最新更新日2021/04/07☆☆☆

Previous⇒このミステリーがすごい!2021年版 国内ベスト20予想

このミス2022
対象作品である2020年10月1日~2021年9月30日発売のミステリー&エンターテイメント作品の中からベスト20の順位を予想していきます。ただし、あくまでも個人的予想であり、順位を保証するものではありません。また、予想は作家の知名度や人気、ジャンルや作風、話題性などを考慮したうえで票が集まりそうな作品の順に並べたものであり、必ずしも予想順位が高い作品ほど優れているというわけでもありません。以上の点はあらかじめご了承ください。
※紹介作品の各画像をクリックするとAmazon商品ページにリンクします

このミステリーがすごい!国内版 2021年3月19日時点での暫定予想順位

1位.テスカトリポカ(佐藤究)
メキシコで麻薬売買を生業とするカサソラ4兄弟は抗争に敗れ、3男のバルミロだけが生き延びる。そして、潜伏先で出会った日本人と臓器ビジネスを始めるために日本へ渡る。一方、天涯孤独の少女・土方コシモはバルミロに秘めた才能を見出され、知らぬ間に犯罪に巻き込まれていくが.....。
世界を股にかけた凶悪犯罪に古代アステカ文明の魔術を絡めた暗黒小説。血飛沫舞う圧倒的暴力の物語がジェットコースターの如き勢いで語られ、その濃密さに圧倒されてしまいます。神話的傑作です。


2位.蒼海館の殺人(阿津川辰海)
先の事件で名探偵としての在り方を見失った葛城は実家に引き籠ってしまう。そんな彼を相棒の田所は友人の三宅と共に迎えに行くべく、山奥にある葛城家の本宅へと向かう。そこには祖父の法要のために、葛城家の一族が集まっていた。やがて、激しい雨が降りしきる中、連続殺人の幕が開ける......。
濁流が押し寄せる館を舞台にしたクローズドサークルもの。二重三重の謎と巧みな伏線、そして凝ったトリックに緻密なロジックといった具合に本格ミステリの魅力をこれでもかと詰め込んだ大傑作です。
蒼海館の殺人 (講談社タイガ)
阿津川辰海
講談社
2021-02-16


3位.孤島の来訪者(方丈貴恵)
竜泉祐樹は事故で幼馴染を失うが、それは仕組まれたものだった。その事実を知った祐樹は復讐を誓い、テレビ局のADとして標的3名とともにロケ地の孤島に赴く。だが、彼が手を下す前に標的の一人が殺されてしまう。しかも、事件にはスタッフに紛れ込んだ人ならざるものが関与しており......。
竜泉一族シリーズ2弾。クローズドサークルにオカルトネタを盛り込んだ特殊設定ミステリーですが、怒涛の推理と伏線回収、そして、読者への挑戦後に展開されるどんでん返しの連続に圧倒されます。
孤島の来訪者 〈竜泉家の一族〉シリーズ
方丈 貴恵
東京創元社
2020-11-28


4位.六人の嘘つきな大学生(浅倉秋成)
注目のIT企業が行う初めての新卒採用。6人の就活生は最終選考に挑むが、その課題は6人の中から一人の内定者を決めるというものだった。一つの椅子を巡ってディスカッションが行われるなか、彼らに宛てた6通の封筒が発見される。封筒の中には「××は人殺し」という告発文が書かれており.......。
就活をテーマにした異色のサスペンスミステリーで、テンポの良さと二転三転する展開にぐいぐい引き込まれていきます。就活の歪さを浮き彫りにしつつ、ミステリーとしての仕掛けも素晴らしい傑作。


5位.アンブレイカブル(柳広司)
1925年に治安維持法が成立し、罪状捏造に走る特高警察。それに対して信念を貫こうとする男たちがいた。蟹工船の取材に熱中する小林多喜二と彼を罠にかけようとする特高の駆け引きを描いた『雲雀』、非国民的思想犯として特高の監視を受ける川柳作家を憲兵の立場から語る『叛徒』など全4篇収録。
内務省官僚のクロサキを狂言回しとし、戦前を生きた実在の文化人と体制側の戦いを描いた連作集。反戦文学の形をとりつつも、ミステリーとしての仕掛けも充実している極上のエンタメ小説です。


6位.雨と短銃(伊吹亜門)
慶応元年。坂本龍馬が薩長同盟の成立のために京で西郷吉之助を説き伏せた矢先、ともに上洛していた長州藩藩主の小此木鶴羽が何者かに斬られてしまう。しかも、下手人は逃げ場のない袋小路から煙のように消え失せたのだ。尾張公用人の鹿野師光は龍馬に呼び出され、下手人の捜索を依頼されるが......。
『刀と傘 明治京洛推理帖』の前日譚です。前作と同様に史実に架空の事件を巧みに織り交ぜ、魅力的な物語に仕上げています。また、ミステリーとしても巧妙な伏線や時代性を背景にした動機が秀逸。
雨と短銃 (ミステリ・フロンティア)
伊吹 亜門
東京創元社
2021-02-22


7位.アクティベイター(沖方丁)
羽田空港に突如中国のステルス爆撃機が飛来する。空港に降り立ったパイロットの女性は亡命を希望するも、何者かによって拉致されてしまう。それを救ったのは警備員の真丈だった。彼女の身柄を巡って暗闘する米中露の工作員。しかも、ステルス機に搭載されている核には起爆のおそれがあり........。
タイプの異なる義兄弟の活躍を描いた謀略サスペンス。肉弾戦と政治的駆け引きという動と静の闘いが密接に絡み合うことで物語を盛り上げることに成功しています。ただ、説明過多で冗長な部分もあり。


8位.化け者心中(蟬谷めぐ実)
ある夜、江戸の芝居町で作者や役者たちが集まって本の読み合わせをしていたところ、車座の中央に生首が転がり出る。次の瞬間、蝋燭が消え、明かりがついたときにはすでに生首はなく、代わりに血だまりと肉片が残されていた。足を失って引退した元女形の魚之助と鳥屋の藤九郎がこの謎に挑むが.......。
江戸の芝居小屋の雰囲気をリアリティ豊かに描いた時代ミステリーの秀作。凸凹コンビのバディものとしても楽しく、役者の裏の顔を暴いていくプロセスも実に読ませます。ただ、謎解き要素は薄めです。
化け者心中 (角川書店単行本)
蝉谷 めぐ実
KADOKAWA
2020-10-30


9位.ババヤガの夜(王谷晶)
喧嘩に明け暮れていた新道依子はヤクザを叩きのめしたことでその腕を買われ、暴力団会長の一人娘・尚子の護衛を務める羽目になる。尚子は高飛車なお嬢様で最初は取り付く島もなかったが、互いの境遇を知って次第に心を通わせるようになる。だが、依子には残忍な性格のフィアンセがおり......。
女性2人がメインのバイオレンス小説で、歯切れの良い文章から繰り出される暴力シーンが鮮烈です。悪役も含めてキャラも立ちまくりな痛快エンターテイメントであり、切ないラストもぐっときます。
ババヤガの夜
王谷晶
河出書房新社
2020-10-22


10位.アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿(澤村伊智)
新人ライター・湾沢陸男が行くところに怪事件あり!アウターQは単なるエンタメサイトなのに彼がかかわるとホンモノを呼び寄せてしまうのだ。あるとき、陸男は15年ぶりにパンダ公園を訪れ、子供たちを震え上がらせてきた露死獣の呪文の解読に挑む。だが、そこには恐ろしい秘密が隠されていた......。
全7編からなる連作ミステリー。漫画チックなタイトルに油断していると、1話目からゾッとさせられます。すべての事件が一つにつながる終盤の展開も見事。心の闇を描いた怪奇ミステリーの傑作です。


11位.鬼哭の銃弾(深町秋生)
多摩川河川敷で発砲事件が発生し、捜査一課の刑事である日向直幸が捜査にあたることになった。ところが、弾丸に残された線条痕から、22年前のスーパーいちまつ強盗殺人事件と同じ銃が使用されたことが判明する。それは鬼刑事と呼ばれ、家庭を崩壊させた父が追っていた因縁の事件だった........。
父子2代に渡る刑事ドラマですが、父親である繁の事件に対する執念の凄まじさと狂犬ぶりが強烈です。期待通りのバイオレンス描写に加え、ミステリーとしても驚きの展開が用意されています。
鬼哭の銃弾
深町 秋生
双葉社
2021-01-20


