最新更新日2021/11/17☆☆☆

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本ミス2023
対象作品である2021年11月1日~2022年10月31日の間に発売された謎解き主体のミステリー作品の中か らベスト20の順位を予想していきます。ただし、あくまでも個人的予想であり、順位を保証するものではありません。また、予想は作家の知名度や人気、作風、話題性などを考慮したうえで票が集まりそうな作品の順に並べたものであり、必ずしも予想順位が高い作品ほど優れているというわけでもありません。それらの点についてはあらかじめご了承ください。
※紹介作品の各画像をクリックするとAmazon商品ページにリンクします
2023本格ミステリ・ベスト10
探偵小説研究会
原書房
2022-12-07


本格ミステリベスト10国内版最終予想(2022年11月17日)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
記載方法は以下のようになっています。
予想順位.タイトル(作者名)本ミスの順位(このミスの順位 文春の順位 読みたいの順位)
ただし、「→本ミスの順位(このミスの順位 文春の順位 読みたいの順位)」の部分が記載されているのは予想ランキングあるいは本ミスで20位以内のものだけです。
なお、このミス、文春、 読みたいはそれぞれ「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「ミステリが読みたい!」の略です。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

1位.方舟(夕木春央)→2位(このミス4位 文春1位 読みたい6位)
山奥の地下建築物に閉じ込められて殺人が起きるという典型的なクローズドサークルものです。一週間というタイムリミットと生贄のための犯人探しという設定が秀逸でサスペンスを盛り上げてくれます。そのうえで、よく練り込まれた犯人探しのロジックが魅力的です。しかし、それ以上にラストが強烈。
方舟
夕木春央
講談社
2022-09-07


2位.名探偵のいけにえ: 人民教会殺人事件(白井智之)→1位(このミス2位 文春2位 読みたい4位)
カルト集団の村で起きた不可能犯罪に対して奇蹟を前提とした推理と現実的な推理の2つを用意している点がユニーク。しかも、繰り出される推理はいずれも完成度の高いものばかりであり、150ページに及ぶ解決編は圧巻の一言です。そのうえ、タイトルの意味が明らかになるラストにも驚かされます。


3位.月灯館殺人事件(北山猛邦)→5
序盤はクリスティの名作『そして誰もいなくなった』にそっくりな展開ながらも、そこから始まる著者ならではの密室殺人&物理トリックのオンパレードで大いに楽しませてくれます。一方、往年のメフィスト賞を彷彿とさせるメタずくしの趣向は賛否が分かれるかもしれませんが、ラストの一行は衝撃的。


4位.名探偵に甘美なる死を(方丈貴恵)→4位(文春19位 
竜泉家シリーズ第3弾。最近流行りともいえるVR空間内での殺人が描かれていますが、VRの中の館という設定を活かし切った密室トリックは読者の意表を突くものであり、見事という他ありません。また、素人探偵たちの推理合戦も読み応え十分。ただ、設定やプロットが難解で詰め込み過ぎな感はあり。


5位.時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2(大山誠一郎)※ランク外
シリーズ第2弾。5つの収録作品の内、第1話のトリックは比較的簡単ですが、その後は500人の証人によるアリバイやひとつの事件の犯人だと仮定するともうひとつの事件の犯行が不可能になってしまうなど、非常に凝ったアリバイが楽しめます。従来のパターンを逆手にとったトリックが秀逸です。
時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2
大山 誠一郎
実業之日本社
2022-03-17


6位.録音された誘拐(阿津辰海)→3位(このミス15位 文春13
大野糺&山口美々香シリーズ第2弾。今回は探偵の糺自身が誘拐されるという趣向で探偵・助手・警察と様々な視点からの捜査や駆け引きを楽しむことができます。二転三する物語の中で披露される推理や逆トリックなども読み応えあり。ただ、犯人隠蔽に用いられたトリックは分かりやすかったかも。
録音された誘拐
阿津川 辰海
光文社
2022-08-24


7位.捜査線上の夕映え(有栖川有栖)→8位(このミス3位 文春8位 読みたい5位)
作中アリスの「(流行りの)特殊設定に頼らない本格にこだわりたい」という宣言通り、事件は現実的で地味です。しかし、そこから捜査と検証を繰り返して二転三転を繰り返す過程には安定の面白さがあります。一方、無理のあるトリックを用いて物語性を高めるという試みに関しては評価に迷うところ。
捜査線上の夕映え 火村英生 (文春e-book)
有栖川 有栖
文藝春秋
2022-01-11


