最新更新日2019/06/28☆☆☆

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2018年に発売されたおすすめライトノベルの内、第1巻のみの限定レビューです。
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多分僕が勇者だけど彼女が怖いから黙っていようと思う(花果唯)
ルークはある日、女神の夢を見る。彼女はルークを勇者と呼び、聖剣と共に旅立つようにいう。しかも、勇者が現れるという神託を受けた聖女が都からやってきて、ルークこそが勇者ではないかとつきまとうのだった。だが、怖くて愛しい幼馴染のために彼は自分が勇者であることをひたすら否定し続ける。その内、神託を聞きつけた魔物までが村に押し寄せてくる。果たして、ルークは幼馴染への愛を貫けるのか?
俺tueee系主人公とツンデレヒロインを組み合わせたラブコメファンタジーです。最初は主人公に対するヒロインの扱いが酷過ぎて若干引いてしまうほどですが、内心では主人公にベタ惚れであることが分かってくると次第に可愛く感じてきます。突然、現れた聖女に嫉妬するところなんかも愛らしい。ギャップ萌えの極致といったところでしょうか。ただ、暴力系ヒロインが苦手という人には少々キツイかもしれません。
同棲から始まるオタク彼女の作りかた(村上凛)
海外赴任でインドに家族が引越す中、オタク文化のない国では暮らせないと、一人日本に残った一ケ谷影虎。彼の当面の目標はオタクに理解のある彼女を作ることだ。そして、意を決して臨んだのが秋葉原で開催されているオタク恋活&友活パーティだった。しかし、そこでオタクとは全く縁のなさそうなクラスメイトのリア充女子・二科心と出くわす。実は彼女はリア充を装った隠れオタクだったのだ。思わぬ出会いにうろたえ、何もできないままにパーティを終えた2人は互いをなじり始める。その揚句、影虎は心に「オタク男子が好む女性像を教える」、心は影虎に「オタク女子が求める理想の男性像を教える」という協定を結ぶことになる。しかも、思わぬ成り行きで2人は同棲を始めることになり.....。
本作は著者のデビュー作である『おまえをオタクにしてやるから、俺をリア充にしてくれ!』と似たような展開をたどります。そのため、非常に既視感の強い作品となっており、新鮮さには欠けています。いがみ合っていた男女が同棲を始めるというのもテンプレ通りです。その代わり、著者が得意とする分野だけあって、安定した面白さを感じさせてくれるのはさすがです。また、作者が女性であるため、女性心理にリアリティを感じさせてくれる点は同系統の他作品にはない魅力だといえるでしょう。しかも、オタク男子の描き方にも女性作者とは思えないうまさがあり、その相乗効果によって高品質のラブコメに仕上がっています。あとは、ここからデビュー作といかに差別化を図っていくのかが注目されるところです。


異種族レビュアーズ えくすたしー・でいず(葉原鉄)
多種多様な種族が混在している異世界の住人は性に対する嗜好もさまざま。それらの需要に応えるため、街にはマニアックなお店が数多く存在している。人間族の冒険者・スタンクはそうした店を巡っては異種族の悪友たちとレビューをし合い、お互いの感性をぶつけ合っていた。そんな彼らがどんな種族のどんな趣味にも応えてくれるという”時を超える召喚士”の噂を耳にする。一行は今まで叶うことのなかった夢のプレイを求めて噂の出所を掴もうとするが.....。
異世界の風俗嬢をクロスレビューするという異色のコンセプトでカルト的な人気を誇るコミックのノベライズ作品です。エロティシズムをテーマにしている作品だけに、小説ではコミックに及ばないのではと思うかもしれませんが、全くそんなことありません。ノベライズの著者がアダルト小説出身なのでこの手の描写はお手のものですし、何よりコミック版と比べてエロ度が格段にアップしているのがうれしいところです。コミック版はあくまでもレビュー自体が話の中心だったわけですが、本作ではプレイシーンもがっつり描写されています。それも、ライトノベルの限界に迫る勢いです。その上、ただのエロ小説に堕することなく物語としての面白さやキャラクターの魅力などもしっかりと表現されており、非常にバランス感覚に優れた作品だといえます。コミック版が好きだという人には特におすすめです。
航空軍士官、冒険者になる(伊藤暖彦)
超空間航行中に正体不明の敵の攻撃を受けた帝国軍の宙航艦は爆散。ただ一人脱出したアランは目前の惑星に不時着するが、そこはアランと同種の人類が繁栄する魔法の世界だった。アランは共生関係にあるナノマシンを駆使して未知の惑星でのサバイバル生活を始めることになる。
なろう小説における異世界転生もののファンタジーな雰囲気を踏襲しつつも、そこにスペースオペラの設定を組み込むことにより、物語に新鮮さを与えることに成功しています。サイエンスとファンタジーの両方の要素を織り交ぜて話が展開していくので、その辺りに独自の味わいがあります。また、主人公とヒロインの文化の違いからくるギャップなどもなかなか楽しく描けており、好感触です。ただ、1巻はまるごとプロローグといった感じなので盛り上がりに欠ける点が弱点だといえるかもしれません。今後の展開に期待したいところです。
航宙軍士官、冒険者になる
伊藤 暖彦
KADOKAWA / エンターブレイン
2018-11-30


Free life Fantasy Online(子日あきすず)
フルダイブ型VRMMORPG「FLFO」を妹からプレゼントされたおっとり美少女JKの琴音。さっそくプレーを始めた彼女が選択した種族はゾンビだった。妹が愛する巨乳は腐り落ち、漂う腐臭のおかげで誰も近寄ってこない。しかし、のんびりマイペースな彼女はコツコツとソロプレーを続けていく。果たしてその先には何が待っているのだろうか?
なろう系ラノベの世界では相変わらず異世界転生ものが人気ですが、本作は命を落とした主人公が異世界で生まれ変わるわけでも、ゲームの世界から抜け出せなくなるわけでもありません。ただ単に日々のプレイ日記を綴っていくだけです。ある意味、ゲームの実況動画をそのまま小説にしたような感じです。そのため、劇的な展開を期待していた人は肩すかしをくらうかもしれません。また、ゲームに関する説明が多いので冗長だと感じる人もいるでしょう。しかし、その反面、世界観や設定が細かいところまでよく考えられており、ゲーム好きの人にとっては非常に興味をそそられる内容となっています。この架空のゲームのことをもっと知りたくなって先へ先へと読み進むことになるのです。さらに、清楚系美少女なのにゲームプレイ中は腐敗ゾンビという主人公のギャップも良い味をだしています。決して派手な展開があるわけではないのですが、癖になる面白さがこの作品にはあります。ちなみに本作は「小説家になろう年間ランキングVR部門」にて第2位に輝いていますが、それも納得の完成度です。


