最新更新日2019/12/16☆☆☆
昨今ではさまざまな出版社から年間のミステリーランキングが発表されるようになってきています。それらのランキングは面白い作品を探す指針として大いに参考になる反面、ランキングから漏れた作品はつまらないという誤解を生む原因にもなっています。しかし、実際はランクインしなかった作品がすべてつまらないというようなことは決してありません。ランキングの趣旨から外れている、あるいは投票者の好みに合わないなどといった理由でランキングから外れてしまったものの、読む人が違えば非常に面白く感じる作品も少なくないのです。そこで、『このミステリーがすごい(ベスト20)』及び『本格ミステリベスト10』の2つをピックアップし、これらのランキングにランクインしていない、それどころか下記のリンク先でランキング候補にすら挙がっていないものの中からおすすめの作品を紹介していきます。

さらば、シェヘラザード‐ドーキー・アーカイヴ‐(ドナルド・E・ウェストレイク)
ぼくはスパイ小説を書いて成功した友人のエドからポルノ作家時代の名義を譲り受ける。その名義を使ってポルノ小説を書けば、簡単にお金を稼ぐことができるというのだ。実際、彼のいうとおりだった。28作目までは。だが、29作目の執筆がどうしてもうまくいかず.......。
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作者は多数のペンネームを持ち、日本ではリチャード・スターク名義の『悪党パーカー】の著者として知られているドナルド・E・ウェストレイクです。しかし、この作品は全く持ってミステリーでもなければバイオレンス小説でもありません。ただ、ポルノ作家が25ページの原稿を埋めようと四苦八苦する姿が描かれているだけです。ところが、原稿に書かれた内容が次第に現実の描写を侵食し始め、虚実入り乱れるさまがなんとも刺激的です。まるで、幻想ミステリーのような味わいがあるので、ミステリー好きの人ならかなり興味深く読めるのではないでしょうか。話の内容よりも作者のぶっとんだ発想そのものを楽しむタイプの作品です。
さらば、シェヘラザード (ドーキー・アーカイヴ)
ドナルド・E・ウェストレイク
国書刊行会
2018-06-27


罪人のカルマ(カリン・スローター)
女子大生の失踪事件が発生。しかし、ウィルはなぜか捜査から外される。実は40年前に凶悪な連続殺人事件を起こし、終身刑となった父親が仮釈放されたというのだ。そして、その失踪事件は彼が過去に犯した犯罪の手口と酷似していた.....。
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特別捜査官ウィル・トレントシリーズの第7弾です。本作はシリーズものの醍醐味というべき過去編がたっぷりと描かれています。そして、クローズアップされているるのがウィルの上司であるアマンダ・ワグナーの若き日の姿です。女性蔑視や人種差別が激しかった70年代と現代を行き来しながらアマンダたちのキャラクター性が立体的に描かれ、ウィルとの関係性が明らかになっていく物語は読み応えがあります。また、ミステリーとしては徐々にパズルのピースを嵌めていくような構成が見事。ただ、2つの時代を交互に描いた弊害か、少々冗長に感じてしまうのが惜しいところです。
罪人のカルマ (ハーパーBOOKS)
カリン スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2018-06-16


雪の夜は小さなホテルで謎解きを (ケイト・ミルフォード )
両親が営んでいるホテルに訪れた奇妙な5人の客。12歳の少年マイロはホテルを手伝いに来ていた少女メディと共に謎に挑む。冒険ファンタジーミステリー。
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もともとジュブナイル作品であるため、本格的なミステリーだと思って読むと、謎解きなどにはかなり物足りなさを感じます。しかし、少年少女を主人公とした心温まる冒険ファンタジーとしてはよくできています。大人が読むにはややご都合主義的で悪役が安っぽいのが難ですが、少年少女の成長や親子の情愛の物語としては素直に感動できる作品です。
2015年エドガー賞ジュブナイル部門受賞
雪の夜は小さなホテルで謎解きを (創元推理文庫)
ケイト・ミルフォード
東京創元社
2017-11-22


特捜部Q-自撮りする女たちー(ユッシ・エーズラ・オールスン)
検挙率の上がらない特捜部Qの解体が囁かれる中、王立公園で老女殺害事件が起きる。一方、若い女性ばかりを狙う連続事件が発生。それらは過去の未解決事件と結びついていく。
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累計1000万部以上の売上を誇る、人気シリーズの第7弾です。今回は福祉大国と呼ばれるデンマークにおける社会福祉の暗部を描いており、今日的なテーマ故に社会派ミステリーとして非常に興味深く読むことが出来ます。また、複数の事件の捜査を並行して進めていく、モジュラー型ミステリーとしての面白さも健在です。
特捜部Q―自撮りする女たち─ 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ユッシ・エーズラ・オールスン
早川書房
2019-11-06


