最新更新日2021/11/07☆☆☆

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本ミス2021
対象作品である2019年11月1日~2020年10月31日の間に発売された謎解き主体のミステリー作品の中からベスト10の順位を予想していきます。ただし、あくまでも個人的予想であり、順位を保証するものではありません。また、予想は作家の知名度や人気、作風、話題性などを考慮したうえで票が集まりそうな作品の順に並べたものであり、必ずしも予想順位が高い作品ほど優れているというわけでもありません。それらの点についてはあらかじめご了承ください。
※紹介作品の各画像をクリックするとAmazon商品ページにリンクします
2021本格ミステリ・ベスト10
探偵小説研究会
原書房
2020-12-05


本格ミステリベスト10国内版最終予想(2020年11月14日)

※※※※※※※※※※※※※※※
記載方法は以下のようになっています。
予想順位.タイトル(作者名)本ミスの順位(このミスの順位 文春の順位 読みたいの順位)
ただし、「→本ミスの順位(このミスの順位 文春の順位 読みたいの順位)」の部分が記載されているのは予想ランキングあるいはこのミスで20位以内のものだけです。
なお、このミス、文春、 読みたいはそれぞれ「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「ミステリが読みたい!」の略です。
※※※※※※※※※※※※※※※

1位.ワトソン力(大山誠一郎)6位(文春8位)
連作短編集。主役の刑事が事件を解決するのではなく、彼の能力によって周囲の人間の推理力が高まり、熱い推理合戦が繰り広げられるという設定がユニークです。また、多重解決の面白さだけに留まらず、ワトソン力自体を活かした仕掛けなども用意されており、特殊設定ミステリーとしても秀逸。
ワトソン力(りょく)
大山 誠一郎
光文社
2020-09-16


2位.名探偵のはらわた(白井智之)3位(このミス8位 文春12位 読みたい20位)
鬼となって蘇った昭和の殺人犯の正体を名探偵が暴いて退治する話ですが、ロジックにこだわり抜いた特殊設定ミステリーとして楽しめます。現代の事件とともに鬼たちが起こした過去の事件の真相に迫っていく点も読み応えありです。ただ、特殊設定に関しては複雑な割に説明不足なのが気になるところ。
名探偵のはらわた(新潮文庫)
白井智之
新潮社
2023-02-25


3位.楽園とは探偵の不在なり(斜線堂有紀)4位(このミス6位 文春3位 読みたい2位)
孤島を舞台にしたクローズドサークルものであると同時に、2人以上殺すと天使に地獄へ引きずり込まれるという特殊設定ミステリーでもあります。世界観が魅力的なうえに、1人以上殺せないはずの世界で連続殺人を達成するカラクリも良く考えられています。意外な掘り出し物というべき佳品です。
楽園とは探偵の不在なり (ハヤカワ文庫JA)
斜線堂 有紀
早川書房
2022-11-16


4位.明人間は密室に潜む(阿津川辰海)1位(このミス2位 文春2位 読みたい3位)
著者初の短編集。4つの作品が収録されており、研究室に閉じ込めた透明人間をいかにしてあぶりだすかが主題となる表題作、聴力の優れた探偵による緻密な推理が見事な『盗聴された殺人』などなど、凝りに凝った舞台設定とロジカルな展開が堪能できる力作が揃っています。
透明人間は密室に潜む (光文社文庫)
阿津川 辰海
光文社
2022-09-13


5位.欺瞞の殺意(深木章子)7位(このミス7位
本格好きの人なら名作『毒入りチョコレート事件』を意識したプロットに心踊らされるはずです。それに加え、往復書簡や推理合戦そのものにも仕掛けが施されており、単なる多重解決ものというだけでは終わらせない深みがあります。パズラーとしても人間ドラマとしても読み応えのある傑作です。
欺瞞の殺意 (角川文庫)
深木 章子
KADOKAWA
2023-02-24


