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4月20日発表予定の第70回日本推理作家協会賞の候補作概要と受賞作予想についてまとめてみました。


愚者の毒(宇佐美まこと )
1985年に職安に出会った 葉子と希美は互いに忌むべき過去を心に秘めつつ友情を育んでいた。しかし、それも葉子が家政婦として働いていた家の主人の不審死によって破綻する。忌まわしき因縁がふたりを苛む。そのすべての発端は1965年に起きた筑豊の廃坑集落での殺人事件にあった。
宇佐美まこと氏は2006年に『るんびに子供』で『幽』怪談文学賞短編部門大賞を受賞し、作家デビュー。2008年には書き下ろし長編『虹の童話』を刊行。日常に潜む闇や人間の負の側面を描いたホラー作品を得意とし、初のミステリー作品である本書でもそのテイストは継承されています。

愚者の毒 (祥伝社文庫)
宇佐美 まこと
祥伝社
2016-11-11


坂の途中の家(角田光代 )
幼い子供の虐待死を巡る裁判。2歳の娘を持つ里沙子はその裁判員候補者に選ばれた。そして、裁判が進む内に彼女は30代の主婦である被告人と自分の境遇を照らし合わせ、その類似点の多さによって精神的に追い詰められていく。
角田光代氏は 早稲田大学在籍中に『お子様ランチ・ロックンソース』で1988年上期コバルト・ノベル大賞をを受賞して少女小説作家としてデビュー。大学卒業後の1990年には『幸福な遊戯』で第9回海燕新人文学賞を受賞し、一般文学のジャンルから改めて再デビューを果たします。その後は、1996年に『まどろむUFOの夜』で第18回野間文芸新人賞を皮切りに多数の文学賞を獲得していきます。

1998年『ぼくはきみのおにいさん』第13回坪田譲治文学賞、
2000年『キッド・ナップ・ツアー』第22回路傍の石賞
2003年『空中庭園』第3回婦人公論文芸賞
2005年『対岸の彼女』第132回 直木賞
2006年『ロック母』第32回川端康成賞
2007年『八日目の蝉』第2回中央公論文芸賞
2011年『ツリーハウス』第22回伊藤整文学賞
2012年『紙の月』第25回柴田錬三郎賞
    『かなたの子』 第40回泉鏡花賞
2014年『私の中の彼女』第2回河合隼雄物語賞

その作風は純文学と大衆小説を行き来するものであり、少なくとも、あまりミステリー要素を感じさせるものではありませんでした。『坂の途中の家』は30年近い作家生活の中で初めてミステリーの賞にノミネートされた作品ですが、本書にしても決してミステリーに特化しているわけではありません。裁判を中心に描かれているため、雰囲気はいかにも法廷サスペンス風ではあるものの、その中身は、抑圧された女性の内面を描いた極めて内省的なものです。それがミステリーとしてどのように評価されるのかが興味深いところです。
坂の途中の家
角田光代
朝日新聞出版
2016-01-07


ノッキンオン・ロックドドア(青崎有吾 )
 不可能犯罪の解明が専門の御殿場倒理、不可解な犯行現場の謎に推理の冴えをみせる片無氷雨。得意分野の異なるふたりの探偵がコンビを組み、時に競い合い、特に協力し合いながら事件の解明に挑む連作ミステリー。
 青崎有吾氏は2012年に『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受賞して作家デビュー。ライトノベル風のキャラクター小説の色が強い作風ながら、エラリー・クイーンばりのロジックはかなり本格的で、パズラーファンからは高い評価を得ています。


半席(青山文平) 
監察、内偵などを主な任務とする徒目付の片岡直人は 、老いた侍が起こした刀傷沙汰の原因を調べるように命じられる。なぜ、真面目一徹だった男は老境に入ってこのような事件を起こしたのか?武家社会起きる事件の動機に焦点を当てた連作時代小説。
青山文平氏は1992年に『俺たちの水晶宮』で第18回中央公論新人賞を受賞して作家レビューを果たすも一旦作家活動を休業。その後、2011年に『白樫の木の下で』第18回松本清張賞を受賞し、再デビューを果たします。続いて2014年の『鬼はもとより』では第17回大藪春彦賞を受賞。そして、2015年の『つまをめとらば』では第6回山田風太郎賞と第154回直木賞のダブル受賞を決め、一躍メジャー作家となりました。ちなみに、67歳での直木賞受賞は歴代2番目の高齢受賞です。

半席
青山 文平
新潮社
2016-05-20


涙香迷宮(竹本健治 )
天才囲碁棋士であり、卓越した推理力も併せ持つ牧場智久は恋人の武藤類子と共に明治の巨人黒岩涙香の家に訪れるが、そこで彼はいろは歌を駆使して作り上げた涙香の暗号にでくわす。時を隔てた涙香の挑戦状にIQ208 の牧場智久はどう立ち向かうのか? 
竹本健治氏は3大奇書に続く第4の奇書とも言われる『匣の中の失楽』を若干23歳で書き上げ、1977年に作家デビュー。その際、第32回推理作家協会賞にノミネートされましたが、受賞には至っていません(受賞作は天藤真の『大誘拐』)。そして、本書が38年ぶり、2回目のノミネートとなります。
涙香迷宮
竹本 健治
講談社
2016-03-10

 

受賞作予想
今回は想定外のノミネート作品ばかりで予想がかなり難しいですね。まず、『坂の上の途中の家』はミステリーとしてどころか娯楽色も薄い作品ですし、『半席』はミステリーの色が多少あるとは言え基本は時代小説ですし、『ノッキンオン・ロックドドア』に至っては、同じ作者で本ミス2位の『図書館の殺人』ではなく、なぜこの作品がノミネートされたのかという疑問が生まれてきます。そうなると、このミス1位の『涙香迷宮』が断然有利という話になるのですが、どうも今回のこのミスは不作な年にありがちな、「票が分散した結果、マニアックな作品が一部の熱烈な支持によって1位獲得!」パターンのような感が強く、作風的にも推理作家協会賞で高く評価されるような気がしません。そこで、今回は密かな注目作品である『愚者の毒』を第1候補に挙げておきます。あとは、第2候補が『涙香迷宮』、第3候補が時代小説でありながら去年のこのミスで高順位を記録した『半席』といったところでしょうか。いずれにしても、今年はどれも決定打に欠けるため、場合よってはダブル受賞もあるかもしれません。

5月11日追記
ダークホースの宇佐美まこと氏が見事受賞をきめました。年末のこのミスをはじめとしてこれからの活躍が楽しみです。

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