最新更新日2019/12/11 ☆☆☆

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本ミス2020
対象作品である2018年11月1日~2019年10月31日の間に発売された謎解き主体のミステリー作品の中からベスト10の順位を予想していきます。ただし、あくまでも個人的予想であり、順位を保証するものではありません。また、予想は作家の知名度や人気、作風、発売時期などを考慮した上で決めており、必ずしも予想順位が高い作品ほど優れているというわけでもありません。それらの点についてはあらかじめご了承ください。
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本格ミステリベスト10海外版最終予想(2019年11月12 日)

1位.メインテーマは殺人(アンソニー・ホロヴィッツ)→1位(実際の順位)※10位まで記載
『カササギ殺人事件』はクリスティのオマージュ作品でしたが、本作はホームズの物語のオマージュです。ミステリーとしては細かな伏線回収が見事で、フーダニットとしてもよくできています。なにより、ワトソン役である作者と探偵との軽妙な掛け合いが秀逸です。
メインテーマは殺人 (創元推理文庫)
アンソニー・ホロヴィッツ
東京創元社
2019-09-28


2位.黄(雷鈞)→6位
華文ミステリーですが、冒頭で叙述トリックの使用を堂々と宣言するあたりなどはまるで日本の新本格のようです。また、盲目の主人公のキャラが立ちまくっており、ぐいぐいと引き込まれていきます。そして、なんといっても最後に炸裂する大胆すぎる仕掛けが見事です。
黄
雷 鈞
文藝春秋
2019-07-24


3位.金時計(ポール・アルテ)
→5位
足跡トリックは決して新味のあるものではありませんが、図解入りでの説明は丁寧で、本格マニアの心をくすぐります。しかし、なんといっても強烈なのが1911年と1991年における2つの物語の異様な関連性です。緻密な構成と驚きの結末が印象的な怪作です。


4位.イヴリン嬢は七回殺される(スチュワート・タートン)→2位
まるで『七回死んだ男』と『人格転移の殺人』を合体させたような設定のSFミステリーです。一方で、トライ&エラーを繰り返しかえし、手掛かりを得ながら謎を解いていくという、TVゲームのようなプロットになっているのは本作独自の魅力だといえるでしょう。
イヴリン嬢は七回殺される
スチュアート タートン
文藝春秋
2019-08-09


5位.雪が白いとき、かつそのときに限り(陸秋槎)→4位
雪密室のトリックは小粒であるものの、ロジックが綿密に練られており、本格ミステリとしてなかなか楽しめる出来に仕上がっています。ただ、動機に関しては賛否両論かもしれません。青春ミステリーならではの動機なのですが、やや唐突感があるのが惜しいところです。


6位.密室殺人(ルーパート・ペニー)
→7位
1941年の作品。密室殺人と謳っているのに肝心の事件が半ばを過ぎても起きないのでかなりじれったさを感じます。しかし、実はその部分に伏線が張り巡らされており、なかなか手の込んだトリックを披露してくれます。ただ、展開がごちゃごちゃして読みにくいのが難。
密室殺人 (論創海外ミステリ)
ルーパート・ペニー
論創社
2019-07-03


7位.キャッスルフォード(J.J.コニントン)
1932年発表のクリントン・ドルフィールド卿シリーズ第10弾。流れ弾に当たって死亡したと思われた夫人は実は殺されていたという不可解な謎を扱っています。全編に伏線を散りばめ、パズルのように真相のピースを繋ぎ合わせていく緻密なプロットが見事です。


8位.クラヴァートンの謎(ジョン・ロード)
1933年発表。退屈な作品が多いと言われているジョン・ロードですが、本作はコンパクトな物語の中に富豪の不可解な死、奇妙な遺言、怪しげな関係者たち、クライマックスの降霊会といった具合に退屈する暇を与えません。古き良き時代の探偵小説の佳品です。


9位.八人の招待客(パトリック・クェンティン)→10位
複数のペンネームを持つ作家グループの中編2作を収録。特に、1936年発表の『八人の中の一人』は『そして誰もいなくなった』の先行作という意味で興味深いです。しかも、40階のビルの最上階をクローズドサークルにしてしまうという現代的な趣向に驚かされます。
10位.潤みと翳り(ジェイン・ハーバー)
『渇きと偽り』に続くシリーズ第2弾。遭難した5人の女性の内、一人が行方不明となり、一体そこで何が起こったのかを探っていく物語。巧みな心理描写を交えた人間ドラマの中に伏線を絡ませ、真実を浮かび上がらせていく手腕が見事です。ただ、本格色は前作より薄め。
潤みと翳り (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジェイン・ハーパー
早川書房
2019-08-06



