最新更新日2022/02/17☆☆☆

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SFが読みたい!2022
対象作品である2020年11月1日~2021年10月31日発売の海外SF&ファンタジー作品の中からベスト20の順位を予想していきます。ただし、あくまでも個人的予想であり、順位を保証するものではありません。また、予想は作家の知名度や人気、ジャンルや作風、話題性などを考慮したうえで票が集まりそうな作品の順に並べたものであり、必ずしも予想順位が高い作品ほど優れているというわけでもありません。以上の点はあらかじめご了承ください。
※紹介作品の各画像をクリックするとAmazon商品ページにリンクします
SFが読みたい!2022年版
早川書房
2022-02-10



SFがよみたい!海外版 最終予想(2022年1月22日)

1位.三体Ⅲ 死神永生(劉慈欣)→1位(実際の順位)※20位まで記載
羅輯の奇手により、三体文明と人類との間に不戦条約が結ばれる。ようやく訪れた平和な世界の下で人類と三体文明は共存の道を歩んでいくものと思われていた。だが、微妙なバランスで保たれていた平和は突如瓦解する。三体文明の計略によって人類はオーストラリアに強制移住させられたのだ...。
シリーズ完結編。前巻で大団円かと思われた物語はさらにスケールアップを遂げ、読者の想像力の限界に挑んできます。難解さは増した一方で、ハードSFとしての読み応えはシリーズ中随一です。テンポも良く、一気に時空の彼方へと飛ばされていくような疾走感がたまりません。SF史に残る大傑作です。
三体Ⅲ 死神永生 上
劉 慈欣
早川書房
2021-05-25


2位.ネットワーク・エフェクト: マーダーボット・ダイアリー (マーサ・ウェルズ )→13位
人型警備ユニットの弊機は新たな任務のために調査隊の宇宙船に乗り込んでいた。しかし、その宇宙船は航行用のワームホールを抜け出たところで何者かのミサイル攻撃を受ける。しかも、敵船はドッキングして移乗攻撃を仕掛けようとしていた。果たして弊機は乗組員たちを守り切ることが出来るのか?
前作に続いて本作も海外SF賞を総なめにした傑作です。その魅力はなんといっても、高性能かつ有能でありながら内面ではぼやきまくっている弊機の語り口にあります。それに加えて、激しいアクションや未知の星系の謎といったSF的な面白さも満載です。極めて優れたエンタメ作品だといえるでしょう。


3位.わたしたちが光の速さで進めないなら(キム・チョヨプ)→4位
始まりの地へ巡礼の旅に行くと帰らないことを選択する者が出る『巡礼者たちはなぜ帰らない』、寿命が数年しかない異星人の不思議な生態が地球人の目を通して語られる『スペクトラム』、故郷に帰るためにもう出ることのない宇宙船を宇宙停留所で待ち続けている老女を描いた表題作など、全7編収録。
ワームホール、コールドスリープ、マインドアップロードなどといったSF的な設定を詰め込みながらも、それを平易な文章で綴り、誰でも理解できる普遍的な物語に仕上げています。派手な展開こそありませんが、科学的好奇心と物語に対する感受性を同時に満たしてくれる希有な作品集です。
わたしたちが光の速さで進めないなら
キム チョヨプ
早川書房
2020-12-03


4位.火星へ (メアリ・ロビネット・コワル)※ランク外
1952年の巨大隕石衝突によって環境が悪化しつつある地球。人類は新天地を求めて月に拠点を築き、次なる目標を火星入植に定めていた。1961年。女性宇宙飛行士エルマは航法計算士として初の火星有人探査のクルーに選ばれるが、宇宙開発よりも地球自体の問題改善に力を入れるべきとの声も多く......。
SF賞総なめの『宇宙へ』の続編。本シリーズは現実より数倍の速度で宇宙開発が進むIFの世界を描いており、歴史改変SFとしての面白さがあります。同時に、SFの形を借りて社会のあり方を問う優れた社会小説でもあるのですが、前作とは主人公の立場が反転しているのが興味深く色々考えさせられます。
火星へ 上 (ハヤカワ文庫SF)
メアリ ロビネット コワル
早川書房
2021-07-14


5位.宇宙の春(ケン・リュウ)→5位
ビッグバンから収縮までの宇宙の一生を四季に例えて描く表題作、愛国心を疑われて捕虜との交換で日本に送られた日系二世のアメリカ人女性がオカルト研究を行っている98部隊に配属される『マクスウェルの悪魔』、歴史の真実とは何かを問う『歴史を終わらせた男ードキュメンタリー』など全10編収録。
短編SFの名手であるケン・リュウの日本オリジナル編集の作品集第4弾で、あいかわらず質の高い作品がずらりと並んでいます。特に、731部隊を題材にして、タイムマシーンを用いても収まることのない歴史論争の根深さを描いた『歴史を終わらせた男ードキュメンタリー』は読み応えのある傑作です。
宇宙の春 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
ケン リュウ
早川書房
2021-03-17


