最新更新日2018/01/15☆☆☆

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モナドの領域(筒井康隆)
土手で女性の腕が発見された事件から物語は始まり、その一方で、アートベーカリーではリアルな腕の形をしたパンを作られ、評判となっていた。さらに、それを購入した結野教授は不思議な力を発揮し、人々に対して、自分が全知であることを証明していく。やがて、結野はGODと呼ばれるようになり、世間の注目を浴び、傷害罪で捕まる。そして、舞台はj法廷へと移り、宗教や哲学を巡る大論戦へと発展していく。
筒井康隆氏最後の長編と謳っているだけあって、随所に過去の作品を想起させるようなキーワードが散りばめられており、集大成的な作品に仕上がっています。ミステリー風に始まった思えば、いつの間にか思弁と暴走の渦に巻き込まれていくのもいつもの筒井節で、長年のファンは味わい深く読むことができるでしょう。なお、冒頭の殺人事件もちゃんとオチがつきますが、ミステリーとしては薄味です。
2017年版SFが読みたい!国内部門6位
モナドの領域
筒井 康隆
新潮社
2015-12-03


世界の涯ての夏(つがいまこと)
巨大化する異次元が地球を侵食し、人類はゆっくりと滅亡へ向かっていた。侵食の影響を逃れ、離島へと疎開していた少年は、そこでひとりの少女と出会う。おだやかな絶望が世界を包み込む中、ふたりはさまざまな体験をし、思い出を重ねていく。
切なくて、どこか懐かしさを感じさせるジュブナイルのようなSF小説。SFあるいはボーイミーツガールの物語と夏の風景は相性がよいと言われますが、その見本のような作品です。

絞首台の黙示録(神林長平)
作家のぼくは、音信不通の父の安否を確認するために新潟の実家を訪れるもそこに父はおらず、代わりにぼくと同じ名を名乗るぼくそっくりの男が訪ねてくる。ぼくには同音異字の「たくみ」という生後3カ月で亡くなった双子の兄がいたのだが、彼は育ての親を殺して死刑になったからここに来たと言う。
著者が長年追い続けた意識とは何かというテーマを徹底して追求した思弁に満ちた物語。ストーリーの流れからホラー的な展開を期待すると肩透かしを覚えますが、常に認識を揺さぶり続けるような独創性の高い小説の形態は非常に興味深いものがあります。普通の小説では物足りなくなったという人にはおすすめです。ただ、この作品を味わいつくすにはかなりの体力を必要とするでしょう。
エピローグ(円城塔)
別の宇宙で起こった別の殺人事件。互いの関連性はないように見えたが、グラビト刑事はその裏にイグジステンス社が潜んでいることを感知する。その会社は、『実存』を商品にする宇宙間企業だった。宇宙と物語の根源について語る円城ワールドの集大成。
物語自体をテーマにしたメタフィクションで、錯綜と逸脱を繰り返すストーリーの中には著者の思想がぎっしりと詰まっています。円城塔の最高傑作との声もありますが、その難解さは完全に一見さんお断りでの世界です。円城塔初挑戦の方は、まず、デビュー作辺りから読むことをおすすめします。
2016年版SFが読みたい!国内部門1位
エピローグ (ハヤカワ文庫JA)
円城 塔
早川書房
2018-02-08


シャッフル航法(円城塔)
観測する者によってその姿を大きく変える「内在的宇宙」、宇宙の食通たちを唸らせる絶品料理の逸話が秀逸な「イグノラムス・イグノラビムス」、宇宙の収縮を文字の減少で表現した「φ」など、言葉の魔術師が紡ぐ10の短編。
難解と言われる円城塔の作品ですが、本作は短めの短編なので挫折する前に読み終えることができます。文章も著者の作品としてはかなり読みやすく、入門編にはぴったりなのではないでしょうか。
2016年版SFが読みたい!国内部門10位
シャッフル航法 (河出文庫)
円城塔
河出書房新社
2018-09-05


