最新更新日2021/01/04☆☆☆

世の中にはさまざまな趣味があり、中には興味があってもその内実が今一つ分からないので、始めるのをためらってしまうといったものも少なくありません。その点、漫画なら世間一般にあまりなじみのない趣味でも、始める手順やハマったときの楽しさ、あるいはそれを続ける苦労などを具体的なエピソードを交えて分かりやすく解説してくれます。そこで、今回はマニアックな趣味やそんな趣味に通じるマイナーサークルの活動を描いた作品をピックアップし、その内容について解説していきます。
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※西暦表記は連載を開始した(描き下ろしの場合は単行本の初巻を発売した)年です
2001年

レコスケくん(本秀康)レコード収集
レコードコレクターのレコスケくんは女の子とのデートの途中で知らないレコード屋を見つけ、ふらふらと中に入っていく。そして、そこで見つけたのが大量に置かれてあるジョージ・ハリスンの各国版7インチシングルだった。ジョージ・ハリスンの大ファンである彼は1枚5千円ほどもするそれらのレコードを買い漁り、「10万ぐらいして泣きそうだよ」といって満面の笑みを浮かべるのだった。呆れている女の子に対してレコスケくんはデートを中止してこれからレコードを全部試聴しようと言い出す。全部聴くといっても、購入したレコードは”マイ・スィート・ロード”ばかりで..........。
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ミュージック・マガジンに連載されていた作品ですが、漫画そのものよりもウエスタンスタイルが可愛らしいレコスケ&レコガールのキャラクターのほうが有名かもしれません。内容はレコードコレクターの日常を描いたもので、それ自体がかなりマニアックであるうえに、ネタがビートルズやジョージ・ハリスンのレコードに偏っているので興味がなければ何が面白いのか分からないでしょう。しかし、ネタそのものはよくわからなくてもマニアの心理というのは共通した部分が多いので、マニアックな趣味を持っている人なら、そのマニア魂には大いに共感できるはずです。可愛らしいキャラと偏狭なまでのレコード愛とのギャップが実にいい味を出しているほのぼのカルト傑作です。
レコスケくん 20th Anniversary Edition
本 秀康
ミュージックマガジン
2016-12-25


2003年

ロボットボーイズ(作画:上川敦志/原作:七月鏡一)ロボット製作
迫水天馬はロボット製作に情熱を傾ける高校生。だが、その情熱に実力がついていかずにロボット競技大会では連戦連敗を重ねていた。彼の通う高校はスポーツで輝かしい実績を誇る元女子高であり、全体の1割しかいない男子生徒はみなパッとしない。そんな中でも天馬は学園一の変人として周囲から冷ややかな目で見られていた。だが、天満は少しもめげることなくロボット作りに挑み続ける。やがて、その情熱に吸い寄せられるように仲間が集まり始め......。
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ASIMOの開発や高専ロボコンなどの盛り上がりによってロボット熱が高まっていた時期に発表された作品です。序盤は主人公の熱い想いだけで話を引っ張っていたのが、次第に個性的なキャラが登場し、ロボット競技に勝つための戦略や工夫も練り込まれてくるので興味深く読むことができます。それだけに早期打ち切りとなったのが惜しまれます。


2009年

ヤマありタニおり(日下直子)折り紙
内向的な少年、相田義経は高校入学早々大きな悩みを抱えることになる。この学校には、生徒は必ず部活に入らなくてはならないという校則があるのだが、彼には16年間続けてきた折り紙以外に興味が持てるものがないうえに、人とまともに話せないコミ障だったのだ。ところが、中学時代に族の総長だったという噂がある宮本が彼の折り紙の技に興味を持ち、一緒に”折り紙部”を立ち上げる羽目になってしまう。しかも、学年主席の委員長で宮本と犬猿の仲であるはずの布施が折り紙部設立に協力すると言い出し.......。
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折り紙という地味な素材を極端なキャラクターとぶっとんだ展開を絡めて面白おかしく描くことに成功しています。基本ギャグ漫画なのに、青春物語としてもきちんと成立している点が秀逸です。また、最初は男性キャラばかりだった物語に途中から妄想女子が加わるのですが、その暴走ぶりは大いに笑えます。ただ、折り紙を主題にしている割には折り紙に関する描写が少々薄めなのが残念です。


