最新更新日2023/010/06☆☆☆

正真正銘の男性がある日突然、美少女になってしまう。この倒錯的ともいえるシチュエーションは
TSF(トランスセクシャルフィクション)と呼ばれ、今では漫画における一大ジャンルを形成するまでになっています。しかし、これほどまでに多くの作品が描かれるようになったのは比較的最近のことです。それでは、一体どのようにしてこのジャンルが形成されていったのでしょうか?主な作品を紹介しつつ、その歴史を振り返っていきます。なお、ここで紹介しているのはあくまでも「男性の主人公がある日突然女性になる漫画」なので、ただの女装、女性が男性化するもの、転生して女の子に生まれ変わるもの、歴史上男性だとされている人物を女性として描いただけの作品(いわゆる女体化もの)は対象外とします。あらかじめご了承ください。
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※西暦表記は連載を開始した(描き下ろしの場合は単行本の初巻を発売した)年です。
1979年

ヒロインくん(よしかわ進)
広印アキラは元気な小学生の男の子。ところが、科学者である父親が、女の子が欲しかったという妻の願いをかなえるべく、女体化する薬をアキラに飲ませて女にしてしまう。元に戻す方法はないということで、治療薬が完成するまでの間は女の子として過ごすことになった。そして、性転換の事実を秘密にするために転校することになるのだが、そこで元同級生の女の子と再会し、あっさりと正体がばれてしまう。しかも、本当に女なのかを確かめるべく、クラスメイトによって教室で全裸にされてしまうのだった。その後も、慣れない女の子としての生活はトラブル続きで......。
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70年代から80年代にかけては子ども向けのエッチな漫画が多数発表されました。中でも、コロコロコミックに連載され、好評を博した『おじゃまユーレイくん』はその代表的な存在だといえるでしょう。なにせ、幽霊の主人公が小学生のヒロインに憑依して裸にしてしまったり、その状態で他の女の子と乳繰り合ったり、犬に憑依して女性の股間を舐め回したりするような内容なので、今ならどう考えても児童誌に掲載できるような代物ではありません。もししたら間違いなく発禁処分です。そして、ある意味、それ以上に問題作といえるのが同じ作者によるこの『ヒロインくん』です。まず、女体化した主人公がいつもエッチな目にあうのがひどく倒錯的です。現代の漫画では珍しくもない設定かもしれませんが、本作が幼児向け雑誌の”てれびくん”に連載されていたという事実に驚かされます。しかも、”おしっこおもらしまんが”という謎のキャッチフレーズがつけられており、ヒロインくんが毎回のようにおもらしをします。どっからどうみても読者である子どもたちに変な性癖を植え付けようとしているとしか思えません。現在では実現不可能な企画という意味で、時代を象徴する作品ともいえる怪作です。


1985年

Mr.Clice(秋本治)
繰巣陣は世界を股にかけて活躍する国家特別工作機関"JST”の凄腕エージェントだった。ところが、KGBとの闘いのさなか、トラックに轢かれて命を落としてしまう。JSTの上層部はこのまま死なせては大きな損失だと考え、偶然同日同時刻に亡くなった女性テニスプレイヤーの肉体に繰巣陣の脳を移植させることで、彼を復活させる。繰巣からクリスに生まれ変わった彼は、慣れない女性の体や周囲の扱いの変化に戸惑いながらも新しい任務をこなしていくが.......。
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『こちら亀有公園前派出所』の連載中にシリーズがスタートした不定期連載作品です。古いスパイ映画のエッセンスにTSものとギャグ漫画の要素を混ぜ合わせた作風に独特の味わいがあります。超エリートスパイなのにいつも与えられる任務が商店街の店主の救出だったりと、そのギャップが笑えるのです。他にもギャグの幅が広く、アクションコメディとして大いに楽しめる作品です。ただ、昨今のTSものと異なり、主人公の可愛さをウリにした作品ではないので、その辺りに期待すると肩透かしを食らうことになります。そもそも、TS漫画がジャンルとして成立する以前に連載がスタートした作品なので一般的なTS漫画とは別物と考えたほうが無難です。また、不定期連載でかなり間が空いているため、途中でシリアスよりになったり、絵柄が変わったりと作風のブレが非常に大きくなっています。したがって、続けて読むと違和感を感じることになるかもしれません。


1987年

らんま1/2(高橋留美子)
東京で無差別格闘流の道場を開いている天道早雲の元に1枚のハガキが送られてきた。親友の早乙女玄馬からの便りで、そこには息子の乱馬を連れていくと書かれている。実は早雲と玄馬はお互いの子ども同士を結婚させる約束をしており、早雲は3人の娘の1人を乱馬と結婚させて道場を継がせるつもりでいたのだ。ところが、やってきたのはパンダと可愛らしい女の子だった。末娘で男嫌いのあかねは乱馬が女だったことにほっとする。そして、道場で手合わせをして仲良くなるのだが、風呂場で鉢合わせになった乱馬はなぜか男になっていた。痴漢と勘違いして風呂場を飛び出すあかね。そこに、あとを追ってきた乱馬とパンダから人間に戻った玄馬が姿を現し、事情を説明する。それによると、早乙女親子は中国での修行中に呪泉郷という呪われた泉に落ち、それ以降、水を被ると玄馬はパンダに、乱馬は女の子になる体質になってしまったというのだ。とりあえず、乱馬はあかねのいいなずけという立場で天道家に居候をすることになるのだが.....。
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TS漫画を一躍メジャーにした記念碑的作品です。とにかく、男らしい性格の主人公なのに、水を被って女になると非常に可愛らしく見えるのが画期的でした。また、自分が女であるという自覚が薄い故の脱ぎっぷりの良さには健康的なお色気があり、ある意味、前半の大きな見どころとなっています。そして後半に入ると、今度は逆に女体化に慣れてきて、女を武器にしたり、女子力の高さをアピールしたりするのですが、これが元のキャラとのギャップがありすぎて笑えます。また、他のキャラもみな個性的で、話のテンポも良く、細かなネタもよくできているなど、完成度の高さは折り紙つきです。非常に良質なドタバタラブコメディであり、TS漫画を代表する傑作だといえます。