コロンビア・ゼロ:新・航空宇宙軍史(谷甲州)
第一次外惑星動乱が終結して数十年。宇宙は新たなる動乱の予感に震えていた。第二次外惑星動乱に至るまでの経緯を7つの短編にまとめた航空宇宙軍史シリーズ22年ぶりの新刊。
硬質な文体が冷え冷えとした宇宙空間にマッチするハードSFの極北。リアリティ溢れる科学考証は健在で、SFファンにとってはうれしいかぎりです。しかし、物語としては、あまりにも淡々としすぎているのでSF初心者には少々厳しいものがあります。
2016年版SFが読みたい!国内部門5位
第36回日本SF大賞受賞
エクソダス症候群(宮内悠介)
強烈な脱出衝動に襲われるエクソダス症候群。なぜこの病が火星に蔓延しているのか?精神医療史の中に人間の狂気の本質を問うSFサスペンス。
火星が舞台ということでストレートなあSFを期待すると肩すかしをくらうかもしれません。これはどちらかというと、精神医療史をテーマとした医療サスペンスです。時代と共に狂気の定義が変わっていき、その事実を突き詰めることで正常と異常の境界線がどんどん曖昧になっていく物語は実にスリリングです。ただ、精神医療史にページを割きすぎたせいか、物語の掘り下げが浅く感じる点は賛否がわかれるところでしょう。
2016年版SFが読みたい!国内部門3位

エクソダス症候群 (創元SF文庫)
宮内 悠介
東京創元社
2017-07-20


月世界小説(牧野修)
修介は友人とパレードに出掛け、そこで自分がゲイであることを告白する。ところが、その瞬間、空には荘厳なサウンドが鳴り響き、天使が舞う中、世界は滅んでしまう。修介はその崩壊から逃れるために妄想の月世界へと旅立つが....。

何重もの入れ子細工で構成されたパラレルワールドを巡る冒険譚。とにかくイメージの喚起力が素晴らしく、その中で描かれる神と人類の戦いは言語による視覚表現の限界に挑戦したものだと言えるでしょう。あまりにも壮大な物語なので途中で空中分解を起こすのではないかと心配になりますが、イメージの奔流に押し流されることなく、科学理論なども交えてきちんと着地を決めたところも好印象です。読者にドライブ感を与える言語SFの傑作です。
2016年版SFが読みたい!国内部門2位
第36回SF大賞特別賞受賞
月世界小説 (ハヤカワ文庫JA)
牧野 修
早川書房
2015-07-08


波の手紙が響くとき(オキシタケヒコ)
武佐音響研究所に持ち込まれる音に関する難事件。その謎に挑むのは、所長の佐敷祐一郎、音響技術者の武藤富士伸、雑用係の鍋島カリンの3人。独自の世界観に基づいて描かれる連作SFミステリー。
巧みな文章と個性的かつ魅力的なキャラクターによって物語に引き込んでいくエンタメSFの傑作です。最初はSF要素のあるミステリーといった感じですが、それが最後には宇宙的スケールの壮大なハードSFへと変貌する大胆な構成にも思わず引き込まれていきました。SFに関する説明は少々難解ですが、それが理解できなくても十分楽しめる作品です。
2016年版SFが読みたい!国内部門8位
怨讐星域(梶尾真治)
太陽フレアの膨張によって地球が滅亡することが判明。選ばれた3万人の人々は大統領と共に移住惑星へと旅立つ。見捨てられた人々は星間転移の新たな技術を発明 決死の脱出を図るが、成功したのはわずかな人々だった。先に移住惑星に着いた星間転移の生き残り。数百年後にやってくる人類を見捨てた人々の子孫。ふたつのグループの邂逅は何をもたらすのか? 数世代にわたる人類の苦難を描いた一大叙事詩 。
壮大なスケールで描いたSF大河ドラマは読み応え十分。二つのグループに分かれて世代を重ねていく人類のコントラストが印象的です。ただ、ラストはきれいにまとめているものの、あっさりとしすぎてその辺りに物足りなさを感じるかもしれません。
2016年版SFが読みたい!国内部門4位
第47回星雲賞受賞 


