最新更新日2018/03/25☆☆☆

脱出不可能な閉鎖空間に閉じ込められ、一人また一人と殺されていく。サスペンスたっぷりのムードの中で繰り広げられるクローズドサークルは本格ミステリの中でも密室殺人と並ぶ人気テーマです。ところが、調べてみると古典と呼ばれる作品の中にはクローズドサークルをテーマにした作品がそれほど存在しないことに気づかされます。急速に数が増えていったのは日本で新本格ブームが起こってからなのです。要するに、これは近年における本格ミステリのあり方の問題なのでしょう。新本格ブーム以降の本格ミステリは刑事が探偵役を務めることがめっきり少なくなりました。かといって、大昔の探偵小説のように私立探偵が警察と協力関係を結んで捜査を行うのも無理があります(まあ現代でもそういった作品はありますが)。それに、下手に警察による科学捜査を導入されてはせっかく考えたトリックを実行するのも困難になってしまいます。その点、警察に介入される心配のないクローズドサークルを舞台にしてしまえば犯人と探偵の知恵比べが思う存分できるというわけです。そう考えれば、新本格ブーム以降の国内ミステリーが異様にクローズドサークルをテーマにした作品が多いのもある意味必然だといえるでしょう。実際、クローズドサークルという言葉が頻繁に使われるようになったのは1987年に「十角館の殺人」が発表されて以後のことだという話です。そこで、新本格
以前におけるミステリーサークルの実態を知るために、昭和の時代に発表されたクローズドサークルミステリーにはどのようなものがあるのかについて調べてみました。


1934年(昭和9年)

シャム双生児の秘密(エラリー・クイーン)
自動車での旅行中、クイーン親子は山火事に巻き込まれ、命からがら山頂にある山荘に逃げ込んだ。そこには外科医の博士とその家族が住んでおり、クイーン親子は山火事が収まるまでの間、そこで宿を借りることになる。ところが、その夜、エラリー・クイーンは蟹のような不気味な生き物を目撃し、しかも翌朝になると博士が銃によって殺害されているのが発見される。そして、死体の手には破られたスペードの6が握られていた。山火事が山頂に迫りくる中、果たしてエラリー・クイーンは真相にたどりつくことができるのだろうか。
本作は、おそらく世界で最初に書かれたクローズド・サークルミステリーです。ただ、当時はそうしたジャンル自体が存在していなかったため、閉鎖空間で起きた殺人事件をサスペンスで盛り上げようという意識は希薄です。第2の殺人が起きても登場人物に殺人犯に対する危機感はそれほど感じられません。その代わり、本作品を盛り上げているのは山火事の存在です。殺人犯よりも刻一刻と迫ってくる炎が作品全体に緊張感を与えています。一方、クイーンの推理は本作においては冴えがありません。メインの謎となるダイイング・メッセージを巡る推理は二転三転し、大火が迫る中、犯人探しを行うこと自体が無意味なのではないかとぼやく始末です。ある意味、本作は後期クイーン問題の前哨戦というべき作品になっています。それに、大自然が猛威をふるう中で名探偵という存在が取るにたらないものに思えてきて、その価値が揺らいでいくというのは一種アンチミステリーのような趣もあります。国名シリーズでは恒例の読者への挑戦もなく、クイーンらしい端正なロジックを期待した人にとってははっきり言って肩すかしな作品です。しかし、特異なサスペンスと迷える名探偵というテーマの組み合わせには捨てがたい味わいがあることも確かであり、その結果、本作は人によって大きく賛否の分かれる作品となっています。
シャム双子の秘密 (角川文庫)
エラリー・クイーン
KADOKAWA/角川書店
2014-10-25


