最新更新日2021/12/03☆☆☆

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このミス2022
対象作品である2020年10月1日~2021年9月30日発売のミステリー&エンターテイメント作品の中からベスト20の順位を予想していきます。ただし、あくまでも個人的予想であり、順位を保証するものではありません。また、予想は作家の知名度や人気、ジャンルや作風、話題性などを考慮したうえで票が集まりそうな作品の順に並べたものであり、必ずしも予想順位が高い作品ほど優れているというわけでもありません。以上の点はあらかじめご了承ください。
※紹介作品の各画像をクリックするとAmazon商品ページにリンクします


このミステリーがすごい!海外版最終予想(2021年11月15日)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
記載方法は以下のようになっています。
予想順位.タイトル(作者名)このミスの順位(文春の順位 読みたいの順位 本ミスの順位 
ただし、「→このミスの順位(文春の順位 読みたいの順位 本ミスの順位 の部分が記載されているのは予想ランキングあるいはこのミスで20位以内のものだけです。
なお、文春、 読みたい、本ミスはそれぞれ「週刊文春ミステリーベスト10」「ミステリが読みたい!」「本格ミステリ・ベスト10」の略です。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

1位.自由研究には向かない殺人(ホリー・ジャクソン)2位文春2 読みたい1位 本ミス2 
5年前に起きた女子高生失踪事件。殺されたと推定されるも死体は見つからず、容疑者である男子高校生の自殺で幕引きとなった。17歳のピップは自由研究の課題にこの事件の再調査を選ぶ。自殺した少年とは親交があり、無実を証明したかったからだ。彼女は持ち前の行動力で調査を進めていくが......。
ヤングアダルト小説ならではのバイタリティあふれる主人公が魅力的で、ユーモアに富んだ楽しい作品に仕上がっています。インタービューなどを通して真相に迫っていく手法などもユニークな傑作です。
自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫)
ホリー・ジャクソン
東京創元社
2021-08-24


2位.ヨルガオ殺人事件(アンソニー・ホロヴィッツ)1位文春1 読みたい2位 本ミス1 
『カササギ殺人事件』から2年。クレタ島で小さなホテルを経営していた元編集者の私の元に裕福な夫妻が訪ねてくる。8年前に彼らが所有するホテルで殺人事件が起きたのだが、その真相をある本で見つけたと連絡してきた娘がそのまま失踪したというのだ。その本とはかつて私が編集したミステリで…。
超話題作『カササギ殺人事件』の続編。今回も名探偵ピュントが活躍する作中作と現実の事件の2本立てが楽しめるうえに、作中作に現実の事件の謎を解く鍵を織り込むなどの技巧に唸らされます。
ヨルガオ殺人事件 上 (創元推理文庫)
アンソニー・ホロヴィッツ
東京創元社
2021-09-13


3位.チェスナットマン (アン・スヴァイストロプ) ※ランク外(文春14位 )
コペンハーゲンで身体の一部を生きたまま切断されるという連続殺人事件が発生。被害者は若い母親ばかりで、現場にはいずれも小さな人形が残されていた。しかも、人形から検出された指紋は誘拐のうえ殺された少女のものだった。トゥリーン刑事らは服役中の犯人や事件の関係者を調べ始めるが.....。
衝撃的なとシーンで始まった物語はスピーディな展開と共に二転三転していき、ページをめくる手が止まらなくなります。不穏なラストも印象的。謎解きの面白さもあるサイコサスペンスの傑作です。
チェスナットマン (ハーパーBOOKS)
セーアン スヴァイストロプ
ハーパーコリンズ・ジャパン
2021-07-16


4位.三時間の導線(アンデシュ・ルースルンド)※ランク外
ストックホルムの病院の死体安置場に置かれていた死体がいつのまにか22体から23体に増えていた。増えたのはアフリカンの男性だが身元は不明。しかも、翌日にはアフリカ系の女性の遺体まで発見されたのだ。捜査を進める内に、港のコンテナからなんと68体もの遺体が発見され、さらに新たな遺体が.....
グレーンス警視シリーズ第8弾。移民問題に絡んだ凄惨な事件で始まる重苦しい内容ながらもアクション満載のテンポの良い物語にぐいぐい引き込まれていきます。意外な真相にも驚かされる傑作です。
三時間の導線 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ ルースルンド
早川書房
2021-04-28


5位.台北プライベートアイ(紀蔚然)5位文春1 読みたい9位
大学教授兼劇作家の呉誠は長年うつ病とパニック障害に悩まされてきた。ある日、日頃の鬱憤が爆発してみんなを酒席で罵倒してしまう。恥いった呉誠は職を辞して隠遁し、私立探偵の看板を掲げることになる。だが、台北を震撼させている猟奇事件に巻き込まれ、警察からは犯人だと疑われる羽目に...。
台湾発のハードボイルドですが、テンポがよくユーモアが散りばめられているのでサクサク読むことができます。また、日本の探偵小説を始めとする蘊蓄も楽しく、台湾の生活を生き生きと描けています。
台北プライベートアイ (文春e-book)
紀 蔚然
文藝春秋
2021-05-13


6位.父を撃った12の銃弾(ハンナ・ティンテ)
4位文春5 読みたい4位
12歳のルーは父とともに亡き母の故郷に移り住む。各地を転々としていた父のサミュエルが娘に真っ当な生活をさせようと決意したからだ。だが、ルーは母が亡くなった理由も父の体に刻みこまれた12の銃痕の理由も知らされていなかった。やがて、その因縁が父娘の元に忍び寄ってきて.......。
銃痕の由来が語られる過去のエピソード一つ一つが完成度の高い短篇となっており、最後に少女の成長物語と絡み合う構成が見事です。クライムサスペンスとしても青春小説としても一級の傑作。
父を撃った12の銃弾 上 (文春文庫)
ハンナ・ティンティ
文藝春秋
2023-05-09


7位.TOKYO REDUX 下山迷宮(デイヴィッド・ピース)9位文春8 読みたい13位
1949年7月。GHQ占領下の東京で国鉄総裁が出勤途中に姿を消し、深夜の鉄路で轢断死体として発見された。スウィーニー捜査官は裏社会とのコネを頼りに占領都市の暗部へと潜ってゆく。一方、東京オリンピック目前の1964年6月には下山事件の取材を行っていた探偵小説作家の黒田浪漫が失踪し......。
東京三部作の完結編。3部構成の第1部は米国捜査官が主役のいかにも海外ミステリーといった赴きですが、2部では幻想譚めいた探偵小説となり、3部で怒涛の大団円を迎えます。万華鏡のような傑作です。
TOKYO REDUX 下山迷宮 (文春e-book)
デイヴィッド・ピース
文藝春秋
2021-08-24


