最新更新日2019/08/05☆☆☆

少年と少女の心と体が入れ替わってドキドキな展開が繰り広げられる人格チェンジの物語は、1982年に児童文学『おれがあいつであいつがおれで』を映画化した大林信彦監督の『転校生』のヒットによって一気にメジャーな存在となっていきます。しかし、そのテーマが漫画の世界で本格的に扱われるようになったのは意外と遅く、21世紀に入ってからです。しかも、急速に数を増やしていったのは2010年以降なので、定番ジャンルとなったのは割と最近の話です。具体的にどのような作品があるのか、その代表的なものを紹介していきます。なお、ここで対象としているのはあくまでも「男女の心と体の入れ替わる話」なので、「単なる女体化」「同性同士の入れ替わり」「女装や男装による入れ替わり」などは除外しています。あらかじめご了承ください。
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※西暦表記は連載を開始した(描き下ろしの場合は単行本の初巻を発売した)年です。
1975年

ボクの初体験(弓月光)
高校生の宮田英太郎は元ガールフレンドの冴木みちる率いる”美女同盟”にいじめ抜かれ、崖の上から投身自殺を図る。一方、科学者の人浦狂児は脳腫瘍によって17歳の妻・春奈を亡くし、世をはかなんでいた。そんな時、偶然、海に落ちて
仮死状態となっていた英太郎を発見し、保存していた春奈の肉体に彼の脳を移植してしまう。春奈として蘇った英太郎だったが、生来の純情さゆえ、女となった自分の裸すらまともに見ることができないでいた。それでも、英太郎は自殺の原因となった美女同盟に復讐するために、女として生きることを受け入れる。そして、自分の通っていた学校に春奈として編入するのだが、そこで知ったのはみちるが英太郎のことを心から愛していたという事実だった。しかも、今度は車に轢かれそうになった春奈を庇ったみちるが瀕死の重傷を負ってしまう。狂児は彼女を救うために、保存しておいた英太郎の肉体にみちるの脳を移植するが.......。
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『転校生』公開以前の男女入れ替わりものです。そのため、男女がぶつかって心が入れ替わるというお約束の展開ではなく、当時、SF作品などでよく使われていた脳移植という手法がとられています。また、作者が、その後、『みんなあげちゃう』や『甘い生活』などでエロティックコメディの第一人者となる弓月光であるため、少女漫画であるにも関わらずお色気シーンも満載です。トイレや朝立ちの問題など、男女入れ替わりの際の性的トラブルのお約束が一通り描かれているのもある意味見どころだといえます。しかも、女になったままの状態で出産まで経験したりします。昨今の入れ替わりものとはまた違った味わいのある佳品です。


1993年

ないしょのココナッツ(富所和子)
内木香子はちょっと鈍くさい小学3年生の女の子。ある日、クラスメイトの元気な男の子、山口夏樹とぶつかって心と体が入れ替わってしまう。しかたなく、入れ替わりの生活を始める2人だったが、香子になった夏樹は持ち前の運動神経を生かして新体操部で素晴らしい演技を披露し、そのうえ、服のセンスもよくなってたちまちクラスの人気者になる。一方、夏樹になった香子は何をやってもダメダメで.......。
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男女の入れ替わりがメインテーマの漫画としては最初期の作品で、学年誌である小学3年生で連載されていました。子ども向けなので内容的にはたわいのないものなのですが、妙にテンションの高い荒唐無稽な展開はツッコミながら読むとなかなか楽しいものがあります。
2001年

僕と彼女の×××(森永あい)
上原あきらは武蔵野学院高校の1年生。成績は上位でルックスも良かったが、地味な性格のためにクラスでは目立たない存在だった。そんな彼が密かに想いを寄せていたのが同じクラスの桃井菜々子だ。しかし、彼女は見た目こそ美少女ではあるものの、その性格は破天荒にして横暴。周囲からは野獣と呼ばれて恐れられていた。ある日、あきらは菜々子の祖父の行っている怪しげな実験に巻き込まれる。その結果、なんと、あきらと菜々子の心と体が入れ替わってしまったのだ。なんとか元に戻ろうとするあきらだったが、菜々子のほうは男性の体が気に入り、男としての生活をエンジョイし始める。一方、外見が菜々子のあきらは、急に女らしくなったことで親友の千本木進之介に惚れられてしまい.......。
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オーソドックスな男女入れ替わりの場合、入れ替わることで女はガサツになり、男はナヨナヨし始めるというのが定番です。しかし、本作の場合は逆に、入れ替わることによって本来の性別の理想像に近づいていくという点がユニークです。また、わき役も個性派ぞろいでトタバタ劇として非常に面白い作品に仕上がっています。途中で何度も掲載雑誌が変わるなどして連載は12年もの長期に及びますが、その影響でテンションが落ちたり、迷走したりすることもなく、芯の通った作品としてまとめ上げた手腕が見事です。ハッピーエンドで終わる最終回も非常にさわやかで、心地よい読後感を味わうことができます。コメディ系の入れ替わりものを代表する傑作です。
僕と彼女の××× 1 (BLADE COMICS)
森永 あい
マッグガーデン
2002-12


