最新更新日2019/04/19☆☆☆

Next⇒【時をかける少女】おすすめ!平成のアニメ映画・後篇【君の名は】

令和元年に平成の時代を振り返ろうということで、過去30年間のさまざまな作品について紹介していきます。まずはアニメ映画です。日本においてアニメはディズニーなどとは異なる独自の進化を遂げていきました。そして、平成の世にはジャパニメーションと呼ばれ、世界から大きな注目を集めるようになったのです。
ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した『千と千尋の神隠し』や日本の映像作品として初めて北米ビデオ売上100万本を達成した『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』などはその代表的な存在だといえるでしょう。もちろん、他にも名作、力作が目白押しです。そこで、一体どのような作品があったのか、その一部を紹介していきます。
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1989年(平成元年)

魔女の宅急便(宮崎駿監督)

魔女の家系に生まれた少女・キキは古いしきたりにしたがって、13歳になった満月の夜に修行の旅に出ることを決意する。コリコという海に囲まれた街を見つけてそこに定住することにしたものの、田舎と違って都会の人々はどこかよそよそしかった。そんな中で、キキはパン屋のおソノさんに出会い、彼女の店に居候することになる。そして、空を飛ぶ能力を活かして宅急便を開業したキキは次第に街の人々とも打ち解けていく。ところが、彼女は突然、空を飛べなくなってしまい.....。

監督の宮崎駿はそれまでも『ルパン三世 カリオストロの城(1978 )』『風の谷のナウシカ(1984)』『天空の城ラピュタ(1986)』『となりのトトロ(1988)』といったアニメ史に残る名作を次々と発表していましたが、興行成績は今一つ奮いませんでした。そんな中で興行収入36億円を叩きだし、宮崎駿とスタジオジブリの名がアニメファンの枠を超えて一般層にまで浸透するきっかけとなったのが本作です。ストーリー自体は起伏が乏しく、クライマックスの飛行船事故のシーンもとってつけた感があるのですが、とにかくアニメとしての楽しさを感じさせる演出力に優れ、見ていると思わず画面に引き込まれていきます。特に、飛行シーンはさすがの素晴らしさです。ユーミンの曲も雰囲気にぴったり合っており、作品に彩りを添えてくれます。ヒロインの葛藤や心理描写も丁寧で、等身大の少女の成長を描いた作品として高い完成度を誇っています。平成の始まりを告げるにふさわしい傑作です。
魔女の宅急便 [DVD]
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
2014-07-16


ファイブスター物語(やまざきかずお監督)
イースター太陽系の惑星アドラーに降り立った青年ソープは自由都市バストーニューの郊外にあるバランシェ邸を訪れ、そこで領主に連行された新作ファテマの救出を依頼される。連れ去られたファテマの名はラキシスとクローソー。2人を保護したソープは悪逆の限りを尽くす領主に対し、巨大人型ロボットである金色のモータヘッドで立ち向かう。

原作コミックは56億7000万年に及ぶ星団の歴史を描いたSFファンタジーであり、1986年のスタート以来、未だ断続的に連載が続いています。本作はその第1話を映像化したものですが、上映時間は1時間余りと短く、それだけでは壮大な物語の全貌を理解することは到底不可能です。しかし、それでも緻密な作画とクオリティの高い音楽に支えられ、アニメーションとして素晴らしい出来に仕上がっています。キャラデザは原作者である永野護の絵を見事に再現しており、モーターヘッドの重量感あふれるバトルシーンも迫力満点です。単体作品としては物足りないかもしれませんが、壮大なサーガの入門編として非常に良くできた作品だといえます。
ファイブスター物語 [DVD]
堀川亮
アトラス
2003-04-17




機動警察パトレイバー the Movie(
押井守監督)
東京湾に浮かぶ方舟は国家的土木事業であるバビロンプロジェクトの要となる巨大プラットフォームだ。その屋上から篠原重工の天才プログラマーとして知られる帆場暎一が投身自殺を図る。それ以降、東京では多足歩行型作業機械・通称レイバーの暴走事件が多発し、そして、ついには自衛隊の無人レイバー暴走という騒動にまで発展する。その異常さに気がついた特車2課第2小隊の後藤隊長と篠原遊馬巡査は独自に調査を始めるが、やがて明らかになったのは東京を壊滅に追い込みかねない恐るべき計画だった。

もともとは少年漫画、OVA、ゲーム、小説などが同時期に発表されたメディアミックス作品であり、劇場版はOVAの好評を受けての製作でした。しかし、これがメディアミックスの派生作品とは思えないほど完成度の高い作品に仕上がっています。まず、冒頭の暴走レイバーと自衛隊の戦闘シーンが迫力満点に描かれており、ここで一気に物語に引き込まれます。その後はレイバー暴走を巡るサスペンスミステリーのような展開になるのですが、犯人はすでに自殺しており、捜査を続けていく内に彼の東京に対する愛憎の念が強く浮かび上がってくるというプロットが秀逸です。また、シリーズのレギュラーキャラクターによるコミカルなシーンを挟みながらも恐るべき計画が次第に明らかになっていくプロセスもサスペンス映画としてよくできています。そして、なんといっても秀逸なのがラスト30分の決戦シーンです。巨大な密閉空間での緊迫感あふれる攻防は白眉の出来だといえるでしょう。テーマ性と娯楽性が絶妙なバランスで両立しているという意味では、数あるアニメ映画の中でも屈指の完成度を誇る、名作中の名作です。
機動警察パトレイバー 劇場版 [Blu-ray]
冨永みーな
バンダイビジュアル
2008-07-25




1991年(平成3年)

老人Z(北久保弘之監督)
高沢喜十郎(87)は寝たきりの独居老人であり、看護学生のボランティア・三橋晴子の介護を受けていた。そんなある日、
喜十郎厚生省の介護ロボットZ-001のモニターに選ばれ、施設に運ばれる。ところが、しばらくして晴子の通う看護学院のパソコン画面に「助けて、晴子さん」という文字が無数に打ち出されるという怪現象が起きるのだった。喜十郎が助けを求めているのだと感じた晴子は仲間と共に施設に忍び込む。すると、そこには無数のチューブでZ-001に接続された喜十郎の姿があった。ショックを受ける晴子の前に厚生省役員の寺田卓が現れて押し問答になるが、次の瞬間、Z-001が暴走を始め......。

