最新更新日2021/01/03☆☆☆

戦後の日本に長編本格ミステリを根付かせたのが横溝正史であり、社会派ブームのただ中にあって本格ミステリの火を消させまいと奮闘したのが鮎川哲也だとすれば、社会派ブームの終焉から新本格ブーム勃発までの空白期に中継ぎリリーフ的な役割を果たしたのが泡坂妻夫だといえるのではないでしょうか。43歳でデビューという比較的遅咲きの作家ながら、1976年のデビューから新本格ブームが起きるまでの十余年の間に謎解きミステリの傑作をいくつもものにしています。しかも、超一流のアマチュアマジシャンというバックボーンを活かして独創的な仕掛けを次々と考案したトリックメーカーでもあるのです。そんな彼の代表作を一挙紹介していきます。
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11枚のとらんぷ(1976)
真敷市民公民館創立20周年記念のイベントの一環として奇術同好会のマジキクラブによるマジックショーが行われる。ところが、いざ始まってみると、マジックで使うはずの鳩が死んでいたり、危険物である氷酢酸の瓶をひっくり返したり、はたまた外出して会場に戻ろうとした術者が入場券の提示を求められて騒動になったりとトラブルの連続だった。それでもなんとかフィナーレまでこぎつけるが、最後に仕掛けの中から登場するはずの水田志摩子が行方不明となる。しかも、彼女はその後、アパートの自室で他殺死体となって発見されたのだ。死体の周囲には破壊された奇術の小道具が散乱しており、その小道具はマジキクラブの座長である鹿川瞬平の書いた奇術小説集『11枚のトランプ』に登場するものばかりだった。果たしてこの事件と『11枚のトランプ』の関係は?
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泡坂妻夫は奇術愛好家としても有名で、1968年には創作奇術の分野で貢献した人に贈られる石田天海賞を本名の厚川昌男名義で受賞しています。その奇術師としてのノウハウを存分に活かして書き上げたのが長編デビュー作の本作です。まず、殺人事件の謎を解くヒントが作中作である11編の奇術小説の中に隠されているという構成がよくできており、最後に明らかになる犯人特定の手掛かりには思わず唸らされてしまいます。しかも、個々の短編自体がバラエティ豊かなトリック小説として楽しませてくれるという点が秀逸です。奇術の蘊蓄が随所に散りばめられており、トリック好きのミステリーファンなら興味深く読むことができるのではないでしょうか。そして、最後の解決編ですべての伏線がきれいに繋がっていくのが見事です。小説を書き慣れていない時代の作品であるためか、少々読みにくさを感じる部分があるのが難ですが、この時代に書かれたものとしては極めて完成度の高い本格ミステリの傑作です。
11枚のとらんぷ (角川文庫)
泡坂 妻夫
KADOKAWA
2014-06-20


乱れからくり(1977)
元ボクサーの勝敏夫は雑誌の求人広告を見て、寺内経済研究所を訪れる。その会社は寺内舞子という元警察官が一人で切り盛りをしており、興信所の下請けのような仕事を行っていた。面接に出向くと彼はあっさり採用され、尾行の仕事を一緒に行うことになる。依頼者は玩具メーカーの老舗であるひまわり工芸の社長の甥・馬割朋浩であり、妻の浮気調査をしてほしいということだった。ところが、尾行の途中で馬割夫妻の乗っていた車が隕石と激突し、朋浩は命を落としてしまう。しかも、それからというもの、馬割一族の人々が次々と奇怪な死を遂げていくのだった......。
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ねじ屋敷と呼ばれるからくり屋敷を舞台にした連続殺人を扱っており、この時代には珍しいオドロオドロしい雰囲気の作品に仕上がっています。まず、隕石の激突によって人が死ぬという冒頭のぶっとんだ展開により、一気に物語に引き込まれていきます。それに続くからくり仕掛けの歴史や蘊蓄にも興味深いものがありますし、次々と起きる不可能犯罪や隠された財宝探しといった要素も探偵小説好きにはたまりません。最後に明かされるトリックにも驚かされますし、周到に張り巡らされた伏線を巧みに回収していく手管などはさすがの一言です。リアリティに欠けるという点で不満を抱く人もいるかもしれませんが、そもそも本作にそれを期待するのはお門違いでしょう。この作品は明らかな法螺話をさまざまなテクニックを駆使していかにもっともらしく語るかというところにその真価があるのです。『11枚のとらんぷ』が巧みなテーブルマジックだとすれば本作は壮大なスケールのイリュージョンといったところではないでしょうか。瑕疵は少なくないものの、それを補ってあまりある豪華絢爛な仕掛けと騙しのテクニックに彩られています。『11枚のとらんぷ』と双璧をなす初期の代表作です。
第31回日本推理作家協会賞受賞
乱れからくり (創元推理文庫)
泡坂 妻夫
東京創元社
1993-09-12


