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年末のミステリーランキング発表まであと半年ということで、対象期間の半分に当たる2015年11月~2016年4月までに発売された注目作をピックアップし、ランクイン作品を予想してみました。今年の海外ミステリは上半期だけでも大豊作。注目作が目白押しです。そのため、本来ならベスト10級の作品がランク漏れというケースも数多くありそうです。





2017本格ミステリ・ベスト10
探偵小説研究会
原書房
2016-12-05


まず、今年大注目の作家は、ドン・ウィンズロウです。ウィンズロウは、このミス95で2位となった『ストリート・キッズ』で軽妙なソフトボイルドの書き手として注目を集め、着実にキャリアを積んできました。ところが、2005年に発表した『犬の力』で突如全く違った一面を見せます。綿密な取材に基づいて麻薬戦争の地獄絵図をリアリティたっぷりに描いたその大作は、このミス2010の第1位に輝き、新たなファンを大量に生み出したのです。今年4月に日本で発売された『ザ・カルテル』はその続編です。麻薬戦争は国家を巻き込み、前作以上に凄まじい闘いが繰り広げられます。圧倒的な臨場感に満ちた作品でこのミス2017の本命のひとつと言えるでしょう。しかも、今期はそれだけでなく他に2作もウィンズロウの作品が翻訳されています。『報復』は元デルタフォースの隊員が妻子を殺害したテロリストに復讐の戦いを挑むというもの。一方、『失踪』は西部の平穏な街で5歳の少女が行方不明になった事件を追って孤独な刑事が奮闘する物語です。『報復』の方はウィンズロウにしてはストーリーがシンプルすぎてやや凡庸な印象がありますが、『失踪』はサスペンスに満ちたハードボイルド作品で、展開にも捻りがあり、読者を引き込む傑作に仕上がっています。『ザ・カルテル』と合わせて2作同時ランクインもあるかもしれません。
ザ・カルテル (上) (角川文庫)
ドン・ウィンズロウ
KADOKAWA/角川書店
2016-04-23

報復 (角川文庫)
ドン・ウィンズロウ
KADOKAWA/角川書店
2015-12-25

失踪 (角川文庫)
ドン・ウィンズロウ
KADOKAWA/角川書店
2015-12-25


サラ・ウォータズは『半身』と『荊の城』がこのミス2004、2005と連続1位に輝き、『エコーズ家の没落』もこのミス2011で7位を記録しています。今までに発表してきた長編4作の内、3作がベスト10入りで、その内2作が1位ですからこれ以上ないと実績です。そして5作目の『黄昏の彼女たち』は第一次世界大戦後のロンドンの郊外を舞台にした物語。サラ作品ではおなじみの女性同士の恋愛とそれに伴う葛藤を丁寧に描いていき、後半になると殺人事件が起きて破滅的な怒涛の展開で一気に読者を独自の世界に引きずり込みます。狂おしいまでの心理描写と法廷での意外な展開に目が離せない良質の文芸サスペンスミステリーです。今回もベスト10入りするに不足ない完成度ですが、今期は他の候補作が強力なため、ベスト10入り確実とは断言できません。本作辺りがベスト10のボーダーラインとなる気がします。
黄昏の彼女たち〈上〉 (創元推理文庫)
サラ・ウォーターズ
東京創元社
2016-01-29


『ミレニアム』はスウェーデンの作家スティーグ・ラーソンによるミステリー小説のシリーズです。全世界で800万部以上を売る大ベストセラーとなり、日本でも今まであまり知られていなかった北欧ミステリーを一躍注目すべき存在へと押し上げました。そして、このミス2010では第1部~第3部までがすべてベスト10入りという快挙を成し遂げています。ところが、ラーソン自身は、本シリーズの発売を前にして心臓発作でこの世を去りました。当然、続編はもうないと考えられていましたが、作者の死後10年以上もたってから突如、シリーズ第4作である『ミレミアム4~蜘蛛の巣を払う女』が発売されたのです。これはダヴィッド・ラーゲルグランツという作家の手によるものですが、驚くべきはその完成度の高さです。これまでも作者の急逝によって未完に終わった作品やシリーズを別の作家が引き続く例はありましたが、どんなに技量の高い作家であっても別人である以上、読んでみるとどうしても違和感はぬぐえませんでした。しかし、本作はそういった違和感がほとんどありません。ミレニアムシリーズ独特のたたみかける展開は相変わらずですし、キャラクターの魅力も健在です。ひと言で言えば抜群に面白い作品です。本作もこのミスにおいて主役的な存在となるでしょう。
ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (上)
ダヴィド ラーゲルクランツ
早川書房
2015-12-18