6位.サハリン島(エドゥアルド・ヴェルキン)→15位
全面核戦争と人々をゾンビ化させる恐るべき伝染病により、鎖国政策を敷いた日本以外の国は滅亡の淵に追い込まれていた。そんななか、ロシア人の血を引く未来学者・シレーニは調査のために大陸との緩衝地帯であるサハリン島へと渡る。ゾンビと犯罪者がはびこる地で彼女が見たものとは.........。
核戦争後に日本領となったサハリン島を舞台に、ヒロインの地獄巡りを描いたデストピア小説。緻密な設定に基づく狂った世界観が強烈で、読みやすい訳文も相俟ってぐいぐいと引き込まれていきます。残酷さとユーモアが入り混じったイマジネーションの奔流が忘れ難い読後感を与えてくれる傑作です。
サハリン島
エドゥアルド・ヴェルキン
河出書房新社
2020-12-22


7位.こうしてあなたたちは時間戦争に負ける(アマル・エル=モフタール /マックス・グラッドストーン)→3位
あらゆる時空の覇権をめぐって戦いを繰り広げている〈エー ジェンシー〉と〈ガーデン〉。それぞれの工作員であるレッドとブルーは幾多の時間線で邂逅し、次第にお互いを好敵手として意識するようになっていく。いつしか2人は密かに手紙を交換し合う関係となり、さまざまな話をしていくが....。
ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、英国SF協会賞を受賞。宇宙大戦ものですが、物語のほとんどを女性2人の手紙のやり取りで構成している点が異彩を放っています。情感たっぷりの手紙に多様なSF的アイディアを盛り込み、避けられない運命のクライマックスへと流れ込んでいく展開が秀逸です。


8位.クララとお日さま(カズオ・イシグロ)→18位
子どもの愛玩用アンドロイドとして開発された人工フレンドのクララ。人格を有している彼女は毎日店の窓から外を観察していたが、ある日、14歳の少女、ジョージの家庭に買われていった。ジョージとクララは互いに信頼し合って仲を深めていくも、やがてクララは一家の大きな秘密を知ることになり.....。
日系イギリス人である著者のノーベル文学賞受賞後第一作。物語はクララの視点から描かれており、世界に対する認識の未熟さを表現するために文体は児童書っぽくなっています。そのなかでアンドロイドから見た人間の本質が浮かび上がってくる構成が見事です。また、近未来SFとしてのギミックも満載。
クララとお日さま (ハヤカワepi文庫)
カズオ イシグロ
早川書房
2023-07-19


9位.ビンティ─調和師の旅立ち─ (ンネディ・オコラフォー)※ランク外
遥か未来。アフリカのビンバ族の少女・ビンティは銀河系随一の名門であるウウムザ大学に合格し、生体宇宙船に乗って旅立つ。だが、その途中でウウムザ大学と敵対している異星種族メデュースの襲撃を受ける。彼女は自分は調和師師範だと名乗り、命の保証を条件に大学との交渉役を引き受けるが.....。
ヒューゴー賞&ネビュラ賞受賞。アフリカ少数部族の伝統や風習をSFに絡めた点が興味を掻き立てられます。また、主人公が調和師師範の能力使って様々な対立構造を粘り強く解決していく姿には小気味よさを感じます。特殊な用語に慣れるまでが大変ですが、それを乗り越えて読む価値のある傑作です。


10位.この地獄の片隅に(編:J・J・アダムス編作:ジャック・キャンベル他)→19位
空調の調整から娯楽の提供まで至れり尽くせりのパワードスーツに搭載された恐るべき機能を描いた表題作、深海作業用のパワードスーツが極秘情報を拾ったことで謎の勢力との戦闘に発展していく『深海採集船コッペリア号』、19世紀の蒸気アーマーが登場する『ケリー盗賊団の最期』など、全12編収録。
パワードスーツをテーマにしたアンソロジーです。23編が収録されていた2013年刊行の原書を12編に絞り込んだものですが、それでもボリュームはかなりのもので色々なタイプのパワードスーツを堪能できます。パワードスーツの起動描写はどれもかっこ良く、バラエティに富んだ世界観も魅力的です。


11位.時の子供たち (エイドリアン・チャイコフスキー )→2位
地球の終焉を察知した人類は他の惑星のテラフォーミング計画を進める。ドクター・カーンが担当する惑星では、猿たちが地球の文明を引き継ぐ手筈になっていたが、人類至上主義者の妨害によって失敗に終わってしまう。しかし、絶滅した猿に代わって蜘蛛たちがナノウイルスによる進化を始め...。
2016年度アーサー・C・クラーク賞受賞。小難しい作品の多い昨今のSFに対し、ストレートに楽しめるエンタメSFに仕上がっています。本作は人類パートと蜘蛛パートに分かれていますが、特に面白いのは後者であり、人類とは異なる独自の文化や技術はセンスオブワンダーにあふれてワクワクします。
時の子供たち 上 (竹書房文庫)
エイドリアン・チャイコフスキー
竹書房
2021-08-02


12位.マザーコード(キャロル・スタイヴァース)※ランク外
2049年。アフガニスタンのゲリラ鎮圧のために使用されたバイオ兵器は想定外の事態によって暴走し、パンデミックを引き起こす。人類滅亡を前にして科学者たちは遺伝子操作によってバイオ兵器に免疫を持つ子供たちを作りだし、すべてをマザーと呼ばれるAIロボットに託した。そして、12年が過ぎ......。
パンデミックに立ち向かう人々の奮闘と人類滅亡後の新人類の世界を並行して描いていく終末SF。ただ、パニック映画のような派手な展開はなく、いかに人類を存続させるかというプロジェクトが中心になっています。地味ではあるものの、プロジェクトの内容は知的好奇心が刺激されてワクワクします。
マザーコード (ハヤカワ文庫SF)
キャロル スタイヴァース
早川書房
2021-04-14