1990年

ふたば君チェンジ(あろひろし)
中学1年生の締留ふたばは友人から借りたエロ本をトイレで読みながら、クラスメイトである島美咲姫の裸を想像していた。そのとき、彼の体に異変が起きる。自分の姿が美少女に変わってしまったのだ。驚くふたばだが、それは一族に伝わる体質だと家族から聞かされる。実は、父や姉も同じ体質の持ち主だったのだ。それからというもの、興奮や緊張状態で女に変身するようになったふたばは、同姓同名の転校生として、クラスに二重在籍することになるのだが......。
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『らんま1/2』が大ヒットしている最中に登場した作品ですが、同作と比べるとアクの強さを感じます。キャラクターはみな個性派揃いというか変態ばかりで、そこから繰り出されるギャグの面白さには『らんま1/2』にはない破天荒さがあります。一方で、女体化したときのふたばくんの可愛らしさは申し分なく、TSものとしても十分に楽しめる作品です。知名度自体は今一つですが、女体化漫画のジャンルを確立したという意味で、『らんま1/2』と二分する存在だといえるでしょう。ただ、ラストの滅茶苦茶な展開に関しては賛否のわかれるところです。ちなみに、本作はどちらかというと、日本より海外で人気のある作品です。


2004年

かしまし~ガール・ミーツ・ガール(画・桂遊生丸/作・あかほりさとる)
大佛はずむは幼馴染の来栖とまりの後押しもあって、片想いの相手である神泉やす菜に告白するも拒絶され、傷心を癒すために近所の山に登る。ところが、そこに巨大な宇宙船が墜落し、はずむは瀕死の重傷を負ってしまう。宇宙船の所有者である宇宙人は、はずむを事故に巻き込んでしまったことを詫び、治療を施すのだが、その結果、はずむは女になってしまうのだった。こうして女の子として高校に通い始めたはずむだったが、なぜか自分を振ったやす菜が彼に積極的にアプローチをかけてくるようになる。一方で、そんな2人を見ていたとまりは、自分の中にある本当の気持ちに気づき始め.......。
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アニメやゲームにもなったメディアミックス作品で、当時としてはTSものと百合ものとの組み合わせが斬新でした。コミカルなシーンも交えつつ、切ない恋心や心の揺れなどが丁寧に描かれています。その結果、表面上は百合ものでありながら、王道的な恋愛漫画としても非常によくできた作品に仕上がっています。3人のキャラクターもそれぞれ魅力的ですし、物語としての完成度も申し分ありません。TS漫画におけるエポックメイキング的傑作です。


2008年

あめのちはれ(びっけ)
名門男子校・雨谷学園の入学式は春の嵐のさなかに行われた。春雷に見舞われ、そのとき、新入生である葉月、冬馬、悠介、淳太、円の5人の体に異変が起きる。それ以来、彼らは雨の日になると女体化するようになってしまったのだ。事情を知った寮監の春人は体の秘密を隠している5人を匿うため、雨谷寮へ入寮できるように計らう。さらに、顔見知りである雨谷女子校の校長に掛け合い、女体化している間は別人として女子高に通うことになるのだが.......。
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女体化するのが1人ではなく、5人同時になるという点がユニークです。ただ、女体化による肉体の変化についてはさらりと流し、女性になったことによる精神面や人間関係の変化に焦点が当てられている点については好みがわかれるかもしれません。見どころは5人が頻繁に女になったり、男になったりするため、さまざまな人間関係やカップリングを楽しめるところです。特に、5人のメンバーが一堂に集まると男と男、男と女、女と女といった具合に、さまざまな組み合わせが成立してしまうところに普通の青春群像劇にはない面白さがあります。一方で、欠点としては最初の方はみな顔が同じで見分けがつきにくい、キャラクターが多い割に展開がゆったりとしているので盛り上がるまでに時間がかかるという点が挙げられます。しかし、その反面、描写は丁寧で、心理面重視のTSコミックとしてはなかなかの完成度を誇る作品です。
あめのちはれ 1 (B’s LOG Comics)
びっけ
エンターブレイン
2009-04-01


2009年

世界の果てで愛ましょう(武田すん)
矢野涼馬は気弱な男子高校生でいつも面倒事を周囲から押し付けられていた。そんなある日、異世界の王子であるエミリオが窮地に陥っているところに出くわし、彼を助ける。ところが、エミリオはなぜか涼馬を薬の力で女に変えたうえで結婚を迫るのだった。涼馬が申し出を断ると、今度は彼の家に同居し、一緒に学校に通うようになる。一方、涼馬の弟である祐二は母の代わりに育ててくれた兄に対して、肉親の情以上の想いを抱いていた。そして、女性になった兄を見てその想いが抑えられなくなり.....。
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2020年にアニメ化された『グレイイプニル』の原作者としても知られている武田すんの初期代表作です。全体的にBLっぽい雰囲気はあるものの、女体化してからの主人公の可愛らしさは特筆ものです。また、シリアスな要素も結構あるにも関わらず、王子と弟が変態で、すぐに暴走を始めるのには思わず笑ってしまいます。物語的にも全8巻と長すぎもせず短すぎもせずに過不足なくまとめている点も好感が持てます。ただ、女体化することへの葛藤がそれほどみられず、身も心も完全に女性化してしまう点はTSものとしては好みが分かれそうです。


