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5月12日発表予定の第17回本格ミステリ大賞の候補作の概要と受賞作予想についてまとめてみました。

悪魔を憐れむ(西澤保彦)
置時計が飛んできて人を襲う『無間地獄』や3人の被害者の内、ふたりだけ手首と首が切断されている『意匠の切断』など、不可解な謎にタックが挑む連作ミステリー。酒を飲みかわしながら推理を重ねるタック&タカチシリーズの第10弾。
西澤保彦氏は島田荘司氏の推薦によってタック&タカチシリーズの第1弾『解体諸因』で1995年に作家デビュー。その後、何年かは「SF設定の中で起きる事件を本格ミステリのロジックで解決する」SFミステリー作家として名を馳せます。その後、2003年には『聯愁殺』で第3回本格ミステリ大賞にノミネートされますが、この時の投票結果は5作品中最下位でした。今回は14年ぶり2回目のノミネートとなります。
悪魔を憐れむ
西澤 保彦
幻冬舎
2016-11-23


おやすみ人面瘡(白井智之 )
体中に人面瘡が生えてしゃべりだす奇病が蔓延する日本。胸糞悪いさまざまな事件が起こる中、最後は端正なロジックで謎が解明されいく異色の本格ミステリ。
白井智之氏は第34回横溝正史賞で最終候補となった『人間の顔は食べづらい』が有栖川有栖氏と道尾秀介氏の推薦を受けて作家デビュー。デビュー2作目の『東京結合人間』は第69回日本推理作家協会賞にノミネートされています。本作はデビュー3作目です。西澤保彦氏がかつてSFミステリーの名手だったのに対して白井智之氏の一連の作品は、グロテスクな設定に本格ミステリの要素を織り交ぜたグロミスであり、インパクトは抜群ではあるものの、相当読者を選ぶ作風となっています。
おやすみ人面瘡
白井 智之
KADOKAWA
2016-10-01


 聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた(井上真偽)
結婚式で同じ杯を飲み回した8人のうち3人だけが死亡する。謎の解明に乗り出す中国美女フーリンと少年探偵八ツ星。数多の推理と反証が飛び交う中、ついに奇跡を追い求める異色の探偵上笠丞が登場する。
井上真偽氏は『恋と禁忌の述語理論』で第51回メフィスト賞を受賞し、2015年に作家デビュー。ラノベのようなキャラクターと推論に推論を重ねる過剰なロジックが特徴の作家であり、2作目の『その可能性はすでに考えた』で本ミス5位、3作目の本書で本ミス1位と本格ミステリとして非常に高い評価を得ています。なお、『その可能性はすでに考えた』は第16回本格ミステリ大賞にノミネートされましたが、結果は5作中3位でした。



誰も僕を裁けない(早坂 吝)
援交女子高生の上木らいちはある屋敷でメイドとして働くことになるが、そこで奇怪な殺人事件に巻き込まれる。一方、高校生の戸田公平は突然逮捕され、無罪を勝ち取るために戦っていく。この一見、無関係な物語は果たしてどこでつながるのか?上木らいちシリーズ第3弾。
早坂吝氏は上木らいちリーズの第1弾『○○○○○○○○殺人事件』で第50回メフィスト賞を受賞し、2014年に作家デビュー。白井氏の作品がグロミスなら本シリーズはエロミス。探偵役のヒロインが援助交際をやっているというだけあって、エロシーンが多さは特筆ものです。その上、ぶっとんだ設定の多いバカミスでもあり、エロシーンが伏線の役割を担う正統派パズラーでもあるという盛り過ぎな作りを身上としています。さらに、本作はそこに社会派ミステリーの要素も組み込んで自ら社会派エロミスと謳う意欲作です。年末のミステリーランキングでは本ミスではベスト10、このミス・文春ミステリー・ミステリが読みたいでは、いずれもベスト20に食い込み、手堅い評価を得ています。


 
涙香迷宮(竹本健治)
天才囲碁棋士牧場智久は恋人の類子と一緒に黒岩涙香の隠れ家に訪れるが、そこにはいろは歌を用いた壮大な暗号が待ち構えていた。明治の巨人涙香が編み出した前代未聞の謎に智久はどう立ち向かうのか?
竹本健治氏は日本3大奇書のひとつ『虚無への供物』の作者である中井英夫氏の推薦を受けて、1977年に『匣の中の失楽』で作家デビュー。23歳でのデビュー作が時に日本4大奇書と称されるなど、早熟の鬼才として期待されましたが、40年のキャリアの中で文学賞などとは縁がありませんでした。このミス1位に選ばれた本書が初の栄冠となるかが注目です。

涙香迷宮
竹本 健治
講談社
2016-03-10


受賞作予想
本ミス1位の『聖女の毒杯』が大本命と言いたいところですが、去年はそれで大外れ。本ミス1位の『ミステリー・アリナー』を絶対視していたところ9位の『死と砂時計』にかっさらわれてしまいました。本格ミステリ大賞は本屋大賞と同じ投票方式ですが、投票者は数十人のミステリー作家からなる本格ミステリ作家クラブの会員なので、彼らの好みをどう読むかが大きなポイントとなってきます。去年の『死と砂時計』にしても特異な設定やチェスタトン風の逆説を巧みに取り入れた作風が同業者に受けたとも考えられます。そういう意味では40年のキャリアを持つ竹本氏の労作『涙香迷宮』に同業者として支持が集まるとも考えられますが、井上真偽氏の昨今の勢いも捨てがたいものがあります。そこで、本命『聖女の毒杯』、対抗『涙香迷宮』としておきます。


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