13位.時間の王(宝樹)→8位
事故の影響で過去の自分に意識を移動できるようになった男が幼少期に親しかった白血病の少女を助けようと奮闘する表題作、タイムトラベルが実用化された世界で"曹操が食べたラーメン"というどう考えてもインチキな宣伝文句を歴史的事実にしてしまおうとする『三国献麺記』など、全7篇を収録。
時間をテーマにした作品集ですが、ユーモラスで軽めの作品が多いので中国SF入門編として最適です。なかでも、甘酸っぱいテイストを満喫できる表題作や散りばめられた歴史ネタが楽しい『三国献麺記』、不老不死になった男と時間を逆行している女のラブロマンスを描いた『成都往事』などが秀逸。
時間の王
宝樹
早川書房
2021-09-16


14位.最終人類(ザック・ジョーダン)※ランク外
多様な種族がひしめくネットワーク宇宙。人類は忌むべき存在とされ、滅ぼされる。だが、一人の少女だけが生き残り、ウィドウ類のシェンヤに拾われていた。彼女は身の安全のために別の種族になりすましていたが、あるとき正体を暴かれてしまう。逃げ出した少女は自らの出自の謎を探る旅に出る....。
広大な宇宙を冒険するスペースオペラですが、個性豊かな知性体の描写にSF心をくすぐられ、ワクワクします。また、知性体にも階層があり、レベルの異なる種の間でのやり取りが一筋縄ではいかない点がユニークです。物語も荒削りではあるものの、後半にいくほどスケールアップし、読みごたえは十分。
最終人類 上 (ハヤカワ文庫SF)
ザック ジョーダン
早川書房
2021-03-17


15位.帝国という名の記憶 (アーカディ・マーティーン)※ランク外
遥か未来。辺境の地に住むマヒートは銀河を支配するテイクスカラアン帝国に大使として派遣され、そこで前任の大使がアナフィラキシーによって窒息死した事実を聞かされる。真相究明のために宮邸の奥深くにまで踏みこんでいった彼女は、やがて皇位継承権を巡る闘争に巻き込まれいくが......。
2020年度ヒューゴ賞受賞。デビュー作でありながらその描写力は卓越しており、帝国の文化やテクノロジーを豪華絢爛に描き上げています。一方、複雑な人間関係を紐解きつつ、陰謀劇のドラマを盛り上げていく手管も申し分ありません。驚くようなギミックこそないものの、じっくり読ませる傑作です。
帝国という名の記憶 上 (ハヤカワ文庫SF)
アーカディ マーティーン
早川書房
2021-08-18


16位.6600万年の革命(ピーター・ワッツ)※ランク外
銀河系にワームホール網を構築するべく、亜光速恒星間宇宙船エリオフェラ号が3万人の乗組員を乗せて地球を旅立ってから6500万年の歳月が過ぎていた。そして今、数千年に1度しか目覚めない乗組員たちと、宇宙船の全機能を制御するAIとの100万年に及ぶ攻防が始まる......。
短編集『巨星』の一編で直径2億kmの巨大知性体との邂逅を描いた『島』の前日譚です。専門用語が多すぎて難解だと思うかもしれませんが、これでもワッツの作品としてはわかりやすい方です。そこを乗り越えれば、著者お得意の「人ならざる知性体」の描写をたっぷり満喫することができるでしょう。
6600万年の革命 (創元SF文庫)
ピーター・ワッツ
東京創元社
2021-01-09


17位.新しい時代への歌 (サラ・ピンスカー)→11位
テロと伝染病の蔓延化に伴い、観客を入れてのライブは参集規制法によって禁じられているようになっていた。そんな中、アバターで顧客に対応する仕事に従事していたローズマリーは仮想空間でのライブに触れたことで音楽の新たな魅力を知り、ミュージシャンを発掘するスカウトに転職するが......。
2020年度ネビュラ賞受賞作。人々の直接的接触が禁じられ、それによって犯罪率の減少や貧富の差の是正といった具合により良い世界になっている側面を描きつつも、それだけでは満たされず、ライブの熱狂を追い求める人々の姿が感動的。自分らしい生き方へのこだりをSFに託して描いた傑作です。
新しい時代への歌 (竹書房文庫 ぴ 2-1)
サラ・ピンスカー
竹書房
2021-09-15