脚本&メカデザイン・大友克洋、キャラクターデザイン・江口寿史という異色のタッグが話題を呼んだオリジナルアニメ映画です。バブルの時代から既に懸念され始めていた高齢者問題にスポットを当てた作品ですが、変に深刻ぶることなくブラックな笑いで駆け抜けていくところが実に痛快です。上映時間は80分と短めで、テンポの良さも抜群です。また、全体的に80年代的空気の濃厚な作品なので今見ると、現代とのギャップという点でも興味深いものがあります。さらに、コメディ作品なのに、クライマックスで『AKIRA』のような展開になるのもいい味を出しています。気楽に見れて、それでいながら考えさせられるテーマも内包している良質な娯楽作品です。
老人Z HDマスター版 [DVD]
松村彦次郎
アニプレックス
2005-04-13



1992年
(平成4年)

紅の豚(宮崎駿監督)

ポルコ・ロッツはイタリア空軍のエースだったが、自分自身に豚になる魔法をかけ、現在はアドリア海の小島で空賊退治を請け負う賞金稼ぎをしながら暮らしていた。ある日、ミラノに向かって飛んでいたポルコは途中で空賊の雇った用心棒のカーチスと遭遇し、戦闘となる。エンジンの不調もあってカーチスに撃墜されたポルコは大破した
愛機をピッコロ社に持ち込み、そこで17歳の飛行設計技師・フィオと出会う。若いながらも卓越した才能を持つ彼女は壊れた飛行艇の再設計を自分に任せてほしいと申し出るが.....。

宮崎駿のフィルモグラフィーの中では最も趣味の色が強い作品であり、そのため、肩の凝らない娯楽作品に仕上がっています。一言でいえば豚が飛行艇を操って空を飛ぶだけの映画なのですが、飛行艇の戦闘シーンは迫力満点ですし、何よりダンディズムを体現したような主人公の台詞回しが最高です。これが普通の人間の口から出ると少々嫌味に聞こえるところを主人公を豚にすることで逆に、純粋なかっこよさを演出することに成功しています。森山周一郎の渋みのある声もキャラクターにピッタリで、古き良き時代の男の映画をうまくアニメに翻訳した傑作です。
紅の豚 [DVD]
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
2014-07-16


ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌(須田裕美子・芝山努監督)
図工の授業で”わたしの好きな歌”というテーマで絵を描くことになったまる子は音楽の時間に習った『めんこい仔馬』の歌を絵にしようと決める。ある日、まる子は街で似顔絵描きのお姉さんと出会い、その幻想的な絵に惹かれ、それがきっかけで2人は仲良くなっていった。やがて、まる子は『めんこい仔馬』の歌をどのように絵にしたらよいのか悩んでいることをお姉さんに打ち明ける。しかし、その歌は決してのどかな内容ではなく、戦地に馬を送り出す歌なのだと聞かされまる子はショックを受ける。

当時、ブームとなっていたテレビアニメ『ちびまる子ちゃん』の劇場版第2弾です。しかし、映画だけあって原作やテレビドラマで展開されるエッセイ風コメディとは違い、ストーリー中心の作品になっています。まる子とお絵描きお姉さんの交流はなかなか感動的な話に仕上がっていますし、なにより、いろいろな歌を効果的に使い、幻想的なシーンとリンクさせているのが印象的です。基本的には子ども向けではあるのですが、涙あり笑いあり、歌のシーンのアバンギャルドな味わいありと、非常に見所の多い作品に仕上がっています。ちなみに、本作は昔VHSビデオが出たきりで、DVDは発売されていません。今となっては幻の傑作というべき存在です。
ちびまる子ちゃん~わたしの好きな歌~ [VHS]
さくらももこ
フジテレビジョン
1993-11-19


1993年(平成5年)

機動警察パトレイバー2 the Movie(押井守監督)
2002年冬。横浜ベイブリッジで爆破事件が発生した。最初は時限爆弾によるものだと思われたが、実際は自衛隊の戦闘機F-16 によるミサイル攻撃だったことが判明する。続いて、三沢基地所属機による東京爆撃未遂事件が起きるに至って警察組織と自衛隊との対立が表面化、基地司令を青森県警が拘束する事態に陥ってしまうのだった。一方、特車二課第二小隊隊長である後藤の前に陸幕調査室別室の荒川という男が現れ、一連の騒動の黒幕と思われる柘植行人の捜索協力を依頼する。しかも、その柘植という男は特車二課第一小隊の隊長である南雲しのぶとかつて愛人関係にあったのだ。その後も、政府、警察、自衛隊の対立は悪化の一途を辿り、ついに政府はすべての責任を警察に押しつけ、自衛隊の治安出動という暴挙に出る。全く収拾の目途のつかない事態の中、所属不明の3機の戦闘ヘリが飛び立ち、東京の交通網及び通信網を破壊していく。この攻撃によって東京は完全に孤立化、敵と味方の区別さえつかない戦場となってしまうのだった。混乱の極みの中で後藤は事件の幕引きを図ろうと、今は散り散りとなっているかつての第二小隊のメンバーに招集をかける.....。