2010年

のぞむのぞみ〈長月みそか)
中学1年生の田尾のぞむは野球チームに所属していたが、試合に負けた罰ゲームとしてチアリーダーの格好をさせられたことがきっかけで女装癖に目覚めてしまう。しかし、男らしく育ってほしいという父親の願いを踏みにじることはできず、女装趣味とは縁を切ろうと決意する。それでも、女の子に生まれてきたかったという想いは断ち切れず、悶々とした日々を過ごしている内に、のぞむの体は女になってしまうのだった。
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全ページフルカラーの可愛らしい絵が印象的な作品です。しかも、女人化というテーマと関連して自慰や生理という生々しい描写を赤裸々に描いているのにも関わらず、決して淫靡な方向へは流れずに、あくまでもさわやかな青春ものの枠内に収まっている点にオリジナリティを感じます。また、肉体の女性化が進むにつれて変わっていく心情を丁寧に掬いあげて描写している点も見事です。ただ、完成度が高いだけに、全2巻という短さが少々残念ではあります。
のぞむのぞみ (1) (TSコミックス)
長月みそか
少年画報社
2015-07-08


2011年

アイドルプリテンダー(晴瀬ひろき)
因瑛太は漢の中の漢になるべく、毎日喧嘩に明け暮れていた。ところが、ある日、ルームメイトの小栗圭介が通販で買った怪しげな薬を風邪薬と間違えて飲んでしまい、美少女に変身してしまう。男に戻るにはもう一度同じ薬を手に入れるしかない。だが、その薬は3億円するというのだ。その金を稼ぐべく、瑛太は圭介のすすめでアイドルを目指すことになるが......。
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本作はTSものとアイドルものの組み合わせた作品であり、設定自体はありがちですが、絵の可愛らしさとキャラの魅力でぐいぐい読ませていきます。しかも、憧れの先輩との百合的ラブコメも良くできていているうえに、親友に対する恋心が芽生えてくるという背徳的な展開も用意されており、TS漫画のフルコースといった趣があります。結末に関しては賛否両論ありますが、絵柄・キャラ・物語と、非常にバランスの取れた佳品です。


トランスジェニック・ラボラトリ(厦門潤)
榊は80歳を超える政治家だが、何度も殺され、そのたびごとにエタナティとして蘇っていた。エタナティとは世界にとって必要不可欠な人材と認定されている人たちのことで、全員合わせても30人にも満たない。彼らの記憶と遺伝子情報は厳重に保存されており、たとえ死んでもクローンとして蘇ることができるようになっているのだ。ところが、榊の場合はあまりにも頻繁に殺されるので、肉体の培養が間にあわず、実験体として培養していた女性の肉体をあてがわれてしまう。
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近年のTSものとしては珍しいSF色の強い作品です。そのため、性転換の仕組みなどもしっかりと説明されており、読者の知的好奇心を満たしてくれる作りとなっています。一方、突然絶世の美女になって周囲の人間、あるいは自分自身がドギマギといったエロティックな展開はほぼ皆無です。主人公は80年以上生きて精神的に老成しているので、見た目は美女でもその言動は著しく色気に欠けています。むしろ、暗殺に巻き込まれて肉体を損傷し、主人公の未成熟なクローン体を仮住まいとしている元少女のほうに可愛らしさを感じてしまいます。物語としては生きる意欲を失っていた主人公が幼い頃の自分の姿をした少女との交流を重ねるうちに前向きな気持ちを取り戻すというもので、ヒューマンドラマとして読み応えのある佳品です。TS漫画としては若干消化不良気味ですが、SF作品としては非常によくできているのではないでしょうか。


2012年

バランスポリシー(吉富昭仁)
世界的に少子化が進行し、日本の人口は4000万人までその数を減らしていた。しかも、男女比にも歪みが生じ、女児が生まれてくる確率は2割以下にまで落ち込んでいたのだ。このままでは人類存亡の危機だということで、政府は男女均等政策を発令し、適合者と見なされた男児に性転換の手術を強制する。そんな中、12歳で性転換手術を受けた大井健二は1年ぶりに故郷に戻り、親友の真臣と再会する。見た目はすっかり可愛くなったのに女扱いされるのを嫌う健二との距離感をつかみかねる真臣だったが.......。
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エロティックな内容が連想される絵柄ですが、そういった部分は皆無ではないものの、かなり抑え気味です。その代わり、それぞれのキャラクターの心の動きに重点が置かれており、女性化を巡る本人や周囲の戸惑いや葛藤を非常に丁寧に描きだしています。淡々とした展開の中に甘酸っぱさや切なさが詰め込まれていて、読んでいるとぐっとくるものがあります。特に、主人公の心の中で男の子の部分と女の子の部分がせめぎ合う描写が秀逸です。終盤が少々駆け足なのは残念ですが、心理描写が巧みなTS漫画として忘れ難い印象を与えてくれる逸品であることは確かです。


2013年

彼女になる日(小椋アカネ)
何でも涼しい顔をしてこなす間宮に対して幼馴染の三芳は対抗心を燃やして勝負を挑み続けるが、結果は連戦連敗。三芳はなかなか間宮に勝てないでいた。そんなある日、突然、間宮が倒れて入院してしまう。それから、半月後。退院をしたというので、三芳が間宮の家を訪ねてみると、彼は女になっていた。人類の男女比を一定に保とうとする羽化現象が起きたというのだ。女嫌いの三芳はすっかり女らしくなった間宮の体を目の前にして大いに戸惑うが.......。
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主人公の三芳が女嫌いで女体化したヒロインの間宮が主人公の幼馴染で親友。しかも、間宮は元イケメンで女性になったあとも男前な性格をしているので、雰囲気的には限りなくBLに近い作品です。したがって、BLが苦手な人には少々抵抗があるかもしれません。その一方で、丁寧な心理描写を積み重ね、親友から恋人に変わっていくプロセスを切ない恋愛ものとして描いている点は非常によくできています。男同士が当たり前のように恋人になるBL的展開ではなく、元男との恋愛はありえないというところからスタートするので、男性読者にとっても感情移入はしやすいのではないでしょうか。また、高校生の恋愛で終わるのではなく、さまざまな困難を乗り越えて結婚から出産に至る過程もしっかりと描かれているため、TS漫画として非常に感慨深い読後感を味わうことができます。ある意味、トランスセクシャルの問題を真正面から描いたといえる傑作です。