18位.人之彼岸(郝景芳)→20位
AIによって自分の分身を作りだせる世界を描いた『あなたはどこに』、どんな重症患者でも入院すれば全快になるという病院の謎を追う『不死病院』、AI開発者に対する傷害事件が契機となってAIが人間に反逆する可能性についての論争が巻き起こる『愛の問題』など、全6編収録。
中国SFを代表する作家の一人であり、日本でも『折りたたみ北京』で注目されるようになった郝景芳によるAIをテーマにしたエッセイ&短篇集です。ただ、本作に関してはどこかで見たような話やオチが多いのが少々残念。とはいえ、『乾坤と亜刀』は本作のテーマ性を総括するトリの作品として見事です。
19位.中国史SF短篇集-移動迷宮(編:大恵和実/作:馬伯庸、韓松、夏笳・他)→10位
孔子が天を支えるとされる泰山を目指す『孔子、泰山に登る』、諸葛亮孔明がコーヒーの栽培を成功させたことによってコーヒーが中国史に深くかかわるようになるというifの世界を描いた『南方に嘉蘇あり』、幽霊で溢れかえった洛陽を骸骨の巨人が引っ張る『陥落の前に』など、全7編収録。
ここ数年は中国SFのアンソロジーが次々と発売されていますが、本作は中国史をテーマにしたものばかりを集めているのが目を惹きます。孔子や諸葛亮孔明といった日本でもお馴染みの偉人が意外な活躍をしたり、有名な史実が思わぬ奇談へとながっていたりするので興味深く読むことができます。
20位.時の他に敵なし(マイクル・ビショップ )→6位
ジョシュアは幼少のころより、しばしば太古の夢を見ていた。しかし、夢と呼ぶにはそれはあまりにもリアルだった。成長したジョシュアが古人類学者のブレアに相談したところ、実際に時間旅行をしている事実が明らかになる。そして、彼は国家タイムトラベルプロジェクトに参加することになるが...。
タイムトラベルがテーマですが、歴史改変ものではなく、更新世前期を舞台に主人公と旧人類であるホモ・ハビリスとの原始生活がひたすら描かれていきます。波乱万丈な展開こそないものの、文化人類学的な知見に富み、知的好奇心が刺激される一冊です。さりげなく散りばめられたユーモアも好印象。
時の他に敵なし (竹書房文庫 び 3-1)
マイクル・ビショップ
竹書房
2021-05-31



その他注目作25

21.黒魚都市(サム・J・ミラー)
異常気象によって都市は次々と水没し、国家の秩序は崩壊していった。故郷を失った難民たちは北極圏に建てられた洋上巨大都市・クアヌークへと逃げ込む。だが、その地には性交した相手の記憶が流れ込み、死に至るという奇病が蔓延していた。そこにシャチと北極熊を引き連れた謎の女性が訪れるが.....。
巨大海上都市を舞台にした近未来SFです。水没した世界、AI都市、死に至る謎の病、動物と意思の疎通を可能にするナノマシンといった具合にさまざまなギミックを散りばめ、SFマインド溢れる作品に仕上がっています。また、立場の違う5人の語り手を用意して物語に奥行きを与えている点も秀逸です。


22.不死身の戦艦 銀河連邦SF傑作選(編:J・J・アダムズ /作:アレステア・レナルズ他)
銀河連邦がそろそろ身を固めようと、他の銀河から結婚相手を探す『星間集団意識体の婚活』、中央諸世界に所属するサイボーグ宇宙船だったヘルヴァが銀河を翔けめぐる『還る船』、星間連合の星々を旅し、そこで目にしたさまざまな文明を手紙に綴った『ジョーダンへの手紙』など、全16篇収録。
J・J・アダムズ 編纂のアンソロジー第3弾。今回のテーマは銀河帝国ですが、既存のイメージにとらわれることなく、バラエティーに富んだ作品が集められています。なかでも、『星間集団意識体の婚活』は銀河連邦が婚活するという抱腹絶倒の一編です。その他にもクオリティの高い作品が盛りだくさん。
不死身の戦艦 銀河連邦SF傑作選 (創元SF文庫)
キャサリン・M・ヴァレンテ
東京創元社
2021-07-21


23.蛇の言葉を話した男(アンドルス・キヴィラフク)
かつて森で暮らす民は蛇の言葉を用いて動物たちと意思の疎通を行っていた。そして、1万人の人々が集まれば、空飛ぶ大蛇サラマンドルを呼び寄せることも出来たという。だが、今ではその言葉を使える者は10人に満たない。少年はその一人である叔父に蛇の言葉を教わりながら成長していくが......。
本作は古い森の伝統と森の外にある村のキリスト教的価値観との対立をファンタジーの形を借りて描いた作品ですが、登場する人物や動物がぶっ飛んでいるため、エンタメとしても抜群に面白い作品仕上がっています。両方の実情を知っているために森と村のいずれにも与することのできない少年が印象的。
蛇の言葉を話した男
アンドルス・キヴィラフク
河出書房新社
2021-06-26


24.だれも死なない日(ジョゼ・サラマーゴ)
ある日を境にその国の人間は誰も死ななくなった。国民は最初歓喜に沸き立つが、すぐに絶望へと変わる。不死になっても怪我や病気が治るわけではなく、老化現象も以前と同じように継続されていたからだ。死だけがなくなったことで国内は混乱に陥り、死を求める人々は国外への脱出を試みるが.......。
1998年にポルトガルで初めてノーベル文学賞を受賞した著者の2005年の作品です。人類の悲願である不老不死のうち、不死だけが実現したらどうなるのかという緻密なシュミレーションと死に対する鋭い考察は非常に読み応えがあります。また、中盤以降の急展開と意外な結末にも驚かされる傑作です。
だれも死なない日
ジョゼ・サラマーゴ
河出書房新社
2021-09-23


25.複眼人(呉明益)
大学教師のアリスは山で夫と子を失い、自殺を考えながら海岸沿いで日々を過ごしていた。一方、神話的世界のワヨワヨ島に住む少年・アトレは次男として生まれた者の掟に従い、生誕より180回目の満月の夜に終わりなき海の旅へと出る。死への旅路だったが、やがて彼はゴミで出来た漂流島に漂着し.....。
現実とは微妙に異なる世界が多くの登場人物の視点から語られ、やがて一つの物語へと集約されていく群像劇です。各エピソードは最初単なる断片にすぎないのですが、それがイメージの奔流と共に一つとなり、やがて世界の全体像が明らかになってゆくさまに圧倒されます。終末的幻想小説の傑作です。
複眼人 (角川書店単行本)
小栗山 智
KADOKAWA
2021-04-05