オリエント急行の殺人(アガサ・クリスティ)
私立探偵のポワロはトルコからヨーロッパ行きのオリエント急行に乗車するが、その車内で殺人事件に巻き込まれてしまう。しかも、列車は大雪のために身動きが取れなくなってしまい、警察が介入することもできない状態だった。そこで、ポワロが事件解明に乗り出す。被害者である男性の体は刃物でメッタ刺しにされており、この大雪の中を外部から侵入するのは不可能だと思われた。状況からいって犯人は同じ車両にいるはずなのだが、乗客には全員にアリバイが成立しているのだ。果たして誰が彼を殺したのだろうか?
舞台が外界から孤立しており、警察の介入が不可能という点では確かにクローズドサークルなのですが、本作で起きる殺人事件は最初の1件だけです。そのため、クローズドサークル特有の「次は誰が殺されるのか」というサスペンスは皆無です。その一方で、限定された空間で登場人物の証言に基づいて犯人を推理していくプロセスには部類の面白さがあります。同時に、登場人物の書きわけも巧みであり、地味なプロットであるにも関わらず、物語の世界にぐいぐい引き込んでいく牽引力に満ちています。そして、最後に浮かび上がる意外な真相によって本作は永遠に名を残す名作となったのです。クローズドサークルの原典のひとつとして見逃せない作品だといえるでしょう。
オリエント急行の殺人 (創元推理文庫)
アガサ・クリスティ
東京創元社
2003-11-09


1935年(昭和10年)

一角獣の殺人(カーター・ディクスン)
英国の元諜報員ブレイクは現役の女性諜報員イブリンから仕事のパートナーと勘違いされ、そのまま任務に同行することになる。彼女の目的は外交官ジョージ・ラムデン卿からユニコーンと呼ばれる秘宝を受け取り、英国に輸送することにあった。やっかいなのはフランスの怪盗フラマンドがそれを狙っている点だ。しかも、その怪盗をパリ警視庁の敏腕刑事ガストン・ガケスが追っているというのだ。2人は受け渡し場所のホテルに車で向かうが、それを追ってきたHM卿が作戦の中止を告げる。ところが、HM卿とその運転手を含めた4人は嵐に遭遇し、身動きが取れなくなってしまう。さらに、近くに飛行機が不時着し、中からはラムデン卿を含む4人の乗客が降りてきた。途方に暮れる一行だったが、近くにある小島の古城に逃げ込み、とりあえず難を逃れるのだった。一行は城主のダンドリュー伯爵の歓迎を受けるものの、嵐はますます激しくなり、ついには島と本土を結ぶ橋が落ちてしまう。電話もない古城は完全な孤立状態だった。いかにも何かが起きそうな状況が揃う中、果たして事件は起きる。額を貫かれた男が突如階段から転がり落ちてきたのだ。衆人環視の中の出来事であり、まるで伝説の幻獣ユニコーンの仕業としか思えない奇怪な事件だった。果たしてHM卿はこの謎を解くことができるのか?そして、怪盗フラマンドの正体とは?
カーは前年度の1934年に「プレーグ・コートの殺人」「白い僧院の殺人」、この年には「赤後家の殺人」「三つの棺」と不可能犯罪ものの傑作を連発しています。まさに、脂の乗り切った時期に書かれた作品です。しかも、本作にはクローズドサークルと化した古城、謎の怪盗、イギリスの名探偵とフランスの名刑事の推理合戦、奇怪な不可能犯罪と面白くなりそうな要素がてんこ盛りです。実際、決してつまらない作品ではないのですが、あまりにも色々な要素を詰め込み過ぎたせいで全体としてまとまりのなさが露呈してしまっています。特に、キャラクターの書きわけがあまりうまくできていないため、登場人物の把握がしずらいのが大きな難点です。その上、怪盗がからんだ事件ということもあってやたらと変装している人物が多いところが混乱に拍車をかけています。さらに、肝心の不可能犯罪トリックも一般の人にはなじみのない小道具が使われているため、種明かしをされても全くピンとこないのは致命傷だといえるでしょう。とは言え、HM卿とガスケの推理合戦などは緊迫感もあってなかなか読みごたえがあります。それだけに、もう少しまとまりがあれば、佳作となりえた可能性もなくもありません。一言でいえば、いろいろと惜しい作品といったところでしょうか。
一角獣の殺人 (創元推理文庫)
カーター・ディクスン
東京創元社
2009-12-20


1938年(昭和13年)

ミステリ・ウィークエンド(パーシヴァル・ワイルド)
ミステリーツアーが組まれた田舎町のホテル。ところが、ツアー客の一人が本物の死体となって発見される。その上、大雪のためにホテルから出ることが不可能となり、電話も不通となってしまう。さらには、死体が別人のものと入れ替わるという怪現象が起き、事態は混沌の度を増していくが......。
典型的な吹雪の山荘もの。しかも、語り手が次々と変わっていき、その度に謎が明らかになったり逆に、深まったりするため、かなりスリリングなストーリーが楽しめます。長編というより、中編といった長さの作品なのですが、短い物語の中に大小さまざまな謎が出現し、登場人物も個性派ぞろいなので飽きることなく読み進めることができます。トリック自体は小粒で拍子抜けする部分もありますが、クローズドサークル設定を上手く利用して謎の表出と伏線回収を自在に行っている点が見事です。クローズドサークル初期の作品としてはまずまずの面白さだといえるでしょう。
2017年度このミステリーがすごい!海外版16位
2017年度本格ミステリベスト10海外版3位