6位.蝉かえる(櫻田智也)2位(このミス11位 文春10位 読みたい9位)
『サーチライトと誘蛾灯』に続くシリーズの第2弾。前作と同じく、昆虫絡みの事件を描いた連作ミステリーですが、専門知識がなくても推理が可能な点が秀逸です。小粒ながらも謎解きの完成度は高く、とぼけたユーモアと独特の情緒性によって物語としても読み応えのある佳品に仕上がっています。
蝉かえる (創元推理文庫)
櫻田智也
東京創元社
2023-02-13


7位.プロジェクト・インソムニア(結城真一郎)17位(文春20
自ら望む夢を自由に見ることができる技術開発の極秘実験中に、夢の中で殺人が起こり、現実世界でも人が死んでいくというSFミステリーです。夢の世界だから何でもありにするわけではなく、伏線を拾いながらロジカルにハウダニットの謎を解いていく点がよくできています。犯人の異常な動機も印象的。
8位.Another2001(綾辻行人)※ランク外(このミス3位 文春7位 読みたい5位)
1作目の3年後に3年3組が再び惨劇に襲われるシリーズ第3弾。本の分厚さに負けず、読み応えもかなりなもので、シリーズのファンなら独特の雰囲気を十分堪能できるはずです。ただ、ミステリーとしての仕掛けが小粒なうえに真相がわかりやすいのが難。どちらかといえば、ファン向けの作品です。
Another 2001(上) (角川文庫)
綾辻 行人
KADOKAWA
2023-06-13


9位.巴里マカロンの謎(米澤穂信)14位(このミス19位 文春16位 読みたい10位)
4つの短編からなる小市民シリーズの第4弾です。謎が小粒で伏線もわかりやすいため、本格ミステリとして高い評価は付けがたいものがあります。その代わり、登場人物が愛らしくてキャラクター小説としては秀逸です。シリーズのファンであれば満足度は高いのではないでしょうか。
10位.赤ずきん、旅の途中で死体に出会う。(青柳碧人)19位(文春18
『むかしむかしあるところに、死体がありました。』に続くシリーズ第2弾。相変わらずの奇想ぶりは楽しめるものの、赤ずきんを探偵役に据え、連作ミステリーにしたのは好みが分かれるところ。普通のミステリーに近づき、前作のような何が飛び出すがわからないインパクトは薄れたような気がします。
11位.ティンカー・ベル殺し(小林泰三)※ランク外
伽噺の世界で起きるグロテスクな事件を描いたシリーズ第4弾。ブラックユーモアに満ちた捜査パートは相変わらずの楽しさですが、ミステリーの仕掛けとしてはやや凡庸。その代わり、現実世界と夢のネバーランドの関係を上手く活かし、意外な動機を創出している点が見事です。
12位.法廷遊戯(五十嵐律人)9位(このミス3位 文春4位 読みたい4位)
第62回メフィスト賞受賞作。現役の司法修習生の手による作品で、模擬裁判の様子を描いた前半と本番の裁判が行われる後半という2部構成が目を惹きます。しかも、前半でばら撒かれたピースの断片が後半の裁判で二転三転しながら一つの絵となって浮かび上がってくるロジカルな展開が秀逸です。
法廷遊戯 (講談社文庫)
五十嵐 律人
講談社
2023-04-14


13位.揺籠のアディポクル(市川憂人)14
出入り不可能な無菌室に隔離された少年少女の内、少女が何者かに刺殺されるという謎は非常に魅力的ですし、全編を覆う切なげな雰囲気も悪くありません。ただ、本格ミステリの範疇を逸脱して話のスケールが大きくなっていく点はやりすぎととるか、まさかのどんでん返しととるかで評価が分かれそう。
揺籠のアディポクル
市川憂人
講談社
2020-10-13


