最新更新日2019/02/28☆☆☆

Next⇒2018年発売!注目の海外SF&ファンタジー小説
Previous⇒2016年発売!注目の海外SF&ファンタジー小説

※紹介作品の各画像をクリックするとAmazon商品ページにリンクします



シルトの梯子(グレッグ・イーガン)
2万年後の遥か未来。物理学者のキャスは量子グラフ理論の実験を行うが、それが人類の危機を招くことになってしまう。実験で生まれた真真空は6兆分の1秒で崩壊するはずだったが、崩壊することなく成長を始めてしまったのだ。その空間は600年で2000以上の人類居住星系を飲みこみ、さらなる拡大を続けていく。それに対して、人類は真真空を破壊しようとする防御派と真真空に順応しようという譲渡派に分かれて対立していた。果てしない論争の果てに人類が見たものとは?
ハードSFの雄、グレッグ・イーガンが2002年に発表した長編SFです。イーガンにしては翻訳がかなり遅れた作品ですが、今読んでも古臭さは一切感じません。現実世界とは異なる物理法則で成り立っている新宇宙の創造というアイディアを軸にし、さまざまなSF的ギミックを魅力たっぷりに描き出しています。もちろん、イーガンの作品だけあって難解さも一級品であり、読み進めていくのは骨が折れます。しかし、本作は未知なるものへのワクワク感に満ちており、難しくても読み進めていきたいという気にさせてくれるのです。さらに、後半になると怒涛の展開が始まり、一気に引き込まれていきます。今まで翻訳されなかったのが不思議なくらいの傑作です。
2019年版SFが読みたい!海外部門4位
シルトの梯子 (ハヤカワ文庫SF)
グレッグ イーガン
早川書房
2017-12-19


地下鉄道(コルソン・ホワイトヘッド)
19世紀のアメリカ南部。黒人少女のコーラは農園の奴隷として悲惨な毎日を送っていた。ある日同じ奴隷のシーサから逃亡の話を持ちかけられる。最初は断ったコーラだが、ある事件をきっかけに農園から脱出する決意を固める。そして、彼女たちは秘密の地下鉄道を使って州からの脱出を果たすのだった。二人は各州を巡り、安住の地を求めて旅を続ける。だが、その背後には奴隷狩りの魔の手が迫ろうとしていた......。
本作は実際にアメリカで行われてきた奴隷制度をリアルに再現しながらもその世界観は完全なフィクションです。そもそも、当時は陸上の鉄道が走り始めた時代でまだ地下鉄道そものが存在していませんでした。そして、少女たちが訪れるさまざまな州もどこか現実離れしています。つまり、これは時代小説の形を借りた寓話なのです。ちょうど宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」でジョバンニとカムパルネラが星々を巡って行くようなものです。また、登場人物がしばしば「ガリバー旅行記」を読んでいるのもこの物語の性質を端的に表しています。そうしたおとぎ話を通じて「アメリカとは何なのか」という問題を読者に考えさせる構造になっているのです。しかし、この作品は決して教条主義的な堅苦しい内容ではなく、その筆致は軽やかで少女たちの冒険譚としてぐいぐいと読ませる力があります。それに悪役として登場する奴隷狩りもキャラが立っていて魅力的です。史実を空想力で再構成した希有な傑作だと言えるでしょう。
2017年ピューリッツァー賞ノンフィクション部門受賞
2017年アーサー・C・クラーク賞受賞
第65回全米図書賞小説部門受賞

地下鉄道
コルソン ホワイトヘッド
早川書房
2017-12-06


図書館島(ソフィア・サマター)
文字を持たぬ島で生まれた若者は師によって書物の魅力を知り、都を目指す。だがその途上で不治の病を持つ少女と出会い、彼の運命は変わっていく。そして、世界中の書物が集められた図書館島に幽閉された若者は文字と言葉の戦争へと呑み込まれていくのだった。
世界幻想文学大賞を受賞した豊潤なイメージを持つファンタジーです。ただ、その緻密かつ複雑な世界観と詩的な文章表現の数々はともすれば難解で読み進めるのに苦労をするかもしれません。しかし、それを乗り越えることができれば言葉や文字そのものをテーマにした深遠な物語世界を楽しむことができるでしょう。神話的スケールを伴った傑作です。
2019年版SFが読みたい!海外部門9位
2014年世界幻想文学大賞受賞
図書館島 (創元推理文庫 Fサ 2-1)
ソフィア・サマター
東京創元社
2022-05-12


