最新更新日2021/03/28☆☆☆

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SFが読みたい!2022
対象作品である2020年11月1日~2021年10月30日発売の国内SF&ファンタジー作品の中からベスト10の順位を予想していきます。ただし、あくまでも個人的予想であり、順位を保証するものではありません。また、予想は作家の知名度や人気、ジャンルや作風、話題性などを考慮したうえで票が集まりそうな作品の順に並べたものであり、必ずしも予想順位が高い作品ほど優れているというわけでもありません。以上の点はあらかじめご了承ください。
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2021年3月4日時点での暫定予想順位

1位.七十四秒の旋律と孤独(久永実木彦)
時空間転移の際に生じる人間に認識不可能な74秒の間隙をついて宇宙船を襲う海賊とその対抗策として造られた人型戦闘兵器との戦いを描いた表題作と、漂流中の宇宙船の中で目覚めた8体の人工知性体がとある惑星で1万年の時を過ごすことになる『マ・ニ クロニクル(全5話)』を収録。
人工知性マ・フたちの運命を描いた年代記。いかにもハードSFといった設定を用いつつも、醸し出される雰囲気は極めて文学的です。小難しい理論はなく、どこまでも詩的で美しい物語が綴られていきます。哀しいトーンに彩られてはいますが、優しい語り口から得られる読後感は決して悪くありません。
七十四秒の旋律と孤独 (創元日本SF叢書)
久永 実木彦
東京創元社
2020-12-21


2位.統計外事態(芝村裕史)
2041年。世界人口が減少に転じ、日本も地方の過疎化が加速していた。そんななか、統計分析官の数宝数人は静岡の廃村で水道使用量が異常に増えているのを発見する。現地調査に赴く数人だったが、そこで見たものは全裸で駆け回る国籍不明の子供たちだった。しかも、さらに大きな騒動が巻き起こり.....。
統計SFとでもいうべき異色作です。統計学のスペシャリストを主人公に据え、統計学を通して近未来を活写しているところに独自の面白味があります。また、主人公と相棒役との掛け合いがテンポよく描かれ、上質なバディものとしても楽しめます。さらに、アクションシーンも満載なエンタメ傑作です。
統計外事態 (ハヤカワ文庫JA)
芝村 裕吏
早川書房
2021-02-17


3位.るん(笑)(酉島伝法)
大流行した伝染病によって医療崩壊を経験し、医学よりも迷信が信じられるようになった世界。38度の熱を出した夫に対して妻は水をマドラーで一晩中かき混ぜて作った癒水を用意し、末期の蟠りで病院に入院していた老女もすぐに退院させられて「るん(笑)」と呼ばれる治療を始めることになるが.....。
科学を否定し、スピリチュアルなものに頼るようになった世界を描いた一種のデストピア小説。人々の歪んだ認識にぞっとする一方で、星座占いやアニミズム信仰などを混ぜ合わせたごった煮の世界観はあまりにもカオスで逆にユニークですし、著者独自の言語感覚もその世界観とよくマッチしています。
るん(笑) (集英社文芸単行本)
酉島伝法
集英社
2020-11-26


4位.人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル(竹田人造)
ハイテクを駆使して犯罪者を丸裸にする首都圏ビッグデータ保安システム特別法の制定によって首都圏での凶悪犯罪は激減する。そんな折、親の借金のカタに臓器を摘出される寸前だった元人工知能技術師の三ノ瀬はフリーランスの犯罪者である五嶋と出会い、現金輸送車の襲撃計画を持ちかけられるが.....。
第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作品。現実と地続きの近未来が舞台であり、SFというよりはハイテクサスペンスといった感があるのは好みの分かれるところです。一方、最先端のテクノロジーを駆使したサスペンスとしては非常によくできています。キャラも立っており、爽快感も申し分なしです。


