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年末のミステリーランキング発表まであと半年ということで、対象期間の半分に当たる2015年11月~2016年4月までに発売された注目作をピックアップし、ランクイン作品を予想してみました。しかし、大作・力作目白押しの海外に比べて今年の国内ミステリーはいかにも小粒。これは間違いなく上位ランクインと太鼓判を押せる作品が皆無なため、逆に、何がランクインしてもおかしくない状態になっています。


2017本格ミステリ・ベスト10
探偵小説研究会
原書房
2016-12-05


まずは、2年連続ミステリーランキング3冠の偉業を達成した米澤穂信氏の『真実の10メートル手前』。前作『王とサーカス』で主役を務めた大刀洗万智のその後を描いた連作集です。派手さはないものの切れ味のよい謎解きと著者独特のピリッとした後味の悪さが印象に残ります。万智のジャーナリズム対する想いも深みをましており、ヒロインの成長物語としても読みごたえのある佳作です。
真実の10メートル手前
米澤 穂信
東京創元社
2015-12-21


一方、『ミステリー・アリーナ』で去年の本格ミステリベスト10の第1位に輝いた深水黎一郎氏も新作『倒叙の四季』を発表しています。元刑事の作成した完全犯罪マニュアルを読んだ4人がそれぞれ実際に完全犯罪を目指すというもので、深水氏らしい奇抜な設定がユニークです。テンポよく読め、最後も捻りが効いて十分楽しめる作品ですが、完全犯罪を目指す割には犯行が結構ずさんでミスが分かりやすかったのには肩透かしを感じます。本ミスの10位以内にはランキングするでしょうが、このミスランクイン(ミステリー・アリーナは6位)は厳しそうです。

 
原田マハ氏の『暗幕のゲルニカ』は、このミス2013年度版で6位だった『楽園のヴァカンス』と同系列の美術ミステリー。国連本部から消失した、ゲルニカの精巧なタペストリーの謎を追うというもので、史実の中にフィクションが巧みに織り込まれているのが魅力です。2016年上半期の中では上位に入る作品だと思います。
暗幕のゲルニカ
原田 マハ
新潮社
2016-03-28

 
湊かなえ氏の『ユートピア』は第29回山本周五郎賞受賞作品。善意で始まったはずのボランティア活動から人間の悪意が浮き彫りになり、事件につながっていくという著者18番のイヤミスです。著作の多い湊かなえ氏ですが、デビュー作の『告白』が2009年度版で4位なって以降、このミスランキングとは無縁です。本作もミステリー色が薄いので例年だとランクインはないなという感じなのですが、賞を受賞したこともあり、このまま不作が続くとワンチャンあるかもしれません。
第29回山本周五郎賞受賞
ユートピア
湊 かなえ
集英社
2015-11-26

 
本ミスで『体育館の殺人』5位、『水族館の殺人』2位着実に実績を築いている平成の若きエラリー・クイーンこと青崎有吾氏。シリーズ3作目の『図書館の殺人』でも卓越したロジックでミステリーファンを楽しませてくれます。堅実な出来栄えで本ミスベスト10入りは間違いないところです。ところで、青崎氏は今年はすでにもう1冊新作を発表しています。ふたりの名探偵が活躍する連作集『ノッキンオン・ロックドドア』です。不可能担当と不可解担当の探偵コンビという設定はユニークでロジックにも光る部分もあるのですが、さすがに館シリーズと比べるとミステリーとしてはかなり軽めです。個性的なはずのふたりの探偵も書きわけが不十分で、見分けが付きにくという難点もあり、ランクインは厳しいのではないかと。
図書館の殺人
青崎 有吾
東京創元社
2016-01-29



島田荘司氏はこのミスの第1回から登場し、計11作品をランクインさせている常連のひとり。最新作『屋上の道化たち』は、全く自殺するそぶりのなかった男女が次々とビルの屋上から飛び降りていくという、島田氏ならではの奇想が光る作品です。評判的には最高に愉快なバカミスだという絶賛もあれば、長編で引っ張っておいてこのネタはひどいと失望する人もありで賛否相半ばといったところでしょうか。御手洗シリーズの新作長編ということで本ミスベスト20ランクインは確実ですが、このミスの方は今年下半期も不作ならベスト20入りの可能性がなきにしもあらずかなといった感じです。
屋上の道化たち
島田 荘司
講談社
2016-04-26