8位.警部ヴィスティング 鍵穴(ヨルン・リーエル・ホルスト)※ランク外
大物政治家のクラウセンが心臓発作で急逝する。その件でヴィスティング警部は検事総長に呼び出される。クラウセンの別荘から8000万クローネ(約14億円)を越える外国紙幣が発見されたのだという。しかも、その翌日に別荘は放火され、焼け跡から若者の失踪事件への関与を示唆する証拠が出てきて.....。
警部ヴィスティングシリーズの第13弾です。地道な捜査が続く地味な展開ながらも主人公の魅力とテンポの良さで物語に引き込まれていきます。孫や共に事件を追っていく娘との関係にもほっこり。
警部ヴィスティング 鍵穴  ~THE INNERMOST ROOM~ (小学館文庫)
ヨルン・リーエル・ホルスト
小学館
2021-03-05


9位.木曜殺人クラブ(リチャード・オスマン)8位文春4 読みたい3位
クーパーズ・チェイスは現役を退いた高齢者のための施設。そこに元警官の入居者が持ち込んだ捜査ファイルに基づいて未解決事件の調査を行っているグループがあった。その名は"木曜殺人クラブ"。一癖も二癖もある彼らは施設経営者の一人が何者かに殺されたことを知り、真相究明に乗り出すが......。
前半は個性豊かな老人たちのユーモアあふれるやりとりが楽しく、中盤以降は様々な謎に引き込まれていきます。ただ、終盤は謎解きというより、重い過去の暴露に終始するのは好みが分かれるところ。
木曜殺人クラブ (ハヤカワ・ミステリ)
リチャード オスマン
早川書房
2021-09-02


10位.第八の探偵(アレックス・パヴェージ)10位文春7 読みたい6位 本ミス4 
作家のグラント・マカリスターは1940年代に独自の数学理論に基づいて書きあげたミステリー短編集を刊行して以来、地中海の小島に引き籠っていた。そこに女性編集者のジュリアが訪れ、短編集の復刊話を持ちかける。2人は収録作を一つずつを読み返して議論を重ねるが、その先には大きな謎が......。
さまざまな謎を独自の数学理論で紐解いていく展開がパズラーファンにとっては堪りません。本格ミステリを外側から解体していくメタミステリであると同時に本筋のどんでん返しも楽しめる傑作です。
第八の探偵 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アレックス パヴェージ
早川書房
2021-04-14


11位.越境者(C・J・ボックス)※ランク外
猟区管理官のジョーは一度は職を辞したものの、知事の意向で現場に復帰する。彼が新たな任務として手掛けたのは製薬会社の跡取り失踪事件だ。跡取り息子は暗殺業を営んでいると目されるテンプルトンの標的にされた可能性があるという。さらに、ジョーの友人のネイトが現場近くで目撃されており...。
ジョー・ピケットシリーズの第14弾です。今回もシリーズの魅力であるアクションと自然描写が満載で大いに楽しませてくれます。さらに、ジョーの家族やネイトとの友情の物語も読み応えがあります。
越境者 (創元推理文庫)
C・J・ボックス
東京創元社
2021-06-30


12位.狩られる者たち (アルネ・ダール)※ランク外
雪原の中の病院で目を覚ました男は記憶を失っていた。医師からはサムと呼ばれていたが何も思い出すことが出来ない。やがて彼は衝動にかられるように病院から逃げ出した。バスにはねられ、病院に連れ戻された彼は自分がブロンドの髪の女によってこの病院に連れてこられたことを思い出すが......。
このミス2021で8位だった『時計仕掛けの歪んだ罠』の続編。かなり入り組んだ展開でストーリーを追うのに骨が折れますが、慣れてくるとサスペンスたっぷりな二転三転の展開に引き込まれていきます。
狩られる者たち (小学館文庫)
アルネ・ダール
小学館
2021-07-06


13位.宿敵(リー・チャイルド )※ランク外
大学のキャンパスで一人の若者が拉致されようしている現場に居合わせたジャック・リーチャーは彼を救うべく悪漢ども射殺。勢い余って警官までも射殺し、その場から逃げだしてしまう。救出した若者は輸入業者のザカリー・ベックの息子だった。リーチャーはDEAの要請でザカリーに接近するが.......。
2003年発表の第7弾。シリーズ最高傑作との呼び声も高く、危機また危機の連続には手に汗握ります。山場の連続すぎて深みが足りない面はあるものの、極上のエンタメであることは間違いなしです。
宿敵(上) (講談社文庫)
リー・チャイルド
講談社
2021-08-12


14位.評決の代償 (グレアム・ムーア)※ランク外
2009年。大富豪の娘が行方不明となり、黒人教師のボビーが逮捕されるも陪審となったマヤの主張によって無罪判決となる。だが、最後まで有罪を主張していた黒人のリックは10年後に当時の陪審員たちを集め、TV番組での再検証始める。ところが、リックがマヤの部屋で殺され、彼女は逮捕されるが......。
『十二人の怒れる男』のオマージュ的作品ですが、そこからさらに2段3段構えになっているのが本作の妙味です。優れたリーガルサスペンスであり、同時に謎解きや社会派としても一級品です。
評決の代償 (ハヤカワ・ミステリ)
グレアム ムーア
早川書房
2021-07-03


15位.悪童たち(紫金陳)11位文春15
中学2年の朱朝陽は孤児院から脱走してきた幼馴染みの丁浩と妹分の普普を匿うことになる。ある日、3人は山に遊びに行くが、撮影した動画を見返してみると、人が崖から突き落とされる場面が映っていた。犯人は義父母の財産を狙う張東昇だ。彼らは東昇から金を脅し取る計画を画策するが......。
子供たちの容赦ない転落人生を描いたサスペンス作品であり、同時に、その子供たちも一筋縄ではいかないところが本作の読みどころとなっています。特に、終盤の展開は驚愕のひとことです。


16位.文学少女対数学少女陸秋槎13位文春12 読みたい18位 本ミス3 
女子高生の陸秋槎は校内誌の新企画として自分の書いた犯人当てミステリーを掲載する。しかし、彼女の同級生で数学の天才である韓采蘆は秋槎自身が想定していなかった真相を論理的矛盾なく導き出してしまう。秋槎は采蘆に自作のアドバイザーになってもうおうとするが、彼女は想像以上の変人で.....。
後期クイーン問題にこだわったメタミステリーで作中作をミステリー論と数学論を比較しながら紐解いていく手法がユニーク。また、百合ミステリーとしても秀逸です。ただ、現実での事件は蛇足かも。