その他注目作品20


11.思考機械 完全版(ジャック・フットレル)
隅の老人やソーンダイク博士と並んでホームズのライバルとして知られる思考機械シリーズの完全版。50作の収録作品の内、約半分が初翻訳及び単行本未収録作品だという事実に驚かされます。古き良き時代の探偵小説の香りを存分に味わえるマニア垂涎の作品集です。
思考機械【完全版】第一巻
ジャック フットレル
作品社
2019-05-10


12.ゴーストライター(キャロル・オコンネル)
マロリーシリーズ第11弾。劇の上演中に客席にいた脚本家が殺され、謎のゴーストライターが跋扈し、一癖も二癖もある人物が次々と登場する展開に惹かれます。ただ、物語自体は謎解きよりもマロリーを始めとしてキャラの魅力と人間ドラマに重点が置かれています。
ゴーストライター (創元推理文庫)
キャロル・オコンネル
東京創元社
2019-03-11


13.ディオゲネス変奏曲(陳浩基)→3位
SFやサスペンスといった非本格作品も多数含まれている一方で、密室殺人を試みた男の皮肉な顛末を描いた『作家デビュー殺人事件』や大学の推理小説論の授業で犯人探しを行う『見えないX』などといった本格ミステリ愛溢れる趣向も盛りだくさん。


14.精神病院の殺人(ジョナサン・ラティマー)

1935年発表の酔いどれ探偵ンシリーズの第1弾。精神病院の中で繰り広げられるドタバタ劇の中にさりげなく伏線を張り、連続殺人の意外な真相を暴きだすプロセスが見事。二転三転する展開も楽しめます。ただ、登場人物が多すぎてややまとまりに欠けるのが難。
精神病院の殺人 (論創海外ミステリ)
ジョナサン・ラティマー
論創社
2018-12-05


15.休日はコーヒーショップで謎解きを(ロバート・ロプレスティ)→9位
本ミス7位の『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』の続編を思わせるタイトルですが、実際は無関係のノンシリーズ短編集です。個々の作品のレベルは高いものの、本格といえるのが全体の一部なのが残念です。クラシカルな謎解きが楽しめる『赤い封筒』が秀逸。
休日はコーヒーショップで謎解きを (創元推理文庫)
ロバート・ロプレスティ
東京創元社
2019-08-09


16.ずれた銃声(ドリス・マイズルズ・ディズニー)
1950年の作品。一見地味な警察小説ですが、主人公の刑事がケガをして安楽探偵風になるので、かなり本格色が強い作品になっています。しかも、心臓麻痺かと思われた老婆の背中から銃痕が見つかり、銃弾は発見されないなどの謎めいた展開が続きワクワクします。
ずれた銃声 (論創海外ミステリ)
ドリス・マイルズ・ディズニー
論創社
2019-05-15


17.サーカス・クイーンの死(アンソニー・アボット)
1932年発表の作品。ニューヨーク市警のコルト本部長を探偵役に据えてのシリーズ第4弾。フーダニットやホワイダニットに創意工夫が見られ、古典としてはなかなかよくできた佳品に仕上がっています。アフリカの呪術師などが登場する怪しげな雰囲気も悪くありません。
サーカス・クイーンの死 (論創海外ミステリ)
アンソニー・アボット
論創社
2019-10-10


18.世紀の犯罪(アンソニー・アボット)
1931年発表のコルト本部長を探偵役に据えたシリーズの1作。横溝正史の『貸しボート13号』の元ネタとして知られていますが、前半テンポが悪いのが難。その代わり、目まぐるしい展開の末に謎が解けていく後半はよくできています。愛嬌のあるキャラも魅力的。
世紀の犯罪 (論創海外ミステリ)
アンソニー・アボット
論創社
2019-07-08


19.アイル・ビー・ゴーン(エイドリアン・マッキンティ)
シリーズ第3弾。ノワールサスペンスというべき作品ですが、密室殺人が登場し、重要な鍵を握るという点がユニークです。トリック自体は大したことはないものの、物語としての完成度は高く、密室がノワールな世界に違和感なく溶け込んでいるのにもうまさを感じます。


20.ネロ・ウルフの災難 女難編(レックス・スタウト)
単行本未収録作品3編を集めた中編集です。いずれも最後にはウルフ邸に関係者が集まって謎解きが始まるという黄金パターンが堪能できます。ただし、どちらかというと謎解きよりもキャラクター同士の絡みや掛け合いが読みどころといった感じです。


21.名探偵の密室(クリス・マクジョージ)
元少年探偵が監禁され、転がっている他殺死体の犯人当てを強要されるという筋立てはいかにも新本格といった感じです。そして、ラノベのような軽い作風で気軽に楽しめるのはよいのですが、読者が推理する余地があまりないので本格としては不満の残るところです。
名探偵の密室 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
クリス マクジョージ
早川書房
2019-08-06


