最新更新日2021/11/03☆☆☆

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このミス2021
対象作品である2019年11月1日~2020年10月31日(今年から9月30日までに変更)発売のミステリー&エンターテイメント作品の中からベスト20の順位を予想していきます。ただし、あくまでも個人的予想であり、順位を保証するものではありません。また、予想は作家の知名度や人気、ジャンルや作風、話題性などを考慮したうえで票が集まりそうな作品の順に並べたものであり、必ずしも予想順位が高い作品ほど優れているというわけでもありません。以上の点はあらかじめご了承ください。
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このミステリーがすごい!国内版最終予想(2020 年11月16日)

※※※※※※※※※※※※※※
記載方法は以下のようになっています。
予想順位.タイトル(作者名)このミスの順位(文春の順位 読みたいの順位 本ミスの順位
ただし、「→このミスの順位(文春の順位 読みたいの順位 本ミスの順位 の部分が記載されているのは予想ランキングあるいはこのミスで20位以内のものだけです。
なお、文春、 読みたい、本ミスはそれぞれ「週刊文春ミステリーベスト10」「ミステリが読みたい!」「本格ミステリ・ベスト10」の略です。
※※※※※※※※※※※※※

1位.暴虎の牙(柚月裕子)※ランク外(文春10位
昭和57年の広島。愚連隊”呉寅会”を率いる沖虎彦はその圧倒的な暴力とカリスマ性によって勢力を伸ばし、暴力団との全面対決を迎えようとしていた。虎彦を止めようと奔走する大上刑事。そして、平成16年。懲役刑を終えた虎彦が再び動き始め、そんな彼に大上の愛弟子である日岡刑事が接近する....。
孤狼の血シリーズ3部作の完結編で、1作目で退場した大上の活躍が再び描かれているのがうれしいところです。凶暴な虎彦のキャラにもインパクトがあり、掉尾を飾るに相応しい力作に仕上がっています。
暴虎の牙 上 (角川文庫)
柚月裕子
KADOKAWA
2023-01-24


2位.暗約領域 新宿鮫(大沢在昌)9位読みたい16
ヤクザや犯罪者から新宿鮫と恐れられている新宿署刑事、鮫島。しかし、その彼も恋人の晶と後ろ盾だった桃井課長を失い、心に虚しさを抱えていた。そんな折、ヤミ民泊で身元不明の射殺死体が発見され.......。
人気シリーズの8年ぶりの新作。レギュラー陣を一新しながらもパワフルな読みごたえは相変わらずです。ただ、多視点による反復描写が多くて冗長に感じまう面もあり。
3位.不穏な眠り(若竹七海)10
終活の一環として蔵書の処分を葉村に依頼した藤本サツキは、さらに、親友の娘、田上遥香が出所するので刑務所から自分のところに連れてきてほしいという。言われた通りにする葉村だったが、サツキの家に向かう途中で遥香が拉致されてしまい.......。
葉村晶シリーズ第7弾。簡単な依頼のはずが命がけの仕事にというネタが続きますが、その黄金パターンが独特の魅力を醸し出しています。特に『水沫隠れの日々』は意表をついた展開が見事な傑作です。
不穏な眠り (文春文庫)
若竹 七海
文藝春秋
2019-12-05


4位.アンダードッグス(長浦京)5位読みたい11
1996年末。元官僚の証券マン、古葉慶太は大富豪のマッシモからある計画を託される。それは中国返還を目前に控えた香港に飛び、国家機密を奪還せよというものだった。しかし、その計画は各国の諜報機関に狙われており、肝心の仲間は自分を含めてみな負け犬揃い。果たして、計画の行方は?
敵味方の区別もつかないなかで、英米露中のエージェントたちが入り乱れ、二転三転する展開はテンポが良くて読み応え満点です。特に、終盤に繰り広げられる怒涛のアクションシーンは手に汗握ります。
アンダードッグス (角川文庫)
長浦 京
KADOKAWA
2023-09-22


5位.奈落で踊れ(月村了衛)※ランク外
1998年。銀行との癒着が明らかになったノーパンすき焼き事件により、大蔵省は設立以来最大の危機に直面していた。そんな中、銀行から接待を受けていたメンバーは変人として知られる香良洲にスキャンダル逃れを依頼する。香良洲は政財官界の顧客リストを入手すべく、神庭絵里に調査を依頼するが.....。
有名事件をモデルにしたピカレスクロマン。とにかく、主人公を始めとする登場人物たちが魅力的でぐいぐい引き込まれていきます。散りばめられた伏線を回収してきれいに着地を決める構成も見事です。
奈落で踊れ (朝日文庫)
月村 了衛
朝日新聞出版
2024-01-10


6位.法廷遊戯(五十嵐律人)3位(文春4位 読みたい4位 本ミス9位
法曹の道を目指す久我清義と織本美鈴は過去を告白する差出人不明の手紙に悩まされていた。しかも、彼らの周囲では不可解な事件が起こり始める。清水はロースクールの仲間で異端の天才である結城馨に相談を持ちかける。やがて殺人が発生し、さらに時は流れ......。
第62回メフィスト賞。学生時代の疑似裁判と本物の裁判の2部構成になっており、前者に張り巡らされた伏線が後者の二転三転する展開につながる構成が素晴らしい。衝撃と感動のリーガルサスペンス。
法廷遊戯 (講談社文庫)
五十嵐 律人
講談社
2023-04-14


7位.死神の棋譜(奥泉光)12(文春6位 読みたい6位
名人戦が行われていた2011年5月のとある日に、奨励会三段の夏尾は鳩森神社の将棋堂に刺さっている矢文を見つける。そこには絶対に玉が詰まない詰将棋、いわゆる不詰めの図式が記されていた。その翌日、夏尾は消息を絶つ。将棋ライターの私は20年前に起きた同様の事件との関連を調べ始めるが......。
現実と幻想の境界が曖昧になってくるいつもの奥泉作品ですが、イマジネーションの豊かさにぐいぐいと惹き込まれていきます。ただ、壮大な謎に比べて肩透かし気味のラストは賛否が分かれるところ。
死神の棋譜 (新潮文庫)
奥泉 光
新潮社
2023-02-25