彼女になる日 another(小椋アカネ)
男子中学生の相楽は背が低くて女の子のような顔立ちをしていたが、喧嘩っ早くてその強さは上級生の不良3人を瞬殺してしまうほどだった。ところが、ある日、突然、羽化を迎えて本当の女の子になってしまう。その現実が受け入れられずにあくまでも男としてふるまう相楽だったが、同じクラスの男子である成海に秘密がばれてしまうのだった。そのうえ、以前から何かと彼をかまっていた女子生徒の黒川から告白され.....。
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『彼女になる日』と世界観を同一にした別キャラクターの物語です。BLっぽい雰囲気をまとっているのは一緒ですが、中学生が主人公だけに前作よりも初々しさを強調したつくりになっています。しかも、羽化したことを楽しんでいた前作のヒロインに対して、その現実が受け入れられずに戸惑い悩む描写が多いのもいかにも思春期の物語といった感じです。さらに、相楽と成海の他に元男の黒川を加えて、百合ともBLともとれる多層構造にしているのがユニークです。そういう意味で『彼女になる日』より幅の広い楽しみ方ができる作品だといえます。終盤が多少駆け足気味な気もしないではないですが、こちらも前作に勝るとも劣らない良作です。


幼なじみは女の子になぁれ(森下真央) 
ある日、刑部秀一は池でおぼれていた妖精のシルフィを助ける。そして、その妖精がお礼に一つだけ願いを叶えてくれるというので、可愛い幼馴染がほしいといったところ、幼馴染の少年、小山内伊織が魔法で女の子にされてしまう。いくら魔法でも存在しないものは作れないし、過去に干渉することもできないので、男の幼馴染を女にするしかないというのだ。女にされてしまった伊織は気合で女体化の魔法を跳ね返すが、シルフィは秀一への恩返しを果たすため、しつこく伊織を狙い続ける。
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誰よりも男らしさにこだわっているのに、それに反してどんどん可愛くなっていく主人公が魅力的です。逆に、見た目は可愛らしいのに目的のためには手段を選ばない妖精もいい味を出しています。話のテンポが良く、笑いと萌えのバランスも絶妙です。TSものとして気軽に楽しめる作品です。ただ、全3巻で終わってしまったせいなのか、終盤の展開に強引さを感じたのがやや残念ではあります。


ひとよひとよに乙女ごろ(今村陽子)
黒崎数馬は女嫌いの堅物軍人だが、貧家の出ゆえに昇進を餌にした人体実験の参加を断れず、挙句の果てに実験が失敗して女にされてしまう。つややかな黒髪美少女となった数馬は、黒崎乙女と名を変えて上官の家に居候し、女学校に通うことになる。彼は新たに交流を持つことになった学友たちを通じて女性の素晴らしさや欠点、女性ならではの悩みなどを知ることになるのだが......。
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大正ロマンな世界観の中に軍人と女学校の要素が掛け合わされ、TSものとしては実によい雰囲気に仕上がっています。エロティシズム漂う絵柄に丁寧な心理描写を兼ね揃えたかなりの良作といえるのではないでしょうか。また、精神的BL、ビジュアル的百合、異性愛と色々な視点から楽しめるのもお得感があります。ただ、全1巻であるため、終盤の展開が少々駆け足になってしまったのが惜しいところです。


2014年

俺とヒーローと魔法少女(九段そごう)
その街では平和を乱す怪人たちに対抗するべく、さまざまな変身ヒーローたちが活躍していた。十文字ハヤトは子どものときからそんなヒーローに憧れていたが、27歳にしてようやくその力を手に入れる。だが、それは彼が望んでいたものとは全くかけはなれたものだった。変身すると小学生ぐらいの魔法少女となり、彼はその恥ずかしい姿で戦うことを余儀なくされたのだ。ギャラリーたちの好奇な視線にさらされながら、今日もハヤトは街の平和のために戦い続けるが......。
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『魔法少女俺』の逆のパターンで、ガチムチの青年が幼い魔法少女となって戦う話です。今となっては珍しくもなくなったTS魔法少女ものですが、それでも変身前と変身後のギャップの激しさには笑ってしまいます。それに、見た目は可愛い魔法少女になっても、魔法などは一切使わず、あくまでも拳一つで闘い続ける主人公がなかなか魅力的です。怪人や他の登場人物もみなキャラが濃く、いい味を出しています。大笑いするような作品ではありませんが、全編にくすっとするような面白さが満ちているのです。熱血と可愛らしさと笑いを兼ね備えた佳品です。
俺とヒーローと魔法少女(1) (ポラリスCOMICS)
九段そごう
フレックスコミックス
2016-04-20


ボクガール(杉戸アキラ)
父親から武道を学び、厳格に育てられてきた鈴白瑞樹は誰よりも男らしさにこだわる高校生だった。だが、女の子のような容姿をしているため、周りからは可愛いと言われ続け、挙句の果てには男からも告白される始末。悩み多き日々を過ごしている彼に目を付けたのはイタズラの神、ロキだった。天上の神々が自分のイタズラに驚かなくなり、空しい日々を送っていたロキは、彼なら自分の悪戯心を満たしてくれると考えたのだ。果たして突然、女になった瑞樹は激しく狼狽する。しかし、親友の一文字猛の協力を得て、なんとか元の体に戻る方法を見つけようとするのだが......。
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突然、女性になった主人公が唯一事情を知っている親友の助けを得て、日常生活でのトラブルを乗り越えていくという王道展開が非常に丁寧に描かれています。主人公の心の葛藤やお約束のエロハプニングなどもソツなく盛り込み、TSものとして非常に安定した仕上がりとなっています。また、主人公以外のキャラクターも親友の猛を始めとしてみな魅力的で、ラブコメとしてもかなり上質な作品です。それに、主人公のエロティシズム漂う可愛らしさにはぐっとくるものがあります。クライマックスも非常に感動的で、完成度の高さは数あるTS漫画の中でも屈指です。TS好きにとっては必読の書だといえるでしょう。


