最新更新日2017/3/27☆☆☆

本格ミステリの歴史を鮮やかに彩る密室トリックは最初のミステリー小説である『モルグ街の殺人』ですでにその萌芽をを見せ、『ビッグボウの怪事件』、『黄色い部屋の謎』などを経て、ジョン・ディスクン・カーの登場とともに大きく花開いていきます。しかし、戦後は本格ミステリそのものが急速に衰退し、密室トリックを扱った作品も海外では次第に見られなくなっていきました。それに代わって密室に絡んだ大量の作品を生み出したのが日本です。世界中にこれほど密室トリックが愛されている国は他にないのではないでしょうか。
そこで、数多くある日本の密室殺人ミステリーの中から個人的おすすめだと思うものを紹介していきます。

2012年

密室蒐集家(大山誠一郎)
密室トリックが本格ミステリの花形だった時代は遠い過去になった今の世に、徹底して密室殺人の構築にこだわり抜いた熱意が素晴らしい連作集。本作は5篇からなり、同じ人物が探偵役を務めているにも関わらず、1937年~2001年とそれぞれ全く異なる時代が舞台となっているのが特徴です。
音楽室で教師が銃殺され、目撃者の目をかいくぐって犯人が消えうせる「柳の園」、刑事の張り込む出入り不可能な住宅で高校生男女の死体が発見される「少年少女の密室」、雪が降り積もる中、周囲には被害者以外の足跡が残されていない「佳也子の屋根に雪降りつむ」など、魅力的な謎を扱ったエピソードがずらりと並んでいます。しかも、それぞれの謎の解法は入念に考え抜かれたものであり、歯ごたえ十分のパズラー集に仕上がっています。特に、なぜ密室にしたのか?という謎を中心に添えた「理由ありの密室」は、趣向が独創的でロジックも鮮やかな傑作です。
ただ、この作品集全体に言えることですが、密室の成立にさせるために、偶然の要素が多すぎるのと謎解きの純度を上げるために物語性を犠牲にした点は賛否が分かれるところでしょう。

第13回本格ミステリ大賞受賞
密室蒐集家 (文春文庫)
大山 誠一郎
文藝春秋
2015-11-10


2007年

密室キングダム(柄刀一)
伝説的なマジシャンが公演中に衆人環視の中で殺され、それを発端として次々と起こる不可能犯罪の連鎖。前代未聞の難事件に若き日の南美希風はいかにして立ち向かうのか?
ひとつの長編作品の中で5つの密室事件を詰め込んだゴージャスな作品です。しかも、質より量といった安易なトリックのバーゲンセールではなく、ひとつひとつのトリックが単独の作品としても十分通用するレベルである点がこの作品の凄いところです。特に、密室自体がミスディレクションとして使用され、トリックを解くことでさらなる罠が待ち構えている心理トリックの妙にはうならされます。まさにトリック尽くしの作品であり、トリック好きの人には必読の書だと言えます。ただ、トリックに傾倒するあまり、物語性を犠牲にしている部分があり、話がやや単調な点には物足りなさを感じるかもしれません。
2007年度週刊文春ミステリーベスト10国内部門第10位
2008年度本格ミステリベスト10国内部門第3位



2004年

硝子のハンマー(貴志祐介
ビルの一室で撲殺死体となって発見された社長。しかし、その部屋は厳重なセキュリティシステムで守られた完全な密室だった。その結果、犯行現場の隣室にいて唯一犯行が可能だった専務が逮捕される。弁護士の純子は彼の無罪を信じ、防犯コンサルタントの榎本に助力を求めるが…
本作は古典的な密室殺人とは異なり、最新テクノロジーで固められたセキュリティの盲点をいかにしてつくかが焦点となっています。理系的知識が前提になっているため、心理トリックこそ至上と考えている人にとっては物足りないかもしれません。しかし、榎本のセキュリティに関する膨大な知識に基づいてあらゆる可能性を検討する推理パートは知的好奇心を刺激されますし、その過程で浮かび上がる仮説の数々もなかなか魅力的で読みごたえは十分です。また、実際に使用されたトリックは少々奇抜なものですが、後半部分を犯人視点の叙述ミステリーに仕立て、犯行計画の過程をじっくり描くことでトリックに説得力を持たせている点も上手さが光ります。
第58回日本推理作家協会賞受賞
2005年度本格ミステリベスト10第5位
2005年度このミステリーがすごい国内編第6位