8位.汚れた手をそこで拭かない(芦沢央)※ランク外(文春5位 読みたい17位 本ミス14
ある小学校の教師が夏休みの当直の日に、うっかりプールの水を抜いてしまう。発覚すれば責任問題であるし、水道代は税金で賄われているので弁済ということにもなりかねない。煩悶したあげく、彼は事実を隠蔽する決意をするが......。
5編収録の短編集です。自分の犯した小さな罪をその場しのぎの方法で誤魔化そうとしてどんどん深みに嵌っていくさまが巧みに描かれています。なかでも、ヒネリのある展開の『埋め合わせ』が秀逸。
9位.暗鬼夜行(月村了衛)※ランク外
読者感想文コンクール優勝者、藪門三枝子に盗作疑惑が持ち上がる。当初は悪質なデマ程度に思われていた騒ぎは、次第に教師、親族、地方政治家を巻き込んだ大騒動へと発展していく。国語教師の汐野悠紀夫は盗作疑惑の虚実を検証しながら噂を流した犯人を探っていくが........。
教育現場の闇を描いた学園サスペンスです。人間の悪意をえぐり出す内容でイヤミスとして読み応えがあります。特に終盤の怒涛の展開が秀逸です。ただ、後味の悪い結末は賛否が分かれるかも。
暗鬼夜行 (毎日文庫)
月村 了衛
毎日新聞出版
2023-05-01


10位.楽園とは探偵の不在なり(斜線堂有紀)6位(文春3位 読みたい2位 本ミス4
2人以上を殺害した人間は天使によって地獄に引きずり込まれる世界。探偵の青岸焦は「天国が存在するか知りたくないか?」という大富豪の言葉に釣られて、孤島を訪れる。そこで、彼を待ち受けていたのは起こり得るはずのない連続殺人だった。一体犯人はいかにして地獄行きを回避しているのか?
数ある特殊設定ミステリーの中でも終末感漂う本作の世界観はとびきり魅力的です。天使の出現による社会の変容も興味深いものがありますし、ファンタジー設定とトリックの絡め方も秀逸です。
楽園とは探偵の不在なり (ハヤカワ文庫JA)
斜線堂 有紀
早川書房
2022-11-16


11位.インビジブル(坂上泉)※ランク外
1954年。大阪城近くにある不法占拠民の部落で議員秘書が何者かに刺殺される。続いて右翼団体幹部の轢死死体も発見されるに至り、事件は連続猟奇殺人の様相をみせる。そんななか、若手刑事の新城は国警から派遣された警察官僚の守屋とコンビを組まされる。当初衝突を繰り返していた2人だったが......。
平成生まれの作家にも関わらず、戦後の大阪をリアルに描いた描写力が見事。警察小説やバディものの魅力をきちんと押さえつつ、戦後の闇を浮かび上がらせる手管には熟練の味さえ感じさせてくれます。
インビジブル (文春文庫)
坂上 泉
文藝春秋
2023-07-05


12位.ワトソン力(大山誠一郎)※ランク外(文春8位 本ミス6
目立った実績もないのになぜか警視庁捜査一課の刑事に収まっている和戸栄志。実は彼には半径20メートル以内にいる人間の推理力を飛躍的に高める特殊能力があったのだ。そのため、吹雪の山荘でも絶海の孤島でも周囲にいる事件関係者たちが勝手に推理を始め、解決の道筋をつけてくれるのだが.....。
7作品収録の連作短編。主人公の能力故にすぐに推理合戦が始まり、勝手に事件が解決されていくのが楽しい。しかも、推理力が高まっても必ずしも正解を出すと限らない点が面白さにつながっています。
ワトソン力(りょく)
大山 誠一郎
光文社
2020-09-16


13位.透明人間は密室に潜む(阿津川辰海)2位(文春2位 読みたい3位 本ミス1
透明人間になる病気が蔓延した世界で、ある人物が大学教授の殺害を計画。透明の状態で研究室に忍び込み、教授を殺してしまう。だが、その直後に状況を理解した探偵が研究室を封鎖する。果たして探偵は、見えない犯人をいかにして捕まえようというのだろうか?
4篇が収録された著者初の短編集。それぞれ雰囲気の全く異なる作風ながらも、緻密な設定で世界観を作り込んでいる点が共通しています。そして、その特殊設定を前提としたロジカルな推理が見事です。
透明人間は密室に潜む (光文社文庫)
阿津川 辰海
光文社
2022-09-13


14位.囚われの山(伊東潤)※ランク外
歴史雑誌の特集で「八甲田山雪中行軍遭難事件」を担当することになった菅原誠一は調べを進めていくうちに、遭難死した兵士の数が資料によって異なっている事実に気づく。青森に取材に訪れた菅原は病死した稲田庸三一等卒に注目し、彼の足跡を追って八甲田山に足を踏み入れるが......。
歴史小説の大家として知られる著者によるミステリー作品です。有名な遭難事件の悲惨さを改めて浮き彫りにすると同時に、そこからさらにヒネリを効かせて意外な真相を導き出す手管が見事です。
囚われの山 (中公文庫 い 132-5)
伊東 潤
中央公論新社
2023-05-25


15位.蝉かえる(櫻田智也)11位(文春10位 読みたい9位 本ミス2
昆虫オタクの魞沢泉は山形盆地の端に位置する御隠の森を訪れ、そこで出会った男から、16年前の災害ボランティアの最中に目撃したという少女の幽霊の話を聞かされる。神域と呼ばれる森で起きた不思議な出来事だが、魞沢の推理によって導き出された真相は意外なものだった。
全5作からなる連作ミステリーの第2弾。昆虫絡み事件を紐解く精緻なロジックととぼけたユーモアがウリの作品ですが、それに加えて、人の心に寄り添った情感豊かなドラマも読み応えがあります。
蝉かえる (創元推理文庫)
櫻田智也
東京創元社
2023-02-13