2010年

ココロコネクト(CUTESG)
山星高校文化研究部に所属する桐山唯と青木義文はある夜にお互いの精神が入れ替わる体験をする。同じ文化研究部のメンバーである八重樫太一、永瀬伊織、稲葉姫子にその話をしたところ、案の定、誰もそれを信じようとはしなかった。だが、その数時間後には太一と伊織の精神が入れ替わってしまう。しかも、入れ替わりはそれからもランダムに起きるようになる。こうして一同は入れ替わり現象に苦労しながらも、その原因を探ろうとするが....。
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同名ライトノベルのコミカライズ作品です。原作は7つのエピソードと3つの番外編から構成されていますが、コミック版では最初の2つのエピソードである『ヒトランダム』『キズランダム』に焦点を当てています。そして、『ヒトランダム』のほうで人格入れ替わりネタが扱われているというわけです。しかも、単なる男女入れ替わりではなく、男子2人、女子3人のグループがランダムに入れ替わるというところがユニークです。内容的には入れ替わりによって起きるドタバタ劇の要素などはあまりなく、その現象によって生じる苦悩や恋心を真正面から描いています。そういった意味では物足りなさを感じる人もいるかもしれませんが、絵はきれいで女の子たちも可愛く描かれているので原作が好きの人にとっては十分に楽しめる作品となっています。
2012年