天城一の密室犯罪学教程(天城一)
ミステリーファンの間でカルト作家として知られていた天城一の作品群をデビューから57年を経て初めて単行本化。
本書は「実践編」「理論編」「名探偵・麻耶正シリーズ」の3部構成に分かれているのが特徴です。第1部の「実践編」は密室トリックの基本パターン使った15ページ程度のショートショートが並べられていますが、これらは小説としてはあまりにも味気なくて単独で楽しむには苦しいものがあります。しかし、第2部の「理論編」ではパターンごとの密室トリック解説があり、これとセットで読むとなかなか味わい深いものになってきます。そこにはトリックに対する強烈なこだわりが感じられ、そのあたりがカルト作家と呼ばれる所以なのでしょう。ただし、この第2部では海外の有名ミステリーのネタバレが思いっきりされているので未読の人は注意が必要です。そして、名探偵麻耶正が活躍する第3部はなんといっても巧みな心理トリックを用いた傑作『高天原の犯罪』が白眉でしょう。決して万人にすすめできる作品ではありませんが、密室マニアにとっては手元に置いておき、たまに読み返したくなるようなそんな1冊です。
2005年度このミステリーがすごい国内編第3位

天城一の密室犯罪学教程
天城 一
日本評論社
2004-05


監獄島(加賀美雅之)
天才犯罪者のポールドウィンが収監されている脱獄不可能な監獄の島。そこで、大きな陰謀が進行中との内部告発があった。パリ警察予審判事のベルトランは調査に赴くが、そこで待ち受けていたのは前代未聞の連続不可能犯罪だった。
やり過ぎ感満載のデビュー作『双月城の惨劇』をさらにスケールアップしたベルトランシリーズの第2弾です。とにかく発生する事件が尋常ではなく、塔から吊下げられた火達磨の死体、人間消失、複数のバラバラ死体と思いつく限りの怪事件が続きます。しかも、不可能状況は物理的な密閉空間に加えて複数の目撃証言があるという念の入れようです。用いられたトリックも一部微妙なものもありますが、物理トリック、心理トリック織り交ぜて読者を楽しませてくれます。偶然に頼ったトリックが複数見られる点が気にならないでもないですが、これだけの大ボリュームであれば些細な問題です。ここまで豪華絢爛な本格ミステリは初めてかもしれません。ただ、相変わらずの大時代的な大仰な表現が続くので生理的に合わない人は確実にいるでしょう。

監獄島〈上〉 (光文社文庫)
加賀美 雅之
光文社
2012-05-10


2002年

双月城の惨劇(加賀美雅之)
ドイツのライン川ほとりにある満月の塔と新月の塔。ふたつの塔を持つことから双月城と呼ばれる城で惨劇が起きる。城主である双子の姉妹のうち、片方が満月の塔で首と両手首を切り取られた焼死体となって発見されたのだ。しかも、現場は完全な密室状態だった。果たして死体は姉と妹のどちらのものかのか?名探偵ベルトランと好敵手ストロハイム男爵がこの難事件に挑む。
2013年に早逝した加賀美雅之のデビュー作。もともとこの作品はディスクン・カーのバンコランシリーズの習作という設定で書き始めた作品です。一読してカー作品への愛が伝わってくる上に自分の書きたいものをこれでもかというほどに詰め込んでいるがわかります。さらに、文章もいちいち大仰で、免疫のない人が読むと、あまりにも脂ぎったコテコテした味わいに胸やけを起こす恐れがあります。しかし、一方で、スケールの大きな密室トリックやその他、大小の数々の不可能犯罪はどれも魅力的でトリック好きにとってはたまらない作品だと言えるでしょう。
双月城の惨劇 (光文社文庫)
加賀美 雅之
光文社
2006-12-07