デニス・ルヘインは、エドガー賞を受賞した『夜に生きる』やクリント・イーストウッド監督が映画化した『ミスティックリバー』などで知られるこのミス常連作家。そして、今回の『過ぎ去りし世界』は『運命の日』、『夜に生きる』に続くゴグリン家3部作の完結編。
舞台は第2次世界大戦下のフロリダ。元ボスのジョー・ゴグリンはギャング家業から足を洗い、一人息子を育てていたが、引退した彼の命を狙う者が現れ、新たな抗争が勃発する。
畳みかける展開と非情と哀愁に満ちたハードボイルドな雰囲気が見事にマッチしたギャング小説の傑作です。『運命の日』はこのミス2009の3位、『夜に生きる』はこのミス2014の5位でしたが、本作もそれに匹敵する結果が期待できます。
過ぎ去りし世界 (ハヤカワ・ミステリ1906)
デニス・ルヘイン
早川書房
2016-04-07


フランスの作家カリル・フェレによる『マプチェの女』は軍政政権下のアルゼンチンが舞台。
悲惨な迫害の歴史を持ったネイティブの血をひく女主人公が、陰惨な失踪殺人事件を追う内に私立探偵の男と出会い、やがてふたりは歴史の闇に踏み込んでいく。
容赦ない暴力シーンが続き、胸をえぐるエピソードのつるべ撃ちですが、後半になって女主人公が反撃に出る展開が非常にエモーシャナルで読んでいてテンションが上がります。長い物語で少々中だるみは感じるもののアルゼンチンの歴史や経済問題に踏み込んだ物語は中身がギュッと詰まっており、特に第3部の怒涛の展開は圧巻です。このミスでベスト10入りを争う実力は十二分にある作品と言えるでしょう。


死んだライオン』は、英国情報部に所属する落ちこぼれ集団の活躍を描いた『窓際のスパイ』の続編。作者のミック・ヘロンは本作で2013年度のゴールドダガー賞を受賞しています。従来のスパイ小説と違い、俊敏とは言い難いMI6の面々を皮肉とユーモアを交えて描いているのが現代風。ゆったりとした物語運びながらも短い場面を積みかさねて次第にテンポを上げて盛り上げていく手法が見事です。そして、忘れてはいけないのは、ぶよぶよに太った下品な男だが実は切れ者のリーダー、ジャクソン・ラムの存在感。前作の『窓際のスパイ』はランク外でしたが、ゴールドー・ダガー賞をバックにどこまでランキングに食い込むかが注目です。ただ、『ありふれた祈り』、『夜に生きる』、『解錠師』など、このミス上位連発のエドガー賞に比べ、ゴールデン・ダガー賞はあまりこのミスベスト10には絡んでこないのが苦しいところ(2000年以降のゴールド・ラガー賞でベスト10入りは『目くらましの道』9位、『緑衣の女』10位、『ねじれた文字、ねじれた路』8位※ただし2005年まであったシルバー・ダガー賞作品では『ザ・ファイナル・カントリーこのミス4位を記録している)。前作の結果と合わせて考えるとベスト20入りは狙えるが、ベスト10は厳しいといったところでしょうか。
死んだライオン (ハヤカワ文庫NV)
ミック・ヘロン
早川書房
2016-04-07


謀略監獄』は女流作家ヘレン・ギルトロワのデビュー作。
優雅な暮らしを満喫している女性シャーロットには身分偽造のスペシャリスト「カーラ」として名を馳せていた過去がある。ある日、旧知の殺し屋ジョハンセンから政府の実験刑務所<プログラム>に囚人として潜り込むための手配を依頼される。彼は刑務所内での殺しを請け負っていたのだ。しかし、<プログラム>は脱獄不可能と言われる万全のセキュリティで守られており、しかも、そこを支配しているのはジョハンセンの命を狙っているギャングのボスだった。
スケールの大きな設定と複雑なプロットをスピーディな文章で読ませる技巧に満ちたり傑作です。ラブストーリーやバイオレンスシーンが大きな部分を占めながらも情感におぼれることなく文体はあくまでスタイリッシュ。女性版ル・カレといった趣の本作は、このミス新人枠の目玉となるでしょう。
謀略監獄
ヘレン ギルトロウ
文藝春秋
2016-01-16