16位.プロジェクト・インソムニア(結城真一郎)※ランク外(文春20位 本ミス17
極秘プロジェクト・インソムニアの実験を行うべく新興企業ソムニウム社に7人の老若男女が集められた。彼らはみな心に傷を負った者たちであるが故に、実験で見せられた幸福な夢の世界に魅了されていく。だが、夢で死ぬと現実でも死んでしまう事実が明らかになり、幸福な夢は一転悪夢へと変わる....。
◆◆◆◆◆◆
夢か現実か判然としない世界での連続殺人を描いた『クラインの壺』を彷彿させる作品ですが、あくまでも本格ミステリとしてロジカルにハウダニットやホワイダニットを追及している点が秀逸です。
17位.巴里マカロンの謎(米澤穂信)19位(文春16位 読みたい10位 本ミス14
3つしか注文できないはずなのになぜ4つめのマカロンが皿に載っているのか?当たり入りの揚げパンを食べた人物はなぜ名乗り出ないのか?飲酒の濡れ衣を着せた犯人は一体誰なのか?さまざまな謎に対して小市民コンビは推理を巡らすが.......。
11年ぶりの小市民シリーズ4弾。著者の青春ミステリーといえば結末のほろ苦さが一種のウリなのですが、本作はいつも以上にコメディ色が強く、気楽に読める青春小説としてよくできています。
巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社
2020-01-30


18位.Another2001(綾辻行人)3位(文春7位 読みたい5位
”現象”によって多くの犠牲者を出してから3年。1998年の災厄の最中に見﨑鳴と出会った比良塚想は自身も夜見山北中学の3年3組に進級することになる。このクラスでは現象に備えて特別な対策を講じていたが、イレギュラーな出来事によって歯車が狂ってしまう。そして、ついに惨劇の幕は開かれ........。
前作を読んでいないとわかりずらい部分はあるものの、リーダビリティの高さはかなりのもので、800近いページを一気に読んでしまえる面白さがあります。ただ、ミステリー部分に関してはやや薄味。
Another 2001(上) (角川文庫)
綾辻 行人
KADOKAWA
2023-06-13


19位.日没(桐野夏生)※ランク外(文春16位
小説家のマッツ夢井の元に「文化文芸倫理向上委員会」を名乗る政府組織から召喚状が届く。出向いた彼女は海辺の絶壁に建つ海辺の療養所へと収納される。そして、著作の表現内容に問題があるとの訴えがあったことを理由に、療養所の所長から社会に適応した作品を書けと命じられるのだが.......。
昨今の世界的風潮ともいえる表現の不自由さをテーマにした風刺小説です。しかも権力側を糾弾するだけでなく、作家側の偽善性もあぶり出してしている点にブラックユーモアとしての秀逸さがあります。
日没
桐野 夏生
岩波書店
2020-09-30


20位.海神の島(池上永一)※ランク外
妖艶な色気で男を翻弄する銀座ママの汀、新進気鋭の水中考古学者として名を馳せる泉、地下アイドルの澪。沖縄で生まれ育った花城三姉妹にある日、遺産相続の話が持ち上がった。相続の条件は曽祖父が発見したという海神の宝を見付けだすこと。こうして三姉妹によるお宝争奪戦が始まるが.......。
三姉妹のキャラが強烈で、彼女たちがお宝争奪のために駆け回る物語には勢いがあり、肩の凝らないエンタメ作品に仕上がっています。そこに沖縄問題を絡ませるテーマ性とのバランスもいい感じです。
海神の島 (中公文庫 い 140-1)
池上 永一
中央公論新社
2023-06-22



その他注目作品50

21.罪人の選択(貴志祐介)
1946年夏。礒部武雄は佐久間茂に捕えられ、防空壕のなかで処断されようとしていた。佐久間が戦地に行っている間に礒部が彼の妻を寝取ったからだ。佐久間は礒部の前に缶詰と一升瓶を置き、どちらかを口にしろと強要する。片方には猛毒が入っており、もう片方を選べば生き残れるというのだが.......。
4篇の収録の短編集。なかでも命がけの心理戦を描いた表題作がサスペンスフルで秀逸です。他の3篇はSF小説で、なかなかの佳品ですが、『夜の記憶』だけはデビュー前の作品だけあって少々荒削り。
罪人の選択 (文春文庫 き 35-4)
貴志 祐介
文藝春秋
2022-11-08


22.ワン・モア・ヌーク(藤井太洋)
一本の動画によって日本中が騒然となる。それは、2020年の3月11日の午前零時に東京のどこかで核爆弾を爆発させるという犯行予告だった。テロリストを追うIAEA(国際原子力機関)と警察組織、そして犯人グループの思惑が絡み合い、事態は二転三転していくが.......。
一見絵空事に思える物語を豊富な科学的知識を交えてリアリティ豊かに描く一級のサスペンス小説です。今日的な重いテーマを扱いつつも極上のエンタメ作品に仕上げる手腕にうならされます。
ワン・モア・ヌーク (新潮文庫)
太洋, 藤井
新潮社
2020-01-29


23.少年と犬(馳星周)
震災で職を失った和正は認知症の母を養うため、犯罪まがいの仕事を行うようになる。そんなとき、彼はやせ細った野良犬を拾う。犬の名は多聞。頭が良く、多聞を仕事に同行させると危ない橋を渡るときも上手くことが運ぶのだ。和正は多聞に魅了されるが、彼はなぜかいつも南の方を見つめており.......。
犬と人間の関わり合いを描いた、5年に及ぶ6つの物語。犬と人間の絆が哀愁漂うムードとともに描かれており、読んでいるとじんとくるものがあります。犬好きの人におすすめの感動傑作です。
少年と犬 (文春文庫)
馳 星周
文藝春秋
2023-04-05


24.名探偵のはらわた(白井智之)8位(文春12位 読みたい20位 本ミス3位 
一夜にして村人30人を虐殺した青年、愛する男性の局部を切り取って持ち去った女性、自動販売機に置かれた農薬入りのジュース。昭和の世を騒がせた凶悪犯たちが獄卒の鬼となって現代に蘇る。かつての犯行を再び繰り返す鬼たちに対して、名探偵はいかにして立ち向かうのか?
いかにも白井智之らしい題材の特殊設定ミステリーですが、エログロ描写は控えめ。一方で、伏線を駆使し、本作のモデルとなった過去の事件の真相も暴くなど、ミステリーとしての充実度は一級品です。
名探偵のはらわた (新潮文庫)
白井 智之
新潮社
2023-02-25