26.蜂の物語 (ラリーン・ポール )
女王を頂点とし、労働を称える教理に従って多くの働きバチが過酷な労役に従事する蜂社会。フローラ七一七はそんな蜂社会の最下層として生まれれるが、高い知性を有していたために次第に重要な役割を任されるようになる。そして、巣の存続の危機が迫ったとき.、彼女は神聖なる母性を手にする...。
本作は知性を持つ蜂を主人公に据え、蜂社会をリアルに描いた擬人化小説です。その結果、ディストピア小説の味わいが出ているのがいかにもユニーク。作中で描かれる蜂社会はなんとも神話的ですし、スズメバチとの死闘も読み応えがあります。唯一無二の読書体験をもたらしてくれる異色作です。
蜂の物語
ラリーン・ポール
早川書房
2021-06-16


27.猫の街から世界を夢見る(キジ・ジョンスン)
猫の街ウルタールで大不祥事が起きる。女子カレッジに通うクラリーが"覚醒する世界"からやってきた男と駆け落ちしてしまったのだ。彼女の祖父である神が目覚め、その事実を知れば街は灰燼に帰すだろう。かつて旅人だった女性教授のヴェリトはクラリーを連れ戻すべく旅に出るが......。
世界幻想文学大賞中編部門受賞作。ストーリー的な起伏には欠けるものの、登場する猫が愛らしく、不思議な世界を旅する紀行ものとしても楽しく読むことができます。クトゥルー神話を下地にした世界観にもワクワクします。ただ、展開がゆったりしすぎている感があるのは好みの分かれるところです。
猫の街から世界を夢見る (創元SF文庫)
キジ・ジョンスン
東京創元社
2021-06-30


28.レイヴンの奸計(ユーン・ハ・リー )
数学と暦が物理法則を凌駕する暦法によって星間帝国を支配する六連合。だが、隣国ハフンによる侵攻が始まり、大艦隊を迎撃に向かわせるも突如現れた反逆者ジェダオに艦隊を乗っ取られてしまう。しかも、ジェダオは六連合ではなく、ハフンと戦うことを宣言するのだった。はたしてジェダオの思惑は?
『ナインフォックスの覚醒』の続編。ジャンル的にはスペースオペラですが、オリジナリティに富んだ技術体系や社会文化を背景とした難解さはハードSF的でもあります。難解さ故の読みにくさはあるものの、スペースオペラを現代風にバージョンアップし、スタイリッシュな物語に仕上げたのは見事です。
レイヴンの奸計 (創元SF文庫 リ 2-2)
ユーン・ハ・リー
東京創元社
2021-08-12


29.死人街道(ジョー・R・ランズデール)
19世紀の半ば。無頼の牧師、ジュビダイア・メーサーは腰に銃を下げて荒野を旅していた。銃は邪悪なるものを討ち滅ぼすためのものだ。そして、彼は街に溢れる死人の群れや魔道書によって召喚された怪物などといった闇の存在と対峙し、神に対して呪詛の言葉を吐きながら戦いに身をと投じていく...。
全5編の連作短編。低俗趣味満載のB級ホラーで、神を呪いながら戦い続ける牧師がクールです。クトゥルフ神話に派手な西部劇アクションをプラスした作風も痛快で、極上の娯楽作に仕上がっています。
死人街道
ジョー・R・ランズデール
新紀元社
2021-06-01


30.中国・アメリカ謎SF(編:柴田元幸、小島敬太/作:ヴァンダナ・シン、梁清散・他
「絶対ケースを開けるな」と書かれた試作パソコンの動作チェックをしている内にそのパソコンと打ち解けていく『マーおばさん』、食べごろの豚バラ肉が蠢く灼熱の惑星に不時着した宇宙飛行士がなんとか焼肉を食べようと悪戦苦闘する『焼肉プラネット』など、米中のSFを6編収録。
2人の編集者が日本ではあまり知られていない作家の作品をそれぞれ米中から持ち寄り、1冊の本にまとめたアンソロジー。共通したテーマはないものの、中米中米と交互に読んでいくと中国とアメリカのSF観の違いが鮮明に浮かび上がってくるのがユニークです。ちなみにアメリカ側の作家はすべて女性。
中国・アメリカ 謎SF
白水社
2021-01-30


31.断絶ーエクス・リブリスー(リン・マー)
2011年。中国で発生した未知の伝染病・シェン熱はたちまち世界中に広がっていく。この病気は感染すると機械的に生活習慣を繰り返すゾンビと化し、やがて死に至るのだ。幼い頃に中国からアメリカに移住したキャンディスは一人ニューヨークに残り、ゾンビに囲まれながら日常生活を続けるが.......。
中国系米国作家による2018年発表のパンデミック小説。ただ、その中身は主人公が自身の半生を振り返る私小説的な内容になっており、パニック小説のようなものを期待すると肩すかしを覚えるかもしれません。その代わり、抑制された筆致で綴られる寂寥感溢れる描写は終末ものとして読み応えありです。
断絶 (エクス・リブリス)
リン・マー
白水社
2021-03-25