俺、ツインテールになります。(柚木涼太・画/ 水沢夢・作
観束総二はツインテールの女の子をこよなく愛する高校1年生。そんな彼が入学式の帰り道に謎の美女に遭遇し、奇妙なブレスレッドを押しつけられる。彼女の名はトゥアールといい、異世界からやってきた科学者だった。彼女がいうには、地球のツインテールは狙われており、それを防ぐには総二の秘められた力が必要だというのだ。一方、トゥアールを追ってきた怪物・エレメリアンが地球に飛来し、地球上のツインテールを無差別に収集し始める。そして、美しいツインテールを持つ生徒会長の神堂彗理那が襲われそうになったとき、総二はブレスレッドの力を借りて変身。ツインテールの幼女戦士、テイルレッドになって敵に立ち向かうが......。
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ライトノベル原作で2014年にはアニメ化もされた作品のコミカライズです。そもそも、敵は変態、味方は痴女、主人公は重度のツインテールマニアと、原作からしてちょっとあれな作品なのですが、そこに、作画担当の柚木涼太の作風がプラスされてさらに変態度がアップしています。もちろん、女人化した際の主人公の可愛らしさもばっちりです。しかも、アニメではカットされた原作要素もしっかりと再現されており、原作ファンには大満足、アニメでファンになった人も必読の書だといえるでしょう。ただ、丁寧に描いている分、アニメに比べるとテンポが悪いと感じる人もいるかもしれません。それに、2巻で完結したために、原作の出だしの部分しか描かれなかったのはいかにも残念です。


転生少女図鑑(お子様ランチ)
第二次成長期を迎えると、子どもはメタモルフォーゼという現象によって大人に変態する世界。しかも、中には変態を経て、性転換してしまうケースもあり.....。
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人間が昆虫や両生類のように変態する世界での人間模様を描いたオムニバス作品集です。単なる女体化ではなく、蛹や繭になって変態する姿に艶めかしい妖しさがあります。ただ、その割に、肉体的変化をメインに描いているのではなく、物語の主軸になっているのはあくまでも他者との関係性です。そのため、エロティシズムに期待した人はちょっとがっかりかもしれません。一方で、比較的淡々とした筋運びながらも、登場人物の心の動きなどは非常によく描けています。オムニバスコミックとしての完成度は高く、読後感も爽やかなTSものの佳品です。
転生少女図鑑 (TSコミックス)
お子様ランチ
少年画報社
2015-07-21


2015年

境界のないセカイ(幾夜大黒堂)
技術の進歩により、完全な形での性の変更が可能となり、それに伴い、18歳以上の国民は自由に性を選ぶことができる”性選択制度”が導入される。そんな中、17歳の勇次は久しぶりに会った従兄の啓太郎が女性になっているのを見て驚く。春休みの間、一つ屋根の下で過ごすことになり、可愛くなった啓太郎の姿に勇次はドギマギする日々が続くのだった。ある日、勇次は改名して啓子となった啓太郎の付き添いで医療センターに行き、そこで性の変更の疑似体験をする。そして、女性になることがいかに大変かを知ることになるのだった。同時に、そんな思いまでしてなぜ啓太郎は女性になる決意をしたのかという疑問が勇次の頭に浮かび.....。
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ある日突然ハプニングによって女になるのではなく、医学の力によって自ら性を選択するという設定が他のTSものと比べると少々異質です。そのためか、一見、軽いドタバタラブコメのように見えてその裏には性の選択やアイデンティティといった重いテーマが内包されています。3つのエピソードが3つともややビターな結末を迎えることも含め、色々と考えさせられる作品です。TS漫画ならではのテーマ性にこだわりたいという人には絶好の書だといえます。ただ、最初のエピソードにたっぷりと尺を使ったのに対して、残りの2つのエピソードが半分以下の長さで展開がかなり駆け足になっています。そのため、少々消化不良の部分が出てしまったのはやや残念です。


まじとら!(香椎ゆたか) 
高校に入学したばかりの南は魔法少女部の入部勧誘ポスターを目にし、興味を示す。魔法少女のコスプレをする部で、入部すれば美少女のコスプレが見放題だと考えたからだ。しかし、幼馴染のかりんと一緒に見学に行ってみると、単なるコスプレではなく、変身アプリを使って本物の魔法少女として活動する部だといわれる。しかも、そのアプリは男の南までも完全な女性に変身ができるという優れものだ。それを聞いて南は即座に入部し、魔法少女ライフを満喫し始めるが.......。
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いまやTS漫画も細分化が進み、独立したジャンルとしての地位を築きつつあるTS魔法少女ものですが、本作は他作品と異なり、変身して敵と戦うわけではありません。主人公が魔法少女になって、ひたすら女の子ライフを楽しむという点に独自の味わいがあります。お色気要素を少々加味した日常ギャグが続くのですが、テンポがよくてサクサク読める点が秀逸です。ある意味、男子高校生の妄想を具現化したような作品ではあるものの、どぎつい描写は避け、あくまでも軽いノリで統一している点が口当たりのよさにつながっています。そのノリが最後まで続くので、肩の凝らないTSものを気楽に楽しみたいという人にはおすすめです。


2016年

にぶんのいちボーイフレンド(流星ハニー)
要相二郎は戸籍上は男だが、ドキドキすると性別が逆転する体質の持ち主だった。そして、その秘密を知っているのは家族の他には、幼馴染の皆川朋彦と恋人の一条さくらだけだ。そのさくらは財閥である実家の財力にものをいわせて相二郎の体を研究し、同じ体質になる薬を完成させる。そして、自らが実験体となり、男になってみせるのだった。そして、さくらは相二郎に向かって言う。「私たち(性別が)逆の方がしっくりきませんか?」と。
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TSをテーマにした四コマ漫画です。主人公が女に変身するだけでなく、途中から他のキャラも性別を変えられるようになるというハチャメチャな設定なのですが、ハイテンションなノリで突っ走ることによってそれをうまく面白さに昇華しています。また、男でもときめいてしまう朋彦などの存在によって全体的にBLっぽさが漂っているものの、あくまでもギャグとして描かれているため、その手のジャンルが苦手だという人でも楽しむことができるのではないでしょうか。特に、ナルシストなスーパーアイドル・峯薔一のホモホモしい暴走ぶりは面白すぎで、完全に主役を食っています。男×女、男×男、女×女とTSものならではのなんでもありラブコメとして楽しめる作品であり、まさにLGBT時代に相応しい快作です。