17位.ラスト・トライアル(ロバート・ベイリー)※ランク外
相棒のリックが父の急死で法律事務所を一時離れたため、一人で弁護を請け負うことなったトム。そんな彼の元に少女が訪れる。殺人事件の容疑者となった母を弁護してほしいというのだ。しかも、被害者はトムとリックの宿敵で母親も因縁の相手だった。トムは勝ち目のない裁判に挑む決意をするが......。
1作目2作目の登場人物が事件で重要な役割を果たすという、大河小説の趣を感じさせてくれるシリーズ第3弾です。盟友と袂を分かち、自身の病と対峙しながらも信念を貫くトムの生きざまに痺れます。
ラスト・トライアル (小学館文庫 ヘ 2-3)
ロバート・ベイリー
小学館
2021-01-04


18位.夜と少女 (ギヨーム・ミュッソ)※ランク外(文春19位 読みたい19位
1992年、コート・ダジュールの名門高校にて、魅力的な女生徒だったヴィンカが忽然と姿を消した。状況から哲学教師のアレクシスと駆け落ちしたとの結論に至り、以来25年、彼らを見た者はいない。一方、事件に関わる重大な秘密を抱えたまま卒業したトマは体育館改築の知らせに母校を再訪するが.....。
高校時代の美少女失踪事件を巡る物語であり、著者ならではの先の読めない展開にぐいぐい引き込まれていきます。テンポが良く、息つく暇もない面白さですが、アンモラルな結末は賛否が分かれそう。
夜と少女 (集英社文庫)
ギヨーム・ミュッソ
集英社
2021-11-04


19位.誕生日パーティー (ユーディト・W・タシュラー )15位文春13 
キムはオーストリアで暮らすカンボジア移民。50歳の誕生日パーティーに次男のヨナスはサプライズとして幼なじみのテヴィを招待する。だが、彼女はポル・ポト政権下での苦難を共に乗り越えてきた妹のような存在であるとともに、キムにとって最も会いたくない人物だった。一体過去に何があったのか?本作は現代パートの間にポルポト政権下での描写を挿入する形をとっており、その悲惨さには目を背けたくなります。しかし、そこからどんでん返しに至る手管が見事で読後感は決して悪くありません
誕生日パーティー
ユーディト・W・タシュラー
集英社
2021-05-26


20位.彼と彼女の衝撃の瞬間 (アリス・フィーニー)7位文春20 読みたい7位
ロンドンから車で2時間ほどの場所にあるブラックタウンの森で女性の死体が発見される。彼女の爪には"偽善者"と記されていた。BBC記者のアンは故郷の町で起きたその事件の取材に向かう。一方、刑事のジャックも捜査を開始する。だが、彼らは何かを隠しているようで2人の話は微妙に食い違い......。
物語は記者と刑事の交互の視点で語られていきますが、両者ともいわゆる信用できない語り手であり、意外な事実が次々明らかになっていく後半の展開には驚かされます。ヒネリの効いた傑作サスペンス。
彼と彼女の衝撃の瞬間 (創元推理文庫 M フ)
アリス・フィーニー
東京創元社
2021-08-31



その他注目作品50

21.見知らぬ人 (エリー・グリフィス)18位文春3 読みたい8位 本ミス10 
中学校の教師であるクレアは仕事の傍ら、ヴィクトリア朝時代の作家ホランドについて研究していた。この学校はもとはホランドの邸宅だったのだ。ところが、ある日、彼女の同僚が何者かに殺される。しかも、遺体のそばにはホランドの怪奇小説『見知らぬ人』の一文が書かれたメモが残されており......。
2020年エドガー賞受賞。教師殺害事件を主軸とし、そこに作中作である怪奇小説を挿入することで不気味な雰囲気を盛り上げることに成功しています。テイストの異なる3人の女性の語りも読み応えあり。
見知らぬ人 (創元推理文庫)
エリー・グリフィス
東京創元社
2021-07-21



22.オクトーバー・リスト(ジェフリー・ディーヴァー)5位文春6 読みたい5位 本ミス10 
ガブリエラは娘のサラを誘拐され、犯人は解放の条件にある秘密のリストを彼女に要求する。誘拐犯との交渉は友人にまかせ、ガブリエラは隠れ家でその帰りを待つことになる。だが、やがて姿を現したのは娘を誘拐した犯人自身だった。果たして事件の鍵を握るオクトーバーリストとは何なのか?
最終章から始まり、過去へと遡っていく時間逆行ミステリー。特殊な構成のために前半は読みづらさを感じますが、最後に炸裂する大仕掛けには驚かされ、用意周到に張り巡らされた伏線に唸らされます。
オクトーバー・リスト (文春文庫)
ジェフリー・ディーヴァー
文藝春秋
2021-03-09


23.ブート・バザールの少年探偵(ディーパ・アーナパーラ)
インドのスラム街で暮らす9歳の少年ジャイは大の刑事ドラマ好きだった。ある日、彼のクラスメイトが行方不明になるが、警察は賄賂なしでは動かない。そこで、ジャイは少年探偵団を結成し、独自に捜査を開始する。だが、失踪事件はその後も続き、ジャイは想像を超える事態に巻き込まれていく........。
2021年エドガー賞受賞作品。子供の活躍を描いたライトミステリーの形を取りながら、インドの闇を徐々に浮かび上がらせていく手法に引き込まれます。ただ、ミステリーとしては特筆すべき点はなし。
ブート・バザールの少年探偵 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ディーパ・アーナパーラ
早川書房
2021-04-14


24.鬼火( マイクル・コナリー )
新人時代のボッシュの相棒で恩師でもあるトンプソン元刑事が亡くなり、葬儀に参列したところ、未亡人から一冊の調書を託される。それは1990年に起きた未解決の殺人事件についての調書だった。ボッシュは恩師のこだわっていた事件を再調査すべく、ハリウッド署のバラード刑事に協力を求めるが......。
ボッシュ、ミッキー・ハラ―、バラードとオールスターキャストのシリーズ第22弾です。3つの事件が絡まり合っていくのがスリリングで、後半の怒涛の展開に引き込まれていきます。著者熟練の傑作。
鬼火(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリー
講談社
2021-07-15


25.もう耳は貸さない(ダニエル・フリードマン)
元殺人課の刑事バック・シャッツも89歳になり、体の衰えが顕著になってくる。そんななか、ラジオ番組んのレポーターから過去の捜査についての取材を求められる。かつて彼が逮捕した殺人犯が死刑直前になって暴力で自白を強要されたと主張しているというのだ。バックは改めて事件を振り返るが.....。
シリーズ第3弾。ジジイがマグナムをぶっ放すような爽快感は影を潜め、内省的な作品になったのは好みの分かれるところです。一方で、死刑制度の是非を問う社会派ミステリーとしては読み応えあり。
もう耳は貸さない バック・シャッツ・シリーズ (創元推理文庫)
ダニエル・フリードマン
東京創元社
2021-02-22