湖底のまつり(1978)
9月初旬。会社を辞めた香島紀子は玉助温泉からさらに山奥にある獅子吼峡に向かう。ところが、山間に位置する川が急に増水し、紀子は濁流にのみ込まれてしまう。その窮地を救ってくれたのが地元の村の青年である埴田晃二だった。ロープを投げ込み、溺れかけていた彼女を救ってくれたのだ。心を許した紀子は晃二の住む小屋で彼と一夜を共にする。しかし、目覚めると晃二の姿はなかった。彼を探すべく、おまけさん祭で賑わう神社を訪れる紀子だったが、そこで彼女は村人から晃二は1カ月前に毒殺されたという事実を聞かされる。それでは紀子が一夜を共にした相手は一体誰だったのか?
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本作は泡坂妻夫3作目の長編ミステリーであり、騙し絵ミステリーとして蓮城三紀彦と綾辻行人から大絶賛を博した作品でもあります。とはいえ、トリック自体はかなり無理があるように感じます。しかし、それを全編を覆う幻想的な雰囲気でうまく説得力を持たしているのが実に巧みです。それから、前2作とは異なり、官能的な描写がやたら多くなっていますが、これに関しても単なる読者サービスなどではなく、ミステリーの仕掛けと不可分な要素となっているところに感心させられます。『11枚のとらんぷ』『乱れからくり』に本作と、一作ごとに全く趣向の異なる力作を送り出している事実にミステリーに賭ける情熱がうかがえます。ただ、本作で用いられているトリックは現代では陳腐化しており、新本格などを読み慣れたミステリーファンに大きな驚きを与えることは難しいかもしれません。『11枚のとらんぷ』や『乱れからくり』に比べると知名度がいま一つなのもその辺りに原因があるのではないでしょうか。
湖底のまつり (創元推理文庫)
泡坂 妻夫
東京創元社
1994-06-18


亜愛一郎の狼狽(1978)
旅客機のDL2号に対して何者かによる爆破予告があったものの、厳格な検査によって爆弾は持ち込まれていないことが確認され、予定通り離陸する。目的地の空港では警備も兼ねて羽田刑事がDL2号機の到着を待っており、彼の他にも写真を撮影している3人組や実業家の柴を迎えにきた運転手・緋熊五郎の姿があった。無事着陸したDL2号機から柴が降りてきて、「爆破予告があったのになんだこの手薄な警備体制は!署長に抗議しておく」と毒づく。そして、実際に抗議を受けたために、羽田が柴邸に出向くとまたしても3人組の男に出くわし、そのうえ、血だらけの緋熊が柴の邸宅から飛び出してきたのだ。一体何が起きているのか?そして、DL2号機の爆破予告との関連は?
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第1回幻影城新人賞佳作入選を果たした泡坂妻夫のデビュー作『DL2号機事件』を含む全8編の連作短編ミステリーです。同時に、イケメンなのに常に挙動不審で奇行が目立つ超個性派の名探偵・亜愛一郎の活躍を描いたシリーズの第1弾でもあります。泡坂妻夫は奇術的なトリックの他にしばしば逆説的なロジックを用いたところから「日本のチェスタトン」と呼ばれることがありますが、その特徴が最も顕著に現れたのがこのシリーズだといえるでしょう。たとえば、『DL2号機事件』ではある男の奇妙な行動を意表を突くロジックで解明していますし、未開の地だからこそ成立する異形のロジックに基づく『ホロボの神』のトリックも忘れ難い味わいがあります。その他にも、マジックショー的な空中密室のトリックが見事な『右腕山上空』、巧みな心理トリックに唸らされる『曲がった部屋』、錯誤を利用した消失トリックが印象深い『G線上の鼬』など名品揃いです。連作短編としてはチェスタトンのブラウン神父シリーズに比肩する出来だといえるのではないでしょうか。
亜愛一郎の狼狽
泡坂 妻夫
東京創元社
2013-08-30


花嫁のさけび(1980)
平凡な人生を送ってきた伊津子は人気俳優の北岡早馬と結婚したことで豪邸での華やかな生活に身を投じることになる。だが、その家の人々が前妻である貴緒の美しさや才能をなにかにつけて褒めたたえるなど、屋敷には故人の影が色濃く染みついていた。1年前に謎の事故死を遂げた貴緒の存在感の強さが伊津子に重くのしかかっていく。そんな頃、早馬が殺人鬼役で出演していた映画”花嫁のさけび”がクランクアップし、北岡家で結婚祝いを兼ねた打ち上げパーティーが開かれる。ところが、余興で毒杯ゲームなるものを始めたところ、本当に毒殺事件が発生し.......。
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本作のストーリーはあからさま過ぎるほどにヒッチコック監督の名作映画『レベッカ』をなぞっています。しかし、単なる模倣作品だと油断していると見事に足元をすくわれることになります。それ自体をミスディレクションとして用い、『レベッカ』のストーリーを知っている人ほど騙されやすい作りになっているのです。犯人が誰かを悟らせないためのミスリードを用意周到に施す一方で、犯人の正体を示す伏線を大胆に配置しており、実に端正な本格ミステリに仕上がっています。仕掛けを成立させるために作りものめいた雰囲気になっているのは好みが分かれるところですが、技巧の冴えに関しては一級品です。
花嫁のさけび (河出文庫)
泡坂妻夫
河出書房新社
2018-02-09


