最新更新日2021/06/05☆☆☆

新型コロナウイルスが世界で猛威を振るうなか、パンデミック映画が高い注目を集めています。なぜなら、その中には2020年のこの状況を見事に予言しているものが存在するからです。実際にどのような作品があるのかを一挙紹介していきます。ただし、『28日後』や『クレイジーズ』などのように感染者が凶暴化してゾンビの如く人を襲いだすものや『12モンキーズ』や『ドゥームズデイ』のようなパンデミック後の世界を描いたものは除外させていただきます。対象としているのはあくまでも、現在進行形で拡大している伝染病に対して人々がどのように対峙していくかを描いた作品です。
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1971年

アンドロメダ...(ロバート・ワイズ監督)
ある目的で打ち上げられた人工衛星がニューメキシコの小さな村に墜落する。兵士たちがその回収に向かうが、村を訪れると村人は全滅しており、兵士たちもあっという間に死んでしまう。政府は非常態勢に移行し、4人の科学者を招集して事態の収拾に当たらせることになった。調査の結果、村人たちの死因は人工衛星が持ち帰った未知の微生物によるものだと判明する。その微生物が人間の血液を凝固させて死に至らしめたのだ。ところが、酔っ払いの老人と乳児の2人が、生きた状態で発見される。なぜ、彼らだけが死を免れることができたのか?科学者たちは人工衛星と生存者を研究施設に移し、アンドロメダストレインと名付けられた微生物を無力化する方法を懸命に探っていく。だが、やがて研究施設もアンドロメダストレインによって汚染され.......。
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パンデミック映画の原点というべき作品です。とはいえ、派手なパニックシーンとかがあるわけではありません。村は映画が始まった時点で全滅していますし、その後は、ほとんど研究所の中で病原体の正体を探っていくだけなので物語としてはおそろしく地味です。しかも、登場人物は冴えないおっちゃんやおばちゃんだけなので、画面には華やかさの欠片もありません。その代わり、後世の作品にも影響を与えたという研究施設のセットが凝りまくっており、SFマニアの心を揺さぶります。そのうえ、そこで展開されていくドキュメンタリータッチのストーリーが真に迫っていて、思わず引き込まれていきます。本当に未知の病原体と闘っているような気にさせられ、手に汗握ってしまうのです。ちなみに、監督は『ウエスト・サイド物語』や『サウンド・オブ・ミュージック』などで知られる名匠ロバート・ワイズであり、彼独自の空間の広がりを意識した引きの絵の多用もSFチックなムードを高めるのに一役買っています。ただ、あくまでも雰囲気優先の映画であるので、現代のテンポの良い映画を見慣れているといささか間延びして感じられるかもしれません。それに、最後にとってつけたような見せ場をもってきたのも賛否がわかれるところです。そこは雰囲気優先のスタイリッシュ映画として最後まで突き通した方がよかったのではないでしょうか。とはいえ、当時としてはかなり先鋭的な作品であることは間違いなく、特にSF映画が好きな人にとっては見逃せない1本だといえるでしょう。
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ポーラ・ケリー
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2015-10-21


1976年

カサンドラ・クロス(ジョルジ・パン・コスマトス監督)
国際保健機構の施設にテロリストが侵入し、銃撃戦となる。しかも、テロリストの一人が研究中の殺人ウイルスを浴びた状態で逃走してしまったのだ。テロリストはストックホルム行きの列車に乗り込み、その中で発症する。このままではパンデミックが発生するのは時間の問題だ。陸軍情報部のマッケンジー大佐は乗客がすでにウイルスに感染したものと考え、列車をポーランドの隔離キャンプ施設に向かわせることを提案する。しかし、途中にはカサンドラ・クロスと呼ばれる鉄橋があった。その橋は長年使用されていなかったので耐久性に問題があり、列車が通ると崩落のおそれがあるという。大佐は列車が落ちて乗客乗員が死亡しても構わないと考えていたのだ。一方、列車内では遂に感染者が出始め...。
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イギリス・西ドイツ協賛のイタリア映画であり、単純なハッピーエンドで終わることの多いハリウッドアクションとは一味違った味わいがあります。舞台をほぼ列車内に限定した密室劇ですが、さまざまなイベントを盛り込んで飽きさせません。まず、序盤に銃撃戦を盛り込み、列車に舞台を移してからは「ウイルスに感染した男が列車に潜り込むサスペンスを煽る演出」「テロリストを見つけて隔離しようとする緊迫感あふれるミッション」「爆撃シーンを交えた軍との闘い」といった具合に見どころ満載です。一方、特撮ははっきりいってチープなのですが、ラストの展開などはかなり衝撃的であり、さすがはイタリア映画といったところです。脚本の完成度は決して高いとはいえず、物語の整合性がとれていないところも多々あるものの、作品自体の勢いがそれを見事にカバーしています。パンデミックものに列車アクションの要素を組み込んだB級映画の傑作です。
カサンドラ・クロス [Blu-ray]
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2019-09-04