スチーム・ガール(エリザベス・ベア)
甲冑型の蒸気機械が闊歩する港町。その高級娼館で働いているカレン。そこにプリヤという少女が逃げ込んでくる。カレンはプリヤに一目ぼれし、なんとか彼女を守ってやろうとするが、蒸気機械を操る町の有力者が彼女たちの前に立ちはだかる。
タイトルと表紙の絵からスチームパンク満載のSF小説だと思われがちですが、実際はその要素はそれほど高くありません。ちなみに、原題は「カレンの思い出」です。全体としてはパラレルワールドを舞台とした恋愛アクションといった趣です。また、前半はちょっとテンポが悪くて退屈する人もいるかもしれません。その代わり、後半になると怒涛の冒険活劇が始まり、一気に盛り上がってきます。百合要素も高いのでその手の作品が好きな人にもおすすめです。

スチーム・ガール (創元SF文庫)
エリザベス・ベア
東京創元社
2017-10-21


隣接界(クリストファー・プリースト)
舞台はイスラムに支配されている近未来の英国。環境汚染や紛争激化という暗い世相の中で、フリーカメラマンのタラントはテロによって妻を失い、恐るべき新兵器の存在を知ることになる。それは人の痕跡を全く残さずに消失させるというものだった。やがて、彼の存在は歪み始め、さまざまな時代の他者に侵食されていく。
非常に難解な作品です。描かれている時代や舞台が多岐に及び、しかも、それらが無秩序に入り乱れるために、ストーリーを追うのが著しく困難になっていくのです。しかし、それこそが、隣接というワードで語られる本作の肝であり、その混乱ぶりには酩酊感に似た楽しさがあります。読者の想像力が試される異色の傑作だと言えるでしょう。
2018年版SFが読みたい!海外部門1位
隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
クリストファー プリースト
早川書房2017-10-19


わたしの本当の子どもたち(ジョー・ウォルトン)
2015年。認知症を患ったパトリシアは老人ホームで徐々に失われていく記憶を振り返りながら日々を過ごしていた。ところが、パトリシアの記憶には相反するふたちの思い出が存在していたのだ。一つは婚約者のマークと結婚し、彼の暴力と旧弊な価値観の押しつけに耐える人生。もう一つはマークと決別し、同性のパートナーと一緒になって過ごす穏やかな人生。ただ、その一方で、前者の人生では社会情勢は比較的安定していたのに対して、後者の人生では核戦争などが起きて、激動の世界を生き抜くことになる。果たしてどちらの世界が真実なのだろうか。
本作は一応、パラレルワールドを描いているように見えるものの、単に2つの人生が並列的に描かれているだけでそれ以外は限りなく普通小説に近い作りになっています。2つの世界がやがて一つに交わるなどといったSF的な仕掛けは皆無なのです。むしろ、本作の主題となっているのは人生の本質とはなにかといった問題でしょう。人間というのは「あの時、こうしておけばよかった」といった具合に過去を悔いるものですが、たとえどんな選択肢を選んだとしても結局は自分の人生であり、その本質は変わることはありません。本作はその事実を静かな筆致で訴え、やがて読者を感動へと導いてくれます。SF的手法を借りて描かれた人生賛歌というべき傑作です。
2018年版SFが読みたい!海外部門6位
わたしの本当の子どもたち (創元SF文庫)
ジョー・ウォルトン
東京創元社
2017-08-31


ジャック・グラス伝:宇宙的殺人者(アダム・ロバーツ)

「これから語るのは悪名高きジャック・グラスにまつわる物語であり、三篇で発生する殺人事件の犯人はいずれもジャック・グラスです」ワトソン役によるいきなりのネタばらし始まる物語は本格ミステリにして、遥か未来の太陽系を舞台にした宇宙的殺人者ジャック・グラスの冒険譚。果たして解けない謎の先にあるものとは?
黄金時代のSF小説と黄金期の探偵小説を融合させればどうなるのか?という発想から生まれたこの作品、密室殺人などミステリー的な謎がSF的ギミックによって宇宙的スケールまで話が広がっていく展開が刺激的です。まともな謎解きを期待すると肩すかしを感じるでしょうが、ここでは本格ミステリという素材をSF的世界観にぶち込んだ闇鍋感をじっくりと味わいたいところです。エピソードごとに雰囲気ががらりと変わることもあり、結構好みが分かれそうな作品ですが、ハマる人はとことんハマりそうな怪作だと言えるでしょう。
2018年版SFが読みたい!海外部門9位
2012年英国SF協会賞受賞