迷蝶の島(1980)
大学生の山菅達夫は親が資産家であるのをいいことに趣味の文学やヨットに没頭する日々を過ごしていた。ある日、親に買ってもらったクルーザーを操縦していたところ、ヨットとぶつかりそうになり、それが縁で2人の女性と知り合うことになる。一人は大学のOBでヨットのコーチをしている磯貝桃季子、もう一人は財閥の令嬢である中将百々子だった。達夫は百々子に想いを寄せるも、成り行きで桃季子と肉体関係をもってしまう。しかし、百々子への想いは断ちがたく、次第に桃季子の存在が邪魔になってくる。そして、彼女の妊娠を知った達夫はついに桃季子をヨットから突き落として亡きものにするのだった。ところが、その後、無人島に漂着するとその島から桃季子が姿を現し......。
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本作は3部からなっており、第1部が達夫の手記、事件発生後の第2部は捜査官の報告書や関係者の証言、第3部が別の人物の手記という構成になっています。登場人物の心理描写に重きをおいた作風はまるでフレンチミステリーのようであり、特に、主人公が次第に追い込まれていくプロセスは真に迫っており、なかなかの読み応えです。後半になるにつれて手記の内容が非現実性を帯びてくるのも一種の異常心理ものとしての迫力があります。とはいえ、そのままでは終わらないのが泡坂ミステリーです。語り手の妄想としか思えなかった事象の数々が第3部でロジカルに解かれていくのには唸らされます。トリック自体はシンプルなのでミステリーを読み慣れた人なら途中でカラクリに気付くかもしれませんが、単純な仕掛けで最大限の効果を上げる手管は見事です。ただ、登場人物がクズ揃いで共感できる人間が皆無であるため、物語として楽しめるかは意見の分かれるところかもしれません。
迷蝶の島 (河出文庫)
妻夫, 泡坂
河出書房新社
2018-03-03


煙の殺意(1980)
とあるマンションで32歳のホステスが殺され、望月警部は現場の捜査に駆り出されていた。とはいえ、容疑者はすでに犯行を認めており、事件は解決したも同然だった。容疑者の供述によると、上の階から洗濯機の水が溢れて自室を水浸しにしたトラブルに端を発した衝動的な犯行だという。そういう状況も手伝って、テレビ好きの望月警部は捜査そっちのけでテレビの画面に釘付けになっていた。そこには高級デパートで発生した史上最悪の火災現場が映し出されている。一方、鑑識の斧技官はおかしなことに気付く。浴槽の中で全裸になっていた死体の指先には朱肉がついていたのだ。彼女は全裸で荷物の受け取りをしたとでもいうのだろうか?
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著者初の読み切り短編集ですが、長編小説に負けず劣らずの傑作がずらりと並んでいます。まず表題作はホワイダニットものとして秀逸で殺人事件と火災との思わぬ関係に驚かされます。また、『樺山訪雪図』は水墨画に仕込まれたたくらみが殺人事件解明の糸口になるという、文字通り絵になる名品です。幻想味溢れる雰囲気といい、全8編の収録作品の中ではこれがベストではないでしょうか。その他にも、本格というよりも奇妙な味ミステリーに近い作風から衝撃のラストに繋げていく『紳士の園』、謎解きよりも独特の語り口や山伏の詐術テクニックが楽しい『狐の面』、さらには倒叙ミステリーにヒネリを加えた『歯と胴』などなど、読み応え満点の作品集です。
煙の殺意 (創元推理文庫)
泡坂 妻夫
東京創元社
2015-05-19


亜愛一郎の転倒(1982)
崖崩れで列車が進めなくなり、亜愛一郎一行は歩いて駅を目指すことになる。しかし、徒歩で山を越えようとして見事に迷ってしまうのだった。なんとか民家を見つけて泊めてもらうことになったのだが、そこで不思議な出来事に遭遇する。家の主が窓を開けたときには、確かに見えていた合掌造りの向かいの家が朝になると影も形もなく消え失せていたのだ。一体何が起きたのか?
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全8編からなる亜愛一郎シリーズの第2弾であり、名作として名高い前作と比べても決して引けを取らない粒揃いの連作ミステリーに仕上がっています。中でも特に印象深いのが家一軒を一夜で消して見せる『砂蛾家の消失』です。家を消し去る一大イリュージョンを成立させた巧みなトリックもさることながら、それ自体をミスディレクションに用いてもう一つのトリックを隠蔽する手管には思わず唸らされてしまいます。また、逆転の発想が見事な『病人に刃物』も短編ならではの切れ味が光る傑作です。さらに、タクシーから降りたはずの客が後部座席で殺されている『三郎町路上』は不可能犯罪ものとして良くできていますし、見立て殺人をテーマにした『意外な遺骸』におけるぶっ飛んだ動機にも驚かされます。『亜愛一郎の狼狽』と並ぶ珠玉の作品集です。
亜愛一郎の転倒 (創元推理文庫)
泡坂 妻夫
東京創元社
1997-06-21