2010年

ナナマルサンバツ(杉基イクラ)競技クイズ
内向的な性格で本ばかり読んでいる越山識は高校に入学して早々クイズ研究会に勧誘され、クイズの世界に興味を持ち始める。その後、体育館で行われた新入生歓迎会において、クイズ研究会による早押しクイズのエキビジションマッチが開催されることになった。識は解答者の一人に選ばれるも、同じ1年生の深見真理に圧倒される。だが、彼女の早押しを見ているうちに、識はこの競技にはいち早く答えにたどり着くポイントがあることに気づく。そして、自らの知識量を活かして見事難問クイズに正答するのだった。そのことにより、これまで経験したことのない感動を得た識は競技クイズの世界にのめり込んでいくが.......。
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物語の枠組自体は、冴えない主人公が未経験の世界に飛び込んでいってそこで才能を開花させていくというよくあるパターンです。しかし、本作では多くの人にとってあまりなじみのない競技クイズの世界が熱く語られており、その熱量に惹き込まれていきます。競技クイズの楽しさや、いかに早く正答にたどりつくかといったテクニックなどが詳細に描かれている点も興味深いものがあります。しかも、早押しクイズを続けるだけでは単調になりがちなところを多様なルールを持ち込むことで戦略性を変化させ、読者を飽きさせないようにしているのが見事です。大量に出てくるキャラクターもそれぞれ個性的で、競技ものとして極めてレベルの高い作品となっています。


花もて語れ(画・片山ユキヲ/原案・東百道)朗読
佐倉ハナは両親を早くに亡くし、伯母の家で育てられる。しかし、引っ込み思案な性格に加えて方言の壁に遮られ、周囲とまともに会話ができずにいた。そんなある日、当時小学1年生だったハナは教育実習生の青年・折口と出会い、彼に才能を見いだされて朗読の手ほどきを受ける。その後、彼女は朗読からは遠ざかり、22歳のときに就職のために上京する。声が小さくて怒られてばかりの彼女だったが、偶然の出会いによって朗読教室に通うことになり、いつしか自分が朗読に夢中になっていることに気づくのだった。
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本を読むのはごく日常的な行為ですが、本を朗読するという機会はなかなかないのではないでしょうか。本作では朗読するというのはどういうことなのか、黙読とは何が違うのかを説明しつつ、その魅力についてじっくりと描いています。朗読のテキストとして取り上げられているのは宮沢賢治や芥川龍之介といった日本人にとってなじみ深いものばかりで、その朗読している内容が本編の物語とオーバーラップしていく構成が見事です。本好きの人なら本作を読むことで読書について考え直す良い機会になりますし、そうでない人でも本に興味を持つきっかけになるのではないでしょうか。終盤で話の焦点がややぼやけてしまったのは残念ですが、本の世界の奥深さを知るには絶好の書だといえます。


るいるい(真楠)廃墟巡り
百合気質な高校1年生・羽山ほのかは、教室の窓から旧部室棟の廊下に佇んでいる美少女を目撃する。気になって確認にいってみると、そこにいたのは水沢柚姫という同級生の少女だった。柚姫の可愛さに魅了されたほのかは、お近づきになりたいために彼女と一緒に”景観歴史研究部”、通称廃墟部に入部する。ほのかは個性豊かな廃墟部の面々に圧倒されながらも廃墟巡りを行っていくが.......。
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マニアックな趣味として根強い人気のある廃墟巡りと百合要素を掛け合わせた作品です。一部の人にとってはたまらない趣向だといえるのではないでしょうか。ただ、コメディ要素と百合要素が前にですぎており、肝心の廃墟描写が薄くなってしまっているのが惜しまれます。また、絵は基本的にきれいなのでずが、構図によっては不自然に感じられるのも減点材料だといえます。
るいるい 1巻 (コミックブレイド)
真楠
マッグガーデン
2018-11-05


2011年

87CLOCKERS(二ノ宮知子オーバークロック
音大ヴァイオリン科の3回生である一之瀬奏はこれといった将来の目標があるわけでもなく、空しい日々を送り続けていた。そんなある日、奏はアパートの前で佇む裸足の美女、中村ハナを見かけ、たちまち恋に落ちてしまう。だが、彼女はどうやら男と付き合っており、しかも、ひどいDVを受けているらしかった。その男は電子機器の動作クロックの周波数を競うオーバークロックという競技の世界記録保持者だという。それを知った奏はハナを救うべく、オーバークロックの世界に身を投じるが......。
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オーケストラの世界を描いた『のだめカンタービレ』で大ヒットを記録した二ノ宮知子が次作に選んだ題材はPC界のF1レースと呼ばれるオーバークロックでした。しかし、このオーバークロック、マイナーなうえに超地味な競技なので漫画にしても到底面白くなるとは思えません。しかし、そこはさすが二ノ宮知子です。個性的な変人キャラクターたちと分かりやすい解説によって、読者をマニアックな世界にぐいぐい引き込んでいきます。ディープなオタクたちが繰り広げる熱い勝負は読み応えがありますし、最後になって87の意味が明らかになる構成も見事です。それになんといっても、主人公の成長物語としてよくできています。マニアックながらも意外と幅広い層が楽しめそうな佳品です。