1980年

復活の日(深作欣二監督)
東西冷戦の雪解けムードが高まる中、マフィアの手によって東ドイツの陸軍細菌研究所からMM-88という名のウイルスが盗まれる。しかも、犯人の乗った逃走用のセスナ機はアルプス山中に墜落し、MM-88が外部に漏れ出てしまったのだ。MM-88は極寒の環境下では活動を停止するが、氷点下を上回ると毒性を帯びて爆発的に増殖を始める恐るべきウイルスだった。そして、雪解けと共に異変は起きる。まず、カザフスタンで放牧中の牛がすべて死に絶え、ヨーロッパ全土をイタリア風邪の猛威が襲う。アメリカ大統領のリチャードソンは事態を重くみて閣僚たちと対策を協議するが、有効な手段は何一つ打ち出せなかった。日本でも感染は拡大し、夏を迎えるころには死者が3千万人を超えるという事態に陥る。一方、唯一無事だったのが氷に覆われた南極だった。南極隊員たちは各国の南極基地と連絡を取り合い、情報収集に努めるが世界の状況は悪化するばかりだ。そして、1982年秋。人類は死滅する。南極大陸に863人の人々を残して.......。
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ウイルスによって人類が滅亡寸前まで追い込まれるという日本映画らしからぬスケールの大きな作品です。ハリウッドスターが多数出演しており、チリ海軍から本物の軍用潜水艦と哨戒機を借りて南極ロケが行えたのも当時全盛期だった角川映画の力があればこそでしょう。そして、物語自体も事件発生から人類滅亡までの怒涛の展開がリアリティ豊かに描かれており、固唾をのんで見守ることになります。パンデミック映画としてはかなりインパクトのある作品だといえます。それに、悲劇的な内容とコントラストをなすような、ジャニス・イアンの歌声とともに流れるオープニングの美しい映像も印象的です。ただし、難点がないわけではありません。日本映画としては巨額の予算がかけられているものの、海外での暴動シーンや潜水艦同士の戦闘シーンを記録映像でごまかしているところなどはやはり、邦画の限界がみてとれます。また、それまで主要キャラとして登場していた日本の南極隊員の面々が終盤なんの説明もなくいなくなったのがいかにも不自然です。おそらく死んだのでしょうが、重要な役どころだっただけに彼らの末路をきちんと描いてほしかったところです。それになにより、原作には書かれてあった「最終的にMM-88はどうなったのか?」「主人公が最後にたどり着いた場所はどこなのか?」といった説明が本作からはごっそりと抜け落ちています。その結果、観客はストーリーの流れをよく理解できないまま、ラストシーンを迎えることになってしまいます。とはいえ、他国の同時代の映画と比べてもスケールの大きな物語であることは確かです。『アンドロメダ...』『カサンドラ・クロス』と並び、パンデミック映画の古典として押さえておきたい1本です。
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2019-02-08