天井のとらんぷ(1983)
※『奇術探偵 曾我佳城全集』の項を参照
天井のとらんぷ (講談社文庫)
泡坂 妻夫
講談社
1986-08T


亜愛一郎の逃亡(1984)
雑誌記者の亀沢は「2つの頭を持つ巨大な蛸を見た」という情報を入手し、調査のために山奥の霧昇湖に向かう。そこには亜愛一郎がいたが、彼は蛸ではなく、別の調査をしているらしい。一方、亀沢は湖の中を調べるために数人のダイバーを連れてきていたのだが、その一人がボートの上で撃ち殺されてしまう。凶器は岸に投げ捨てられていた猟銃であることが判明するが、問題は誰がその銃を撃ったのかだ。犯行当時、湖畔にいたのは亀沢を含めて6名。果たして、この中に犯人がいるのだろうか?
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亜愛一郎シリーズの完結編です。この巻では全体に張り巡らされた伏線が回収され、シリーズを通しての謎が明らかになります。そういう意味ではシリーズのファンにとっては大いに楽しめる作品だといえるでしょう。ただ、各短編におけるミステリーとしての切れ味は全2作と比べると少々落ちます。そんななかにあって大胆なトリックを切れ味鋭いロジックで解き明かす『火事酒屋』が秀逸です。また、本シリーズらしからぬオーソドックスな作品ながらも巧妙なトリックで不可解な謎を演出した『双頭の蛸』や楽しいドタバタ騒ぎの末に意外な真相が浮かび上がる『歯痛の思い出』なども良くできています。そして、最終話の『亜愛一郎の逃亡』では亜愛一郎にまつわる謎も解き明かされ、見事なグランドフィナーレを飾っています。ミステリーとしてのクオリティは前2作よりも落ちるとはいえ、その分、物語の充実度が高まっている面もあり、凡百の連作短編にくらべれば読み応えは遥かに上です。未読の人はぜひともシリーズ3作を順番に読むことをおすすめします。海外でいえば、ホームズシリーズやブラウン神父シリーズに匹敵する短編連作ミステリーの金字塔です。


ヨギ ガンジーの妖術(1984)
地方の新興都市に建てられたホテルでは市の主催による文化倶楽部の定例会が催されていた。有名人を招いて講演をしてもらい、参加者に募金を募るというのが会の趣旨だ。今回は妖術師のガンジーがゲストとして招かれ、見事な心霊術を披露する。ところが、定例会が終わって募金箱を開いてみると、お金が1円も入っていなかったのだ。毎回大金が集まる倶楽部の募金箱に誰もお金を入れなかったとは考え難い。しかも、募金箱は終始監視下にあり、そんななかで、金を盗み出すなど不可能だった。一体何が起きたというのだろうか?そのときガンジーが意外な事実を指摘し......。
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亜愛一郎と曾我佳城に続く、第3の名探偵であるヨギ ガンジーの活躍を描いたシリーズ第1弾です。本作は7編の短編からなっており、超常現象にしか見えない出来事をガンジーが見事な推理で解き明かしていくというのがお決まりのパターンになっています。ヨギ ガンジーシリーズといえば大仕掛けに驚かされる後続の2作が有名ですが、本作はどちらかといえばオーソドックスな連作ミステリーです。それだけに、後続作品を先に読んだ人は普通すぎて物足りないと感じるかもしれません。しかし、連作ミステリーとしての完成度は決して低くはなく、泡坂妻夫の名人芸が光る良作に仕上がっています。まず、第1話の『王たちの恵み』では”あるはずのものがない”という謎に対して見事な逆説的解答を提示していますし、『ヨシ ガンジーの予言』におけるシンプルなトリックを効果的に用いる手管も鮮やかです。作品ごとの出来不出来が大きいのはやや難ですが、肩の凝らない謎解きを気軽に楽しみたい人にとってはピッタリの良書だといえるでしょう。


