿される。そこには国家を揺るがす陰謀が秘められていた.....。
◆◆◆◆◆◆
前半はヒロインの日常描写が延々続くため、少々退屈するかもしれません。しかし、彼女の身の回りで不可解な出来事が続発し、国家的陰謀が見え隠れし始めるあたりから俄然面白くなってきます。誰が敵で誰が味方なのか分からなくなってくる展開はサスペンスフルですし、ラストもなかなかに衝撃的です。ただし、説明不足に感じる点が多いという難点はあります。とはいえ、本作は三部作の第一弾ということなので、その辺りの説明は続編に期待したいところです。
毒花を抱く女 (ハヤカワ文庫NV)
ルイース ボイエ アブ イェンナス
早川書房
2020-10-01


Next⇒隠れた名作を探せ!このミス2023の落穂拾い 海外編
2022落ち穂拾いコンバイン