1998年

人狼城の恐怖(二階堂黎人)
ドイツにある銀の狼城に招待された10人男女は城に閉じ込められ、ひとりまたひとりと殺されていく。一方、その頃、国境を跨いでフランスにある青の狼城でも奇怪な惨劇が起き、死体の山が築かれていく。その数か月後、ふたつの事件は世間には知られることなく、被害者たちは行方不明として扱われていた。ところが、事件の経緯が記された記録を卓越した推理力を誇る二階堂蘭子が入手したことで事件は解決に向けて動き始める…。
世界最長の本格ミステリと呼び声高い作品ですが、ただ長いだけでなくその中身もボリュームたっぷりです。本書だけで長編10冊は書けるのではないかというアイディアが詰め込めれており、全編謎とトリックのオンパレードです。しかも、殺人事件のほとんどが密室殺人を含む不可能犯罪であり、そのトリックも実によく考えられています。豪華絢爛な本格ミステリが好きな人にはたまらない作品ででしょう。ただ、本書はこの後デビューする加賀美雅之の作品と同じ欠点があり、探偵の描写やワトソン役のリアクションが大仰でそれが鼻につくという人も少なくないでしょう。そういう人は事件の経過を描き、探偵が登場しない前半(ドイツ編、フランス編)の方が楽しめるかもしれません。
1999年度本格ミステリベスト10第1位
1999年度このミステリーがすごい国内編第9位



1992年

哲学者の密室(笠井潔)
1000ページを優に超える大作。ストーリーも本の厚さに負けず、第二次世界大戦のユダヤ人収容所で起こった三重密室と30年後にパリで起こった三重密室がリンクするという壮大なものです。ただし、本書に狭義の意味での本格ミステリの面白さを求めると肩透かしを感じるかもしれません。この作品は決して謎解きの面白さだけを追求する作品ではなく、ページの多くを哲学的思索に割いているからです。

密室殺人とは世界大戦の大量死に代表される無意味で惨めな死に耐えられない人々による「特権的な死の封じ込め」である。

この定義からしてすでに普通のミステリーとは一線を画しています。そして、密室の謎を起点にして戦争とはナチスとはハイデッガーの哲学とは何だったのかという問題に話は広がっていきます。密室トリックはそれほど独創的なものではないのでその点では看板倒れな感もなきにしもあらずですが、密室殺人の意味をここまで徹底的に解体し、独自の解釈を試みた作品は前代未聞でしょう。その試みのユニークさは発表から四半世紀がすぎた今でも色褪せていません。
1992年度週刊文春ミステリーベスト10国内部門第2位
1993年度このミステリーがすごい!国内編第3位

哲学者の密室 (創元推理文庫)
笠井 潔
東京創元社
2002-04


七つの棺(折原一)
1988年発表の著者のデビュー作『五つの棺』にふたつの短編を追加して改題した連作集。タイトルはもちろん、ディクスン・カーの名作『三つの棺』に由来しているわけですが、収録作品もひとつひとつが有名な密室ミステリーのパスティーシュになっているまさに密室ファンのための密室づくしの作品です。しかも、大の密室好きであり、迷推理によって必要以上に事件を複雑化させていく黒星警部の存在がパロディとしての楽しさを引き立ています。もちろん、パロディなのでバカバカしいトリックも多いのですが、密室の扱い方はバリエーションに富んでおり、読者を飽きさせません。中でも密室の構築を多重視点で描いた「ディスクン・カーを読んだ男たち」が秀逸です。

1982年


斜め屋敷の犯罪(島田荘司)
『占星術殺人事件』に並ぶ島田荘司氏初期の代表作。
斜めに傾いた異形の屋敷を舞台に、いかにも作者らしいバカミスすれすれというか、バカミスに両足を突っ込んだ密室トリックが炸裂します。それでも、読んでいる間はそのトリックに凄みすら感じさせるのところがさすがの剛腕です。しかも、単にバカトリック一発では終わらずに、小さなトリックをちりばめて推理の楽しさを盛り込んでいるところにミステリー愛を感じさせてくれます。