ゆきなだれ(1985)
男が老舗の和菓子屋に婿入りしてから20余年が過ぎた。妻に先立たれ、一人身となった彼はある日、修行時代に愛した女と再会する。彼女は一夜を共にしたきり、姿を消してしまっていたのだ。長い歳月の末に再び巡り合った2人だったが、彼らの周辺で謎めいた出来事が起き.......。
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『煙の殺意』に続くノンシリーズ短編集の第2弾ですが、前作とは趣がかなり変わっています。『煙の殺意』と比べるとミステリー色は大きく後退し、純文学の色が全面に押し出されているのです。その傾向は後の短編作品でも続いていくことになるのですが、中でも本作は、文学的味わいとミステリー的な仕掛けのバランスという意味において頭一つ抜けています。2つの要素が絶妙に絡まり合うことで物語を効果的に盛り上げているのです。たとえば、謎が解けることで切ない真実が浮かび上がってくる表題作などは読んでいて熱いものがこみあげてきます。また、1年に1度だけの逢瀬を重ねる身元不明の女を描いた『迷路の出口』は幻想的な謎の提示が素晴らしく、その謎を解くことで文学めいた味わいを堪能できるところが秀逸です。一方、よりミステリー色の強い作品としては『雛の弔い』があります。主人公の元師匠が水の入っていない風呂桶で絶命するという謎を描いた作品で、そこから、大戦中の妻の死という別の謎が浮かび上がり、その謎が解けると同時に師匠の死の真相も明らかになるという構成がよくできています。その他にも、香気漂う余韻が素晴らしい『厚化粧』や事の真相に慄然とする『鳴神』なども忘れ難い味わいの傑作です。文学的な作品にミステリーのテクニックを盛り込み、物語に深みを与えることに成功した希有な作品集だといえます。それだけに、泡坂作品のなかではあまり知名度が高くないのが残念です。
ゆきなだれ (文春文庫)
泡坂 妻夫
文藝春秋
1988-04T


しあわせの書ー迷探偵ヨギ ガンジーの心霊術(1987)
ヨギ ガンジーの元に行方不明になった人物を探してほしいという依頼が舞い込む。その人物は新興宗教団体である惟霊講会の熱心な信者だという。そこで、手掛かりを求めて惟霊講会の集まりに潜り込んだ結果、会では他にも信者の失踪が相次いでいるという事実を知るのだった。さらに、ガンジー一行はその失踪に関連があるらしい布教用の小冊子”しあわせの書”を手に入れる。そして、迷路のような本部施設を調べているうちに監視員に見つかってしまったガンジーと彼の二番弟子である美保子は、すったもんだの騒動のすえになぜか惟霊講会の後継者を決める断食修行の指導者兼判定員を務めることになるのだった。一方、その裏では”しあわせの書”に絡んだ驚くべき陰謀が進行していた......。
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本作のストーリーはさして驚くべきものではありません。ガンジー一行が新興宗教の後継者争いに巻き込まれて繰り広げるドタバタ劇はそれなりに楽しめるものの、内容自体は凡庸といっても差し支えのない出来ですし、作中に仕掛けられたトリックも泡坂作品にしてはそこそこといったレベルです。しかし、驚くべきは”しあわせの書”に関する真の秘密です。それを理解した瞬間、多くの人は前代未聞空前絶後の仕掛けにのけぞってしまうでしょう。アマチュアマジシャンとしても有名な著者はこれまでも多くのトリックを考案してきましたが、これはそれらとは次元の異なる一大イリュージョンです。『11枚のトランプ』『乱れからくり』『亜愛一郎の狼狽』といった名作を押しのけ、本作を泡坂妻夫の最高傑作に挙げる人が多いのもうなずけます。ただ、この仕掛けは流し読みしていると存在そのものに気付かず、何がすごいのかわからなかったということにもなりかねません。ぜひとも注意深く読み進めていくことをおすすめします。


折鶴(1988)
縫箔職人の田毎敏は馴染みの女将から、旅先の宿帳で彼の名を見たといわれる。だが、田毎には全く覚えがなかった。住所も同じだったという女将の話が本当なら、誰かが自分の名前を騙っていることになる。一方、ときを同じくして、かつての恋人である鶴子の店から若い娘が弟子入り志願にやってくる。そして、あるパーティーに参加したときに、鶴子自身との再会も果たすのだった。しかも、互いに伴侶を持つ身ながら、再会するや否やかつての想いが再燃し........。
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大人の恋愛模様に謎解きの要素を絡めた恋愛ミステリーを4編収録した中編集です。『ゆきなだれ』と同じく純文学よりの作風なのですが、4編の主人公がすべて時代遅れの職人ということで、紋章上絵師でもあった著者の職人としての側面が色濃くでた作品集に仕上がっています。その内容は本格ミステリとしては少々物足りなさを感じる反面、時代から取り残されつつある職人の葛藤を描いた物語としては大いに読み応えがあります。特に、そうした主人公の悲哀にミステリーの仕掛けが絡み合って悲劇的な結末になだれ込む表題作が秀逸です。一方、主人公と三味線ひきの芸妓との恋愛模様に幽霊譚を絡めた『忍山恋唄』はトリックこそバカミス一歩手前といった感じですが、官能的な雰囲気の物語を本格ミステリに落とし込むプロットには忘れ難い味わいがあります。ちなみに、この2編はいずれも直木賞候補作です。他の2編にしても読んでいる内に文学の香気が立ち上り、その中に謎解きの要素が自然に溶け込んでいるのが持ち味だといえます。奇術ミステリーと呼ばれる作品群とはまた違った意味で著者の技巧が光る佳品です。
第16回泉鏡花文学賞受賞
折鶴 (文春文庫)
泡坂 妻夫
文藝春秋
2012-09-20