2012年

不器用な匠ちゃん(須河篤志)武器模型
20歳の藍川さんは手先の器用な歯科技工士だったが、女子としてはいろいろ不器用で気疲れする日々を過ごしていた。そんな彼女の趣味は武器模型。文字通り、刀や銃などの模型を作る趣味なのだが、過去にその趣味を理解してもらえなかった経験から周囲には秘密にしている。そんなある日、彼女に遅い初恋が訪れ、その相手に誘われるままにもの作り同好会のアトム会に入会するが......。
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武器模型というマニアックな趣味がテーマになっているものの、男女の出会いから始まるラブコメが物語の主軸になっているため、誰でも親しみやすい作品に仕上がっています。特に、恋の相手には照れまくり、趣味の話になると熱くなるヒロインがとても魅力的です。しかも、巻を重ねるごとにどんどん可愛くなっていくのがグッドです。また、同じ趣味の人間が集まってワイワイやる楽しさもよく描かれています。比較的短い話なので、最後が駆け足だったのがやや残念ですが、趣味をテーマにした社会人ラブコメとしてはなかなか楽しい佳品です。


ステラのまほう(くろば・U)同人ゲーム制作
本田珠輝は高校入学を機に本気で打ち込めるものを見つけようと決意し、それに相応しい部活動を探し始める。色々な部活を見て回る中で彼女の琴線に触れたのが同人ゲームを製作しているSNS部(死んだ魚の目日照不足シャトルラン部)だった。そこでなら、自分が幼いころに抱いていた「自分にしか作れない遊びを創造する」という夢を実現できると思ったからだ。しかし、SNS部は珠輝を含めて部員数4人と深刻な人材不足なうえに趣味趣向も全員バラバラ。そこで、まずは夏の同人即売会に向けて小さな企画からコツコツと実績を積むことになる。具体的には、去年制作したパズルゲームのメインヒロイン、ステラの後日談をアドベンチャーゲームとして制作するというもので、作画を珠輝が担当することになった。だが、画力自体はあるものの、オジサマ好きの彼女の絵は渋い劇画タッチであり、求められている可愛らしい絵柄とは乖離しており......。
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ほのぼの日常漫画タッチの作風ですが、ゲーム制作のプロセスは意外とリアルに描かれています。それ故にチームでモノづくりをする大変さや楽しさがダイレクトに伝わってきます。キャラクターもただ可愛らしいだけでなく、個性豊かで魅力的です。特に、ヒロインの幼馴染で腐女子の布田由美音には忘れ難いインパクトがあります。単なる腐女子キャラというだけなら珍しくもないのですが、ヒロインを始めとする周囲の女子を男体化させ、カップリングを妄想するというのは前代未聞ではないでしょうか。また、日常系でありながら人間関係にも深く切り込んでいる作品なので、ドラマ的にも読み応えがあります。ただ、基本的にはコメディ作品ではあるものの、きらら系の割に重いシーンがところどころに垣間見える点は賛否が分かれるかもしれません。それから、アニメ版とは異なり、ビジュアル面でのキャラの描き分けが十分にできていない点は減点材料だといえるでしょう。


2013年

放課後さいころ倶楽部(中道裕大)アナログゲーム

内気な性格の武笠美姫は京都の高校に進学するも、周囲になじめずに寂しい日々を過ごしていた。そんなある日、彼女は引っ越してきたばかりの女子高生・高屋敷綾と出会う。意気投合してすっかり仲良くなった2人だったが、綾はマイペースな性格のため、委員長の大野翠と相性が悪かった。綾は真面目一本の翠のプライベートを探ろうと、街で見かけた彼女を美姫とともに尾行する。そうして、2人はアナログゲーム専門店のさいころ倶楽部でバイトする翠を発見するのだった。翠の意外な一面を知った2人はアナログゲームを通して彼女と親しくなっていく。さらに、アナログゲームによる交流の輪は徐々に広がっていき......。
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こじれた人間関係を解決する手段としてストーリーの中に自然な形でボードゲームを登場させていく展開に巧さを感じさせる作品です。そのため、読んでいる内に無性にボードゲームがしたくなってきます。しかも、バラエティに富んだゲームが次々に登場するので興味深く読み続けることができます。最初はゲームの説明が中途半端だと感じるものの、すぐに丁寧になってくるので問題ありません。勝ち負けではなく、ボードゲームをプレイする楽しさを教えてくれる良作です。