12位.帝国の弔砲(佐々木譲)
ロシア沿海州に入植した小條夫妻の次男・登志矢はその地で鉄道技能士となる。だが、第一次世界大戦でロシア帝国に徴兵され、激戦を生き延びて復員すると革命の嵐が吹き荒れていた。その嵐に否応なく飲み込まれた彼はやがて共産党員となる。そして、日本へスパイとして潜入するのだが........。
日本が日露戦争で敗れたifの世界を描いた歴史改変シリーズの第2弾です。主人公の数奇な運命や本来の史実といかにしてずれていったかのプロセスなどが興味深く描かれ、読み応えがあります。
帝国の弔砲 (文春e-book)
佐々木 譲
文藝春秋
2021-02-25


13位.冬の狩人(大沢在昌)
3年前の未解決殺人事件の重要参考人・阿部佳奈からH県警にメールが届く。彼女は行方知れずになっていたのだが、新宿署のマル暴刑事・佐江を護衛につけるのなら出頭するというのだ。しかし、佐江は管轄違いのうえにすでに辞職を提出した身だという。彼女はなぜそんな男を護衛に指名したのか?
狩人シリーズ第5弾。展開がやや無理筋と思わないではないですが、立ちまくっているキャラと怒涛の勢いで一気に読ませてしまうのはさすが大沢作品です。ただ、過去作と比べて突出した部分はなし。
冬の狩人
大沢 在昌
幻冬舎
2020-11-18


14位.アンダークラス(相場英雄)
老人入居施設で暮らす老人の死体が近隣の水路で発見される。容疑者として浮上したのが外国人技能実習生として施設で働くベトナム人のアイン。彼は癌に侵されている老人に乞われて自殺幇助を行ったと自供する。これで一件落着かと思われたが、警視庁継続捜査班の田川は死体の手に疑念を抱く....。
老人の死を契機として日本のさまざまな問題が浮き彫りになっていく、社会派ミステリーです。世界的通販サイト、下請け企業、外国人技能実習生などの実態は読んでいて暗澹たる気分にさせられます。
アンダークラス
相場英雄
小学館
2020-11-11


15位.羊は安らかに草を食み(宇佐美まこと)
86歳の益恵は認知症を患い、過去の記憶に苦しめられるようになっていた。これまで理性で抑えつけていたものが溢れ出しているのだ。俳句仲間のアイと富士子はそんな彼女を何とか救いたいと考え、思い出の地を巡る旅に連れ出す。敗戦後に満州から引き揚げた過去を持つ彼女が隠し続けた秘密とは?
本作は一種の戦争文学であり、時代に翻弄された主人公の過去が克明に描かれています。そして、その過去があまりにも壮絶で思わず息をのむほどです。一方、ミステリーとしては俳句の使い方が秀逸。
羊は安らかに草を食み
宇佐美まこと
祥伝社
2021-01-07


16位.ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人(東野圭吾)
寂れた観光地である名もなき町は再び観光客を呼び寄せるプロジェクトが進行中だった。だが、それもコロナ渦で頓挫してしまう。そんんな中、殺人事件が発生。すべてが謎だらけの事件だったが、その謎を警察より先に宣言する男が現れる。彼は被害者の弟で元マジシャンだというのだが........。
コロナ以後の社会を物語にうまく絡めた本格ミステリ。話のテンポも良く、ソツのない面白さを提供している点はさすが東野作品です。ただ、探偵役があまりにも万能すぎでリアリティに欠けるのが残念。


17位.不可逆少年(五十嵐律人)
狐面を被った子供による殺人生中継が動画サイトに投稿される。実の姉を含む3人を殺害したのは13歳の少女だった。瀬良真昼はどんな子どもも見捨てないという信念を抱く若き家庭裁判所調査官だが、その事件を前にして信念が揺らぐ。さらに別の事件が起き、それらは複雑に絡み合っていき......。
衝撃的な事件に一気に引き込まれ、矯正不能の不可逆少年という概念にも考えさせられるものがあります。少年法のあり方に一石を投じる佳品です。ただ、冒頭の事件が主題でなかったのは少々肩透かし。
不可逆少年
五十嵐律人
講談社
2021-01-26


18位.あと十五秒で死ぬ(榊林銘)
死神から与えられた余命15秒で自分を撃った犯人の告発方法を考える『十五秒』、ミステリードラマ終了15秒前に登場人物が突然急死する『このあと衝撃の結末が』、首が取れても15秒間は死なない世界で首のない焼殺死体が発見される『首が取れても死なないぼくらの首無殺人事件』など、4作収録。
”15秒後に死ぬ”というシチュエーションの作品ばかりを集めた中編集です。作品ごとに出来不出来はありますが、『首が取れても死なないぼくらの首無殺人事件』の奇想ぶりには驚かされます。


19位.信長島の惨劇(田中啓文)
本能寺の変から十数日が過ぎた頃、羽柴秀吉、柴田勝家、高山右近、徳川家康らの元に招待状が届く。招待主の名はなんと織田信長となっていた。信長の死に対してそれぞれ後ろめたいものがある4人は招待状にしたがって三河湾に浮かぶ小島を訪れる。それが、わらべ歌連続殺人の始まりだった......。
歴史上の有名武将たちが『そして誰もいなくなった』のように孤島で次々と殺されていくというトンデモ展開や史実とのつじつま合わせが楽しい歴史ミステリーの怪作です。
信長島の惨劇 (ハヤカワ文庫JA)
田中 啓文
早川書房
2020-12-10


20位.そして、海の泡になる(葉真中顕)
バブル期に前代未聞の4300億円という負債を抱えて自己破産した朝比奈ハル。かつて「北浜の魔女」と呼ばれて多くの信者を生んだ彼女は平成の最後の年に獄中でひっそりと人生の幕を下ろす。獄中でハルと親しかった女性は彼女の生涯を本にまとめようと、ハルに関わった人々に取材を試みるが......。
『Blue』と同様に史実を絡めて時代を敷衍的にとらえた作品です。また、インタビュー形式にすることで臨場感を高めることに成功しています。ミステリーとしてのヒネリを効かせた終盤の展開も見事。
そして、海の泡になる
葉真中 顕
朝日新聞出版
2020-11-06



その他注目作品

雪を撃つ(佐々木譲)

さっぽろ雪まつりの前日。札幌大通署の刑事・佐伯宏一は自動車窃盗の現場に向かっていた。一方、生活安全課の小島百合は家出少女が釧路から札幌に向かっているという電話を受ける。さらに、機動捜査隊の津久井卓は住宅街で発砲事件発生との報を聞く。果たして一連の事件はどう繋がっているのか?
道警シリーズの第9弾。巨悪に立ち向かうといった初期作品のような派手さはないものの、技能実習生などの社会問題を絡めつつ、さまざまな事件がテンポよく語られていきます。安定の面白さです。
雪に撃つ
佐々木譲
角川春樹事務所
2020-12-15


揺り籠のアディポクル(市川憂人)
ウイルスすら完全に遮断する無菌病棟クレイドルでは少年と隻腕隻眼の少女が闘病生活を続けていた。ところが、ある大嵐の日、貯水槽によって通路が分断され、クレイドルは孤立する。翌朝、少年が目を覚ますと少女はメスで胸を刺されて死んでいた。完全密閉の部屋で一体誰が彼女を殺したのか?
ボーイミーツガールからクローズドサークルの話になり、そこからさらにスケールアップしていく展開に思わず引き込まれます。余韻の残るラストも良い感じ。一方で、謎解ミステリーとしてはイマイチ。
揺籠のアディポクル
市川憂人
講談社
2020-10-13


或るギリシア棺の謎(柄刀一)
南美希風とエリザベス・キッドリッジの元に因縁浅からぬ安堂朱美の訃報が届く。高齢であるうえに長い闘病生活を続けていた彼女だったが、死因は病死ではなく、他殺の疑いも浮上する。やがて、美希風は奇妙な因習や過去に起きた未解決の殺人事件について知るのだった。一族を苦しめる呪いとは?
国名シリーズのシリーズ第2弾です。前作が連作集に対して本作は長編となっており、しかも、展開が地味で冗長だという問題があります。その代わり、技巧を凝らした精緻な謎解きは見事です。
或るギリシア棺の謎
柄刀 一
光文社
2021-02-23