32.旱魃世界(J・G・バラード)→14位
世界的な旱魃により、今や文明社会は崩壊しようとしていた。分子膜が海面を覆い、水の循環が完全にストップしてしまったのだ。海面が後退し、地表は塩と砂で覆われていく。そんななか、破滅までの時間を怠惰に過ごしていた医師のランサムは建築家ローマックスの不穏なたくらみに巻き込まれ..。
破滅三部作の第2弾として1964年に米国で発売された『燃える世界』には英国バージョンが存在します。それを半世紀後に初邦訳したのが本作です。しかも、全面的な改稿がなされているために著者ならではの退廃の美が全面に押し出され、『燃える世界』とは全くテイストの異なる物語になっています。
旱魃世界 (創元SF文庫)
J・G・バラード
東京創元社
2021-03-19


33.幻夢の英雄 (ブライアン・ラムレイ)
地球と異世界を行き来するデイヴィッド・ヒーローと放浪者のエルディンはひょんなことからコンビを組むことになり、魔法の杖を盗んできてほしいという依頼を受ける。その杖は、巨岩の城塞で冥き神・イブ=ツトゥルを奉じる神官スィニスター・ウッドが持っているという。だが、それは狡猾な罠で......。
クラシカルなヒロイックファンタジーとクトゥルフ神話を融合させた幻夢境シリーズの一編です。クトゥルフ神話といえば強大な旧支配者を前にして登場人物たちがひたすら翻弄され続けるのが定番のところを互角に渡り合っている点が異彩を放っています。トラックで異世界転生するという設定も楽しい。
幻夢の英雄 (青心社文庫)
ブライアン ラムレイ
青心社
2021-05-28


34.キャクストン私設図書館 (ジョン・コナリー)
1968年秋。本をこよなく愛するバージャーは、列車に飛び込んでも蘇る不思議な女性と出くわす。女は古い倉庫の私設図書館入っていくが、そこではハムレット、ホームズ、ドラキュラといった創作上の有名人が命を与えられて生活していのだ。それを知ったバージャーはある驚くべき行動に出る...。
本や物語をテーマにしたエピソードを4編収録した中短編集です。その内、表題作と『ホームズの活躍』は本好きの読者にとって実に楽しい作品に仕上がっています。一方、『虚ろな王』や『裂かれた地図』といった不気味な怪異譚もホラー好きな人にとってはぞっとした恐怖を味わえる好編です。
キャクストン私設図書館
ジョン・コナリー
東京創元社
2021-05-19


35.夜の獣、夢の少年(ヤンシィー・チュー)
大英帝国領マラヤのダンスホールでバイトを始めたジーリンは男性客とダンスを踊らされ、無意識に男のポケットから小瓶を抜き取ってしまう。瓶の中にはミイラ化した指が入っていた。彼女は男の行方を探すが、彼はすでに死亡していた。その小指は病院の看護婦から手に入れたものらしかったのだが...。
戦前のマレーシアを舞台に繰り広げられるオリエンタルなムードに満ちたファンタジーミステリー。冒険あり、謎解きあり、ロマンスありのエンタメ作品としてよくできており、物語の背景として語られる歴史背景や当時の文化なども興味深いものがあります。繊細な描写も申し分のない傑作です。
夜の獣、夢の少年 上 (創元推理文庫)
ヤンシィー・チュウ
東京創元社
2021-05-10


36.《ドラキュラ紀元》われはドラキュラ(ジョニー・アルカード)
フランシス・フォード・コッポラがマーロン・ブランドを迎えてブラム・ストーカーの〝歴史改変〟小説『吸血鬼ドラキュラ』を映画化しようとする『コッポラのドラキュラ  AD1976-77』、オーソン・ウェルズが『ドラキュラ』の撮影を試みる『真夜中の向こうへ  AD1981』など、全12編+αの作品集。
ドラキュラが世界を支配したパラレルワールドを描いたドラキュラ紀元シリーズにおける初の中短編集です。過去にさまざまな場所で発表されたものに新作書き下ろしを加え、全体で大きな流れを持つ連作集に仕上げています。映画をテーマにしており、実在の人物が話にどう絡んでくるかが大きな見所。



37.ミステリアム(ディーン・クーンツ)
高機能自閉症ながらもIQ186の天才ハッカーである11歳の少年ウッディは、密かに父の死の真相を探っていた。ある日、ハイテク企業の極秘研究所が爆発事故が発生し、彼のパソコンに不気味な文字列が浮かび上がる。一方、一匹のゴールデンレトリバーが声に導かれてウッディの元に向かっていた.....。
名作『ウォッチャーズ』と類似した設定を用いた後継機的作品。よく言えば王道、悪く言えば予定調和の物語は好みのわかれるところですが、善良な人々VS邪悪な存在という構図の中にいろいろな要素を詰め込んで読者を全く飽きさせないのはさすがです。エンタメ職人クーンツの熟練の味が光る佳品。
ミステリアム (ハーパーBOOKS)
ディーン クーンツ
ハーパーコリンズ・ジャパン
2021-04-16


38.きらめく共和国(アンドレス・バルバ)
南米に位置するサンクリストバルは貧しくも緑豊かなジャングルに囲まれた美しい町だった。だが、1994年に先住民らしい32人の子供たちが現れ、その町を蹂躙し始める。警察は彼らが潜んでいると思われるジャングルを捜索するが居場所を突き止めることができない。それから数カ月が過ぎ......。
本作で描かれているのは子供たちの残忍さと未知のものを恐れる大人たちの心の弱さです。幻想譚の形を借りながら人間の本質を暴きだしていく一種の文明論的作品としてよくできています。また、過去を淡々と振り返っていく語り口により、ノンフィクションのような臨場感を醸し出しているのも秀逸。
きらめく共和国
アンドレス・バルバ
東京創元社
2020-11-11