14位.立待岬の鷗が見ていた(平石貴樹)12位(このミス20位
岬シリーズ第2弾。今回は5年前に起きた3件の殺人事件及び傷害致死事件と女流作家の書いたミステリー作品との関連性を探っていくのですが、細部に張り巡らされた技巧には唸らされるものがあります。前作と比べると小粒感は否めないものの、本格ミステリとしての面白さは十分堪能できる佳品です。
15位.君に読ませたいミステリがあるんだ(東川篤哉)※ランク外
文芸部の自称美少女部長が自作の短編ミステリーを後輩に読ませて感想を求めるも、そのたびにツッコミを入れられてあたふたするパターンの連作集。2人の掛け合いが楽しく、最終章で明らかになる仕掛けもよくできています。ただ、肝であるボケとツッコミがワンパターン気味なのは気になるところ。
16位.ノッキンオン・ロックドドア 2(青崎有吾)※ランク外
不可能専門と不可解専門の2人の探偵コンビが活躍する連作集第2弾。相変わらず、軽妙な掛け合いなどで気軽に楽しめる作品に仕上がっていますが、謎が小粒になり、探偵が2人いる必然性が薄れたように感じます。とはいえ、安定した面白さはキープしています。
17位.ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ~扉子と空白の時~(三上延)※ランク外
横溝正史の代表作『獄門島』や2017年に発見されるまで幻の作品だった『雪割草』のエピソードは非常に興味深く、ミステリーファンなら大いに楽しめるのではないでしょうか。ミステリーとしても安定の面白さですし、扉子と得体のしれない祖母・智恵子との今後の関係も気になるところです。


18位.あの子の殺人計画(天祢涼)18位(このミス16位 文春14位 読みたい7位)
仲田&真壁シリーズの第2弾。母子家庭における虐待を真正面から扱っており、気軽に手を出すと精神的ダメージを負いかねません。一方で、アリバイ崩しを中心に据えたミステリーとしての仕掛けは意表をつくものであり、非常に優れた社会派本格ミステリに仕上がっています。
あの子の殺人計画 (文春e-book)
天祢 涼
文藝春秋
2020-05-22


19位.ジョン・ディクスン・カーの最終定理(柄本刀)11
『密室と奇蹟 J・D・カー生誕百周年記念アンソロジー』収録の短編を長編化したものです。カーが解明したらしい未解決犯罪録収録の事件と現実の不可能犯罪を推理合戦で解き明かすという筋書きにはワクワクします。やや詰め込みすぎで強引な点はあるものの、謎解きの面白さに満ちた好編です。


20位.たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説(辻真先)4位(このミス1位 文春1位 読みたい1位)
『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』に続く那珂一兵シリーズの第2弾。密室殺人にバラバラ殺人と道具立ては派手ですが、トリック自体はミステリーを読み慣れている人なら見当は付きやすいのではないでしょうか。その代わり、張り巡らされた伏線を回収していくロジックの鮮やかさは見事です。
その他注目作品50

21.鶴屋南北の殺人(芦辺拓)
8位(このミス20位 読みたい8位)
ロンドンで発見された鶴屋南北の未発表原稿を巡る連続見立て殺人という謎は魅力的なのにトリックや謎解きに無理が感じられるのが残念です。その代わりに、鶴屋南北の作品に秘められた謎はスリリングで読み応えがあります。いずれせよ、専門知識を前提とした敷居の高さは賛否を分けるところです。


22.修羅の家(我孫子武丸)
北九州監禁殺人をモデルにしたミステリーであり、凄惨なシーンのオンパレードなところがある意味読みどころとなっています。煽り文句の”『殺戮いにたたる病』を凌ぐ驚愕作”というのは過大広告気味ではあるものの、物語の構成が巧みで、ミステリーの仕掛けとしてもなかなかよく出来ています。
修羅の家
我孫子武丸
講談社
2020-04-14


23.アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿(澤村伊智)
ウェブマガジン・アウターQの駆け出しライターが、遭遇する奇怪な謎を解いていく連作ホラーミステリーです。狭義の本格ではありませんが、謎を解くと同時に浮かび上がってくる人の闇の不気味さがたまりません。特に、公園の落書きを解読した末にぞっとする真相にたどり着く『笑う露死獣』が秀逸。
24.暗黒残酷監獄(城戸喜由)
主人公の姉が磔にされて殺されるところから始まる家族の物語は、あり得ない展開の連続でリアリティは皆無です。癖の強い作風も万人向けとはいえません。しかし、語り口の巧さには引き込まれるものがあり、一種異常な世界観の中で構築されるロジックと謎解きの面白さは一級品です。
暗黒残酷監獄 (光文社文庫)
城戸 喜由
光文社
2022-03-15