5位.蒸気と錬金 Stealchemy Fairytale(花田一三六)
蒸気錬金術によってエーテルの生成に成功し、その技術を用いて大きな発展を遂げた19世紀の大英帝国。一方、ロンドンで売れない小説を書いていた私は困窮し、編集者からアヴァロンへの取材旅行を提案される。見知らぬ青年から蒸気錬金式幻燈機を格安で売ってもらった私は意気揚々と旅立つが.....。
蒸気錬金術に関する記述は意外と少なく、奇想に満ちた世界観に期待すると肩すかしを喰らうでしょう。その代わり、三文作家である主人公のどこかピントのずれた語りと、蒸気錬金式幻燈機によって一種のAIナビとして出現する毒舌な妖精との掛け合いが独特の面白さを醸し出しています。


6位.ヴィンダウス・エンジン(十三不塔)
韓国人のテフンはヴィンダウス症に侵され、静止物が全く見えなくなってしまう。だが、試行錯誤の末に静止物が視認可能な寛解状態を保つことに成功する。そして、そのことにより、中国の研究所からヴィンダウス症の寛解者と都市機能AIを接続するという途方もない実験の協力を要請されるのだが......。
第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞。ヴィンダウス症という独創的なガジェットを巧みに用いて描かれる近未来が魅力的です。特に、電脳都市と化した中国が印象的で、そこで展開されるAIとの戦闘シーンは思わず手に汗握ります。ただ、少々詰め込みすぎでリアリティに欠ける場面があるのが難です。


7位.Y田A子に世界は難しい(大澤めぐみ)
人間そっくりのAIロボットの瑛子はわけあって和井田家に居候中。しかも、家族の勧めで高校に入学することになる。そこで彼女はアルバイトや部活をしたり、友人を作ったりして青春を謳歌していく。彼女にとっての世界はゆるかに変化し、やがて瑛子は自分の将来に想いを馳せるようになるが........。
会話劇が秀逸な作品で、高性能だがどこかずれている美少女型AIロボットと登場人物たちとの掛け合いは爆笑必死です。一方で、徐々に人間性を獲得し、周囲の人々と友情を育んでいく後半の展開は王道ながらもぐっとくるものがあります。極めて完成度の高いエンタメ作品です。
Y田A子に世界は難しい (光文社文庫)
大澤 めぐみ
光文社
2021-02-09


8位.裏世界ピクニック 5 八尺様リバイバル(宮澤 伊織) 
突如開催されることになったラブホ女子会。空魚と鳥子、それに友人3名を集めて行われたのだが、空魚は酔い潰れて途中から記憶がない。しかも、鳥子たちに尋ねても、昨夜何があったのかを教えてくれないのだ。空魚は右目の能力が暴走してみんなに迷惑をかけたのではないかと心配するが.....。
シリーズも5巻を数え、初期にあった都市伝説ホラーのゾクゾク感はほとんど感じられないほどに希薄になっています。その代わり、百合テイストは濃厚さを増す一方で、もはやガチの領域に入っています。ストーリー的な進展もあまりなく、主に空魚と鳥子の掛け合いを楽しむ巻だといえるでしょう。


9位.観念結晶大系(高原英理)
芸術家たちが地上から遠く離れた結晶世界に想いを馳せる『物質の時代』、2人の少年がヴンダーベルトと呼ばれる結晶で覆われた世界を探索する『精神の時代』、石化症という奇病が流行して若者たちの肉体が少しずつ白い石になっていく『魂の時代』。全3部からなる夢想と変革の物語。
本作は思弁小説と呼ばれており、ジャンル的には哲学小説と幻想小説を掛けあわせたようなものだといえます。ストーリーは難解を極めますが、イマジネーションの奔流にうまく身を任せられれば、美しい物語を堪能することができるでしょう。特に、鉱物世界を探索する第2部の描写が圧巻です。
観念結晶大系
高原英理
書肆侃侃房
2021-01-19


10位.ゴールデンタイムの消費期限(斜線堂有紀)
小学生で作家デビューし、天才と謳われた綴喜文彰は4年間全く新作を書けないでいた。高校3年になり、焦燥感にかられる彼は天才再教育の国家事業『レミントン・プロジェクト』への参加を決意する。それはAI・レミントンとのセッションによって才能をリサイクルするというものだった。
AIとのセッションというSF的ガジェットを用いて才能に行き詰った6人の若き天才たちの苦悩と葛藤を描いた青春小説です。SFとしての目新しさやヒネリなどは特にないものの、人間の才能とAIとの絡め方が巧みで興味深く読むことができます。爽やかな結末も好印象です。