ロボットアニメの形をとっていますが、その中身は日本の安全保障問題に真正面から切り込んだ極めて硬派な作品です。しかも、それでいながら緊迫感あふれる自衛隊機のスクランブルシーンや破壊のカタルシスを感じさせる戦闘ヘリによる東京襲撃シーンなど娯楽作品としても見所満載の作品に仕上がっています。とはいうものの、基本的にはテーマ性を重視したシリアスな作品であるため、全体的に暗くて重い極めて観念的な作品になっています。その辺りをどう感じるかは好みの分かれるところではないでしょうか。また、レギュラーキャラが終盤の決戦シーン以外にはほとんど登場しない点もシリーズのファンとしては残念なところです。とはいえ、極めて挑戦的でかつ完成度の高い作品であり、90年代を代表するアニメ映画の一つであることには間違いありません。ちなみに、『タイタニック』や『ターミネーター』などの監督として知られるジェームス・キャメロンは本作を偏愛しており、その名シーンを映画『トゥルーライズ』の中で引用しています。
機動警察パトレイバー2 the Movie [Blu-ray]
冨永みーな
バンダイビジュアル
2008-07-25




獣兵衛忍風帖(川尻善昭監督)
牙神獣兵衛は主を持たず、金で仕事を請け負うはぐれ忍びだった。ある時、望月藩お抱えの甲賀組くのいち・陽炎を助けたことで謎の忍び集団・鬼門八人衆に命を狙われることになる。陽炎は村に広まっている疫病の原因を探るために仲間と一緒に調査をしていたのだが、突然・
鬼門八人衆の襲撃を受け、彼女以外は皆殺しにされたというのだ。成り行きで、陽炎と共闘することになった獣兵衛。だが、対する鬼門八人衆はいずれも異形の術の持ち主であり、2人は苦戦を強いられる。しかも、闘いの中、獣兵衛は思わぬ形で過去の因縁と向き合うことになり.......。

『妖獣都市』や『魔界都市新宿』などの菊池秀行原作の伝奇バイオレンスアニメで注目を集めていた川尻善昭監督が初めてオリジナルものに挑戦した作品です。複数の忍者が奇怪な忍術を駆使して死闘を繰り広げるコンセプトは、山田風太郎の忍法帖を彷彿とさせるところがありますが、スピード感あふれるスタイリッシュなアクションは、川尻作品ならではのカッコ良さです。敵役である鬼門八人衆も一人一人が強烈な個性を放っており、娯楽作品としてこれ以上はないという面白さを最初から最後までキープし続けています。また、エロティシズムやグロテスクさを全面に押し出した作風も当時のアニメとしては極めて貴重な存在だといえるでしょう。ちなみに、本作はニンジャ&バイオレンスといった要素が強調されたことで日本よりもむしろ海外でヒットし、北米ではビデオセール50万本を記録しています。アニメ映画としてのクオリティも申し分なく、大人向けの面白いアニメを観たいという人におすすめしたい傑作です。
ゆうばり国際冒険・ファンタスティック映画祭'93ゆうばり市民賞
獣兵衛忍風帖 [Blu-ray]
山寺宏一
FlyingDog
2012-05-23


美少女戦士セーラームーンR(幾原邦彦監督)
セーラームーンこと月野うさぎはボーイフレンドの地場衛とデートをしている途中で不思議な雰囲気をまとった青年・フィオレと出会う。彼は異星人で衛の幼馴染でもあるのだが、悪魔の花・キセニアンに心を支配されていた。地球を滅ぼそうとするフィレオに対して衛はタキシード仮面になって立ち向かうも、セーラームーンをかばって傷つき、そのまま連れ去られてしまう。絶望に苛まれるセーラームーンだったが、仲間のセーラー戦士たちに励まされ、衛を救うべく立ち上がる。一方その頃、地球に向かって小惑星が接近しつつあった。その小惑星こそがキセニアンの本拠地だったのだ。そこに衛がいることを突き止めたセーラームーンたちは、5人で小惑星に乗り込むが......。

1992年よりテレビアニメがスタートし、社会現象を巻き起こしたシリーズの劇場版第1弾です。とはいえ、上映時間は60分と短く、もともと子ども向けの作品なのでストーリー的にもそれほど凝ったものではありません。敵との戦いと仲間との友情を描いた極めてシンプルで王道的なものです。しかし、本作ではそのシンプルなストーリーが逆に功を奏しています。幾原
邦彦監督の演出が冴えわたり、シンプルだからこそ的確に物語を盛り上げていきます。特に、クライマックスで挿入歌が流れ始めてからの盛り上がりは尋常ではないほどです。ラストも余韻を残す美しい幕切れで、実に印象的です。シンプルイズベストな傑作だといえるでしょう。
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三石琴乃
東映ビデオ
2004-12-10



1994年
(平成6年)

ストリートファイターⅡ MOVIES STREET FIGHTER!(杉井ギサブロー監督)

犯罪シンジゲートのシャドルーはその魔の手を世界中に伸ばし、各地ではテロ活動が相次いでいた。インターポールの春麗はすべての黒幕であるベガの行方を追っていた。そして、アメリカ空軍のガイルと手を組み、シャドルー壊滅に向かって動き出す。しかし、ベガの部下であるバルログが姿を現し、
春麗に襲いかかる。一方、世界中を巡りながら修行の旅を続けていた格闘家のリュウは、格闘能力に優れた素体を探していたベガの標的にされるが......。

アーケードゲームであるストリートファイターⅡの絶大な人気を受けて作られたアニメ映画です。そのため、100分足らずの上映時間で16人に及ぶゲームキャラを登場させるという少々詰め込み過ぎな内容になっています。いかにもファンサービス的な映画であり、総合的な評価でいえば凡作といっても差支えないでしょう。しかし、その一方で、キャラクターの個性をうまくつかんでおり、バトルシーンなどはかなり見応えがあります。特に、春麗VSバルログのエロティシズム漂う死闘やベガVSリュウ&ケンの迫力満点のバトルは必見です。篠原良子の歌う主題歌も印象的であり、一本の映画として見れば凡作でも、ファン向けの作品としてはかなり密度の高い力作だといえます。少なくとも、同じ年に公開されたハリウッド版に比べれば100倍は面白い出来です。
ストリートファイターII【劇場版】 [DVD]
清水宏次朗
SME・ビジュアルワークス
2000-09-20



1995年
(平成7年)