26.血の葬送曲(ベン・グリード)20位読みたい11位
スターリン統治下のレニングラード。凍てついた線路の上に歯を抜かれ、顔の皮を剥がされた5つの死体が並べられるという事件が発生する。しかも、一人はMGBの人物らしい。人民警察のロッセル警部補は捜査を進める内に、犯人を捕えられるのは元ヴァイオリニストの自分しかいないと気付くが.......。
通常の警察小説とは異なり、政治的に正しい捜査をしなければ粛清されるという状況が独特の緊迫感を生んでいます。また、その中で真実を求め続ける主人公が魅力的。ただ、後半は少々荒唐無稽な面も。
血の葬送曲 (角川文庫)
ベン クリード
KADOKAWA
2021-04-23





27.老いた殺し屋の祈り(マルコ・マルターニ)17位
オルソは還暦をとうにすぎた老人だったが、組織一の殺し屋として名を轟かせていた。だが、心臓発作で倒れたことにより、彼は行き別れた恋人と娘に一目会いたいと願うようになる。そして、オルソは組織に背き、イタリアに中部の田舎町を目指す。ところが、その途上で、何者かの襲撃を受け......。
凄腕の殺し屋でありながら、一般人には礼儀正しく心優しい主人公が魅力的です。また、苛烈な暴力シーンとほのぼのとしたシーンとのメリハリも絶妙で、優れたエンタメ作品に仕上がっています。
老いた殺し屋の祈り (ハーパーBOOKS)
マルコ マルターニ
ハーパーコリンズ・ジャパン
2021-02-17


28.ホテル・ネヴァーシンク(アダム・オファロン・プライス)
20世紀初頭。ユダヤ系移民のアッシャー・シコルスキーは苦難の末にキャッキル山地にたどり着き、そこで始めたホテル業で大成功を収める。ところが、1950年の事件を契機にホテル周辺で子どもの行方不明事件が続発し、ホテルは次第に没落していく。その裏には経営者一族の秘密が.....。
複数の語り手によって半世紀以上の物語が紡がれていく大河ミステリー。断片的な情報によって徐々に真相が見えてくる趣向に加え、歪なエピソードを紡ぎ合わせた構成には迷宮の如き魅力があります。
ホテル・ネヴァーシンク (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
プライス,アダム・オファロン
早川書房
2020-12-03


29.天使と嘘 (マイケル ロボサム)
臨床心理士のサイラスは嘘を見破るという能力を有したイーヴィという少女と邂逅する。一方、15歳にしてフィギュアスケートの女子チャンピオンであるジョディは花火大会の翌日に遺体で発見される。その捜査に心理学のエキスパートとして参加したサイラスはイーヴィとともに、事件の謎を追うが...。
主人公視点と少女視点で語り口ががらりと変わるのがユニーク。ミステリーとしてはやや弱いですが、悲しい過去を持つ彼女に主人公が寄り添う姿にはぐっとくるなど、ドラマとしては読み応えあり。
天使と嘘 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
マイケル・ロボサム
早川書房
2021-06-16


30.帰らざる故郷(ジョン・ハート)
1972年。ベトナム戦争の最中に軍を不名誉除隊させられ、刑務所に入っていたジェイソンは数年ぶりに弟と再会する。だが、そのジェイソンに女性殺しの容疑がかかり、弟は真実を突き止めるべく奔走する。兄に寄り添おうとする弟、弟を自分から遠ざけようとする兄。そこに隠されていた事実とは?
ベトナム戦争の傷跡と兄弟の絆を描いた作品であり、激しい憎悪とつかの間の安らぎが入り混じった物語は読者の心を激しく揺さぶります。余韻が残るラストも印象深いクライムノベルの佳品です。
帰らざる故郷 (ハヤカワ・ミステリ 1967)
ジョン・ハート
早川書房
2021-04-28


31.ランナウェイ:RUN AWAY(ハーラン・コーベン)
金融アナリストのサイモンはボーイフレンドに薬漬けにされて寮から姿を消した娘を苦難の末に見つけ出す。だが、娘のボーイフレンドを殴り飛ばした映像がSNSにアップされたことで、彼は誹謗中傷にさらされてしまう。しかも、そのボーイフレンドが殺され、殺人の嫌疑までかけられることになり....。
テンポの良いサスペンスに引き込まれ、謎の殺し屋コンビや探偵の存在が読者の興味を掻き立てます。そして、一見無関係なそれらの断片を繋ぎ合わせ、驚くべき真相を浮かび上がらせる構成が見事です。
ランナウェイ: RUN AWAY (小学館文庫)
コーベン,ハーラン
小学館
2020-12-08


32.運命の証人(D・M・ディヴァイン )14位文春16 読みたい16位 本ミス6 
弁護士のジョン・プレスコットは2件の殺人事件で告発されており、ほとんどの人間は彼が有罪だと信じていた。そもそものはじまりは6年前。のちに妻となるノラ・ブラウンとの出会いが彼の人生の歯車を狂わせたのだ。絶望的な状況のなか、果たして裁判の行方は?そして、真犯人の正体とは?
回想によって語られる、2人の女性を巡るドラマは非常に濃密で読み応え十分。そして、そのなかにさり気なく手掛かりを紛れ込ませ、真相に迫っていく過程でそれを浮き彫りにしていく手管が見事です。驚くような仕掛けこそないものの、ドラマと謎解きの融合という点では極めて高いレベルにある傑作。
運命の証人 (創元推理文庫 M テ)
D・M・ディヴァイン
東京創元社
2021-05-31


33.スリープウォーカー マンチェスター市警 エイダン・ウェイツ (ジョセフ・ノックス )3位文春10 読みたい9位 本ミス8 
十数年前に一家4人を惨殺した犯人が余命宣告される。マンチェスター市警のエイダンは犯人の収容された病院の警護にあたるも突然何者かの襲撃を受け、犯人が殺されたうえに相棒のサティが重傷を負う。襲撃犯は一体なぜ死にかけの男をリスクを冒してまで殺したのか?エイダンは謎を追うが.......。
エイダンシリーズの第3弾であり、三部作の完結編に位置づけられた作品です。そのため、動機の謎を追いつつも最後はノワールらしい結末を迎えます。ヒネリを加えつつも王道的にまとめた佳品です。


34.燃える川(ピーター・ヘラ―)
親友同士のジャックとウィンは大学の休みを利用してカヌー旅行に出掛ける。ところが、その途中で山火事と遭遇し、計画の変更を迫られるのだった。深い霧の中で男女が口論する声を聞き、翌日、怪我を負った女性を発見する。そして、一行は生き延びるためのサバイバルを余儀なくなさるのだが......。
前半は壮大なスケールの自然に圧倒され、後半は森林火災の恐怖に手に汗握るといった具合に、卓越した描写力が光ります。大自然を舞台にした冒険サスペンスとしてよくできた作品です。
燃える川 (ハヤカワ文庫NV)
ピーター ヘラー
早川書房
2021-01-21