ぼくは麻理のなか(押見修造)
小森功はひきこもりの大学生で、友達が一人もおらず、毎日ゲームばかりして過ごしていた。そんな彼の唯一の慰めとなっていたのは毎夜コンビニで出会う天使のように美しい女子高生の存在だった。功はいつしかその女子高生を尾行するようになり、ある日、尾行の途中で意識を失う。そして、気がつくと見知らぬ家のベッドで眠っており、しかも、功は天使のような女子高生、吉崎麻里になっていた。功は麻里と人格が入れ替わったのだと考え、彼の下宿へと戻ってみる。だが、小森功の体の中に麻里はいなかった。小森功の人格は小森功のままだったのだ。つまり、功が2つの肉体に同時に存在するということになる。それでは麻里の人格は一体どこにいってしまったのだろうか?
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本作は通常の入れ替わりものとは異なり、入れ替わっているのは女性の肉体側だけであり、男性の体のほうは男性の人格のままらしいという謎めいた導入部から話が始まります。しかも、若くて美しい女性の体を手に入れてラッキーという流れには一斉ならずに、女子高生ならではの陰鬱とした日常に直面することになるのです。このような定石破りの展開がサスペンス感を醸し出し、読む者を物語の中へと引き込んでいきます。押見作品らしい癖の強い漫画で、その癖の強さが独特の面白さを作り上げています。ただ、入れ替わりの真相については勘の良い人なら早い段階で気付くのではないでしょうか。また、麻里と母親の関係など、未解決の問題をいくつか残したまま物語が閉じられることに関しても、モヤモヤしたものを感じる人がいるかもしれません。とはいえ、思春期の危うい世界をミステリアスに描いた作品として非常に良くできている点は間違いのないところです。
山田くんと7人の魔女(古河美希)
朱雀高校2年の山田竜は遅刻早退の常習犯であり、1年生のときに起こした暴力事件が原因で周囲から孤立していた。ある日、階段で足を滑らせた山田は自分の後ろにいた優等生の白石うららとぶつかり、そのはずみでお互いの体が入れ替わってしまう。どうすれば元に戻れるのか、実験と検証を繰り返した結果、キーとなるのはキスだと判明する。実はうららはキスすることで相手と体が入れ替わる能力の持ち主だったのだ。しかも、山田のほうもキスをすることで相手の能力をコピーする力を有していた。さらに、能力を持っているのは彼らだけではなく、朱雀高校には魔女と呼ばれる能力者の女生徒が常時7人いるという事実が明らかになり.....。
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階段から転がり落ちて主人公とヒロインの体が入れ替わるというありがちな展開で始まる本作ですが、入れ替わりが一度限りのものではないというのがミソです。うららの能力によってキスをすれば何度でも誰とでも入れ替われることができ、しかも、主人公の山田がその能力をコピーすることができるため、さまざまなシチュエーションが楽しめるようになっています。いつの間にか意外な人物同士が入れ替わったりしている点に本作の面白さがあるのです。また、クール系ヒロインのうららは山田としばしば入れ替わることで、人格が豹変し、そのギャップがヒロインとしての可愛らしさにつながっています。さらに、本作は人格の入れ替わりだけでなく、さまざまな能力を持つ魔女が登場します。キャラもそれぞれ魅力的で、学園ファンタジーとしてはかなりの面白さです。ただ、長期連載の弊害か、男勢力の魔女が現れるなど設定が複雑化し、迷走していった感があるのは否めません。山田がなぜ能力を得たのかなど、重要な謎も放置されたままで終わっていますし、中盤以降完成度が下がってしまったのが惜しまれます。
思春期ビターチェンジ(将良)
小学4年生の木村佑太は木から足を滑らせ、たまたま下にいた大塚結依と激突する。そして、気がつくとお互いの心と体が入れ替わっていた。2人はとまどいつつも、入れ替わりの生活を始め、互いの近況報告をこまめにするようになる。いつ元に戻っても困らないようにするためだ。しかし、一向に元に戻る気配はなく、ついに2人は中学生になってしまう。
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男女入れ替わりものといえば、体の変化に戸惑ったり、性格が変わったことで他人から奇異な目で見られたりといった展開が定番ですが、本作ではそういったプロセスはばっさりと切り捨てられ、入れ替わったことで激変するそれぞれの人生に焦点が当てられています。なんといっても、足掛け8年、思春期を丸々本来の自分とは異なる性別で過ごすのですから、凡百の男女入れ替わりものとはその重みが違います。基本的にはコメディタッチで展開していくものの、時折挿入される切なさを感じさせるシーンにぐっとくるものがあるわけです。しかも、中学編・高校編と続いていく中でダレるところが一切なく、ラストも見事な着地を決めてます。読む人によってはコマ割りが単調すぎる点が物足りないと感じるかもしれませんが、それも慣れればさほど気にならなくなるはずです。男女入れ替わりネタを主人公とヒロインの成長物語として描いた極めて完成度の高い作品です。
思春期ビターチェンジ(1) (ポラリスCOMICS)
将良
フレックスコミックス
2018-03-13


2013年

たまちぇん(師走ゆき)
見た目はヤンキーにしか見えないコワモテ男子だが中身は料理好きで心優しい鬼瓦望美と、見た目は美少女だが性格がかなり男っぽい姫野こまち。ある日、2人は階段から落ちたショックで心と体が入れ替わってしまう。
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王道的な男女入れ替わりもので、コワモテ男子なのに女子力が高いという設定がいかにも少女漫画です。しかし、本作はそこにひとひねり加えることによってユニークな作品に仕上がっています。男女入れ替わりによって、元々あった外見と中身のギャップが解消されるのがこの作品の肝なのですが、こまちになった鬼瓦が可愛くてモテまくるのに対して、鬼瓦になったこまちは以前にも増して周囲から怖がられてしまうのが笑えます。全1巻でこれからというところで終わってしまうのが残念ではあるものの、ドタバタラブコメディとしてよくできている作品です。
2014年