25.煉獄の獅子たち(深町秋生)17位
関東最大の暴力団・東鞘会は大きな岐路に立たされていた。会長の氏家必勝が逮捕されたうえに死期が迫っているのだ。跡目を継ぐのは必勝の実子である勝一か、それとも改革路線を標榜する会長代理の神津太一か?一方、警察はこの機に東鞘会の壊滅をもくろみ、対組四課の我妻邦彦が動き出す.が.....。
ノワール小説の傑作『地獄の犬たち』の前日譚であり、おなじみのメンバーが大活躍するのは前作のファンにとってはうれしいところ。ただ、景気良く人は死んでいくものの、前作に比べると少々薄味。
26.おおきな森(古川日出夫)
作家活動の傍らで探偵業を営んでいる坂口安吾は失踪した高級娼婦の行方を追って異次元と化した東京をさ迷っていた。一方、記憶を失った男・丸消須ガルシャは列車内で2人の男と出くわす。そして、3人は同じ列車内で奇妙な殺人事件に遭遇し、謎解きを始めるが......。
一体何が起きているのかよくわからない展開に読者は困惑必至です。しかし、疾走感あふれる文章は読み手を否応なしに作品世界に引きずり込んでいきます。ごった煮迷宮小説とでもいうべき大作です。
おおきな森
古川日出男
講談社
2020-04-22


27.地面師たち(新庄耕)
土地の所有者になりすまし、金をだまし取る地面師。辻本拓海は大物地面師のハリソン山中の元で詐欺行為を行っていた。そして、彼らは市場価格100億円という前代未聞の案件に着手する。一方、定年間際の刑事がハリソン山中に対しする執念の捜査を続けていた.....。
詐欺のプロセスが非常に緻密に描かれており、ノンフィクションかと思うほどのリアリティがあります。テンポもよく、複数の物語が最後に絡みあう展開も見事です。
地面師たち (集英社文庫)
新庄 耕
集英社
2022-01-20


28.うるはしみにくし あなたのともだち(澤村伊智)
四ツ角高校の3年生で美人と評判の生徒・更紗が突然自殺する。彼女には自殺するような動機が見当たらず、しかも、彼女の死を契機として彼女のクラスメイトたちの容姿が次々と醜くなっていったのだ。それはユアフレンドのおまじないのせいだというが、果たして誰がそのおまじないをしているのか?
呪いによって殺されるのではなく、醜くなるという設定はホラーというよりイヤミスに近い読後感ですが、話のテンポは非常によく、思わず物語に引き込まれていきます。ミステリーとしても一級品。
29.赤ずきん、旅の途中で死体に出会う。(青柳碧人)
シンデレラはカボチャの馬車で城の舞踏会に向かう途中で、飛び出してきた男を轢いてしまう。彼女は死体を隠して隠蔽工作を図るものの、やがて死体は発見され、しかも、馬車にぶつかったのが死因ではないことが判明する。謎は深まるばかりだが、そこに旅の途中の赤ずきんが現れ.......。
童話ミステリーの第2弾。相変わらず奇想天外な発想で楽しませてくる佳品です。ただ、連作ミステリーの本作より、1作1作を自由なスタイルで書いていた前作の方がインパクトは上のように思います。
30.欺瞞の殺意(深木章子)7位(本ミス7
42前に起きた毒入りチョコレート殺人。逮捕された弁護士は無期懲役の判決を言い渡されるが、仮釈放後に無罪を訴えて事件関係者に手紙を送る。書簡によるやり取りはやがて推理合戦の様相を呈してくる。そして、それがきっかけで事件は根底から覆り.....。
書簡のやり取りによって次々と推理が飛び出し、真相に迫っていくプロセスにぐいぐい引き込まれていきます。往復書簡という形式も含めて、幾重にも施された仕掛けが見事です。
欺瞞の殺意 (角川文庫)
深木 章子
KADOKAWA
2023-02-24


31.ドミノ in 上海(恩田陸)
上海のホテル「青龍飯店」。そこに居合わせた25人と3匹はそれぞれの思惑に引っ張られ、予期せぬハプニングに巻き込まれていく。まさに運命のドミノ倒し。映画監督、警察官、風水師、盗賊団にイグアナ、パンダ。果たして彼らを行きつく先は?
『ドミノ』の19年ぶりの続編です。登場人物は半端なく多いものの、皆キャラが立っており、群像劇としての面白さは相変わらず。ただ、前作と比べるとちょっと詰め込みすぎの感もあり。
ドミノin上海 (角川文庫)
恩田 陸
KADOKAWA
2023-02-24


32.ビブリア古書堂の事件帖Ⅱ~扉子と空白の時~(三上延)
大輔と栞子の娘である扉子は、高校の友人である圭の両親が経営するブックカフェで祖母の智恵子と待ち合わせをしていた。祖母が現れるまでの間、扉子は持ってくるようにいわれた”マイブック”に目を通す。そこには、過去に両親が関わった横溝正史の『雪割草』を巡る事件のあらましが書かれていた。
扉子の名を冠していますが、中身は基本的に大輔と栞子の探偵譚です。横溝正史にまつわる話が興味深く語られ、ミステリーファンにとっては楽しい作品ですが、ほろ苦い結末は好みが分かれるかも。


33.桃源(黒川博行)
互助組織が集めたお金を持ち逃げした男を追う逢坂府警泉尾署の上坂と新垣は沖縄にたどり着き、そこで大がかりなトレジャーハンター出資詐欺が行われていることを知る。さらに、事件は殺人へと発展し........。
『落英』に登場した映画オタク刑事の上坂が沖縄出身の刑事とコンビを組むバディもの。著者得意の巻き込まれ型の面白さは希薄ですが、軽妙な掛け合いの楽しさは健在です。
桃源 (集英社文庫)
黒川 博行
集英社
2022-09-16


34.緋色の残響(長岡弘樹)
シングルマザーの刑事、羽角啓子と中学生の娘、菜月。その菜月が昔通っていたピアノ教室でレッスン中の生徒が急死する。死因は食物アレルギーだったことから最初は不幸な事故だと思われていたが、菜月の取った行動が犯人の存在を浮かび上がらせ......。
『傍聞き』『赤い刻印』の母娘コンビが活躍する粒ぞろい連作集。フーダニットやハウダニットよりも、いかにして事件解決に至ったかという点に焦点が当てられているのがユニーク。
緋色の残響 (双葉文庫 な 30-05)
長岡 弘樹
双葉社
2023-06-14