35.花嫁殺し(カルメン・モラ)
公園で若い女性の死体が発見される。被害者は結婚を控えた女性だったが、顔が変形するまで殴られているうえに、頭蓋骨の穴からウジ虫を埋め込められていた。スペイン警察の精鋭・特殊分析班を率いるエレナ警部は被害者の姉も7年前に同じ手口で殺されていることを知る。だが、犯人は服役中で......。
馴染みの薄いスペインミステリーですが翻訳が秀逸でサクサク読めます。奔放な性格で悲しい過去を持つエレナのキャラが立っており、後半の怒涛の展開も見事です。グロい内容は好みのわかれるところ。
花嫁殺し (ハーパーBOOKS)
カルメン モラ
ハーパーコリンズ・ジャパン
2021-04-16


36.三体Ⅲ 死神永生(劉慈欣)
危機紀元2008年。面壁者の一人である羅輯の計略により、ついに三体文明の侵略を食い止めることに成功する。だが、平和の訪れと共に人類は危機感を喪失し、人類同士での諍いを始めるようになる。一方、面壁計画の裏で密かに発動していた階梯計画が進行し、人類の運命を大きく変えることに...。
シリーズ完結編である本編では前作までのエンタメ寄りのSFからハードSFへと色を変え、SFガジェットの乱れ打ちが始まります。天井知らずのスケールと充実の人間ドラマが見事に融合した傑作です。
三体Ⅲ 死神永生 上
劉 慈欣
早川書房
2021-05-25


37.狼たちの城 (アレックス・ベール)12位読みたい14位 
1942年。ゲシュタポ高官の愛人である人気女優がニュルンベルク城内で喉を掻き切られて殺される。一方、ユダヤ人古書店店主のアレックスはナチスの目を欺き、家族を守るためにゲシュタポ特別捜査官になりすます。そして、捜査の素人であるにも関わらず、難事件解明に挑むことになるのだが...。
偽探偵が絶体絶命の窮地の中で探偵小説の知識を駆使して密室殺人に挑むという設定が絶妙。前半は少々冗長ではあるものの、後半からの怒涛の展開に一気に引き込まれます。時代背景も興味深い。
狼たちの城 (扶桑社BOOKSミステリー)
アレックス・ベール
扶桑社
2021-06-02


38.マイ・シスターキラー(オインカン・ブレイウェイト)
アフリカ最大の都市・ラゴスで看護婦をしているコレデには悩みがあった。セクシーな妹・アヨオラが新しい恋人を作っては次々と殺害し、死体の処理を自分に押し付けてくるのだ。しかも、彼女が想いを寄せている医師が妹に一目惚れをしてしまう。一方、警察の捜査は次第に姉妹の元に迫っていき.....。
アフリカ人作家によるクライム文学。おぞましい状況をユーモラスに描いたブラックコメディとして秀逸で、姉妹の過去が明らかになるにつれて滲み出る切なげな雰囲気にも味わい深いものがあります。
マイ・シスター、シリアルキラー (ハヤカワ・ミステリ 1963)
オインカン・ブレイスウェイト
早川書房
2021-01-07


39.誘拐:P分署捜査班(マウリツゥオ・テ・ジョパンニ)
学校行事で美術館を訪れていた10歳の少年が姿を消す。所轄のP分署捜査班が初動捜査を行うなか、次第に事件は誘拐の様相を強めていく。一方、捜査班を率いるロヤコーノ警部はスポーツジム経営者宅の空き巣事件を調べていた。さらに、副署長が独自捜査を行っていた連続自殺事件も新たな展開が...。
シリーズ第2弾。捜査班の面々の個性が際立ち、警察小説として前作以上に読み応えのある作品に仕上がっています。また、ミステリーとしての目新しさはないものの、ラストの展開には驚かされます。
集結 (P分署捜査班) (創元推理文庫)
マウリツィオ・デ・ジョバンニ
東京創元社
2020-05-29


40.素晴らしき世界(マイクル・コナリー)
女刑事レネイ・バラードは見ず知らずの男が古い事件のファイルを漁っているのを発見する。男は元ロス市警刑事のハリー・ボッシュで、かつてハリウッド署で起きた、15歳の家出少女が殺害された事件を調べているのだとう。レネイはボッシュを追い出すが、彼女もその事件に興味を覚え........。
『汚名』の続編である本作でボッシュは『レイト・ショー』の主人公レイネとコンビを組みます。主人公が2人になったためにやや冗長な感もありますが、最強コンビの活躍は痛快で読み応えありです。
素晴らしき世界(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリー
講談社
2020-11-13


41.暗殺者の献身 (マーク・グリーニー)
ジェントリーは重篤な感染症に蝕まれながらも、治療を切り上げてベネズエラに向かう。米国情報員が失踪する事件が世界中で続出しており、その謎を解く鍵となる人物を連れ出す任務をCIAから任務を託されたからだ。だが、目標の人物の確保には成功するものの、謎の傭兵チームからの攻撃を受け......。
グレイマンシリーズの第10弾。今回は10カ国ほどの諜報員数十人が入り乱れる展開なので頭の中を整理するのが大変ですが、その分、世界情勢の描写がリアルで、駆け引きや戦いなども臨場感満点です。
暗殺者の献身 上 グレイマン (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2021-09-16


42.暗殺者の悔恨(マーク・グリーニ)
グレイマンは依頼に基づき、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争における戦争犯罪人を暗殺する。だが、そのことで国際的な性的人身売買を行っている巨大組織を敵に回してしまう。しかも、拉致された女性たちに危害が及ぶことを知ったグレイマンは、彼女たちを救うべく行動を開始するが......。
グレイマン・シリーズの第9弾。一人称のグレイマンは最初違和感がありますが、三人称との使い分けが巧みで次第に気にならなくなります。下巻からの派手なノンストップアクションは安定の面白さ。
暗殺者の悔恨 上 (ハヤカワ文庫NV)
マーク・グリーニー
早川書房
2020-11-19


43.危険な男(ロバート・クレイス)
銀行員の女性・イザベルが拉致される現場を目撃した私立探偵のパイクは彼女を無事救出する。ところが、捕えた犯人は保釈され、同時にイザベルが失踪してしまうのだった。しかも、釈放された犯人はその直後に殺されていた事実が判明する。一体イザベルの身に何が起きたのか?
パイクシリーズの第5弾。寡黙で強いパイクの魅力は相変わらずで、激しいアクションをたっぷり堪能することができます。ただ、思慮の浅いヒロインの言動については好みのわかれるところです。
危険な男 (創元推理文庫)
ロバート・クレイス
東京創元社
2021-01-28


