最新更新日2015/12/20☆☆☆

終末という言葉には不安と共にある種、憧憬の響きがあります。それは人間誰しも避けて通れない死を少しでも鮮やかに彩りたいというアンビバレンスな気持ちだったりしますが、文明が崩壊した風景には恐ろしさと同時に、安らぎに似た感情を感じるのです。

そんな憧れを具現化した作家に、J・G・バラード(1930-2009)がいます。『沈んだ世界』、『燃える世界』、『結晶世界』からなる破滅3部作が有名なSF作家です。SFといってもサイエンスの部分はごく最小限で、とにかく、人類滅亡の危機が訪れ、人々はわりとすんなりそれを受け入れて、滅びの道を歩んでといくというようなプロットがひたすら繰りかされていきます。特に、最終作の『結晶世界』などは全宇宙が結晶化していくというのですからもうどうしようもありません。下手にあがくより、達観の道を選ぼうということで、数ある滅亡ものの中でも極上の滅びの美が丹念に描写されていきます。小説というよりは文字で書かれた絵画です。バラードの最高傑作であると同時に、60年代のSFを代表する不朽の名作と言えるでしょう。
沈んだ世界 (創元SF文庫)
J.G.バラード
東京創元社
1968-02

燃える世界 (創元SF文庫)
J.G.バラード
東京創元社
1970-08

結晶世界 (創元SF文庫)
J・G・バラード
東京創元社
1969-01-10


もっと、現実味のある滅亡を描いた作品としては、核戦争の放射能で人類が滅亡する『渚ににて』があります。こちらは、破滅3部作より古い1957年の作品。1959年に公開された映画版も有名です。北半球に住む人類が滅び、最後にオーストラリアが残りますが、そこにも致死量を越えた放射能が迫っています。滅亡をテーマにしながらも、大スペクタクルなどは一切ない地味な作品です。しかし、避けられぬ滅びが確実に近付いていく中で、日常を生き続ける人々の姿は胸に迫るものがあります。ちなみに、筒井康隆氏の『霊長類、南へ』も同じく、核戦争の放射能によって人類が滅亡する話ですが、こちらはブラック風味のドタバタ喜劇です。人類が滅びを前にして、醜くあがく姿を描いた作品ですが、それはそれで味があります。
渚にて【新版】 人類最後の日 (創元SF文庫)
ネヴィル・シュート
東京創元社
2009-04-28

人類滅亡の危機の定番と言えば、巨大隕石の激突があります。映画などでは、人類の英知を結集して隕石を爆破したり、軌道を変えたりしますが、もう打つ手なしで、地球の命運も残り一週間になったところから始まるのが新井素子氏の小説、『ひとめあなたに・・・」です。恋人からガンになったことを告白され、それを理由に別れを告げられた女子大生。彼女はあと1週間で人類が滅ぶことを知り、実家の鎌倉へ帰ってしまった元彼に会いに行こうとします。その道中で、彼女は4人の女性との邂逅を果たしますが、みな滅亡を前にして理性の皮を脱ぎ棄て、もはや普通ではありません。しかし、それがあくまでも人間的な感情に基づいた狂気であるところに物悲しい美しさを感じます。これもひとつの滅びの形として心に残る作品でした。
さらに最近では、もうすぐ小惑星が激突することを知りながら実直に捜査にこだわり続ける主人公の姿を描いた終末ミステリーの3部作『史上最後の刑事』、『カウントダウン・シティ』、『世界の終わりの七日間』(ベン・H・ウィンタース)も心に染みいるものがありましたね。
ひとめあなたに… (創元SF文庫)
新井 素子
東京創元社
2008-05-29

地上最後の刑事 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ベン H ウィンタース
早川書房
2016-06-09


また漫画では、つくみず氏の『少女終末旅行が』が印象的です。今時の作品らしく、少女2人のゆるーいノリの日常が描かれています。しかし、彼女たちの周りに広がるのは、人の気配のない、雪の積もった瓦礫の山です。彼女のたちはその世界を旅しながら日々の糧を得るために、転がっている保存食や役に立ちそうなものを回収してまわっています。かなり切羽詰まった状況であり、人類の完全滅亡も遠くない様子が語られていますが、ふたりの言動はあくまでも軽く、これも日常のひとつの形とばかりに日々を過ごします。そうしたお気楽さが、世界観の底に流れる絶望感とコントラストを成して、読むほどに切なさを募らせる作品になっているのです。


23廃墟

実際に、終末に立ち会うなどはごめんですが、だからこそ、怖いもの見たさの気持ちがあるのでしょう。滅びをテーマにした作品と聞くとついつちチェックしてしまう自分がいます。