みだLOVE(林哲也)
高校生の安藤了誓は子どものころから両親が一緒にいるところを見たことがなかった。そのうえ、父親はいつも知らない女を家に連れ込んでいる始末だ。そんな両親を反面教師として、了誓は一途で真っすぐな男に育っていく。ところが、ある日、幼馴染の恋咲といい雰囲気になったとき、異変が起きる。了誓の体が突然女の子になってしまったのだ。実は、彼の一族は淫魔であり、他人と粘膜接触をすることで男になったり、女になったりできる能力を有しているという。その能力が了誓にも発現したのがこの結果だった。ちなみに、両親が一緒にいるところを見たことがなかったのは彼らが同一人物だったからだ。とにもかくにも、了誓が男の体に戻るには男性とキスをする必要があるというのだが.....。
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ベーシックなTSものに、性別をコントロールするために異性と粘膜接触をしなければいけないという設定を加えたことでエロティシズムの高い作品に仕上がっています。そのうえ、表情が非常に官能的で、エロティックな雰囲気はかなり濃厚です。一方で、もろに少年漫画といった絵柄は好みがわかれるところですが、TSものにエロを求める人にはおすすめの作品です。ただ、それだけに現在第1部完という形になっており、再開の目処が立っていない点が惜しまれます。


ちちのじかん(白田クロノスケ)
篠木究一は生物学科に所属する大学2回生。ある日、宇宙人から赤ん坊を預けられ、この子の面倒を1年間みるようにといわれる。しかも、女体化できる装置を使って完全母乳で育てろというのだ。冷静沈着で好奇心旺盛な彼は慌てることもなく、赤ん坊の世話をし始めるが、わからないことばかりでなかなか思うようにいかない。そこで、究一はアパートの隣人である鷹来彩花に協力を要請する。2人は試行錯誤しながら、その赤ん坊を育てていくのだが......。
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赤ん坊を母乳で育てるために女体化するという、かなりぶっとんだ内容で、作品からはシュールな雰囲気が漂いまくっています。しかし、中身は意外と真面目な育児のハウツウ本となっており、そのギャップがなんともユニークな作品です。女体化する主人公と大家族の長女として育ったために子育てに詳しいヒロインとのコンビもボケとツッコミのバランスが取れており、倒錯的な設定にもかかわらず、口当たりは意外と爽やかです。TSものと育児漫画の両方に興味のある人は読んで損はないのではないでしょうか。
ちちのじかん 1
白田クロノスケ
ノース・スターズ・ピクチャーズ
2017-04-20


ハイブリッドガールフレンド(まる寝子)
成長遺伝子の先天性異常を有する雅人は持病の治療をした結果、女体化してしまう。一方、幼馴染で同じ境遇の栞は一見変化はなかったが、股間の一部だけが男性化してしまっていた。女生徒として復学した雅人は栞の体の秘密がバレるのをなんとか防ごうとするが.......。
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主人公がある日突然女になって、いろいろ戸惑うというのはTS漫画の王道的展開ですが、それよりもなによりも、股間に一物が生えてしまったヒロインの存在感がインパクト大です。ふたなりヒロインが女体化主人公を毎回押し倒すという、一般誌としてはいろいろギリギリな作品となっています。他にも、男の娘の生徒会長が登場するなど、攻めすぎな作風は賛否の分かれるところですが、普通のTSものには飽きた、もっとぶっとんだ作品を読みたいという人にはおすすめです。


2018年

お兄ちゃんはおしまい!(ねことうふ)

緒山まひろはひきこもりのニートでエロゲー三昧の日々を過ごしていた。だが、ある日目を覚ますと自分が中学生ぐらいの女の子になっていることに気がつく。動揺するまひろだったが、そこに妹のみはりがやってきて、驚く様子も見せずに彼の体を調べ始めた。みはりは飛び級で大学に進学した天才少女であり、日々怪しげな研究を行っている。要するに、彼女は自分の研究の成果を確かめるべく、まひろの食事に一服盛ったのだ。憤慨するまひろに対し、みはりは平然として、「しばらくすれば薬の効力も切れるから、それまで女の子としての生活を楽しんでみては?」と彼にすすめるのだった。最初はいろいろととまどうまひろだったが、次第に女の子としての生活にも慣れてきて......。
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もともとは同人作品だったのを一般向けに書籍化したものです。劇的な展開があるわけではなく、ひたすら主人公の身の回りのできごとを描いているという意味では日常漫画に近いものがあります。作風的にはかなり地味ではあるのですが、その代わり、絵柄は非常に愛らしく、読んでいると思わず癒されてしまいます。それになんといっても、主人公の可愛らしさが特筆ものです。中身はエロゲ好きのヒキニートなのにもかかわらず、その言動一つ一つが非常にキュートです。他のキャラクターもみな魅力的で、展開的にもTSもののツボをしっかりと押さえています。安心して楽しむことができる佳品です。