2014年

コンプレックス・エイジ(佐久間結衣)コスプレ
派遣社員の片浦渚にとってコスプレは人生のすべてだった。目標は「小さくて可愛いキャラに少しでも近づくこと」。特に、今は”マジカルずきん☆うるる”のヒロインであるうるるに似せることに心血を注いでいた。だが、あるとき周囲の心ない一言が彼女に現実を突き付ける。自分はもう26歳。無垢な少女を演じられる年齢ではないのだ、と。しかも、職場にコスプレの趣味がばれてしまい、そのうえ、親からは幼稚な趣味だと言われ.......。
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漫画やアニメなどではコスプレ好きの女性キャラがちょくちょく登場しますが、本作の場合は加齢や周囲の偏見といったシビアな問題を全面に押し出している点が異彩を放っています。しかし、ここで取り上げられているテーマはコスプレイヤーだけでなく、ちょっとでも特殊な趣味を持っている人は、みな多かれ少なかれ抱えている問題だといえます。それだけに、自分の趣味や性癖に置き換えることで多くの人が共感して読むことができるのではないでしょうか。ある意味、読んでいて心が抉られる問題作です。ただ、最終的な着地点は妥当であるとはいえるものの、少々駆け足で綺麗にまとめすぎた感があるのは賛否が分かれるところです。


トクサツガガガ(丹羽庭)特撮
26歳の仲村叶は職場では女子力の高い大人の女性だと思われているが、実は部屋中がフィギュアやDVDで埋め尽くされている特撮オタクだった。女の子が特撮に夢中になることを母親が嫌がったために一度は卒業したものの、一人暮らしを始め、今まで我慢してきた反動から再び特撮にドハマリしてしまったのだ。自分の趣味をひた隠しにしてきた彼女はあるとき吉田久美というオタク仲間を得て、それをきっかけに多様なジャンルのオタクと知りあうことになるが.......。
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マイノリティな趣味を持っている人の感性や苦悩をコメディとして上手くまとめた作品です。特に、隠れオタクであるが故に陥る危機をいかにして切り抜けるかという展開は、緊張感の中に笑いを盛り込んでおり、素晴らしい出来に仕上がっています。また、作者自身が特撮好きなだけあって、特撮に詳しい人が読むとあるあるネタを大いに楽しむことができます。ただ、長期連載になったため、問題発生から解決の道筋が途中からパターン化され、ややマンネリ化してしまった部分はなきにしもあらずです。しかし、すべての元凶である母親との決着を曖昧にせず、かといってご都合主義にも陥らずにきちんとつけた点は大いに評価したいところです。また、特撮だけでなく、さまざまなオタク文化にスポットを当てている点も愉快で、数あるオタクものの中でもかなり完成度の高い作品だといえます。


ゆうべはお楽しみでしたね(金田一蓮十郎)ドラゴンクエストX
さつきたくみは大のドラクエ好きで、シリーズ初のMMORPGである『ドラゴンクエストX』に対しても最初は懐疑的であったものの、その魅力を知るとたちまちハマっていく。彼はプクリポのパウダーという女の子キャラを演じていて、オーガのゴローに助けられたのをきっかけに彼と交流を深めていった。そんなある日、ゴローが今住んでいる場所は交通の便が悪いので引っ越しを考えているというと、たくみは彼に対してルームシェアを持ちかける。たくみの家は亡くなった祖父から受け継いだ一軒家だったので部屋は空いていたし、何より、自分がネカマだと打ち明けても以前と変わらぬ態度で接してくれるゴローに絶対の信頼を寄せていたのだ。トントン拍子に話がまとまり、たくみがゴローを駅まで迎えにいくことになる。ところが、そこにいたのはおかもとみやこという名の女性だった。みやこ=ゴローはそもそもネカマという言葉を知らなかったため、パウダーをずっと女性だと思っていたのだ。こうして、とまどいながらも男女一つ屋根の下のルームシェアが始まるが、2人は徐々に打ち解け、次第に親密な仲になっていく.......。
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内向的なフリーター男子とコミュ力の高いギャルという普通ならまず接点のない2人がオンラインゲームを通して知り合い、恋に落ちるという展開がユニークです。また、ゲーム内のゴローさんと現実のヒロインのイメージが全く違うのもインパクトがあり、最初に正体がわかる瞬間、一気に物語に引き込まれていきます。また、ヒロインはギャルなのに素直な性格でナチュラルに可愛らしいところがギャップ萌えです。主人公ともすぐに打ち解けて一緒にMMORPGをプレイしたり、現実の世界に戻ってゲームトークしたりするのが本当に楽しそうで、読んでいると思わずこちらもニヤけてきます。波乱万丈な展開ではなく、まったりとしたラブコメが読みたいという人におすすめの作品です。