シャッフル学園(ホリユウスケ)
変装の天才で大量殺人を繰り返す最悪の殺人鬼が高校に侵入した。通報を受けて特殊部隊が駆け付けるものの、校舎の中には多数の生徒がいるので迂闊に手を出せない。仕方なく眉唾ものの秘密兵器を発動させて事態の打開を図ろうとするが、機械が暴走し、想定外の事態が起きてしまう。なんと22人の生徒と殺人鬼と猫の精神と肉体がシャッフルされてしまったのだ。平凡な少年・鈴森優の人格はハンドボール部に所属する株本優の体に入り、彼が憧れていた一見かなでの肉体には猫の魂が入り込んでいた。さらに、殺人鬼にやられたと思われるクラスメイト・青井雪子の死体が保健室で見つかる。果たして殺人鬼の人格は誰の肉体にシャッフルされたのか?外見と中身がバラバラのクラスメイトたちは殺人鬼から身を守るために団結するが.....。
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単なる男女入れ替わりではなく、猫を含めた24人の男女の精神が入れ替わり、しかも、その中に殺人鬼が混じっているという設定が、否応なくサスペンスを盛り上げてくれます。最初は登場人物の数が多いので誰と誰が入れ替わっているのかわからずに混乱しますが、一人一人のキャラが立ちまくっているため、慣れるとまったく気にならなくなります。かなり残酷なシーンが続くものの、ポップな感覚がそれを中和し、娯楽作品としての面白さをキープしているのが見事です。最終的に誰が生き残るのかと手に汗握りますし、犯人の正体も意外性があって驚かされます。ただ、ラストのまとめ方に関しては上手く伏線回収をしてはいるものの、人によっては受け入れがたいと感じる人もいるのではないでしょうか。とはいうものの、デスゲームものとして非常にテンポが良く、なかなかの佳品であることは間違いのないところです。
真夜中のX儀典(馬鈴薯)
高校の空手部に所属する神谷浩樹は子どもの頃に母親を亡くし、長年ダメ人間の姉を世話してきた。そのせいで、すっかり女嫌いになり、同時に、女になって楽をしてみたいという願望を持つようにもなっていた。そんな想いをブログに綴っていたところ、ある日、掲示板に「下記のURLにアクセスすれば女性になれますよ」というレスが書き込まれているのを見つける。イタズラか詐欺だろうとは思いつつも、自暴自棄になっていた彼はアクセス先に記されていた秘密の儀式を実行に移す。すると、目の前に8つの扉が現れ、その一つを開けると浩樹は人気絶頂のアイドル・御厨三九二になっていた。どうやら、儀式を行った8人の心と体がシャッフルされたらしい。浩樹はストーカーに襲われるというトラブルに見舞われながらも女性の生活を満喫するが、元の体に戻ってみると自分の隣で姉が血まみれになって死んでいた。しかも、自分の手には血に濡れたナイフが握られている。つまり、自分と入れ替わった誰かが姉を殺したのだ。このまま警察に連絡すると自分が逮捕されてしまうため、浩樹は姉の死を隠蔽しつつ、犯人の正体を探り始めるが.......。
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『シャッフル学園』と同じく複数の男女によるシャッフルものですが、あちらがホラーサスペンスとするならばこちらは謎解きの要素が強いサスペンスミステリーで、設定も良く考えられています。肉体入れ替わりに由来する特殊能力を使っての駆け引きも読みごたえがありますし、犯人探しものとしても伏線を巧みに張り巡らせて丁寧に作られています。登場人物が多い割に全4巻と短めな作品なので、後半が駆け足になっているのがやや残念ですが、破綻なくまとまった良質の娯楽作品として仕上げられているのは見事です。
真夜中のX儀典 (1) (電撃コミックスNEXT)
馬鈴薯
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
2014-12-19