野良犬の値段(百田尚樹)
突如ネット上に現れた誘拐サイト。そこに掲載されたのは「私たちが誘拐したのは以下の人物です」というメッセージと6人の男の写真だった。誰もが半信半疑の中、誘拐サイトはなんとマスコミに対して身代金を要求するのだった。突然当事者となったテレビ局や新聞社は慌てて善後策を協議するが.....。
マスコミや世間を巻き込んでの誘拐劇がテンポよく描かれ、ぐいぐいと引き込まれますし、放送作家出身の著者ならではの局内描写も光ります。ただ、犯人側が有能すぎて後半、緊迫感に欠けるのが難。
野良犬の値段
百田 尚樹
幻冬舎
2020-12-24


騙る(黒川博行)
美術雑誌の編集長・佐保啓一の元に姪の玲美から連絡がある。ホストに騙されてサラ金からお金を借りて首がまわらくなったので弁護士を紹介してほしいというのだ。そこで、啓一は一計を案じ、「親戚が先祖伝来の骨董品の買い手を探している」という話をホストに持ちかけるが......。
古美術品詐欺をテーマにした連作短編集です。美術品や業界事情の蘊蓄がたっぷりと詰め込まれ、ストーリーも著者ならではの軽快な語り口で進んでいくので気楽に楽しめる佳品に仕上がっています。
騙る (文春e-book)
黒川 博行
文藝春秋
2020-12-14


コロナと潜水服(奥田英朗)
5歳の息子に新型コロナを感知する能力があると信じている父親自身に感染の疑いが持ちあがる表題作、憧れのイタリア車を入手して乗り回しているとカーナビが前の所有者の思い出の場所に案内し始める『パンダに乗って』など、全5編を収録した短編集。
ファンタジー寄りの作品集。著者が得意とするクライムノベルのような重さはなく、ユーモラスでライトな雰囲気で統一されています。どれも後味がよくてほっこりとした気分にさせてくれる好編です。
コロナと潜水服
奥田 英朗
光文社
2020-12-22


地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険(そえだ信)
33歳の鈴木勢太は札幌方面西方警察署の刑事だったが、ある日暴走車にはねられ、気が付くとスマートスピーカ―機能付きの掃除ロボットになっていた。しかも、隣の部屋には中年男性の死体が転がっていたのだ。信じられない状況の中、勢太は引き取った姪を守るべく、小樽まで30キロの旅に出るが......。
第10回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作品。ぶっとんだ設定ながら、掃除機ロボットの機能を駆使して困難を乗り越えていく展開が非常に楽しい作品です。ただし、探偵や推理といった要素は希薄です。


報復の密室(平野俊彦)
女性の首吊り死体が大学のキャンパス内で発見される。それは薬学部教授・大日方敏夫の娘だった。娘が自殺するはずがないという想いから敏夫は独自に事件を調べ始め、彼女の恋人がミステリー新人賞に応募した事実を突き止める。その恋人が犯人ではと疑い、彼はある罠を仕掛けようとするが.....。
第13回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。最初の密室トリックはパッとしないものの、この作品の本番は報復として犯人に仕掛ける罠にあり、その意表を突いた発想には驚かされます。
報復の密室
平野俊彦
講談社
2021-02-23


天の川の舟乗り(北山猛邦)
金塊を祀るしきたりがある金延村。その村に怪盗マゼランを名乗る謎の人物から祭の夜に金塊を頂くという予告状が届く。だが、実際に起きたのは盗みではなく、密室殺人だった。さらに、村では空飛ぶ舟や湖の巨大生物などの目撃情報が次々と上がってくる。一体何が起きているのか?
中編の表題作と3編の短編からなる。音野順シリーズ第3弾です。大仕掛けこそありませんが、著者得意の物理トリックが巧みに散りばめられており、手堅く楽しめる作品集に仕上がっています。
天の川の舟乗り (名探偵音野順の事件簿)
北山 猛邦
東京創元社
2021-03-19


傍聴者(折原一)
交際相手が次々と不審な死を遂げ、そのたびに大金を手にしてきた女・牧村花音が殺人の容疑で逮捕された。平凡な容姿の彼女になぜ男たちは簡単に騙されてしまったのか?友人を殺されたジャーナリストの池尻淳介は真相を突き止めるべく花音を近づく。一方、裁判の方は花音劇場の様相を呈し....。
著者のライフワークとでもいうべき××シリーズの14弾。複雑なプロットを手際よくまとめながら裁判の傍聴者と事件の意外な関係を暴いていく手管が見事です。終盤で炸裂する騙しのテクニックも健在。
傍聴者 (文春e-book)
折原 一
文藝春秋
2020-11-26


月下美人を待つ庭でー猫丸先輩の妄言ー(倉知淳)
電光看板の底に貼られていた文字列のメモの謎を追う『ねこちゃんパズル』、心霊写真特集をしている出版社に送られてきた中年男が映っているだけの写真に恐怖が秘められている『恐怖の一枚』、暴風の吹き荒れる浜辺に海へと続く足跡が残されている『海の勇者』など、全5編収録。
15年ぶりの猫丸先輩シリーズ第6弾。各話ごとの出来不出来の大きさは気になるところですが、相変わらずの猫丸節を心地よく楽しむことができます。特に、「ついているきみへ」のロジックが秀逸。
月下美人を待つ庭で (猫丸先輩の妄言)
倉知 淳
東京創元社
2020-12-21


火喰鳥を、喰う(原浩)
信州で暮らす久喜雄司の元に大伯父で太平洋戦争末期に戦死した久喜貞市の日記が送られてくる。そして、その日を境に雄司の周辺では異様な事件が起こり始める。日記を発見した記者の発狂、祖父の失踪。さらには、「ヒクイドリヲクウ、ビミナリ」という一文が日記の中に突如出現し......。
第40回横溝正史ミステリー&ホラー大賞大賞受賞作品。読ませる力はかなりなもので、日記が届いたことを契機に始まる怪異や火喰鳥にまつわる謎には引き込まれるものがあります。ただ、ホラーという割に怖さはさほどでもなく、ミステリーとしてはいささか説明不足な点が目立つのが残念です。


この本を盗む者は(深緑野分
深冬の曾祖父は本の蒐集家で、その蔵書は御倉館という建物に集められていた。以後、御倉館は曾祖父の親族によって管理されていたが、深冬は本が好きではなかった。ある日、御倉館から本が盗まれたことで呪いが発動し、街が変容していく。深冬は街を元に戻すべく、本の世界へと足を踏み入れるが.....。
ミステリー作家のイメージが強かった著者によるファンタジー小説。さまざまな本の世界を冒険するということで本好きにはたまらない作品に仕上がっていますが、謎解き要素は薄味です。


エゴに捧げるトリック(矢庭優日)
人類は謎の怪物EGOの襲撃によって存亡の危機に立たされていた。彼らに通常兵器は通用せず、唯一有効なのは催眠術だった。その養成機関の卒業式の日に殺人事件が発生する。しかも、目撃者全員が身に覚えのない吾妻福太郎を犯人だと証言しているのだ。催眠術でみんなを操っているのは誰なのか?
第10回アガサ・クリスティー賞最終候補作。催眠術が強大な力を持つ世界を描きつつも、ご都合主義に陥るのを避け、催眠術を使ったトリックや捜査をあくまでもロジカルに描いている点が見事です。


卒業したら教室で(似鳥鶏)
高校の卒業式が迫ったある日、吹奏楽部の秋野舞衣が葉山の元に相談に訪れる。鍵のかかった真っ暗なCIA教室で誰かがパソコンに向かって何かをしていたというのだ。調べてみると部室棟でも同様の不審な出来事が起きていた。それは学校の七不思議の「兼阪さん」と合致していることが判明し....。
市立高校シリーズの第8弾。今回は「兼阪さん」の事件に加え、12年後の未来編と作中作の異世界ファンタジーが組み込まれているという大胆な構成を取っており、それを用いた仕掛けに驚かされます。