8位.或るアメリカ銃の謎(柄刀 一)→11
アメリカ領事館での連続射殺事件の謎を追う表題作と山火事に囲まれた琵琶湖の別荘での殺人事件が2カ所同時に起きる「或るシャム双生児の謎」。2つの中編小説はいずれも国名シリーズのパスティーシュ作品であり、両者とも犯人特定のロジックと奇抜な発想の仕掛けが光る傑作です。
或るアメリカ銃の謎
柄刀 一
光文社
2022-07-20


9位.invert II 覗き窓の死角(相沢沙呼)※ランク外
探偵と犯の対決が楽しめる倒叙ミステリ2篇を収録したシリーズ第3弾。倒叙といっても犯人の手の内は伏せられているため、謎解きの面白さも堪能できます。前2作と比べるとトリックは小粒ですが、真相を用に悟らせないミスディレクションが見事です。翡翠が繰り出す逆トリックも鮮やか。


10位.あれは子どものための歌 (明神しじま)※ランク外
第7回ミステリーズ!新人賞佳作の『商人の空誓文』より始まる連作集。ファンタジー世界の話に伏線を盛り込んで一級のミステリに仕上げています。特に、どんな賭けにも負けない少女の物語を怒涛の伏線回収で反転させる表題作が秀逸。また、全てのエピソードが繋がっていく構成もよく出来ています。


11位.記憶の中の誘拐 赤い博物館 (大山誠一)→17
犯罪資料館館長である緋色冴子の推理が冴え渡るシリーズ第2弾。5つの短篇は秀作揃いで、しかも、尻あがりに面白くなっていくのが好印象。まず、3作目の『死を十で割る』での死体をバラバラにした理由に驚かされ、続く『孤独な容疑者』も典型的な倒叙ものと見せかけてのヒネリに唸らされます。
記憶の中の誘拐 赤い博物館 (文春文庫)
大山 誠一郎
文藝春秋
2022-01-04


12位.#真相をお話しします(結城真一郎 )→6位(このミス13位 文春3位 読みたい9位)
前半で仕掛けを施し、後半で伏線を回収しつつどんでん返しで驚かせるタイプの作品を5話収録した短編集。1話2話辺りの仕掛けはミステリを読み慣れていれば比較的簡単に見抜けるかもしれませんが、話数が進むごとに仕掛けも凝ってきます。なかでも、推理作家協会賞受賞の「♯拡散希望」が秀逸。
#真相をお話しします
結城真一郎
新潮社
2022-06-30


13位.入れ子細工の夜(阿津川辰海)→7位(文春20位 読みたい14位)
奇想に満ちた本格推理を堪能できる短編集です。特に、犯人当て入試というぶっとんだ設定を活かしての二転三転のロジックが楽しい「二〇二一年度入試という題の推理小説」が秀逸。また、ハードボイルドにオマージュを捧げながら謎解きを行う『危険な賭け』もミステリ愛に溢れた好編です。
入れ子細工の夜
阿津川 辰海
光文社
2022-05-24


14位.俺ではない炎上( 浅倉秋成 )→14位(このミス19位 文春9位 読みたい16位)
ストーリー自体は冤罪による逃亡がメインのサスペンスミステリーですが、SNSを巡る謎解きは本格としても読み応えがあります。また、著者の十八番である伏線回収の手管も冴え渡っており、二転三転の末に意外な真相が浮かび上がってくる一連の流れが見事です。スピード感溢れる傑作。
俺ではない炎上
浅倉秋成
双葉社
2022-05-19


15位.ダミー・プロット: 山沢晴雄セレクション (山沢晴雄 )→13位(このミス12位
本作のプロットは極めて錯綜しており、各所で見つかるバラバラ死体や複数のアリバイ工作など様々なガジェットを盛り込みながら全体として何が起きているかよく分からないという点に最大の特徴があります。しかし、そこにとらわれすぎるとすっかり騙されることになります。超絶技巧の傑作です。