盗まれたフェルメール(マイケル・イネス)
死んだ画家の遺作展示会で絵画が盗まれる。さらに、その画家は殺されていたことが判明しする。一体その絵にはどんな秘密が隠されているのか?警視監となったアプルビイが事件の謎を追う。
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英国教養派、いわゆる戦後イギリスの新本格作家に位置付けられていたイネスも50年代に入るとその作風をスリラーに移行してきます。本作でも『ハムレットよ復讐せよ』や『ある詩人の挽歌』などで活躍したアプルビィ警視監が探偵役を務めていますが、謎解きに見るべき点はありません。その代わり、おおらかなユーモアとテンポの良いサスペンスが光る作品に仕上がっています。古き良き時代の英国ミステリーです。
刑事ザック 夜の顎(モンス・カッレントフト)
4人のタイ人の売春婦が銃殺されるという事件が起きる。そして、さらに続く残忍な犯行。これは犯罪組織の抗争か?人種差別主義者の暴走か?若手刑事ザックの焦燥は深まる。
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北欧ミステリーらしくダークで重々しい雰囲気の警察小説です。主人公もドラックに溺れる破滅型です。しかし、その脇を固めるメンバーは個性豊かで魅力があります。一方、事件のほうもやはりかなりダークなのですが、北欧ミステリーにありがちなプロットが複雑であるが故の読みにくさがなく、サクサクと読み進めることができます。警察小説としては少々乱暴な展開が気になるものの、北欧ミステリーとしては珍しいエンタメ色豊かな佳品です。
ワニの町へ来たスパイ(ジャナ・デリオン)
田舎の町に一時潜伏することになったCIAの女スパイ。そこでほとぼりが冷めるまでおとなしくしている予定だったが、庭で人骨を発見してしまい、犯人探しをする羽目に......。 
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アメリカで大人気を博しているシリーズの第1弾です。とにかく、ユーモアとアクションがたっぷりで楽しく読むことができます。ヒロインのきっぷの良さが魅力的ですし、脇を固めるおばあちゃんたちの強烈なキャラも良い味をだしています。噛み合わない掛け合いも楽しいドタバタユーモアミステリーの傑作であり、シリーズ第2弾の『ミスコン女王が殺された』もおすすめです。
ワニの町へ来たスパイ (創元推理文庫)
ジャナ・デリオン
東京創元社
2017-12-11


血のペナルティ(カリン・スローター)
自宅から何者かに連れ去られた元刑事の女性。現場に残されていたのは一面に広がる血の海と薬指だった。捜査に当たったウィルは4年前の麻薬捜査課の汚職事件との関連を探る。
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特別捜査官ウィル・トレントシリーズの第5弾です。レイプ・監禁・猟奇殺人と過激な描写が印象的なシリーズですが、今回はそういった描写は控えめ(といってもそれなりに残酷なシーンはありますが)。その代わり、魅力的なキャラクターと濃厚な人間関係で読ませる作品に仕上がっています。決して読みやすい文章とはいえませんし、肝心の事件の顛末も今ひとつなのですが、迫真の心理描写には圧倒されるばかりです。気軽に楽しむ娯楽作とは対極に位置する、じっくりと物語に向きあいたい一品です。
血のペナルティ (ハーパーBOOKS)
カリン スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2017-12-16


冷酷な丘(C・J・ボックス) 
猟区管理官ジョーの義父が風力発電の事業を始めた途端殺害される。逮捕されたのはジョーの天敵で義母のミッシーだった。ジョーは妻に懇願されて真相を探り始めるが......。 
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ジョー・ピケットシリーズ第11弾。安定して楽しめるシリーズですが、今作もテンポのよい物語を過不足なく楽しむことができます。決してぶれることのない主人公が魅力的ですし、脇役陣もいい味を出しています。そして、なんといっても印象的だったのがミッシーの突き抜けた悪女ぶりです。まだまだこれからの展開が楽しみです。
冷酷な丘 (講談社文庫)
シー.ジェイ・ボックス
講談社
2017-11-15


獣使いーエリカ&パトリック事件簿ー(カミラ・レックバリ)
森から出てきた裸同然の少女は車に轢かれて死亡する。驚くべきことに彼女は両目をえぐられ、鼓膜と舌を失っていた。刑事のパトリックと妻で作家のエリックが事件を追う。
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シリーズ第9弾。北欧ミステリー特有の重くて惨い犯罪と主人公達の私生活とのギャップが、ある意味読みどころとなっているシリーズです。今回はシリーズの中でも特に残忍な事件であり、その分エリカとパトリックの優しさが心に染み入ります。そして、最後のどんでん返しにも驚かされます。ただ、刑事である夫が妻に対して捜査上の秘密をベラベラしゃべっているのは架空の物語とはいえ、気になる人もいるのではないでしょうか。
狩人の手(グザヴィエ=マリ・ボノ) 
残忍な連続女性殺害事件。手がかりは太古の壁画に残された指のない手形。呪術的とも思える猟奇事件にオペラマニアのパルマ警部が挑む。フランスの正統派警察小説。 
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先史時代をテーマ―にしたフレンチミステリーです。ミステリーとしての目新しさはなく、犯人も比較的簡単に見当がつきます。しかし、キャラクターは魅力的で考古学の蘊蓄もかなり充実しているため、その手の話題に興味のある人は読んで損はないのではないでしょうか。
狩人の手 (創元推理文庫)
グザヴィエ=マリ・ボノ
東京創元社
2017-11-30


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