1995年

アウトブレイク(ウォルフガング・ペターゼン監督)
ザイールのモターバ川流域の小さな村でウイルスによる出血熱が発生する。アメリカ陸軍感染症医学研究所のサム・ダニエル軍医大佐は現地に赴くが、すでに村は全滅していた。空気感染はしないとの結論が出されるものの、ダニエルは致死率の高さと感染スピードの速さに疑念を抱く。そこで、軍上層部に警戒通告の発令を要請するがなぜか拒否されてしまうのだった。一方、その頃、アフリカからアメリカに一匹のサルが密輸入される。しかも、そのサルは問題のウイルスに感染しており......。
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リチャード・プレストンの『ホット・ゾーン』によってエボラ出血熱が大きく注目されたことを受けて制作された映画です。この作品以降、伝染病による大量死が単なる絵空事ではなく、より身近な恐怖として描かれていくことになります。医学の進歩によって過去のものになったと思われていた、中世ヨーロッパにおけるペストの大流行(ヨーロッパ人口の3分の1が死亡)や第一次世界大戦下でのスペイン風邪の大流行(世界で5000万~1億人が死亡)のような大災厄が現代でも十分起こりうることがわかってきたからです。本作でも密輸された猿を起点として人知れず感染が広がっていくさまが描かれており、見ていて思わずぞっとします。上層部の隠蔽体質によって被害が拡大していくさまもいかにもといった感じで非常にリアルです。その一方で、娯楽性を持たせるためとはいえ、主人公の八面六臂の活躍やヘリコプターとのチェイスはやり過ぎの感があり、全体のリアリティを下げてしまう結果になっています。それに、血清を作るために必要な猿がすぐに見つかり、あっという間に血清ができてしまうのも出来過ぎです。そういった欠点はあるものの、全体的には娯楽性とテーマ性がほど良くブレンドされた佳品だといえます。
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ケビン・スペイシー
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2010-04-21


2002年

キャビン・フィーバー(イーライ・ロス監督)
大学生のポール、カレン、ジェフ、マーシー、バードの5人は夏休みを利用して山小屋(キャビン)に遊びに行く。ジェフとマーシーは恋人同士でポールはカレンに片想い中だった。山小屋に到着するとバードは銃を手にして森にでかけ、狩りを始める。ところが、そこで明らかに様子のおかしい男に出会い、彼が助けを求めているのにも関わらず、バードは恐怖のあまり逃げ出してしまう。その夜、問題の男が山小屋にやってくるが、皮膚がただれ、明らかに感染症の様相を示していた。ひと悶着の末、その男を撃退するものの、バードの撃った流れ弾が車に当たって故障してしまう。一方、逃げ出した男は貯水池に落ちて死亡し、伝染病は水に混入して山小屋の水道管へと入っていく。カレンはもう帰りたいとポールに訴えるも、車が故障したため、レッカー車を呼ぶまで山を降りるのは無理だった。ポールはカレンを落ち着かせるために、水を飲ませる。そうして、まずカレンが感染し......。
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パンデミックものは伝染病が国や世界中に広がっていく危機を描いたスケールの大きな作品が多いのですが、本作の舞台はほぼ山小屋周辺に限定されています。そして、そこに遊びに来た若者が一人ずつ死んでいく展開はまるで『13日の金曜日』に代表されるスラッシャー映画のようです。しかも、相手は目に見えないウイルスなのでいつ襲われるかもわかりませんし、殺人鬼のようにひと思いには殺してくれません。じわじわと皮膚を蝕みながら命を削り取っていきます。そうしたプロセスがショッキングな映像と共に描かれており、その生理的嫌悪感はかなりのものです。一方で、登場人物はみなどこかずれていて、ところどころで笑いを挟んでくるのもいい味を出しています。ただ、イーライ・ロス監督ならではの独特のセンスは観る人を選ぶかもしれません。また、登場人物がことごとく愚かな選択をするのも、この手のB級映画のお約束とはいえ、納得できない人もいるはずです。そういうわけで、賛否は大きく分かれるものの、パンデミック映画を語るうえで欠かせない1本であることは確かです。
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2007年

