最新更新日2020/12/31☆☆☆

Previous⇒2020年上半期発売!おすすめライトノベル初巻限定レビュー

2020年に発売されたおすすめライトノベルの内、第1巻のみの限定レビューです。
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古き掟の魔法騎士(羊太郎)
聖王アルスルの元で無数の武勲をあげ、最強の名を残す伝説の騎士・シド。そんな彼も残虐非道の行いの末に聖王自らの手によって討たれたという。そして、1000年の月日が過ぎた。聖王アルスルの血を引くキャルバニア王国の王子・アルヴィンは王都周辺地域の視察に訪れた際にオープス暗黒教団の暗黒騎士であるジーザの襲撃を受ける。護衛は全滅し、追い詰められたアルヴァンは代々口伝によって伝えられてきた転生復活の魔法でシドを蘇らせようとするが.......。
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強くてカッコイイ騎士と健気で凛々しい姫が活躍するヒロイックファンタジーという今時ちょっとありえないくらいクラシカルな物語ですが、ツボを押さえた作りになっているため、非常に読みやすくて物語世界にぐいぐいと引き込まれていきます。主人公とヒロインの絆を深めるプロセスを描くために最初はギスギスさせるといったこともなく、終始良好な関係である点も好感が持てます。物語自体は手垢がついたものであっても、設定を丁寧に構築し、語り口に淀みがないのが安定した面白さにつながっているのでしょう。終盤には感動的な展開も用意されており、思わず胸が熱くなります。ヒロイックファンタジーが好きな人にとっては安心して楽しむことのできる佳品です。


〆切前には百合が捗る(平坂読)
白川愛結は同性愛的な志向を持つ高校2年生。ある日、そのことを親友にカミングアウトしたところ、クラス全員にばらされて偏見の目にさらされることになる。親からの理解も得られずに、家を飛び出した愛結は東京の出版社に勤めている従妹の白川京を頼る。絶対家には帰りたくないという愛結に対して、京が紹介したのは人気作家である海老原ヒカリの身の回りの世話を住み込みでするという仕事だった。愛結は破天荒なヒカリに振り回されながらも、そんな日々に幸せを感じるようになっていく。一方、ヒカリも愛結に対して特別な感情が芽生えていくのを自覚するようになり.....。
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百合をテーマにした作品は今やライトノベルでもごく普通に見かけるようになってきました。しかし、その多くはどちらかというとお気軽なもので、同性愛者であることの葛藤などはあまり描かれてきませんでした。それに対して、本作ではカミングアウトの結果、学校や家庭で居場所を失うというところから物語が始まるのがなかなか衝撃的です。その騒動が一段落してからは著者お得意の日常ラブコメが始まるわけですが、合間合間に考えさせられる内容も挿入されており、メリハリの効いた構成になっています。このギャグとシリアスの絶妙なバランスがさすが平坂読といったところです。一方、キャラクター的には、『妹さえいればいい。』のメインキャラである白川京が再登場するのがファンにとってはうれしいところではないでしょうか。さらに、でたらめな性格のヒカリと田舎育ちでピュアすぎる愛結との会話劇もいかにも著者らしい安定の面白さです。第1巻はまだまだキャラ紹介といった感じですが、これからどのように話が転がっていくのかが非常に楽しみです。
〆切前には百合が捗る【電子特装版】 (GA文庫)
平坂 読
SBクリエイティブ
2020-12-10


殺したガールと他殺志願者(森林梢)
高校3年生の淀川水面は自分を愛してくれる女性に殺されたいという願望を持っていた。ある日、廃ビルの屋上で佇んでいると、死神を自称する謎めいた美女が現れてその願いを叶えてあげるという。彼女が自分を殺してくれるのかと思う水面だったが、そうではなく、女の子を紹介してあげるというのだ。果たして数日後に引き合わされたのは浦見みなぎという黒髪ロングの小柄な少女だった。彼女には最愛の人を殺したいという願望があり、このままでは殺意だけが高まってどうでもいい男を殺してしまいそうなのだと彼に打ち明ける。水面にとっては願ってもない話だったが、彼の願望をかなえるためには彼自身が彼女にとって心から愛せる人間になってもらわなければならないという。そして、みなぎは水面に向かって宣言するのだった。「殺したいほど魅力的な男性にしてあげますから覚悟してください」と。
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第16回MF文庫Jライトノベル新人賞優秀賞受賞作品。かなり重いテーマを扱いながらも、コミカルな掛け合いがその重さを打ち消してサクサクと読むことができます。ヒロインのみなぎも結構サイコでかなり口の悪い女の子ですが、言動の節々で平凡な少女の一面が垣間見える点がギャップ萌えです。歪んでいるようで歪み切れていない点に可愛らしさがあります。ちょっと風変わりなラブコメとして良くできている作品だといえるのではないでしょうか。ただ、もっとサイコでぶっ飛んだ話を期待していた人にとっては意外と無難にまとめられた結末に物足りなさを感じるかもしれません。しかし、これで終わりではなく、どうやら2巻が発売されるらしいので、その辺りは続刊に期待といったところです。