16位.風琴密室(村崎友)※ランク外
密室から人が消え、その後、他殺死体となって発見される。本作では過去と現代で起きた同様の不可能犯罪がメインの謎となっていますが、トリック自体に目新しさはありません。その代わり、伏線の張り方が巧妙で、謎を解くことで見えていた風景が一変するという物語上の仕掛けに驚かされます。
風琴密室
村崎 友
KADOKAWA
2022-05-30


17位.その殺人、本格ミステリに仕立てます。(片岡翔)※ランク外
ミステリ作家一族のメイドが主人公を務めるドタバタコメディ。全体的にノリが軽く、トリックも小粒で、犯人の意外性なども特にありません。しかし、張り巡らせた伏線を回収しての推理はなかな見事ですし、動機についてもよく考えられています。本格への強いこだわりが感じられる一編です。


18位.逆転美人 (藤崎翔)※ランク外
絶世の美女に生まれた故に不幸続きの日々を送らなくてはならなくなった女性の手記が大半を占める作品なのですが、読み進めるほどに違和感が大きくなっていきます。そして炸裂する仕掛けが強烈です。すべてを覆すどんでん返しに愕然としますし、同時に、仕掛けの必然性にも感心させられます。
逆転美人 (双葉文庫 ふ 31-03)
藤崎 翔
双葉社
2022-10-13


19位.ルームメイトと謎解きを(楠谷佑 )※ランク外
全寮制の男子校で殺人事件が起き、凸凹コンビが事件解決に挑む青春ミステリー。前半はミステリ要素皆無の青春小説といった感じですが、事件発生後はロジカルな推理ものとして楽しむことが出来ます。特に、容疑者を8人に絞り込んでからの消去法推理が圧巻。フーダニット好きの人におすすめです。
ルームメイトと謎解きを
楠谷佑
ポプラ社
2022-04-13


20位.揺籃の都 平家物語推理抄(羽生飛鳥)→16読みたい17位)
源平合戦の時代を背景に清盛の異母弟である平頼盛が探偵役を務めるシリーズ第2弾。今回は呪われているとしか思えない怪事件が続発するのですが、それらの謎が魅力的です。不可能犯罪などのトリック自体は大したことないものの、この時代ならではの動機や歴史上の人物による推理対決なども秀逸。



その他注目作品50

21.此の世の果ての殺人(荒木あかね)→18位(このミス11位 文春5位 読みたい12位)
小惑星激突を数カ月後に控えた九州で殺人が起きるSFミステリーですが、特殊設定ミステリというわけではなく、特にトリックのようなものもありません。しかし、ミスディレクションを施し、連続殺人事件の構図を錯誤させる手管は見事。本格としては小粒なものの、読み応えのある良作です。
此の世の果ての殺人
荒木あかね
講談社
2022-08-23


22.神薙虚無最後の事件(紺野天龍)→9位(文春18
話は、名探偵が唯一解決できなかった最後の事件に大学生たちが挑むというもので、作中作の館ミステリの謎に対して推理合戦を繰り広げる展開にわくわくします。ただ、いろいろな仮説が楽しめるものの、真相自体は比較的見当がつきやすく、また、ラノベっぽさが鼻につく点も好みの分かれるところ。
神薙虚無最後の事件
紺野天龍
講談社
2022-05-31


23.卵の中の刺殺体――世界最小の密室(門前典之)
龍の卵を思わせるコンクリートの塊から発見された刺殺体を始めとして、連続殺人鬼・ドリルキラーによよる人間テーブル、別荘での連続密室殺人とわくわくする謎が次々と繰り出されます。相変わらずのバカミスですが、細部に工夫を施して説得力を高めており、完成度の高さはシリーズ随一。
卵の中の刺殺体
門前典之
南雲堂
2021-12-03


24.情無連盟の殺人(浅ノ宮遼)
閉鎖空間での連続殺人を描いた館ものですが、登場人物が全員奇病に侵されて感情が欠落しているという設定が秀逸。疑心暗鬼に陥ることで生じるサスペンス展開などはない代わりに、理詰めで物事が進む純度の高い本格に仕上がっています。また、感情の欠落を逆手にとった仕掛けも見事です。
情無連盟の殺人
眞庵
東京創元社
2022-07-29