トム・ヒレンブラントの『ドローン・ランド』はドイツ産のSFミステリー。
アメリカと中国が衰退し、ブラジルが覇権を握る近未来。世は無数のドローンによって監視される超高度な管理社会になっていた。そんな中でEUの議員が顔を吹き飛ばされた死体となって発見される。ヴェスターホイゼン主任警部は捜査を続ける内、その背後に政治的陰謀があることに気づくが・・・。
ドローンで収集された情報に基づいて構成された仮想空間などSFギミックに満ちた捜査方法がユニークで本作の魅力となっています。しかし、そうした衣をはぎ取ると中身は謎解きを主体としたオーソドックスな警察小説で、ミステリーとしても十分楽しめる出来です。実際、ドイツではSFとミステリーの賞をダブル受賞しています。2016年は豊作故にこのミスベスト10は厳しいかもしれませんが、20位以内には入るのではないでしょうか。
ドローンランド
トム ヒレンブラント
河出書房新社
2016-01-27


証言拒否 リンカーン弁護士』は、刑事弁護士ミッキー・ハラーシリーズの4作目。作者のマイクル・コナリーはこのミスで過去8回ベスト10入りを果たしており、同シリーズも1作目の『リンカーン弁護士』がこのミス2010で10位を記録しています。
住宅ローン未払いで家を差し押さえられたシングルマザーのリサ・トランメル。彼女は銀行の不法性を訴える有名人だった。そんな時、大手銀行の幹部が殺され、リサは殺人容疑で逮捕される。高級車リンカーンを事務所代わりに使う名物弁護士ミッキー・ハラーはその弁護に乗り出すが・・・・。
弁護側、検察側の双方に決定打がないなで、ギリギリの駆け引き、畳みかけるような証人尋問と一進一退の息詰まる攻防。リーガルサスペンスとして極めて高い水準にあり、シリーズ最長にして最高の呼び声も高い力作です。アクロバティックな展開はミステリーとしても充実しており、久々のこのミスベスト10入りを期待させてくれます。
証言拒否 リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリー
講談社
2016-02-13


不朽の名作『薔薇の名前』でミステリー界を席巻した知の巨人・ウンベルト・エーコーが2016年2月19日に84歳でこの世を去りました。そのわずか3日後に日本で発売されたのが、彼の6冊目の小説、『プラハの墓地』です。
主人公のシモーネは19世紀のイタリアに生まれ、祖父にユダヤ人の憎悪を吹き込まれて育っていく。やがて、祖父も父も亡くした彼は、類稀なる文書偽造の才能を生かして秘密警察の手先となり、悪名高き偽書・ジオン賢者の議定書の作成にのめり込むことになる。
主人公は架空の人物ですが、ナチスのホロスコープの遠因と言われるジオン賢者の議定書に始まり、主要人物、主要事件はすべて歴史上に実在したものです。そして、作者は、膨大な知識に基づいて虚実を巧みに織り交ぜながら、歴史の暗部を浮かび上がらせます。その手法は、まるで精緻な偽書を作り上げる如くで、史実をフィクションで上塗りするスリルに満ちています。ずしりとした読み応えのある異色傑作ですが、『薔薇の名前』のようなストレートなミステリーではなく、このミス評価される類のエンタメでもないので、ベスト10入りはないと予想しておきます。
プラハの墓地 (海外文学セレクション)
ウンベルト・エーコ
東京創元社
2016-02-22


ベン・H・ウィンターズの『世界の終わりの七日間』は、地球への小惑星激突までの半年間を描いたミステリー小説3部作の完結編。
人類滅亡まであと一週間に迫った日、元刑事のパレスは、小惑星激突回避の手段を求めて地下活動を続けている妹に一目会うため旅に出た。地道な捜索活動が続く間にも最後の日は、刻一刻と近づいてくる。果たして、パレスは妹に会えるのだろうか?
1作目『地上最後の刑事』でアメリカ探偵作家クラブ最優秀ペイパーバック賞を、2作目の『カウントダウン・シティ』でフィリップ・K・ディック賞を受賞した傑作シリーズです。本作も詩情豊かで胸に染みいる出来ですが、ミステリー要素はこのミス2015で19位だった1作目が一番高く、その後回を追うごとに希薄になっています。したがって、完結編だけ順位が跳ね上がってベスト10入りすることはないでしょう。