35.ティンカー・ベル殺し(小林泰三)
井森健は普段は大学院に通う理知的な青年だが、夢の中ではオツムの足りない蜥蜴のビルになって御伽の国を渡り歩いていた。あるときビルはネヴァーランドへとやってくるが、そこで出会ったのは無邪気なシリアルキラーのピーターパンだった。一方、現実世界でも奇怪な事件が起き........。
シリーズ第4弾。グロさとブラックな笑いが満載の展開は健在で、それに加えてピーターパンの殺人鬼ぶりがインパクト大です。ミステリーとしてもよく出来ており、騙される快感を味あわせてくれます。
36.逃亡者(中村文則)
第2次世界大戦時のフィリピンにおいて劣勢の日本軍を勝利へと導いた悪魔のトランペット。その音色が日本の兵士に狂乱の力を与え、米軍を打ち破ったのだ。不穏な空気が漂う時代の中で男はそのトランペットの存在を隠すためにひたすら逃げ続けるが.......。
メインストーリーにキリシタン迫害や第二次世界大戦の歴史などが絡んでくるスケールの大きな作品です。ミステリー色は薄く、エンタメ性には欠けるものの、物語が内包する壮大さには感銘を受けます。
逃亡者 (幻冬舎文庫 な 39-2)
中村 文則
幻冬舎
2022-11-10


37.あの子の殺人計画(天祢涼)16位(文春14位 読みたい7位 本ミス18
小学5年生の椎名きさらは母子家庭で育ち、躾の名のもとに水責めにあっていた。ある日、それは躾ではなく虐待ではないのかと気付き始めるきさらだったが、そんなときに風俗店のオーナーが殺され、過去にその店で働いていた椎名綺羅に疑いがかかる。彼女は娘のきさらと自宅にいたと主張するが.....。
シリーズ第2弾。容赦のない虐待描写は読んでいて胸が痛くなるほどです。痛烈なメッセージ性をもった社会派ミステリーですが、それに気を取られていると思わぬどんでん返しにのけぞってしまいます。
あの子の殺人計画 (文春e-book)
天祢 涼
文藝春秋
2020-05-22


38.抵抗都市(佐々木譲)12位読みたい15位
日露戦争の惨敗から11年が過ぎた大正5年。ロシア統治下の東京で女性の変死体が発見される。特務巡査の新堂が捜査を開始した矢先、高等警察とロシア統監府保安課の介入を受ける。果たして事件の裏にある国家を揺るがしかねない陰謀とは?
ミステリーとしての面白さに加え、歴史改編小説としてもよくできており、あり得たかもしれないもう一つの日本を通して歴史問題を重層的に浮き彫りにしていく手腕が見事です。ただ、少々長いのが難。
抵抗都市 (集英社文庫)
佐々木 譲
集英社
2022-01-20


39.たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説(辻真先)1位(文春1位 読みたい1位 本ミス4位 
昭和24年。勝利少年は旧制中学5年生から男女共学の高校3年生となり、一変した日常にとまどいながら学生生活を送っていた。そんななか、彼は夏休みに小旅行に出掛け、旅先で奇怪な密室殺人に巻き込まれる。さらに、台風の夜に再び奇怪な事件が起き......。
那珂一兵シリーズの第2弾。実際に戦後を経験した著者の手により、激変していく社会の中での青春模様が生き生きと描かれています。また、伏線やギミックを巧みに用いた謎解きも見事です。
40.正体(染井為人)
埼玉県一家惨殺事件の犯人として収監されていた未成年死刑囚が脱獄する。彼はオリンピック会場の工事現場、新興宗教絡みのパン工場、人手不足の介護施設といった具合に、次々と潜伏先を変えながら逃亡を続けていく。果たして彼の目的は?
逃亡犯の目を通して社会の歪みが浮き彫りになっていくプロットが読み応え満点の社会派ミステリーです。同時に、結末に涙する優れたヒューマンドラマでもあります。
正体 (光文社文庫 そ 4-1)
染井為人
光文社
2022-01-12


41.文身(岩井圭也)
破滅的な生きざまを私小説として発表し続け、最後の文士と謳われた須賀庸一。かつては妻殺しを示唆する作品で世間の注目を集めたこともある。そんな彼が亡くなった後、娘の元に郵便物が届く。それは庸一の遺稿であり、そこには驚くべき彼の秘密が書かれていた.....。
弟の書いた小説を兄が実際に演じるという設定は荒唐無稽ながらも、その語り口の巧さには読者をぐいぐいと引き込んでいく力があります。しかも、クライマックスでの反転がなかなか衝撃的です。
文身
岩井圭也
祥伝社
2020-03-12


42.僕の神さま(芦沢央)
小学5年生の僕のクラスには水谷くんという名の男の子がいる。水谷くんはとても頭が良くて、悩み事を相談されてもあっという間に解決してしまう。それがあまりにも鮮やかなのでみんな彼のことを神さまと呼んでいた。夏休み直前の日、水谷くんはクラスメイトの川上さんからある相談を受けるが....。
全5編の連作ミステリー。ほのぼの展開で始まりつつも、やがて急転直下していくのがいかにも芦沢流です。聡明な子ども中心に据えることで逆に、未熟さ故の痛々しさを浮き彫りしている点が秀逸です。
僕の神さま (角川書店単行本)
芦沢 央
KADOKAWA
2020-08-19


43.あの日の交換日記(辻堂ゆめ)
難病を患って入院している小学4年生の愛美は病室に勉強を教えに来てくれる先生と交換日記を始める。一方、6年2組の生徒たちと交換日記を行っている先生はある女子生徒が「私はクラスの大杉寧々香を殺します。お願いだから邪魔しないでね」と記しているのを見つけ.....。
交換日記をテーマにした連作ミステリー。一つ一つの物語に仕掛けが施されており、小さな驚きを与えてくれます。そのうえ、最後にすべての物語が一本の線でつながり、感動をもたらす構成が見事です。
あの日の交換日記
辻堂ゆめ
中央公論新社
2020-04-21


44.ボニン浄土(宇佐美まこと)
1840年。汽仙沼から出航した5百石船・観音丸は嵐に巻き込まれ、見知らぬ島に漂着する。そこには青い目の先住者がいた。そして、現在。中年男は幼少期に祖父が大事にしていた木製の置物を入手し、チョロ弾きの少年はチェロの音だけが聞こえなくなってしまう......。
一見何の関係もなさそうなエピソードが個別に語られていき、それが意外なつながりを見せるといった展開は宇佐美作品の真骨頂です。ただ、今作では真相の意外性という点でやや物足りなさがあります。
ボニン浄土 (小学館文庫 う 14-2)
宇佐美 まこと
小学館
2023-07-06