世界一かわいい俺の幼馴染が今日も可愛い(青季ふゆ)
米倉透は趣味でネット小説を書いている高校2年生。彼には浅倉凛という10年来の幼馴染がいる。透は容姿端麗、スポーツ万能、成績優秀な彼女に恋心を抱いていたが、その想いを告げられずにいた。そんなある日、透はもやもやした気持ちを吐き出したくてSNS上で自分の想いをぶちまける。自分の小説の読者であるニラさんに対して自分がどれだけ幼馴染が好きかを熱く語ったのだ。「俺は幼馴染が超超超大好きなんだあああああー!!!!」と。恥ずかしすぎる台詞を見知らぬ読者にぶつけたことを後悔する透だったが、それからというもの、なぜか凛の様子が変わり始める。クールな毒舌キャラだったのに、手料理をふるまってくれたり、デートに誘ったり、ついには「私とハグしてみますか?」などと言い始め......。
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幼馴染ならではの感情の機微がよく描かれており、巷に溢れる幼馴染ものの中でもかなり上位に位置する作品です。10年来の付き合いの中で積み重ねられてきたお互いに対する想いが実に丁寧に描かれています。序盤は毒舌混じりの軽妙な掛け合いで読者を楽しませ、2人の関係から生じるさまざまな葛藤を経て爽やかなラストへと至る構成も見事です。毒舌ながら主人公にデレデレのヒロインやそんなヒロインの想いに応えようと懸命に頑張る主人公、さらには生意気で愛らしい主人公の妹など、キャラクターの魅力も申し分ありません。甘々幼馴染ものが読みたいという人には特におすすめです。
幼馴染をフッたら180度キャラがズレた(青季ふゆ)
天野照彦は12歳のときに幼馴染の月本六華から告白されるが、自分に自信が持てないこともあって彼女を振ってしまう。照彦はその直後に県外に引っ越し、六華とはそれっきりだった。ところが、それから3年が過ぎた高校入学式の日、見知らぬ美少女が照彦に向かって「いやっはー」と声をかけてくる。よく見るとそれは六華だった。オドオドした内向的な女の子だった彼女がやたらとハイテンションなギャルに変身していたのだ。とまどう照彦に対して六華は宣言する。「今度こそ私に惚れさせてみせる」と。
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お互いに相手が好きな、いわゆる両片想いものです。主人公・ヒロインとも魅力的に描かれているのですが、特にインパクト満点なのがヒロインの方です。オドオド系少女からハイテンションギャルへと変身したことによるギャップとキャラの勢いが半端なく、軽妙な掛け合いも相まって一気に物語の中に引き込まれていきます。それに、王子こと峰岸紗霧をはじめとして、サブキャラもいい味を出しており、ラブコメとして申し分のない出来です。しかし、勢いまかせのラブコメかと思っていると、後半になって意外な真相が明らかになり、思わずぐっときてしまいます。終盤には急展開も用意されており、次巻以降がどうなるかも非常に気になるところです。


百合に挟まれてる女って罪ですか(みかみてれん)
地元を取り仕切る神枝組と久利山組は長年持ちつ持たれつの間柄だったが、その関係にも次第にひずみが入り、上下関係をはっきりさせるべく抗争状態に入っていた。とはいえ、堅気には迷惑を掛けられないということで発案されたのが組員代表による7番勝負だった。飲み比べやカラオケ大会などの熾烈な戦いの末に勝負は最終決戦にもつれ込む。最後のお題は「組長の一人娘たちがターゲットを誘惑し、先に籠絡させた方が勝ち」というものだった。そして、女組長である母親に頭を下げられた神枝楓は喜んでその任を引き受けるものの、ターゲットの写真を見て怪訝な顔をする。17歳の楓はこの日のために男を落とすあらゆるテクニックを叩きこまれてきたのだが、写真に写っているのはどうみても若い女性だった。訝しがる楓に対し、組長は大事な一人娘を万が一にもキズものにするわけにはいかないから、女性のターゲットを選んだのだという。こうして神枝楓とその幼馴染である久利山火凛による女だらけのハニートラップ合戦の幕が切って落とされた。一方、ターゲットに選ばれた23歳の朝川茉優はメイド喫茶で働く元アイドルだったが、不運続きで心が弱り切っており......。
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百合コメディの第一人者であるみかみてれんの新作ですが、今回も新機軸に挑戦しながらも高水準をキープしているのが見事です。魅力的なWヒロインに挟まれて翻弄される主人公という構図は男主人公のラブコメではよくあるパターンです。しかし、本作の場合は主人公があまりにもチョロすぎてどちらにも簡単になびいてしまうせいで、逆にWヒロインの方も翻弄されてしまいがちなところに独自の面白さがあります。一方で、2人の間で右往左往する主人公も可愛らしく、話のテンポが良くてサクサク読めるのも好印象です。また、茉優がターゲットに選ばれた理由や恋の決着の付け方などもよく考えられています。ただ、これといった劇的な展開があるわけではないので、ディープな百合ものを期待していると肩透かしを喰らうかもしれません。その辺りは好みが分かれるものの、みかみてれんワールドが存分に堪能できる快作であることは確かです。


聖剣士さまの魔剣ちゃん(藤木わしろ)
青年・ケイル・シュタットは国家を守護する誉れ高き聖剣士に任命される。そして、聖剣士が所有すべき聖剣選定の儀に臨んだのだが、彼が一本の剣を引き抜くと、それは可憐な少女に姿を変えた。ケイルが選んだのは聖剣ではなく、魔剣だったのだ。その可愛らしい姿に心奪われた彼は王に向かって聖剣士の座を返上すると告げる。そして、あろうことか「この魔剣ちゃんに生涯を捧げる」と宣言するのだった。こうして、ケイルは魔剣ちゃんことリーシュ・ブルードと共に王都を離れ、辺境の地で冒険者を始めることになったのだが......。
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一見、王道的なヒロイックファンタジーのようですが、実際はぶっとんだ展開のお笑いファンタジーというのが正確なところです。主人公を始めとして頭のおかしなキャラが多く、ツッコミどころ満載のストーリーが紡がれていきます。一方で、魔剣ちゃんの可愛らしさも特筆ものです。素直で健気な性格なのに魔剣故に血の殺戮を求めるというギャップがたまりません。また、他の登場人物も皆キャラが立っており、テンポも良いのでさくさく読むことができます。ドタバタラブコメディとして非常に完成度の高い作品です。