百竜殺しと武器屋の幼女(秋月煌介)
アーヴェイは魔獣殺しと名高い凄腕の冒険者。ただ、魔力がすごすぎるために武器がそれに耐えきれず、頻繁に壊れてしまうという悩みがあった。修理費もバカにならず、生活にも困窮するありさまだ、おまけに目つきが悪く、見た目が怖いので相棒を持つこともできない。そんな折り、アーヴェイは偶然助けた12歳の娘に慕われる。しかも、彼女は武器工房の娘で......。
ヒロインの可愛らしさが印象的ですが、それだけにとどまらず、王道冒険ストーリーとしてしっかり楽しめる出来に仕上がっている点に好感が持てます。遺跡探索のロマンとキャラクターたちの掛け合いによるコメディ、ヒロインの可愛らしさと冒険の緊迫感。そういった要素が絶妙なバランスで配置されているのが見事です。設定周りもしっかりしており、安心して楽しめる佳作だといえます。


予言者の経済学(のらふくろう)
王女アルフィーナは西より災いが訪れるという予言を告げ、国民に危機を訴える。だが、叛逆者の血を引く彼女の言葉に耳を傾けるものはいなかった。一方、この世界に転生してきた経済学部出身のリカルドは行商人の養子になって商売を始めるものの、大商人の妨害に苦しめられていた。そんな彼にアルフィーナは手を差し伸べる。そのことがきっかけでアルフィーナと懇意になったリカルドは予言にあった災厄から王国を守る決意をするが.......。
転生者が前世の知識を活かして活躍する物語ですが、現代兵器を使ってファンタジー世界で無双するといったような単純なものではありません。ファンタジー世界の危機に対して、主人公は現代の経済学で立ち向かおうとします。現実に存在する理論を駆使し、仮説と検証を繰り返して危機に対処しようとするプロセスは非常にスリリングです。しかも、問題解決のプロセスというのが、現実社会でも応用可能に感じるほどに練り込まれているため、読んでいると知的好奇心を刺激されることになります。また、魅力的な世界観といい、伏線回収の手際の良さといい、物語としても完成度の高さを感じさせてくれます。ただ、やたらと専門用語の横文字が出てくる点が鼻につく気がしないでもありません。ともあれ、ミステリーにも似たロジカルな手法はラノベ界に新風を吹き込むものであり、これからの展開が楽しみです。


陰の実力者になりたくて(逢沢大介)
少年が憧れたのは主人公でもラスボスでもなかった。一見目立たないモブでありながら、物語に介入する『陰の実力者』こそが彼の理想だったのだ。そのため、少年は目立たない生活を送りながら、密かに努力を続けていた。だが、それも空しく、交通事故によって少年はあえなく人生を終えてしまう。そして、彼は異世界へと転生し、新たな人生を歩むこととなった。ラッキーとばかりに少年・シドは異世界を舞台に架空の『闇の軍団』を設定し、軍団を倒すべく暗躍ごっこを始める。しかし、その組織は実在していたのだ。やがて、壮絶な勘違いから少女たちがシドの配下となり、彼のために命を賭けて世界の闇と闘うことになるが......。
なろう系主人公というのは世界が自分を中心に回り過ぎていている傾向があります。また、主人公自身も自分の興味のあるものしか見えていないタイプが多いため、読者からすると「コイツはサイコパスなんじゃなかろうか?」と感じてしまう場合も少なくありません。本作の主人公は、まさにそうしたタイプを煮詰めたようなキャラクターです。友人も部下も自分の欲望のために駒のように使っていきます。作品の雰囲気もシリアス感満載で、まともに書くと胸糞悪い話になりそうです。ところが、部下が主人公の考えを勝手に先読みし、あるいは偶然が積み重なって主人公の意図しないところで正義をなされていくのです。そのギャップが笑えます。しかも、文章が読みやすく、テンポもよいのでサクサクと読めるところもグッドです。主人公が好感を持てるタイプではないため、その点は賛否が分かれそうですが、逆転の発想が楽しい一級のエンタメ作品に仕上がっています。
陰の実力者になりたくて! 01
逢沢 大介
KADOKAWA / エンターブレイン
2018-11-05


君は世界災厄の魔女、あるいはひとりぼっちの救世主(大澤めぐみ)
数百年の長きに渡って繰り広げられてきた魔法の国アビエニアと機械の国グランデリニアの戦いは愛を説く新たな教えによって終結する。だが、それから2年。戦争終結2周年を祝う祝典の最中、災厄の魔女マリア=アンナが現れて皇帝を殺害。続いてかつての上司である魔法省長官のライルをも手にかけたアンナは「善き人はすべて殺す」と宣言するのだった。世界そのものを敵に回した姉弟の目指すものとは一体何なのか?
奇しくも最近発売された『名もなき竜に戦場を、穢れなき姫に楽園を』と似たような設定の作品です。しかし、あちらが長き戦いをいかにして終わらすかといった物語なのに対し、こちらはようやく訪れた平和をぶち壊す物語と、見事にベクトルが正反対です。一言でいえば、本作はダークファンタジーということになりますが、主人公サイドが善人たちを無慈悲に殺していくというのはやはりインパクトがあります。しかも、SFや哲学的な要素を孕んでおり、なかなか考えさせられる作品でもあるのです。ストーリー自体もひねりがあり、かなり刺激的な仕上がりになっています。また、救いがないのにどこか落ち着いた感じのラストも印象的です。ただ、王道とは真逆をいく物語なので主人公の行動に納得できるかどうかで賛否がわかれそうではあります。
サラリーマン流 高貴な幼女の護りかた(逆波)
優秀な営業マンである榊平蔵は会社帰りにとある事件に巻き込まれ、謎の組織に襲われる。その際、”刀”を手にしたことで異能力に目覚めるのだった。人ではなくなった平蔵は表社会からその存在を抹消され、陰から日本を守護する組織〝近衛”に入隊する。そして、護衛対象である高貴な一族の一人娘・日桜や近衛の仲間たちとの交流を深めつつ、他国の陰謀に立ち向かうことになるのだが......。
冷静沈着でキレものの主人公が魅力的に描かれ、しかも、さまざまな経験を通して考え方が徐々に変わっていく描写が良くできています。それに対して、11歳のヒロイン・日桜様はひたすら可愛く、平蔵に対してベタベタと甘える反面、包容力も兼ね備えている点に癒されます。一方、バトルものとしては政治や経済の話を挿入して物語に深みを持たせながら、終盤の熱い展開になだれ込んでいく流れがグッドです。また、刀の蘊蓄がかなり出てくるので、刀好きの人なら興味深く読むことができるのではないでしょうか。しっかりと地に足のついた、完成度の高い作品です。