耳をすませば(近藤喜文監督)
本好きの中学3年生、月島雫は自分の借りた本の図書カードにいずれも天沢聖司という名前が記されていることに気づく。ある日、彼女は電車の中で不思議な猫と出会い、それを追っていくと地球屋という古道具屋にたどり着いた。そこには猫の人形のバロンや古時計などといった珍しい品が並べられている。雫は老店主からそれらの品の説明を受け、楽しい時を過ごすが、あとになってその店主が
天沢聖司の祖父だという事実を知る。そうして、出会った聖司は雫と同い歳で、ヴァイオリン職人を目指している少年だった。彼は学校を卒業すると同時に一人前の職人になるためにイタリアに留学するという。雫は次第に聖司に惹かれていきつつも、夢に向かって真っすぐに進んでいる彼に対してコンプレックスを抱くようになっていった。そこで、彼女は聖司と対等な場所に立つために、バロンを主人公にした物語を小説という形にして完成させることを思いつくが.......。

監督は近藤喜文となっていますが、脚本・プロデュース・製作指揮などを宮崎駿が担当しており、実質宮崎作品といっても差支えない映画です。そして、宮崎作品にしては珍しくファンタジー要素のほとんどない、青春物語に仕上がっています。そのため、いつもの作品と比べると地味だともいえるのですが、思春期の悩みや将来に対する漠然とした不安などが丁寧に描かれており、美術や音楽の素晴らしさも相まって一級のアニメーションとして成立させているのが見事です。また、少年少女の恋愛を真正面から描くのも宮崎作品としては珍しく、その真っすぐな恋愛描写が逆に新鮮に感じられます。『魔女の宅急便』や『紅の豚』とはまた違った味のある佳品です。
耳をすませば [DVD]
本名陽子
ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
2002-05-24




GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊(押井守監督)
地球がネットの海で覆い尽くされ、人類の多くが義体と呼ばれる機械の体を持つようになった近未来。外務大臣の通訳が電脳をハッキングされるという事件が起きる。しかも、その容疑者として国際手配中の凄腕ハッカー〝人形遣い”が浮上する。公安9課の草薙素子は人形遣いの正体を追うが、そこには意外な事実が待ち受けていた。
◆◆◆◆
近未来SFのかっこ良さを凝縮したかのような世界観とスタイリッシュな映像によって世界的な評価を受けた押井守監督の代表作です。民族音楽のような独特なBGMも見事に作品世界にマッチしており、ストーリーも派手さはないものの、よく練り込まれています。ただ、難解で暗めの作風だったため、日本ではそれほど評判になることはありませんでした。その代わり、海外ではエキゾチックでクールな作風が絶賛され、日本の映像作品で初めて北米ビデオセールが100万本を突破するという快挙を成し遂げています。『マトリックス』など海外作品に与えた影響も大きく、日本が世界に誇るべき作品の一つだといえるでしょう。
GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 [Blu-ray]
田中敦子
バンダイビジュアル
2017-04-07



1996年(平成8年)

映画 クレヨンしんちゃん 
ヘンダーランドの大冒険(本郷みつる監督)
幼稚園の遠足で群馬県の遊園地・ヘンダーランドに出かけたしんのすけはみんなとはぐれて遊園地をさ迷っているうちにトッペマ・マペットというねじ巻き人形と出会う。彼女はこの
ヘンダーランドがオカマ魔女のマカオとジョマの居城であり、彼らが地球征服をたくらんでいると告げる。そして、なんでも願いのかなうトランプを渡すかわりに彼らの野望を阻止するのを協力してほしいと頼むのだった。しかし、そこにマカオとジョマの部下が現れ、2人に襲いかかる。しんのすけは何とか家に逃げ帰るが、そのことがトラウマになってトッペマの願いを引き受けることができずにいた。しかも、しんのすけの持つトランプを奪おうとマカオとジョマの部下がしんのすけの通う幼稚園に教育実習生として潜り込んできて......。

テレビ版のホームコメディとは趣の異なる作風で大きな人気を誇っている劇場版クレヨンしんちゃんですが、映画として初めて高い評価を得ることになった作品が本作です。その要因として、原作者自らが描いた長編作品を映画化するというスタイルをやめ、オリジナル作品に転換したことが挙げられます。そのため、原作やテレビ版のフォーマットにとらわれない、実にイマジネーション豊かな作品を作り上げることに成功したのです。随所におなじみのギャグを散りばめながらも敵であるス・ノーマン・パーの怖さをきっちりと表現しているあたりがファンタジー作品としてよくできています。そして、なんといってもクライマックスのヘンダーランドにおける鬼ごっこが秀逸です。軽快なアクションとテンポのよいギャグはアニメの楽しさそのものを見事に体現しています。子どもから大人まで楽しめるファミリー向け映画の傑作です。



1997年
(平成9年)

もののけ姫(宮崎駿監督
室町時代の日本。エミシの村に突如としてタタリ神が出現した。少年・アシタカは荒れ狂うタタリ神を討ち果たすが、その代償として右腕に死の呪いを受けてしまう。タタリ神の正体は巨大なイノシシの神であり、アシタカは呪いを解く方法を見つけるために、イノシシがやってきた西の方角を目指す。やがて、たどり着いたのはタタラ場と呼ばれる製鉄の村だった。村はエボシという女性の統治によって栄えていたが、自然破壊を続けることで山に住むもののけたちと対立状態にあった。やがて、アシタカはエボシの命を狙って山を降りてきたもののけ姫のサンと邂逅する。彼女の正体は巨大な山犬によって育てられた人間の娘だった。エボシを討つのに失敗したサンは逆に追い詰められるが、その窮地をアシタカが救う。だが、人間を憎むサンはアシタカに襲いかかり.......。