長岡弘樹氏の『教場2』は、前作がこのミス2014で2位、週刊文春ミステリーベスト10では1位に輝いています。さまざまな思惑が渦巻く警察学校で起こる問題を不気味な雰囲気漂う異質の教官・風間が鋭い洞察力によって収めていくという警察学校版ジョーカーゲームといった赴きの作品です。前作と比べると良くも悪くもインパクトが薄い印象なので順位は大きく落とすのではないかと思います。このミスランキング20位以内に入るか微妙といったところです。
教場2
長岡 弘樹
小学館
2016-02-23


早坂吝氏は2014年にメフィスト賞でデビューした若手ミステリー作家で、『○○○○○○○○殺人事件』において2015年本ミス6位、『虹の歯ブラシ』で2016年本ミス11位にランクインしています。新作『誰も僕を裁けない』はそれらに続く援交女子高生・上木らいきシリーズ第3弾。ストーリーは、クラスメイトの女子の自殺に巻き込まれて法廷に立つことになった戸田公平の物語とらいちがメイドとして雇われた屋敷で起こる連続殺人事件がやがてひとつに結びつくというもの。事件に用いられるトリックは既存のものの組み合わせで新味はありませんが、過剰な設定と仕掛けによって、いつも通りの大きく賛否に分かれそうな作品です。去年は本格ミステリ大豊作の年だったため、惜しくもベスト10からこぼれましたが、今年このまま国内ミステリーの不作が続けば今年は10位以内にランクインするのではないでしょうか。


下村敦史氏は『闇に香る嘘』で江戸川乱歩賞受賞でレビュー。同作品が2015年版このミス3位、『生還者』が2016年度版このミス15位を記録しています。1作1作趣向を変えて読者を楽しませてくれる著者ですが、今年3月に発売された『真実の檻』は大学生の主人公が、元検察官で死刑囚の父の無実を証明するために奮闘するというもの。達者な筆致とテンポよさは読み物として十分楽しめるレベルであるものの、今回はご都合主義的な展開が目立ち、ミステリーとしては凡庸な印象。ランクインはないと予想します。
真実の檻
下村 敦史
KADOKAWA/角川書店
2016-03-26


月村了衛氏は元アニメ脚本家で、210年に『機龍警察』で作家デビュー。以来、このミスでは『機龍警察 自爆条項』9位、『機龍警察 暗黒市場』3位、『機龍警察 未亡旅団』5位、『土漠の花』6位、『影の中の影』12位と多くの作品をランクインさせています。新作『ガンルージュ』は韓国工作員に拉致された中学生の少年を救出するために、事件を隠ぺいしようとする政府や警察に代わって、彼の母親と女教師が立ちあがるというもの。お得意のテンポの良いアクションで読ませますが、今回はいささかご都合主義が強すぎる感じがします。コミカルな味付けにしているためか、いつもに増して漫画ちっくな印象も受けます。ひとこで言えばB級でこのミスベスト10入りはちょっとないように思います。
ガンルージュ
月村 了衛
文藝春秋
2016-02-19


本城雅人氏は2015年発表の『トリダシ』で第37回吉川英治文学新人賞にノミネート。スポーツや報道をテーマにした作品を得意とする作家です。今年2月発売された『ミッドナイト・ジャーナル』は、誘拐女児死亡との大誤報で左遷された新聞記者が、7年後に起こった児童連続誘拐事件の真実に挑むというもの。作品の評判はよいものの『トリダシ』も30位にもかすらなかったことからこのミスに縁のない作家という感じがします。しかし、今年は国内ミステリー全体が不調なためにもしかしたらベスト20くらいには入るのではないかという感がなきにしもあらずです。
ミッドナイト・ジャーナル
本城 雅人
講談社
2016-02-24