25.仕掛島(東川篤哉 )→10
『館島』の続編であり、遺言状によって集められた一族、奇妙な館、嵐の孤島などといった古典的探偵小説の要素をこれでもかというくらい詰め込んだ作品です。前作同様大掛かりなトリックが用意されていますが、前作に比べると出来はいま一つ。代わりに、過去の事件の謎解きで楽しませてくれます。
仕掛島
東川 篤哉
東京創元社
2022-09-30


26.断罪のネバーモア(市川憂人)
パラレルワールドが舞台とはいえ、一見地味な警察小説で著者の過去作のような大掛かりなトリックなどはありません。しかし、解決したはずの各事件が最終章で反転し、別の意味を持ってくるプロットは見事です。ただ、各事件のシンプルさに対して最後の真相がやたら複雑なのは好みの分かれるところ。
断罪のネバーモア
市川 憂人
KADOKAWA
2022-02-02


27.秘境駅のクローズド・サークル(鵜林伸也)
コミカルな雰囲気を漂わせながらも本格的な謎解きを楽しめる短編集です。特に、謎解きがラストの感動へとつながる「宇宙倶楽部へようこそ」が秀逸。また、ドタバタ劇の末に意外な犯人が浮かび上がる「ベッドの下でタップダンス」や実在の駅での殺人事件を描いた表題作なども読み応えあり。


28.パラレル・フィクショナル(西澤保彦)
予知夢の内容を手掛かりに未来の惨劇を食い止めようとする特殊設定ミステリ。この夢から惨劇の原因を推理しようとするのが楽しく、謎だらけの状況から一つ一つ真実に近づいていくのは本格ミステリの醍醐味だといえます。また、ヒネリを加えた展開や設定を十分に活かした真相も見事です。
パラレル・フィクショナル
西澤保彦
祥伝社
2022-03-10



29.弔い月の下にて(倉野憲比古)
隠れキリシタンが大量死したいわくつきの島で顔のない死体が発見されるという展開はおどろおどろしくて現代版乱歩といった趣があります。全編が衒学趣味や異常心理といった描写で彩られており、その辺りはいかにも戦前の探偵小説です。ぶっとんだトリックをどう受け止めるかで評価がわかれそう。
弔い月の下にて
倉野憲比古
行舟文化
2022-01-06


30.密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック(鴨崎暖炉)→19 
雪の館で連続密室殺人が起きるというのはマニアにとって堪らない趣向です。ただ、密室の謎は提示される端から解かれていくため、謎が醸し出すロマンやサスペンスという要素は皆無。トリックも複雑で明快さに欠けます。しかし、一種のパズル小説と割り切れば、それなりに楽しい作品ではあります。


31.いけないII(道尾 秀介)→20位(文春20
シリーズ第2弾。さほど大きな仕掛けはないものの、小技を駆使して不気味な事件に不可解な謎を加味していく手管はさすがのうまさです。最終ページの画像による真相提示も前作よりも分かりやすくぞっとします。さらに、最終章で3つのエピソードの繫がり、残された謎が明らかになる構成も鮮やか
いけない II (文春e-book)
道尾 秀介
文藝春秋
2022-09-22


32.あらゆる薔薇のために(潮谷験)
深刻な記憶障害を起こし、回復後も後遺症として薔薇のような腫瘍ができるオスロ昏睡病。この架空の難病を用いた特殊ミステリという趣向は著者の十八番ですが、肝心のロジックが過去作に比べるとシンプルすぎて物足りません。その代わり、動機を巡る謎解きはホワイダニットものとして秀逸。
あらゆる薔薇のために
潮谷験
講談社
2022-09-28


33.コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎(笛吹太郎)→15
ミステリ好きが集まってゲストが提供する謎を推理し合う『黒後家蜘蛛の会』的な連作ミステリ。伏線がわかりやすくて初心者向けの傾向はあるものの、7つの話はどれもテンポが良くて気軽に楽しめる佳品です。特に、誰も亡くなっていないのに毎年喪中はがきが送られてくる『謎の喪中はがき』が秀逸