現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変(二日市とふろう)
ブラック企業で低賃金労働を強いられて野垂れ死んだ女性が、大好きだった乙女ゲームの悪役令嬢・桂華院瑠奈として生まれ変わる。この世界は現実の平成日本と酷似しているものの、華族制と財閥が残っており、彼女は桂華院財閥中興の祖である祖父とロシア人女性の血を引く訳あり令嬢だった。しかも、財閥の経済破綻は目の前に迫っており、このままでは破滅は免れない。瑠奈は前世の記憶を駆使して生き残りを掛けたマネーゲームに身を投じるが.......。
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悪役令嬢ものは数あれど、舞台が中世ヨーロッパ風ではなくて現代日本のパラレルワールドというのは珍しいのではないでしょうか。しかも、イケメンとの恋の鞘当という定番展開もあるにはありますが、それは表面的なものにすぎず、主題となっているのはもうひとつの平成日本を舞台にした経済ドラマです。もちろん、ラスボスは乙女ゲームのヒロインでもモンスターでもありません。倒すべき敵はリーマンショックなのです。かなり本格的に経済について言及しており、とてもラノベとは思えないほどですが、堅苦しさを感じさせない軽い語り口で綴られているので経済に詳しくない人でも楽しく読める仕様になっています。2巻以降の展開も楽しみな異色傑作です。
魔女と猟犬(カミツキレイニー)
小国キャンパスフェローは決して豊かとはいえないものの、善良な領民たちが穏やかに暮らす平和な国だった。だが、その平和が破られようとしている。王国アメリアの女王が多くの魔術師を独占し、圧倒的な力を背景に領土拡大を続けていたのだ。このままではキャンパスフェローが蹂躙されるのは目に見えている。そこで、領主のバド・グレースは一か八かの奇策に打って出る。大陸全土に散らばる凶悪な魔女を集め、王国アメリアに対抗しようというのだ。そして、まず目を付けたのが隣国のレーヴェだった。レーヴェでは王を誘惑して王妃の座に就こうとしていた鏡の魔女が正体を暴かれて拘束されており、バドはその身柄を譲り受けるべく、従者を引き連れて旅立つ。そして、その一行の中にはあらゆる殺人術を叩きこまれた暗殺者の少年・通称”黒犬”の姿があった......。
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本作を読み始めると、凡百のラノベファンタジーとは異なり、かなり本格的に中世風の世界観を構築している点に気付かされます。昨今のラノベにありがちな、世界観は出来合いのもので間に合わせてキャラクターの魅力だけに力を注いでいるのとは異なり、世界そのものの息遣いが感じられる点に心惹かれるのです。物語としても三国の思惑が交錯し、虚実が入り混じりながら事態が二転三転するさまは非常に読み応えがあります。ただ、その反面、今風のテンポよく話が進むラノベを読み慣れている読者にとっては前半の展開が重厚すぎて起伏に乏しく、少々退屈かもしれません。しかし、中盤を過ぎると物語は一気に動き出し、謀略・虐殺・戦闘といった具合に怒涛の展開をみせます。この辺りはまさに息つく暇もない面白さです。また、陰鬱とした雰囲気の中で主要人物と思われたキャラが容赦なく死んでいくという、ダークファンタジーの王道といった作品なので、その手の作品が好きな人には特におすすめです。
魔女と猟犬 (ガガガ文庫)
カミツキレイニー
小学館
2020-10-21


僕の軍師は、スカートが短すぎる(七条剛)
ブラック企業に勤める史樹は頼みごとが断れない性格が災いし、連日夜遅くまで残業を続けていた。そんな彼の前に現れたのがお腹を空かせた女子高生・穂春だった。彼女は助けてくれたお礼にと、史樹の抱えていたトラブルをたちどころに解決してしまう。そして、そのことがきっかけで彼女は史樹と同居を始めることになる。身を寄せる場所を探していた穂春に対して、なんとか定時に帰りたい史樹は衣食住を提供する代わりに彼女のアドバイスを頼ることにするが.......。
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主人公がブラック企業に勤めているのは昨今のラノベではよくあるパターンですが、それを異世界転生で逃げるのではなく、美少女軍師のアドバイスによって現実を変えていくという展開が新鮮でした。なんといっても、最大の読みどころはヒロインの軍師っぷりで、心理学などの理論を駆使し、話術や交渉術を叩きこんで主人公をどんどん変えていくプロセスには思わず引き込まれます。女子高生を拾う系のラノベにしては中身は意外に硬派なお仕事小説といった印象です。また、後半にはヒロインに教えられたノウハウを用いて、逆にヒロインのピンチを主人公が救うという熱い展開もあります。頭が良くてキュートなヒロインと、成長してどんどんかっこよくなる主人公の魅力も申し分ありません。ラノベだけに少々ご都合主義な部分はなきにしもあらずですが、話のテンポが良く、爽やかな読後感が味わえる快作です。


