最新更新日2017/3/28☆☆☆

本命不在で各社のランキングも結果はバラバラだった2016年。果たして、来年は不動の大本命は登場するのでしょうか?ぽつぽつと注目作を挙げていきます。


合理的にありえない 上水流涼子の解明(柚月裕子)
美貌の元弁護士上水流涼子は殺人や傷害以外であればなんでも請け負うと豪語するた探偵エージェント。彼女はアシスタントであるIQ140の貴山伸彦とともにありえない依頼に挑んでいくが…。美貌と知略を駆使し、難問を鮮やかに解決する痛快エンターテイメント。
柚月裕子氏は2012年発表の『検事の本懐』では第15回大藪春彦賞受賞、2015年発表の『孤狼の血』でこのミス2016第3位と第69回日本推理作家協会賞を受賞して一気に注目を集めます。本来、男くさい重厚な世界にこだわりを見せる作者ですが、本作は美貌の元弁護士を主人公に据えた今までにないほどに軽いタッチの作品です。いかにもテレビドラマの原作にうってつけといった感じの作品であり、気楽に楽しむエンタメとしては過不足のない出来です。しかし、ミステリーとしてのアイディアは凡庸で、かといってドラマ的に特筆すべき点があるわけでもありません。決してつまらなくはないのですが、年末ランキングで覇を競うにはいささか軽量級すぎると言えるでしょう。




狩人の悪夢(有栖川有栖
人気ホラー作家白布施の自宅に招待され、眠ると必ず悪夢をという部屋に泊まる有栖川。そして、その翌日、白布施の元アシスタントが住んでいた獏ハウスと呼ばれる空き家から右手首のない女性の死体が発見される。臨床犯罪学者の火村英生とミステリー作家の有栖川有栖は悪夢のような事件に立ち向かうが…。
シリーズ前作の『鍵のかかった男』は物語重視の濃厚な味わいが評価され、このミス、文春ミステリー、ミステリが読みたいといずれのミステリーランキングでもベスト10にランクインしました。ただ、その分、本格ミステリとしてはケレン味に欠ける部分があり、本ミスは7位と、本ミスランキング常連の火村英生シリーズ、しかもその代表作としては低め順位に終わっています。本作は前作と打って変わって謎解きの純度が高く、ロジックの積み重ねが非常に丁寧です。火村の推理は冴えわたり、最後の犯人との対決は凄味すら感じます。間違いなく本年度の本ミスの上位候補のひとつだと言えるでしょう。逆に、物語としては特筆すべき点はなく、非常にオーソドックスなパズラーであるため、このミスでベスト10にランクインするかどうかは微妙なところ。他の候補作次第ではないでしょうか。
狩人の悪夢
有栖川 有栖
KADOKAWA
2017-01-28


がん消滅の罠 完全寛解の謎(若木一麻)

第15回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作品である本書の魅力はなんといっても、複数の末期がん患者からがんが消失するという奇跡としか思えないような謎にあります。この前代未聞の謎が吸引力となってぐいぐいぐと物語を引っ張っていきます。その反面、ストーリー自体は主人公たちが集まって議論しているシーンばかりなのでドラマ性は希薄です。とは言っても、がんと医療の分かりやすい解説が興味深く、知的好奇心を刺激されるので退屈することはありません。その上、トリックも二重三重にも張り巡らされており、ミステリーとしても実に巧妙です。
ただ、本格ミステリを期待した人には専門知識を前提としたトリックに、医療問題を扱った本格的な人間ドラマを期待した人には展開が平板すぎて深みが足りない点に不満を覚える可能性はあります。そうした好みの問題を除けは、本書はサクサクとテンポよく読める上質なエンタメ作品だと言えるでしょう。宝島社からの発行なのでこのミスでは対象外ですが、文春ミステリーベスト10辺りなら競合作次第ではランクインの可能性は大いにあります。一方、本ミスでは『片翼の折鶴』と同様に好みがわかれそうです。


喧嘩(黒川博行)
前作で組を破門になった桑原のその後を描いた厄病神シリーズ第6弾。
このミスではシリーズ第1弾の『厄病神』が13位で前作の『破門』が8位をそれぞれ記録しています。本作も桑原と二宮の掛け合いは健在で安定した面白さを堪能できます。ただ、ストーリーはやや小粒であり、順位的に『破門』や『厄病神』より上ということはおそらくないでしょう。
喧嘩
黒川 博行
KADOKAWA
2016-12-09


片翼の折鶴(浅ノ宮遼)
著者は本書収録の『消えた脳病変』で第11回ミステリーズ!新人賞を受賞した現役の医師です。本書はいわゆる本格ミステリの短編ですが、殺人事件の謎を解くといったたぐいのものではありません。不可思議な症状や検査結果を示す病気の原因を推理によって究明するのが物語の核です。単なる医療ものとも言えますが、推理の過程が非常にロジカルなため、立派なパズラーとして成立しています。ただ、本格ミステリとしては変化球で好みが分かれそうなため、本ミスベスト10に入るかは微妙なところ。このミスであればベスト20を狙えるかもしれないかもと言ったところです。