34.世界の望む静謐(倉知淳
死神めいた風貌の乙姫警部が完全犯罪を目論む犯人の前に立ち塞がる倒叙ミステリーシリーズ第2段。倒叙ミステリーの肝は犯人をいかにして追い詰めるかがですが、本作収録の4篇はいずれもそれがよくできています。しかも、それぞれ異なった方法で犯人を特定している点が秀逸です。
世界の望む静謐 〈乙姫警部〉シリーズ
倉知 淳
東京創元社
2022-10-11


35.かくして彼女は宴で語る 明治耽美派推理帖(宮内悠介)
『黒後家蜘蛛の会』のオマージュ作品ですが、時代背景を絡めたホワイダニットメインの謎解きはロジカルさに欠ける面もあるため好き嫌いが分かれるかもしれません。しかし、明治という時代や社会についての考察には興味深いものがあり、探偵役の給仕・あやのの正体にも驚かされます。


36.煉獄の時(笠井潔)→12位(このミス16位 文春14位 読みたい19位)
矢吹駆シリーズ第7弾の本作では哲学者サルトルをモデルとした人物が登場し、例によって矢吹駆と思想対決を繰り広げます。あの『哲学者の密室』をも超える分厚さで読み応えは満点です。一方、ミステリとしての仕掛けは極めてシンプルなのものであり、その点は物足りないかもしれません。
煉獄の時 (文春e-book)
笠井 潔
文藝春秋
2022-09-26


37.加賀美雅之未収録作品集(加賀美雅之)
不可能犯罪にこだわり、2013年に急逝した著者の中短編10篇を収録した作品集。なかには無理のあるトリックもあるものの、稚気に富んだ作風は好きな人にとっては堪らないものがあります。なかでも「暗号名『マトリョーシュカ』」や「鉄路に消えた断頭吏」などにおける豪快なトリックが魅力的。
加賀美雅之未収録作品集
加賀美 雅之
光文社
2022-09-22


38.431秒後の殺人: 京都辻占探偵六角 (床品美帆)
京都で法衣店を営む辻占の達人が探偵役の連作短編。犯行時刻にタクシーに乗っていたというアリバイに挑む表題作など、5編の収録作品はすべてハウダニットもの。トリック自体は小粒ながら、謎の魅せ方や解決のプロセスなどには光るものがあります。新人離れした落ち着きのある筆致も好印象。


39.六法推理(五十嵐律人)
大学を舞台に、法律に詳しい男子学生と推理力に優れた女子学生の2人を探偵役に配した連作ミステリ。2人が互いの仮説を補いながら次第に真相へと近づいていく構図がユニークです。シリアスな問題を扱い、結末もビターなものが多いなかで2人の掛け合いが楽しく、軽快な読み口なのが好印象。
六法推理 (角川文庫)
五十嵐 律人
KADOKAWA
2024-03-22


40.赫衣の闇 三津田信三
戦後の闇市を舞台にした物理波矢多シリーズ第3弾。赤の迷路と呼ばれるゴーストタウンに出没する怪人が絡んだ密室殺人を扱っているものの、トリック自体は大したことはありません。むしろ、その背景として描かれるこの時代ならではの動機がホワイダニットとして秀逸です。ただ、謎解きはやや淡白。
赫衣の闇 物理波矢多シリーズ (文春e-book)
三津田 信三
文藝春秋
2021-12-09


41.灰かぶりの夕海 (市川憂人)
死んだ恋人にそっくりな少女が現れたり、密室で殺された被害者が恩師の亡妻に瓜二つだったりと謎だらけの展開に引き込まれます。ミスリードを用いてのどんでん返しも見事です。ただ、勘の良い人なら描写の不自然さから大まかな真相に気付いてしまうかもしれません。一方、密室トリックは凡庸。
灰かぶりの夕海
市川憂人
中央公論新社
2022-08-22


42.馬鹿みたいな話!昭和36年のミステリ (辻真先)
本作の舞台は黎明期のテレビ局。著者自身の体験に基づいているだけあって、熱気に溢れていた当時の様子が克明に描かれており、非常に読み応えがあります。一方、ミステリとしては、ミステリランキングを独占した前作と比べるとかなり凡庸。トリックはありきたりで最後のヒネりも不発気味です。
馬鹿みたいな話!: 昭和36年のミステリ
辻 真先
東京創元社
2022-05-31