名もなき竜に戦場を、穢れなき姫に楽園を(ミズノアユム)
魔法に長けた魔導王国とテクノロジーの発展した機械帝国。両国は果てのない戦いを続けていた。そんな中、最強と恐れられる両国のエースは不可思議な場所に迷い込み、邂逅を果たす。屍喰竜のクロトと輝動鋭機を駆るために生み出されたロアはお互いの正体を知らないまま、胸に抱いた想いを吐露していくが.....。
科学と魔法が対立する世界を緻密な設定で組み上げており、SFファンタジーとしてかなり読み応えがあります。主人公とヒロインも魅力的で100年戦争をいかに終結に導くかという壮大な物語を1冊でまとめあげた手腕も見事です。ただ、どうしても詰め込み過ぎの部分が出てしまい、終盤が多少駆け足になってしまった印象がなきにしもあらずです。話を膨らませて全3巻か全5巻ぐらいにすれば、さらに面白くなったような気もします。
七つの魔剣が支配する(宇野朴人)
キンバリー魔法学校に今年も新入生たちがやってくる。だが、そこは魔法使いだけではなく、トロールや亜人類たちがひしめく、魑魅魍魎の世界だった。きまぐれに人を呑みこむ地下迷宮に怪物じみた上級生たち。そんな魔境を生き抜くオリバーは日本刀を提げた少女・ナナオと運命の邂逅を果たすが......。
ハリーポッターのような世界観の中に剣戟の要素を組み込んだヒロイックファンタジーです。中盤までは各キャラクターに魅力は感じるものの、物語自体は可もなく不可もなくといった感じです。しかし、後半になると怒涛の展開が始まり、一気に惹きこまれていきます。特に、ラストシーンは絶品です。一見、普通の学園ファンタジーかと思わせてから始まる骨太のドラマには本当に驚かされます。ここから、強大な敵にどう立ち向かっていくのか。2巻の発売が待ち遠しくなる傑作です。
七つの魔剣が支配する (電撃文庫)
宇野 朴人
KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
2018-10-07


俺はアリスを救わないことに決めた(清水苺)
立川誠は誰からも好かれる爽やかなイケメンだが、中学時代は肥満が原因で周囲からイジメを受けていた。そんな彼を救ったのが魅惑的な雰囲気を持つ美少女・遠越有栖だった。だが、彼女は一度救った誠をゴミのようにあっさりと捨てる。有栖は心に淫魔を棲まわせたとんでもない悪女だったのだ。その彼女が再び彼の前に現れる。「また昔のように遊びましょ」と囁く有栖に誠の心はかき乱される。一方、誠によって助けられた純真な少女・葛城りるは有栖に翻弄される誠を救おうとするが......。
主人公と美少女2人の三角関係を描いた一種の恋愛ものですが、初々しい恋愛のドキドキ感や可愛い女の子に囲まれて萌え萌えといった雰囲気は一切ありません。物語は常にダークな空気をまとい、登場人物のほぼ全員が頭おかしいのでまるでホラーのようです。悪女の有栖はもちろん、主人公の誠も純真なはずの葛城りるももれなく狂っています。また、エロ表現の多い作品でもあるのですが、それもサービスシーンなどいったものではなく、ひたすら淫靡で不健康です。とにかく、最初から最後まで悪夢を見ているような作品で、それだけにインパクトは抜群です。読者を選ぶ一方で、一度ハマる抜けだせなくなりそうな倒錯的な魅力があります。
やりすぎた魔神殲滅者の七大罪遊戯(上栖綴人)
天使が降臨したことで異能力者であふれることになった裏吉祥寺。そんな中、実際に異世界に召喚されたことのある小鳥遊士狼はケタ外れの力を身に着けている。背徳のタブーを犯すことで魔神を殲滅し、七つの大罪の力を手に入れたというのだ。彼はその力を背景に、異能グループのトップに立ち、気ままな日々を過ごしていた。しかし、ある日、男たちに追われる少女を助けた際に、誤って「禁断の色欲」を彼女に刻んでしまい.......。
『はぐれ勇者の鬼畜美学』『新妹魔王の契約者』と、2作連続でアニメ化を果たした著者の新作です。その内容はいつものようにバトルとエロスが満載の俺tueeee系ですが、今回は特にやりすぎ感が冴えわたっています。まるで、ブレーキの壊れた暴走トラックのごとくで、続刊ではこれ以上アクセルを踏み込めるのかと心配になるほどです。特に、「千年に一度の委員長」こと鴻崎唯の普段の清楚さと色欲の魔法が発動しているときエロさのギャップがたまりません。3度目のアニメ化は間違いないと思わせるだけのパワーを持つ力作です。

JK堕としの名を持つ男、柏木の王道(永菜葉一)
資産家の令嬢たちが借金返済のために殺し合いをさせられている聖ルルド学園。有栖川グループの社長は学園の悪事を暴くため、一人娘の姫乃を編入させる。そして、自分の部下である柏木啓介を娘の私物としてゲームに参加させるが......。
現在のラノベは哀れな社畜が異世界に転生して俺TUEEEするのが主流となっていますが、本作は現世で社畜のまま、俺TUEEEするのが異色だといえるでしょう。というか、なろう系ラノベ以外ではむしろそれが王道なのかもしれませんが。それはともかく、本作の場合、主人公が社畜ぶりがあまりにも規格外なので共感する以前に笑えてきます。そして、そんな社畜が俺TUEEEするギャップが秀逸なのです。他のキャラも魅力的で、息つく間もない怒涛の展開とマシンガンのように繰り出されるギャグに圧倒されます。エロありバイオレンスありのエンタメ傑作です。


理想の娘なら世界最強でも可愛がってくれますか?(三河ごーすと)
かつて世界を救った英雄・白銀冬真も今は平凡なDランクの主夫。一方、彼の娘である白銀雪奈は魔法騎士学園に最強のSランクとして入学を果たす。娘の成長に涙する冬真だったが、ある日、彼の元に娘と一緒に学園に通うようにとの指令が下り......。
前半から中盤にかけては親バカ主人公とファザコン娘のほのぼのエピソードが続き、心温まる物語を楽しむことができます。ところが、後半になると雰囲気は一変。最初に提示されていた絶望的な設定ー人類は胞子獣に敗れて地下でかろうじて生存圏を確立しているーが前面に押し出されてきます。物語はダークさを増し、話の展開は絶望へと一直線です。この温泉から極寒の雪原に放り出されたような温度差が本作の最大の読みどころであり、同時に、賛否の分かれるポイントでもあります。とりあえずは次巻がどうなるのかが非常に気になるところです。