純とかおる(二駅ずい)
純とかおるは生まれたときから家が隣同士の幼馴染。しかも、毎日深夜0時になると性別が入れ替わるという特別な関係で結ばれていた。つまり、純が男になるとかおるは女になり、純が女になればかおるは男になるといった具合に、性転換を繰り返しているのだ。そのため、学生服や体操着なども共有し、男女用を交互に使用している。生まれたときからずっとそんな生活を続けており、2人も周囲もすっかり慣れたものだった。だが、たまには失敗してしまうこともあり.......。
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一見典型的な男女入れ替わりものに見えますが、人格が入れ替わっているわけではなく、性別だけが入れ替わるという変則的なTSものです。しかも、生まれたときから入れ替わりが起こり続けているという設定のため、いきなり性別が変わったことに対するとまどいや騒動などといったものは一切ありません。その代わり、性が未確定なことによるほのかなフェティシズムが全般を通して漂っています。また、幼馴染同士のラブコメ的展開も男女の役割が確定してないからこその倒錯的な味わいがあるのです。たとえば、体操服を交換するだけのシーンでもなんだかドキドキしてしまうのはこの作品ならではだといえます。ストーリー自体は変哲もない日常とちょっとした事件が描かれているだけの地味なものです。しかし、そのなかには、既存のTSものにはない、新しい感覚がぎっしりと詰まっています。TS漫画40年の歴史の中でもちょっと他に例のない異色傑作です。

純とかおる(1) (KCデラックス)
二駅 ずい
講談社
2019-04-09


個人差あります(日暮キノコ)
32歳の磯森晶は百均チェーン企業に勤める平凡なサラリーマン。作家である2歳年上の妻との関係が冷え切っていることもあって世の中の男女問題に対しても鬱積した思いを抱えていた。そんなある日、晶は脳出血で倒れ、病院に運び込まれる。なんとか一命を取り留めるものの、世界でも症例が少ない異性化を発症して女性になってしまうのだった。とまどう晶だったが、同じ女性という立場になったことで妻との関係も修繕の兆しが見え......。
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主人公が32歳ということもあって思春期のTS作品のような艶めいた雰囲気は希薄です。その代わり、女体化というものが実在したとしたらどうなるかというプロセスをきちんと描いた社会派タッチの作品としてよくできています。突拍子もない設定を、細部にリアリティを持たせることでもっともらしいムードを醸し出していく手管はなかなかのものです。ただ、主人公が女性になった途端に乙女ちっくになり、男性に惹かれていく展開には違和感を覚えるかもしれません。別に惹かれること自体はいいのですが、大した葛藤やプロセスを経ずにそうなってしまうので唐突な印象を受けてしまうのです。その代わり、中盤過ぎに視点が晶から妻の苑子へ変わった辺りから物語に深みが増し、ぐっと面白くなってきます。最終的な着地点も予定調和ではなくいろいろと考えさせられるものになっています。ジェンダーの問題を真正面から描いた秀作です。


2019年

オレが私になるまで(佐藤はつき)
藤宮明はやんちゃな男の子。クラスの女の子をよくイジメていたが、小学2年生のある日、
突発性性転換症候群によって彼自身が女の子になってしまう。今までイジメていた女の子のグループにはなじめず、男の子たちからは好奇の目で見られて孤立していく明。そんな彼を見かねた祖母の早苗は自分の家に引っ越しをさせ、そこから別の小学校に明を通わせる。新しいクラスメイトたちと交流を深める中で、彼は今まで女子にしてきた仕打ちを反省するとともに、少女としての自分と向き合うことになるが.......。
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本作は、数あるTSものの中でも、最もリアリティを重視して描かれた作品の一つです。単に、男から女になったことで巻き起こるハプニングを描くだけでなく、主人公の戸惑いや徐々に女子としての自分を受け入れていくプロセスが、実に丁寧に積み重ねられています。特に、年月を経てかなり女の子に染まりながらも、どうしても自分が女性であることへの違和感を完全には拭えないといった、細やかな心理描写が見事です。主人公の人間的成長に焦点を当てたTSものとしては屈指の傑作です。
オレが私になるまで 1 (MFC)
佐藤 はつき
KADOKAWA
2019-06-22




めんどくさがり男子が朝起きたら女の子になっていた話(小林キナ)
高校生2年の早坂はルームメイトの安田先輩がある朝突然女の子になっているのに気付いて驚愕する。だが、肝心の安田先輩は超めんどくさがりな性格のため、自分の身に起きたことに対しても全く無関心だった。早坂はそんな先輩に振り回されながらもついついお世話をしてしまうのだが......。
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TSものといえば、突然女の子になった主人公があたふたするのが定番ですが、本作の場合は本人は少しも動じず、というか自分の性別に対して全くの無関心で、代わりに周囲が振り回されるところに従来の作品にはない面白味があります。主人公の心の葛藤といったものが皆無なので本格的なTSものを期待した人にとっては物足りないかもしれませんが、TSネタのコメディとしてはなかなか楽しめる作品です。無表情キャラのTS版といったところでしょうか。
めんどくさがり男子が朝起きたら女の子になっていた話 1巻 (デジタル版ガンガンコミックスUP!)
小林キナ
スクウェア・エニックス
2019-07-12



よーじょらいふ!(あまー)
大学生の志村アキヒコは、ある日目を覚ますと金髪幼女になっていた。原因も元に戻る方法も判らない彼はこの手の現象に詳しいゼミの教授に相談をする。しかし、教授も解決策は持ち合わせておらず、とりあえずは精密検査をしたうえで善後策を練ろうことになる。ところが、翌朝、親友の良太郎がアキヒコの部屋を訪ねてみると、アキヒコは体だけでなく、精神まで完全に幼女と化しており..。
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朝目が覚めたら女になっていたというのはTSもののテンプレですが、本作の場合は脳の変質によって男のときの記憶を保ちつつも、性格や嗜好が微妙に(一時は完全に)幼女化しているという点がユニーク。そのために他のTSものに比べて一層可愛らしさが強調されています。逆に、四コマ誌連載で主人公が幼女ということもあってエロ要素はほぼ皆無ですが、親友でロリコンの良太郎が幼女化した主人公に振り回されるのは面白い。従妹のJKや教授といった他のキャラも魅力的で、気楽に楽しめるTSものに仕上がっています。しかし、幼女化自体には謎が隠されているようで、その秘密が徐々に明らかになっていく展開も気になるところです。