39.クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界(ヤニス・バルファキス)
2025年。ギリシャに住むコスタは、自分の望む世界を脳内で疑似体験できる装置・HALPEVAMシステムを構築中に、偶然にも平行世界の自分と通信を交わす。そこでは2008年のリーマンショックを契機に資本主義が打倒され、新たな経済社会が構築さているという。それはどのようなものなのだろうか?
ギリシャの経済学者で急進左派の政治家でもある著者が資本主義に代わる体制を提言した思考実験的な作品です。ただ、本作で描かれている資本主義後の世界はどうにもツッコミ所が多すぎて上手くいくような気がしません。その代わり、資本主義崩壊のプロセスについてはなかなか読み応えがあります。
クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界
ヤニス・バルファキス
講談社
2021-09-14


40.小惑星ハイジャック(ロバート・シルヴァーバーグ)
23世紀。宇宙開発の発展は著しく、資源の宝庫であるアステロイドベルトは開発ブームに沸いていた。24歳のジョン・ストームも大企業の誘いを断って宇宙に飛び出す。それから2年。ジョンは大鉱脈の眠る小惑星を発見して地球に戻るが、登記したはずの小惑星はおろか自分の記録すら抹消されており.....。
1964年の作品ですが、昔懐かしの大衆SFといった感じで、当時全盛を誇っていたニューウェイブSFなどと比べると古臭さを感じます。ただ、その分、小難しさはなく、サクっと読むことができます。ワクワクするアクションシーンやヒネリのある展開も用意されており、エンタメとしては申し分なしです。
小惑星ハイジャック (創元SF文庫)
ロバート・シルヴァーバーグ
東京創元社
2021-04-28


41.世界を超えて私はあなたに会いに行く (イ・コンニム)
15歳のウニュは父と2人暮らし。だが、父は彼女に関心を示そうとはせず、なぜ母がいないかも教えてくれようとはしなかった。ある日、ウニュの元に手紙が届く。差出人は彼女と同じ名で、しかも、1982年を生きているという。過去のウニュは彼女に対して母親がいなくなった原因を探るというが......。
一種の定番ともいえるタイムリープを用いた感動ものです。世代を超えた2人のやり取りがユーモラスに語られ、そこから徐々に互いの家族の問題に踏み込んでいくことで読者の心を揺さぶっていきます。過去のウニュの正体についてはわかりやすいきらいがあるものの、感動の結末に導く手管は見事です。
世界を超えて私はあなたに会いに行く
イ・コンニム
KADOKAWA
2021-10-29


42.夜の声(スティーヴン・ミルハウザー)
開発ブームに沸く街がいつしか迷宮のようになってしまう『近日開店』、人魚の死体が打ち上げられた町の熱狂を描いた『マーメイド・フィーバー』、幽霊と共存する不思議な町の奇妙な実態をその住人が誇らしげに語る『私たちの町の幽霊』、夜中に少年が自分を呼ぶ声を聞く表題作など全8篇収録。
なんとも奇妙な世界を描きつつも精密な筆致でリアリティを高めていくという、著者ならではの特徴が存分に発揮されている作品集です。『マーメイド・フィーバー』や『私たちの町の幽霊』などがその典型だといえるでしょう。一方、『場所』は自分の居場所というものについて考えさせられる傑作です。
夜の声
スティーヴン・ミルハウザー
白水社
2021-10-29


43.エンド・オブ・オクトーバー(ローレンス・ライト)
インドネシアの難民キャンプで謎の伝染病が蔓延する。アメリカCDCのヘンリーは感染症対策班を率いて現地の調査に向う。そして、迅速な対応によって致死率70%以上のコンゴリウイルスを封じ込めるのだった。だが、やがて、感染者の一人が300万人の巡礼者が集まるメッカに向かったことが判明し...。
『倒壊する巨頭』でピュリツァー賞受賞の著者によるパンデミックサスペンス。数ある類似作の中でも本作はメリハリのある展開や圧倒的な情報量によって非常に読み応えのある作品に仕上がっています。
エンド・オブ・オクトーバー 上 (ハヤカワ文庫NV)
ローレンス・ライト 
早川書房
2021-05-18


44.アウトサイダー(スティーヴン・キング)
少年野球のコーチであるテリー・メイランドが少年殺しの容疑で逮捕される。複数の目撃証言、指紋、DNAとすべての証拠が揃っており、彼が犯人であることは明白だった。だが、彼は犯行時刻に遠く離れた場所にいた事実が逮捕後に証明される。この矛盾が解消されぬまま、初公判の日を迎えるが........。
物語の前半は少年惨殺事件を巡る捜査の模様が描かれ、その不可解な状況にぐいぐいと引き込まれていきます。まるで極上の本格ミステリを読んでいるかのようです。一方、後半になると物語はホラーへと様相を変え、こちらも読み応え十分です。ただ、ミステリーを期待した人にとっては肩透かしかも。
アウトサイダー 上 (文春文庫 キ 2-69)
スティーヴン・キング
文藝春秋
2024-01-04