灰の劇場(恩田陸)
1994年。大学の同級生だった中年女性2人が橋の上から飛び降りた。作家である私はその事件の記事に引っ掛かりを覚えながらも記事を保存することなく日々は流れていった。それから25年が過ぎたある日、担当から当時の新聞記事を渡されたのをきっかけに、私の日常は2人の人生に侵食されていき....。
事件の真相に迫っていくサスペンス小説と思いきや物語の主軸は虚構が現実を侵食していく迷宮小説へとシフトしていきます。実験色が強く、ユニークではあるものの、好き嫌いは大きく分かれそう。
灰の劇場
恩田陸
河出書房新社
2021-02-16


偶然にして最悪の邂逅(西澤保彦)
死から38年が過ぎている事実に気付いた幽霊が自分を殺して埋めた犯人を探る『ひとを呪わば穴ふたつ』、大晦日に還暦間近の友人たちが集まり、高校時代の殺人事件について語る『間女の隠れ家』、旧校舎から向かいの家を覗いていた高校生たちが思わぬ事件に巻き込まれる表題作など、全5編収録。
意外性を出そうと思ってか、全体的に設定をひねくりまわしすぎて明快さに欠けるのが難。その中にあって、論理のアクロバットが見事に決まり、著者らしいダークなオチが堪能できる表題作が秀逸。
偶然にして最悪の邂逅
西澤 保彦
東京創元社
2020-12-10


怨み籠の密室(小島正樹)
大学生の飛渡優哉は4歳の時に母を亡くして以来、故郷の謂名村には帰ったことがない。しかし、「謂名村、殺され....」という父の死に際の言葉が気になり、母の死の真相を探るべく、謂名村を訪れる。だが、村人たちは彼を拒絶する。しかも、それを契機に村では新たな事件が起き.....。
名探偵・海老原浩一シリーズの第8弾。やりすぎミステリーと呼ばれる著者にしては奇想天外なトリックなどは控えめですが、その代わり、散りばめた伏線を回収してのどんでん返しの業が冴えています。
怨み籠の密室 (双葉文庫)
小島正樹
双葉社
2021-02-10


ヴィンテージガール 仕立屋探偵 桐ヶ谷京介(川瀬七緒)
高円寺で仕立屋を営む桐ヶ谷京介は美術解剖学や服飾などの知識を用いて服の持ち主の生活を見抜く力を有していた。ある日、彼は10年前に起きた少女殺害事件の公開捜査のテレビ番組を目にする。そして、身元すらわかっていない少女のワンピースがあまりに時代遅れなことに引っ掛かりを覚え......。
服飾などの専門知識を用いて事件の謎を解いていくスタイルが斬新でぐいぐい引き込まれていきます。探偵役の京介と相棒の小春も個性的で魅力たっぷりであり、シリーズ化が期待される佳品です。


小麦の法廷(木内一裕)
新人女性弁護士の杉浦小麦は初めての刑事裁判に臨む。裁判の内容は仲間内で起きた傷害事件で被告も罪を認めているという簡単なものだった。ところが、その同時刻にとある倉庫内オフィスで3人の男が銃殺されており、2つの事件の関連性が浮かび上がる。周囲が敵だらけのなか、孤立無援の小麦は.....。
童顔で元レスリングのオリンピック候補という小麦のキャラが立ちまくっており、物語の大きな牽引力となっています。そのうえ、鮮やか逆転劇はリーガルサスペンスとして読み応えありです。
小麦の法廷
木内 一裕
講談社
2020-11-04


インフォデミック 巡査長 真行寺弘道(榎本憲男)
2020年春。新型コロナウイルスの大流行に対して、政府は緊急事態宣言の発令とともに人々の外出及びイベントの自粛を求める。そんな中、高齢の伝説的ミュージシャン浅倉マリは「人は死ぬ時は死ぬ」とうそぶき、ライブ活動を続ける。真行寺は上司から浅倉の監視と説得を命じられるが.......。
新型コロナウイルスに関する不確かな情報に翻弄され続ける日本の現状を描きつつ、正解の見えないこの問題に鋭く切り込んだ快作です。また、意外な展開に驚かされる終盤の展開も秀逸です。


コールドウォー DASPA 吉良大介(榎本憲男)
新型コロナが流行し、オリンピックは延期。日本は自粛生活に突入する。そんななか、ベテランミュージシャンの浅倉マリが大規模ライブを開催しようとしていた。一歩間違えれば大流行につながり、来年のオリンピック開催も危うくなる。そう判断したDASPAの吉良大介はある作戦を思いつくが......。
『インフォデミック 巡査長 真行寺弘道』の姉妹編であり、真行寺弘道とはまた別の角度から今の日本のあり方を問うています。2冊合わせて読むことでより深みのあるドラマを味わえます。


寄生リピート(清水カルマ)
中学2年の白石颯太はスナックを営む母と2人暮らしで、父は死んだと聞かされていた。ある夜、常連客の男性を自宅に連れ込む母の姿を見て、彼は強烈な嫉妬を覚える。だが、その男は数日後、死体となって発見される。さらに、死んだはずの父と再会する颯太だったが、実父はなぜか颯太を拒絶し......。
主人公の周辺で起きる人間模様の恐怖を描いた心理ホラーです。特に、主人公の母を付け回す鯉沼成彦の不気味さが秀逸です。単純な悪人ではないところが、逆に、恐怖を増幅させる効果があります。
寄生リピート (幻冬舎文庫)
清水 カルマ
幻冬舎
2020-10-07


馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow(森博嗣)
探偵は匿名の依頼であるホームレスの青年の調査を受ける。青年は知的で穏やかな人物であり、特に不審な点は見られなかった。一体何のための調査なのかと探偵が訝しがっていたところ、青年と面識のあったホームレスの老人が路上で死亡する。彼は元大学教授で、遺品からは青年の写真が見つかり......。
ミステリーとしては非常に淡々としていて『すべてがFになる』のような派手な展開は皆無です。その代わり、人間の狂気を静かに浮かび上がらせていくドラマとして非常に読み応えがあります。


赤い砂(伊岡瞬)
電車への飛び込み自殺の現場検証を行っていた鑑識官が突然同僚の拳銃を奪って自らを撃ち抜いた。続いて男を轢いた電車の運転士も自殺し、さらに、拳銃を奪われた警官もビルから飛び降りる。一体何が起きているのか?永瀬刑事が事件の謎を追う最中、製薬会社に「赤い砂を償え」という脅迫状が......。
著者がデビュー前の2003年にエボラ騒動に材を得て書き上げ、コロナ騒動によって掘り起こされた作品です。じわじわと迫るウイルスの恐怖と真相に迫っていくプロセスはかなり読み応えがあります。
赤い砂 (文春文庫)
伊岡 瞬
文藝春秋
2020-11-10


命の砦(五十嵐貴久)
クリスマスイブの日。新宿の地下街で大規模な火災が発生する。偶然現場に居合わせた神谷夏美は所轄の消防隊員とともに消火活動を開始するも、地下街は延焼が相次ぎ、大パニックに陥っていた。しかも、このままでは大爆発が起きて新宿駅周辺は壊滅してしまうことが明らかになり.......。
神谷夏美シリーズ第3弾にして完結編。大火災の描写に臨場感が漲っており、読んでいて手に汗握ります。文章が映像的で、ハリウッド映画を観ているような迫力があります。パニック小説の佳品です。
命の砦
五十嵐貴久
祥伝社
2020-10-14


少女モモのながい逃亡(清水杜氏彦)
1930年代のヨーロッパ。富農の家で生まれたモモは中央政府が推し進める農業集団化によって悲劇に見舞われる。農業集団化に反対する反乱分子とのレッテルを貼られた父や姉は行方不明となり、重税に追われるなか、弟は飢饉によって命を落とす。モモは村を捨て、少年ユーリと共に都会を目指すが.....。
スターリン体制下のソビエト連邦をモデルとし、相互監視や密告が当たり前の世界の恐ろしさを描いたデストピア小説です。絶望感と閉塞感に彩られた容赦のない物語は読んでいて心が震えます。
少女モモのながい逃亡
清水杜氏彦
双葉社
2020-11-18