45.夜の声を聴く(宇佐美まこと)
優秀な頭脳を有している故に周りから孤立して引きこもりになっていた堤隆太は、目の前で手首を切った少女に惹かれて同じ定時制高校に通い始める。やがて、彼はそこで知り合った大吾が働いているリサイクルショップを手伝うようになる。そこでは本来の仕事の他によろず相談も引き受けており......。
主人公の成長を核とし、前半は日常の謎を挑み、後半は11年前に起きた殺人事件を追っていくといった多重性が物語に深みを与えています。切なくも暖かな作品で、伏線を一気に回収する手管も見事です。
夜の声を聴く (朝日文庫)
宇佐美まこと
朝日新聞出版
2020-09-07


46.虜囚の犬(櫛木理宇)
元家裁調査官の白石洛は友人の刑事から、7年前に彼が担当した少年、薩摩治郎がホテルで死体となって発見されたと告げられる。しかも、薩摩の自宅には鎖で繋がれた女性がおり、庭からは2体の白骨死体が発見されたという。白石は少年時代の薩摩が「ぼくは犬だ」と繰り返していたのを思い出すが.....。
虐待シーンが痛ましすぎて読むのがつらくなってくる作品です。しかし、その一方で、事件の真相が気になって読ませる牽引力があり、二転三転の末に訪れるまさかの結末に驚かされます。


47.告解(薬丸岳)
大学生の籬翔太は恋人から呼び出され、飲酒中にも関わらず車に乗ってスピード違反をし、81歳の老女を轢き殺してしまう。彼は轢き逃げの罪で懲役5年の刑に服す。罪の重さから目を逸らし続ける翔太。一方、被害者の夫である法輪二三久は翔太の出所を待ち続けていた。その目的とは?
著者十八番の贖罪もの。罪というものを被害者遺族と加害者の両面から描いており、考えさせられる内容になっています。ただ、主人公の言動を身勝手ととるかリアルととるかで評価が分かれそう。
告解
薬丸岳
講談社
2020-04-21


48.十字架のカルテ(知念実希人)
新人医師の弓削凛は、日本屈指の精神鑑定医との呼び声高い景山司の助手を志願する。彼女はどうしても精神鑑定の真髄を学ぶ必要があったのだ。そして、凛は精神病と判定された容疑者たちと対峙し、彼らの心の闇に迫っていくが......。
5話からなる連作集ですが、どの短編も読み応え満点で、精神鑑定を通して心の闇に迫っていくプロセスが実にスリリングです。また、精神科医と犯人との頭脳戦もミステリーとしてよくできています。
十字架のカルテ
実希人, 知念
小学館
2020-03-13


49.ジョン・ディクスン・カーの最終定理(柄本刀)
2006年。とある未解決犯罪実録が日本に上陸する。しかも、その本には真相を示唆するディクスン・カーの走りが書きが記されていたのだ。いわゆる”カーの設問詩集”と呼ばれる一冊だ。大学生の友坂らは別荘に集まって推理合戦に講じるが、彼らの周辺でも不可能犯罪が発生し.......。
全編がカー愛に溢れた一冊です。実録犯罪集とリアルタイムで進行している不可能犯罪が交錯し、謎解き三昧な点もたまりません。少し強引ながらも、豪快な仕掛けには驚かされるものがあります。


50.歌舞伎座の怪紳士(近藤史恵)
27歳の岩居久澄は実家で家事手伝いをしながら鬱屈した毎日を送っていた。ある日、祖母の代わりに歌舞伎を観て、感想を伝えてほしいという奇妙な頼まれごとをする。以来、芝居の世界にのめり込んでいく久澄だったが、劇場で必ず親切な老紳士と顔を合わせるのは一体なぜなのか?
演劇の魅力がわかりやすく描かれており、興味をそそられます。また、ミステリーとしては軽めでやや荒唐無稽な感もありますが、主人公の成長物語としてよく出来ています。
歌舞伎座の怪紳士 (徳間文庫)
近藤史恵
徳間書店
2022-03-09


51.あの日、君はなにをした(まさきとしか)
2004年。15歳の少年が夜中に自転車で家を抜け出し、連続殺人の犯人と間違えられた挙句、パトカーに追い回されて事故死する。2019年。OL殺人事件が発生し、不倫相手の男が容疑者として浮上するも、男は行方不明となる。2人の刑事が捜査を進めると、2004年の事件と徐々につながりが見え始め.......。
一見無関係な2つの事件にわずかなつながりを発見し、そこから思わぬ方向へと転がっていく展開に強く引き込まれていきます。なかなか真相が見えない、じらしのテクニックも見事です。
あの日、君は何をした (小学館文庫)
まさきとしか
小学館
2020-07-07


52.カケラ(湊かなえ)
美容クリニックで医師として働いている橘久乃の元に幼馴染が訪ねてきて小学生時代の同級生だった横網八重子の話をする。彼女の娘が激太りが原因で高校にいかなくなり、ついには大量のドーナツのばらまかれた部屋で死んでいるのが発見されたというのだ。その娘は一体なぜ死を選んだのか?
『告白』を彷彿とさせる独白リレー形式の作品です。美容整形をテーマにしつつ、人間の本質をえぐっていく物語に慄然とします。ラストまで気が抜けない、著者ならではのイヤミスです。
カケラ (集英社文芸単行本)
湊かなえ
集英社
2020-05-14


53.涼子点景 1964(森谷明子)
1964年。オリンピック開催決定に沸く東京で一人の男が9歳の娘を残して失踪する。一人で取り残された涼子は強く生きることを誓い、貧しい少女から可憐なお嬢様へと姿を変えていく。一体彼女の身に何が起きたのか?
時代の大きなうねりを描きながらも一人の少女に焦点を当て、その生きざまをミステリーに仕立てたプロットが見事です。特に、さまざまな謎がきれいに解き明かされるさまには驚かされます。
涼子点景1964 (双葉文庫)
森谷明子
双葉社
2022-07-14


