最新更新日2016/12/27☆☆☆

最近ではさすがに斬新なアイディアも尽き、密室トリックが評判になるミステリーもほとんどなくなってきましたが、それでも密室という響きはミステリーファンにとってはなんとも言えないロマンを感じさせてくれるものです。できれば密室トリックを扱った作品ばかりを存分に味わってみたいという人もいるでしょう。そこで密室をテーマにしたアンソロジー本の中で代表的なものを紹介していきます。

2006年

密室と奇蹟 J・D・カー生誕百周年記念アンソロジー

収録作品
ジョン・ディクスン・カー氏、ギオン・フェル博士に会う(芦辺拓)
少年バンコラン!夜歩く犬(桜庭一樹)
忠臣蔵の密室(田中啓文)
鉄路に消えた断頭吏(加賀美雅之)
ロイス殺し(小林泰三)
幽霊トンネルの怪(鳥飼否宇)
ジョン・D・カーの最終定理(柄刀一)
亡霊館の殺人(二階堂黎人)

密室の帝王の異名を持つジョン・ディクスン・カーの生誕百周年を記念して日本のミステリー作家たちが、カーと不可能犯罪にちなんだ作品を書き下ろしたアンソロジーです。
ラジオドラマの最中に起きた事件解決のために原作者のカーが立ち上がる『ジョン・ディクスン・カー氏、ギオン・フェル博士に会う』、忠臣蔵とカーの意外な関係を描いた『忠臣蔵の密室』、走行中の列車でトイレに逃げ込んだ犯人が消え失せ、代わりに被害者の首が発見される『鉄路に消えた断頭吏』、未解決事件を推理したカーのメモの意味を読解していく『ジョン・D・カーの最終定理』などなど、作品の出来不出来はありますが、どれもカーへの愛に満ち溢れており、カーファンには必読の書だと言えるでしょう。



2003年

密室殺人傑作選(ハンス・スティファン・サンテッスン編集)

収録作品
ある密室(ジョン・ディクスン・カー)
クリスマスと人形(エラリー・クイーン)
世に不可能事なし(クレイトン・ロースン)
うぶな心が張り裂ける(クレイグ・ライス)
犬のお告げ(G・K・チェスタント)
囚人が友を求める時(モリス・ハーシュマン)
ドゥームドーフの謎(メルヴィル・デヴィスン・ポースト)
ジョン・ディクスン・カーを読んだ男(ウィリアム・ブルテン)
長い墜落(エドワード・D・ホック)
時の網(ミリアム・アレン・ディフォード)
執行猶予(ローレンス・G・ブロックマン)
たばこの煙が充満する部屋(アンソニイ・バウチャー)
海児魂(ジョゼッフ・カミングズ)
北イタリア物語(トマス・フラナガン)

名品が数多く収録されたアンソロジーです。まずは『ジョン・デクスン・カーを読んだ男』。カーの熱烈なファンで自身も完璧な密室トリックを考案して殺人を実行。しかし、思わぬ落とし穴があってというパロディミステリーの傑作です。一方、カー自身も『ある密室』でユニークな密室トリックを考案しています。実現性はとにかくこの発想はカーならではでしょう。エドワー・D・ホックの『長い墜落』も有名な作品です。窓から落ちた男が忽然と姿を消し、数時間後に地上に激突するという不可思議な謎を扱っています。ブラン神父ものの『犬のお告げ』はトリック自体はたいしたことはないですが、ささいな出来事が解釈次第で全く違った事実を導き出すという逆説がすばらしい古典的名作です。「ドゥームドーフの謎』も銃を使った密室トリックの古典的名品で創元社推理文庫の『世界短編傑作集2』にも『ズームドルフ事件』のタイトルで収録されています。また、ロースンの『この世に不可能事なし』はプロのマジシャンらしい小道具使い方が光る銃殺による密室トリックの佳作です。他にもすぐれた作品盛りだくさんですが、ただ、いささか有名作が集中しすぎているためにミステリをある程度読んでいる方にとっては既読作品が多いかもしれません。初心者で密室の魅力を1冊で知りたいという方には特におすすめです。
密室殺人傑作選 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ハンス・ステファン サンテッスン
早川書房
2003-04





2001年

密室殺人コレクション(二階堂黎人・森英俊 編集)

収録作品
つなわたりの密室(ジョエル・タウンズリー・ロジャース)
消失の密室(マックス・アフォード)
カスタネット、カナリア、それと殺人(ジョセフ・カミングス)
ガラスの橋(ロバート・アサー)
インド・ダイヤの謎(アーサー・ポージーズ)
飛んできた死(ポプキンズ・アダムズ)

収録作品は6篇と少ないですが、いずれも入手困難な作品を集めているのが特徴です。
つなわたりの密室』は『赤い右手』がこのミス98で2位にランクインして一躍注目を浴びることとなったジョエル・タウンズリー・ロジャースの作品です。相変わらずの熱にうなされたような錯綜した文章によって真相をうまく覆い隠しています。
消失の密室』のマックス・アフォードはオーストラリアの作家です。部屋に入った人間が忽然と消えるという人間消失の謎を扱っていますが、今となってはありふれたトリックのパターンです。
カスタネット、カナリア、それと殺人』は映画撮影中に俳優が殺され、フィルムに写っているはずの犯人がどこにも見えないという謎。バカミス全開のトリックがなんとも愉快です。
ガラスの橋』はロバート・アーサーの『五十一番目の密室』に並ぶ代表作で雪に囲まれた家からの人間消失を印象深いトリックで成立させています。この作品集の白眉でしょう。
インド・ダイヤの謎』はダイヤモンド消失の謎をコメディタッチで描いた楽しい作品でトリックの使い方も巧妙です。
最後の『飛んできた死』は世界で最初の足跡トリックと言われる1908年の作品で、さすがに現代読者の目から見れば他愛もないトリックです。しかし、犯人はプテラノドンという仮定を大真面目に検討するさまは古きよき時代ならではの味わいがあります