爆発感染 レベル5(アーマンド・マストロヤンニ監督)
オーストラリアで未知のウイルスに感染した青年が、アメリカ行きの機内で高熱と痙攣の症状を示したのちに死亡する。連絡を受けたLA空港では感染拡大を防ぐべくただちに検疫の準備に入る。しかし、大きな商談を控えた男が脱走すしたことによってロサンゼルス全域がウイルスの猛威にさらされることになるのだった。検疫の指揮をとっていたカイラ・マーティン博士は事態を収拾すべく奮闘するが........。
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各90分の前後編で構成されたテレビ映画です。そのため、劇場公開作品のような派手さはありませんが、ウイルスが些細なことから感染拡大していき、あっという間にパンデミックに陥っていくさまがわかりやすく描かれています。感染経路が特定できないために対策が後手後手になってしまう描写もなかなかリアルです。タメになるという点では良作といってもさしつかえないのではないでしょうか。一方、ドラマとしては数多くの登場人物が織りなす群像劇の形式をとっているものの、その分、一人一人の掘り下げが十分できておらず、薄味になってしまった感は否めません。それに、無駄なシーンが多いのも難点です。もう少し焦点を絞って物語を構築してほしかったところです。
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2008年

感染列島(瀬々敬久監督)
2011年1月。市立病院に急患が運ばれてくる。患者は肺炎の症状を起こしているうえに多臓器不全を併発していた。新型のインフルエンザとの想定のもとにさまざまなワクチンが投与されるが、全く効果はなく、患者はそのまま死んでしまう。しかも、病院内の患者や医療スタッフにまで感染が広がることで病院はパニック状態に陥る。そのうえ、感染は病院内にとどまらず、日本各地に拡大していった。WHOから派遣されたメディカルオフィサーの小林栄子はこのままでは半年で国内の患者の数が数千万人まで膨れ上がるというおそるべき予測を導き出す。その後、人々の懸命な努力により病原体の正体を特定し、ワクチン開発の道筋をつけることに成功する。だが、ワクチンの完成には最低でも半年の期間が必要だった。果たして人類はその時まで生き残ることができるのだろうか。
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医療現場から感染が広がっていくさまがリアルに描かれており、なかなか見応えがあります。その反面、ドラマ部分は日本映画ならではの弱点がもろに出ています。大仰な演出や演技がいかにもわざとらしく感じられてしらけてしまいますし、パンデミックの最中だというのに恋愛描写に比重が置かれすぎです。濃厚接触が多すぎて演出意図とは違う意味でハラハラしてしまいます。また、あっさりとワクチンが完成してパンデミックが終息するなどといった度を越したご都合主義もいただけません。良い部分もあるものの、全体的にはかなり残念な作品です。



アンドロメダ・ストレイン(ミカエル・サロモン監督)
アメリカの人工衛星が中南部の片田舎に墜落する。しかも、その人工衛星には正体不明の病原体が潜んでおり、村はあっという間に全滅してしまうのだった。事態を重くみた政府は科学者を招集し、特別な研究施設で病原体の分析にあたらせる。一方、政府は汚染された村を核攻撃で焼き払う計画を進めていた。しかし、分析の結果、アンドロメダストレインと名付けられた微生物はあらゆる物質をすべて自らのエネルギーに変換する性質を有していることを発見する。つまり、下手に核爆発などを起こせば、アンドロメダストレインは無限に増殖するおそれがあるのだ。
◆◆◆◆◆◆
リドリー・スコット製作総指揮によるテレビ映画で、1971年に公開された『アンドロメダ...』のリメイク作品です。ストーリーは71年版を基本的には踏襲しているものの、3時間近い作品となったため、政府の陰謀やサスペンス展開などが新たに盛り込まれています。これが見事に賛否両論で、見応えのある作品になったという人がいる一方で、水増しして安っぽくなってしまったという人も少なくありません。大まかにいえば、いかにもSF的な雰囲気が素晴らしいオリジナル版に対してエンタメ要素満載のリメイクといったところでしょうか。機会があれば見比べてみるのも一興です。
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2009年