鏡の国のアイリス-SCP Foundation-(日日日)
主人公は本を開くと必ず女の子の写真が挟まっているという怪奇現象に悩まされていた。ある日、彼は本を開いた瞬間全く見知らぬ空間に飛ばされる。刑務所のような殺風景な場所に立っているのは写真の女の子だった。彼女は、この場所がSCP財団の研究所の中だという。SCP財財団とは自然法則に反した存在や現象を保護・研究する組織だというのだが.....。
2007年のネット上のとある創作に端を発し、今や世界中に広まった創作コミュニティ・SCP財団。本作はその基本設定を題材としたライトノベルです。いってみればクトゥルフ神話の現代版みたいなものですが、SCP財団をあまり知らないという人でも楽しめる点が魅力となっています。SCPとは何かについて解説を交えながら話が進むので、SCPの知識が全くなくても何の問題もありません。むしろ、SCP財団入門のために書かれた作品だといってもよいでしょう。SCP経験者は内容がライトすぎて物足りないかもしれませんが、知らない人にとってはその魅力をわかりやすく教えてくれる良書です。SCP財団に興味がある人は入門書として読んでみるのもよいのではないでしょうか。
脇役艦長の異世界航海記~エンヴィランの海賊騎士~(漂月)
出勤途中の電車に揺られていたはずの俺は気が付くと見知らぬ浜辺にいた。なぜか異世界に飛ばされいたのだ。そこで俺はパラレルワールドの日本から転移してきたAI戦艦シューティングスター号と出会う。言葉の通じない未知の世界を生き抜き、それぞれの日本に戻るために俺たちは協力関係を結ぶことになるが......。
自分を脇役と考えている主人公が意外とと前向きで好感の持てる人物として描かれているのでストレスなしにサクサクと読むことができます。世界観は割となんでもありですが、ポンコツAI少女やペンギン騎士といった魅力的なサブキャラクターたちがうまく物語を牽引していっています。安心して読める冒険活劇の佳作といった感じです。
はじらいサキュバスがドヤ顔かわいい。(旭蓑雄)
三次元女子には何の魅力も感じない二次元オタの男子高校生・ヤス。彼は同人即売会で憧れの絵師・夜美と出会うが、彼女は人の性欲を集めて貪るサキュバスだった。ところが、彼女は男性恐怖症のため、上司から課せられたノルマを達成できないでいた。それで仕方なく、エッチな絵を描いて間接的に男性の性欲を集めていたのだ。そんな彼女は人畜無害なヤスに目をつけ、彼と交際することで男性に慣れようとするが......。
ストーリー自体はテンプレラブコメなのですが、とにかくヒロインの可愛さが尋常ではありません。ドヤ顔・赤面・ポンコツという要素がことごとくキュートでそれだけで押し通したような作品です。したがって、主人公とヒロインの関係にひたすらニヤニヤしながら楽しむべき作品だといえるでしょう。逆にいえば、本当にそれだけの作品なのでキャラが合わなければ厳しいかもしれません。
異世界語入門~転生したけど日本語が通じなかった(Fafs.f.sashimi)
八ケ崎翠は異世界に転生した。目の前には銀髪の美少女がいる。そうなれば、後はチート能力を得てハーレム生活が待っている。誰しもそう思うところだが、なんとこの世界では日本語が通じなかったのだ。翠は慌てて異世界の言語を学習し、銀髪の少女・シャリアとコミュニケーションを取ろうとするが......。
異世界転生ものではスルーされがちな言葉の壁の問題を真正面から描いた異色作品です。ラノベらしい雰囲気は堅持しつつも、未知の国にいきなり放りだされたときにどのようにしてコミュニケーションを取ったり、現地の言語を習得したりすればよいかという問題を真正面から描いています。その切り口がなんともユニークです。また、言語に対する作者の教養の深さが窺え、読者の知的好奇心を刺激する内容になっています。語学習得について興味があるという人には特におすすめの作品です。
僕は何度も生まれ変わる(十文字青)
社畜SEだった僕は交通事故に遭い、29歳でその人生を終えた。だが、異世界で犬頭人と猫耳人のハーフとして転生する。ある日、僕の住んでいた村は戦火に巻き込まれ、お嬢様のミシャトと一緒に逃げる。しかし、帝国軍に追い詰められ、僕たちは崖の下へ飛び込んだ。2度目の死を経験した僕は次に、猟師のギルヒーとして転生する。その後、帝国軍への復讐の念に駆られて反乱軍の志願兵となった僕だったが、帝国の姫将軍・ランゼリカによって3度目の死を経験することになった。そして、蜥蜴人として三度の転生を果たすが.....。
冒頭はしがないサラリーマンが異世界に転生するといった手垢のついた展開でまたかといった感じですが、その後の展開が異色です。転生してもハーレムなど作る暇もなく、100ページも満たない内に5回も転生を繰り返します。しかも、必ず18歳の時に同じ女に殺されるというのが読者の興味を引っ張っていきます。物語の雰囲気もかなりハードで、その辺りも昨今の異世界転生ものに比べると異色だといえるかもしれません。また、1巻の表紙を飾っているのがヒロインではなく、ラスボスというのも珍しいのではないでしょうか。さらに、主人公は決して俺tuee系ではないので非常に泥臭く、しかし、そういったところにも好感が持てたりします。非常に熱く、先の気になるファンタジー戦記ものです。
顔が可愛ければそれで勝ちっ!!バカとメイドの勇者制度攻略法(斉藤ニコ)
姫八学園は自由な校風と豪華な設備、それに「なんでも願いがかなう」とされる勇者制度で知られる学校だ。国立大理は希望に胸を膨らませてその学園に入学するが、彼を待ち受けていたのは築118年のオンボロ男子寮だった。夢の学園生活に暗雲だだよう中、女子寮メイドの東條風花と仲良くなって状況は一変。まさに、これぞ青春と思っていたところに今度は風花が退学になると聞かされる。大理は男子寮の仲間と協力し、勇者制度を使って彼女を救おうとするが.......。
第23回スニーカー賞特別賞受賞作。タイトルや設定からも連想される通り、『バカとテストと召喚獣』を彷彿とさせるドタバタラブコメディです。キャラの個性ががきっちりと描き分けられており、話のテンポもよいので安定した面白さがあります。特に、女の子の可愛らしさや男性キャラの掛け合いの楽しさが特筆すべき点です。一方で、まだまだ掘り下げられていないキャラも多いため、2巻以降の展開も気になるところです。


神アプリ曰く、私たち相思相愛らしいですよ?(真野真央)
凛珠は積極的な性格なのに、幼馴染の翔がデレるとへたれるという悪癖を持っていた。そのせいで、2人の関係は一向に進展しない。コミュニケーションアプリで2人の相性を診断してもわずか1%という結果になってしまうのだ。ついに、幼馴染との仲を諦めた翔は相性アプリを使って新しい恋を探し始めるが......。
現代ならではの小道具を用いた新世代型のラブコメですが、主人公が変にひねくれていなくて真っすぐなキャラなので読んでいて好感が持てます。斜に構えた主人公はもううんざりという人にはおすすめの作品です。また、次々と出てくるヒロインもみなキャラが立っていて魅力的です。特に、ヒロインたちが主人公にアプローチをかける方法がそれぞれ個性的で楽しめます。そんな中でもイチオシなのがヘタレ加減が超可愛い幼馴染でしょうか。ハーレムラノベとしては極めて高いレベルにあり、2巻以降の展開にも大いに期待が持てます。
魔王の処刑人(真島文吉)
歴史が途絶えて久しい魔の島には伝説の不死の水があるという。その伝説に魅せられて今まで多くの探索者がこの島に挑んできた。処刑人サビトガもまた、自らが使える王家のために魔の島に上陸する。そこで、シュトロと名乗る男と出会い、共に宝を探すことになるが....。
メインの話は宝探しなのですが、探索者たちのバックボーンがすさまじく濃厚で、その一つ一つが1冊の本になりそうです。とにかく、登場する男性キャラがみなハードボイルドで、そのエピソードはずしりと読みごたえがあります。その一方で、孤島での生活もリアルに描かれており、そのサバイバル知識にも興味がひかれます。ただ、そういった要素が面白すぎて肝心の宝探しが今一つ盛り上がらないのが気になるところです。その点は2巻以降のお楽しみといったところでしょうか。
魔王の処刑人 1
真島 文吉
主婦の友社
2018-07-02