1978年

三毛猫ホームズの推理(赤川次郎)
赤川次郎氏と言えば、読み捨ての本の量産作家というイメージですが、初期にはミステリーマインドあふれる良作を多く発表していました。三毛猫シリーズ第1弾である本作もそのひとつです。
ユーモアの中に多くの謎を絡ませての伏線回収は見事で、その中でもバカミスぎりぎりの豪快な密室トリックが目を引きます。


求婚の密室(笹沢左保)
大学教授の西城は自分の誕生日を祝うために13人の男女を招待する。同時に、祝いの場で養女の富士子の婚約を発表するつもりでいたのだ。ところが、翌日、離れの地下室で西城夫婦の服毒死体が発見される。現場は完全な密室であり、床にはWSの文字が。一体ここで何が起きたのか?
シンプルで心理的盲点をついた密室トリックが素晴らしい本格ミステリの佳作です。推理合戦やダイイングメッセージなどといった本格ミステリのギミックを詰め込み、そこにロマンの衣をかぶせるといういかにも笹沢左保らしいサービス満点の作品に仕上がっています。ただ、推理合戦で勝利した者が求婚できるという謎展開については賛否が分かれるところでしょう。



1977年

七色の密室(佐野洋)
色にちなんだ七つの密室犯罪が登場する密室尽くしの短編集。ただし、佐野洋はトリックメーカーというわけではなく、むしろトリックの創出率は低い作家であるため、本篇に登場する密室トリック自体は小粒です。その代り、短編ミステリーの名手だけあって、構成や小道具の使い方は実に巧みです。赤外線カメラを用いた密室状況を作り出したり、密室もので倒叙ミステリーに挑戦したりと密室というテーマに対し、アプローチの仕方に工夫を凝らしている点が佐野洋ならではの持ち味でしょう。トリックに関しては過剰な期待をせず、切り口の多彩さを楽しみたい作品です。
1977年文春ミステリーベスト10第8位(国内・海外混合ランキング)



1975年

花の棺(山村美紗)

アメリカ副大統領の娘キャサリン・ターナーは日本文化に興味を持ち、華道家の小川麻衣子に生け花を教えてもらうために来日する。しかし、麻衣子は鍵のかかった茶室で毒殺される。しかも、雪の降り積もった庭には犯人の足跡はなく、現場は二重の密室と化していたのだ。キャサリンシリーズの第1弾。
2時間ドラマの原作者として有名な山村美紗ですが、本作は流行作家になる前の初期の作品であり、本格ミステリのアイディアがふんだんに盛り込まれた贅沢な作品に仕上がっています。有名な純和室ならでは密室トリックはもちろん、それに続くキャンピングカーの消失もなかなかよく考えられたトリックです。その一方で、トリックを使う必然性などは首をかしげざるを得ず、謎解きとしてのリアリティ無視が目立ちますが、こういったアイディア先行の力押しの作風こそが70年代本格ミステリの特徴ではあるのでしょう。
花の棺 (光文社文庫)
山村 美紗
光文社
1986-11


1971年

超高層ホテル殺人事件(森村誠一)
クリスマスイブの日にホテルの一室から転落死した男。しかし、揉み合いながら窓から落ちていく姿を大勢の人間が目撃しているのにもかかわらず、その階のフロントの話によると犯行現場となった部屋から出て行った人間は誰もいないという。犯人は一体どこに消えたのか?
ホテル経営を巡る企業戦争を描いた社会派ミステリーであると同時に大胆なトリックを次々と投入したケレン味たっぷりの本格ミステリでもあります。アイディア優先のところがあり、ロジックの精緻やプロットの秀逸さというものとは無縁ですが、第1の殺人の大胆すぎる密室トリック、第2時の犯行における壮大なアリバイトリック、最後に第1の殺人とは異なるタイプの密室殺人とまさにトリックの応酬で読みごたえは十分です。
超高層ホテル殺人事件 (角川文庫)
森村 誠一
KADOKAWA/角川書店
2015-02-25


