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3月3日発表予定の第38回吉川英治文学新人賞候補作の概要と受賞作予想をしてみました。


彼女がエスパーだったころ(宮内悠介)※吉川英治文学新人賞受賞
エスパー、百匹の猿、代替医療など、疑似科学と呼ばれる現象が発生し、主人公のジャーナリストがその真相を追う連作集。ルポルタージュ風の独特な語り口が印象的。
宮内悠介氏は現在最も注目されているSF作家のひとりです。デビュー作である『盤上の夜』で第33回SF大賞を受賞し、同時に直木賞候補にも選ばれました。その後、2度目の直木賞候補、山本周五郎賞、芥川賞と立て続けに文学賞にノミネートされますが、SF以外の主要文学賞は未だ受賞には至っていないため、それがいつになるかが注目されます。


コクーン(葉真中顕)

1995年にカルト宗教の信者がが起こした機関銃乱射事件を起点にしてその事件に関わった人々の過去と未来を綴った4つの物語。
葉真中顕氏は2009年より罪山罰太郎名義で人気ブロガーとして活躍し、2013年に『ロスト・ケア』で第16回日本ミステリー文学賞新人賞を受賞して作家デビュー。同作品はこのミス2014で10位に選ばれるなど社会派ミステリーの衝撃作として高い評価を得ます。続く、『絶叫』では第36回吉川英治文学新人賞候補に選ばれ、今回は2回目のノミネートとなります。
コクーン
葉真中 顕
光文社
2016-10-18


罪の声(塩田武士)
京都でスーツの仕立て屋を営んでいる俊也は父の遺品の中にカセットテープを見つける。そこに録音されていたのは31年前のギン萬事件で恐喝に使われた幼い少年の声だった。しかも、それは俊也自身の声だったのだ。その頃、ギン萬事件の謎を追って新聞記者の男も動いていた。圧倒的な取材量でグリコ森永事件を再構成するリアリティ満点のミステリー。
塩田武士氏は2010年に『盤上のアルファ』で作家レビュー。グリコ・森永事件を題材にした本作でブレイク。第7回山田風太郎賞受賞し、2016年週刊文春ミステリーベスト10国内部門第1位に選出されるなどなど高い評価を受けてます。
罪の声
塩田 武士
講談社
2016-08-03


天下一の軽口男(木下昌輝) 
江戸時代中期。幼馴染の笑顔を取り戻すために笑いの道を志した米沢彦八。やがて、彼は物真似や軽口噺で評判呼び、笑話の名人と称されるようになる。後に、上方落語の始祖と呼ばれる男の一代記。
木下昌輝氏は2012年に『宇喜多の捨て嫁』でオール読物新人賞を受賞して作家デビュー。同作品はデビュー作ながら第152回直木賞にもノミネートされています。続く『人魚ノ肉』は第6回山田風太郎賞にノミネートされ、本作がデビュー3作目。新進気鋭の時代小説作家として注目されています。
天下一の軽口男
木下 昌輝
幻冬舎
2016-04-07


ミッドナイト・ジャーナル(本城雅人)※吉川英治文学新人賞受賞
7年前の女児誘拐事件で大誤報記事を打って飛ばされた3人の記者。しかし、今、かつての事件を彷彿とさせる児童連続事件が発生する。飛ばされた記者のひとり豪太郎は7年前の事件との関連性を疑うが…。
本城雅人氏はサンケイスポーツの記者として20年間勤め上げた後、2009年に『ノバーディノウズ』が第16回松本清張賞で最終候補となり、作家デビュー。以後、スポーツや新聞記者を題材にしたミステリーを中心に作品を発表し続ける。2015年に発表の『トリダシ』で第18回大藪春彦賞にノミネートされる。 
ミッドナイト・ジャーナル
本城 雅人
講談社
2016-02-24


許されようとは思いません(芦沢央) 
余命いくばくもない曾祖父を殺して村から追放された祖母、自分のミスを隠そうとして深みにはまっていく新人営業マン、可愛い9歳の孫娘を自分の思い通りにコントロールしようとした祖母は…。何気ない日常の中にぽっかりと空いた狂気の穴に落ちていく人々を描いたイヤミス短編集。
芦沢央氏は2012年に『罪の余白』で第3回野生時代フロンティア文学賞を受賞して作家レビュー。同作品は2015年に映画化されています。そして、デビュー5冊目の本作は2016年週刊文春ミステリーベスト10の第7位に選ばれるなど、高い評価を得ました。イヤミスの新しい書き手として注目を集めている作家です。




受賞作予想

今回の候補作は作品の出来が拮抗しており、予想が難しいですね。ただ、強いて言うなら『コクーン』賛否両論の振り幅が大きいので受賞の可能性は低いかと。それと、『ミッドナイト・ジャーナル』は新聞記者出身の作者だけあって、マスコミに関する描写はさすがですが、ミステリーとして今ひとつパンチが弱いのがマイナス点。『彼女がエスパーだった頃』は個人的には推しですが、こういうSF系の作品は大手の大衆文学賞では受賞しにくい傾向があるのでこれも予想から外しておきましょう。問題は『罪の声』です。実績、評判とも申し分ない作品です。しかし、山田風太郎賞をすでに受賞しているだけに、混戦になった場合は本賞の独自性を出すために別の作品を推してくる気がします。あえてダブル受賞にするほど他の候補に比べて突出しているわけでもありませんし。そして、残るは『許されようとは思いません』と『天下一の軽口男』の2作。『許されようと思いません』は選考委員によって評価が大きくわかれそうです。一方、『天下一の軽口男』は受賞には過不足ない良作ですが、デビュー作の『宇喜多の捨て嫁』や2作目の『人魚ノ肉』の鮮烈さに比べると物足りなさを感じる点が不安材料でしょうか。迷いますが、予想は手堅く『天下一の軽口男』にしておきます。次点予想が『許されようとは思いません』で3番手が『罪の声』です。

3月3日追記
まさか、『ミッド・ナイト・ジャーナル』と『彼女がエスパーだったころ』のダブル受賞とは。完全に予想外でしたね。今回はかすりもしませんでした。しかし、ダブル受賞ということは今回はやはり、かなりの混戦だったのでしょうか?


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