青春失格男と、ビタースイートキャット(青友一馬)

高校に入学して早々、野田進は清楚系女子の宮村花恋と運命的な出会いを果たす。子猫を助けようとして桜の木から落ちてきた彼女を彼が救ったのだ。しかも、彼女に惚れられ、誰もがうらやむ青春がスタートする。しかし、当の進はその状況を疎ましくさえ感じていた。そんな時、エキセントリックな天才児西條理々が彼の前に現れ、進は彼女との共犯関係に救いを求めようとするが.....。
第30回ファンタジア大賞審査員特別賞受賞作。一般人が思い浮かべる理想の青春というものに違和感を覚えつつもその価値観を完全には捨てきれない進、優しい世界への嫌悪からSM行為に走る理々、進と特別な関係でいたいが故に過激な行動に打って出る花恋と見事に歪んだキャラクターが一同に会し、その歪んだ日常を描いた異色の青春小説です。SMや露出などの過激な描写に目が行きがちですが、この作品で描かれている心の闇は思春期には誰もが持っている部分です。そうした青春時代の閉塞感が多少誇張されつつも、非常にうまく描かれています。青春失格といいながら、逆説的にこれぞ青春といった作品でもあります。ラノベとしては少々展開が地味であり、SMといった要素も読者を選びますが、読んでいてノスタルジックな気分に浸れる良作です。


スカートのなかのひみつ。(宮入裕昴)
女装が趣味の天野翔は大通りでクラスメイトの八坂幸喜真とで出くわす。翔の女装を一発で見抜いた
幸喜真は可愛いと彼を誉め、女装で学校に通学することを勧めるが......。女装アイドルを目指す少年とタイヤ泥棒をする女子高生のたちの物語が交錯するハイテンション青春ストーリー。
第24回電撃文庫大賞最終候補作。破天荒で凄まじい熱量を有した青春群像劇です。特に、主人公の相棒である八坂の熱さと男気にはぐっとくるものがあります。また、他のキャラも魅力的で、さまざまな小道具を用いて彼らの心情を巧みに表現してく技巧が見事です。物語の軸が後半まで見えてこないのでややじれったさを感じるものの、そうした瑕疵は勢いで押し切ってしまうだけのパワーがあります。読み終わった後に爽やかな気分にしてくれる力作です。
スカートのなかのひみつ。 (電撃文庫)
宮入 裕昂
KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
2018-06-09


三角の距離は限りないゼロ(岬鷺宮)
高校2年生の矢野四季は相手が望むキャラクターを演じてしまう悪癖があった。そんな自分に嫌気がさしていたある日、四季は転校生の水瀬秋玻にその悪癖を知られてしまう。
秋玻は四季に対して「人の目など気にせず胸を張っていればいい」と彼の本質を肯定する言葉を告げる。四季は物静かでまっすぐな心を持つ彼女に魅かれていくのを感じたが、実は彼女にも人に言えない秘密があった。なんと彼女は天然でプレッシャーに弱い春珂というもう一つの人格を持つ多重人格者だったのだ。
主人公と2人のヒロインによる三角関係を描いたラブストーリーですが、2人のヒロインというのが同じ肉体を持つ主人格と副人格という設定がユニークです。しかも、そこに主人公の葛藤が加わることで物語に厚みを与えることに成功しています。心理描写も丁寧であり、ストーリー展開もオーソドックスながらも良質です。苦みを感じさせながらも爽やかな読後感といい、極めて完成度の高い青春小説に仕上がっています。
三角の距離は限りないゼロ (電撃文庫)
岬 鷺宮
KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
2018-06-09




乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です。(三嶋与夢)
ある日、階段から転がり落ちて命を落とした俺は異世界で貧乏貴族の三男・リオンとして転生する。ところが、そこは超男尊女卑の乙女ゲーの世界だったのだ。攻略対象のイケメン軍団以外は女性から家畜のように扱われる世界でリオンは虐げられ、挙句の果てに50代の女性と結婚させられそうになる。そこで、一念奮起したリオンは前世で妹にプレイを強要された乙女ゲーの知識を頼りに逆襲に打って出るが......。
ラノベで転生ものといえば、さえない男の主人公が異世界ファンタジーの世界でハーレムを作るか、平凡な女主人公が乙女ゲーの世界でイケメンに取り囲まれるかのどちらかです。たまに、魔王に転生したり、スライムに転生したりという変化球はありますが、セオリーとは真逆の冴えない男が乙女ゲーの世界に転生するというパターンはなかなか珍しいのではないでしょうか。しかも、乙女ゲーのお約束を破ってど外道な手段で成り上がっていく様は痛快ですらあります。「イケメン死すべし」を合言葉に主人公の快進撃がどこまで続くのか、なかなか楽しみなシリーズです。


西野~学内カースト最下位にして異能世界最強の少年~(ぶんころり)
西野は強大な異能力を持つ少年であり、裏社会では凄腕エージェントとして名が売れていた。そして彼自身も仕事一筋で、孤独な生きざま是としてきたのだ。だが、高校2年の文化祭で彼は気づいてしまう。青春の尊さと異性交遊の大切さを。その日から彼は心機一転、生活態度を改めて学内カーストを駆け上がるべく、あの手この手を考えるが.......。
冴えない主人公が実はすごい能力を秘めているといった物語は昔からよくあるパターンです。しかし、本作の場合、日常シーンの空回りぶりが半端なく、それがギャップからくる笑いに繋がっています。一見、俺tueee系ハーレムラノベのように見せかけて実はその真逆をいく異色作です。正直1巻は顔見せの要素が強く、話はほとんど進んでいませんが、これから面白くなってく要素に満ちており、大いに期待したところです。


ちょっぴり年上でも彼女にしてくれますか~好きになったJKは27歳でした~(望公太)
男子校に通う桃田薫は通学途中に痴漢に襲われていた女子高生を助ける。女子高生の名前は織原姫。ふたりは互いに魅かれ合い、交際を始めるが、彼女にはとんでもない秘密があった。織原姫は女子高生ではなく、27歳のOLだったのだ。
高校生の主人公とアラサー巨乳美女との恋愛を描いたラブコメ作品です。ただ、年上といっても包容力のあるお姉さんといったありがちが設定ではありません。ヒロインは主人公より12歳も年上ですが、恋に奥手であるため、あくまでも対等な関係で恋愛が進んでいくところが結構新鮮です。また、単にネタに走ったイロモノ作品というわけでもなく、年の差カップルの難しさを正面から描いている点に好感がもてます。一方で、ヒロインの可愛らしさもこの作品を語る上で欠かせないポイントです。特に、年上だからと主人公をリードしようとして空回りしてしまう辺りは非常に愛らしいものがあります。主人公も一本芯の通った好感の持てる人物として描かれており、読んでいる内に初々しいこの2人を応援したくなるところが本作ならではの持ち味だといえるでしょう。