2015年

俺が腐女子でアイツが百合オタで 
吉田玲時は百合をこよなく愛する隠れオタクだった。あるとき、同人即売会の会場で吉田は漫画研究会の部長で腐女子の保科美鶴と遭遇し、百合オタという秘密がばれてしまう。しかも、漫研の漫子さんの呪いによって2人の体が入れ替わってしまったのだ。趣味も性格も対極な2人が入れ替わることによってさまざまな騒動が巻き起こり......。
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腐女子と百合オタの入れ替わりものですが、入れ替わったあとの2人の両極端なスタンスが笑えます。まず、ヒロインはもともと明るくて可愛い女の子なのですが、男になったとたんに羞恥心を捨て去り、男子の着替えを堪能したり、自分の全裸写メを撮影したりとBLライフを堪能するという見事な弾けっぷりです。一方、女の子になった主人公は「中身が男である自分が女の子と仲良くすべきではない」と自分の中にある百合道にこだわり、ひたすら迷走を繰り返します。そのあげく、男子から告白されて思わずときめいてしまったりする始末です。肉体が入れ替わって以降の2人のキャラが非常にぶっとんでいるので最後まで楽しく読むことができます。主に、男になったヒロインの暴走っぷりを笑い、女になった主人公の可愛らしさに萌える作品だといえます。全4巻と短めで、気軽に読むことができる入れ替わりものの佳品です。
WHITE NOTE PAD(ヤマシタトモコ)
ある日、突然、心と体が入れ替わった2人は1年後に再会する。一人は38歳の中年男から17歳のJKになった木根正吾で、容姿を磨いて人気読者モデルとなっていた。もう一人は突然38歳のオヤジになってしまった小田薪葉菜。仕事のスキルを持ち合わせていない彼女は職を失い、記憶喪失を装いながらその日暮らしを続けている。悲惨な薪葉菜の境遇を知った正吾は彼女に雑誌社での雑用係の仕事を紹介するが.......。
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通常の男女入れ替わりものと比べるとかなり重い作品です。この手のジャンルはたとえシリアスな作品であっても、入れ替わりによって起きるドタバタ感が多少はあるものですが、本作にはそういった要素は皆無です。物語自体が入れ替わりが起きてから1年後からスタートし、敷衍した視点から淡々と2人の人生を追いかけていきます。少女に生まれ変わったことで思わぬ成功を手に入れるものの、所詮は借りものにすぎない人生にどこか冷めている正吾。一方、薪葉菜の方はなんのスキルも持たないまま社会の荒波に放り投げられたわけでひたすら悲惨です。はっきりいって男女入れ替わり物に期待するような楽しさは皆無ですが、2人の心情の掘り下げや語り口のうまさには引き込まれるものがあります。また、人生を謳歌しているようにみえた正吾が次第にボロボロになっていき、人生に絶望していた薪葉菜が活路を見出して新たな人生を踏み出していくという逆転劇も人間ドラマとして読み応えがあります。男女入れ替わり物からファンタジー要素を排し、可能なかぎりリアリスティックに描いた異色の傑作です。
桃色男女ちぇん★(左右田もも) 
高校1年生の戸叶夕日は発明好きの科学オタク。女子とは縁のない生活を送っていたが、ある日、事故でクラスメイトのギャル・綾小路サラと体が入れ替わってしまう。もともと男性になりたかったサラは夕日としての人生をエンジョイし、夕日も次第に女としての生活に慣れていくが.......。
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冴えないオタクだった主人公の中身がギャルになることでイケメン化し、ケバいギャルだったヒロインの中身がキモオタになることで天然美少女化するという、入れ替わることで互いの魅力が増していくタイプの作品です。話のテンポがよくて絵柄も可愛いので気軽に楽しめる作品に仕上がっています。ラストも含め、男女入れ替わりものとしては王道的な良作です。ただ、その分、個性に欠ける面はあるかもしれません。
2016年

君の足跡はバラ色(仙石寛子)
小学5年のとき、拓海とはるかは神社の階段から落ち、心と体が入れ替わってしまう。それから数年が経過するが、元に戻る気配はない。そんなある日、拓海の姿をしたはるかは、はるかの姿をした拓海に対し、昔から彼のことが好きだったと告白する.......。
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幼馴染同士が階段から落ちて中身が入れ替わるという、実に王道的な展開です。そのため、新味はありませんが、心理描写が細やかで切ない恋愛ものとして手堅くまとまっています。特に、身体が入れ替わることによってお互い自分を見つめ直すプロセスには説得力が感じられ、読み応えがあります。それに、肉体が入れ替わった少年少女の恋愛を描くことでジェンダーが曖昧となり、同性愛とも異性愛ともつかない独特の雰囲気を醸し出している点も印象的です。女性作家らしい繊細な雰囲気の佳品です。
2017年

ガチ恋ハートチェンジ(紫なつみ)
大学生のユキは顔はいいが、アイドルオタクでメモリー5のゆっきーに夢中の残念イケメン。一方、ゆっきーは外面こそゆるふわな典型的アイドルだが、のし上がるための努力を惜しまず、不甲斐ない他のメンバーに対して陰で毒づく野心家の少女だった。ある日、ゆっきーはライブ中にステージから落ち、観客席の最前列にいたユキと激突してしまう。そして気が付くと、2人の心と体が入れ替わってしまっていたのだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
入れ替わりものであるのと同時にアイドルものとしてもよくできています。ゆっきーは入れ替わり前と入れ替わり後でそれぞれ別の魅力がありますし、絵柄も可愛らしくてグッドです。作者は女性ですが、ハートフルなラブコメディとして男女ともに楽しめるバランスの良い作品に仕上がっています。ただ、全1巻と話が短いので最後は強引にまとめてしまったところが少々残念です。