古き神々であるもののけたちと新しい時代を切り開いていこうとする人間たちの戦いを描いたスケールの大きな物語であり、同時に、自然と人間との関わり合いについて問い直す極めてテーマ性の強い作品に仕上がっています。いわば、この時点での宮崎駿の集大成というべき大作です。それだけに本作に対する注目度は高く、興行収入193億円という当時の日本記録を打ち立てることになりました。実際、本作は荘厳な雰囲気といい、クオリティの高いアニメーションといい、その記録にふさわしい出来だといえるでしょう。大物俳優を配した声の演技も堂々たるもので、作品としての説得力を高めることに成功しています。特に、田中裕子演じる、悪とも善とも言い切れないエボシの複雑なキャラクターが印象的です。ただ、スケールが大きい割にクライマックスがあっさりとしているところや全体的に『ナウシカ』に似すぎている点は賛否が分かれるところではないでしょうか。
毎日映画コンクール日本映画大賞
第1回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞
もののけ姫 [DVD]
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
2014-07-16


劇場版 新世紀エヴァンゲリオン AIR/まごころを君に(庵野秀明監督)
すべての使徒を倒したのもつかの間、ネルフの上位組織であるゼーレは碇司令の裏切りに対して、戦略自衛隊による武力侵攻を開始する。その狙いはネルフ本部を占拠し、当初の予定通りサードインパクトを発動させることにあった。次々と送り込まれてくる戦自部隊に対し、対使徒用に作られたネルフは有効な対抗手段を持っておらず、ネルフの施設は次々と占拠されていく。一方、エヴァ初号機のパイロットである碇シンジは
渚カヲルを自ら手にかけたことで生きる気力をなくしていた。自衛隊員に発見されても抵抗するそぶりすら見せなかったが、間一髪のところで葛城ミサトに助けられる。その頃、廃人同然の状態でエヴァ弐号機のコックピット内にかくまわれていた惣流・アスカ・ラングレーが突如覚醒し、自衛隊への反撃を開始する。しかし、そこにゼーレから送り込まれた9体の量産型エヴァが姿を現し......。

1995年に放送が始まり、一大ブームを巻き起こしたテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の劇場版です。ただ、本作はテレビシリーズと独立した物語ではなく、シリーズ完結編という位置付けになっているため、この映画だけを見てもストーリーを理解することはできないでしょう。そもそも、本作はスケジュール崩壊のためにまともなストーリーを放棄せざるを得なかったテレビ版ラスト2話の作り直しなのですが、作り直してまともな話になったかといえば大いに疑問の残るところです。メインストーリーそっちのけで精神世界の描写に終始するところはある意味テレビ版の最終回と同じですし、過熱するファンへの批判メッセージを盛り込むなど娯楽作品としてはどう見ても失格です。案の定、本作は賛否両論の真っ二つに分かれ、駄作と切って捨てる人も少なくありませんでした。しかし、間違っても単なる凡作ではありません。娯楽作品としてのコードは大きく逸脱しているものの、映像のインパクトは狂おしいまでに強烈です。特に、挿入歌”甘き死よ、来たれ”のメロディが流れる中、人類補完計画が進行していく場面は破滅のカタルシスに満ちています。ラストシーンも衝撃的でなんだか夢に出てきそうな後味の悪さです。混沌とした凄味のある作品という意味で本作を超えるアニメ映画はなかなかないのではないでしょうか。



1998年(平成10年)

機動戦艦ナデシコ The prince of darkness(佐藤竜雄監督)
木星蜥蜴との戦争が終結して3年が過ぎた2201年。新たな航行手段としてホゾンジャンプを研究しているコロニーが次々と謎の勢力に襲撃される。若干16歳で宇宙戦艦ナデシコBの艦長になっていたホシノ・ルリは事件の調査のためにターミナルコロニーのアマテラスに向かい、そこで一連の事件の首謀者と思われる敵勢力の攻撃を受ける。激戦の中、突如黒いエステバリスが乱入するが、そのパイロットは飛行機事故で死んだと思われていたテンカワ・アキトだった。

1996年に放送されたテレビアニメの劇場版。舞台はテレビシリーズのスタートから数えると5年の歳月が過ぎており、一部のキャラクターの外見や性格がかなり変化しているのが目を引きます。しかも、テレビシリーズではわき役だったホシノ・ルリを主役に配し、ヒロインだったミスマル・ユリカはほとんど出番がないなどといったかなり変化球な作りになっているのです。そのため、テレビシリーズと同じものを期待していた人は失望感を味わったのではないでしょうか。しかし、一つのアニメ作品として見ると密度の濃いロボットアクションが展開され、見せ場がテンポよく続くのでかなり見応えのある作品に仕上がっています。また、シリーズのファンからも「テレビアニメとのギャップが逆に面白い」という声も少なくありませんでした。それに、ギャグにもシリアスにも成りきれない独特のノリはやはりナデシコそのものです。また、SFアニメとして非常に魅力の多い作品で、本作は第30回星雲賞に輝いています。ただ、続編が予定されていた作品であるのに結局未完のまま終わってしまった点はいかにも残念です。
第30回星雲賞映画演劇部門・メディア部門賞



映画 クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦(原恵一監督)
世界征服をたくらむ秘密結社ブタのヒズメは恐るべきコンピューターウイルスを作り出す。その野望を阻むべく、国連直属組織SML(正義の味方LOVE)のエージェント、コードネーム”お色気”はブタのヒヅメの飛行船からウイルス発動に必要なディスクを盗み出す。そして、彼女が逃げ込んだのはふたば幼稚園の面々が宴会を開いている屋形船だった。お色気を追う飛行船は屋形船ごと彼女を捕獲する。幼稚園の先生や園児たちは船から飛び降りて難を逃れるが、しんのすけやネネたちは船に取り残され......。

クレヨンしんちゃん劇場版の第6弾です。前作の『暗黒タマタマ大追跡』から監督が原恵一に交代したことで従来の活劇的な面白さに加えてドラマ面でも充実度を増してきたシリーズですが、本作においてもシリアスとギャグの緩急の付け方や感動シーンの盛り上げ方などが実に見事です。子ども向けながら切れ味のよいアクションは大人が見てもわくわくする出来ですし、行方不明になったしんのすけを必死で探す野原夫婦の姿には思わず胸が熱くなります。しかし、本作において特筆すべきはコンピューターウイルスによって実在化したぶりぶりさえもんの存在でしょう。自分勝手ですぐに裏切る最低なキャラクターとして描かれているにも関わらず、いざというときには身を呈して人助けをする、そのギャップから醸し出される魅力がたまりません。故・塩沢兼人のクールな声もぶりぶりさえもんのキャラに実によくマッチしてます。『ヘンダーランドの大冒険』と並ぶシリーズ初期の代表作だといえるでしょう。