フェーズ6(アレックス・パストール監督)
致死率100%のウイルスが蔓延する世界。ブライアン、ダニー、ボビー、ケイトの4人の若者はロードウォーリア―を走らせ、安全な地を求めて旅を続けていた。リーダー格のブライアンは「感染者には近づかない」「感染者は助けない」「感染者が24時間以内に触ったものは消毒する」というルールを全員に課し、それを守れば生き残れると考えていた。ところが、ロードウォーリア―の車体から液漏れが起きたために、ウイルスに感染した父娘の車に同乗せざるをえなくなってしまう。車内を消毒し、運転席との間にビニールの壁を作って乗り込む一行。娘の父親、フランクは疫病予防管理センターが新薬を開発したという情報を手に入れ、そこに向かっている途中だというのだが......。
◆◆◆◆◆◆
すでにパンデミックが発生し、殺人ウイルスが蔓延した世界で若者たちが旅を続ける様子を描いたロードムービーです。したがって、パニック映画のようなスペクタル感は皆無なのですが、いつどこで感染するかわからない設定なので緊迫感が半端ありません。極限状態での生々しい人間心理を描いた作品としてよくできています。ただ、蔓延しているウイルスがどのようなもので、どういったプロセスで拡がっていったのかはほとんど描かれていないため、本格的なパンデミック映画を期待していた人にとっては物足りなさを感じるかもしれません。それに、終始ギスギスした雰囲気なのも好みが分かれそうです。同じ終末世界を描いたロードムービーでもコメディタッチの『ゾンビランド』などとは全くの正反対です。「『ゾンビランド』などは生ぬるい、俺は真に絶望に染まった終末世界を堪能したいんだ!」という人におすすめの作品だといえます。もっとも、極限状態である割に登場人物の危機感のなさは気になるところですが、その辺はB級映画だと割り切って観るのが吉でしょう。
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キャビン・フィーバー2(タイ・ウェスト監督)
山小屋での感染騒動で唯一生き残ったポールだったが、全身の皮膚がただれ、瀕死の状態だった。山を降り、なんとか公道に出るものの、通りかかったスクールバスに跳ねられてしまう。ポールの体はすでに腐敗していたらしく、彼の体は木っ端みじんになって四散する。そのため、バスが何を轢いたのかは結局わからずじまいだった。一方、そのバスを所有しているスプリングフィールド高校は学年末に行われるプロムが控えていた。そこに病原体で汚染された飲料水が運び込まれ、多くの学生がそれを口にする。こうして伝染病が広がり、犠牲者が次々と出始める。しかも、突然、政府から派遣された軍隊が現れ、生徒たちを殺しだすのだった。政府は感染の疑いのある者を見捨てる方針を決定しており、彼らを皆殺しにすることで事態の収拾を図ろうとしていたのだ......。
◆◆◆◆◆◆
カルト的人気を誇るB級映画、『キャビン・フィーバー』の続編です。前作は山小屋が舞台でしたが、今回は高校が舞台で、犠牲者の数も大幅に増えています。その分、血みどろの惨劇が満喫できるのはよいのですが、犠牲者がみな盛大に血を吐きだすだけのワンパターンになっているのはいただけません。症状のバリエーションが豊かだった前作に比べると工夫に欠ける印象があります。それに、おバカな描写が減っているのもカルト的B級映画の続編としてはマイナス点です。とはいえ、本来ならどうでもいいような学園ドラマのパートも案外楽しく見れますし、要所要所でアニメシーンを組み入れた独自の演出にも味があります。間違っても傑作といえる作品ではありませんが、この手の映画が好きなのなら、観て損をしたということはないはずです。一方で、血肉でグチャグチャなシーンが満載なので、その手の描写が苦手な人は要注意です。
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2010-04-02