25.首イラズ 華族捜査局長・周防院円香(岡田秀文)
物語は、大正時代の警察庁に新設された「華族捜査局」のエキセントリックな局長・周防院円香侯爵が、伯爵家で起きた連続生首殺人の謎を追うというもの。いわゆる顔のない死体ものとしては大きな驚きありませんが、現代人にとっては盲点となる、その時代ならでは仕掛けが見事です。
首イラズ (光文社文庫 お 35-11)
岡田秀文
光文社
2023-07-12


26.これはミステリではない(竹本健治)
凡虚学研究会シリーズ第2弾。ミステリーサークルの面々が自作小説の犯人当てに興じていたら作者が解決編ごと行方不明になり、その事件を巡って推理合戦が始まるーーといういかにも新本格といった感じの物語がどんどんカオスなことになっていくさまに茫然とします。賛否両論必至の怪作です。
これはミステリではない
竹本健治
講談社
2020-07-14


27.竹林の七探偵(田中啓文)
三国志時代末期。賢人たちが竹林に集って、お互いが見聞きした不思議な出来事の謎解きに嵩じていると竹精の姫が現れて鮮やかに謎を解く、古代中国版『黒後家蜘蛛の会』といった趣の連作短編集です。非ミステリーの回もあるものの、クオリティは十分高く、最終話のサプライズも鮮やかです。
竹林の七探偵
田中啓文
光文社
2020-08-18


28.うるはしみにくし あなたのともだち(澤村伊智)20位(このミス19位
おまじないによって女性を醜くするという設定はホラーですが、おまじないを行った人間は誰なのかをロジカルに導いていくという展開は立派なフーダニットミステリーだといえます。終盤には二転三転する展開が用意されており、ホラーというよりも特殊設定の本格ミステリとして一級品です。


29.濱地健三郎の幽たる事件簿(有栖川有栖)
探偵が助手とともに霊能力と推理力を使って事件を解決していくシリーズの第2弾。ホラー寄りでミステリー色はそれほど強くないのですが、7つの短編のなかでは探偵が推理力をいかんなく発揮する『姉は何処?』、先入観が真相を巧みに隠蔽する『浴槽の花嫁』などがミステリーとしても良い出来です。


30.あの日の交換日記(辻堂ゆめ)
7組の交換日記にまつわる7つの物語を綴った、ミステリー風味の連作小説です。冒頭の注意書きの時点から布石が打たれており、どんでん返しにつながっていくところに巧さを感じます。しかも、一見バラバラの話が最後でつながり、感動的な物語へと収斂していく構成が実に見事です。
あの日の交換日記
辻堂ゆめ
中央公論新社
2020-04-21


31.約束の小説(森谷祐二)
第12回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞。雪深い山奥に建つ館で後継者を巡って事件が起きるいう筋立ては古色蒼然としたものですが、そこに医療ミステリーの要素を絡め、新しい衣を着せることに成功しています。また、サイドストーリーとの意外な結びつきをみせるプロット上の仕掛けも見事です。
約束の小説
祐二, 森谷
原書房
2020-03-19


32.戦時大捜査網(岡田秀文)
大捜査網シリーズ第2弾。空襲に見舞われる戦時中の東京という舞台を単なる背景として扱うのではなく、それを犯人の動機や事件解決の手掛かりなどに絡めた点が秀逸です。犯人の計画が確実性に欠いている点が難ですが、それを差し引いても最後に明らかになる事件の構図には驚かされます。
戦時大捜査網
岡田 秀文
東京創元社
2020-02-28


33.愚者の決断ー浜中刑事の杞憂(小島正樹)
浜中刑事シリーズの第4弾です。本作は著者の作品としてはかなり地味で、いつもの”やりすぎミステリー”を期待すると肩透かしをくらうでしょう。しかし、その分、欠点であったゴタゴタ感が薄まり、プロットと伏線重視のまとまりのよい佳品に仕上がっています。


34.僕の神さま(芦沢央)
クラスメイトから神さまと呼ばれている小学が探偵役の連作ミステリーです。芦沢央ならではのビターなテイストに加え、小学生の視野の狭さが謎解きの盲点として機能している点に感心させられます。ただ、小学生が語り手だけあって重い話なのに内容に深みが感じられないのは好みのわかれるところ。
僕の神さま (角川書店単行本)
芦沢 央
KADOKAWA
2020-08-19