43.名探偵は誰だ(芦辺拓)
豪華客船の客たちのなかで殺される人間を特定したり、ホテルの客たちに命を狙われているなかで命を狙っていない人物を探したりする変則的なフーダニットミステリー短編集。意外性満点の真相は魅力的ではある一方で、1話が短いこともあってロジカルな要素に乏しく、読者が推理するのは困難。
名探偵は誰だ
芦辺 拓
光文社
2022-04-19


44.首切り島の一夜(歌野晶午)
離れ小島で行われた40年ぶりの同窓会で殺人が起きるという典型的なクローズドサークル展開ながら、物語は事件そっちのけで登場人物たちの過去話へと移行していきます。果たしてミステリとしててちゃんと着地するのだろうかと困惑していると思わぬ結末が。激しく人を選ぶ作品です。
首切り島の一夜
歌野晶午
講談社
2022-09-28


45.邪宗館の惨劇(阿泉来堂)
那々木悠志郎シリーズ第4弾。惨劇に遭遇するたびに過去に戻って同じことを繰り返すというSF展開をホラーミステリとして落とし込む仕掛けがユニークです。何気ない描写の中に伏線を潜ませる手管も見事であり、ラストのどんでん返しも含め、読み応えのあるエンタメ作品に仕上がっています。


46.オメガ城の惨劇 SAIKAWA Sohei’s Last Case (森博嗣)
『すべてがFになる』と同じ孤島でのクローズサークルものですが、今回は一挙に4人が殺されるという展開に独自性があります。真相も意表を突くものでなかなかにユニークです。ただ、リアリティという点で無理があるのが難点。ちなみに、エピローグにはファンに向けたどんでん返しも。



47.京都陰陽寮謎解き滅妖帖 (伊吹亜門)
ラノベのような学園退魔ファンタジーと本格ミステリを組み合わせた著者の新境地です。3篇収録の連作短編であり、それぞれに不可能犯罪などの魅力的な謎が用意されています。ただ、伊吹ミステリの魅力はやはりホワイダニット。特に、第2話の切断した首をわざわざ遠くに捨てた理由が秀逸です。


48.高島太一を殺したい五人 (石持浅海 )
高島太一を殺したい5人がたまたま顔を合わせ、不測の事態を打開するためにディスカッションを繰り広げるというぶっとんだ作品。犯人自体は比較的見当がつきやすいものの、ディスカッションの内容自体がシュールすぎて通常の推理合戦ものでは味わえないオンリーワンの魅力があります。
高島太一を殺したい五人
石持 浅海
光文社
2022-09-22


49.逆転のアリバイ 刑事花房京子(香納諒一)
女刑事の花房京子が完全犯罪を目論む犯人を追い詰めていく刑事コロンボ型倒叙ミステリの第2弾。タイトルにアリバイとありますが、倒叙ミステリなのでアリバイ工作のネタは最初から明らかにされています。その代わり、犯人を追い詰めるための意表を突いた証拠と鮮やかな逆トリックが見事です。
逆転のアリバイ 刑事花房京子
香納 諒一
光文社
2022-04-19


50.忌木のマジナイ 作家・那々木悠志郎、最初の事件 (阿泉来堂)
ホラー作家・那々木悠志郎シリーズ第3弾。今回は、那々木の未発表原稿を担当編集者が読んでいると現実でも怪異が起こりだすという展開です。過去作と比べて文章が格段にこなれており、ホラーとミステリーのバランスも絶妙といえる域に達しています。なにより、作中作を用いた仕掛けが見事です。


51.エンドロール(潮谷験 )
若者の自殺が流行するポストコロナの世界を舞台に描かれる自殺推進派変死事件の謎は興味深いものがあります。ただ、前作・前々作のような徹底したロジックへのこだわりは希薄であり、どちらかというと社会派ミステリ的なホワイダニットが焦点となっています。そのため、本格としては物足りなさも。
エンドロール (講談社文庫)
潮谷 験
講談社
2023-04-14


52.新しい世界で 座間味くんの推理(石持浅海)
『月の扉』から続いている座間味くんシリーズ。その新作である本作は全7話収録の短編集であり、座間味くんが酒の肴として不可解な話に耳を傾け、鮮やかに謎を解いていく安楽探偵ぶりは安定の面白さです。ただ、肝心の謎に地味なものが多く、仕掛けもマンネリ傾向にある点は物足りなく感じます。
新しい世界で 座間味くんの推理
石持 浅海
光文社
2021-12-21