44.ファントム 亡霊の罠(ジョー・ネスボ)
ハリーの元恋人の息子であるオレグが殺人容疑で逮捕される。幼い頃の彼をよく知るハリーはとても信じられず、独自に調査を開始する。だが、オレグは母と自分を捨てたハリーを責め、何もしゃべろうとはしなかった。しかも、調べれば調べるほどオレグに不利な証拠ばかりが揃い.......。
刑事ハリー・ホーレシリーズ第9弾。刑事ではなくなったハリーですが、相変わらず満身創痍で事件に立ち向かっていく姿が描かれます。そして、その末に至るラストがなんとも切なくて衝撃的です。


45.石を放つとき(ローレンス・ブロック)
マット・スカダーはエレインの昔馴染みからストーカー被害の相談を受ける。なんとかストーカー行為をやめさせてほしいとのことだが、加害者の名前も顔も全くわからないというのだ。五里霧中のなか、果たしてスカダーは男を見つけ出し、目的を達成することができるのだろうか?
アメリカで2018年に発表された中編と2011年発表の11編収録短編集との合本です。驚くような展開があるわけではないものの、ネオハードボイルドの旗手が放つ熟練の味わいが堪能できる好編です。
石を放つとき (マット・スカダー・シリーズ)
ローレンス・ブロック
二見書房
2020-11-26


46.つけ狙う者(ラーシュ・ケプレル)
国際警察のヨーナ・リンナ警部が消息を絶ってから8カ月。巷では独身女性を狙った惨殺事件が続発していた。犯人は被害者の顔をめった切りにし、そのうえ、犯行直前の映像を警察に送りつけていたのだ。被害者同士の接点はなく、警察は過去の犯罪歴から容疑者を絞ろうとするが......。
ヨーナ・リンナ刑事シリーズの第5弾。とはいえ、前半は肝心の主人公が不在で、やや散漫な印象を受けます。しかし、後半からは強烈なサスペンスと怒涛の展開が始まり、一気に引き込まれます。
つけ狙う者(上) (扶桑社BOOKSミステリー)
ラーシュ・ケプレル
扶桑社
2020-12-25


47.ウサギ狩り人(ラーシュ・ケプレル )
ストックホルムの高級住宅街で殺人事件が発生する。被害者はスウェーデンの外務大臣であり、売春婦と行為に及んでいる最中に銃殺されたのだ。国家を揺るがす凶悪犯を追跡するために服役中の身から恩赦を受けて復帰したヨーナ元警部は、犯人がさらなる殺害計画を目論んでいることを看破し.......。
ヨーナ・リンナ刑事シリーズの第6弾。前作『つけ狙う者』でボロボロになったヨーナが颯爽とした姿を見せるのがファンにとっては嬉しいところです。物語も後半から怒涛の展開で安定の面白さ。
ウサギ狩り人(上) (扶桑社BOOKSミステリー)
ラーシュ・ケプレル
扶桑社
2021-09-29


48.消える魔術師の冒険 聴取者への挑戦IV (エラリー・クイーン)
交差点で急に動かなくなったタクシーから男の他殺死体が発見される『タクシーの男の冒険』、甥や姪に対してこの中に犯罪者がいる旨を告げるともに遺言状の書き換え及び警察への告発を宣言した汽船会社社長が雪密室と化した小屋で殺される『見えない足跡の冒険』など、全七篇を収録。
ラジオドラマシナリオ集第4弾。相変わらず余技とは思えない質の高い作品が並び、雪密室・犯罪者だらけのなかでのフーダニット・クイーン親子の推理合戦と、さまざまな趣向で楽しませてくれます。


49.ナイト・エージェント(マシュー・クワーク)
FBI局員のピーターの役割はホワイトハウスの危機管理室でめったにかかってこない深夜の緊急連絡を取り次ぐだけの退屈なものだった。ところが、ある夜、取り乱した女の声で「赤の台帳、オスプレイ、6日後」と告げられ、それがきっかけで彼は国家的陰謀に巻き込まれることになり......。
誰が敵で誰が味方かわからない状況で殺し屋から命を狙われるスリル満点の謀略スリラー。テンポがよくて一気に読めますし、ホワイトハウスの内実を描いた物語としても興味深いものがあります。
ナイト・エージェント (ハーパーBOOKS)
マシュー クワーク
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2020-11-17


50.ガン・ストリート・ガール(エイドリアン・マッキンティ)
富豪の夫婦が射殺されという事件が発生。ほどなくして最有力容疑者と目されていた被害者夫婦の息子が崖の下から死体となって発見される。自殺だと思われ、遺書も残されていた。だが、ショーン・ダフィ警部補は不審なものを感じ、新人刑事と共に事件を追うも、関係者から新たな犠牲者が......。
シリーズ4弾。国際的な陰謀や本格めいた謎解きは少々唐突感があるものの、混迷極まる80年代の北アイルランドを背景に展開される、史実を絡めた人間ドラマは読み応えがあります。新キャラも魅力的。


51.猿の罰(J・D・バーカー)
50代のベテラン刑事のサム・ポーターはシカゴを震撼させる連続殺人鬼〈四猿〉を追っていたが、なんとポーターと四猿が知り合いであることを示唆する写真が発見される。拘留され、追い詰められるポーター。一方、「父よ、お許しください」という句が添えられた祈る死体が各地で発見され.......。
四猿シリーズ三部作の完結編です。それだけに展開は今まで以上に派手で、特に最終章は怒涛の展開で読み応え満点です。ただ、登場人物が多すぎるので1作目からまとめて読まないと分かりにくいかも。
猿の罰 〈四猿〉シリーズ (ハーパーBOOKS)
J・D バーカー
ハーパーコリンズ・ジャパン
2020-10-16


52.「グレート・ギャツビー」を追え(ジョン・グリシャム)
アメリカの文豪・フィッシュジェラルドの直筆原稿が厳重な警備をかいくぐって大学図書館から盗まれる。捜査線上に浮かび上がったのはフロリダで書店を経営している男。彼には希覯本収集家というもう一つの顔があった。真相を探るべく、新進気鋭の女流作家マーサー・マンが彼に接近するが.......。
法廷ものではないグリシャム作品。ミステリーとしての仕掛けは大したことはないものの、村上春樹の訳も相まって肩の凝らない軽妙な娯楽作品に仕上がっています。本の業界の蘊蓄も興味深く読めます。
「グレート・ギャツビー」を追え (中公文庫 む 4-13)
ジョン・グリシャム
中央公論新社
2022-11-22


53.地の告発(アン・クリーヴス)
英国のシェットランド諸島。マグナス老人が病死し、ペレス警部たちが葬儀に参列する最中、大規模な地滑りが発生し、辺り一帯が土砂で埋まってしまう。しかも、掘り出した空家の中から身元不明の女性の絞殺死体が発見されたのだ。ペレスたちの捜査が続く一方で、新たな殺人事件が発生し.......。
シェットランド諸島シリーズ第7弾。相変わらず派手な展開とは無縁ですが、島の自然やそこに住む人々の細やかな描写には引き込まれるものがあります。伏線を丁寧に紐解いていく謎解きも秀逸。
地の告発 (創元推理文庫)
アン・クリーヴス
東京創元社
2020-11-30