35.五色の殺人者(千田理緒)
第30回鮎川哲也賞。介護施設で撲殺死体が発見され、しかも、目撃者である5人の老人が証言した犯人の服の色は全員バラバラで......。謎が魅力的で文章も読みやすく、理路整然とした推理も好印象です。ただ、ヒントがあからさま過ぎて真相が分かりやすいのが難。コンパクトで手堅い感じの作品です。
五色の殺人者
千田 理緒
東京創元社
2020-10-10


36.雪旅籠(戸田議長)
第27回鮎川哲也賞最終候補作『恋牡丹』における時系列の隙間を埋める姉妹編。トリックの独創性などは皆無ですが、時代小説の特性を活かした切れ味鋭い8篇の短篇が並んでいます。江戸時代末期の雰囲気がよく描けており、それ自体が伏線として機能しているのが見事です。時代ミステリーの佳品です。
雪旅籠 (創元推理文庫)
戸田 義長
東京創元社
2020-07-22


37.世界樹の棺(筒城灯士郎)
古代人形や世界樹の苗木といったいかにもなファンタジー世界で殺人事件が起きるタイプの作品です。しかし、単にファンタジーとミステリーを掛け合わせただけでなく、事件の謎を解くことで世界の謎にも迫っていくというプロットがよくできています。


38.異世界の名探偵 2 帰らずの地下迷宮(片里鴎)
探偵が8人の冒険者と共に難攻不落の迷宮に挑んだところ、次々に不審死を遂げていくという話。前作同様、事件が起きるまでが長いのが難ですが、中盤以降はサスペンス感に満ちています。なお、犯人はあからさまに怪しいので直感でわかってしまいます。その代わり、迷宮に関する謎は驚愕必至です。


39.探偵は御簾の中(汀こるもの)
平安貴族の恋模様を描いたラブコメミステリーですが、謎解きもしっかりしています。ちなみに、探偵役を務めるのは検非違使別当の妻。しかし、頭脳明晰ながらも世間知らずなために、しばしば迷推理を披露しては夫にツッコまれるさまが軽妙に描かれており、楽しい作品に仕上がっています。


40.探偵くんと鋭い山田さんー俺を挟んで両隣の双子姉妹が勝手に推理してくれるー(玩具堂)
高校を舞台にしたラブコメミステリー。レーベル的にも作風的にも完全なライトノベルですが、作中に散りばめられているミステリーセンスには捨てがたい魅力があります。特に、登場人物表を見ただけでノックスの十戒に基づいてミステリー小説の結末を推理してしまう『史上最薄殺人事件』が秀逸です。


41.探偵くんと鋭い山田さん 2ー俺を挟んで両隣の双子姉妹が勝手に推理してくれるー(玩具堂)
学園ラブコメミステリーの第2弾。「オンラインRPGのプレイヤー探し」や「SNSの書き込みを手掛かりにしての自殺志願者探し」といった具合に相変わらずユニークな設定の謎解きが楽しめます。決してワンパターンに陥らず、しかも、どの短編も高いクオリティを誇っているのが見事です。
42.パンダ探偵(鳥飼否宇)
人類が滅び、動物たちが文明社会を築いた世界を舞台にした特殊設定ミステリー。全3篇の中編はいずれも動物の習性を活かしたトリッキーな仕掛けがよくできています。ただ、動物に詳しくなければ謎を解くことができないため、本格ミステリとしては賛否の分かれるところです。
パンダ探偵 (講談社タイガ)
鳥飼否宇
講談社
2020-05-21


43.ムシカ 鎮虫譜(井上真偽)
無人島で学生たちが虫の大群に襲われる話であり、帯には「パニックホラー×本格ミステリ×青春冒険小説」と書かれているものの、ミステリー部分はおまけに過ぎません。青春冒険小説としても特筆すべき点はなく、不気味な虫の描写が最大の読みどころとなっています。
ムシカ 鎮虫譜
井上 真偽
実業之日本社
2020-09-11


