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西村京太郎氏と言えば、トラベルミステリーの第一人者として知られています。これまで発表されたトラベルミステリーがおおよそ500冊というのですからとんでもない数です。西村氏が初めてトラベルミステリーを書いたのは1978年で、ほぼトラベルミステリーに専念し始めたのが1982年。しかし、西村氏が作家としてデビューしたのは1964年で、デビューから15年前後はトラベルミステリーとは無縁の作品を書き続けていました。その数はおよそ50冊。500冊と比べると取るに足らない数かもしれませんが、凡百の作家と比べるとそれだけでもかなりの数です。しかもその中には、今の西村京太郎作品からは考えられないバラエティに富んだ傑作が数多くあります。そこで、その一部をベストテン形式でご紹介します。

①殺しの双曲線(1971)
大雪で山荘に閉じ込められた人々が次々と殺されて行くクロードサークルもの。しかも、冒頭で双子トリックが使われていることを読者に向かって宣言するなど、とことんクラッシクなパズラーを意識した作品なっています。双子トリックが使われていることをあえて教えながらも、読者に真相が見抜かれないように仕掛けられた巧妙なプロットが見事です。70年代を代表する本格ミステリのひとつ言えるでしょう。


②消えたタンカー(1975)
インド洋で沈没したタンカーの事故から生き残った6名の乗組員が次々と殺されていくサスペンスもの。沖縄からブラジル、南アフリカへと世界をまたにかけたスケールの大きな作品でトラベルミステリーで活躍する前の十津川警部が登場します。犯人と捜査陣の駆け引きがスリリングで最後のどんでん返しも見事な傑作です。
消えたタンカ- (講談社文庫)
西村 京太郎
講談社
1999-02-12


③D機関情報(1966)
第2次世界大戦下の中立国スイスを舞台にしたスパイ小説。現代の西村氏からはスパイ小説などあまり連想できませんが、きびきびした文体で描かれた緊張感あふれる駆け引きとアクションの面白さは一級品です。史実との絡め方も見事で、物語の世界へぐいぐいと引き込まれていきます。
新装版 D機関情報 (講談社文庫)
西村 京太郎
講談社
2015-06-12


④名探偵なんか怖くない(1971)
アメリカのエラリー・クイーン、イギリスのエルキュール・ポアロ、フランスのメグレ警視、そして、日本の明智小五郎と世界中の名探偵が一堂に会して難事件に挑むパロディミステリー。遊び心満載の作品で、パロディとしての面白さだけではなく、ミステリーとしても捻りがきいています。本作は好評を博し、その後も『名探偵が多すぎる』、『名探偵も楽じゃない』、『名探偵に乾杯』とシリーズが続いていきます。それにしても、作品が発表された1971年といえば、江戸川乱歩以外の原作者は存命中だったのですが、著作権は大丈夫だったのでしょうか?あと、オリエント急行の殺人や男の首など原典のネタばらしが普通にされているので、未読の方はご注意を。


⑤七人の証人(1977)

何者かに誘拐された十津川警部。気がつくと無人島の中に再現されたある街の一角にいて、しかも、そこには1年前に起きた事件の目撃者7人が集められていた。誘拐犯は、その事件で逮捕されて獄死した男の父親で、息子の無実を証明すべく再現した街を使って事件を再検証しようというのだ。無理やり感満載の設定ですが、目撃者の証言の矛盾を突き、真相に近づいていく展開はかなりスリリングです。無駄な心理描写がないので、サクサクと進む謎解きが心地よい本格ミステリの佳作です。
七人の証人 (ジョイ・ノベルス)
西村 京太郎
実業之日本社
2004-09


⑥赤い帆船(1973)
トラベルミステリーでおなじみの十津川省三が若き青年警部として初登場。70年代の十津川警部の主な活躍の舞台は列車ではなく海でした。海の十津川警部シリーズはスケールの大きなものが多いのですが、本作も太平洋を縦断しての二転三転の展開が楽しめます。メインのアリバイトリックに切れ味があり、本格ミステリとしても完成度の高い作品です。


⑦四つの終止符(1964)
松本清張が台頭し、社会派ミステリーブーム真っ只中の時代に書かれた作品ですが、当時の作品群の中でも頭ふたつぐらい抜けた暗さと重々しさです。おもちゃ工場で働いている男は耳が聞こえず、家には寝たきりの母親がいる。そんな中、母親は何者かにヒ素を飲まされて命を落とし、濡れ衣を着せられた男は獄中死を遂げてしまう。ストーリーはひたすら暗く、またそれ以上に、耳が聞こえないというのがどれほどの苦しみを伴うかを語るくだりが痛切です。そして、全く救いのない真相がとどめをさします。他の西村京太郎作品と違い、読むには体力が必要な作品ですが、埋もれるには惜しい社会派ミステリーの傑作です。
四つの終止符 (講談社文庫)
西村 京太郎
講談社
1981-10-15


⑧天使の傷跡(1965)
第11回江戸川乱歩賞受賞作。前半は殺人事件から始まるオーソドックスで地味な本格ミステリです。しかし、後半になると、犯人の動機究明と共に古い因習に囚われた村社会の閉鎖性の問題が浮かび上がり、読み応えのある作品になってきます。深刻な社会問題をテーマにしていますが、四つの終止符ほどの重苦しさはなく、さらりと読める上質な社会派ミステリーの佳品です。
新装版 天使の傷痕 (講談社文庫)
西村 京太郎
講談社
2015-02-13


⑨消えた乗組員(1976)

航行中の大型クルーザーから乗組員全員が忽然と姿を消すという、マリーセレスト号を彷彿とさせる謎がなんとも魅力的。海難審判というあまりなじみのない舞台で事件が討議されるスタイルも新鮮で読みごたえ十分です。本格ミステリとしては真相に物足りなさが残りますが、警察サスペンスとし見ればかなり楽しめる作品です。


⑩消えた巨人軍(1976)
タイトルに消えたと冠がつく作品ですが、海の十津川警部シリーズではなく、左文字という探偵が活躍するシリーズの第1弾です。そして、今回消えるのは、なんと長嶋茂雄や王貞治が現役選手として活躍していた頃の巨人軍です。謎解き要素は大したことはありませんが、キャラクターが魅
力的で、犯人との知恵比べが楽しい肩の凝らないエンタメ作品に仕上がっています。


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