デンマークの作家ユッシ・エーズラ・オールスンの『特捜部Q 吊るされた少女』は、カール・マーク警部補率いる未解決事件専門捜査班の活躍を描いた人気シリーズ第6弾。今回は、17年前の少女轢き逃げ事件の真相を究明していく内に新興宗教の存在がちらつき始めるといったものです。本シリーズは第1弾『特捜部Q 檻の中の女』がこのミス2012で16位、第3弾『特捜部Q Pからのメッセージ』がこのミス2013で18位にランクインしており、常に安定した面白さをキープしています。本作についてもそれは言えますが、逆に言えば、突出した出来というわけでもないので、ベスト10入りはなさそうです
特捜部Q―吊された少女― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
ユッシ エーズラ・オールスン
早川書房
2015-11-06



ウィンター家の少女』は女刑事キャシー・マロリーシリーズの第8弾。
ウィンター家の屋敷で保釈中の連続殺人犯が刺殺された。容疑者は70歳の老婦人と聖書マニアの姪。しかも、その老婦人は、58年前にこの屋敷で起きた大虐殺以後行方不明になっていた少女だったのだ。ニューヨーク市警のマロリー刑事は事件の真相を究明するため、大虐殺の再調査に乗り出す。
作者のキャロル・オコンネルは、ノンシリーズの『クリスマスに少女が還る』でこのミス2000の6位、『愛おしい骨』でこのミス2011の1位に輝いていますが、マロリーシリーズの翻訳状況は不遇。シリーズを重ねるごとに日本での発売は遅れ、本作では発表から10年以上の時差が生じています。ランキングとも無縁でしたが、シリーズ第6弾の『吊るされた女』がこのミス2013で19位を記録。ただ、本作は今まで以上に本格色の濃い作品なので、どちらかと言うと本ミスベスト10の方へのランクインが期待されます。
ウィンター家の少女 (創元推理文庫)
キャロル・オコンネル
東京創元社
2016-03-12


パーシヴァル・ワイルドは黄金期後期のアメリカのミステリー作家。今年日本で発売された『ミステリ・ウィークエンド』は1938年発表の作品で、クローズドサークルをテーマにしています。雪に閉ざされて外界と連絡不可能なホテルで起こる連続殺人というのはこの手の作品の定番ですが、手記を書いていた語り手が失踪し、次々と手記の書き手が変わっていくという趣向がユニーク。不可解な謎が頻出し、事態が混迷を極めながらも最後はすべての伏線を拾ってすっきり解決に導く手腕が見事です。過去に翻訳されたワイルドの作品を見てみると、本ミスでは2004年に『探偵術お教えします』が6位、2009年に『検死審問』が10位、2010年には『検死審問、ふたたび』で2位を記録しています。本作もそれらと同等かあるいはそれ以上の面白さなので、本ミス上位を狙える作品です。このミスでもベスト20には入るでしょう。


本ミス7回、このミスで3回ベスト10ランクインと死後の再評価が著しいヘレン・マクロイ。今回の『二人のウィリング』は1951年の作品で、シリーズ探偵であるベイジル・ウィリング博士の名を騙る男が、本物の博士の前で「鳴く鳥がいなかった」という言葉を残して謎の死を遂げるというもの。冒頭の魅力的な謎から始まって、多彩な登場人物を巧みに描き分け、雰囲気を盛り上げながら意外な真相へと着地する流れはいつものマクロイ節。本格ミステリとしては小粒でしたが、犯人の動機はかなりインパクがあります。古き良き謎解きスリラーの佳作といったところで、本ミスベスト10には手堅くランクインするでしょう。
二人のウィリング (ちくま文庫)
ヘレン マクロイ
筑摩書房
2016-04-06


エリザベス・フェラーズもマクロイと同じく90年代半ばに亡くなり、90年後半から日本での再評価が進んだ作家です。再評価のきっかけとなった『猿きたりなば』はこのミス99で4位、その後に2作品が本ミスでベスト10にランクインしています。今年3月に発売された『カクテルパーティ』は1955年の作品。小さな村のささやかなパーティで毒殺事件が起こり、関係者たちが、各々でその真相を解き明かそうとする、というもの。明確な探偵役が不在で、しかも、いくつかの疑問によって事件の全体像すらも掴めないため、中盤は不穏な空気だけが渦巻く靄のかかったような展開が続きます。しかし、その後に明らかになる真相は驚くべきもので、それを悟らせないミスディレクション配置も実に巧みです。『猿きたりばな』のような初期のユーモラスな作風とはまた違った味わいの傑作で、本ミスでベスト10入りは確実でしょう。
カクテルパーティ (論創海外ミステリ)
エリザベス フェラーズ
論創社
2016-03