MEMORYー螺旋の記憶(吉田恭教)
探偵の槙野康平は9年前に依頼を持ち込んできた女性から失踪した息子を捜してほしいと頼まれる。しかも、その失踪には9年前の依頼と関係があるという。調査を始めると前回の調査で訪ねた人物が2年前に殺害されたことが判明。一方、刑事の東條有紀は山中で起きた逆さ吊り殺人を追っていたが.....。
槙野&東條シリーズ第5弾。今回は前世をテーマにした内容で、シリーズならではのオカルト的ムードにぐいぐい引き込まれていきます。解けそうでなかなか解けない謎も興味深く、ミステリとしても秀逸。


国防特行班E510(神野オキナ)
防衛省の不祥事を始末する部署・自衛隊特殊情報評価群510特別臨時行動班隊長の三輪出雲は自ら出頭を願い出た統合幕僚幹部のスパイを保護する命を受ける。簡単な仕事だと思われたものの、指定された場所に行くと、スパイはすでに死んでいた。出雲は公安警察非合法部署の冴子と共に真相を探るが...。
銃器の描写にこだわりが感じられる国際諜報アクションです。見せ場満載のノンストップアクションで非常に読み応えがあります。ただ、心理描写や動機付けがあっさりめなのは好みのわかれるところ。
国防特行班E510 (小学館文庫)
神野オキナ
小学館
2021-01-04


錬金術師の消失(紺野天龍)
錬金術師のテレサはエミリアとともにセフィリア教会の聖地の水銀塔へ赴いた。そこに始まりの錬金術師が遺した神秘が眠っているとされるからだ。だが、突然の嵐にテレサたちはそこを訪れていた巡礼者たちとともに閉じ込められてしまう。そして、夜が明けると聖騎士の首なし死体が転がっていた.....。
テレサシリーズの第2弾。外界から隔絶したクローズドサークルに首なし死体と、ファンタジー作品でありながら前作以上に本格ミステリのガジェットに満ちています。両者の要素の絡め方もグッド。
錬金術師の消失 (ハヤカワ文庫JA)
紺野 天龍
早川書房
2020-12-17


罪人に手向ける花(大門剛明)
女性検事の黒木二千花は元検事の父の影響から悪は絶対に赦さないという強い信念を持っていた。そんな彼女が担当することになった殺人事件の容疑者は、23年年前に父が起訴を見送った加瀬という男だ。しかも、彼の弁護人はかつて「お父さんはやっていない」訴えた加瀬の息子だった......。
23年前の事件から始まった物語は意表を突く展開の連続で一気に引き込まれますし、意外な真相にも驚かされます。結構重い話ではあるものの、ゆるふわ検事のキャラがそれをうまく中和しています。
罪人に手向ける花 (ハルキ文庫)
大門剛明
角川春樹事務所
2021-03-15


人生脚本(伴一彦)
ひとり息子を失ってから早紀と信夫の仲は冷え切っていた。ある夜、信夫が列車の転落事故に巻き込まれたという連絡が入る。なぜそんなことになったのか?早紀は夫婦共通の友人である篠山の協力を得て信夫の足跡を追うが、新たな事実が明らかになるほど謎は深まるばかりで......。
序盤からまさかまさかの展開の連続でページをめくる手が止まらなくなります。テンポの良い物語と二転三転の展開は大御所脚本家ならではです。イヤミスに近い作風ですが、読後感は悪くありません。
人生脚本
伴 一彦
光文社
2021-01-19


サクラオト(彩坂美月)
クラスメイトを毒殺して自殺した少女、恋人同士の扼殺事件、中学教師による教え子殺し。なぜ、この桜の下では事件が多発するのか?少女は自殺する前に「桜の音が聞こえる」という言葉を残していたのだが、果たしてその意味とは?朝人は詩織を夜桜の下に連れ出し、謎解きを迫るが......。
四季と五感をテーマにした5つの短篇を収録した連作ミステリーです。バラエティに富んだ趣向が凝らされており、一編一編異なるテイストの謎解きが堪能できます。最終章での思わぬ反転も見事です。
サクラオト (集英社文庫)
彩坂 美月
集英社
2021-01-20


ヴェルサイユ宮の聖殺人(宮園まりあ)
フランス革命前夜。ヴェルサイユ宮殿の一室で刺殺死体が発見される。ルイ16世の従妹であるパンティエーヴル公妃は現場に倒れていた陸軍大尉のジャン・ジャックの身柄を預かると宣言し、ジャンは嫌々ながら公妃と行動を共にすることになるのだった。そして、殺人事件の謎を探る2人だったが.........。
第10回アガサ・クリスティー賞優秀賞受賞作品。当時のフランスの様子が生き生きと描かれており、歴史ロマンとしては申し分ない傑作です。ただ、その分、謎解きが添え物扱いになっているのが難。
ヴェルサイユ宮の聖殺人
宮園 ありあ
早川書房
2021-01-21


だから僕は君をさらう(斎藤千輪)
守生光星は父が誘拐事件を起こしたすえに事故死したのちに養護施設に入り、それから16年間、ミュージシャンを目指しながらひっそりと生きてきた。だが、ある少女と出会ったとき、彼は自らが誘拐犯となる。大切な人を守るために罪を犯す決意をしたのだ。
第2回双葉文庫ルーキー大賞受賞作。ミステリー仕立てになっていますが、どちらかというとヒューマンドラマとして感動的な作品です。切なくも優しい読後感を得られる佳品です。
だから僕は君をさらう (双葉文庫)
斎藤千輪
双葉社
2020-11-11


水葬(鏑木蓮)
限界集落のフォトエッセイを連載中だったカメラマンの千住光一が忽然と姿を消した。婚約者の初井希美は彼の妹とともにその行方を追う。手掛かりは自宅のPCに転送された写真。いろいろと調べていくうちに光一の元婚約者である優子も失踪している事実を知る。果たして2人は一緒にいるのか?
失踪事件から始まった物語は読み進めていくほどに謎が深まっていき、ぐいぐいと引き込まれていきます。そのうえ、途中から挿入される戦時中の手記が感動的で、重層的な面白さを堪能できます。
水葬
鏑木蓮
徳間書店
2021-01-27


書店員と二つの罪(碧野圭)
書店員の椎野正和は段ボールで送られてきた新刊本を見て驚く。それは17年前に同級生の女子中学生を惨殺した犯人の告白本だった。しかも、犯人は正和の友人であり、そのために共犯者ではないかと疑われた過去があったのだ。その本を読んだ正和は形容しがたい違和感を覚えるのだが........。
実際にあった有名な事件をモデルにした作品であり、事件によって人生を狂わされた人々の真に迫った心情描写が見事です。また、ミステリとしてもプロットがよく練られており、読み応えがあります。
書店員と二つの罪
碧野 圭
PHP研究所
2021-02-06


後宮の薬師 平安なぞとき診療日記(小田菜摘)
西洋人の血を引く安瑞蓮は大陸出身の父から医術を学び、やがてその腕を見込まれて後宮で姫や女房たちの治療にあたることになる。だが、陰謀渦巻く後宮の中で、否応なく呪詛騒動や政争に巻き込まれるていく。ついには若き日の安倍晴明まで現れるなか、瑞蓮は医術の知識で事件解明に挑むが......。
平安時代を舞台に西洋人との混血美女を探偵役に配した異色の医学ミステリーです。主人公が魅力的なうえに、いかにも平安時代といった事件の謎を西洋の科学で解明していく趣向に引き込まれます。


氷室の華(篠たまき)
ユウジは小学生のときに白姫澤村に住む祖父を訪ね、そこで彼の子孫が当時は貴重だった氷を洞窟に保管する氷室守だった事実を知る。しかも、その洞窟で氷室守に託されたもう一つの役割が明らかにされる。それからというもの、ユウジは背徳にまみれた蒐集を始めることになるのだが.......。
物語自体には非現実的な要素は全くないものの、全編に渡って幻想的な味付けがなされており、狂気の美の描写には強く惹きつけられます。ただ、サイコホラーとしては特にヒネリもなく、凡庸。
氷室の華 (朝日文庫)
篠 たまき
朝日新聞出版
2021-03-05


君の心を読ませて(浜口倫太郎)
IQ250のギフテッドが開発した美少女AIのエマは人の心が読め、相手の気持ちに寄り添うことができた。全人類の妹としてエマが世界中に普及していくなか、事件が起きる。エマを信奉する男女6人が集まったシェアハウスで殺人事件が起きたのだ。理想郷の如き世界が静かに崩れようとしていた.....。
近未来を舞台にしたSFサスペンス。最初は楽しげに描かれていたエマありきの社会がある時を起点として徐々に恐怖に彩られていく描写が秀逸です。終盤のどん返しや意外と悪くない読後感も高評価。
君の心を読ませて
浜口 倫太郎
実業之日本社
2021-03-12