書架の探偵(ジーン・ウルフ)
遥か未来。図書館には過去の作家がその記憶と人格を持ったクローンとして所蔵されていた。図書館に住んでいる推理作家のE・A・スミスもその一人だ。ある日、コレットと名乗る令嬢が図書館を訪れ、クローンのスミスを借りる。彼女は父と兄を続けて亡くしており、その兄が死の直前に妹に手渡したのがスミスの著書である「火星殺人事件」だった。そのため、彼女はスミスの記憶の中に兄の死の謎を解くカギがある考えたのだ。こうしてスミスは推理作家としての知識を頼りに探偵の真似事をすることになるが........。
設定が非常に魅力的なSFミステリーです。文章も平易であり、難解さで知られるジーン・ウルフの作品とはちょっと信じられないほどにサクサク読めます。SFとしては複製人間が人間の姿と心を有していながらモノとして扱われる社会構造の歪みがスリリングに描かれており、その世界観の描写が読みどころになっています。ただ、著者が80歳を超えて書いた作品であるため、随所に感性の古さが感じられるのが少し残念です。読んでいてもまるで20世紀のようですらあり、どうにも遥か未来の話とは思えないのです。また、ミステリーとしても特に面白い展開があるわけでもありません。あくまでも魅力的な設定を楽しむための作品だといえるでしょう。
2018年版SFが読みたい!海外部門5位
2018年度このミステリーがすごい!海外部門18位
書架の探偵 (ハヤカワ文庫SF)
ジーン ウルフ
早川書房
2020-02-20


ブルー・マーズ(キム・スタアンリン・ロビンスン)

地球の支配から開放されるべく吹き荒れる独立の気運。地球の治安部隊は撤退し、無血革命は成功かに思えたが…。火星入植から独立までの200年間をリアルに描きあげたマーズシリーズついに完結!
火星を舞台にして政治、経済、世代間の軋轢などいった問題を緻密に描き上げ、これ以上ないというほどの密度の濃い一大叙事詩に仕上がっています。ただ、この物語を真に楽しむには「レッド・マーズ」「グリーン・マーズ」と続いてきた長大な物語に最初から取り組む必要があり、かなりのエネルギーを要します。細部まで書きこまれた緻密な描写も深みがあるととるか冗長と感じるか意見が分かれそうです。
1997年ヒューゴー賞受賞
ブルー・マーズ〈上〉 (創元SF文庫)
キム・スタンリー・ロビンスン
東京創元社
2017-04-21


母の記憶に(ケン・リュウ)
不治の病に冒された母が娘を見守り続けるためにとった選択肢、獰猛な巨大熊を捕らえるために満州に赴いた探検隊が遭遇した悪夢、清朝が明朝を滅ぼした際の大虐殺の中で描きださる遊女と雑用係の運命。「紙の動物園」でSF賞3冠に輝いたケン・リュウが放つ第2作品集。
全16篇がぎっしりと詰まっており、第1短編集に勝るとも劣らない質と量を誇る珠玉の作品集です。ケン・リュウと言えば表題作のような母の愛情を描いた作品が注目されがちですが、実際は幻想譚からハードボイルドまで実に多彩な題材を扱っていてそのどれもが極めて高い水準で作り上げられています。これほどまでにバラエティに富み、しかもはずれのない作品集も珍しいのではないでしょうか。しかも、幅が広い作風だからといって決して無個性というわけではなく、西洋科学に中国や日本などのオリエンタルなエッセンスを融合させた独特の雰囲気は他では得難いものです。ぜひ「紙の動物園」と併せて読んでもらいたい傑作です。
2018年版SFが読みたい!海外部門2位
ヒトラーが描いた薔薇(ハーラン・エリスン)
地獄の扉が開き、切り裂きジャックやカリギュラといった稀代の殺人鬼が脱走を始める中、アドルフ・ヒトラーのとった意外な行動を描いた表題作、下水道の中にあるもう一つの世界を描いた「クロウトウン」、医師ロボットの登場で職を追われることになった医者の憎悪を描く「ロボット外科医」など、SF短編の名手として知られるハーラン・エリスの日本オリジナル編集による第3作品集。
エリスンといえば日本では1979年に翻訳された第一短編集「世界の中心で愛を叫んだけもの」が有名ですが、翻訳に恵まれていたとは言えず、長い間作品紹介のない状態が続いていました。ところが、約30年ぶりの翻訳作品である第2短編集「死の鳥」が突如日本で発売され、「2017年版SFが読みたい!」において海外部門の第1位を獲得。その余波をかって発売されたのが本書というわけです。1957年~1988年の作品を発表順に並べており、ハーランエリスの作家としての軌跡を俯瞰できるようになっています。ただ、日本オリジナル編集の作品集であるが故に第1弾、第2弾に傑作を集約しすぎて残り物の寄せ集めみたいになっている感があります。そのため、収録作品のレベルにもばらつきがあるのですが、全体としてつまらないかと言えば、決してそんなことはありません。世の中の不条理に対する怒りをファンタジー設定と暴力を交えて描き出す世界観も超カッコ良い文体も相変わらずであり、エリスンワールドにどっぷりと浸ることができます。出来が落ちるといってもそれは前作と比較した相対的評価の話であって、絶対的評価において高得点を叩き出すだけのクオリティは十分備わっています。
ヒトラーの描いた薔薇 (ハヤカワ文庫SF)
ハーラン・エリスン
早川書房
2017-04-20