2011年

コンテイジョン(スティーブン・ソダーバーグ監督)
出張で香港に出掛けていたベス・エムホフはシカゴで元恋人のジョンと密会したのちにミネアポリスの自宅に帰宅する。ところが、しばらくすると彼女は体調を崩して意識を失う。ベスの夫のミッチは彼女を病院に運ぶが、手の施しようがなくそのまま亡くなってしまうのだった。しかも、自宅に戻るとベスの連れ子であるクラークも死体となっていたのだ。さらに、ジョンも死亡し、正体不明の伝染病に感染したおそれのあるミッチはただちに隔離される。一方、東京やロンドンでも同じ症状の人々が確認され、WHOやCDCが調査を開始する。だが、CDCから派遣されたミアーズ医師もベスの遺体を解剖した際に感染し、命を落としてしまうのだった。その後、伝染病は瞬く間に広まり、世界は大混乱に陥る。果たしてこの事態を終息させることはできるのだろうか?
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数あるパンディミック映画のなかでも最もリアリティ豊かな作品の一つです。伝染病の始まりから世界がパニックに陥るプロセスを丹念に追っており、説得力の高い作品に仕上がっています。噂とデマで混乱が拡大していくさまなどはまさにコロナ騒動そのものです。同時に、ウイルスに汚染されたものに触れることで感染が広がっていくさまをわかりやすく映像化しており、手洗いの重要性を説得力をもって教えてくれます。ちなみに、本作は特定の主人公を設けず、群像劇の形をとっています。どちらかというと、ドキュメンタリー番組の再現映像を見ているかのようです。それがまた、臨場感を高める結果となっており、より作品のクオリティを高めています。ただ、映画にドラマチックな展開を求める人にとっては盛り上がりに欠け、退屈だと感じるかもしれません。
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ワーナー・ホーム・ビデオ
2012-09-05



PHASE7 フェーズ7(ニコラス・ゴールドバルト監督)
あるとき、アルゼンチンでは国中におそるべき伝染病が蔓延する。夫のココと妊娠中の妻・ピピが引っ越してきたマンションも感染者が出たために隔離されてしまう。それから数日後、住人の一人である老人のサヌットが感染したと疑われ、大騒ぎになる。そのあげく、サヌットを隔離すべきだと主張する住人が彼の部屋に乗り込むも反撃にあい、散弾銃で頭を吹き飛ばされてしまうのだった。そして、それが引き金となり、住人同士の殺し合いが始まるが.......。
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パンデミックを意味するフェーズ6を超えるフェーズ7がタイトルになっているだけに、凶暴なウイルスが人を殺しまくる映画を期待した人も多いのではないでしょうか。しかし、この作品、ウイルスはほとんど関係ありません。パンデミックはあくまでも舞台背景として存在するだけで、メインとなるのは、極限状態における人間同士の殺し合いです。しかも、アルゼンチンというお国柄か、状況は深刻なのに登場人物に全く危機感がなく、かなり緩い作りになっています。全体的に笑えないブラックコメディのような雰囲気で、どうにも反応に困る作品です。
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アメイジングD.C.
2012-05-02


パーフェクト・センス(デヴィッド・マッケンジー監督)
ある日を境に、イギリスをはじめとするヨーロッパ各国で奇妙な症状を訴える患者が増え始める。突然、臭覚を失い、精神的に不安定になるというのだ。しかも、すべての患者は24時間以内に発症していた。しかし、患者同士の接点がないために、伝染病とは考えにくく、遺伝子の突然変異も認められない。ただ、悲しい過去を思い出し、悲嘆にくれたのちに臭覚を失うというのが唯一の共通点だった。その症状は重症臭覚障害症候群(SOS)と名付けられ、WHOは警告レベル5を宣言する。伝染病ではないとされながらもその疑いは拭えず、街からは人が消えた。感染症専門医のスーザンも父親の思い出に泣き崩れ、彼女を介抱した恋人のマイケルも突如深い悲しみに襲われる。そして、翌朝になると、2人は臭覚を失っていた。やがて、人類の大部分は臭覚を失ってしまう。しかも、事態はそれだけで終わりではなかった。臭覚以外にも五感が徐々に失われていき、そのたびに思い出が人々の記憶から喪失していったのだ...。
◆◆◆◆◆◆
本作はウィルスの猛威を目の前にして狂乱する人々の姿を描いたパニック映画でもなければ、主人公たちがなんとかパンデミックを食い止めようと奮闘するサスペンス映画でもありません。どちらかといえば、困難な状況に置かれた人々の愛と悲しみを描いたヒューマンドラマに近い作りになっています。したがって、派手なパニックシーンや血みどろ描写、あるいは主人公の英雄的な活躍などといったものを期待して観ると肩すかしを喰らうでしょう。その代わり、五感を失っていく不安や、そのことにより逆に強まっていく人間同士の絆といった心理描写は非常によくできています。また、全編を通して独特の映像美に彩られており、それが悲しみを帯びた物語にマッチしているのも見事です。さらに、エヴァ・グリーンとユアン・マクレガーのロマンチックな恋愛シーンや美しい官能シーンなども見所の一つになっています。ただ、ラストに関しては賛否のわかれるところです。五感をすべて失う前に終幕となるので、その先を観たかったという人は少なくないでしょう。しかし、本作がパニック映画として作られていないことを考えれば、余韻の残る良いラストシーンだともいえます。この辺は好み次第ではないでしょうか。
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2014-12-02