天才王子の赤字国家再生術~そうだ、売国しよう~(鳥羽徹)
若き王子・ウェインは文武に秀でており、臣下や国民からの信頼も篤かった。だが、優秀であるが故に自国のダメさ加減を誰よりも理解しており、内心ではそんな弱小国の運営を重荷に感じていたのだ。本来怠け者である彼は悠々自適な隠居生活を夢見て売国を目論む。しかし、国を高く売るための工作を弄するたびに、ウェインは自国に想定外の利益をもたらしていく。彼の名声はますます高まり、売国の夢はどんどん遠のいていくばかりだった。
周囲が勘違いして無能な主人公が持ち上げられていくというのはよくあるパターンですが、本作の場合は主人公自体が有能である点がよいアクセントとなっています。有能なのに思惑通りに物事が運ばず、熱狂的に主人公を支持する部下や民衆と内心穏やかでない主人公のギャップが笑えます。また、売国といっても私利私欲だけではなく、自国民の幸せも考えた上での行動なので不快感を抱かずに読むことができるのも本作の美点だといえるでしょう。ヒロインが可愛いのもグッドです。ただ、主人公の目論見は別にして、表面上は順風満帆な国家運営なので、その辺りの展開がゆるすぎると感じる人もいるかもしれません。緊迫感のある展開などにはあまり期待せず、気軽に楽しみたい作品です。


ぼくたちの青春は覇権を取れない。ー昇陽高校アニメーション研究部・活動録ー(有象利路)
昇陽高校アニメーション研究部。それは部とは名ばかりでダラダラとアニメについてしゃべっているだけの場所だった。しかも、部員は2年生のぼくと3年生の部長、副部長の3名だけで新入部員は現在ゼロ。5月の報告会までに最低あと2人部員を集めなければ廃部が決まってしまうのだ。そんな時、ぼくは放課後の教室で不思議な雰囲気を漂わせるクラスメイト・岩根美弥美と遭遇し、彼女が観たいというアニメを探すことになるが......。
本作は第24回電撃大賞最終候補作品。つまり、落選作の拾い上げですが、とてもそうは思えないレベルの高さを感じさせます。まず個性の強いキャラクターの掛け合いが読んでいて楽しく、特に型破りな部長のキャラが非常に魅力的です。一方、物語としては日常ミステリーのような雰囲気の前半部分こそ謎解きに強引な部分が見られたものの、ヒューマンドラマに移行する後半部分からは一気呵成の展開で読者をぐいぐいと引き込んでいきます。新人らしからぬ話の膨らませ方のうまさといい、今後が楽しみな作家です。
ぼくたちの青春は覇権を取れない。 -昇陽高校アニメーション研究部・活動録- (電撃文庫)
有象利路
KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
2018-05-10



ぱすてるぴんく。(悠寐ナギ )

ぼっちの高校生活を送っている軒嶺緋色だったが、ネット上では楢山スモモという女の子と愛を育んでいた。ところが、その彼女がモニター越しではなく、ある日突然目の前に現れたのだ。彼女は愛媛県から引越してきたと言い、彼に対して同居を迫ってくるが....。
冒頭のあらすじと表紙の絵柄から甘々なラブコメを想像していると、意外に重い青春模様が描かれていて驚かされます。確かに基本はラブコメなのですが、その中に思春期特有の痛々しさや苦みがたっぷりと含まれており、両者の程よいバランスが青春グラフティとして絶妙な味わいを形成しているのです。SNSという現代のコミュニケーションツールを巧みに取り入れている点も秀逸で、現代ならでは恋愛模様を活写した佳作に仕上がっています。作者はまだ10代とのことで、そういわれてみればいかにも生まれた時からネットが当たり前にあった世代の作家が書いた作品という感じがします。


海辺の病院で彼女と話したいくつかのこと(石川博品)
一人で山を走るの好きだという孤独な少年・蒼は将来に対する夢もなく、両親との折り合いも悪かった。そんな陰鬱な日常はある日急変する。両親や近所の人たちが全身を金属片で覆われる奇病に侵され命を落としていったのだ。蒼自身もその病気に侵されるが、かろうじて一命をとりとめる。この奇病は魔骸と呼ばれるモンスターが原因らしく、蒼は感染の副産物として魔骸と戦う力を手に入れるのだった。そして、蒼は同様の力を持つ仲間たちと共に、魔骸を駆逐するという「夢」のために壮絶な戦いに身を投じていくが......。
物語の概要としては主人公がある日異形の力を持つという、いかにもありがちな中二バトルですが、悲惨な状況の中で歪な夢のために戦うという設定には胸が締め付けられる思いがします。しかも、すべてが終わってから過去を振り返るという形で語られているため、寂寥感が半端ありません。さらに、血しぶが舞う文字通りの死闘の末に訪れるあまりにも理不尽な終焉。青春時代に多くに人が体験する残酷な現実をファンタジーホラーの形を借りて具現化した読む人の胸に突き刺さる傑作です。
海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと
石川 博品
KADOKAWA / エンターブレイン
2018-04-28


優雅な歌声が最高の復讐である(樹戸英斗)
隼人はU-15 で日本代表に選ばれるほどの有望選手だったが、ケガでサッカーをあきらざるを得なくなってしまう。そして、それ以後ゾンビのように無気力な学生生活を送っていた。そんな時、アメリカで人気シンガーとして一世を風靡し、日本に戻ってきていた歌姫の瑠子が隼人を合唱コンクールの指揮者に指名する。彼女は隼人のことを以前から知っているようだったが......。
少年と少女が出会い、絆を深めながら互いを高め合うという、これぞ王道といった感じのボーイミーツガールストーリーです。序盤は少々展開にもたつきが感じられるものの、中盤以降は怒涛の盛り上がりと共に甘酸っぱいラブストーリーが展開されていきます。今時のライトノベルではめったに見られない真っ向勝負の青春グラフティです。
優雅な歌声が最高の復讐である (電撃文庫)
樹戸 英斗
KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
2018-04-08