クウォトアンの生贄 覚醒兵士アレックス・ハンター(グレッグ・ベック)
墜落した飛行機を救出すべく南極に派遣された救助隊だが、彼らは事故現場の洞窟に入ったまま消息不明となる。続いてアレックス率いる特殊コマンド部隊が送り込まれる。しかし、そこには古代文明の遺跡と恐るべき未知の生物が待ち受ける地獄のような世界だった…。
南極の奥地で生き続けていた怪物とアメリカ特殊部隊の激突といういかにもB級感満載の快作です。しかも、覚醒した主人公が過剰に無双するわけではなく、絶妙なバランスを保っているので最後まで緊張感が持続しているのもプラスポイントです。最後はお約束の展開で収束していくので過剰な期待は禁物ですが、深く考えずにテンポのよいエンタメを楽しみたい人には絶好の一冊です。
時間のないホテル(ウィル・ワイルズ)
ニール・ダブルはさまざまな業界で行われる各種のイベントに出席し、依頼人に代わって資料を集めたり、セミナーに出席して報告書をまとまたりする仕事を生業としていた。ニールは仕事柄、世界各国のビジネスホテルに泊まっていたが、その代わり映えのしないホテルの光景を何よりも愛していたのだ。そんなある日、謎の女性に出会ったことからホテルに関するちんでもない秘密に巻き込まれていくことになる。謎の支配人。世界各地のホテルにある抽象画の写真を撮っている女。そして、決して目的地にたどり着かない巨大ホテル。男が体験した異様な悪夢を建築家のウィル・ワイルズが描く幻想SF。
前半はかなり冗長で読み進むのが苦痛ですらありますが、そこを乗り越えて中盤に差し掛かると日常が非日常に侵食されて歪んでいく描写が始まり、少しずつ作品世界の中に引き込まれていきます。そして、ホテルの秘密が明らかになり、ホラー的様相を見せ始めた辺りから怒涛の展開へと流れ込み、一気に作品としての魅力が開花します。カフカの不条理小説とスティーブン・キングのホラーを融合したような作品であり、丁寧すぎる描写に耐えられるかどうかがこの作品を楽しむための鍵となるでしょう。
時間のないホテル (創元海外SF叢書)
ウィル・ワイルズ
東京創元社
2017-03-18


FUNGI 菌類小説選集 第Ⅰコロニー(オリン・グレイ、シルヴィア・モレーノ編集)
日本の怪奇映画『マタンゴ』の不思議な魅力。その話題で意気投合した編者たち。そして原稿を募り、出来上がったのがこのアンソロジーだ。右を向いて左を向いてもそこはひたすら続くキノコの森。新ジャンル・菌類小説の可能性を問う第1弾。
知性を持った菌類、巨大キノを利用して海中船を造る男、寄生して人体を操る胞子など菌類をテーマにしてホラー小説から一般文芸までさまざまな物語が展開していきます。とにかくキノコに対する偏愛に満ちたアンソロジーなのでキノコ愛を持つ人には見逃せない一冊です。それにしても、このこだわりの強さは相当のものでキノコにあまり興味にない人でも一見の価値はあるかもしれません。

無限の書(G・ウィロー・ウィルソン)
中東の専制国家に追われるハッカーの青年アフレ。彼は禁忌の知が秘められた本を恋人から託されていた。アフレは追手の手を逃れ、本の秘密に近づくために異界に足を踏み入れていくが…
サイバーパンクにアラビアンナイトの世界観を融合させたような不思議な感覚のSF小説です。コンピューターと精霊の話が同じベクトルで語られるという一見敷居の高そうな作品ですが、ストーリー自体は意外と王道でテンポも軽快なのでさくさくと読み進むことができます。また、魅力的な登場人物が縦横無尽に駆け回る様は大変面白く、エンタメとしても一級の作品です。さらに、日本人にはあまりなじみのないアラブ社会の仕組みについての知見が積める点もこの作品の魅力だといえるでしょう。
2018年版SFが読みたい!海外部門7位
2013年世界幻想文学大賞受賞
無限の書 (創元海外SF叢書)
G・ウィロー・ウィルソン
東京創元社
2017-02-26