ハルロック(西餅)電子工作
向阪春は幼少時に家の電気製品を片っ端から分解していき、家族から分解魔と恐れられた挙句、ドライバーを封印されてしまう。それから10年以上の月日が過ぎ、高校で電気部の顧問から電気工作の手ほどきを受けた春はすっかりその魅力に取りつかれてしまう。そして、大学に入学してからはアキバに通ってパーツや工具を漁る日々を繰り返していた。そんな彼女がさまざまな人と出会い、趣味でしかなかった電子工作を人の役にたつものへと昇華させていく......。
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興味のない人にとってはめんどくさそうにしか見えない電子工作ですが、独特の感性を持つヒロインが夢中になっているのを見ていると、なんだか楽しそうに思えてくるのが不思議です。ヒロインの奇行っぷりを始めとして、他のキャラたちもみな個性的で全体的にユルい空気が漂っているのが独特のおかしみにつながっています。全4巻と短い作品であるため、途中から展開がやや駆け足になりますが、それでも、笑いの中にホロリとさせるシメは見事です。非常に心地よい読後感を得ることができる傑作です。


2015年

ライフル・イズ・ビューティフル(サルミアッキ)ビームライフル
小倉ひかりは小学生のときから射撃が大好きで、猛勉強の末に射撃部のある千鳥高校に合格する。ところが、射撃部はすでに廃部となっており、復活させるためには4人以上の部員が必要だった。幸い、ひかり自身と幼馴染の渋沢泉水を始めとして、4人の経験者を集めることが出来、新入生だけで射撃部の活動を再開させることになる。顧問も国語の新任教師である鶴巻裕子が引き受けることになり、いよいよ全国大会出場を目指して動き始めるが.......。
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射撃は知っていてもビームライフルという競技は聞いたことがないという人が多いのではないでしょうか。銃の取り扱いが世界一厳しいこの国でも気軽に射撃ができるようにという理由で生まれた、日本独自の競技です。要は、照射した光を的に当てるだけなので見た目は非常に地味です。しかし、本作ではゆるい日常漫画のようなテイストと真剣勝負とのメリハリを巧く使い分け、そのギャップで面白さを巧みに演出しています。ただ、アニメ版と比べるとキャラの見分けがつきにくいのが難点です。ちなみに、主人公たちがビームライフルをやっているのは前半だけであり、途中でエアライフルに転向してしまいます。そういう意味では、マイナー趣味としてのレア度はちょっと下がってしまうかもしれません。


俺のプロレスネタ、誰も食いつかないんだが。(さかなこうじ)プロレス観戦
時は1993年。中学生の虎山仁はプロレスに夢中だった。だが、クラスメイトのみんなはだれも彼のプロレストークに食いついてこようとしない。プロレスが大衆娯楽だった時代はバブルと共に去り、今や一部のマニアが楽しむものとなってしまっていたのだ。だが、ある出来事をきっかけに、仁はクラスでも目立たない女子・東雲たま子がプロレスファンであることを確信する。それ以来、仁は必死にたま子と絡もうとするのだが........。
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漫画としては決してうまくはないのですが、1コマ1コマに染み出るプロレスに対する情熱の熱量が半端ありません。プロレスファン特有の暑苦しさが実にリアルに表現されています。決して洗練されているとは言い難い絵柄も妙に作品のテーマとマッチしています。また、2巻になってFMW、リングスといった具合に、さまざまな団体のファンが登場するところなども、当時を知る人にとっては懐かしいものがあるのではないでしょうか。ただ、これからまだまだ多くのネタを出していけそうだっただけに、最後は駆け足で終わらせた感が強いのは少々残念ではあります。