1939年(昭和14年)

そして誰もいなくなった(アガサ・クリスティ)

無人島に建てられた豪邸にお互い見ず知らずの8人が招待される。出迎いに使用人夫婦が姿を現すが、彼らも館の主人には会ったことがないという。そして、ディナーの時間になっても招待主であるオーエン氏は一向に姿を現そうとはしなかった。しかし、代わりに鋭い声が響き、招待客と使用人が過去に犯した罪について告白していく。続いて、招待客の一人である青年が毒をあおって絶命する。それが恐るべき連続殺人の始まりだったのだ。
孤島に集められた人間がひとりひとり殺されていくというクローズドサークルの定型を完成させた記念すべき作品です。しかも、単なる先駆者というだけではなく、物語のテンポの良さといい、サスペンスを盛り上げていく手腕といい、真相を巧みに隠す手管といい、すべてが抜群の完成度を誇っています。特に、連続殺人の最後の被害者が死ぬ恐ろしくも哀しげな場面はミステリー史上に残る名シーンだといえるでしょう。トリック自体はたわいもないものですが、とにかく語り口の巧さが突出してそのトリックを悟らせないのです。未だにこの作品を超えるクローズドサークルミステリーは存在しないと言い切れるほどの大傑作です。


1940年(昭和15年)

九人と死で十人だ(カーター・ディクスン)

第2次世界大戦の真っただ中、軍事商船にワケありの9人が乗客として乗り込む。いつドイツのUボートが襲ってくるかわからない緊迫した状況の中、乗客の一人である女性が喉を掻き切られて殺されているのが発見される。しかも、現場には血染めの指紋がべったりと残されていたのだ。しかし、船の乗客乗員の中には該当する指紋の持ち主はいない。この船には10人目の乗客が潜んでいるというのだろうか?
カーの作品で船を舞台としたものとしてはフェル博士ものの『盲目の理髪師』の方が有名ですが、ミステリーとしての完成度自体は本作に軍配が上がります。まず、第2次世界大戦中の商船を舞台とし、いつUボートに撃沈されるかわからない、ドイツのスパイが乗り込んでいるかもしれないといった状況を整え、緊迫感を盛り上げていく手腕はなかなか見事です。その上で殺人事件が起き、該当する指紋がない事実によって10人目の乗客の存在がクローズアップされ、否応なくサスペンスが盛り上がっていきます。指紋のトリックに関しては今となってはどうということもありませんが、別のトリックと組み合わせることで、読者を真相から遠ざけるように工夫が凝らされています。また、スパイ疑惑の話が犯人の動機をうまくカモフラージュしているのも実に巧妙です。クローズドサークルの状況を上手く活用した上質なフーダニットミステリーです。
九人と死で十人だ 世界探偵小説全集(26)
カーター ディクスン
国書刊行会
1999-12-01


1960年(昭和35年)

雪と毒杯(エリス・ピーターズ)

世界的なオペラ女優の最後を看取った一行は飛行機で帰途につくが、悪天候に見舞われオーストリアの山中に不時着してしまう。なんとか山村の小さなホテルに逃げ込んだものの、大雪の影響で村は完全な孤立状態に陥っていた。そんな中、遺族の強い要望でオペラ女優の遺言状が公開されることになる。だが、その内容は長年パートナーをつとめてきたオペラ俳優に財産のほとんどを譲るというものであり、遺族たちに衝撃が走る。そして、ついに事件は起きた。そのオペラ俳優が何者かに毒殺されたのだ。
大雪によって警察の介入は不可能であるものの、村との行き来は可能というやや緩めのクローズドサークルミステリーです。また、クライマックスのアクションシーンを除いて会話中心の地味な展開が続くので、クローズドサークル特有のサスペンスもさほど盛り上がりません。その代わり、文章は読みやすくその中に巧みに伏線を張り巡らしているため、古き良き時代の探偵小説の味わいはじっくりと堪能できます。それでいて、登場人物が単なる駒になっておらず、一人一人の造形も丁寧に描かれています。また、恋愛要素なども盛り込んでいるため、物語としての読み応えもなかなかのものです。ただ、伏線をあまりにも実直に張り巡らせたおかげで犯人が分かりやすくなってしまったのがやや難点だといえるでしょう。
雪と毒杯 (創元推理文庫)
エリス・ピーターズ
東京創元社
2017-09-29