53.遺産相続を放棄します(木元哉多)
倒叙ミステリの形をとりながらも犯人が意図しない工作を行う謎の人物の正体を探っていく変則的フーダニットミステリです。ブラックユーモアを基調とした人間ドラマは読み応え十分。本格ミステリとしてはさほど驚くべき仕掛けはありませんが、巧みな技巧を駆使したプロットはよくできています。
遺産相続を放棄します (角川文庫)
木元 哉多
KADOKAWA
2022-07-21


54.魔物が書いた理屈っぽいラヴレター(林泰広 )
毒に侵された瀕死の名探偵とともに古城へと逃げ込んだ一行が魔物に襲われるなか、探偵を救うために彼の相棒がトリックを駆使して魔物を出し抜こうとする話です。ミステリの仕掛けとしては新鮮味に欠けるものの、一風変わった探偵小説としての味わいがあり、それなりに楽しむことができます。


55.赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。(青柳碧人)
童話シリーズ第1弾である『むかしむかしあるところに、死体がありました。』ほどの切れ味はないものの、童話内の設定を巧みに利用したトリックやロジックは安定の面白さです。なかでも、『なかよし子豚の三つの密室』は密室トリックを解明しながらの犯人探しがユニークで読み応えがあります。


56.変な絵(雨穴)
シリーズ第2弾。9枚の絵に基づく推理によってバラバラに思えた事件が一つの物語に収斂していく構成には一定の面白さがあります。ただ、1枚の間取り図から意表を突く推理が次々と飛び出すYoutube版『変な家』に比べると解釈が恣意的でやや散漫な印象もします。また、山の絵の解釈は少々無理が...。
変な絵
雨穴
双葉社
2022-10-20


57.看守の信念(城山真一)
刑務官火石シリーズ第2弾。敏腕刑務官を探偵役に据えたシリーズですが、前作同様、刑務所内の人間模様と謎の面白さの絶妙なバランスでぐいぐいと読ませます。そして何より、張り巡らせた伏線を回収しての最後のどんでん返しに驚かされます。出来れば前作から順番に読んでほしいところです。
58.教え子殺し:倉西美波最後の事件谷原秋桜子/愛川晶 
美波シリーズ12年ぶりの新作であり、完結編。本作は高校教師になった美波とその教え子の2つの視点で語られ、合間に謎のメールが挿入される形になっているのですが、そこに込められた仕掛けがなかなかに強烈です。また、シリーズのファンにとってはフィナーレを飾るサービスもうれしいところ。
教え子殺し:倉西美波最後の事件
愛川 晶
原書房
2021-11-25


59.スクイッド荘の殺人(東川 篤哉)
烏賊川市シリーズ第9弾にして、13年ぶりの長編作品。雪に閉ざされたホテルでの殺人に過去のバラバラ殺人事件が絡む展開は悪くないものの、特に過去の事件に関してはトリックに無理があるのが気になるところ。一方、現在の事件の謎解きは悪くありませんし、ユーモアミステリーとしても秀逸。
スクイッド荘の殺人
東川 篤哉
光文社
2022-04-19


60.メイド喫茶探偵黒苺フガシの事件簿(柴田 勝家)
メイド喫茶を舞台にメイド探偵が活躍する連作ミステリです。全4篇のなかでは断トツで第1話の「すていほぉ~む殺人事件」がよくできています。密室トリック自体は凡庸ではあるものの、なぜ密室にしたのかというホワイダニットが秀逸。ただ、1話がピークで以後尻すぼみになっていくのが少々残念


61.学園の魔王様と村人Aの事件簿(織守きょうや)
男子高校性2人が探偵&探偵助手として活躍する全4話の連作ミステリです。ただ、たわいもない謎が多くてマニアにとってはいささか物足りないかもしれません。その代わり、最終話だけはいろいろヒネリが効いています。なかでも、内容にそぐわない本タイトルの謎を解き明かす趣向がユニーク。