2016年

スローモーションをもう一度(加納梨衣)80年代カルチャー
高校1年生の大滝洋樹はスポーツ万能で友人も多いうえに女子からも人気のあるという、リア充な少年だった。だが、アイドルや歌謡曲、玩具といった80年代カルチャーに愛着を覚える一面があり、幼いころに友達から「ダセェ」と笑われて以来、それをひた隠しにしていた。そして、常に新しいものを追いかけている周囲の仲間と表面上は合わせているものの、どこか乗りきれないでいたのだ。そんなある日、クラスでも目立たない存在である薬師丸知世が密かに80年代カルチャーを愛好していることを知る。同じ趣味を持つ2人は次第に距離を縮めていくが........。
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現代が舞台なのに80年代カルチャーが次から次へと登場するために、妙にレトロな雰囲気が漂う作品です。そのレトロさと不器用な2人の恋模様がマッチしていて甘酸っぱさを感じさせてくれます。恋愛漫画としては大きな盛り上がりに欠けるのが物足りなくはありますが、その分、80年代カルチャーの要素をうまく物語の中に落とし込んでおり、オマージュとしては非常によくできた作品です。


川柳少女(五十嵐正邦)川柳
雪白七々子は声に出してしゃべるのが苦手で周囲とのコミュニケーションはすべて短冊に書いた川柳で行っている。そんな彼女は中学3年のときに川柳の句会でヤンキーの毒島エイジと出会い、見た目の怖さに反した心根の優しさに惹かれるようになる。その後、同じ高校に進学した2人は文芸部に入部し、部長の片桐あまねを始めとして、さまざまな出会いをしていくのだが......。
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障害を持っているというわけでもないのに、ヒロインの会話がすべて川柳というありえない設定ですが、そんな七々子がひたすら可愛いので読んでいて癒されます。また、彼女が恋をしているエイジも見た目とのギャップが可愛らしいキャラであり、2人の無自覚なイチャイチャぶりにもほっこりとしてしまいます。4コマ漫画構成になっているのでサクサク読めるのもグッドです。ただ、川柳はラブコメを盛り上げるための小道具に過ぎないので趣味漫画としては過剰な期待はもたない方がよいでしょう。川柳に関する蘊蓄とかは隠し味程度にしか含まれていないため、川柳について学べると思って読むとがっかりしてしまいます。


2017年

メタモルフォーゼの縁側(鶴谷香央理)BL

75歳になる市野井雪は2年前に夫に先立たれ、子供たちに書道を教えながら一人暮らしをしていた。夏のある日、涼を求めて偶然立ち寄った本屋で彼女はふと1冊の本を手に取る。表紙の絵柄が気に入って購入するが、家に持ち帰ってからそれが漫画の本だということに初めて気づく。昔『ベルサイユのバラ』や『エースをねらえ!』などを読んでいたことを思い出して懐かしむ雪だったが、その本は単なる少女漫画などではなく、高校生が主人公のボーイズラブコミックだったのだ。しかも、雪はそれを完読し、すっかりボーイズラブの魅力にはまってしまう。それからというもの、最初にボーイズラブコミックを購入した本屋に通い始め、そこでアルバイトをしていた高校生、雪山うららと顔見知りになる。実はうららもボーイズラブが大好きだったのだが、学校では共通の趣味を持つ友達を作れずにいたのだ。雪とうららは次第に親交を深め、やがて同じ趣味を持つ年の離れた友人として漫画について語り合ったり、一緒に同人誌即売会に出掛けたりするようになるが.......。
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女の子が腐女子という設定の漫画は星の数ほどありますが、70代になってBL漫画にハマるという話は過去に例がないのではないでしょうか。しかも、BLにハマりながらもあくまでも自然体で品のあるおばあちゃんとして描かれているのが素敵です。それになにより、60近く歳の離れた2人が友情を育んでいく様子が微笑ましくもどこか切なくてぐっとくるものがあります。同時に、本作はうららの成長物語という側面も併せ持っており、人生の大先輩に優しく背中を押されながら進んでいく姿には、自分も頑張らなくてはという気持にさせてくれます。一見イロモノのように思えて、実はかなり奥深いものがある傑作です。


恋せよキモノ乙女(山崎零)和装
大阪で両親と暮らす野々村ももは和装が大好きで、仕事が休みの日には亡くなった祖母から受け継いだ着物を身にまとってお出かけを楽しんでいる。老舗の喫茶店、レトロモダンな図書館、琵琶湖のほとりにある絶景の神社といった着物が似合う場所が彼女のお気に入りスポットだった。あるとき、ももは喫茶店で出会った椎名という男性に一目惚れをするものの、恋に奥手な彼女はなかなか告白することができず.......。
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春夏秋冬と季節に合わせた和装の着こなしが非常に印象に残る作品です。話の合間に挿入されるコラムも面白く、着物に関する興味を掻き立ててくれます。現代では祝い事以外ではほとんど目にすることのなくなった着物ですが、本作を読むと着物もよいものだなと思わせてくれるのです。ただ、着物の描写が素晴らしい一方で、恋愛描写が今一つ薄っぺらに感じてしまう点は残念です。思い切ってテーマを着物1本に絞ったほうがよかったのではないでしょうか。ちなみに、ヒロインは5巻で受付嬢を辞めて着物屋に転職するため、そこからは趣味漫画からお仕事漫画にジョブチェンジしてしまうことになります。