花火と銃声(1988)
※『奇術探偵 曾我佳城全集』の項を参照
花火と銃声 (講談社文庫)
高井 研一郎
講談社
1992-08-11


びいどろの筆ー夢裡庵先生捕物帳(1989)
八丁堀定町廻り同心の富士宇衛門は空中楼夢裡庵という名の文人としても知られていた。そのうえ、柔術は名人級の腕前だ。そんな彼が正月早々、絵師殺しの事件に遭遇する。死因は矢によるものだったが、奇妙なのは壁に掛けられた絵馬の人物が矢を放った直後の格好をしている点だ。つまり、絵の中の人物が絵師を射殺したように見立てているのだ。悪趣味な趣向に夢裡庵は渋い顔をするが、ある本に「絵の人物に矢を放させる術」という奇術を見つけ.......。
◆◆◆◆◆◆
本作は夢裡庵先生捕物帳シリーズの第1弾であり、後期作品の大きな部分を占めることになる時代ミステリーの代表作としても知られています。本作の特筆すべきところは謎解きの面白さもさることながら、全7編からなる短編の探偵役が次々と変わっていく点が挙げられます。つまり、夢裡庵先生捕物帳と銘打ちながら謎を解く役目を担うのは夢裡庵とは限らないのです(夢裡庵も同心として事件解決には関与しますが)。そのため、先の読めない面白さがあります。それに、江戸の情緒や市井の人々の心情を巧みに描き出しており、時代小説としても秀逸です。個々の作品としてはまず、冒頭の『びいどろの筆』がミステリーとしてよくできています。見立て殺人という魅力的な謎に加えてその理由が意表をついていますし、伏線の貼り方も巧みです。また、『南蛮うどん』や『砂子四千両』の奇術的なトリックもユニークですし、その先にある意外な動機にも驚かされます。半七捕物帳やなめくじ長屋に連なる時代ミステリーの佳品です。
1989年度このミステリーがすごい!国内編第11位


黒き舞楽(1990)
小学校教師の胡島奏江は昔の教え子であり、一刀彫りで郷土人形を作る家業を継いだ銛口繁雄の話を耳にする。彼は交通事故で前妻を亡くし、その後、元同級生の三千代と再婚するが、彼女も体調がすぐれずに入院するというのだ。漠然とした不安を抱く奏江だったが、一週間後に三千代は心臓発作で死んでしまう。入院を頑なに拒否した結果だった。警察は一連の死に疑念を抱いて繁雄のアリバイを追及し、それに対して、繁雄は教育員会の阿尾木晴香にアリバイの偽証を依頼するのだった。繁雄の頼みを引き受けた晴香はのちに繁雄と祝言を上げるが、彼女も翌年に喀血し、そのまま亡くなってしまう。一体、銛口家に嫁いだ女はなぜ死んでしまうのか?そして、江戸時代から伝わる美しい浄瑠璃人形と銛口家とのただならぬ因縁とは?
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『湖底のまつり』以来、定期的に発表し続けていた泡坂流官能ミステリーの到達点です。著者ならではの純和風な世界観の中に、一刀彫りの家へ嫁いだ女が次々と死んでいくという謎と先祖からの因縁話を絡み合わせ、強烈なサスペンスを生みだしています。そして、その末に明らかになる異形ともいえる性愛の姿が衝撃的です。驚くべきトリックなどはありませんが、伏線の貼り方も巧みで本格ミステリとしても申し分のない出来だといえるでしょう。中編ほどの長さの中に性の快楽と恐怖を詰め込んだ著者渾身の力作です。
1991年度このミステリーがすごい!国内編第12位
黒き舞楽 (新潮文庫)
泡坂 妻夫
新潮社
1993-12T