パーフェクトブルー(今敏監督)
アイドルグループのCHAMに所属していた霧越未麻は突如グループ脱退を宣言し、女優への転身を図る。事務所の意向によって行われたこの脱退劇をステップアップのためだと
未麻は自分自身を納得させるものの、現実は厳しかった。レイプされる役やヘアヌード写真集のオファーなど、アイドル時代には考えられなかった仕事に向かい合わなくてはならなくなったのだ。それでも女優としての仕事は次第に軌道に乗っていくが、未麻自身はアイドル時代が忘れられず、いつしか昔の自分の幻影を見るようになる。そんな時、未麻のなりすましがwebサイトを開設し、虚実を交えて彼女のプライベートを暴き始める。そこには未麻しか知り得ない情報が数多く含まれていた。彼女はストーカーに監視されていたのだ。しかも、ストーカー行為は次々とエスカレートし、ついには殺人事件にまで発展する。

日本よりもむしろ海外で評価の高い今敏の監督デビュー作品です。ヒロインが自分の生き方やストーカーの存在に悩まされるといったいかにも実写的な題材をあえてアニメという媒体で映像化し、そこにアニメならではの演出を施すことによって独自の世界を築き上げることに成功しています。また、現実と虚構の反転というのは今敏が繰り返して描いているモチーフですが、本作はその手法が最もシャープな形で用いられた作品だといえるでしょう。現実に対する閉塞感に押しつぶされそうにヒロインの前に過去の自分の幻影がしばしば現れるシーンは彼女の不安定な精神状態を表現するものとして秀逸です。同時に、それがストーカー殺人の犯人の正体とリンクして反転するところなどはアニメでしか表現しえないどんでん返しとして機能しています。アニメの新しい可能性を示したサスペンスミステリーの傑作です。
パーフェクトブルー【通常版】 [Blu-ray]
新山志保
ジェネオン エンタテインメント
2008-02-29



少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録(幾原邦彦監督)
幼いころに王子様に命を助けられた天上ウテナはその存在に憧れ、いつしか男装に身を包むようになり、男勝りな性格に育っていく。そんな彼女が入学した鳳学園では薔薇の花嫁と呼ばれる少女・姫宮アンシーを巡って決闘が行われていた。彼女とエンゲージすることで世界を革命する力を得られるというのだ。ウテナはアンシーを
道具扱いしている西園寺莢一に憤りを覚え、彼に対して決闘を挑むが.......。

1997年にテレビアニメとして放送されていた『少女革命ウテナ』を劇場版として再構築した作品です。とはいっても単なるダイジェスト版ではなく、テレビ版と設定がかなり異なっているのが目を引きます。特に、ヒロインの姫宮アンシーは見た目も性格もテレビアニメ版とはほとんど別人です。そして、肝心の中身はどうかというと、予備知識のない一見さんにとっては全く意味不明のストーリーが展開されます。いや、テレビシリーズを見ていた人にとってもこの話を完全に理解することは不可能でしょう。とにかく、最初から最後まで思わせぶりな台詞と唐突で整合性のないシーンが続いて行くのです。しかし、だからといって全くつまらないかというと、そんなことはありません。刺激的な映像とクオリティの高い音楽で畳みこまれ、妙に惹きつけられる魅力があります。そもそも、監督の幾原邦彦は『セーラームーン』の時代から先鋭的な演出で有名な人でしたが、その異能というべきセンスは本作で頂点に達します。豪華絢爛意味不明のオンパレードで特に終盤の”ウテナカー”のわけのわからなさには思わずのけぞってしまいそうです。激しく賛否の分かれる、アニメ映画史上屈指のカルト作品だといえるでしょう。



2000年
(平成12年)

人狼 JIN-ROH(沖浦啓之監督)
第2次世界大戦の敗北から十数年が過ぎていた。戦勝国のドイツによって占領されていた日本はようやく混迷期を抜け出し、国際社会へ復帰しようとしているところだった。しかし、そのために強行された経済政策は反動による失業者の増加とそれに伴う社会不安をもたらすことになる。そして、セクトと呼ばれる過激派集団が誕生し、国に対して武装闘争を挑むようになっていた。政府は東京の治安を守るべく首都警を設立。以後、セクトと首都警は頻繁に市街戦を繰り返すことになる。伏一貴はその
首都警の一員であり、一切の感情を切り捨てて寡黙に任務をこなす一匹狼だった。だが、赤ずきんと呼ばれる少女との邂逅が彼の心にある変化をもたらし始める。

全体的に重く暗い話であり、アニメならではの躍動感といったものは皆無です。その代わり、キャラクターの動きは滑らかで戦闘シーンなども迫力があって見応えがあります。本来であれば実写で撮るべき作品だといえますが、日本の実写映画でこれだけのクオリティを実現することが困難である事実を考えるとアニメで正解だったのでしょう。渋いハードボイルドな雰囲気が全編に漂っており、「大人から子どもまで楽しめる」ではなく、大人だけがその魅力を理解することのできる傑作です。
人狼 JIN-ROH [Blu-ray]
藤木義勝
バンダイビジュアル
2008-07-25



カードキャプターさくら 封印されたカード(浅香守生監督)
小狼が日本を去ってから月日が過ぎ、さくらは小学6年生になっていた。
小狼からの告白の返事がいまだに出来ていないことに悩むさくらだったが、一時日本に戻ってきた小狼と苺鈴にばったり再会する。苺鈴はさくらのために告白する場を設けるがなかなかうまくいかない。そんなとき、町中で特定のものが次々と消えるという怪現象が起き、その被害はさくらのクロウカードにも及ぶのだった。その犯人は名前のないクローカードだと判明し、さくらはなんとかこの異変を喰い止めようとするが......。