44.錬金術師の密室(紺野天龍)
ファンタジー世界を舞台にし、三重密室で起きた錬金術師殺人事件の謎に挑む特殊設定ミステリー。世界観がよく練られており、キャラも立っているので読み応えがあります。謎解きもしっかりはしているものの、トリックやロジックの新鮮味には欠け、本格ミステリとしてはやや凡庸。
錬金術師の密室 (ハヤカワ文庫JA)
紺野 天龍
早川書房
2020-02-20


45.エンデンジャード・トリック(門前典之)10
不可能犯罪の乱れ撃ち、読者への挑戦、スケールの大きなトリックと本格ミステリファンが喜びそうな道具立てには事欠かない意欲作です。ただ、バカミスの類の仕掛けは好みが分かれそうです。また、トリックを仕掛ける必然性に欠け、トリックのためのトリックに陥っている感もあります。


46.仮名手本殺人事件(稲羽白菟)
歌舞伎の演目中に舞台で役者が殺され、客席でも死体が発見されるという派手な展開にワクワクさせられます。また、歌舞伎の世界を濃密に描きつつ、そこから浮かび上がってくる犯人の妄執ぶりにもぞっとします。ただ、真相は意外ではあるものの、やや無理が感じられるのが残念です。


47.僕の目に映るきみと謎は(井上悠宇)
呪いの人形が引き起こす連続怪死事件の謎に美少女霊能探偵が挑むオカルトミステリー。凄惨なシーンが多く、かなりホラーよりの作品ではあるものの、ロジカルな展開は謎解きミステリーとしても読み応えがあります。複雑に絡み合った謎が最後にすべてがかっちりと繋がっていく構成が見事です。


48.本日はどうされました?(加藤元)
現実の事件に題を得たと思われる入院患者の連続怪死事件が起こり、関係者の取材形式で物語が進行していくというドキュメンタリータッチの作品です。その形式に罠を仕掛け、真犯人の正体を見えにくくしているのが見事です。また、恐怖に怯える入院患者など、サスペンスとしても読み応えがあります。


49.家族パズル(黒田研二)
家族を巡る謎を扱ったミステリーを5編収録した短編集。いずれも家族愛が垣間見える暖かな作品です。真相が読みやすいものもいくつかありますが、複数の謎を解き明かすことで父親の意外な人物像が浮かび上がってくる『はだしの父親』は傑作といえる出来です。


50.幻のオリンピア(酒本歩)
東京オリンピックでの体操代表を巡る青春小説として読み応えがある作品で、同時にミステリーとしての大仕掛けも最後に用意されています。そういった点では処女作の『幻の彼女』に通じるものがあります。ただ、伏線があからさますぎてトリックが見抜かれやすいのが残念です。
幻のオリンピアン
歩, 酒本
光文社
2020-03-24


51.掟上今日子の設計図(西尾維新)
忘却探偵シリーズ第12弾。犯行計画に運任せな部分があるのは難ですが、爆破予告と忘却探偵という2つのタイムリミットを絡めて話を盛り上げていく手法がよくできています。また、全く意図の見えない犯人の行動から意外な動機が浮かび上がってくるホワイダニットとしても秀逸。
掟上今日子の設計図
西尾 維新
講談社
2020-03-18


52.卒業タイムリミット(辻堂ゆめ)
美人教師が誘拐され、卒業を3日後に控えた4人の高校生に「事件の謎を解け」というメッセージが送られてくるとという内容の青春ミステリー。犯人はわかりやすくフーダニットミステリーとしては凡庸ですが、なぜ接点のない4人が集められたのかというホワイダニットの謎が秀逸です。
卒業タイムリミット (双葉文庫)
辻堂 ゆめ
双葉社
2022-03-10


53.最高の盗難:音楽ミステリー集(深水黎一郎)
音楽をテーマとした作品集で、大胆なトリックに驚かされる『ストラディヴァリウスを上手に盗む方法』が秀逸です。芸術の蘊蓄を絡めた実に著者らしい仕掛けが堪能できます。一方で、他の2編はミステリー色が薄く、特に、著者の処女作である『レゾナンス』は非ミステリーです。
最高の盗難: 音楽ミステリー集 (河出文庫)
黎一郎, 深水
河出書房新社
2020-05-07