善医の罪(久下部羊)
意識不明の重体で病院に運ばれてきた66歳の男性。執刀医の白石ルネはこれ以上の延命治療は難しいと判断し、家族の了承を得て尊厳死を選択する。その3年後、マスコミの報道によって事態は一変する。彼女が患者に筋弛緩剤を静脈注射したというのだ。報道を知って遺族はルネを告訴するが.......。
現役の医師ならではの視点から描かれた尊厳死を巡るミステリーです。延命治療の悲惨な末路やひたすら保身に走る病院の対応など、いろいろ考えさせられるものがあります。裁判シーンも読み応えあり。
善医の罪
羊, 久坂部
文藝春秋
2020-10-23


殺人依存症(櫛木理宇)
陰惨な連続殺人の捜査にあたっていた捜査1課の浦杉は6年前に息子を亡くし、その現実を忘れようとするかのように仕事にのめり込んでいた。やがて、捜査線上に実行犯の男たちと彼らを背後で操る女の存在が浮上する。しかも、その女と浦杉は思わぬ因縁で結ばれており.......。
櫛木節全開の鬱ミステリーであり、特に、輪姦・拷問・死体損壊と鬼畜の限りを尽くす男達を裏で操る浜真千代のキャラクターが強烈です。胸糞悪い展開が続き、ラストの後味の悪さもかなりのものです。
殺人依存症 (幻冬舎文庫)
櫛木理宇
幻冬舎
2020-10-07


ヴィクトリアン・ホテル(下村敦史)
100年の歴史を誇る老舗のヴィクトリアン・ホテルが改築のために一旦閉鎖されることなる。そのこともあってホテルには人気女優や人気作家など、さまざまな人々が集まっていた。そのなかで秘められた事実が徐々に明らかになっていく。果たして宿泊客たちの運命は?
群像劇として描かれるそれぞれのエピソードは興味深く、引き込まれるものがあります。ただ、そのなかで用いられているトリックは結構手垢のついたものなので勘の良い人なら気付いてしまうかも。
ヴィクトリアン・ホテル
下村 敦史
実業之日本社
2021-02-26


悪の芽(貫井徳郎)
あるアニメイベントで男が多くの人々を殺した末に火炎瓶で自殺するという事件が起きる。銀行員の安達はそのニュースを聞いて愕然とする。犯人はひどいイジメを受けていた元同級生で、しかも、イジメの原因を作ったのは彼自身だったのだ。安達は罪悪感から犯人の動機について調べ始めるが......。
人間の悪意について正面から描いた作品であり、いろいろ考えさせられる作品です。また、重いテーマだけに希望の持てるラストにはほっとさせられます。ただ、宣伝文句の驚愕の真相は誇大広告気味。
悪の芽 (角川書店単行本)
貫井 徳郎
KADOKAWA
2021-02-26


白日(月村了衛)
総合出版社による「引きこもりや不登校に対応した通信制高校を作る」という一大プロジェクトに暗雲が立ち込める。中学3年生になる局長の息子が謎の転落死を遂げたからだ。しかも、それは自殺だったという噂が社内で広まる。事実を隠蔽しようとする上層部に対して課長の秋吉は抵抗を試みるが.....。
現代社会における企業の在り方を問うた社会派小説です。読み応えやリーダビリティの高さはかなりのものですが、切実なテーマに対して、綺麗事でまとめた物語の結末には物足りないものがあります。
白日
月村 了衛
KADOKAWA
2020-11-10


第四トッカン 警視庁特異集団監視捜査第四班(鷹樹烏介)
都内で呪術を用いた猟奇犯罪が多発する。警察はそれに対抗すべく、警視庁公安部に特異集団監視捜査第四班、通称・第四トッカンを発足させる。呪いのスペシャリストである井手口に率いられたメンバーはやがて中国闇組織である龍門会が呪術テロをたくらんでいる事実を突き止めるが........。
警察小説にスーパーナチュラルの要素を組み込んだ伝奇アクション。娯楽性が高くてキャラも立っているので気軽に楽しむことができます。ただ、矢継ぎ早に出てくる技の描写はややわかりにくいかも。


絶体絶命ラジオスター(志賀晃)
AMラジオ局の帝都ラジオで局アナDJを務める垣島武史は、突然目の前に現れた自分そっくりの男に命を狙われる羽目になる。時間と時空を越えた陰謀に巻き込まれた武史は命がけで最後の放送に臨む。その声がリスナーたちと彼を待つ恋人の元に届いたとき、ささやかな奇跡が起き.......。
SF設定を絡めた冒険活劇ですが、平易な文章とテンポの良さでサクサク読むことができます。著者が元ラジオ出身だけあり、ラジオ局の描写にもリアリティがあります。ただ、少々ご都合主義なのが難。


百年の轍(織江耕太郎)
高度成長期の最中、幼馴染の矢島と岩城は故郷の林業を救うべく奮闘するが、国策による林業の衰退は止められない。一方、もう一人の幼馴染である鬼塚は木材自由化の法案を巡って暗躍するのだった。だが、その鬼塚は突如失踪する。それから数十年後。彼らの子孫が集まったとき、驚くべき真相が......。
日本の林業を巡る100年を描いた社会派ミステリーであり、複雑な人間関係を織り交ぜながら戦後の歴史が一望できる力作です。ただ、それを限られたページでまとめたせいでやや詰め込み過ぎな感も。
百年の轍
織江耕太郎
書肆侃侃房
2020-10-22


みがわり(青山七恵)
新人賞を受賞したものの1冊の本も刊行できないでいる律。そんな彼女にファンを名乗る女性から「亡き姉の伝記を書いてほしい」という依頼が舞い込む。しかも、問題の姉は律に瓜二つだったのだ。取材を進めるうちに明らかになる姉妹の確執や家族の秘密。彼女が律に執筆を依頼した真の動機とは?
純文学の作家らしい深みのある人物描写とテンポの良いストーリー展開に引き込まれます。ラストの予想外の展開は驚愕必至ですが、文学的で幻想譚じみたオチは賛否のわかれるところです。
みがわり (幻冬舎単行本)
青山七恵
幻冬舎
2020-10-27


ナキメサマ(阿泉来堂)
突然、有川弥生という女性が倉阪尚人の自宅に訪ねてきた。彼女は尚人が高校時代に付き合っていた小夜子のルームメイトだという。そして、小夜子が帰郷したまま音信不通になったので一緒に探してほしいと告げる。だが、たどり着いた小夜子の故郷では人間業とは思えない惨殺死体が次々と見つかり.....。
第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞読者賞受賞。キャラが薄っぺらだったり、トリックのために表現が窮屈になったりといった欠点はあるものの、ホラー描写とミステリー要素が満載で読み応えは十分。
ナキメサマ (角川ホラー文庫)
阿泉 来堂
KADOKAWA
2020-12-24


山田錦の身代金(山本モロミ)
1本100万円の純米大吟醸の原料となる酒米が採れる水田。その片隅に毒が撒かれ、所有者である烏丸酒造に現金500万円を要求する脅迫状が届く。毒で枯れた稲の第一発見者となったことで事件に巻き込まれたジャーナリストの山田葉子は、酒蔵の責任者が半年前に密室で殺されたことを突き止めるが.......。
密室殺人などの謎よりも、酒造りのプロセスや歴史などの話が面白く、思わず引き込まれてしまいます。ラストのどんでん返しも見事です。一方で、キャラクターやミステリー的な演出が弱いのが残念。
山田錦の身代金
山本 モロミ
幻冬舎
2020-10-09


境界線(中山七里)
宮城県警捜査一課の笞篠警部の元に7年前の大震災で津波に呑まれて行方不明になった妻が死体で発見されたとの報が入る。しかも、死亡推定時刻は昨日だというのだ。生きていたのならなぜ家に戻ってこなかったのかという疑問を胸に笞篠は現場へ急行するが、遺体の女性は妻とは全くの別人だった。
宮城県警シリーズの第2弾。淡泊な物語には物足りなさを感じるものの、被災者の名前を騙っていた人物が次々死んでいくという謎には引き込まれるものがありますし、伏線の妙にも思わず唸らされます。
境界線
中山 七里
NHK出版
2020-12-16