摩天楼のクローズドサークル』と『熱く冷たいアリバイ』はエラリー・クイーン名義になっていますが、両方とも60年代に乱発された他作者の手による名義貸し作品です。それらの作品の中で翻訳されたものは数冊にすぎず、クイーンの名義作品の全容は長らく謎のままでした。その未翻訳のものの中から代表的なものを紹介しようというのが原書房から発売された『エラリー・クイーン外典コレクション』です。第1弾の『チェスプレイヤーの密室』はSF作家として有名なジャック・ヴァンスの手によるものですが、それなりにクイーンらしさが感じられる作品ということで本ミス2016の10位にランクインしました。そして、第2弾の『摩天楼のクローズドサークル』の実作者は、『クランシー・ロス無頼控』で名が知られているミステリー作家のリチャード・デミング。話は、銃殺死体が発見された直後に有名なニューヨーク大停電発生し、陸の孤島と化した高層ビルの中で連続殺人と推理が繰り広げられるというものです。トリックは凡庸で言うほどクローズドなわけでもありませんが、特殊状況下での謎解きはそれなりに楽しめます。一方、第3弾の『熱く冷たいアリバイ』は、短編を中心に活躍していたハードボイルド系作家のフレッチャー・フローラによる執筆作品。一見、夫による無理心中に見える現場には不自然な点があり、捜査によって容疑者が浮かび上がるものの堅牢なアリバイがあってというもの。4組の夫婦が織りなすドラマはなかなか読み応えがあり、プロットにも捻りを効かせた佳作に仕上がっています。両者の内、本ミスベスト10にランクインする可能性が高いのは『熱く冷たいアリバイ』の方でしょう。



コリン・ワトスンは日本では全くの無名ですが、優れたユーモアミステリーの書き手で長編を12作品発表しています。1958年に英国で発売された『愚者たちの棺』はその1作目です。マシュマロを口いっぱいにほおばった部屋着の男が鉄塔の下で感電死しているという奇妙な事件から始まり、毒の効いたユーモアが随所に見られるのが著者の作風を如実に表しています。事件の結末も意表をつくもので傑作と言いたいところですが、ミステリーとしての展開に起伏がなく、中だるみが激しいのが難点です。それでも本ミスベスト10の有力候補であることは確かでしょう。
愚者たちの棺 (創元推理文庫)
コリン・ワトスン
東京創元社
2016-03-12


以上を踏まえてランキング予想ですが、まだ順位を予想できる段階ではないので、ここではベスト10入りしそうなものを挙げておくだけにとどめておきます。

このミステリーがすごい!
ザ・カルテル(ドン・ウィンズロウ)
失踪(ドン・ウィンズロウ)
ミレミアム4 蜘蛛の巣を払う女(ダヴィド・ラーゲルクランツ)
過ぎ去りし世界(デニス・ルヘイン)
マプチェの女(カリル・フェレ)
謀略監獄(ヘレン・ギルトロワ)
証言拒否(マイクル・コナリー)

本格ミステリベスト10
ウィンター家の少女(キャロル・オコンネル)
ミステリ・ウィークエンド(パーシヴァル・ワイルド)
二人のウィリング(ヘレン・マクロイ)
熱く冷たいアリバイ(エラリー・クイーン)
カクテルパーティ(エリザベス・フェラーズ)
愚者たちの棺(コリン・ワトソン) 

海外ミステリーは巨匠&シリーズものの充実が目立ちますね。5月にはエルロイの新作も発売されましたし。現時点ですでに豊作が確定してしまっています。しかし、本格ミステリの方は相変わらずの古典発掘が頼みの綱で現代作品がほとんどありません。そういう意味ではウィンター家の少女がランクインするかが注目です。それでは、後半にさらに注目作が現れるのを期待しつつ、前半戦の予想を終わります。

チェック漏れの有力作品
ミステリーランキングの順位は高かったのに事前に有力作品として挙げていなかったチェック漏れの作品です。

ジャック・リッチーのびっくりパレード(ジャック・リッチー)
日本では『ダイヤルAを回せ』で知られる著者の未翻訳作品25篇を集めた短編集。発表年代は1950年代~1980年代までと幅広く、しかも、ミステリーだけではなく、SF作品からファンタジー風のものまで含まれています。その作風もターンバックル刑事の迷推理のようなコミカルなものから非常さに満ちたクライムノベルまでバラエティに富んでいます。今まで未翻訳だっとのが嘘のような珠玉の短編集です。







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