54.マハラジャの葬列(アビール・ムカジー)
1920年6月。英国からインド帝国警察に赴任したウィンダム警部はオリッサ藩王国の第一王位継承者を目前で殺されてしまう。しかも襲撃者はその場で自殺。警部は殺された皇太子の同窓生だという相棒のバネルジー部長警部とともに、事件の謎を解明するべくサンバルプールに赴くが......。
『カルカッタの殺人』に続くウィンダム警部シリーズの第2弾。相変わらず当時のインドでの文化や風俗が興味深く描かれており、特に後宮の描写は圧巻です。ただ、ミステリーとしてはやや凡庸。
マハラジャの葬列 (ハヤカワ・ミステリ)
アビール ムカジー
早川書房
2021-03-03


55.亡国のハントレス(ケイト・クイン)
ドイツ占領下のポーランドにはザ・ハントレスと呼ばれた殺人鬼がいた。その正体はナチス親衛隊将校の愛人だった。1950年春。ザ・ハントレスに弟の命を奪われた元英国従軍記者のイアンはナチハンターとして彼女の行方を追い、大西洋を渡る。一方、17歳のジョーダンは父の再婚相手に不審を抱き……。
本作は3つの視点から女殺人鬼の正体に迫る構成になっており、特に元ソ連軍女性飛行士であるニーナの章が鮮烈。また、各エピソードが結び付き、徐々に謎が明らかになっていく展開にワクワクします。
亡国のハントレス (ハーパーBOOKS)
ケイト クイン
ハーパーコリンズ・ジャパン
2021-09-17


56.僕が死んだあの森(ピエール・ルメートル)
12歳の少年・アントワーヌは森に入り、隣に住む6歳の男の子を一時の激情にかられて殺してしまう。死体は森にある深い穴の中に隠したものの、帰宅後に腕時計をなくしていることに気がつく。もし、死体のそばでそれが見つかればすべてがおしまいだ。やがて、警察や村人による森の捜索が始まり...。
図らずも殺人を犯してしまった少年の心理を丹念に追ったサスペンス小説。警察との駆け引きなどは全くないのでミステリー的な要素は希薄ですが、先が気になる展開で読ませます。意外なラストも秀逸。
僕が死んだあの森 (文春文庫)
ピエール・ルメートル
文藝春秋
2023-10-11


57.殺人者の手記(ホーカン・ネッセル)
バルバロティ捜査官の元に「エリック・ベリマンを殺す」という手紙が届く。悪戯だと思いつつも、念のためにエリック・ベリマンなる人物の確認調査を行うが、特定に手間取っている間に遺体となって発見される。しかも、彼の元には新たな予告状が届く。果たして殺人の前に殺人予告を行う目的は?
2007年スウェーデン推理作家アカデミー賞受賞作。次々と届く殺人予告や挿入される犯人の手記など、謎めいた展開が魅力的で伏線回収も見事です。ただ、事件に関係ない主人公の私生活描写は少々冗長。
殺人者の手記 上 (創元推理文庫)
ホーカン・ネッセル
東京創元社
2021-04-21


58.すべてのドアを鎖せ(ライリ―・セイガ―)
仕事はリストラでクビになったうえに同棲中の恋人の浮気が発覚して家を飛び出したジュールズ。宿なし金なしの彼女は超高級アパートメントでオーナー不在の間だけ留守番すれば高額報酬がもらえるという求人広告に飛びつく。だが、幸運を喜んだのもつかの間、周囲で奇怪な出来事が起き始め.....。
不穏な空気を纏った物語がテンポよく語られていくので先が気になってページをめくる手が止まらなくなります。ヒネリのある展開などは特にないものの、素直に面白いと思えるサスペンススリラーです。


59.殺人記念日(サマンサ・ダウニング)
フロリダに住む夫婦は倦怠期を迎えていたが、殺人とその隠蔽を協力して行うことで絆を深めることに成功する。それからというもの、彼らは殺人を楽しみ、常に次の獲物を探し求めるようになっていた。だが、ある日、隠していた死体が警察に発見される。彼らは昔の殺人鬼に罪を被せようとするが.....。
主人公は殺人鬼ですが、直接的な殺人の場面がなく、家庭では良き父親なので感情移入しやすい作りになっています。そして、破滅へと向かっていく展開はサスペンス感たっぷりで手に汗握ります。
殺人記念日 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
サマンサ ダウニング
早川書房
2021-03-17


60.誠実な嘘 (マイケル・ロボサム)
アガサは15歳のときに既婚者に騙されて妊娠し、子供は養子に出されてしまう。一度結婚したものの、今度は死産したことで夫婦仲が悪化して離婚。さらに、新しい恋人は彼女の妊娠を知って離れていった。そんな彼女が、家庭にも仕事にも恵まれている妊娠中のメグと知りあったことから悲劇は起き...。
ゴールドダガー賞受賞作の『生か、死か』や『天使と嘘』などとは全く異なる作風で、ゴーストライター時代に培った多才ぶりを見せつけてくれます。社会派サイコサスペンスの佳品です。
誠実な嘘 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
マイケル・ロボサム
二見書房
2021-06-21


61.閉じ込められた女(ラグナル・ヨナソン)
冬のアイスランド。人里離れた農場にひとりの男が訪ねてくる。ハンティング中に仲間とはぐれたというのだ。しかし、外は猛吹雪であり、こんな日に狩りをするとは考えがたかった。農場主の夫が男のバッグを調べてみるとなかから大金とナイフが出てきた。夫は男と対峙し、妻は地下室に逃げ込むが...。
女性警部フルダシリーズの完結編。本シリーズは事件そのものもさることながら、1作目から時間が逆行しているため、死に行く者があらかじめわかっている点が静かで重いサスペンスを醸成しています。
閉じ込められた女 (小学館文庫)
ラグナル・ヨナソン
小学館
2021-07-06


62.手/ヴァランダーの世界( ヘニング・マンケル) 
田舎暮らしをするために家を探していたヴァランダー刑事は、同僚に紹介された物件を見にいくが、庭で何かにつまずいてしまう。よく見るとそれは地面から突き出た人間の手の骨だった。地面を掘り返すと、全身骨格と衣裳が出てくる。ヴァランダーは家の歴代所有者を過去に遡って調べていくが...。
未収録作を集めた短編集で、シリーズ最終巻。相変わらず人間身溢れるヴァランダーが魅力的であり、作者自身のシリーズ解説・登場人物索引などの巻末付録も大充実。ファン必読の一冊です。


