最新更新日2016/05/28☆☆☆

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ミステリー小説が誕生して200年近くになりますが、その間に星の数ほどの作品が登場しました。その中から、まずは本格系ミステリーに絞って、主要作品を紹介していきます。

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1841年

モルグ街の殺人(エドガー・アラン・ポー)

世界最初のミステリー小説として認定されている短編小説です。 奇怪な事件、名探偵の論理的な推理、探偵の友人であるワトソン役、意外な犯人といった具合に探偵小説のお約束のすべてがすでに揃っているのは驚きです。ちなみに、世界初の密室殺人も登場しますが、これに関してはあまりにも軽い扱いであるため、一体初の密室とはいかなるものかと意気込んで読むと肩透かしをくらうでしょう。現代のミステリーファンが読むと厳しい面もあるでしょうが、すべてがここから始まったという意味で偉大な作品であることには違いありません。
モルグ街の殺人事件 (岩波少年文庫 (556))
エドガー・アラン・ポー
岩波書店
2002-08-20


1843年

マリー・ロジェの謎(エドガー・アラン・ポー)

モルグ街で提示した推理法を現実の事件にも応用できると考えたポーは、当時話題になっていたメアリー・ロジャース事件をモデルにした小説の連載を始め、名探偵オーギュスト・デュパンにその真相を推理させようとしました。しかし、第1回を雑誌に掲載したところで現実の事件の方で想定外の事実が判明。ポーは慌てて推理に改良を加え事なきを得たものの、なんとも歯切れの悪い作品になってしまいました。意欲的な試みは良かったものの今では失敗作という位置付けになってしまっています。なお、メアリー・ロジャース事件は有力な仮説はあるものの、現在でも迷宮入りのままです。
ポー名作集 (中公文庫)
エドガー・アラン ポー
中央公論新社
2010-07-23


黄金虫(エドガー・アラン・ポー)
正確にいうと本作は冒険小説ですが、暗号の論理的な解法があまりにも見事であるため、現代では短編推理小説の傑作とみなされています。
1844年

おまえが犯人だ(エドガー・アラン・ポー)
20ページほどの短い作品で、ポーの書いたミステリー小説の中ではおそらく最もマイナーな作品でしょう。現代では珍しくもなくなった意外な犯人のパターンと犯人を罠にかけて自白を引き出すというお約束が、本作ではいち早く描かれています。



1845年

盗まれた手紙(エドガー・アラン・ポー)

人間の思考の盲点をついたトリックは本格ミステリの魅力の本質を見事に体現したもので、本作はポーのミステリーの中でも最高傑作に位置付けられています。
盗まれた手紙
エドガー・アラン ポー
2012-09-13


1859年

追いつめられて(チャールズ・ディケンズ)
『クリスマス・キャロル』や『二都物語』で有名な文豪・ディケンズによる短編ミステリー。ディケンズは1853年にも『荒涼館』というミステリー要素を含んだ長編小説を発表していますが、本作は保険金を巡るサスペンスと最後の大逆転が見事な非の打ちどころないミステリー小説の傑作に仕上がっています。
ディケンズ短篇集 (岩波文庫 赤 228-7)
ディケンズ
岩波書店
1986-04-16


1866年

ルルージュ事件(エミール・ガボリオ)
世界初の長編ミステリー小説として認定されている作品。ただ、探偵役による鋭い推理の開示は見られるものの、ミステリー要素は長編一冊を維持できるほどのものではありません。その代わり、物語性は実に豊かで通俗小説(大衆娯楽小説)としては抜群の面白さを誇る作品です。
ルルージュ事件
エミール ガボリオ
国書刊行会
2008-11-01


1868年

月長石(ウイルキー・コリンズ)
忽然と消えた宝石の謎を追う長編ミステリー。かつて『最初にして最長、最良の長編ミステリー』と評されたために以後それがキャッチフレーズになり、誤解されがちですが、実際はルルージュ事件の2年後に発表された作品です。ただ、世界初ではなくても、英国最初の長編ミステリーであることには違いありません。その中身はというと、古典的な伝奇ロマンと近代的な探偵小説の要素が入り混じった過渡期的作品であり、現代読者の目から見るとミステリー的興味は薄く、少々冗長に感じてしまいます。
月長石 (創元推理文庫 109-1)
ウイルキー・コリンズ
東京創元社
1970-01-16


1869年

ルコック探偵
(エミール・ガボリオ)
『ルルーシュ事件』でも脇役で登場した刑事探偵ルコックのひとり立ちの物語。ルコックは、神の如き閃きを持つ名探偵ではなく、足で証拠を集める警察小説の刑事の原点のようなキャラクターとして知られています。ただし、本作はミステリーとしては大した出来ではありません。むしろ、事件が解決した後の犯人による回想ストーリーが面白く、また、事件編と回想編の2部構成は、シャーロック・ホームズの長編小説にも影響を与えています。
ルコック探偵(上)
E・ガボリオ
グーテンベルク21
2013-03-29


1878年

リーヴェン・ワンス事件(アンナ・キャサリン・グリーン)

世界初の女性作家による長編ミステリーとして認定されている作品。ラブロマンスが重要な要素を占める女流らしい作品で、アメリカで100万部の大ベストセラーになりました。トリックやロジックは皆無でストーリー展開の面白さで読者を引っ張っていくタイプの作品です。グリーンはその後も数十冊のミステリー小説を発表していますが、ミステリー要素の薄いキャラクター重視の作品ばかりだったため、今ではすっかり忘れられた作家となっています。
画像データなし

1886年


二輪馬車の秘密(ファーガス・ヒューム)

当時大人気だったガボリオの探偵小説に触発されたイギリス生まれオーストラリア在住の弁護士書記が一大奮起して書き上げた作品で、当時としては空前の50万部を売り上げる大ベストラーとなりました。その後、ヒュームはイギリスに戻り、専業作家として150冊以上の作品を発表しましたが、後世に名を残したのはこの「二輪馬車の秘密」だけです。しかも、肝心の本作でさえ後世の作家や評論家によってガボリオの模造品に過ぎないとケチョンケチョンな評価を受けています。今では完全に忘れられた作家となってしまいました。




1888年

緋色の研究(アーサー・コナン・ドイル)
世紀の名探偵シャーロック・ホームズの記念すべきデビュー作品です。しかし、本作は発売してしばらくは全く話題になりませんでした。内容的にはルコック探偵の影響がみられ、ストーリー半ばで事件を解決した後は、犯人の回想による因縁話になっています。1890年

四つの署名(アーサー・コナン・ドイル)

シャーロック・ホームズ長編第2弾。この辺りでホームズの名も有名になってきます。緋色の研究と同じくミステリー部分は前半だけで、後半は犯人の回想が続きます。現代の目から見ればミステリー要素は薄く、冒険小説に近い作品です。



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