1971年(昭和46年)

殺しの双曲線(西村京太郎)
素顔を見せたまま堂々と金を奪っていくという連続銀行強盗事件が発生する。その容貌から小柴兄弟のどちらかが犯人であることは明らかなのだが、一卵性双生児である2人の顔があまりにもそっくりなためにどちらが犯人なのか特定することができない。そのため、警察はどちらかを逮捕することもできず、手をこまねいているしかなかった。一方、宮城県のホテルには招待状を受け取った人々が集まっていた。ところが、その内の一人が部屋で首をつって死んでいるのが発見される。最初は自殺だと思われたものの、その部屋の壁には「かくして第一の復讐がなされた」と書かれたカードがピンで止められているのが発見される。しかも、電話線は切られ、唯一の交通手段である雪上車も破壊されていた。そして、第2の犯行が.......。
本作はおそらく国内で最初に書かれたクローズドサークルミステリーです。当時はクローズドサークルという言葉自体がなく、脱出不可能な空間で連続殺人が起きる物語と言えば、少なくとも日本のミステリーファンにとっては「そして誰もいなくなった」が唯一無二の存在でした。したがって、その趣向に挑戦した本作は「そして誰もいなくなった」のリスペクト作品ということになります。さすがにあの名作に真正面から挑んだ意欲作だけあって、本作にはミステリーとしてのさまざまな技巧が施されています。特に、その代表として挙げられるのが、冒頭の双子トリック宣言です。わざわざこの作品には双子トリックが使われていると表明し、その宣言自体をミスディレクションとして使用するという大胆さが見事です。ただ、技巧に走りすぎたせいで肝心のクローズドサークルのシーンが短く、描写も淡泊になってしまった感があります。そのため、少なくともサスペンス描写という点では元ネタと比べてかなり物足りない出来になってしまっているのです。また、「そして誰もいなくなった」にはない特徴としては、なぜ互いに面識のない招待客が犯人に狙われたのかというホワイダニットの謎を盛り込んでいるという点が挙げられます。しかし、これも殺人の動機として納得できるかどうかは意見の分かれるところでしょう。といった具合に、本家越えを期待して読むと不満もいろいろでてくるのですが、同時に本作は70年代に書かれた国内本格ミステリを代表する作品の一つであることは確かです。ここはあえて元ネタは意識せず、独立した作品として楽しむのが吉でしょう。


1977年(昭和52年)

七人の証人(西村京太郎)
十津川警部は帰宅途中に何者かの襲撃を受け、誘拐されてしまう。気を失い、再び目を覚ますとそこは無人島だった。しかも、島には世田谷区の一角を正確に再現したセットが作られており、十津川警部の他にも7人の男女が誘拐されていた。誘拐犯は猟銃を手にした初老の男性。彼は1年前に殺人犯として逮捕され、獄死した青年の父親だった。男は息子の無実を証明するために、現場を再現したセットを使って事件を再検証すると宣言する。誘拐された7人はその事件の目撃者だ。また、十津川警部を誘拐したのはプロの立場から検証の是非を判断させるためだという。こうして事件の再検証が始まり、男は目撃証言の矛盾を次々と突いていく。目撃者たちはさまざまな理由で虚偽の証言をしていたのだ。そんな中、証人たちが次々と殺されていき......。
基本設定はかなり無茶苦茶なものですが、証言の矛盾をついて徐々に真実が明らかになっていくくだりは特殊設定の法廷ミステリーとして読みごたえがあります。その一方で、クローズドサークルとしてのサスペンスはそれほど盛り上がりません。また、舞台装置が派手な割に真相が地味でラストがあっさりしすぎている点は竜頭蛇尾な感が強いといえます。ただ、そうした欠点を持ちながらもプロットの妙とテンポの良さでぐいぐい読ませる作品であるのは確かでず。ちょっと変わったミステリーを楽しみたいという人にはおすすめです。
七人の証人 (講談社文庫)
西村 京太郎
講談社1983-12-08