63.魔の山(ジェフリー・ディーヴァー)
懸賞金ハンターのコルター・ショウは発砲事件の容疑者である男を追い詰めるも、目の前で投身自殺図られてしまう。一方、自己啓発カルトのオシリス財団に関する記事を書いた記者が強盗に殺害されるという事件が起きる。ショウは一連の出来事の関連性を疑い、オシリス財団の施設に潜入するが......。
コルター・ショウシリーズ第2弾。追跡劇からカルト組織への潜入と見せ場の連続で楽しませてくれますし、スリリングな展開も読み応えありです。ただ、ステレオタイプなカルト描写には物足りなさも。
魔の山 コルター・ショウ (文春e-book)
ジェフリー・ディーヴァー
文藝春秋
2021-09-24


64.ハートに火をつけないで (ジャナ・デリオン )
身分を偽って小さな町で暮らすCIAスパイのフォーチューンは、カフェ店員のアリ―の家が火事になり、しかも、それが放火だったことを知る。この町で初めてできた同年代の友人の力になりたいと考えたフォーチューンは老婦人コンビのアイダ・ベル&ガーティと共に放火犯探しを始めるが......。
ワニの町へ来たスパイシリーズの第4弾。フォーチュン、アイダ、ガーティのトリオは今回も絶好調で数々のドタバタ騒ぎはどれも爆笑ものです。一方、主人公とアリ―との友情にはぐっとくるものが。


65.アニーはどこにいった(C・J・チューダー)
ジョーン・ソーンは「妹のアニーに再び同じことが起きようとしている」という不吉なメールを受け取り、故郷に呼び戻される。そこで彼は英語教師の職を得るが前任の教師は息子を惨殺したのちに「息子じゃない」というメモを残して自殺したという。8歳のときのアニー失踪事件と現在の事件の関係は?
作者が敬愛するスティーヴン・キングの影響を色濃く受けた作品です。濃厚な怪奇ムードの中、バラバラだったピースが怪異の要素を絡めつつも一つにつながっていく構成が見事です。
アニーはどこにいった (文春e-book)
C・J・チューダー
文藝春秋
2020-10-15


66.ミラクル・クリーク(アンジー・キム)
19位
バージニア州郊外のミラクル・クリーク。そこで韓国移民の一家が営む高濃度酸素カプセル施設・ミラクルサブマリンで火災が発生し、2名が死亡する。警察は利用者の一人であるエリザベスを逮捕するが、裁判が始まるとミラクル・サブマリンを巡るさまざまな家族の問題が浮き彫りになってきて.......。
エドガー賞最優秀新人賞など新人賞3冠を達成。裁判を通して徐々に真実が見えてくると同時に、4組の家族の軋轢や人間性が浮き彫りになっていくプロセスがヒューマンドラマとして読み応えがあります。


67.スクリーム (カリン・スローター) 
ウィルは服役中の殺人犯から刑務所内で起きた殺人の情報を提供する代わりに8年前に起きた連続強姦殺人の再調査を持ちかけられる。彼は不正捜査によって逮捕されたというのだ。だか、捜査にあたった人物はウィルのよく知る人物だった。一方、その頃、8年前の事件を彷彿とさせる殺人が発生し......。
ウィルシリーズ12弾であると同時に過去編の主人公をグランド郡シリーズのジェフリー署長が務めるクロスオーバー作品でもあります。陰惨な事件とラブロマンスに意外な犯人と今回も読応え満点です。
スクリーム 〈ウィル・トレント〉シリーズ (ハーパーBOOKS)
カリン スローター
ハーパーコリンズ・ジャパン
2021-06-17


68.ざわめく傷痕(カリン・スローター)
週末のスケート場で13歳の少女が少年に銃を突きつけるという事件が発生。少女は警官によって射殺され、近くのトイレからは彼女が産んだと思われる未熟児の遺体が発見される。検死官のサラは遺体に暴行の痕跡を発見し、彼女がまともに出産できない体であったことを知る。そして、新たな事件が.......。
グランド郡シリーズの第2弾。残虐描写の多い著者の作品の中でも本作のそれは群を抜いています。児童虐待の闇の深さを突き付けられると暗澹たる気分にさせられます。後味の悪さもかなりのもの。
ざわめく傷痕 (ハーパーBOOKS)
カリン スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2020-12-17


69.わたしたちに手を出すな(ウィリアム・ボイル)
60歳のリナはマフィアの大物だった夫を亡くし、孤独な毎日を過ごしていた。そんな折、近所の老人に言い寄られ、はずみで彼を殴り殺してしまう。娘の家に逃げ込んだリナだったが、そこで殺し屋の襲撃を受ける。娘の愛人がマフィアの金を強奪したというのだ。こうしてリナの逃避行が始まるが......。
ハンマーを持つ殺し屋をはじめとする悪役担当の男性陣も勇猛果敢な元ポルノ女優などの女性陣もみなエキセントリックな魅力に満ちていてぐいぐい引き込まれます。家族再生の物語としても秀逸。
わたしたちに手を出すな (文春文庫)
ウィリアム・ボイル
文藝春秋
2021-08-03


70.ポー殺人事件(ヨルゲン・ブレッケ)
ヴァージニア州リッチモンドのエドガー・アラン・ポー博物館で館長が殺され、ポーの像に磔にされるという事件が発生する。しかも、死体には頭部がなく、皮膚を剥がされていた。リッチモンド署のフェリシア刑事は事件の謎を解くカギが館長によって分析に出されていた書物にあると考えるが......。
ポー博物館での猟奇殺人という題材に冒頭から一気に引き込まれ、めまぐるしい展開にページをめくる手が止まらなくなります。ただ、エンタメに徹した深みに欠ける作風は好みのわかれるところ。
ポー殺人事件 (ハーパーBOOKS)
ヨルゲン ブレッケ
ハーパーコリンズ・ジャパン
2021-08-17



チェック漏れ作品


ビーフ巡査部長のための事件(レオ・ブルース)16位
ケント州の森で死体が発見された。頭部を銃で撃ち抜かれており、地元警察はこれを自殺として処理する。それに納得できない被害者の妹は警察を退職して私立探偵を営んでいるビーフに再調査を依頼する。一方、その一年前、ウェリントン・チックルは動機なき殺人計画を記した日記を書き始めた......。
1947年発表のビーフ巡査部長シリーズ第6作。一見、普通の倒叙ミステリーだと思わせ、そこにヒネリを加えた仕掛けがユニークです。ビーフとワトソン役のタウンゼントとの関係性も楽しい好篇です。
ビーフ巡査部長のための事件 (海外文庫)
レオ・ブルース
扶桑社
2021-01-31


2021年12月3日追記
予想結果
ベスト5→5作品中3作的中
ベスト10→10作品中7作的中
ベスト20→20作品中11作的中
順位完全一致→20作品中2作品

Next⇒このミステリーがすごい!2023年版 海外ベスト20予想