いまさら翼といわれても(米澤穂信)
古典部シリーズ第6弾の連作ミステリー。高校生たちのほろ苦い心情を描いた青春ミステリーとしては良作で、キャラクター達の掘り下げもかなりされているのでシリーズのファンにとっては満足な出来なのではないでしょうか。ただ、ミステリー単体としてはいかにも弱く、本来ランキングには絡んできそうな作品ではありません。実際、古典部シリーズがこのミスにランクインした実績は、今まで皆無です。しかし、現在の米澤穂信氏は非常にランキングに強く、勢いに乗っています。また、古典部シリーズもかつてのマイナーな存在ではなく、アニメ化でブレイクした後、これが初めての新作なわけです。この合わせ技でどこまでいくかというところが見所になるでしょう。とはいってもさすがにベスト10以内はないと思いますが……。
いまさら翼といわれても
米澤 穂信
KADOKAWA
2016-11-30


告白の余白(下村敦史)
4年ぶりに帰省し、農地の生前贈与を嘆願した後に自殺した双子の兄。しかも、遺書には清水京子という女に自分の土地を譲渡してくれと記されていた。弟の英二は京子という女の正体を知るために兄になりすまして彼女に近づくが…。
本音を見せない京都人そのものをミステリーの主題として選び、その思わせぶりな台詞の端々に伏線を忍ばせるというユニークで高度なテーマに挑戦している作品です。かなりの野心作であり、特に、張り巡らせた伏線の怒涛の回収には圧倒させられます。ただ、テーマがテーマだけに、どうしても物語に無理が生まれ、不自然に感じる部分があるのは否めません。また、ミステリー以外の部分では、「いくら双子でも兄弟が入れ替わって気づかないものか?」、「農家の仕事を放り出して何ヶ月も京都に滞在して大丈夫なのか?」という点はやはり小説として気になるところです。
結果、かなり賛否の分かれる作品となり、このミスへのランクインは少々厳しそうです。

告白の余白
下村 敦史
幻冬舎
2016-11-23


悪魔を憐れむ(西澤保彦)
西澤保彦氏は本格ミステリベスト10ランクイン8回の常連です(ちなみに、このミスには97と2001の2回ベスト10にランクインしています)。しかも、本作は著者の代表シリーズであるタック&タカチシリーズの7年ぶりの新作でもあるだけに、9回目のランクインを期待したいところです。過去に同シリーズは本ミス2000で『依存』が7位、本ミス2010で『身代わり』が2位を記録しています。いずれも長編作品ですが、本作は4つの作品を収録した短編集です。
自殺を防ぐために見張っていたのにも関わらず、気がつくと飛び降りて死亡した後だったという表題作、3人の死体の内、なぜかふたりだけが切断されていた、『意匠の切断』などいずれも魅力的な謎とシリーズならではのディスカッション形式の推理が楽しめます。他の作品との兼ね合いもありますが、本ミスベスト10入りするだけの魅力は十分あるのではないでしょうか。
悪魔を憐れむ
西澤 保彦
幻冬舎
2016-11-23


沈黙法廷(佐々木譲氏)
ひとり暮らしの初老の男が殺され、捜査の末に行きついたのが、山本美紀という家事代行業の女性だった。しかも、彼女の周囲では複数の不審死が起こっていたのだ。警察は怪しすぎる彼女に対して状況証拠しかないのにも関わらず、逮捕に踏み切る。そして、舞台は法廷へと移っていく。果たして山本美紀は本当に犯人なのか?
佐々木譲氏はこのミスの第1回目から『ベルリン飛行指令』で第4位にランクイン。このミス2008では『警官の血』によって第1位に輝き、合計8回ベスト10にランクインしている常連中の常連です。また、佐々木譲氏と言えば、警察小説の代名詞ともいえる存在ですが、本書では前半は警察小説、後半を法廷ミステリーという2段構えのユニークな構成を採用しています。そして、そこで描かれるのは杜撰な見込み捜査によって犯罪者に仕立て上げられる悲劇や真実よりもメンツや内部事情が優先される組織社会の恐怖です。非常に考えさせられる作品ですが、550ページの物語を牽引するには少々冗長で全体的に展開が淡々とし過ぎている感があります。ラストも賛否あり、読み応えのある重厚な作品ながら事細かに描き込まれる部分とあっけない部分のバランスの悪さも気になるところです。惜しい作品ではありますが、このミスランクインはないと予想します。

沈黙法廷
佐々木 譲
新潮社
2016-11-22


愚者の毒(宇佐美まこと)
1965年の炭坑での悲惨な生活と陰惨な殺人に端を発する因縁話はひたすら重苦しいトーンで進んでいきますす。しかし、その物語にはぐいぐいと読者を引っ張っていく力強さがあり、散りばめられた伏線をきれいに回収する技巧の冴えも見事です。著者は無名ですが、素晴らしく完成度の高い作品であり、東野圭吾氏の白夜行を彷彿とさせるとの声もあります。まだ、他の候補作が全然出そろっていないので順位予想はなんとも言えませんが、今後どこまで評価が伸びていくのかが注目です。

愚者の毒 (祥伝社文庫)
宇佐美 まこと
祥伝社
2016-11-11


絶対正義(秋吉理香子)
イヤミス風味の味付けにひねりを加えたミステリーを得意とする秋吉氏ですが、今回はイヤミスの体現者というべき、分かりやすいキャラクターが登場します。法律を1ミリでも逸脱した奴は許さないという絶対正義というか、法律の狂犬、高規範子です。たとえ倫理的には良しとされる行為でも法を犯していれば正義の名のもとに断罪する彼女が怖すぎです。しかし、そのキャラクター性が突き抜けているため、案外楽しく読める面もあります。2015年にかなり話題になった『聖母』は文春ミステリーベスト10では12位だったものの、このミスではかすりもしませんでした。今回はとりあえず、20位以内を期待したいところです。

絶対正義
秋吉 理香子
幻冬舎
2016-11-10


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