54.夢魔の牢獄(西澤保彦)
夢の中で過去にタイムスリップし、友人の体に憑依するという現象を繰り返す主人公が、22年前の殺人事件の謎に挑むSFミステリー。帯にもある通り、名作『七回死んだ男』を彷彿とさせる作品です。しかし、ご都合主義が目立ち、完成度は遠く及んでいません。過激な性描写も賛否の分かれるところ。
夢魔の牢獄
西澤保彦
講談社
2020-08-18


55.逢魔が刻 腕貫探偵リブート(西澤保彦)
腕貫探偵シリーズ第7弾の連作集です。とはいえ、腕貫探偵が登場するのは4編中最後の『ユリエの本格ミステリ講座』のみであり、他は主にユリエが探偵役を務めています。収録作の中では、曖昧模糊とした展開からいきなり衝撃的な事実が明らかになる表題作が秀逸。
逢魔が刻 腕貫探偵リブート
西澤 保彦
実業之日本社
2019-12-20


56.間宵の母(歌野昌午)
少女の義父と親友の母との駆け落ち騒動に端を発する3代に渡る因縁話を描いたホラーミステリー。仕掛け自体は小粒ではあるものの、間宵の母の強烈なキャラがミスディレクションとしてうまく機能しています。ホラーとしての不気味さもなかなかですが、結末は少々肩透かし。
間宵の母
歌野 晶午
双葉社
2019-11-20


57.御城の事件ー西日本篇ー(二階堂黎人・編)
東日本篇に続く、アンソロジーの第2弾。水のない場所で溺死した客人の謎に高山右近が挑む『ささやく水』や豊臣秀吉が一夜で築いたとされる墨俣城の謎に迫る『幻術の一夜城』など、本格ミステリとしての趣向の面白さは前作以上です。特に、史実を逆手にとった岡田秀文の『小谷の火影』が秀逸。


58.幽霊たちの不在証明(朝永理人)13
第18回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞。高校の文化祭のお化け屋敷で殺人が起きる学園ミステリー。分刻みのアリバイ調査をはじめとしてフーダニットへのこだわりはかなりのもの。ただ、ミスディレクションためのラノベ的なノリがうまく機能しておらず、トリックにも無理があるのが難。


59.珈琲店タレーランの事件簿 6 コーヒーカップいっぱいの愛(岡崎琢磨)
人気シリーズの第6弾。タレーランのオーナーの依頼で、4年前に亡くなった妻が死の直前で激怒した理由を探っていくという物語。ミステリーとしては瑕疵も多いのですが、謎解きを通して切なくも暖かな気分を味わえる点に良さがあります。安定の面白さです。


60.捜査一課ドラキュラ分室 大阪刑務所襲撃事件(吉田恭教)
ヒロインを日光に当たると火傷をするという奇病を患ったキャリア警官という設定にすることで警察小説と安楽椅子探偵を両立させているのがユニークです。肝心の推理に関しては強引な部分はあるものの、衝撃の殺人トリックはなかなかインパクトがあります。


61.ファーブル君の妖精図鑑(井上雅彦)
美術大学を中退したヒロインと謎めいた青年・ファーブル君が力を合わせて不思議な事件の謎を解く連作ファンタジーミステリー。ファーブル君の観察日記に事件を解く鍵が隠されており、ヒロインがそれを作品として具現化することで真相が浮かび上がるというプロットがユニーク。
ファーブル君の妖精図鑑
井上 雅彦
講談社
2020-10-29


62.ループ・ループ・ループ(桐山徹夜)
同じ1日を何度も繰り返す高校生が、ループしている理由とループするたびに異なる殺人事件が発生する謎に挑むSFミステリー。高校生の日常が生き生きと描かれており、同時に、繰り返される日常の中から違和感を浮かび上がらせることで真相に近づいていくプロットの巧みさに唸らされます。