アロウズ・オブ・タイム(グレッグ・イーガン)
母星の危機を救うために飛び立った都市型宇宙船・孤絶。時が過ぎ、孤絶の中ではすでに6世代目を迎えてようとしていた。ようやく母星を救う方法を確立し、彼らは帰途につこうとする。しかし、その方法、「時の矢」の使用に反対を唱える一派が現れ、やがて対立は激化していく。私たちの世界とは全く異なる別宇宙を舞台にした直交三部作の完結編。
物理学上の問題に挑戦したグレッグ・イーガンの作品群の中でも特に難解なシリーズ。1作目は相対論、2作目は量子論ときてこの完結編ではついにタイムマシーンの問題に取り組んでいます。あいかわらず、物理的理論は難解すぎて歯が立ちませんが、話はクライマックスに向けてテンポよく進んでいくので三部作の中では一番読みやすい作品かもしれません。科学の進歩が世界を動かしていく様を徹底的に描いたという点でハードSFの一つの到達点とも言える作品です。
2018年版SFが読みたい!海外部門4位


時をとめた少女(ロバート・F・ヤング)

理不尽な罪に問われ、冷凍睡眠の刑に処せられた男と残された妻の運命。千夜一夜の語り手シェヘラザードに恋した時間旅行員。ロマンチック小説の名手ヤングの恋愛SFを集めた短編集。
50年代~80年代に活躍したヤングの作品群の中でも前半期のものを集めた短編集です。全体的にファンタジー色の強いSFラブロマンスが目立っていますが、中でも冷凍睡眠100年の刑に処せられた夫と再会するために妻がある決断を下す「わが愛がひとつ」はいかにもヤング的な筋立てで印象深い読後感を残します。また、千夜一夜のジェヘラザードに恋する男性を描いた「真鍮の都」などもSF要素を組み込んだ甘々ラブストリーが楽しめる好編です。さらに、表題作の「時を止めた少女」はユーモアを交えたボーイミーツガールもので楽しく読むことができます。他には女体型の山への登頂に挑戦する「花崗岩の女神」などといった作品もあり、SF的アイディアを組み込みながら様々な愛の形を見せてくれる点がいかにもヤングです。牧歌的な古き良き時代のSF小説を楽しみたい人におすすめです。
時をとめた少女 (ハヤカワ文庫SF)
ロバート・F・ヤング
早川書房
2017-02-23


エコープラクシア 反響動作(ピーター・ワッツ
太陽系外縁で宇宙船テーセウスが消息を絶って7年が過ぎた。しかし、ある日突然、テーセウスから謎の通信が送られてきたのだ。その通信を巡り、さまざまな勢力が動き始める。遺伝子操作により復活した吸血鬼、集合精神を構築するカルト教団、人知が及ばぬ思考力を持つ計算知性、さらに、自らの能力を強化した現生人類。一方、生物学者のダニエルは砂漠でフィールドワークを行っている最中、カルト教団と吸血鬼率いるゾンビ集団との争いに巻きま込まれてしまう。
星雲賞海外長編部門他、全世界で7冠を達成した「ブラインドサイト」の続編。難解でありながらもメインとなるストーリーは比較的シンプルだった前作と比べて本作は果てのない思弁や認識論的問題に終始しているため、難解さがさらに強化されています。その代わり、個々のアイディアはオリジナリティに富み、本編にはちらりとしか登場しない小道具にまでSF的な面白さが満ちています。他にも、魅力的な要素はあらゆる場面に散りばめられているのですが、とにかく情報量が多すぎて、それらをひとつの物語として楽しむことが容易ではありません。できれば、巻末の解説を参照しながらじっくりと読み進めいった方がよいでしょう。骨太で噛み応えがありすぎるハードSFの極北というべき作品です。
2018年版SFが読みたい!海外部門3位
エコープラクシア 反響動作〈上〉 (創元SF文庫)
ピーター・ワッツ
東京創元社
2017-01-28


Next⇒2018年発売!注目の海外SF&ファンタジー小説
Previous⇒2016年発売!注目の海外SF&ファンタジー小説




image