22.魔女の不在証明(エリザベス・フェラーズ)
自宅で殺されたはずの被害者が遠く離れた山中で発見されるという強烈な謎を始めとして、不可解な出来事が次から次へと起こる展開はサスペンスフルで読み応え満点です。ただ、謎のいくつかを放置したまま終わっており、本格ミステリとしては不満の残る出来です。
魔女の不在証明 (論創海外ミステリ)
エリザベス フェラーズ
論創社
2019-09-06


23.殺されたのは誰だ(E・R・C・ロラック)
1945年発表のマクドナルド警部シリーズ第26作。戦時下の様子がリアリティ豊かに描かれ、空襲シーンと共にクライマックスを迎えるというプロットが、被害者の正体がなかなか分からないという謎と共にサスペンスを盛り上げてくれます。ただ、結末は少々腰砕け。
殺されたのは誰だ
E・C・R・ロラック
BookWay
2019-08-26


24.十三の謎と十三の被告(ジョルジュ・シムノン)
週刊誌に連載されていた軽いタッチの連作謎解きミステリーです。そのため、特に”十三の謎”の方はいささか薄味で物足りなさを感じます。一方で、“十三の被告”になるとシムノンらしさが出てきて、判事と被告の心理的駆け引きなどはなかなか読み応えがあります。
十三の謎と十三人の被告 (論創海外ミステリ)
ジョルジュ・シムノン
論創社
2018-11-05




25.大いなる過失(メアリ・ロバーツ・ラインハート)
『螺旋階段』で有名な著者の1940年の作品です。屋敷で秘書をしている女主人公の視点から描くサスペンス重視の作品で、3つの殺人とその他にもさまざまな怪事件が起こり、状況が2転3転してくさまはなかなかスリリングです。ただ、物語の整合性には難あり。
大いなる過失 (論創海外ミステリ225)
M・R・ラインハート
論創社
2019-01-07


26.絶版殺人事件(ピエール・ウェリー)
1930年発表の第1回フランス冒険小説大賞受賞作。古典ながら毒殺トリックや舞台装置などはかなりユニークです。ただ、いかにもフレンチミステリーといった感じの曖昧模糊とした物語展開は掴みどころがなく、最後の謎解きも少々無理があります。
絶版殺人事件 (論創海外ミステリ)
ピエール・ヴェリー
論創社
2019-03-04


27.十一番目の災い(ノーマン・ベロウ)
1953年の作品。『魔王の足跡』など不可能犯罪趣味で知られる著者ですが、本作は不可能犯罪の扱いが軽いのが残念です。その分、フーダニットに凝っているものの、現代の読者が驚けるようなものではありません。大麻事件というスケールの小ささもマイナス要素。
十一番目の災い (論創海外ミステリ)
ノーマン・ベロウ
論創社
2019-06-03


28.ニュー・イン三十一番の謎(オースティン・フリーマン)
1912年発表のソーンダイクシリーズ第3弾。眠り病の謎と遺書の謎の繋がりは比較的簡単で、ミステリーファンなら真相を容易に見抜いてしまうでしょう。その代わり、独特の緻密な捜査やキャラクターの魅力など、古き良き時代の探偵小説の味わいが堪能できます。
ニュー・イン三十一番の謎 (論創海外ミステリ225)
オースティン・フリーマン
論創社
2019-02-07


29.不条理な殺人(パット・マガー)
血の繋がっていない息子が書いた脚本が過去の事件を連想させるものだったため、俳優である主人公がその真意を探るという趣向はいかにもパット・マガーらしくてユニーク。ただ、個性的なプロットに対して、真相がストレートすぎてヒネリがないのが残念。
不条理な殺人 (創元推理文庫)
パット・マガー
東京創元社
2018-11-12




30.必須の疑念(コリン・ウィルソン)
1964年発表の作品で、天才と呼び声高かった元教え子と数十年ぶりに再会した教授が、彼は殺人鬼ではないかと疑念を抱くという物語。哲学論や政治論を絡めて疑惑を追及していくというプロットはユニークですが、竜頭蛇尾の結末はいただけません。
必須の疑念 (論創海外ミステリ)
コリン・ウィルソン
論創社
2019-04-08


チェック漏れ作品

ついには誰もがすべてを忘れる(フェリシア・ヤップ)→8位
記憶が1日もしくは2日しか保てない、パラレルワールドの英国での殺人事件を描いた特殊設定ミステリー。誰の言っていることも信用できない中での二転三転する展開は非常にサスペンスフルであり、読み応えがあります。ただ、肝心のオチが弱いのがやや残念です。
ついには誰もがすべてを忘れる (ハーパーBOOKS)
フェリシア ヤップ
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2019-02-16


2019年12月5日追記
予想結果
ベスト5→5作品中3作的中
ベスト10→10作品中7作的中
順位完全一致→10作品中1作品

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雨の屋敷01