その他注目作

白き女神の肖像(鴇澤亜妃子)

”東方之女神”という絵が話題を呼び、画家のショーンは一躍時代の寵児となる。だが、絵のモデルである妻はその絵の女は自分ではないという感覚に囚われていく。次第に彼女は憔悴し、命を落としてしまうのだった。しかも、彼女に代わってモデルを務めることになった女性も同じことを口にし始め.......。
本作は、芸術を巡る幻想譚であり、庭や祭りの描写一つ一つに独特の美が感じられ、思わず引き込まれていきます。また、人を死へと追いやる肖像画の存在には読んでいてぞくぞくするものを感じます。非常に魅力的な雰囲気を纏った作品ですが、全体的に説明不足な点は好みのわかれるところです。
白き女神の肖像
鴇澤 亜妃子
東京創元社
2020-12-10


ぜんしゅの跫(澤村伊智)
負傷した妹の真琴に代わって”見えない通り魔事件”の調査を請け負った琴子が巨大な化物の謎に挑む表題作、結婚式に参列した男が錯乱した醜女の花嫁に「お父さん!」といってしがみつかれる『鏡』、病院で赤い学生服の少女を目撃した患者が次々と死んでいく『赤い学生服の女子』など、全5編収録。
霊能力姉妹の活躍を描いた比嘉姉妹シリーズ5弾。短篇集であるためか過去4作の長編作品と比べると派手さには欠けるきらいがあります。しかし、怖さはしっかり味わえますし、意外な人物が意外なところで登場するなど、シリーズのファンにとっては興味深い内容となっているのがうれしいところです。


バイター(五十嵐貴久)
伊豆半島沖の島で未知のウイルス感染が広がり、罹患者は血肉を求める暴徒と化していく。政府はそれをバイターと名付けて対策に乗り出すが、問題の島には中学生になる総理大臣の娘が訪れていた。彼女を救うべく、警察と自衛隊の混成チーム”ブラッド・セブン”が結成されるが.......。
王道的なゾンビもので、ストーリー的な目新しさは特にありませんが、ゾンビのおぞましさや人間の愚かしさといったお約束描写がしっかりと描かれていてホラー映画好きの人であれば安心して楽しめる作りになっています。ただ、同じようなシーンの繰り返しが多くて少々冗長な面があるのが難です。
バイター
五十嵐 貴久
光文社
2020-12-22





君が笑うまで死ぬのをやめない 雨城町デッドデッド(砂糖悪糖)
大学に進学した灰原雅人は一人暮らしをすることになり、アパートを借りる。そして、部屋に入るなり髪の長い女に刺殺されてしまう。だが次の瞬間、赤い服を着た少女が時を巻き戻し、雅人は生き返るのだった。少女は自分をサンタクロースだといい、もうこの部屋には入るなと忠告するが.......。
死ぬたびに過去へと戻るいわゆるループものですが、ループする回数が尋常ではありません。悪霊に何度殺されても部屋に入ることを諦めない主人公の猪突猛進ぶりが笑えます。しかし、後半になると悪霊の身の上が明らかになり、切なさはが募ってきます。笑いとシリアスとの配分が絶妙なうえに、テンポよく読むことができるポップな文体が秀逸です。完成度の高いライトSFだといえます。


クロウ・ブレイン(東一槇)
日本新聞社会部の新人記者である権執院怜一はカラスが人を襲う事件が多発していることを知り、カラスの生態に詳しい学者に取材を行う。だが、その学者は取材直後に自殺し、カラスに襲われた人々からは鳥インフルエンザが広まっていく。そして、彼自身も公園でカラスの群れの襲われるが......。
第19回このミステリーがすごい大賞・隠し玉作品。ライトな作風で話のテンポもよくサクサクと読むことができます。一方で、生物学やマスコミ業界の蘊蓄もたっぷり盛り込んでいるので知的好奇心を満たせる作りなっています。ただ、暴走する主人公とあっさりしたラストは好みの分かれるところです。


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