放課後の帰宅部探偵(如月新一)
森山深緑は中学時代の反省から高校では部活に打ち込もうと決めていた。だが、部活巡りをしてもどうもピンとくるものがない。そんなとき、隠れ倶楽部があるとの噂を耳にする。調査をしてみるとトラブルメーカーとして有名な2年生の水縞白亜にで出くわし、彼女こそが隠れ倶楽部の部員であることが判明するのだった。白亜は深緑に対して入部テストを出題するが.......。
探偵ものといっても殺人事件などはなく、いわゆる日常の謎を扱った青春ミステリーです。ミステリーとしてはやや軽めで物足りなさを感じるかもしれませんが、キャラが立っており、文章も読みやすいので青春ものとしてはなかなか楽しめる出来に仕上がっています。ツボはきちんと押さえている作品なので2巻以降の飛躍に期待したいところです。
放課後の帰宅部探偵 (SKYHIGH文庫)
如月新一
メディアソフト
2018-04-25


錆喰いビスコ(瘤久保慎司)
錆び風が吹き荒れ、すべてを錆つかせていく終末世界。キノコ狩りの赤星ビスコは師匠を救うため霊薬キノコの”錆喰い”を求めて旅をしていた。その途上で、ビスコは錆対策に奔走する美少年医師の猫柳ミロと出会う。ミロはキノコがサビ対策に有効だという事実を知り、ビスコと共に東北の地を目指すことになるが......。
第24回電撃文庫大賞銀賞受賞作品。電撃レーベルとしては珍しい王道少年漫画的なノリの作品です。また、文章も作風によくマッチしています。平易で情景描写も的確なため、臨場感満点でテンポよく読み進めることができるのです。バトルと冒険の物語は痛快で、しかも、世界観にオリジナリティがあるので思わず引き込まれていきます。エンタメとして非常に優れた作品でああり、今後の展開が楽しみです。
錆喰いビスコ (電撃文庫)
瘤久保 慎司
KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
2018-04-09


特殊性癖教室へようこそ(中西鼎)
就活に失敗した伊藤は祖父のコネでなんとか教員の職を手にするが、彼の受け持ったクラスはなんと、特殊な性癖の持ち主だけが集められた特殊性癖教室だった。しかも彼の役目は生徒たちの特殊性癖を伸ばすことにあるというのだ。
第22回秋スニーカー大賞の特別賞受賞作品です。最近何かと増加の傾向にある角川スニーカー文庫のエロラノベですが、本作はその中でも飛びぬけており、アクセルを踏み切った感があります。まさに本番さえなければなんでもOK状態です。アウトラインはコメディタッチの新人教師奮闘記といった作品なのですが、とにかく主人公が何かアクションを起こすたびに想像を絶するエロい騒動に巻き込まれてカオスな状態に突入していきます。その上、登場人物全員が変態なので頭がクラクラする描写のオンパレードです。激しく読者を選ぶ作品ですが、その勢いと物語の持つ熱量には不思議と魅かれるものがあります。


インスタント・メサイア(田山翔太)
魔族に故郷を滅ぼされた少年は奴隷商人に引き取られ、無気力な青年「ナイン」となっていた。しかし、すべてを諦めたように見える彼の心の奥底には常に暗い復讐の炎が灯り続けている。やがて、殺されるために魔族に買われたナインだったが、彼は巧みに魔族の女たちに取り入って下僕としての地位を手に入れる。そして、復讐を果たすために魔族たちの心を徐々に侵食していくが.......。
おちゃらけた主人公が美女ぞろいの魔族たちに囲まれて過ごす日常描写は一見よくあるハーレムラノベのようです。しかし、その裏では復讐の念に駆られる主人公の狂気やサイコホラーのようなシーンが描写され、そのギャップにクラクラします。また、徐々に精神を病んでいきながらも終盤重大な決断を行う主人公の心理描写も大きな見どころとなっています。読む者に強烈な印象を残すダークファンタジーの傑作です。


クトゥルフ神話 探索者たち 鈴森君の場合(墨の凛)
高校に入学した鈴森はそこで小学時代の同級生・伊吹みのりと再会する。しかし、彼女は深淵研究会というオカルト団体に属しており、明らかに様子が変だった。彼は伊吹を正気に戻すべく研究会の調査に同行するが、そこで見たものは紛れもないクトゥルフ神話の世界そのものだった。しかも、鈴森の頭の中には【判定】というログが常時表示されるという奇妙な能力まで発現し......。
クトゥルフ神話を題材にしたテーブルRPGの世界を忠実に小説という形式に落とし込んだ異色冒険ファンタジーです。しかも、最初はよくある萌えラノベかなと思っていると、クトゥルフ神話の得体のしれない不気味さもしっかり再現されており、かなり原典に忠実だったりします。そのため、クトゥルフ神話やTRPG初心者の入門編としても最適な読み物です。また、TRPGをある程度知っている人にとってはあくまでも小説なのに主人公を自分で操作しているような錯覚に襲われ、より深く感情移入をすることができるでしょう。アイディア先行型の一発ネタ作品のように見えてなかなか読みごたえのある力作です。


英雄の娘として生まれ変わった英雄は再び英雄を目指す(鏑木ハルカ)
英雄レイドは魔神との死闘の末、相打ちとなって果てた。そして、気が付くと彼は赤ん坊になっていた。なんとレイドはかつての仲間である聖女マリアと剣士ライエルの娘として生まれ変わったのだ。両親の才能と前世の記憶を受け継いだレイドは魔法剣士として再び英雄になることを心に誓うが.......。
なろう系によくある転生ものですが、主人公をはじめとしたキャラクターが魅力的なのでぐいぐい引き込まれていきます。また、チートな才能で無双するのではなく、努力によって強くなっていく点も好感が持てます。前世の記憶はあっても虚弱体質のためにそれをうまく活かせないという設定が絶妙のバランスを生み、ストーリーの緊張感を持続させているのもグッドです



ひげを剃る。そして女子高生を拾う。(しめさば)
ずっと片想いをしていた会社の先輩に振られた吉田は、ヤケ酒を飲んだ帰り道に路上でうずくまっている女子高生に出くわす。「ヤラせてあげるから泊めて」という彼女に呆れながらも一夜の宿を提供した吉田だったが、なし崩しの内に二人の同居生活が始まってしまう。26歳のサラリーマンとJKがおりなす日常ラブコメディ。
独身男性の妄想が炸裂したような設定ですが、特にエロいことがあるわけでもなく、物語は主人公とヒロインや同僚たちとの軽妙なやりとりで進んでいきます。一話一話が短くてテンポが良いのでサクサクと読める、肩の凝らない作品となっています。また、登場人物たちはそれぞれ等身大の魅力を持っているため、極端にデフォルメされたラノベキャラに辟易しているという人にはおすすめです。さらに、主人公と上司の後藤さんや後輩の三島との絶妙な距離感も心地よく、今後恋愛模様がどうなっていくのかも気になるところです。