自分と母を捨てて失踪した音楽家の父を追って、脩はアメリカにやってきた。そして、父がかつて入学したという西海岸の難関音楽学校を受験する。そこで知る演奏者を蝕む<パンドラ>という名のシンセサイザーの存在。そして、学校に侵入した謎の襲撃者によって残された「アメリカ最後の実験」という言葉。謎が謎を呼ぶ中、襲撃事件の報道を契機にアメリカ中で模倣犯が続出する。一体何が起きているというのだろうか・・・。
SFを軸としたジャンルミックの作風で注目の宮内悠介氏ですが、新作『アメリカ最後の実験』はあらすじからSFミステリーのようなものを想像しているといきなり音楽バトルが始まり、少年漫画のようなノリで物語がヒートアップしてきます。主人公の成長を描いた青春小説のテイストを軸に、謎あり陰謀あり、音楽の本質へ迫る描写ありと多彩な要素を詰め込んだSF青春音楽小説とでもいうべき作品です。濃密で読み応え十分な作品ですが、濃いすぎる作品故にうまく咀嚼しないととっちらかった印象を覚えてしまうかもしれません。このミスでのランクインはちょっとむずかしいでしょう。
アメリカ最後の実験
宮内 悠介
新潮社
2016-01-29


竹本健治氏の『涙香迷宮』は圧巻の暗号ミステリー。これほどまでに濃厚な暗号の解放は前代未聞ですが、密室トリックや意外な犯人といった分かりやすいカタルシスが味わえる作品とは異なるマニアックな作品なので、それがどう評価されるかが問題です。しかし、このミスラインクインはないとしても、本ミスではベスト10入りするのではないかと予想します。
涙香迷宮
竹本 健治
講談社
2016-03-10


殊能将之 未発表短篇集』は『ハサミ男』で鮮烈なデビューを果たし、49歳の若さでこの世を去った著者の習作を集めたものです。未発表作品だけあって作品の出来は傑作とは言い難いですが、それでも才能の片鱗は伺えるのでファンには必読の書でしょう。資料的価値も加味して本ミスベスト10入りもあるかもしれません

殊能将之 未発表短篇集
殊能 将之
講談社
2016-02-11

この他に注目作と言えば、第29回山本周五郎賞にノミネートされた相場英雄氏の『ガラパゴス』、同じく第29回三島由紀夫賞にノミネートされた亀山郁夫氏の『新カラマーゾフの兄弟』、『永遠の仔』で1位に輝いた天童荒太氏の『ムーンライト・ダイバー』と言ったところでしょうか。ただ、『新カラマーゾフの兄弟』は怪作とでもいうべき作品でちょっと評価不能な点があり、『ムーンライト・ダイバー』は作品の出来は素晴らしいのですが、ミステリーどころか娯楽色も限りなく薄い点が難点です。
ガラパゴス 上
相場 英雄
小学館
2016-01-26


ムーンナイト・ダイバー
天童 荒太
文藝春秋
2016-01-23

 
以上を踏まえてランキング予想ですが、まだ順位を予想できる段階ではないので、ここではベスト10入りしそうなものを挙げておくだけにとどめておきます。

このミステリがすごい!

真実の10メートル手前(米澤穂信)
暗幕のゲルニカ(原田マハ)

本格ミステリベスト10
真実の10メートル手前(米澤穂信)
倒叙の四季(深水黎一郎)
図書館の殺人(青崎有吾氏)
屋上の道化たち(島田荘司)
誰も僕を裁けない(早坂吝)

涙香迷宮(竹本健治)


このミスはとにかくベスト10入りしそうな作品が全然ないのでちょっと困りましたね。本ミスの方は6作品挙げましたが、豊作というよりはドングリの背比べで大半がベスト10の当落線ギリギリレベルといった感じです。というわけで、後半戦に期待をしつつ上半期の予想を終わります。


チェック漏れの有力作品
ミステリーランキングの順位は高かったのに事前に有力作品として挙げていなかったチェック漏れの作品です。

リボルバーリリー(長浦京)
わずか20歳にして50人以上の殺害に関与し、リボルバー・リリーのふたつ名を持つ元諜報員、小曽根百合。
彼女が消えた陸軍資金の鍵を握る少年を守るために帝国陸軍1000人と激闘を繰り広げるくアクション大作。

リボルバー・リリー
長浦 京
講談社
2016-04-20


彼女がエスパーだった頃(宮内悠介)
スプーン曲げ、100匹目の猿現象、代替医療など、疑似科学と呼ばれる現象とそれにまつわる人々の姿を描いた連作集。オカルト現象のトリックを暴くミステリーではなく、オカルト現象を科学的に証明するSFでもなく、あくまで疑似科学にかかわる人々の人間ドラマをメインとした作品。



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