蔭桔梗(1990)
紋章上絵師の章次のもとにかつて想いを寄せあっていた女性から蔭桔梗の紋入れの依頼があった。しかも、その依頼内容は20年前に事情があって下職に回してしまったものと同じだったのだ。それは彼女が密かな願いをかけて託した紋入れだったのだが.......。
◆◆◆◆◆◆
泡坂妻夫は本作に収録されている表題作で見事直木賞を受賞しています。ただし、受賞作を含め、全11編からなるこの短編集にはミステリー作品はありません。『ゆきなだれ』や『折鶴』のような恋愛ミステリーというわけではなく、完全な恋愛小説となっているのです。したがって、ミステリーにしか興味がないという人はスルーしても差支えないでしょう。とはいえ、たとえただの恋愛小説であっても随所にミステリー作家ならではのテクニックが組み込まれているのには思わず唸らされます。たとえば、表題作ではミステリー的なヒネリによってラストをより感慨深いものにしていますし、ミステリー的技巧を用いつつ、心暖まるエピソードを盛り上げていく『十一月五日』の手管も見事です。また、上絵師をしながら作家活動を続ける主人公が登場する『増山雁金』は著者の半自伝小説のようであり、興味深く読むことができます。もちろん、ミステリー作家としてのテクニックだけではなく、恋愛小説としてのクオリティも申し分ありません。泡坂妻夫の多彩な一面を知ることができる珠玉の短編集です。
第103回直木賞受賞
蔭桔梗(新潮文庫)
泡坂 妻夫
新潮社
2016-06-17


生者と死者 酩探偵ヨギ ガンジーの透視術(1994)
ある日、奇術バーに中村千秋という記憶喪失の美青年が迷い込み、紆余曲折の末にそこで働くことになる。それから1年が過ぎた頃、腕を磨いた千秋は客の前で銀貨を空のグラスから出現させるというテレポーション奇術を披露する。見事な腕前に驚く一同だったが、突然トランス状態に陥った千秋は銀貨を指で動かしたあとに意識を失ってしまうのだった。一方、銀貨の動きを目で追っていた客の一人は、それが文字によるメッセージだと気付く。メッセージの内容は「ハンコウハマスコシンジ」というものだった。なんと、世間を騒がしている殺人事件の犯人の名を告げていたのだ。一体、千秋は何者なのか?
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ヨギ ガンジーシリーズの第3弾です。前作の『しあわせの書ー迷探偵ヨギ ガンジーの心霊術』では驚くべきイリュージョンを読者に披露した泡坂妻夫ですが、本作はそれ以上に手の込んだ仕掛けを用意しています。なんと、本が16ページごとに袋とじになっているのです。そして、そのままの状態にして読むと上記で紹介した物語が短編ミステリーとして展開されていきます。しかし、袋を破って再度読み直すと、さっき読んだはずの短編ミステリーは消え失せ、あらたな長編ミステリーが出現します。つまり、袋とじの中の文章と既読の短編ミステリーが合体し、一つの大きな物語になったのです。まさに、文字の魔術であり、本という媒体でしかできない一大イリュージョンです。これには読者の多くが驚いたのではないでしょうか。ただ、その魔術を成立させるために、話が辻褄合わせに終始しており、内容自体は決して評価できるものではありません。起承転結がぎこちなく、無理矢理話を終わらせた感さえあります。仕掛けのために物語性を犠牲にした作品であり、それに関しては評価のわかれるところです。
1996年度このミステリーがすごい!国内編第17位


自来也小町(1994)
矢型連斎という謎の作家が残した蛙画は一見なんの変哲もない絵だったが、幸運を呼び寄せる吉祥画であるという噂が広まり、なんと百両もの値が付くようになる。すると、その絵が自来也と名乗る盗賊に、次々と盗まれるようになり.......。
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江戸時代を舞台に岡っ引き辰の活躍を描いた、宝引の辰捕者帳シリーズの第2弾です。このシリーズも夢裡庵先生捕物帳と同じく1作ごとに語り手が変わっていく形式を採用していますが、人間味溢れる辰親分のキャラクターが魅力的であり、江戸に生きる人々の人情と男女の機微を描いた作品としてもよくできています。ちなみに、シリーズ第1弾である『鬼女の鱗』は1988年度このミステリーがすごい!において18位にランクインしています。しかし、ミステリーとしての充実度は本作の方が上でしょう。シリーズ全6作の中でもその完成度は群を抜いています。収録されている7つの短篇はどれも秀作揃いですが、なかでも表題作の巧みなミスディレクションと鮮やかな推理が見事です。また、『毒を喰らわば』にはユニークな毒殺トリックが用いられていますし、『忍び半弓』で次々と仮説が飛び出してくるところなどはテンポのよい多重解決ものとして楽しめます。しかし、本作の白眉はなんといっても『夜光亭の一夜』でしょう。著者ならではの逆説的なロジックによって導き出されるトリックが鮮やかです。なお、本作を含むこのシリーズは1995年に『宝引の辰捕者帳』のタイトルでNHKによってドラマ化もされています。