62.彼女は二度、殺される(秋尾秋)
殺された娘を能力者の力を借りてゾンビとして蘇らせようとしたところ、何者かによってゾンビ化すら不可能なほど破壊されていたという特殊設定ミステリ。バディものとして魅力的で、ミステリとしては終盤伏線を一気に回収していく手管が見事。ただ、伏線自体が素直すぎて真相は分かりやすいかも。


63.うまたん ウマ探偵ルイスの大穴推理(東川篤哉)
馬が探偵役を務める連作短編です。5編の収録作品の中ではバカミスっぽい仕掛けながら終盤での反転が見事な「馬の耳に殺人」や金目のものには目もくれずに馬の置物を盗んだ泥棒の意外な動機が浮かび上がってくる「大山鳴動して跳ね馬一匹」が秀逸。ただ、他の3篇は本格としてやや小粒です。
うまたん ウマ探偵ルイスの大穴推理
東川 篤哉
PHP研究所
2022-06-09


64.仮面の復讐者――浜中刑事の逆転 (小島正樹)
浜中刑事シリーズ第5弾ですが、今回は途中から倒叙形式に移行するため、フーダニットの要素はほぼ皆無です。そのため、謎解きとしては、監視カメラに映ることなくいかにして殺人を成し遂げたのかなどといった3つ不可能犯罪が興味の中心になります。ただ、トリックに少々無理があるのが残念。


65.陽だまりに至る病(天祢涼)
生活安全課の仲田刑事と捜査一課の真壁警部補が活躍する本シリーズは子供を巡る社会派テーマと謎解きの融合が魅力なのですが、第3弾である本作は本格ミステリの部分がいま一つです。仕掛け自体は色々と用意されているものの、これといった目玉がなく、大きな驚きに繋がっていない点が残念。
陽だまりに至る病 (文春e-book)
天祢 涼
文藝春秋
2022-02-21


66.聖女ヴィクトリアの逡巡 アウレスタ神殿物語 (春間タツキ)
皇帝が衆人環視の前で自害するという不可解な事件の謎に聖女ヴィクトリアが挑むシリーズ第2弾。例が見えるという能力を活かして真相に迫っていく特殊設定ミステリです。謎が謎を呼ぶ展開に引き込まれますし、複雑な謎をシンプルなロジックで解き明かす明快さも好印象。なかなかの佳品です。


67.赤虫村の怪談(大島清昭)
怪談作家・呻木叫子第2弾は土着ホラーにクトゥルー神話を融合させて本格ミステリで調理した異色作です。扱われている事件も密室状態の倉の中から発見される焼死体などケレン味たっぷり。ただし、ミステリーとしての仕掛けやトリックはありがちで今一つです。全体の完成度は前作の方が上。
赤虫村の怪談
大島 清昭
東京創元社
2022-08-31


68.ビブリア古書堂の事件手帖III ~扉子と虚ろな夢~(三上 延)
旧シリーズから数えて10作目。今回は亡くなった父親の蔵書の相続を巡っての謎が軸となっており、そこに夢野久作 の『ドグラ・マグラ』や樋口一葉の『通俗書簡文』などが絡む展開になっています。本に関する蘊蓄は相変わらず楽しいものの、相続を巡るホワイダニットは少々説得力に欠ける印象も。
69.珈琲店タレーランの事件簿 7 悲しみの底に角砂糖を沈めて(岡崎琢磨)
シリーズ第7弾の本作は切間美星が安楽椅子探偵を務める短編集であり、本格ミステリに徹した作りになっています。新興旅行の土産にまつわれる怪異や全く動機が不明な不可解な不正抽選など謎も魅力的。ただ、そこから導き出される真相が妙に回りくどいものが多い点は好みの分かれるところ。


70.珈琲店タレーランの事件簿 8 願いを叶えるマキアート( 岡崎琢磨)  
コーヒーの飲み比べイベントの妨害工作に対する犯人捜しとその動機が焦点となっている作品ですが、その辺りの謎解きはさほど魅力的なものではありません。その代わり、恋人となった美星とアオヤマの関係の危機には結構ハラハラしますし、むしろそこに施した仕掛けの方に驚かされます。


2022年12月7日追記
予想結果
ベスト5→5作品中4作的中
ベスト10→10作品中6作的中
ベスト20→20作品中13作的中
順位完全一致→20作品中0作品

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