首イラズ 華族捜査局長・周防院円香(岡田秀文)
時は大正。警察庁では新たに華族捜査局が新設されることになる。局長の公爵の周防院円香は浮世離れしたエキセントリックな人物だ。そんな彼女と来見警部補は公爵で起きた毒殺事件に挑む。当初は家督相続権争いによるものだと思われたものの、新たな犠牲者が生首となって現れ.......。
探偵役の周防院円香のキャラが全面に押し出された、どちらかというとライトな作品です。しかし、時代考証はしっかりしており、その時代だからこそ成立する仕掛けが見事です。


探偵は友人ではない(川澄浩平)
中学2年生の海砂真史は幼馴染である鳥飼歩と9年ぶりの再会を果たして以降、奇妙な謎に遭遇するたびに、彼の卓越した推理力を頼ってお菓子持参で相談に訪れていた。洋菓子店主催の暗号クイズや美術室の不思議な出来事などに対し、彼はどのような答えを導き出すのだろうか?
鮎川哲也賞受賞作『探偵は教室にいない』の続編。思春期における少年少女の心の機微が繊細に描かれており、読んでいるとほんわかした気分になります。ただ、謎解きは軽めで物足りなさを感じます。
探偵は友人ではない 真史と歩シリーズ
川澄 浩平
東京創元社
2020-11-11


五色の殺人者(千田里緒)
高齢者の介護施設・あずき荘で働く新人介護士の明治瑞希は、施設利用者の死体を発見する。死因は撲殺で、5人の高齢者が逃走する犯人を目撃していた。しかし、いずれも顔は見ておらず、確認できたのは服の色だけだという。しかも、その色というのが黒・白・赤・青・緑と証言がバラバラで........。
第30回鮎川哲也賞受賞作品です。特殊設定ミステリー全盛の同賞にしては珍しく、地に足のついた設定で読みやすいのは好感が持てます。ただ、まとまりは良いものの、真相に大きな驚きがないのが残念。
五色の殺人者 (単行本)
千田 理緒
東京創元社
2020-10-10


野呂邦暢ミステリ集成(野呂邦暢)
取材先の島で失踪後に溺死したカメラマンの謎を残されたカメラのフィルムから解明していこうとする『失踪者』、夢を見るとそれがそのまま実現する男の最後の夢を描いた『まさゆめ』、引越し先で発見した絵が男の記憶を揺さぶる『もうひとつの絵』など、8編の中短編とミステリ関連エッセイを収録。
『草のつるぎ』で芥川賞を受賞し、1980年に自殺した著者の作品集。文学色が強く、日常の中に不穏な空気を滲ませる描写が秀逸です。ベストは自衛隊時代の経験を活かしたサバイバル小説の『失踪者』。
野呂邦暢ミステリ集成 (中公文庫)
野呂 邦暢
中央公論新社
2020-10-22


連鎖感染chain infection(北里紗月)
千葉県の総合病院に重症患者が次々と運ばれ始める。症状はいずれも激しい腹痛を伴う脱水症状であり、抗生物質の投与で落ち着いたのちに高熱で命を落としてしまうのだ。しかも、動画サイトからテロを匂わせる声明文が配信される。孤立無援の病院で医師たちの決死の戦いが始まる。
利根川由紀シリーズ第3弾。今日的なテーマを軸に据えた物語は臨場感があり、怒涛の展開には手に汗握ります。また、PCR検査などもわかりやすく解説されており、興味深く読むことができます。


少女ティック 下弦の月は謎を照らす(千澤のり子)
5年生に進級したばかりの片瀬瑠奈は老女に扮した人物にさらわれ、真っ暗な部屋に監禁されてしまう。携帯ゲームのすれ違い通信を利用すれば外部との連絡は可能だが、連絡を取れるのは顔もしらないお《フレンド》たちのみ。しかも瑠奈はゲーム内でも何者かによって自由を奪われ......。
誘拐や殺人を扱った作品なのですが、子ども視点で描かれているために妙にメルヘンチックな雰囲気なのが印象的。そして、その背後からグロテスクな真実が顔をのぞかせているのがインパクト大です。
月下蝋人 新東京水上警察(吉川英梨)
東京湾のガントリークレーンの先に蝋人形が吊り下げられているのが見つかり、それを回収してみると、中から男性の刺殺死体がでてきた。しかも、死体の胸には996の数字が刻まれ、蝋人形の異様な製造方法も明らかになる。不可解な手掛かりから真相に迫ろうとする五港臨時署強行犯係だったが........。
五輪までの限定署という設定で始まった本シリーズですが、オリンピック延期やコロナといった現実とリンクしている設定に引き込まれます。人間模様の機微やアクションなど読み応えも申し分なしです。


院内刑事 ザ・パンデミック(濱嘉之)
線内で新型コロナウイルスが発生した大型クルーザーの船が横浜港に入港する。そして、川崎殿町病院は感染症の専門医がいることから、次々と無理難題を押し付けられる。その病院で危機管理担当を務める院内刑事こと元公安刑事の廣瀬知剛はこの危機に一体どのように立ち向かうのか?
院内刑事シリーズの第4弾。旬の話題の新型コロナの問題をはじめとして、危機管理というものをあらゆる側面から扱っています。エンタメとして楽しく、同時にいろいろ考えさせられる作品です。


ネスト・ハンター 憑依作家 雨宮緑(内藤了)
出版社事務員のシングルマザーが幼子と無理心中を遂げる。だが、編集者の真壁は生前、彼女がもらした「最近息子が離婚した夫と遊んでいるらしい」という言葉に引っ掛かりを覚える。一方、執筆時に自作の主人公になりきることから憑依作家と呼ばれる雨宮緑は、そこに殺人の可能性を嗅ぎ取り......。
憑依作家シリーズの第2弾。緑を始めとするレギュラー陣の軽妙な掛け合いを楽しめる一方で、母子家庭を狙う犯人の醜悪さは相当なものです。事件を通して人間の悪意を浮き彫りにしていく佳品。


新宿特別区警察署 Lの捜査官(吉川絵梨)
担当区域の形から新宿L署と呼ばれている新宿特別区警察署。息子の病気で着任初日から遅刻した新井琴音警部はレズビアンの部下・堂源六花から殺人事件発生の報を聞く。一方、琴音の夫で捜査一課刑事の敦はショーパブで六花と会うが、その上階で無差別殺傷事件が発生する。犯人は自殺するが......。
女性刑事二人の活躍を描いたバディもの。女性が社会で活躍する難しさを描きつつも、個性的なキャラや事件解決至るプロセスの面白さによって警察小説としてもしっかり読ませる快作です。


ミッドナイト(柴田哲孝)
公安刑事の田臥健吾警視は北海道に潜伏していたロシアのスパイ親子を陸路で警視庁まで連れてくるという密命を受ける。その親子は世界を震撼させかねない戦闘機F35に関する重要な秘密を握っていたのだ。日米ロの諜報員たちが対峙するなか、田臥らは敵の襲撃を受け続けるが.........。
田臥シリーズの第4弾。F35の欠陥機報道に北方領土問題を絡め、ライトな作風ながらも説得力のある社会派サスペンスに仕上げています。アクションあり駆け引きありのノンストップ展開も読み応えあり。
ミッドナイト
柴田 哲孝
双葉社
2020-12-16


コンサバター 幻の《ひまわり】は誰のもの(一色さゆり)
修復士であるスギモトの元にゴッホの《ひまわり》が持ち込まれる。行方不明になっていた11枚目のひまわりでその真贋鑑定と修復をしてほしいというのだ。しかし、その絵はフェルメールの絵画と共に盗まれ、犯人は引き換えにヒスロー空港地下倉庫に眠る膨大な数の美術品を要求してくるのだが......。
コンサバターシリーズ第2弾。数々の美術品やその歴史的背景などについて語られる内容が興味深く、その美術品に絡んだ壮大なストーリーも読み応えがあります。先の展開が楽しみなシリーズです。