1985年(昭和60年)

死霊鉱山(草野唯雄)
雪山登山の途中で猛吹雪に遭遇した4人のOLと1人の男性は廃鉱山の中に逃げ込む。そこは幕末に鉱夫の暴動があり、その全員が斬殺されたという因縁の場所だった。寒さに震える彼らは通行止めになっている柵を壊し、それに火をつけて暖を取る。ところが、その夜から彼らは一人また一人と命を落としていく。
奇怪な伝承が残る場所に閉じ込められた登場人物が順番に殺されていくという典型的なクローズドサークルものですが、この作品にミステリーとしての面白さを期待してはいけません。伏線は見え見えで犯人はバレバレ、結局一番怪しい人物が真犯人というなんとも脱力のオチが待っています。しかし、この作品の真価は全く別のところにあります。まず本筋とは一切関係のない濃厚な濡れ場が執拗に描写され、そのディテールの細かさはちょっと常軌を逸していると感じるほどです。また、作者の鉱山勤務の経験を活かして描かれた過去の因縁話は臨場感たっぷりで、なかなか引き込まれるものがあります。しかし、それよりも何よりも本作を知る人ぞ知るカルト作品に押し上げているのがラストの展開です。この部分はミステリー的などんでん返しとは全く別の次元で驚愕のシーンが待っています。ゲテモノ大好きという人はぜひ予備知識なしで読んでほしいところです。本格ミステリとして採点すればゼロ点ですが、違った意味で読者に忘れ難いインパクトを残す強烈な作品です。
死霊鉱山 (光文社文庫)
草野 唯雄
光文社
2006-04-20


1987年(昭和62年)

十角館の殺人(綾辻行人)
大分県にある大学の推理小説研究会。その面々は無人島に建てられた十角館と呼ばれる館を訪れていた。そこは半年前に建物の設計をした中村青司を含む4人の他殺死体が見つかった場所だった。彼らはその事件に興味を持ち、島で1週間の合宿を始める。ところが、島を訪れてから3日目に殺人事件が起こり、島からの脱出も不可能な中、それは連続殺人に発展していく。
綾辻行人氏の衝撃のデビュー作。新本格ブームを巻き起こすきっかけとなった作品であり、平成の時代にクローズドサークルが盛んに書かれるようになったのも本作があればこそでしょう。そういう意味では、西の「そして誰もいなくなった」、東の「十角館の殺人」といっても過言ではないほどの重要作品です。ただ、本作は著者20代のデビュー作というだけあって登場人物がどうにも青臭いという難点があります。特に、サークルの面々がお互いをミステリー作家の名で呼び合う寒さは耐えがたいという人もいるのではないでしょうか。しかし、最後に明らかになる真相、あの有名な一行の衝撃はそうした小さな欠点など吹き飛ばしてしまうほどのインパクトを読者に与えてくれます。間違いなく、日本ミステリ史上に残る希有な1作です。


1988年(昭和63年)

そして誰かいなくなった(夏樹静子)
金持ちのオーナーに招待された面々は豪華クルーザーに乗り込み、洋上の旅を楽しんでいた。しかし、やがて船内から彼らの罪を告白する声が響き渡る。皆は口を揃え、「これはオーナーの悪質ないたずらだ」と一笑に付すが、翌朝、彼らの一人が死体となって発見される。そして、第2の殺人が.......
タイトルやあらすじを読んでも分かるように、これは明らかに「そして誰もいなくなった」のリスペクト作品です。しかも、作中では「そして誰もいなくなった」のネタバレまでしており、元ネタを読んでいることを前提とした作りになっています。要するに、「そして誰もいなくなった」にもうひとひねり加えて既読者を驚かせてやろうという趣向の作品なのです。しかし、伏線が分かりやすいために真相にそれほど驚きを感じられないのが残念なところです。また、前年に発表された「十角館の殺人」の衝撃が本作のインパクトを弱いものにしてしまっているのは否めません。ただ、本作は最後まで読むと「そして誰もいなくなった」以外にもクリスティの有名作の何作かを意識して構成されていることがわかります。その辺りのオマージュとしての面白さはある程度の水準に達しているので、大きな期待さえしなければそこそこ楽しめる作品ではあります。


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