君が、仲間を殺した数(有象利路)
塔と呼ばれるその建築物がいつから建っているのかは誰も知らなかった。ただ、塔がもたらす恩恵によって周囲の街が発展していったことはまぎれもない事実である。そして、いつしか昇降者と呼ばれる人々が富と名声を求めて塔に挑むようになっていた。昇降者たちはギルドを形成し、そのなかから数名のパーティを選んで塔に挑んでいたが、男は卓越した技能を持ち合わせているにも関わらず、ギルドに所属していなかった。あるとき、男はギルドの頭目であるアツギに仲間にしてほしい旨を告げ、実力を見せるために彼と一緒に塔の三階層へと挑む。だが、塔から戻ってきたのは男だけであり、しかも、アツギの存在自体が人々の記憶から消え去ってしまっていたのだ。一体男は何者なのか?
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作者は、あの『賢勇者シコルスキ・ジーライフシリーズ』で暴走の限りを尽くした有象利路ですが、そんな彼が本作を一分のおふざけすら入る余地のない圧倒的なダークファンタジーに仕上げています。前作との振り幅があまりにも大きすぎて続けて読むとめまいを起こしてしまいそうです。ちなみに、主人公の仲間たちはみな魅力的ではあるものの、冒頭で行く末が予想できるため、楽しげな場面ですら物悲しく感じてしまいます。その辺りもダークファンタジーとしてよくできており、さらに、伏線を張り巡らせたうえで、物語を悲劇的なクライマックスへと向けて収斂させていく手管も見事です。序章でありながら、本巻だけでも一つの物語としてきれいに完結しているこのシリーズが今後どのような方向へと進んでいくのかが気になるところです。


失恋後、険悪だった幼馴染が砂糖菓子みたいに甘い(七烏未奏)
一人暮らしをしている男子高校生、沢渡悠は年上の彼女に振られ、そのショックで熱を出して寝込んでしまう。すると、ふいに隣の部屋に住む白雪心愛が訪ねてきた。彼女はずっと学校を休んでいる悠を心配して看病をしにきたのだという。だが、彼の頭の中には疑問符がよぎる。なぜなら、心愛とは元々仲の良い幼馴染ではあったものの、ここ数年来は険悪な雰囲気になっており、高校に入学してからはわずかな会話すらなかったからだ。とはいえ、立ち上がるのもおっくうな悠にはそれを断る気力すらなく、大人しく看病をしてもらうことにする。そして、その日以降、2人は再び心の距離を近づけていく。やがて、悠は心愛のことを異性として好きになっていくが......。
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失恋から始まる恋物語であり、メインヒロインの幼馴染がすごく可愛いのですが、それ以上に、わずかなページしか登場しない元カノの存在感が圧倒的です。それだけに、失恋後の喪失感が真に迫り、同時に、幼馴染との甘い触れ合いにはほっとするような暖かさを感じます。基本的には甘いラブコメではあるのですが、そこに意外と重い設定が絡んできて、絶妙なほろ苦さを醸し出しているのです。ラブコメは好きだけど甘いだけの物語には食傷気味だという人におすすめなビタースイートな傑作です。


氷の令嬢の溶かし方(高峰翔)
高校1年の氷室冬華は容姿端麗、文武両道、品行方正の完璧超人ながらも心を閉ざして他人を寄せ付けないところから、いつしか氷の令嬢と呼ばれるようになっていた。ちなみに、令嬢とは周囲の勝手なイメージであり、別に大金持ちのお嬢様というわけではない。一方、ぶっきらぼうながらも世話焼きな性格の火神朝陽は偶然、同級生の冬華とマンションの隣室同士になるが、それ以上の接点があるわけではなかった。ところが、ある日、熱を出して倒れた冬華を介抱したところ、朝陽は彼女の意外な面を知ることになる。そして、そのことがきっかけとなり、2人は徐々に距離を縮めていくが.....。
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第8回ネット小説大賞受賞作品。隣人同士の男女が仲良くなっていく系の物語も最近多くなってきましたが、本作の場合は仲良くなるまでのプロセスが丁寧に描かれており、関係性が徐々に変わってくるディテールの細やかさに惹かれるものがあります。それに、交流を深めるにつれてどんどん可愛らしくなっていくヒロインが魅力的です。完璧超人に見えて実際はかなりポンコツだったというそのギャップがたまりません。一方、大人びた性格ながらも時折、高校生らしい一面を見せる主人公にも好感が持てます。そんな2人の関係は未だ途上で、次巻以降どんな展開が待っているのかが気になるところです。


美少女と距離を置く方法(丸深まろやか)
楠葉廉には友達がいない。友達ができないのではない。人付き合いが煩わしくてあえて友達を作らないのだ。そんな彼が体育館の裏でぼんやりしていると、同級生の橘理華が男子生徒に告白されている現場に出くわす。理華は申し出をきっぱりと断ってその場から立ち去ろうとするも、男子生徒はしつこく食い下がり、ついには腕力に訴えようとし始めた。人と関わり合いになるのを避けてきた廉もこれを見て見ぬふりはできず、とっさに彼女を助けてしまう。とはいえ、彼女とはその場限りの関係のはずだった。しかし、翌日彼女が教室を訪ねてきて何かお礼をしたいと言い始めたのだ。廉は「そんなものはいらない」と拒絶するが、理華は「そういうわけにはいかない」と一歩も引かない。そこでしかたなく、明日の昼飯を奢ってほしいといったところ、彼女は弁当を作ってきて人気のない場所で一緒に食べようと提案する。こうして接点を持った2人はその後も何かと行動を共にするようになり、お互いの距離を縮めていくが.......。
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人との付き合いを避けてきた者同士の不器用な恋愛が非常にもどかしくも愛らしく思える作品です。ぼっち主人公というのはよくあるパターンですが、ヒロインもぼっちなクール美女という組み合わせが新鮮です。また、最初はクールに見えたヒロインも主人公と仲良くなっていくにつれて怖がったり恥じらったりといった表情を見せるようになり、どんどん可愛らしくなっていきます。しかも、2人の親密度が高まっていくプロセスが丁寧に描かれているので、ラブコメ好きな人にとってはかなり魅力的な作品だといえるのではないでしょうか。終盤が近付くにつれてラブコメ度がどんどん高くなり、2人の関係が甘々になっていく構成もグッドです。