飼育少女(仲川麻子)小動物飼育
女子高生の鯉住のぞみは、授業を受け持っているわけでもない生物教師の対馬先生に呼び出され、なぜかヒドラの入ったビンを渡される。以前、ペットを飼いたいけどマンションだから無理だと嘆いていたのを耳にしたので、教材用の残りをあげるというのだ。戸惑いながらも飼育を続けている内に、彼女は小さな生命に対して興味を覚えていく。それと同時に、対馬先生のことも気になり始め........。
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小動物飼育といってもリスやハムスターなどの可愛いペットではありません。登場するのはヒドラ、ナマコ、クマムシといった珍妙な無脊椎動物ばかりです。可愛いとは言い難いものがありますが、その生態は興味深く、好奇心が刺激されていきます。それに加えて、小動物を観察するヒロインの独特な着眼点がユニークで、読んでいる人をなごませてくれます。ちなみに、ヒロインも彼女を導く立ち位置の先生も基本的にはボケ役であるため、ツッコミながら読むと楽しさも倍増です。なかなか味のある作品で、それだけに早期に終わってしまったのが惜しまれます。


2018年

着たい服がある(常喜寝太郎)ロリータファッション
背が高くてクールな見た目の小林マミは、周囲からカッコイイ女性だと思われ、自身も周囲が期待する自分を演じ続けていた。しかし、彼女が実際に着たい服はロリータファッションだった。スカートを履くだけでイメージと違うといわれる彼女にとってそれはあまりにもハードルの高い望みだったが、ある日、転機が訪れる。バイト先にヘルプでやってきた小澤君が周りの目を一切気にせず、奇抜すぎるファッションをしていたことに衝撃を受けたのだ。その日以来、彼に感化されたマミは徐々に本当の自分を解放していくが......。
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自分の趣味を周囲が理解してくれないことに悩みつつも自分の生き方を模索していくという点では、『トクサツガガガ』に相通じる作品だといえます。ただし、あちらはギャグタッチなのに対して本作は基本シリアスなので読み比べてみるのも一興ではないでしょうか。また、大人の女性が可愛らしい服を着るという意味では『コンプレックス・エイジ』とも共通する部分があります。いずれにせよ、自分らしく生きるとはどういうことなのかについて悩み成長する物語として、コンパクトにまとまった非常に完成度の高い傑作です。特に、ファッションにこだわりのある人にとっては必読の書だといえるでしょう。


その着せ替え人形は恋をする(福田晋一)服飾作り
高校1年の五条新菜は両親を早くに亡くし、雛人形職人の祖父と2人暮らしをしていた。自身も雛人形職人になることを夢見て学校でも隠れて雛人形の衣装作りに励んでいたが、それを同級生の喜多川海夢に見られてしまう。しかし、海夢はそれを見てキモいとバカにするどころか、彼に対してコスプレの衣装を作れないかと相談を持ちかけてくる。彼女は読者モデルをしているギャルで、新菜と正反対の陽キャラながらも、実はオタク趣味でコスプレにも興味津々だったのだ。新菜はとまどいながらも、彼女のために衣装を作り、その衣装で海夢はコスプレイヤーとしてデビューする。しかも、新菜に最高のほめ言葉をもらったことで彼に対して恋心を抱くようになるのだった。一方、新菜の作った衣装は乾沙寿叶という美少女コスプレイヤーの目にとまり.......。
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最近増えてきた感のあるオタク趣味のギャルものですが、その中でも本作のヒロインの可愛らしさは群を抜いています。しかも、主人公への恋心を自覚してからますますその可愛らしさに磨きがかかってくるのだからたまりません。また、ヒロイン以外の女性キャラの魅力も文句なしです。作画もレベルが高く、キャラクターの魅力を十全に表現し尽くしています。ただ、女性キャラの可愛らしさに全振りしているような作品なので、本格的な服飾作りのドラマを期待した人にとっては物足りないものがあるかもしれません。