63.詩人の恋(深水黎一郎)
芸術探偵シリーズの新作長編であり、シューマンの妻に送られてきた脅迫状の謎とハイネの詩に基づいて作られた連作歌曲集「詩人の恋」の秘密を180年越しに解き明かすというのが本作の大筋。多くの読者にとって馴染みのない題材を一気に読ませる筆力はさすがではあるものの、謎解きは消化不良気味。
詩人の恋
深水 黎一郎
KADOKAWA
2020-09-30


64.死者と言葉を交わすなかれ(森川智喜)
興信所の素行調査の最中に調査対象が心臓麻痺で急死したうえに、30年前に亡くなった妹と話をしていたらしいという謎を追うミステリー作品。伏線を張り巡らせてのどんでん返しはなかなかの衝撃度ですが、ミステリーを読み慣れた人なら途中でピンとくるかも。また、全体的に文章が読みにくいのも難。


65.コープス・ハント(下村敦史)
模倣犯を殺して埋めたと裁判で主張する殺人鬼。犯人の言葉を信じて独自調査をする女刑事。遺体探しを始めるユーチューバーの少年たち。これらのエピソードを絡めて見事などんでん返しを演出しています。ただ、トリックは必ずしも独創的ではないので、途中で仕掛けに気づく人もいるかもしれません。
コープス・ハント
下村 敦史
KADOKAWA
2020-01-31


66.御城の事件ー東日本篇ー(二階堂黎人・編)
東日本の城で起きた事件をテーマにした書き下ろしアンソロジー集。作品には出来不出来はありますが、作家の個性を生かした5つの時代ミステリーを楽しむことができます。なかでも舞台設定を上手く真相の意外性と結びつけた高橋由太の『大奥の幽霊』が秀逸です。


67.オレだけが名探偵を知っている(林秦広)
極秘プロジェクトの行われている巨大迷宮に侵入すると5人の男女の射殺死体が転がっていたという話で、中盤まではいかに迷宮に潜入するかが主眼となっています。迷宮への侵入は緊迫感があって読み応えがあるのですが、殺人事件の意外な犯人に関してはアンフェア感が強くて納得度が低いのが残念。
オレだけが名探偵を知っている
林 泰広
光文社
2020-06-23


68.鏡館の殺人(月原渉)
謎めいた使用人、栗花落静が探偵役を務めるシリーズ第4弾。48枚の姿見が配置されている左右対称の館といういつもながらにケレン味たっぷりの舞台装置を用意しながらも、ミステリーとしての真相がありきたりなのには物足りなさを感じます。一方で、幻想ミステリーとして雰囲気は秀逸。
鏡館の殺人 (新潮文庫nex)
月原 渉
新潮社
2020-07-29


69.建築史探偵の事件簿 新説・世界七不思議(蒼井碧)
鍾乳洞の首なし死体、ログハウスでの大量密室殺人、謎の発火現象といった怪事件に世界七不思議の謎が絡んでくるという、ケレン味たっぷりの派手な作品です。ただ、謎解きに関してはこじつけや安直なトリックが目立ってどうにもいただけません。かろうじて、首切りの理由だけは光るものがあります。


70.狐火の辻(竹本健治)
牧場智久シリーズ。実際の事件に奇妙な噂話やネット怪談などが絡んでくる点は1981年作の『将棋殺人事件』を彷彿とさせます。あの作品と同様に、謎そのものが曖昧模糊としていて幻惑的なムードに満ちているのは非常に魅力的なのですが、謎解きのカタルシスが今ひとつな点も同じなのは少々残念です。
狐火の辻
竹本 健治
KADOKAWA
2020-01-31


チェック漏れ作品

汚れた手をそこで拭かない(芦沢央)14文春5位 読みたい17
学校のプールの水を誤って排水した教師が責任逃れをしようとして追い詰められていく『埋め合わせ』など、人間の浅はかさを描いたイヤミス短編集です。本格ミステリではありませんが、各短編にはぞっとするような仕掛けが用意されています。特に、『埋めあわせ』における大胆などんでん返しは秀逸。


2020年12月5日追記
予想結果
ベスト5→5作品中3作的中
ベスト10→10作品中6作的中
ベスト20→20作品中15作的中
順位完全一致→20作品中1作品
Previous⇒本格ミステリベスト10・2020年国内版予想

ノアの希望