経験済みなキミと、経験ゼロなオレが、お付き合いする話。(長岡マキ子)
高校2年の白河月愛(しらかわ・るな)は華やかな雰囲気を纏った学年一の美少女で、クラスメイトの加島龍斗にとっては憧れの存在だった。話によると、彼女はエッチが大好きで一人の男では満足できずに次々と彼氏を取り換えているという。そんな噂に男子生徒たちは色めき立ち、自分にもワンチャンあるかもと果敢にアタックをかけていたが、龍斗はその中に加わる気はなかった。なぜなら、彼は自分が陰キャラであることを自覚しており、太陽のような彼女とはとうてい釣り合いが取れるとは思えなかったからだ。ところが、ある日、友人たちに強制された罰ゲームで月愛に告白しなければならなくなってしまう。しかたなく、玉砕前提で月愛に告白する龍斗だったが、彼女は今フリーだという理由だけであっさりとOKする。実際に交際を始めてみると、お互い何もかも違うことに戸惑いを感じつつも、次第に心を通わせていき......。
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学園一の美少女と陰キャラの主人公が愛を育んでいくという昨今のラノベではあまりにも定番すぎる物語です。しかし、ディテールが丁寧に描かれており、同種の作品のなかでは頭一つ抜き出た存在となっています。ヒロインが主人公の不器用ながら誠実な面に惹かれていくプロセスにも説得力がありますし、何よりビッチなギャルである彼女が主人公を本当に好きになっていくにつれて、恥ずかしがったり泣いたりといった意外な表情を見せるようになるという、そのギャップがたまりません。また、一見頼りなげにみえながらも、いざとなると懸命に彼女を守ろうとする主人公の姿にもぐっとくるものがあります。終盤には気になる展開も用意されており、続刊の発売が非常に楽しみです。


わたし以外とのラブコメは許さないんだからね(羽場楽人)
有坂ヨルカは学年一の美少女だが、人間不信気味で他人を寄せ付けないところがあった。同じクラスの瀬名希墨はそんな彼女に恋をし、高校1年の最終日に思い切って告白する。すると、意外なことに彼女も以前から希墨のことが好きだったというのだ。こうしてめでたくカップルになった2人だったが、ヨルカは周囲の人に冷やかされるのが恥ずかしいから、他の人には交際していることは内緒にしてほしいという。それから、秘密の関係ながらも熱々カップルな日々が続く。しかし、そんな彼らに恋敵が現れて.......。
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カップル成立の段階からスタートするラブコメですが、ヒロインの面倒くさい性格ゆえの可愛らしさがたまりません。また、主人公も、定番といえる取り柄のない非モテ男子ではなく、そこそこ女子からの人気があるという設定が物語をより面白くしています。恋のライバルが現れ、ヒロインが嫉妬することになるのですが、その嫉妬さえもが可愛いのです。さらに、単なるイチャコメではなく、2人の成長物語としても読み応えがあります。作品として独創的な何かがあるわけではないものの、王道ラブコメとして十二分に満足できる傑作です。


ドラキュラやきん!(和ヶ原聡司)
虎木由良は現代日本でひっそりと生きる吸血鬼。太陽の光を浴びると灰になってしまい、復活まで時間がかかるので仕事はずっと深夜のコンビニバイトを続けている。ある日、バイトの帰り道で女が男たちに絡まれる場面に出くわし、彼女を助けたところ、男の一人は吸血鬼で女性はファントム狩りの組織に所属する白人のシスターだった。吸血鬼は小物だったが、シスター・アイリスは男性恐怖症(人間限定)だったために、吸血鬼に操られていた人間の男性にびびって苦戦していたというのだ。このままでは組織からお払い箱になりかねないということで、英国から赴任してきたばかりのアイリスは由良を強引に彼女の協力者にしようとする。おまけに、男性恐怖症でまともに住む部屋も探せないアイリスは由良の部屋に転がり込む。こうして、2人の奇妙な共同生活が始まるが......。
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魔王が飲食店で働く『はたらく魔王さま!』に続く和ヶ原聡司の新作は、吸血鬼が深夜のコンビニで働く『ドラキュラやきん!』です。シチュエーションは似ていますが、最強の魔王様に対して本作の主人公は基本的には強いのだけれど日光を浴びると速攻で灰になってしまう、日中は激しい眠りに襲われるなど、弱点が多いことで差別化が図られています。そして、なにより、ポンコツシスターの可愛らしさが最高です。ファントムとの闘いでは有能なのに、日常生活では役立たずで人間の男性にビビりまくるというギャップがたまりません。そんな彼女と主人公との掛け合いも楽しく読むことができます。他のキャラも魅力的で、今後の展開にも期待できる佳品です。
ドラキュラやきん! (電撃文庫)
和ヶ原 聡司
KADOKAWA
2020-09-10


川上稔 短編集 パワーワードのラブコメが、ハッピーエンドで五本入り(川上稔)
生まれたときから人の心が読め、それが普通だと思っていたことから自然と口数が少なくなっていった無口系少女の不器用な初恋を描いた『恋知る人々』、学校で3年間幽霊を続けている全裸の少年の前にある日、彼が見える後輩が現れる『嘘でかなえる約束』、漫画家を目指している美術部員の挫折と恋の物語を綴った『未来の正直』など、5本のラブコメを収録した作品集。
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『境界線上のホライゾン』や『終わりのクロニクル』など、壮大なスケールのSFファンタジーで有名な著者によるラブコメ短編集です。読み手にしてみれば、ジャンルの違いに戸惑うかもしれませんが、ハイテンションな語り口と独特の言葉選びは相変わらずで、その手法が甘い甘いラブストーリーと妙にマッチしています。著者の持ち味を存分に活かしながらハッピーエンドの王道ラブコメにまとめているのが見事です。川上稔の作品には興味があるものの、どれも分厚くて手を出しかねているという人なら、入門編として最適ではないでしょうか。