1957年

死を開く扉(高木彬光)
四次元につながる扉の妄想に取りつかれ、あらぬ場所に扉を作った男が、その扉の前で額を撃ち抜かれて殺される。しかし、扉には鍵が掛けられており、現場は完全な密室だった。男は四次元から飛び出してきた銃弾に貫かれたとでもいうのだろうか?
本作は200ページほどの短い作品で、見どころはほぼ密室の謎だけです。長編ミステリーとしては少々ボリューム不足かもしれませんが、密室トリックのアイディアがなかなかユニークで、密室好きの人にはおすすめです。

死を開く扉 (1959年)
高木 彬光
浪速書房
1959


1954年

赤い密室(鮎川哲也)

短編小説ながら密室殺人を扱った国内ミステリーの最高峰との呼び声も高い傑作です。二重密室と化した大学の解剖室から発見されたバラバラ死体。密室状況があまりにも堅牢すぎて生半可なトリックでどうこうできるとはとれも思えません。そんな難問をロジックの積み重ねによって解明する手際が実に見事です。もともと鮎川哲也と言えばアリバイ崩しの名手ですが、本作はアリバイを崩す際の細やかなプロセズを密室トリックに応用した作品だと言えるでしょう。その緻密さは一級品です。ただ、密室トリックにケレン味たっぷりな大仕掛けを求める人にとっては地味に感じる可能性はあります。


1949年

妖婦の宿(高木彬光)
ホテルの部屋の外で男たちが寝ずの番をしていたにも関わらず、妖婦と呼ばれた女優はナイフを突き刺されて死んでいた。犯人はこの鉄壁に密室の中にどのようにして侵入したのだろうか?
本書はもともと探偵作家クラブ恒例の新年会で犯人当てクイズとして読み上げられたもので、その後、短編ミステリーとして改めて雑誌に掲載されています。この作品で使用されている密室トリックは極めてシンプルなものです。しかし、心理的盲点を巧妙に突く仕掛けが素晴らしく、密室殺人を扱った短編ミステリーとしては鮎川哲也の「赤い密室」に並ぶ傑作とされています。
妖婦の宿 (1982年) (角川文庫)
高木 彬光
角川書店
1982-07


1948年

刺青殺人事件(高木彬光)
戦後直後にミステリー界の大型新人として登場した巨匠のデビュー作。
本作では、美しい入れ墨を背中に持つ美女がバラバラ死体となって密室状態の浴室で発見され、しかも、入れ墨をしてある胴体部だけが持ち去られるというケレン味たっぷりの怪事件が描かれています。密室トリック自体は大したことはないのですが、密室殺人を隠れ蓑に使った「心理の密室」という2段構えの仕掛けにはうならされます。『本陣殺人事件』、『獄門島』、『不連続殺人事件』と並ぶ戦後直後に書かれた本格ミステリの傑作です。



1946年

本陣殺人事件(横溝正史)

戦時中には禁止されていた探偵小説。その渇望から花開いた本格ミステリブームの端緒となった作品であり、同時に、名探偵金田一耕助のデビュー作でもあります。田舎の旧家、雪の降る結婚式の夜に琴の音が鳴り乱れ、新郎新婦が死んでいた離れの庭には血染めの日本刀が突き刺さっている、といういかにも日本の情緒をたたえた密室殺人が美しく、印象的です。
第1回探偵作家クラブ賞(現・日本推理作家協会賞)受賞


1933年

完全犯罪(小栗虫太郎)
横溝正史が病に倒れ、予定していた原稿が雑誌に掲載できなくなった際に、ピンチヒッターとして代わりに掲載された小栗虫太郎のデビュー作。
物語は中国奥地の西洋館で起きた娼婦の不審死に対し、ソビエト共産党元秘密警察の主人公が真相を推理していくというもの。この短編ミステリーに使用されている密室トリックはリアリティ皆無で現代の読者が読むとバカバカしく感じられるかもしれません。しかし、当時の読者の間では大いに評判となり、小栗虫太郎を一躍人気作家へと押し上げます。実際、実現は不可能であってもその幻想的なトリックには忘れがたい味わいがあることは確かです。戦前を代表する密室ミステリーのひとつだと言えるでしょう。

完全犯罪―他8編 (春陽文庫)
小栗 虫太郎
春陽堂書店
1996-12



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