1984年


密室大集合(エドワード・D・ホック編集)

収録作品
山羊の影(ジョン・ディクスン・カー)
火星のダイヤモンド(ポール・アンダースン)
子供たちが消えた日(ヒュウ・ペンティコースト)
クロワ・ルー8ス街の小さな家(ジョルジュ・シムノン)
皇帝のキノコ秘密(ジェイムズ・ヤッフェ)
この世の外から(クレイトン・ロースン)
鏡もて見るごとく(ヘレン・マクロイ)
七月の雪つぶて(エラリー・クイーン)
ニュートンの卵(ピーター・ゴドフリー)
三重の密室(リリアン・デ・ラ・トーレ)
真珠色の密室(アイザック・アシモフ)
魔術のように(ジュリアン・シモンズ)
不可能窃盗(ジョン・F・スーター)
ストラング先生と博物館見学(ウイリアム・ブルテン)
お人好しなんてごめんだ(マイクル・コリンズ)
アローンモント監獄の謎(ビル・フロンニージ)
箱の中の箱(ジャック・ニッチー)
魔の背番号12(ジョン・L・ブーリン)
奇術師の妻(J・F・ピアス)
有蓋橋事件(エドワード・D・ホック)

海外の密室短編ミステリーを集めたアンソロジーであり、編者は『長い墜落』や『長方形の部屋』など本人も不可能犯罪を扱った短編ミステリーの名手として知られるエドワード・D・ホックです。このアンソロジーの最大の特徴は巻末にホック自身が批評家や作家からアンケートをとった長編密室ミステリーのベスト15が収録されている点です。このアンソロジーが日本で発売された当時は入手しずらい作品も多かったのですが、現在ではネットを使って簡単に手に入れられるようになりました。
収録作品の中ではプロのマジシャンでもあるロースンが考案した目張りの密室の『この世の外から』、有名な長編ミステリー『暗い鏡の中で』の元ネタでこっちの方が面白いと評判の『鏡もて見るごとく』、スクールバスが走行途中に消えるという飛びきりの不可能状況を提示しながら物語の焦点がハウダニットからホワイダニットへシフトしていくペンティコーストの『子供たちが消えた日』などが有名です。また、カーの最初期の密室ものである『山羊の影』も資料価値の高い作品だと言えるでしょう。そして、最後の収録作品『有蓋橋事件』はホック自身が最初に書いた不可能犯罪もので橋の途中で馬車が消えるという魅力的な謎を扱っています。


1976年

続13の密室ー推理ベストコレクションー
(渡辺剣次編集)

収録作品
何者(江戸川乱歩)
坑鬼(大阪圭吉)
赤いネクタイ(杉山平一)
密室の魔術師(双葉十三郎)
密室のヴィナス(渡辺啓介)
二重密室の謎(山村正夫)
妖婦の宿(高木彬光)
罪深き死の構図(土屋隆生)
妖女の足音(楠田匡介)
みかん山(多岐川恭)
明日のための犯罪(天城一)
水色の密室(斉藤栄)
大密室(佐野洋)
『13の密室』の翌年に発売された続編的アンソロジーです。本作には心理的密室トリックとして名高い高木彬光の『妖婦の宿』が収録されています。また、大阪圭吉氏の『坑鬼』は正確には密室殺人ではありませんが、閉ざされた地下炭坑を舞台に異様な迫力に満ちた本格ミステリの異色傑作です。逆に、『何者』は乱歩にしては珍しく装飾をはぎ落したスマートな本格ミステリにしあがっています。


1975年

13の密室ー密室推理傑作選ー(渡辺剣次編集)

収録作品
火縄銃(江戸川乱歩)
蜘蛛(甲賀三郎)
完全犯罪(小栗虫太郎)
石塀幽霊(大阪圭吉)
犯罪の場(飛鳥高)
不思議の国の犯罪(天城一)
影なき女(高木彬光)
立春大吉(大坪砂男)
赤い密室(鮎川哲也)
完全犯罪(加田伶太郎)
密室の裏切り(佐野洋)
梨の花(陳舜臣)
聖父子(中井英夫)

戦前から戦後数十年の国内ミステリーの中から不可能犯罪を扱った短編を集めたアンソロジーです。初出は1975年。収録作品の中で白眉と言えば、なんといっても鮎川哲也の『赤い密室』でしょう。アリバイ崩しがお家芸の著者ですが、本作は長短編合わせて国内を代表する密室トリックに数えられているほどに秀でています。小栗虫太郎の『完全犯罪』は戦前での作品であり、今の基準で見ればバカミスの類でしょうが、その密室トリックには独特の幻想味があり、当時はだ大反響を呼んだ作品です。なお、加田伶太郎は純文学作家の福永武彦の別名であり、タイトルが同じ『完全犯罪』なのは特に意味はありません。その他には乱歩の『火縄銃』は海外にも先行作品がある有名トリックです。



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