はぐるまどらいぶ。(かばやきだれ)
食堂の看板娘であるアンティは魔法が使えないことにコンプレックスを持っていた。だがついに15歳になり、能力おろしの日を迎える。この儀式を行えば、潜在能力が掘り起こされ、誰でも魔法が使えるようになるのだ。どんな魔法が現れるのかと胸を踊らすアンティだったが、発現したのは前例がなく、何の役に立つのかもわからない「歯車式」というものだった。落ち込むアンティ。しかし、両親に励まされてなぜか冒険物を目指すことに......。
熱血ヒロインによる王道冒険ファンタジーですが、とにかく読みやすい文体を駆使してテンポと勢いで押していくところに独特の心地よさがあります。また、特異な能力と世界観が徐々に掘り下げられていく点がなかなか読み応えありです。さらに、主人公が陽性のキャラクターであるため、作風全体が明るくてからっとしているのも好感が持てます。これからの展開が楽しみな作品です。


俺もおまえもちょろすぎないか(保住圭)
ちょっとでもいいなと感じた女の子には即座に告白しては玉砕を繰り返す高校1年の少年・星井出功。彼はどんなことでも正面から受け止める中学2年の少女・初鹿野つぶらに告白する。そして、ふたりは付き合うことになるが.......。ちょろい二人が出会って始まる青春tラブコメディ。
「ましろ色シンフォニー」など、アダルトゲームのライターとして知られる保住圭氏の初ラノベ作品。いちゃらぶ描写には定評のある保住氏だけに延々と続く交際シーンをダレることなく最後まで描き切っています。ひたすら甘くて可愛らしい作品ですが、そこに至るまでの動機付けがしっかりしているので素直に二人を応援したくなります。とにかく癒されたいという人におすすめの作品です。

俺もおまえもちょろすぎないか【電子特典付き】 (MF文庫J)
保住 圭
KADOKAWA / メディアファクトリー
2018-02-25


最強同士がお見合いした結果(菱川さかく)
対立する2つの国が和平交渉の一環として重要人物同士の見合いを行うことになる。片や最強の剣士アグニス。対するは最強の魔術師レファ。ところが、実際のところ、そのお見合いは互いの最強戦力を自軍に取り込むための謀略の場だったのだ。その上、最強の2人も恋愛に対しては全くのポンコツで会場を焦土に変えながらの膠着状態が続くが.......。
ファンタジーの世界を舞台にしたラブコメ作品ですが、ポンコツキャラ2人による盛大に勘違いした恋の駆け引きが笑えます。キャラクター的にも脳筋の剣士と暴走キャラの魔術師という組み合わせがよいバランスを保っており、最後まで飽きずに読むことができます。また、アグニスの補佐を務める妹キャラとレファの補佐を務める従者キャラも味があって魅力的です。ただし、コメディオンリーの作品というわけでもなく、メインストーリーは結構重めの作品だったりします。かといって、それがコメディの雰囲気を壊すこともなく、絶妙なバランスで両立している点に作者の卓越した手腕が感じられます。
最強同士がお見合いした結果 (GA文庫)
菱川 さかく
SBクリエイティブ
2018-02-16


うちの聖女さまは腹黒すぎだろ。(上野遊)
落ちこぼれのカイが騎士に登用されたと勘違いして辺境の地を訪れてみれば、そこでの仕事は財務顧問として聖女さまの小遣いを稼ぐというものだった。しかも、聖女ローラの命令は温泉を掘れだの飛竜の牙を取ってこいだの無茶なものばかり。果たしてカイは念願の騎士になれるのだろうか?
テンポが良くてそつのないオーソドックスなライトノベルといった感じの作品であり、安心して読むことができる一冊です。ただ、その分、個性に欠ける面は否めませんが、過疎地振興問題をテーマに取り入れている点はなかなか興味深いものがあります。続編があればぜひこのテーマを掘り下げてほしいところです。また、キャラクターも魅力的ではあるのですが、タイトルにもなっている聖女がいうほど腹黒でないのは賛否の分かれるところではないでしょうか。
うちの聖女さまは腹黒すぎだろ。 (電撃文庫)
上野 遊
KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
2018-02-09


高2にタイムリープした俺が、当時好きだった先生に告った結果(ケンノジ)
しがない人生を送るアラサーの俺が、ある日目が覚めると高2の春にタイムリープしていた。人生をやり直せることになり、まず俺がしたのは当時憧れていた先生への告白だった。しかも、これがあっさりとOKをもらえ、俺と先生は晴れてカップルになるが........。
時間を逆行して人生をやり直すというのはこの手の作品では定番のひとつではあるのですが、本作は他の類似作品と比べても飛びぬけて中身がありません。タイムパラドックスのようなSF的テーマはどこにも見当たらず、先生と生徒が恋人関係に陥る背徳感さえ皆無です。タイムリープというのは単に話の枕でしかなく、あとは主人公とヒロインがひたすらイチャイチャするだけです。しかし、これが意外と楽しい作品に仕上がっています。教師である柊木春香の言動がいちいち愛らしく、その可愛らしさで最後まで引っ張っていった感じです。また、1話1話が短い上にテンポが良いので読んでいて全くストレスを感じません。ガッツリと読書をしたいという人には向きませんが、疲れた心を癒したいという人にとってはぴったりの一冊だと言えるでしょう。


魔人の少女を救うもの Goodbye to Fate(西乃りょう)
勇者一行から追放された2流の傭兵ウィズは少女アーロンと出会い、彼女の目的を果たすために共に北を目指す。これは「選ばれなかった少年」と「見放された少女」の決して語られることのない英雄譚......。第9回GA大賞優秀賞受賞作品。
俺tueee系全盛のライトノベル界にあって主人公が普通に弱いというだけで目新しさを感じてしまいます。しかも、ギャグがほとんどなく、ほぼシリアス一辺倒です。今時珍しい正統派ダークファンタジーだと言えるでしょう。これがデビュー作ということもあり、話の作りは少々荒削りなのですが、その分、主人公とヒロインの関係性が丁寧に描かれており、絶望の中であがき続ける主人公の姿も説得力があります。それゆえ、本作は読む者の心を揺さぶり、涙を誘う力作に仕上がっているのです。ぜひその後の物語も読んでみたいと思わせる作品です。
魔人の少女を救うもの Goodbye to Fate (GA文庫)
西乃 リョウ
SBクリエイティブ
2018-01-17


悪徳領主ルドルフの華麗なる日常(増田匠見)

辺境の領主ルドルフは領土を運営する際に悪魔と契約する。悪辣非道な治世を行うことで民の怨嗟の声を集めて悪魔の力の源とし、その力を借りて好き勝手をしようというのだ。ところが、ルドルフが悪事を行うと相手から感謝をされることになる。表と裏の二つの物語が楽しめる技巧に満ちたストーリー。
領主は悪辣非道なことをしているのにその標的からは感謝されてしまうというコメディです。領主とその標的となる相手とのふたつの視点で物語が語られており、視点を変えると同じ行為でも解釈が180度違って見えるというギャップが笑いを生み出しています。基本的に違う視点で同じ物語を繰り返して読むことになるのですが、描き方にメリハリを利かせているので読んでいて飽きがこない点が秀逸です。
悪徳領主ルドルフの華麗なる日常 (アース・スターノベル)
増田 匠見
アース・スター エンターテイメント
2018-01-16


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