2013年

FLU 運命の36時間(キム・ソンス監督)
東南アジアからの密入国者たちによって持ち込まれた新種のウイルスは恐るべき感染力を有しており、たちまち盆唐の街に拡がっていく。しかも、その致死率はすさまじく高く、密入国者のほとんどは盆唐に到着する前に死んでしまっていた。一方、女医のイネは次々と運び込まれてくる患者の対応に追われ、しかも事態は深刻さを増すばかりだった。そして、彼女の娘のミルも密入国者の生き残りであるモンサイと接触することで感染してしまう。イネと救急隊員のジグはミルを見つけ、盆唐から出ようとするも、感染を疑われて検問所を抜けることができない。一方、韓国政府は首相と一部議員の主導により盆唐の封鎖を決定。実質上、盆唐を切り捨てる政策に舵が切られたのだ。やがて、盆唐に閉じ込められた人々と軍との間に衝突が起き、軍による虐殺が始まる。ジグやイネもその混乱に巻き込まれることになるが......。
◆◆◆◆◆◆
海外から持ち込まれたウイルスがたちまちパンデミックを起こすという展開は『コンテイジョン』と相通ずるものがあります。しかし、韓国映画だけあってあの作品と比べるとやたらテンションが高くてハチャメチャです。登場人物の多くはヒステリックで短絡的な言動が目立ちますし、一部勢力の独断とはいえ、政府が感染者を生きたまま焼き払おうとするなどありえない展開が続きます。リアリティという意味では『コンテイジョン』と対極の位置にある作品です。それに加えて、ヒロインであるイネの自分勝手さにも苛立つ人が多いのではないでしょうか。しかし、エンタメ作品だと割り切って観れば非常に面白い作品ではあります。話がテンポよく進み、スリルとアクションが満載なので全く退屈することがありません。集団パニックの恐ろしさを臨場感豊かに描いているのも韓国映画ならではです。加えて、主人公を演じたチャン・ヒョクのカッコ良さも申し分ありません。良くも悪くもこれぞ韓国流娯楽大作といった出来栄えです。
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TCエンタテインメント
2014-05-28