亜智一郎の恐慌(1997)
江戸幕府開闢から250年が過ぎ、太平の世の中で御庭番はすっかり腑抜けになっていた。そこで、彼らに代わる存在として隠密方を拝命したのが、現代の気象予報士に当たる雲見番の番頭でやたらと長袴が似合う亜智一郎、全身に普賢菩薩を刻む小普請方の古山奈津之助、遠祖役小角の奥義を極める甲賀忍者の藻湖猛蔵、優男の隻腕隠密・緋熊重太郎といった面々だった。内憂外患の幕末において、彼らは次々に起きる騒動を解決すべく奔走するが......。
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亜愛一郎の先祖が活躍するシリーズ番外編です。とはいっても、本編のようなバリバリの本格ミステリではありません。どちらかといえば、陰謀劇や時代劇、あるいはドタバタ喜劇が主軸となっており、そこにいくばくかの謎解き要素を加えた作りになっています。そのため、亜愛一郎シリーズのような逆説やロジック満載の謎解きミステリーを期待すると肩すかしを喰らうことになるでしょう。その代わり、幕末の江戸が生き生きと描かれており、時代小説としては大いに読み応えがあります。しかも、主役の亜智一郎を始めとして登場人物のキャラが立ちまくっているので、エンタメ小説としても申し分ありません。ちなみに、収録されている7作品のなかで最も本格ミステリ色が強く、完成度も高いのは『補陀落往生』でしょう。藩主が数十人の藩士を惨殺して寺に埋めた事件と、老人たちを手も触れずに安楽死へと導く不可解な葬儀・補陀落往生との意外な繋がりに驚かされます。なお、亜智一郎シリーズは本作の他にも7作品が書かれており、それらは作者が没したのちに出版された『泡坂妻夫引退公演』に収録されています。
亜智一郎の恐慌 (創元推理文庫)
泡坂 妻夫
東京創元社
2004-01-01


奇術探偵 曾我佳城全集(2000)
新星の如く現れ、わずか2年で引退した美貌のマジシャン・曾我佳城は卓越した推理力の持ち主でもあり、さまざまな難事件を解決してきた。そして、そんな彼女が長年夢見てきた奇術博物館・佳城苑、通称"魔術城”の完成が目前に迫っていた。まずは親しい人だけに披露することになったのだが、その最中に悲劇が起きる。ラスベガスで成功を収め、20年ぶりに帰国した奇術師のイサノが佳城苑の舞台でいつの間にか開いていたセリから転落して死亡したのだ。一体誰がセリを開けたのか?
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本作は曾我佳城シリーズの完全版であり、既刊の『天井のトランプ(1983)』と『花火と銃声(1988)』、さらには単行本未収録作品7作を1冊の本にまとめています。トータルで22作の短編小説が収録されており、それぞれの収録作品は以下の通りです。

『天井のとらんぷ』より収録

・天井のとらんぷ
・シンプルの味
・空中朝顔
・白いハンカチーフ
・バースデイロープ
・ビルチューブ
・消える銃弾
・カップと玉

『花火と銃声』より収録

・石になった人形
・七羽の銀鳥
・剣の舞
・虚像実像
・花火と銃声
・ジグザグ
・だるまさんがころした

新規収録作品

・ミダス王の奇跡
・浮気な鍵
・真珠夫人
・とらんぷの歌
・百魔術
・おしゃべり鏡
・魔術城落成

探偵役が元奇術師ということもあり、本作はさながら奇術トリックの見本市といった趣になっています。まさに泡坂ミステリーの集大成といえるシリーズで、著者ならではの技巧をたっぷりと楽しむことができます。内容もバラエティに富んでおり、天井に貼りついたトランプからダイイングメッセージを読み取る『天井のとらんぷ』、曾我佳城の痕跡を消していっているかのような不気味な事件が続く中で鮮やかな逆トリックが決まる『ビルチューブ』、二重三重のトリックと巧みなミスディレクションの合わせ技が印象的な『消える銃弾』、盲点を突いたトリックで人間消失を演出してみせる『虚像実像』、足跡トリックの新たなパターンを創出した『ミダス王の奇跡』などなど、秀作・力作が目白押しです。なかには出来がいま一つのものもありますが、奇術のネタをこれだけずらりと並べられるとそれもある種の味として楽しむことができます。ただ、曾我佳城は亜愛一郎やヨギ ガンジーといった他の探偵に比べると個性が弱くて印象が薄い感があるので、その点については好みのわかれるところではないでしょうか。また、最終話の『魔術城落成』もシリーズの締め方としては賛否両論です。しかし、最終話の真相につながる伏線はかなり前から貼られており、計算づくの最終回であったことがわかります。このあたりはさすが泡坂妻夫です。なお、本作の講談社文庫版はなぜか各短編の収録順が本来の時系列とは異なるものとなっています。曾我佳城をめぐる人間模様の変化も読みどころの一つであるだけに、できるならばハードカバー版か創元推理文庫版を選択することをおすすめします。
2001年度このミステリーがすごい!国内編第1位
2001年度本格ミステリベスト10国内編第1位
奇術探偵 曾我佳城全集 上 (創元推理文庫)
泡坂 妻夫
東京創元社
2020-01-22
奇術探偵 曾我佳城全集 下 (創元推理文庫)
泡坂 妻夫
東京創元社
2020-01-22



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