あなたのことならなんでも知ってる私が彼女になるべきだよね(藍月要)
超絶美少女の久城紅は全国模試がいつも1位のうえに凄腕プログラマーとして荒稼ぎしているスーパー女子高生だった。自称人間嫌いの彼女は自分から他人に話しかけることは滅多になかったが、隣の席の宮代空也に対してだけは例外的に10日に1度のペースで話題をふってくる。実は、彼女は空也に恋していたのだ。初めての感情に戸惑う彼女は、いつしか自らのスキルを駆使して空也の個人情報を収集するストーカー女子と化していく。一方、人間の感情を視覚化できる能力の持ち主である空也はとっくに彼女の恋心に気が付いており......。
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過去のトラウマに苦しむ主人公とその彼をスト―キングするヤンデレヒロインというとかなりドロドロした物語を連想しがちですが、意外にも軽い語り口で、気軽に楽しめる作品に仕上がっています。なかでも、最初はクールビューティな理系女子といった佇まいで登場したのに、次第にポンコツストーカーと化していくヒロインの可愛らしさが特筆ものです。一方で、もう一人のヒロインである幼馴染の翠香も最初は天真爛漫な少女然としていたのにもかかわらず、後半で全く異なるキャラに変貌していったのには驚かされます。終盤はかなりシリアスになるものの、そこに熱い展開が待っていて大いに引き込まれていきます。2人のやばすぎるヒロインが織りなす空回りラブコメの傑作です。


いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら(永菜葉一)
無職で暴力的な父の元で灰色の人生を送っている柊海人。彼はバイトに明け暮れることでなんとか日常生活を維持していた。一方、天谷浩太は幼い頃から望むものはすべて与えられ、自身も才に恵まれていたためにバラ色の人生を送っている。そんな2人に名家のお嬢さまにして文芸部部長の神楽坂朱音は小説の素晴らしさを説く。そして、囁くのだった。「君たちのどちらかがプロデビューして私を奪ってほしい」と。こうして、海人と浩太は共にMF文庫J新人賞に挑むことになるのだが......。
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プロの作家を志したり、アマチュアでもネットを利用して自身の作品を発表したりしている人は数多くいるはずです。本作はそういった創作に携わったことのある人なら、大いに共感できる作品に仕上がっています。いかにしてプロを目指すかというノウハウの類もたっぷり語られており、勉強になります。また、ライバル同士が競い合う熱い物語としても秀逸です。しかも、決して相手を蹴落とそうとするのではなく、お互い高め合う関係として描かれている点に好感が持てます。なかには、描写が少々クサすぎると感じる人もいるかもしれませんが、その辺は好みでしょう。一方、ヒロインはおっとり系ではなく、エキセントリック系のほうの年上お姉さんなので、そういったキャラが好きな人にもおすすめです。あえて難をいうなら、ヒロイン以外の女性キャラの描写が不足気味なところですが、その辺は2巻以降に期待といったところでしょうか。


ホラー女優が天才子役に転生しました(鉄箱)
実力派ホラー女優の鶫は30歳の若さで交通事故にあって死んでしまう。気が付くと、彼女はお金持ちの御令嬢で金髪碧眼のハーフであるつぐみに転生していた。つぐみの両親は5歳とは思えない彼女の演技力を目のあたりにし、テレビドラマの子役オーディションを受けさせる。恵まれた家庭環境と天使のような容姿を得た幸運に感謝し、つぐみは誓うのだった。「今度こそハリウッド女優になってみせる」と。そして、彼女の5歳とは思えない妖艶な演技は現場の監督やスタッフを驚愕させることになるのだが.......。
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おなじみの転生ものですが、異世界ではなく現実世界の20年後に転生し、大女優を目指すという着眼点が異彩を放っています。しかも、妖艶な演技で周囲を虜にする魔性の幼女というヒロインの設定が強烈すぎです。そして、その演技シーンが情感豊かに描かれ、つぐみというキャラに説得力を持たせている点が見事です。芸能界の荒波で幼女が無双する話なので、ある意味、異世界転生俺tueee系の変奏曲といえるかもしれません。また、3人のリアル幼女を含め、他のキャラたちもいい味をだしています。過去に例のない、斬新なアイディアを見事に形にした意欲作です。


幼馴染の妹の家庭教師を始めたら(すかいふぁーむ)
藤野康貴と学年一の美少女と噂される高西愛沙は幼馴染でかつ両親も仲が良く、幼い頃はよく一緒に遊んでいたのだが、大きくなるにつれて次第に疎遠になっていった。しかも、高校で久しぶりに同じクラスになったと思えば、塩対応をされる始末だ。しかし、勉強が苦手な愛沙の妹・まなみの家庭教師を康貴がすることになったことで2人の関係に変化が見られ始め........。
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第5回カクヨムweb小説コンテストラブコメ部門特別賞受賞作。この作品の肝はヒロインの愛沙に尽きます。序盤のツンツンと後半のデレデレのギャップがとにかく可愛いのです。それに対して、天真爛漫で姉思いのまなみは可愛くはあるものの、トラブルメーカー的なところを許容できるかどうかで好き嫌いが分かれそうです。一方、主人公はこの手のラブコメにありがちな鈍感さを有している点は多少イラつかないでもありませんが、真っすぐな性格には好感が持てます。それから、ストーリーに関しては安心して読める反面、意外性がなさすぎる点に物足りなさを感じるかもしれません。ともあれ、王道的なラブコメが好きだという人には非常に満足度の高い一編だといえるでしょう。