キャビン・フィーバー ペイシェントゼロ(カーレ・アンドリュース監督)
結婚式を挙げるためにカリブ諸島を訪れていたマーカスは弟や友人たちから独身最後のバカ騒ぎをしようと、秘密の無人島に誘われる。ところが、弟のジョシュと彼の恋人であるペニーがダイビングをしていると海中に無数の魚の死体が漂っているのを発見する。パニック状態になっているペニーをジョシュはなんとかなだめるが、その直後から2人の体に異変が起き始めるのだった。赤い斑点が出来、次第にそれが体中に広がっていく。特に、ペニーは吐血するほどの重症だった。バカンスを中止してすぐに島から脱出したいところだが、迎えの船はすぐにはこない。無線で救助要請を試みたところ、この島には研究施設があり、そこまで来れば治療を受けられるという通信が入る。そこで、発病していないマーカスと彼の友人のドブスの2人で研究所を探すことになるが......。
◆◆◆◆◆◆
キャビン・フィーバーシリーズ3作目にしてエピソードゼロ的な位置付けの作品です。とはいっても、1作目との直接的なつながりはないので本作から鑑賞しても全く問題はありません。むしろ、テイストが違い過ぎるため、独立した作品として楽しむのが吉でしょう。まず、1作目と比べると緊迫感が著しく欠けています。確かに、1作目もなんでやねんという展開の連続でかなりバカ映画だったのですが、ショッキングな描写はきちんと描かれており、演出にメリハリがありました。それに対して、本作は演出に切れ味がないので観ているほうはだらけてしまいます。ショッキングなシーン自体は多いのですが、同じことの繰り返しでどうにもメリハリに欠けているのです。感染の最大の被害者というべきペニーも吐血するわ腕がちぎれるわと大変なことになっているのにも関わらず、元気に動き回っているので説得力がまるでありません。しかし、バカ映画のバカっぷりを楽しむのだと割り切って観るならば、後半は意外と見どころの多い作品になっています。特に、感染が進行してボロ雑巾のようになり果てた美女2人のキャットファイトは必見です。それから、ラストにどんでん返しが用意されており、そのシーンに関してだけは演出もなかなか凝っています。もっとも、犯人の動機がよくわからないためにかなり消化不良の感はありますが。いずれにしても、駄作という評価は動かせないところなので、ネタとして楽しみたい人以外は手を出さないのが無難でしょう。
キャビン・フィーバー ペイシェント・ゼロ [DVD]
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2013-12-06



2016年

キャビン・フィーバー(トラビス・ザルーニ監督)
大学生のポール、カレン、ジェフ、マーシー、バードの5人は夏休みを利用してカンザス州のウィラードにある山小屋に遊びにくる。小屋に到着するなりジェフとマーシーはベッドインし、改造銃を手にしたバードは森で軍隊ごっこを始めるなど、それぞれ気ままに楽しみ始めるのだった。一方、カレンと一緒に湖に出掛けたポールは彼女に告白しようとするも、タイミングをつかめずに失敗に終わってしまう。そのころ、バードは森で見知らぬ中年男性と遭遇していた。男は「病気なんだ」と訴えるが、ただならぬ雰囲気にポールはその場から逃げだしてしまう。夜になり、山小屋に戻った5人が話し込んでいると森で会った男が訪ねてくる。しかも、皮膚がただれ、全身から出血を起こしているのだ。伝染病だと悟ったバードが感染をおそれてドアを閉めると、男は外に置いてあった車に乗り込もうとする。それを止めようとポールが発砲するが、誤って車のタイヤを撃ち抜いてしまう。みんながなんとか男を追い払おうとしているうちに、偶然が重なって男の体に炎が引火し、男は火だるまになりながらその場を立ち去るのだった。翌朝。早く帰りたいとヒステリックに訴えるカレンを落ち着かせるためにポールは彼女に水道水を飲ませる。だが、その水はすでに恐るべき病原体によって汚染されており......。
◆◆◆◆◆◆
本作は2002年に公開された『キャビン・フィーバー』のリメイク作品です。しかも、元々の監督だったイーライ・ロス自身が製作総指揮を務めています。それだけに、作品のクオリティ自体に問題はないのですが、本作とオリジナル版を比較した場合、あまりにも違いがなさすぎます。「これはわざわざリメイクする必要があったのだろうか?」と首をひねってしまうレベルです。変わったところといえば、せいぜい、伝染病についての説明を少し詳しく行い、今の時代に合わせてインターネットやスマホの描写を盛り込んだことぐらいでしょうか。正確にいえば、他にも細かい変更点はありますが、どうでもよいものばかりです。したがって、オリジナル版を鑑賞済みの人はあえて本作を観る必要はないでしょう。また、どちらも未見という人はほとんど同じ内容なのでどちらを観てもかまいません。あえていえば、映像的に洗練されている本作に対して、オリジナル版は粗が多いものの、それ故にカオスな面白さがあります。
キャビン・フィーバー [DVD]
ランディ・シュルマン
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2016-11-02




★★★
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