54.立待岬の鷗が見ていた(平石貴樹)20位(本ミス12
舟見警部補は新進気鋭の美貌のミステリー作家である柚木しおりの作品を読んで5年前の連続殺人と傷害致死事件を思い出す。崖から死体が遺棄された元夫を始めとして被害者はみな彼女とつながりがあったのだ。舟見は以前に難事件を解決に導いたフランス人、ジャン青年に捜査協力を要請するが......。
函館シリーズの第2弾。過去の事件が淡々と語られる前半は起伏が乏しくてやや退屈ですが、解決編ではきっちり密度の高い推理が楽しめます。前作と比べれると小粒ながらも安定の面白さです。
55.修羅の家(我孫子武丸)
簡易宿泊所で暮らしている晴男はレイプ殺人を行った際、中年女性の優子にそれを目撃され、彼女の家に連れてこられる。そこには同じ格好をした10人以上の男女が家族として共同生活を営んでいた。しかも、彼らは暴力と恐怖でがんじがらめにされていたのだ。
北九州監禁殺人事件がモデルのサスペンスミステリー。『殺戮にいたる病』以上にグロテスクな物語は好き嫌いが分かれそうですが、途中から明らかになる想定外の展開には引き込まれるものがあります。
修羅の家
我孫子武丸
講談社
2020-04-14


56.ノッキンオンロックドドア 2(青崎有吾)
不可能犯罪専門・御殿場倒理と不可解犯罪専門・片無氷雨という2人のコンビ探偵。密室犯罪なのに部屋には巨大な穴がある『穴の開いた密室』やトンネルに入った女子高生が忽然と姿を消す『消える少女追う少女』など、今回もさまざまな奇妙な謎に挑むが......。
連作ミステリーシリーズの第2弾。軽いタッチの謎解きはあいかわらずで、前作が好きな人は間違いなく楽しめるでしょう。ただ、骨太な作品を求めている人には物足りないかも。
57.濱地健三郎の幽たる事件簿(有栖川有栖)
年齢不詳の探偵・濱地健三郎の事務所には今日も不可思議な現象に悩まされる依頼人たちが訪れる。ミステリー研究室で起きる怪異、猫と一緒に暮らしていた姉の失踪、資産家が溺死した事件。さまざまな謎に対して濱地健三郎は助手のユリエとともに、幽霊を視る能力と持ち前の推理力で挑む。
7つ短編からなる濱地健三郎シリーズ第2弾。ミステリー要素が強かったり、ホラーバトルものだったりと一作一作振り幅の大きく、バラエティに富んだ物語が楽しめます。探偵と助手のキャラも魅力的。
58.きたきた捕物帳(宮部みゆき)
北一は江戸深川で千吉親分の元で岡っ引きの見習いをしていたが、16歳のときにその親分がフグの毒で死んでしまう。北一は親分が本業で行っていた文庫売りの商いを継ぎ、やがて喜多次との運命の出会いを果たす。そんな彼は周囲の協力を得て、事件や不思議な出来事の謎を解き明かしていくが.....。
著者の他の作品ともリンクしている時代ミステリーの新シリーズ。4篇からなる連作短編は謎解きあり、活劇あり、人情噺ありのテンポの良い物語で、肩の力を抜いて楽しめる好編に仕上がっています。
きたきた捕物帖
宮部みゆき
PHP研究所
2020-05-29


59.逆ソクラテス(伊坂幸太郎)15位(文春19位 読みたい13位
小学6年のクラスに安斎という生徒が転校してくる。彼は担任の久留米先生の生徒に対する決めつけが強すぎ、それがクラス全体に悪い影響を与えていると感じた。そこで、先生の先入観を崩すために他の生徒の協力を得てある計画を立案する。その計画とは?
著者の作家デビュー20周年を記念して発売された連作短編集です。ミステリー作品ではありませんが、さっくと読めて多くの人の共感が得られる好編に仕上がっています。
逆ソクラテス (集英社文庫)
伊坂幸太郎
集英社
2023-06-20


60.クスノキの番人(東野圭吾)
玲斗は理不尽な理由で職場を解雇され、その腹いせに盗みを働いて逮捕される。あやうく刑務所送りになるところだったが、千舟と名乗る老女に救い出される。彼女は自分を玲斗の伯母だといい、彼にクスノキの番人をしろというが......。
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』を彷彿とさせるちょっといい話系の作品です。ミステリー色は薄く、序盤は少々冗長ですが、中盤以降はどんどん面白くなり、最後はきっちりと感動させてくれます。
クスノキの番人 (実業之日本社文庫)
東野 圭吾
実業之日本社
2023-04-07


61.スキマワラシ(恩田陸)
古道具屋を営む兄とその店の一角でバーを開いている弟。弟には古い物に触れるとそこに秘められた記憶が見えることがあった。ある日、2人は廃ビルの解体現場を徘徊する少女・スキマワラシの噂を耳にする。彼女は白いワンピースと麦わら帽を身に付け、「ハナちゃん」を探しているとうのだが......。
恩田陸独自の世界観が堪能できるファンタジーミステリーです。長い物語ながらもテンポの良い会話劇でぐいぐい読ませます。ただ、ミステリーとしてすっきりしない終わり方は相変わらずです。
スキマワラシ (集英社文庫)
恩田 陸
集英社
2023-03-17


63.ブルーブラッド(藤田宜永)
復員兵の貝塚透馬を待っていたのは、疎開先で両親が強盗に撃ち殺されたという悲報だった。しかも、第一発見者のメイドは事件後に姿を消したという。真相を追う透馬だったが、事件の裏にはナチスの隠し財産をめぐる陰謀が見え隠れし.......。
大傑作『鋼鉄の騎士』の作者だけあって、この手の作品を書かせるとうまさを感じます。見せ場の連続で、テンポの良い筋運びはさすがです。ただ、少々ご都合主義が気になる点も。
ブルーブラッド (文芸書)
藤田宜永
徳間書店
2019-11-22


64.ムシカ 鎮虫譜(井上真偽)
音楽大学の同級生グループが夏休みに小さな無人島を訪れる。そこには霊験あらたかな音楽の神が祀られいるという。だが、彼らを待っていたのは大量の虫たちだった。虫の襲撃に対してなすすべのない彼らを救ったのは突如現れた謎の巫女。彼女は虫の怒りを鎮めるには鎮虫譜が必要だというが......。
虫の気持ち悪さは一級品でホラーとして読み応えがあります。虫と音楽とミステリーの要素を掛け合わせた着眼点も秀逸です。ただ、少々詰め込みすぎで、全体として散漫な印象を受けるのが残念です。
ムシカ 鎮虫譜
井上 真偽
実業之日本社
2020-09-11