1998年よりNHKで放送されたテレビアニメの劇場版第2弾であり、原作者自らが脚本を手がけたアニメオリジナルの完結編です。一見さんお断りのファン限定作品ではあるのですが、小学生同士の甘酸っぱい恋愛を描いた作品として非常によくできています。ヒロインのさくらが終始可愛く、特にラストシーンの台詞にその可愛らしさのすべてが収束される構成が見事です。


デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム(細田守監督)
2000年の春休み。デジタルワールドで冒険を繰り広げた8人の子どもたちも今は小学生らしい普通の日常を送っていた。しかし、突如ネット上に新種のデジモンが出現し、世界中のデータを喰い荒していく。謎の新種デジモンの暴走に気づいた太一と光子郎は世界の危機を救うべく、仲間たちに連絡を取るが.....。

斬新な演出技法でアニメファンの注目を集めていた細田守の監督デビュー作です。40分という映画としては短い作品ですが、その中に卓越した映像センスと隙のないストーリー構成を組みこんだ緻密な作りが見事です。完全に子ども向けのアニメにも関わらず、大人が見ても思わず惹きつけられるような魅力が備わっています。極めて完成度が高く、アニメ作りのお手本というべき傑作です。



BLOOD THE LAST VAMPIRE(北久保弘之監督)
1966年の日本。ベトナム戦争の最中に小夜という名の少女が横田基地内のアメリカンスクールに転校してくる。彼女の正体はヴァンパイアハンター。人間に化け、スクールに潜む翼手と呼ばれる吸血鬼を狩るために組織から送り込まれてきたのだ。

人材育成のために結成された押井守主催の押井塾の中で企画が生まれた作品です。企画立案はテレビアニメ版『攻殻機動隊』などで知られる神山健治で、最初はあくまでも若手教育のために製作された、公開予定のない作品でした。ところが、その完成度があまりにも高かったために途中から劇場公開作品として製作されるようになったわけです。とはいっても、公開当時はそれほど大きな反響があったわけではありませんでした。セーラー服の少女が敵をなぎ倒すといえば今風のオタクアニメを連想するかもしれませんが、リアルすぎるキャラデザインや重くシリアスな物語は日本ではあまり受け入れられなかったのです。全編のほとんどが英語だというのも敷居を高くしてしまっていました。しかし、洋画ホラーなテイストと日本刀を手にしたセーラー服少女のスタイリッシュなアクションの組み合わせは海外で高く評価されることになり、製作会社であるProduction I.Gの名を世界に知らしめる結果となったのです。ちなみに、映画『キル・ビル(2003)』のアニメパート製作をI.Gが行ったのはタランティーノ監督が本作のファンだったためです。また、2009年には香港とフランスの共同制作で実写映画も作られています。
第4回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞
BLOOD THE LAST VAMPIRE [Blu-ray]
工藤夕貴
アニプレックス
2009-05-27



2001年
(平成13年)

千と千尋の神隠し(宮崎駿監督)
10歳の少女・千尋は車に乗って両親と一緒に引っ越し先へと向かうが、その途中で奇妙な無人の街へと迷い込む。店には美味しそうな料理が並べられており、それらを無断で食べた両親はたちまちブタの姿になってしまう。神へのお供え物に手を出したことで罰が当たってしまったのだ。千尋も窮地に陥るが、すんでのところでハクと名乗る少年に助けられる。ハクは行くあてのない千尋を油屋の女主人・湯婆婆に紹介し、彼女をここで働かせてほしいと頼む。
湯婆婆は千尋の名を奪い、これからは千と名乗るようにといって彼女に仕事を与えるが......。

興行収入316.8億円を叩きだし、『もののけ姫』の193億円という国内興行記録を宮崎駿監督自身が塗り替えたモンスター級のヒット作品です。また、観客動員数も『東京オリンピック』の1950万人の記録を36年ぶりに塗り替え、2350万人という空前絶後の記録を打ち立てています(※後記:2020年公開のアニメ映画『鬼滅の刃 無限列車編』によってこれらの記録は破られることになります)。さらに、ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した他、数々の映画賞にも輝いており、これらの実績はまさに史上最強の日本映画と呼ぶにふさわしいものです。ただ、ストーリー自体はそれほど独創的でもなければ波乱万丈だというわけでもありません。物語の充実度でいえば『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』あたりの方がはるかに上でしょう。その代わり、本作は世界観が魅力的であり、そこに詰め込まれたイマジネーションの豊さにはある種の凄味が存在します。躍動感あふれるキャラクターも魅力的でこれぞアニメーションといった楽しさに満ちています。もっとも、クライマックスがあっけなく、ヒロインの成長物語としても物足りないという弱点があるのは確かです。やはり、本作はストーリーそのものよりもただただイマジネーションの奔流に身を任せるのが正しい鑑賞法だといえそうです。
第52回ベルリン国際映画祭金熊賞
第68回ニューヨーク映画批評家協会賞アニメ映画賞
第28回ロサンゼルス映画批評家協会賞アニメ映画賞
第44回ブルーリボン賞作品賞
第56回毎日映画コンクール日本映画大賞
第5回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞
第25回日本アカデミー賞最優秀作品賞
他多数受賞

千と千尋の神隠し [DVD]
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
2014-07-16


COWBOY BEBOP 天国の扉(渡辺信一郎監督)
2071年。火星の都市でタンクローリーが爆発炎上するという事件が起きる。しかも、現場周辺の人々が次々と倒れていくという現象が起き、死傷者が400人を上回るという大惨事に発展したのだ。警察は生物兵器によるテロの可能性を示唆し、それを受けて火星政府は犯人の首に3億ウーロンの賞金をかけると発表する。偶然、事件の現場で手掛かりを手に入れたフェイは
3億ウーロンの賞金を手に入れるべく、ビバップの乗組員と共に犯人を探し始めるが.....。