たとえば俺が、チャンピオンから王女のヒモにジョブチェンジしたとして(藍藤唯)
生まれたときから有している天性の職業によって人生が決まる世界。その世界でフウタはコロッセオの最強チャンピオンとして君臨していた。だが、それにも関わらず、職業が〈無職〉であったために民衆からは蔑まれていた。しかも、自らの武を誇りとして戦うのではなく、相手と同じ武器を手にした上で叩き伏せるというやり方に対しても反感を持たれていたのだ。世間の厳しい声に疲れ果てたフウタは、八百長試合に手を染めて追放される。そして、放浪の末に王女ライラックとの邂逅を果たすのだった。第一王女ながら剣の達人でもある彼女はフウタに興味を持ち、彼を食客として招き入れるのだが......。
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落ちぶれた闘士が王女に拾われて新たな人生を切り開いていく話です。タイトルの軽いノリに反して主人公の悩みが結構深刻なのですが、最後にきちんと救われるので後味の悪さはありません。また、底の見えないところのあるヒロインも生真面目な主人公と好対照をなしていて魅力的ですし、そんな彼女が最後に本音をぶちまけるシーンは大いに心を揺さぶられます。居場所を失った青年と誰にも心を許すことの出来なかった王女が出会い、絆を結んでいく物語は非常に感動的です。一方で、本筋にはほぼ絡んでこないメイドのコローナによる軽妙なトークは読む者の心を和ませ、物語に緩急をつける役割を果たしています。ある意味、俺tueee系ではあるのですが、その中で主人公の苦悩もきっちりと描ききった異色作です。


とってもカワイイ私とつきあってよ!(三上こた)
部類のRPG好きでクラスではぼっちの陰キャラとして認識されている和泉大和はある日、クラスいちのリア充女子である七峰結朱から告白を受ける。「不本意ですが私と付き合ってください」と。話を詳しく聞くと、見た目が可愛くて人当たりも良い結朱はモテすぎて周囲からの反感を買いそうになっているので、あえてダサい男子と交際することで人間関係のいざこざを解消したいのだという。面倒事に巻き込まれるのが嫌で一度は断った大和だったが、前から欲しかったプレミアが付いているゲームソフトを交換条件に出されてしぶしぶOKしてしまうのだった。こうして2人の形だけの交際が始まったものの、超ナルシストの結朱の言動は非常にうざい。しかし、周囲を欺くためにデートを重ねていくうちに、2人の距離は次第に近づいていき.......。
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普段は猫を被っている超ナルシストのヒロインが非常にキュートな作品です。一番可愛いのは自分だと信じて疑わず、主人公を常に見下す言動自体はうざいものの、そうした態度と意外に初心な面が垣間見られるシーンとのギャップがたまりません。2人の軽妙な掛け合いも会話劇として秀逸です。また、物語としては、全くタイプの違う男女が次第に心を通わせていくというラブコメの王道がそつなく描かれており、その手の作品が好きな人は大いに楽しめるのではないでしょうか。ベタではあるものの、極めて完成度の高い佳品です。


俺は星間国家の悪徳領主(三嶋与夢)
善良さだけが取り柄の平凡な男は妻と上司に裏切られ、すべてを失ってしまう。そんな彼の前に案内人と名乗る男が現れ、星間国家のアルグランド帝国の貴族の子として転生させられるのだった。前世では善人だから損をしたのだと考えた転生者リアムは、今度は悪徳領主として生きようと決意する。だが、5歳にして彼が継がされた領地は搾取などとうていできそうもない、荒れ果てた地だった。そこで、彼は搾取をしても大丈夫なようにと、領地改革に乗り出していく。その結果、リアムは領民からの支持を集め、名君と称えられるようになり......。
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一種の勘違いコメディですが、周りが主人公のことを勘違いするだけでなく、主人公も悪徳領主の本質を勘違いしているので相乗効果でより笑える作品に仕上がっています。しかも、精一杯悪ぶっていても根が善人なので悪人になりきれない主人公が魅力的です。また、この主人公は武力でもかなりの強さを誇っているのですが、チートスキルではなく、努力によってそれを手に入れているところに好感が持てます。さらに、彼を支えるメイド・天城の可愛らしさも申し分ありません。一方で、リアムを絶望のどん底に落としたい案内人と前世でリアムが飼っていた犬との密かな戦いも気になるところです。勘違いものと俺tueee系をうまく組み合わせた傑作です。


辺境都市の育成者(七野りく)
家を飛び出して2年。16歳になったレベッカは辺境都市の冒険者としてそれなりに名をあげていたが、最近悩みを抱えるようになっていた。順調にレベルアップしていた能力値がこの半年間完全にストップしてしまったのだ。剣術も魔法スキルも全く上がらない。どうしたものかと思案していたところ、彼女は廃教会で、育成者を自称する青年・ハルと出会う。伝説級の戦士や魔術師を育ててきたという彼の指導によってレベッカはたちまち秘めた能力を開花させていくが.......。
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いわゆる師弟ものですが、著者の人気作である『公女殿下の家庭教師』とは 真逆で弟子側の視点から描いている点に特徴があります。しかし、いずれにしても、伸び悩んでいる少女の前に凄腕の師匠が現れて、才能を引き出してくれるという構図は共通しています。そして、その定番の展開からのキャラ描写はさすがの巧さです。コミカルな掛け合いを交えつつ、弟子が師匠に対して心を開いていく物語は鉄板の面白さですし、表情をコロコロ変えるレベッカの可愛らしさにも惹かれるものがあります。特に、最初は不信感を抱いていた師匠に対してデレる瞬間が最高です。ただ、ストーリー的には方向性が定まっておらず、少々ごちゃついている感があったのが気になるところではあります。とはいえ、物語的に本巻はプロローグにすぎないため、2巻以降の展開に期待したいところです。