アンダーグラウンド・マーケット(藤井太洋)
東京オリンピックを控えての移民自由化に伴い、経済格差が広がった結果、表の経済とは独立した仮想マネーが貧困層に普及していた。しかし、その二重経済体制を揺るがしかねない事件が勃発する。
舞台となる2018年までに日本がここまで極端に変化するのかという疑問はありますが、そこに目をつぶれば、世界観そのもは、近未来SFとしてリアリティあふれるものであり、かなり魅力的です。ITや経済に興味がある人ならより楽しむことができるでしょう。物語にもスピード感があり、一級の娯楽小説に仕上がっています。
アンダーグラウンド・マーケット (朝日文庫)
藤井太洋
朝日新聞出版
2016-07-07


母になる、石の礫で(倉田タカシ)
3Dプリンタが驚異的に進化し、建築物から料理まで出力できるようになった世界。その3Dプリンタを用いて禁断の実験を行うために12人の科学者は地球を脱出し、小惑星帯の中にコロニーを建設する。さらに、そこで誕生した新世代はコロニーを離れて巣を建設する。ある時、地球から巨大な建造物が近づき、それがきっかけで彼らの間にくすぶっていた確執が再燃する。
第2回ハヤカワSFコンテストの最終候補作品。3Dプリントでさまざまなものを作りだすという発想が秀逸。膨大なアイディアは少々難解であるものの非常に読み応えがあります。ただ、物語としてメリハリに書け、こじんまりとしすぎている点は残念。
2016年版SFが読みたい!国内部門6位


有頂天家族 二代目の帰朝(森見登見彦)
人に紛れて狸が暮らす街に、天狗の跡継ぎが英国から帰国することによて騒ぎに発展していく。テレビアニメにもなった『有頂天家族』の続編。
笑いあり、涙ありの傑作ファンタジー。多くのキャラクターが登場しますが皆活躍の場を与えられ、特に女性陣が魅力的です。また、独特の文章もユニークで、どこまでも物語に引き込まれていきます。大ボリュームの作品ですが、飽きるということがありません。逆に、いつまでも読んでいたいという気にさせてくれます。
図書館の魔女 烏の伝言(高田大介)
地方官僚の姫君を守りながら霧深い道を行く近衛兵の一行。陰謀渦巻く地で道案内を行う剛力たち。その中に、顔に大きな傷を負い、鳥たちと意思を通じ合える鳥飼のエゴンがいた。
メフィスト賞受賞作、『図書館の魔女』から主要人物を入れ替えて描く、外伝的ストーリー。

 言葉を鍵にして紡ぎ上げた精緻な世界観の中で、魅力的なキャラクターが躍動する異世界ファンタジー。前作から主要人物が入れ替わった本作においても、その魅力はそのまま引き継がれています。前作での政治的駆け引きは後退し、王道的冒険譚に重きを置いていますが、作品としての魅力はいささかも衰えていません。言葉を手掛かりにして、謎を解き明かしていく面白さも一級品です。さらに、終盤になって前作のヒロインであるマツリカが登場するのはファンにとっては嬉しいところでしょう。
うどん、キツネつきの(高山羽根子)
パチンコ屋の屋根の上で拾った奇妙な犬を飼育する3姉妹、おんぼろアパートで暮らす多言語の住人たちの日々、15人の姉妹が暮らす無人島での異変など、5つの短編からなる日本SF大賞候補作。
SF小説というよりは日常の中に奇妙なシチュエーションを紛れ込ませた不条理小説です。ほのぼのとした雰囲気の中でじわじわと忍びよる怖さがあるのが持ち味でしょうか。ただ、想像力の斜め上をいく展開が多く、読者としての資質を試される作品でもあります。物語に明確な意味や答えを求める人には向いていないかもしれません。その反面、物語の向こうにあるものを見据えながら、イマジネーションを膨らませることができる人には最高の読み物となりうる可能性がある作品です。
2016年版SFが読みたい!国内部門7位
うどん キツネつきの (創元SF文庫)
高山 羽根子
東京創元社
2016-11-19


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