45.骸骨:ジェローム・K・ジェローム幻想奇譚(ジェローム・K・ジェローム)
クリスマスイヴの夜にいわくつきの伯父の屋敷で客たちが怪異譚を披露しあう『食後の夜話』、仕事でインドに出向した男が臆病な妻を蛇の死骸を使って驚かせようとして思わぬ悲劇を招く『蛇』、偶然訪れた館の娘に恋をして20年後に当時と変わらぬ姿の彼女と再会する『二本杉の館』など全17篇収録。
1891年発表の短編集。怪異譚を軸にしながらもユーモアや悲哀を感じさせる話なども多数含まれており、バラエティに富んだ奇妙な味の物語を楽しむことができます。怪異譚としては徐々に恐怖がこみ上げてくる『骸骨』が秀逸ですし、恋愛ファンタジーの『二本杉の館』も心に染み入るものがあります。
骸骨:ジェローム・K・ジェローム幻想奇譚
ジェローム・K・ジェローム
国書刊行会
2021-07-23


チェック漏れ作品

町かどの穴(R・A・ラファティ)→7位
帰宅した男が緑色のバケモノを夫だと思い込んで抱きしめている妻を目撃する表題作、惑星探査隊があらゆるものを盗んでしまうエイリアン・どろぼう熊に悩まされる『どろぼう熊の惑星』、考古学者たちが奇妙な絵文字が刻まれた石の謎に取り憑かれる『つぎの岩につづく』など全19編収録の傑作選。
『九百人のお祖母さん』など奇想天外なSF小説を多数遺した著者の魅力を網羅した短編集の第1弾です。どれも珍妙な話ばかりで読後忘れ難い印象を読者に与えます。たとえば、クレイジー度が突き抜けている表題作などはその代表例だといえるでしょう。他にも著者ならではの異形の傑作が盛り沢山。
過ぎにし夏、マーズ・ヒルで(エリザベス・ハンド)→9位
病を癒す存在がいるといわれているマーズ・ヒルの地で乳癌の母とひと夏を過ごしていた少女がその存在と電撃的な邂逅を果たす表題作、焼失した”世界初の飛行実験”の記録フィルムを元スミソニアン博物館の男たちが模型を使って再現しようとする「マコーリーのベレロフォンの初飛行}など全4篇収録。
世界幻想文学大賞やネビュラ賞を受賞した選りすぐりの中短編が収録された珠玉の作品集です、ただし、SFやファンタジーの要素は希薄なのでそのあたりに期待すると肩すかしを喰らうでしょう。その代わり、それらの要素を隠し味に用いて描く、儚くも美しい叙情性に満ちた物語の味わいは一級品です。


海の鎖(編集:伊藤典夫/作:ブライアン・W・オールディズ他)→11位
異星人の来訪に騒然となるなかで彼らとのコンタクトを試みるAIと人類の破滅を察知する少年を描いた表題作、大統領の依頼で世界最大のショウを行うことになった企業が100年前の広島原爆の再現に挑む『リトルボーイ、再び』、侵略宇宙人と科学者たちが頭脳戦を繰り広げる『擬態』など、全8篇収録。
SF翻訳家・伊藤典夫精選のアンソロジー集第3弾。6、70年代の作品を中心に非常に攻めたセレクションとなっています。特に、日本の名だたるSF作家たちを激怒させたという『リトルボーイ、再び』の不謹慎さは今なお衝撃的です。また、凝った構成の表題作も破滅SFとしてインパクトのある秀作です。
海の鎖 (未来の文学)
ガードナー・R・ドゾワ
国書刊行会
2021-06-27


オベリスクの門(N・K・ジェミシン)→16位
第5の季節と呼ばれる数百年周期の天変地異。これまでは甚大な被害を出しながらも特殊な能力を持つオロジェンたちによって絶滅を免れていたが、今度こそ決定的な破局が訪れるという。そして、ついに第5の季節がやってきた。降りしきる灰のなか、エッスンの娘・ナッスンは父と共に南極を目指すが...。
史上初の3年連続ヒューゴ賞を受賞した破滅三部作の第2弾です。前作『第5の季節』の思わせぶりな展開から一転、本作では遂に破局が始まり読み応えもアップ。ただ、場面があちこちに飛ぶ冗長な描写は相変わらずです。少々忍耐が必要かもしれませんが、確信に近づいている物語は見逃せないところ。
オベリスクの門 (創元SF文庫)
N・K・ジェミシン
東京創元社
2021-09-13


2000年代SF傑作選(編集:橋本輝幸/作:N・K・ジェミシン他)→17位
炭鉱の石炭を燃やして液化するという新技術が思わぬ大災厄を招く『地火』、オルタナティブ数学の世界の住人との邂逅を果たした前作『ルミナス』の10年後に不可侵条約が破られて数学理論を巡る大戦が勃発する『暗黒整数』、極めて確率の低い事象が次々と起きる『確率はゼロじゃない』など9篇収録。
名アンソロジーとして知られる『80年代SF傑作選』の意匠を継いだ00年代バージョンです。バラエティに富んだ作品が並んでいるものの、特にイーガンの『暗黒整数』は難解ながらもエンタメストーリーを数学定理を使って行っているのがユニーク。劉慈欣の中華SF『地火』も読み応えあり。
2000年代海外SF傑作選 (ハヤカワ文庫SF)
アレステア レナルズ
早川書房
2020-11-19



2022年2月15日追記
予想結果
ベスト5→5作品中3作的中
ベスト10→10作品中4作的中
ベスト20→20作品中14作的中
順位完全一致→20作品中2作品

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