現実でラブコメできないとだれが決めた?(初鹿野創)
長坂耕平はラノベに夢中な中学生で、ラノベの定番ともいえるラブコメ展開な恋をすることを夢見ていた。だが、彼には妹もいなければ、可愛い幼馴染もいない。アイドル的存在のクラスメイトも、ミステリアスな先輩も、人懐っこい後輩もいない。それどころか、男性の親友キャラすら存在しないのだ。こんな日常をただ漫然と過ごしていても劇的な青春イベントなど起きるはずがない。そこで彼は思い立つ。起こらないのなら自分でラブコメの舞台を作り上げるしかないと。こうして彼は高校に入学するまでの1年間、ラブコメを実現するための分析調査とラノベ主人公になりきるための反復練習をひたすら繰り返した。こうして高校入学の日を迎えた耕平だったが、現実は自分の想定通りには動いてくれず......。
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現実の世界でラブコメをするという大馬鹿な計画を大真面目に描いているところに独特の面白さがある作品です。とにかく、主人公がラブコメを実現するために行う調査&分析の徹底ぶりは読んでいるほうが唖然とするレベルであり、そこには狂気すら感じられます。ただ、それだけの情熱を傾けても現実でラブコメするなどという夢はそう簡単にかなうはずもありません。理屈倒れになって空回りばかりしているところに登場する本作のヒロイン、上野原彩乃がいい味を出しているのです。とあるきっかけで主人公の相方となり、計画をアレンジして現実的なものに落とし込んでいく敏腕ぶりに痺れます。また、2人の軽妙な掛け合いも楽しく、一方で、主人公がメインヒロインに設定した清里芽衣がとんでもない本性を隠し持っていたことが明らかになるなど、予測不可能な展開もスリリングです。これまでにない、新機軸のラブコメとして今後の展開にも期待したいところです。


オーク英雄物語 忖度列伝(理不尽な孫の手)
かつてヴァストニア大陸全土が戦場となった長い長い大戦争があった。ヒューマンとデーモンの争いが発端となったその戦争は12の種族を巻き込み、5000年以上続いたのだ。そして、一時はデーモンの英雄・ディケンズ王によって率いられた七種連合が優位に戦いを進めるも、ディケンズ王がヒューマンの王子に討たれたことによって七種連合は総崩れとなってしまう。結局、戦争はヒューマンが率いる四種連合の勝利に終わり、ようやく平和が訪れた。そんな時代、先の戦争でヒーローの称号を得たオーク族のバッシュは旅に出る。オーク族にとっては戦いで手に入れた敵の首の数と女に産ませた子供の数が何よりの勲章だった。しかし、バッシュは戦による手柄こそ圧倒的ではあったものの、実は童貞なのだ。ちなみに、オーク族は基本的に雄しか生まれないので、他種族を孕ませなければ繁殖できない。繁殖場に繋がれている奴隷を使えば童貞を捨てることは簡単だったが、それでは童貞であることがバレてしまう。つまり、今回の旅の目的は嫁を探して密かに童貞を捨てることにあったのだ。こうして、バッシュはさまざまな種族の雌たちと邂逅を果たすことになるのだが.........。
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人間基準からすると倫理観がぶっ壊れているオーク族の英雄が主人公であるという点が、凡百のラノベとはかけ離れていてユニークです。そして、重厚な世界観の中で、いかに童貞を捨てるかというしょーもないエピソードが展開されるわけですが、周囲が勝手に勘違いしてシリアスな物語が構築されていくというギャップがまた笑いを誘います。さらに、各種族の文化や風習の違いが勘違いの元になっており、カルチャーギャップものとしても秀逸です。とにかく、シリアスかと思えばコメディ、コメディかと思えばその裏に壮大な物語が秘められているといった具合に、捉え方一つで軽くも重くもなる作風には独特の味わいがあります。勘違いコメディとしても英雄譚としても一級の傑作です。


紙山さんの紙袋の中には(江ノ島アビス)
平凡な少年、小湊波人は高校生活初日のホームルームで紙山さみだれの後ろの席になる。180センチを超える長身でグラマラスなプロポーションの持ち主の彼女はなぜか全身がずぶ濡れになっていた。しかも、それ以上に目を引いたのが頭から紙袋を被っていることだ。恥ずかしくて紙袋を取れないという彼女に対し、波人は会話部という部活を立ち上げて彼女の人見知り克服に協力する。やがて、人当たりの良い美人だが制服の話になると人が変わる新井日陽、見た目に反してパネルの魔法少女しか友達がいない天野春雨と、彼の周りには残念美少女ばかりが集まってきて......。
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第13回HJ文庫大賞金賞受賞作です。他者とのコミュニケーションに難のある残念美少女を集めて部活を立ち上げる展開はもろに『僕は友達が少ない』なのですが、本作のヒロインたちは残念を通り越してアブナイ領域に達しており、それだけに読んでいて非常にインパクトがあります。一方で、主人公は至って普通の少年ながらも、周りがあまりにもぶっとんでいるので、その普通属性が逆に個性として成立しているのがユニークです。そんななかで、最初は異常性だけが際立っていたヒロインたちが問題を抱えながらも一生懸命頑張ろうとする姿が描かれ、次第に可愛く見えてくるのがこの作品の最大の魅力だといえます。また、会話劇も非常に面白く、初巻のつかみとしては申し分ありません。ありきたりではない強烈なヒロインが登場するラブコメが読みたいという人には特におすすめです。