ハードボイルドタッチの物語と小粋な台詞回し、軽快なジャズのリズムなどで多くのファンを獲得したテレビアニメの劇場版です。基本的なコンセプトはテレビ版と同じなのですが、映画だけあって作画は大きくレベルアップ。アニメーターのスキルが遺憾なく発揮された凝りに凝った映像を堪能することができます。特に、カンフーアクションを始めとする活劇シーンの素晴らしさにはため息がでるほどです。テレビ版のファンなら間違いなく、楽しめる出来に仕上がっています。ただ、その反面、バッドエンドのテレビ版を受けてか、ストーリーがシリアス一辺倒で、カウボーイビバップならではの小気味よいユーモアがほとんどなくなっている点はファンにとってはいささか残念だといえるのではないでしょうか。
COWBOY BEBOP 天国の扉 [Blu-ray]
山寺宏一
バンダイビジュアル
2008-01-25



映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲(原恵一監督)
20世紀を懐かしむ万博、20世紀博に訪れた野原一家はさまざまなアトラクションを満喫する。だが、この催しはどこか異様だった。それというのも、子どもたちよりも大人たちがハマっており、連日アトラクションを楽しむようになっていたのだ。ある晩、「明日の朝、お迎えにあがります」という20世紀博からのお知らせがあり、その放送を見た大人たちはまるで子どものようにふるまい始める。そして、次の朝にオート三輪に乗せられてどこかにいってしまったのだ。子どもたちだけが取り残され、ガスや電気の供給もストップした町。不穏な空気の中でしんのすけたちは一夜をすごし、再び朝が訪れた時、大人たちによる子供狩りが始まった.......。

クオリティが高いといわれるクレしん映画の中でも最高傑作の一つであり、大人が見て泣ける映画ということで公開当時かなり評判となった作品です。まず、20世紀という時代をノスタルジックに描くことで観客の涙腺を刺激し、その上で家族と共に明日に向かって歩んでいくことの尊さを提示することで感動へと至るプロットが見事です。特に、野原ひろしの回想シーンは平成アニメ映画の中でも屈指の泣けるシーンだといえるのではないでしょうか。また、後半の感動シーンばかりが注目されがちですが、前半の怒涛のギャグシーンも見逃せません。笑いと涙の詰まった極上のファミリー向け映画です。



バンパイアハンターD
(川尻善昭監督)
突如として姿を現し、人類を支配した吸血鬼もやがて種としての衰退期を迎え、全体の数を大きく減らしていく。その結果、地上の支配権は再び人類の手に戻ることになるのだが、僻地ではいまだに貴族と呼ばれる吸血鬼たちの恐怖による人間の支配が行われていた。その中にあって若い貴族・マイエルリンクは領民たちに徳の高い領主と称えられた希有な存在だった。だが、そんな彼も人間の娘を誘拐し、逃亡者となり果てる。依頼を受け、マイエルリンクを追うのは悪名高きマーカス兄妹、そしてもう一人、人間と吸血鬼の間に生まれたダンピールであり、最強のバンパイアハンターとして恐れられているDだった。

『獣兵衛忍風帖』の海外でのヒットを受け、アメリカで先行公開された作品です。そのため、日本のアニメにも関わらず、音声は英語だったのですが、DVD化の際に日本語バージョンも発売されています。内容的には『獣兵衛忍風帖』と同じく、異能の敵集団が現れ、次々とバトルが繰り広げられるという展開です。とはいっても、原作がジュブナイル小説ということもあって、『獣兵衛忍風帖』と比べるとエログロはさすがに控え目です。その代わり、主人公のDを始めとして世界観そのものに妖艶な雰囲気が満ちており、その中で繰り広げられるスタイリッシュなアクションのかっこよさにはほれぼれとしてしまいます。また、敵の能力もそれぞれ個性的なのでバトルものとしても飽きさせません。アニメならではの幻想性と活劇映画としての面白さが見事にマッチした傑作です。ただ、原作改変によって終盤の尺をかなり長くとったせいか原作と比べると敵とのバトル描写がやや淡泊になっています。原作ファンの中にはその点が物足りなく感じた人もいるのではないでしょうか。
バンパイアハンターD(オリジナル日本語バージョン) [DVD]
田中秀幸
エイベックス・ピクチャーズ
2002-06-19


2002年
(平成14年)

映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦
(原恵一監督)
ある夜、しんのすけは美しいお姫様の夢を見る。一方、飼い犬のシロが庭を掘り返すと、文箱が地中から出てきて箱の中にはしんのすけの筆跡で「おら、てんしょーにいる、おひめさまちょーびじん」と書かれた手紙が入っていた。それを見たしんのすけは目を閉じて夢の中のお姫様を思い浮かべるが、再び目を開けるとそこは見覚えのない場所だった。野原が広がり、合戦が繰り広げられている。しんのすけは戦国時代にタイムスリップしたのだ。合戦の最中、しんのすけは偶然、井尻又兵衛という武将の命を救い、春日城に案内される。そして、そこで出会ったのは夢で見たお姫様、廉姫だった。

大きな話題を呼んだ『オトナ帝国の逆襲』に続いて公開されたシリーズ第10弾ですが、これが前作をも凌ぐといわれる傑作に仕上がっています。まず、戦国の時代の描写が細やかで、合戦のシーンなどは下手な時代劇を凌ぐほどのリアリティに満ちています。そして、そうしたリアリティの中にしんのすけ一家の活躍を違和感なく溶け込ませているのが見事です。また、しんのすけ一家が車で敵陣の突入するシーンのカタルシスや悲哀をまとったラストまで1本の映画として非常によくできています。極めて完成度が高く、日本映画史に残る名作だといえるでしょう。なお、本作は2009年に草彅剛主演で『BALLAD 名もなき恋のうた』のタイトルで実写リメイクもされています。
第6回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞



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★★★
以下の作品はAmazon Prime Videoでも視聴可能です。希望の作品の画像をクリックするとPrime Videoの該当ページに行くことができます。

Chapter.2
機動警察パトレイバー the Movie