65.黄色い夜(宮内悠介)
エチオピアから独立したE国はバベルの塔を思わせるらせん状の建築物を建て、内部に無数のカジノを設置した。それによってもたらされる観光資源によってE国は運営されていたのだ。E国に潜入した
龍一は塔の中で勝ち上がり、頂上を目指していく。そこにいる王に勝てばE国を手に入れられるのだ。
わずか150ページ足らずの中編なので詰め込み過ぎの感がありますが、次々と登場する濃いキャラたちをあの手この手で倒していくプロセスはそれなりに読み応えがあります。
黄色い夜 (集英社文庫)
宮内 悠介
集英社
2023-11-17


66.仮名手本殺人事件(稲羽白菟)
歌舞伎の舞台で忠臣蔵を上演している最中、出演中の役者が絶命する。しかも、客席からも死体が発見される。死因はいずれも毒で、明らかに他殺だった。果たして犯人は衆人環視のなか、いかにして犯行を成し遂げたのか?そして、現場に残された3枚のカルタが意味するものとは?
ドロドロとした人間関係や謎めいた犯行といった、ケレン味たっぷりの雰囲気に引き込まれます。また、歌舞伎の世界の描写も濃厚で読み応えありです。ただ、ミステリーとしては強引さが目立つかも。


67.黒鳥の湖(宇佐美まこと)
不動産会社を営む財前は妻と娘との平穏な暮らしを手にしていたが、拉致した女性の体の一部を家族に送りつける事件が発生して以降、娘の様子がおかしくなる。それは18年前に財前が関わった事件とそっくりで.......。
どんどんと意外な出来事が起き、二転三転する展開で読者を引き込んでいくのはさすがのうまさです。ただ、途中でオチが読めてしまうのが難。
黒鳥の湖
宇佐美まこと
祥伝社
2019-12-11


68.パンダ探偵(鳥飼否宇)
人類が滅亡してから200年。急速に進化した動物たちは人間に代わって共和国を建国する。ジャイアントパンダのナンナンはライガーのタイゴに憧れて探偵事務所に入る。ツートン動物誘拐事件、密室から消えた干し草事件、大統領暗殺事件と、2人はさまざまな事件に立ち向かっていくが.......。
擬人化された動物たちが可愛いユーモアミステリーです。パンダ探偵の奮闘ぶりにほっこりしますし、動物の習性が事件を解く鍵となるので勉強にもなります。動物好きの人には特におすすめです。
パンダ探偵 (講談社タイガ)
鳥飼否宇
講談社
2020-05-21


69.我々は、みな孤独である(佐野広美)
私立探偵である茶畑徹朗の元に自分を前世で殺した犯人を探してほしいという依頼が舞い込む。茶畑と助手の毬子は前世など信じていなかったが、依頼人に前世の話をした霊媒師を訪ねにいくと彼らも前世が見えるようになる。そして、依頼人の前世を調べてみるとさまざまな矛盾が浮かびあがり.......。
前半の前世を巡る不可思議な謎やバイオレンスなハードボイルドストーリーにはぐいぐい引き込まれるものがあります。ただ、それだけに、伏線回収も碌にないまま、唐突に終わってしまうのが残念です。
我々は、みな孤独である (ハルキ文庫 き 8-1)
貴志 祐介
角川春樹事務所
2022-05-13


70.わたしが消える(佐野広実)
元刑事の藤巻は医者から軽度の認知症だと診断される。大学生の娘には迷惑を掛けられないと悩んでいると、当の娘が相談を持ちかけてきた。介護実習で通っている施設に、門の前に置き去りにされた認知症の老人がいるというのだ。藤巻は娘の頼みを引き受け、老人の正体を独自に探り始めるが.......。
江戸川乱歩賞受賞作品。文章は読みやすく、認知症を絡めた前半の物語も興味をそそります。ただ、話が大きくなるにつれてリアリティの欠如が目立ち始め、安っぽい展開になっていくのが残念です。
わたしが消える
佐野広実
講談社
2020-09-29


チェック漏れ作品

暗黒残酷監獄(城戸喜由)18位
清家椿太郎は女からもてまくる高校生だが、友人は一人もなく、心にどす黒いものを抱えていた。そんな彼の元に姉が殺されたという電話がかかってくる。しかも、彼女は十字架に磔となっていたのだ。「この家には悪魔がいる」というメモは一体何を意味するのか?椿太郎は独自に調査を開始するが.....。
第23回日本ミステリー文学大賞新人賞。異常な世界観は読者を選ぶものの、悪意に満ちた文章には独特のセンスが感じられます。そして、その異常世界に組み込まれた謎解きが非常によくできています。
暗黒残酷監獄
城戸 喜由
光文社
2020-02-21


鏡影劇場(逢坂剛)14位(文春15位
あるギタリストがマドリードの古本屋で入手した古い楽譜束の裏面に謎めいた報告書を発見する。そこには文豪・ホフマンの半生が記されていたのだ。その翻訳を依頼された大学准教授の古閑沙帆はそれをドイツ文学研究者の本間に託すが、そこから古閑らにもかかわる意外な事実が明らかになっていき.....。
本作のかなりの部分を占める報告書パートは重厚で少々手強いかもしれませんが、ホフマンの生涯に複数の日本人が関わっていることが明らかになる二重三重の仕掛けには引き込まれるものがあります。
鏡影劇場(上)(新潮文庫)
逢坂剛
新潮社
2023-02-25


鶴屋南北の殺人(芦辺拓)20位読みたい8位 本ミス8
『銘高忠臣現妖鏡』と題された鶴屋南北の作品がロンドンで発見される。しかし、歌舞伎界の異端児である小佐川歌名十郎は発見者である秋水里矢に無断でその作品を上演しようとしていた。森江春策は秋水の依頼を受けて小佐川との交渉に向かうが、そこで彼は奇怪な連続見立て殺人に巻き込まれ.....。
鶴屋南北を題材に権力者批判を盛り込んだ社会派本格ミステリです。ただ、殺人事件のトリックはさほど驚くべきものではなく、むしろ歌舞伎や江戸時代にまつわる蘊蓄が本作の読みどころだといえます。


2020年12月4日追記
予想結果
ベスト5→5作品中1作的中
ベスト10→10作品中4作的中
ベスト20→20作品中10作的中
順位完全一致→20作品中0作品

ナイフの影