秋山さんのとりライフ(津田七節)バードウォッチング
会社ではできる女として通ってる秋山さんは偶然立ち寄ったバードカフェですっかり鳥の可愛さに目覚めてしまう。しかも、部下の高崎が親睦会の自由時間でバードウォッチングに行くことを知った彼女は野生のハヤブサ見たさに彼と行動をともにする。その結果、秋山さんはすっかり、バードウォッチングの魅力にハマってしまったのだ。それからというもの、彼女は一眼レフを手にして週末バードウォッチングにいそしむようになり........。
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美女とカメラの組み合わせが絵になるバードウォッチングの教本的漫画です。ヒロインの巨乳が過剰に強調されているために、ついついそっちに目が行きがちですが、野鳥の魅力や撮影に関する蘊蓄もしっかりと描かれています。決してお色気メインの話というわけではないのです。むしろ、ヒロインが撮影のために、よりよい機材を求めて深みへとハマっていくなど、バードウォッチャーあるあるネタをユーモラスに描き出している点がこの作品の読みどころだといえます。趣味漫画としてかなりのクオリティを誇る佳品です。


2019年

HGに恋するふたり(工藤マコト)ガンプラ
神崎さやかは14歳のときに偶然、テレビで『機動戦士ガンダムSEED』の放送を見て、モビルスーツのカッコ良さにときめいてしまう。しかし、クラスの女子の間でもガンダムSEED自体は流行っていたものの、出てくるのはキャラクターの話題ばかり。ガンプラも作ってみたかったが、親にばれるのが恐くて買えずじまいだった。こうして、趣味を共有する仲間を持てないまま30歳を迎えようとしていた彼女は、ある日、運命の出会いを果たす。その相手はガンプラ好きの女子高生で14歳年下の高宮宇宙(そら)。さやかは彼女からガンプラの手ほどきをしてもらうことになるのだが......。
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一言でいえばガンプラ版『トクサツガガガ』です。ガンプラのことは良く知らなくても、自分の趣味が理解されずに肩身の狭い思いをした哀しさと、ようやく同好の士を得た喜びは多くの読者の共感を呼ぶのではないでしょうか。また、ガンダムにまつわるあるあるネタが随所に盛り込まれているために、ガンダム好きの人にとってはより一層楽しめる作品になっています。ただ、本作はあくまでも他人に理解されずらい趣味に嵌ってしまった人たちの悲喜こもごもなドラマが中心であって、ガンプラハウツー漫画ではないので、その辺は好みの分かれるところです。


趣味のラブホテル(らば☆)ラブホ巡り
22歳のBL同人作家、待合茶耶はラブホに取材に行こうと思い立つも、一人で入る勇気がなくてホテルの入口前で立ち尽くしていた。すると、可愛らしい女の子が声をかけてくる。あたふたしながら事情を話す茶耶に対し、女の子は「じゃあ、一緒に行きませんか」と提案する。無事ラブホに入ることができた茶耶だったが、相手の女の子はベッドインする気満々だった。慌てて断ると、「せめて一緒にお風呂に」というのでしかたなく付き合うことになる。ところが、彼女の裸体を見た茶耶は驚愕する。なぜなら、彼女には男性性器と白い翼が付いていたからだ。実は彼女はカシオペアという名の美少女ふたなり天使だったのだ。こうして天使と知りあいになった茶耶は2人でラブホテル巡りを繰り返すことになるのだが.......。
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1話でいきなりふたなり天使が登場するというファンタジー要素満載の作品ですが、中身は真っ当なラブホのガイドブックになっています。名前こそ伏せられているものの、紹介されているホテルは実在するものばかりです。丁寧な解説には作者のラブホ愛がにじみ出ていますし、ラブホ自体も和室だったり、プール&テニスコート付きだったりとバラエティに富んでいて興味をそそられます。また、頭身の低いキャラは、あまり淫靡さを感じさせることなくラブホを紹介するのにピッタリだといえます。一方、ストーリーの方も天使と主人公の関係が今後どうなっていくかが気になるところです。


女の子のためのストリップ劇場入門(菜央こりん)ストリップ鑑賞
2016年のクリスマス。平凡な会社員だった私がクリスマスイブに友人とモツ鍋をつついていると、彼女の口からストリップ劇場に行った話を聞かされる。興味を覚え、大学時代の後輩を誘って渋谷の劇場に行ってみたところ、そこには今まで全く経験したことのない新しい世界が広がっていた。こうして、私はストリップの魅力にハマっていくが..........。
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作者自身の体験を描いたエッセイ漫画ですが、ストリップの魅力や鑑賞時のマナーなどを素人目線から分かりやすく解説しており、優れたガイドブックになっています。それに加え、踊り子やスタッフ、あるいは長年のファンがいかにストリップに強い思い入れがあるのかといったエピソードも語られていて、ある意味良質なお仕事漫画といった側面もあります。軽いタッチながらも同時に、マニアックな熱量を有している良書です。