2020年

ぜんぶきみの性 (浅月のりと)
高校の見学に訪れた中学生の鷺宮了はそこで出会った先輩の水上凪沙に憧れの念を抱く。ところが、トキメキが引き金となって発症する性転換症候群(トランスセクシャルシンドローム/TSS)によって了は男から女になってしまうのだった。慣れないスカートでの生活に悪戦苦闘しながら学生生活を送る了だったが、あるとき凪沙がコスプレカフェに入っていくのを目撃する。気になって扉を開けてみると、ウサ耳をつけた凪沙に迎え入れられる。彼はコスプレカフェのスタッフとして働いていたのだ。しかも、男だと思っていた凪沙が実は生まれながらのTSSで、そのうえ、高校の寮ではTSS同士ということで同室になると聞かされ...。
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コロコロと性別が入れ替わる「らんま1/2』系TSものですが、それに加えて登場人物の多くがLGBT関連の人たちなうえに、ヒロインにいたっては先天性のTSSで本来の性別が不明確というかなりややこしいことになっています。トランスジェンダーの描写が多いために一見いまどきの社会問題に切り込んだテーマ性の強い作品にも見えますが、基本的には軽いノリのラブコメ作品です。絵もきれいですし、なんといっても、主人公とヒロインが男女としてだけでなく、男同士や女同士としての関係性にも焦点が当てられている点がユニーク。「BL漫画から百合漫画へ早変わり!」みたいな面白さがあります。それに加えて、他にも同性カップルなど、さまざまなキャラのカップリングが楽しめます。ジェンダーを扱った恋愛漫画としてはかなりの面白さです。
ぜんぶきみの性 1 (電撃コミックスNEXT)
浅月 のりと
KADOKAWA
2020-08-26


カレとカノジョの選択(緒原博綺)
東京の大学に通っている太刀花和真は、北海道時代の幼なじみ・宮ノ下遥から突然上京するとの報せを受ける。和真にとって遥はイジメから救ってくれたヒーローたった。7年ぶりの再会に胸躍らせて待ち合わせ場所である空港に行ってみるとなぜか金髪の可愛い女の子から声を掛けられる。実は彼女こそが後天性雌雄転換病よって男から女になった遥だったのだ。東京で頼る当てもない遥はしばらくの間、和真の部屋に泊めてほしいと頼むのだが…。
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数あるTSもののなかでも絵の奇麗さは特筆ものです。加えて、男性が女性になってしまったことによる割り切れなさもよく描けています。ヒロインは一見サバサバした性格ながら心の奥底にさまざまな葛藤を抱えており、そのギャップが魅力的です。また、女体化したあとは心も次第に女性化していという設定を盛り込み、そのことでヒロインの葛藤を複雑なものにしていく点も他のTS漫画にはないオリジナリティだといえます。さらに、女体化に伴う生理の問題を真正面から描いてる点も本作ならではです。基本的にはラブコメ作品なのですが、シリアスな問題を随所に散りばめするによって程よい深みを与えることに成功しています。以上のように、TSものとしてなかなかの良作といえる本作ですが、問題はラストの展開です。こういう結末を迎えるのであればもう少し描写を積み重ねる必要があり、不完全燃焼感が半端ありません。全5巻と比較的短い作品であるため、もしかすると打ち切りだった可能性もあります。それによって作者の意図した内容が描き切れなかったのだとすればいささか残念です。


あやかしトライアングル(矢吹健太朗)
高校1年生の風巻祭里は風の術を操って妖を祓う祓忍者の継承者だ。ある日、突如現れた
妖の王・シロガネによって幼馴染の花奏すずが喰われそうになる。祭里は封印術を用いてからくもそれを撃退するものの、封印の間際、シロガネの力によって女性の体にされてしまう。弱体化したシロガネにとどめを刺そうとする祭里だったが、それは二度と男に戻れないことを意味していた。そこで、すずは祭里とシロガネに和解することを提案し、弱体化したシロガネを飼い猫という名目で監視下におくことで問題を先送りにする。こうして、祭里の女性としての新たな生活が始まるのだが......。
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『To Loveる』の矢吹健太朗によるTSものであり、TS主人公を可愛らしく描く画力は圧倒的です。また、主人公以外のキャラクターもみな魅力的で、物語にも安定した面白さがあります。ただ、多くの読者が期待しているであろうエロ描写は『To Loveる』と比べるとかなり控えめであり
(※2022年4月に週刊少年ジャンプから少年ジャンプ+に移籍して以降はエロ描写も大幅強化)、かといって、それ以外に強烈な個性があるわけでもありません。その点については賛否の分かれるところではないでしょうか。とはいえ、漫画としての水準レベルを大きくクリアしているのは間違いないところなので、この手の作品が好きであれば読んで損をしたということはないはずです。


2021年

朝起きたら女の子になっていた男子高校生たちの話 (つむらちた)
男子高校生の佐藤がある日目を覚ますと何故か女の子になっていた。しかも、親友の鈴木と高橋からも突如女の体になったという連絡が届く。とりあえず佐藤の家に集まり、心当たりを話し合ったところ、学校行事で登った勝百合山にある御神体の岩に触れたのが原因ではないかという結論に行き着く。その山の神様は男嫌いであり、祟りによって女にされてしまったというのだ。そこで3人は男に戻る方法を求めて勝百合山に向かうが...。
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TSものというよりはTSをネタにしたギャグ漫画です。そのため、女体化した際の戸惑いや葛藤のような描写はほぼありません。最初から女性ものの服を完璧に着こなし、話もサクサク進みます。TSもののシチュエーションにこだわる人ならその点が物足りないかもしれませんが、絵は可愛いですし、TS初心者でも気軽に楽しめる楽しい作品に仕上がっています。ギャグ漫画としての面白さも申し分ありませんし、特に、自分たちの可愛さを自覚してからの暴走っぷりが最高です。なお、短い話ということもあってか終わり方がちょっと中途半端なきらいがありますが、その辺は同人版の『続・朝起きたら女の子になっていた男子高校生たちの話』によって補完されています。