来世の記憶-鍋島佐賀藩の奇跡-(東圭一)
世は幕末。佐賀藩の下級武士として生まれた龍前慎之介は少年の頃より150年後の日本で生きる来世の自分と通信を行っていた。彼はそこから得た知識を活かして藩の防衛に大きな功績を残すことになる。やがて時代は大きく動き出し.......。
ファンタジー設定の物語ながらも、歴史上の謎に説得力のある独自解釈行っており、歴史好きの人であれば興味深く読み事ができます。物語としてもテンポが良く、読後感も爽やかです。
来世の記憶-鍋島佐賀藩の奇跡-
東 圭一
佐賀新聞社
2020-10-21


彼女のスマホがつながらない(志賀晃)
大学生の咲希望は生活費を稼ぐためにバイトに追われ、睡眠も碌に取れない始末だった。そんなとき、美人の里香に誘われ、パパ活の世界に足を踏み入れる。しかし、そのことで不可解な事件に巻き込まれてしまうのだった。一方、女性週刊誌の編集者である友映は女子大生連続殺害事件の犯人を追うが.....。
テンポの良いのでサクサク読めますし、パパ活などの時事ネタを掘り下げた物語にも興味深いものがあります。また、容易に真相を悟らせない凝った構成もユニークです。ただ、オチが弱いのが難。
彼女のスマホがつながらない
志駕晃
小学館
2020-12-17


お電話かわりました名探偵です(佐藤青南)
Z県警本部には電話で話を聞いただけで事件を解決に導く凄腕の警察官がいる。指令課員の君野いぶきだ。彼女は、あまりの洞察力の鋭さから千里眼ならぬ万里眼と呼ばれている。ある夜、通信指令室に電話がかかり、「イエが盗まれた」という報を受ける。その情報から君野が導き出した答えとは?
通信指令室と安楽椅子探偵という組み合わせに目新しさを感じます。ライトミステリーとしての出来もよく、気軽に楽しめるエンタメ作品に仕上がっています。ただ、ベタなラブコメ展開は蛇足かも。


終わった恋、はじめました(小川晴央)
会社を退職したばかりの青年の元に妹から1年ぶりに電話がかかってくる。そして、難病を抱えていた青年の元彼を探そうという話になる。彼女の足跡を追って妹と旅に出た青年だったが、その途中でさまざまな出会いがあり、そして辿りつ旅の終着点。そこで青年が目にしたものとは?
兄と妹のロードノベルといった作品ですが、旅の途上でちょっとした謎が用意されており、それを解決に導きながら先に進んでいくという構成になっています。切なく優しい青春ミステリーとして秀逸。


ノゾミくん、こっちにおいで(水生大海)
「ノゾミくん、こっちにおいで」というおまじないをするとノゾミくんがやってきて願いをかなえてくれるという都市伝説が若者たちの間で広まっていた。美咲と由夢はそのおまじないを行うが、由夢は「ノゾミくんに殺される」という言葉を残して屋上か落下する。そして、新たな犠牲者が.....。
都市伝説をテーマにした心霊ホラー。ノゾミくんのルーツを探り、意外な真相へとたどり着くプロセスは読み応えがあります。ホラーとしての怖さもなかなかですが、後味の悪さは好みの分かれるところ。


バイター(五十嵐貴久)
伊豆半島沖の島でニホンオオカミのミイラが発見される。だが、それが惨劇の始まりだった。狼の体内に潜んでいたウイルスが人々を血肉を求める化け物へと変えていったのだ。混乱が深まるなか、総理大臣の娘を救出するために結成された特殊部隊〝ブラッドセブン”が島へと向かうが......。
良くも悪くも王道的ゾンビ映画のような作品に仕上がっています。手堅く楽しめる反面、キャラの個性や予想を裏切るような展開に欠けるのが難です。ただ、それだけにラストの展開には驚かされます。
バイター
五十嵐 貴久
光文社
2020-12-22


イノセンス(小林由香)
音海星吾は中学時代に不良に絡まれ、彼を助けようとした青年を見捨てて逃げたという過去を持っていた。青年は不良に殺され、星吾は世間から激しく糾弾される。その後、心を閉ざしたまま大学生となった星吾だったが、さまざまな出会いによって立ち直りの兆しが見えた頃、彼を襲う何者かの影が....。
罪の意識に苛まれる展開が続くので、非常に重苦しく、楽しい読書体験からは程遠い作品です。ただ、それだけに色々と考えさせられる内容であり、ミステリーとしても終盤の意外な展開に驚かされます。
イノセンス
小林 由香
KADOKAWA
2020-10-01


聖女か悪女(真梨幸子)
葉山の別荘で行われていた結婚パーティの最中にカリスマブロガーの月村珠里亜が倒れ、昏睡状態に陥る。心理カウンセラーの麻乃紀和は死んだ息子の復讐を果たすべく、珠里亜の身辺を洗い始める。そんな折、四谷の高級マンションで8体の惨殺死体が発見され.....。
怒涛のどんでん返しで人間の醜悪さをえぐり出していく渾身のイヤミス。マルキ・ド・サドの『美徳の不幸』のオマージュということで悪趣味全開な作りとなっており、かなり好みの分かれる作品です。
聖女か悪女
真梨幸子
小学館
2020-11-20


グルメ警部の美食捜査(斎藤千輪)
大食いチャレンジに挑戦して失敗したカエデはお金を持っていなかったために窮地に追い込まれるが、偶然居合わせた警視庁の久留米警部に救われる。そして、運転の腕を見込まれて彼のお抱え運転手になるのだった。だが、捜査といいつつ、警部が訪れるのは高級レストランや美食パーティーばかりで......。
主人公のカエデが料理をヒントに事件の謎を解く美食ミステリーですが、とにかく料理が美味しそうで読みながら食欲がそそられます。主人公や警部のキャラも魅力的なユーモアミステリーの佳品です。
グルメ警部の美食捜査 (PHP文芸文庫)
斎藤 千輪
PHP研究所
2021-03-05


復讐の協奏曲(中山七里)
御子柴礼司法律事務所でパラリーガルとして働く日下部洋子は事務処理に忙殺されるなか、外資系コンサルタントの知原と夕食をともにする。ところが、その翌朝、知原は死体となって発見され、凶器には洋子の指紋が残されていた。洋子は逮捕され、御子柴が彼女の弁護を引き受けることになるが.......。
シリーズ第5弾。レギュラーキャラである洋子の掘り下げが行われ、最後に鮮やかな逆転劇が見られるなど今回も安定した面白さです。ただ、法廷シーンが少なく、真相も分かりやすかったのは残念。
復讐の協奏曲 御子柴礼司
中山七里
講談社
2020-11-10


怒涛の砂漠 傭兵代理店・改(渡辺裕之)
国際犯罪組織クロノスに暗殺された男の家から米軍の極秘資料「クロノス8473作戦」の指令書が発見される。藤堂と明石率いる各チームはCIAの命を受け、作戦中に行方不明になった実行部隊の捜索に向かう。だが、仲間の航空機に異常事態が発生。砂漠に潜む敵との死闘の火蓋がいま切って落とされる.....。
傭兵代理店・改シリーズの第4弾。冒頭から危機また危機の手に汗握る展開で一気に引き込まれます。仲間同士の掛け合いも楽しく、エンタメ小説として申し分ない出来です。


教室に並んだ背表紙(相沢沙呼)
クラスの委員長が本に興味がないはずの同級生をいつも図書館で見かけることに疑問を抱く『その背に指を伸ばして』、将来に希望が持ない図書委員が本に挟まった古い手紙を見つける『しおりを滲ませて、めくる先』など、中学校の図書館を舞台にした物語を6編収録。
本作はミステリーではなく、『雨の降る日は学校に行かない』と同じ青春小説の短編集です。同書と同様、少女の繊細な心の揺れが読みどころとなっていますが、ミステリー作家ならではの仕掛けもあり。


銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵 2(中山七里)
清廉潔白で知られた元裁判官で今は80歳を超えている高遠寺静。彼女のかつての同僚たちが次々と謎の死を遂げる。ただならぬものを感じた静おばあちゃんは、経済界の重鎮にして車椅子の暴走老人、香月玄太郎の手を借り、事件の背後に潜む闇の正体を追うが......。
高齢者コンビが難事件に立ち向かうシリーズ第2弾。老人たちが大活躍するのは痛快な反面、一抹のやるせなさも感じさせる作品に仕上がっています。他作品のキャラが登場するファンサービスも健在。


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