更新終了☆☆☆



2016本格ミステリ・ベスト10
探偵小説研究会
原書房
2015-12-04


2015年10月

鍵の掛かった男(有栖川有栖)
5年間ホテルで暮らし続けた男。彼の死は本当に自殺なのか?アリスの調査により男の過去が次第に明らかになるが、事件の真相はいまだ謎に包まれたままだった。
死んだ男の過去を掘り下げていく展開は、地味ながらずっしりと読み応えがあります。今回は主に、アリスが調査役を務めるのですが、途中参加の火村との信頼関係の描写も良い感じです。ゆったりとしたテンポですすむ前半の人間ドラマに対し、火村が登場してからは、鋭い推理によって、次々と真実が明らかになります。その緩急のつけ方も、絶妙です。また、ロジックの切れ味も鋭く、小説としてもミステリーとしても充実した作品になっています。ただ、狭義の本格ミステリーを期待した人には前半は冗長に感じるかもしれません。

2016年度このミステリーがすごい!国内部門8位
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門 7位
鍵の掛かった男
有栖川 有栖
幻冬舎
2015-10-08


陽気なギャングは三つ数えろ(伊坂幸太郎)
強盗団の活躍を描くシリーズ3弾。抱腹絶倒、二転三転の物語。
スピード感のある展開は健在で、得意の伏線回収もしっかりあり、爽快な読後感を味わえます。ファンは安心して読むことのできる安定したシリーズです。


掟上今日子の遺言書(西尾維新) 自殺未遂の女子中学生が書いた遺書を巡る謎。シリーズ初長編の忘却探偵第4弾。
シリーズ1作目の語り手だった隠館厄介が復活し、今日子さんもその魅力をいかんなく発揮しているのが好印象です。ただ、本作は本格ミステリーというよりも著者本来の作風である会話劇メインの物語に回帰しつつあります。それ故か、動機が常人では理解しがたいものになっており、その点は大きく賛否が分かれるでしょう。


凪の司祭(石持浅海) コーヒー専門店で働く女性が2千人を殺害すべくショッピングモールへと向かう。その頃、彼女の協力者のひとりが死体で発見されて・・・。
ひとりの女性が、2千人の人間を血祭りにあげていくというあり得ない話ですが、読んでみるとその臨場感は相当なものです。ただ、動機がドンデモの域に達しているので、それが気になるかどうかが、この作品を楽しむ上での鍵になってきます。良作というよりは怪作の類の作品です

凪の司祭
石持 浅海
幻冬舎
2015-10-22


2015年9月

犬の掟(佐々木譲)
単純と思われた暴力団幹部射殺事件が、所轄と捜査一課、2組の刑事の捜査が絡み合う中で様々な過去があぶり出されていく。緊迫の40時間を描いた、疾走感あふれる警察小説。
視点を交互に変えながら次第に犯人に近づいていく描写が緊迫感に満ちて読み応えがあります。登場人物が多くて、最初は大変ですが、そこを乗り越えると後は一気読みです。非常に濃密な警察小説ですが、犯人の動機には納得しずらいものがありました。
2016年度このミステリーがすごい!国内部門19位
犬の掟
佐々木 譲
新潮社
2015-09-18


聖母(秋吉理香子)
幼児殺人事件の謎を追う刑事たち、わが子を守ろうとする母親、凶行を繰り返す犯人。3つの視点で物語は進み、やがて驚愕のラストにいたる。
残忍な幼児殺しを皮切りに緊迫したシーンが続き、先が気になって一気に読んでしまいます。二重三重に仕掛けられたミスリードが解きほぐされ、最後に『聖母』というタイトルの本当の意味が分かる構成は実に見事です。同時に、その真相はなんともやりきれず、心に突き刺さるものがあります。かなりの労作ですが、大きな仕掛けのうち、ひとつはミステリーを読み慣れている人ならすぐに気づいてしまう定番のネタなのがやや残念です。
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門 17位
聖母
秋吉 理香子
双葉社
2015-09-16


その可能性はすでに考えた(井上真偽) その不可解な現象が、真に奇跡であるならば、トリックである可能性はすべて排除しなければならない。そうして探偵は、刺客の繰り出す推理を次々と論破していく。
探偵が真相を推理するのではなく、他人の推理の矛盾を指摘するという趣向はユニークで楽しめます。提示されるトリック自体はバカミスに近いものですが、根底をなす論理がしかっりしているため、パズラーとしての読みごたえは十分。実験的なアイディアも随所に盛り込まれ、新しいタイプのミステリーとして注目に値する作品です。また、思わず、笑っちゃいそうな濃いキャラクターたちも、印象的な言動で物語を盛り上げますが、あまりにもラノベ的なのでそれが肌に合わず、敬遠する人もいるかもしれません。あと、デビュー2作目ということで、文章がまだこなれていないのが読んでいて少し気になるところです。

2016年度このミステリーがすごい!国内部門14位
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門 5位


赤い博物館(大山誠一郎) 捜査資料保管庫の女性館長とそこに左遷された巡査部長が、迷宮入り事件の謎に挑む連作ミステリー
1作1作の出来不出来はありますが、全体的に非常によく考えられた本格ミステリーです。その中でも『復讐日記』は出色の出来。ただ、キャラクター設定がありきたりで、魅力に乏しいのが難点です。そのため、物語としてはやや平板な印象を受けてしまいます。
2016年度このミステリーがすごい!国内部門19位
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門 6位

赤い博物館
大山 誠一郎
文藝春秋
2015-09-19

片桐大三郎とXYZの悲劇(倉知淳) 聴力を失った元時代劇スターが4つの事件に挑む。クイーン悲劇4部作のオマージュ的作品。
キャラクターの魅力と切れ味のよいロジックで読ませる本格ミステリーの佳品です。ただ、論理的展開がきちんとしている分、読者に真相が見抜かれやすい部分はあります。4作とも水準以上の作品ではありますが、中でも『途切れ途切れの誘拐』の真相は衝撃的で、頭ひとつ飛び抜けた存在です。

2016年度このミステリーがすごい!国内部門7位
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門 2位
片桐大三郎とXYZの悲劇
倉知 淳
文藝春秋
2015-09-24


犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼(雫井脩介) オレオレ詐欺の主謀者淡野は、誘拐ビジネスを立案。捜査を指揮する巻島との息詰まる心理戦を繰り広げる。
犯人サイドと警察側の先を読み合う心理戦が、ハラハラドキドキで目が離せません。犯人の淡野が魅力的な悪役である一方、主人公である巻島は前作のようなドラマ性に欠け、読んでいるとついつい淡野の方に肩入れをしたくなります。全体的に上質な娯楽小説に仕上がっているのですが、続編を意識したような不完全燃焼の結末だけはやや残念です。

犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼
雫井 脩介
双葉社
2015-09-16


東京結合人間(白井智之) 嘘がつけない異形の人間が集う島で殺人が起きるが、嘘をつけないはずの容疑者全員が犯行を否認する。
冒頭からエログロ満載なので、まずそこで読者を選ぶ作品です。しかし、その描写自体も、実は伏線になっていて、魍魎跋扈な世界観の中、極めてロジカルな推理によって真相を明らかにしていきます。エログロ色物大会と精緻なロジック。そのギャップはかなりのインパクトで、それがこの作品のユニークなところです。ただ、推理があまりにもめまぐるしく変化し、その説明も細かすぎるので、ややこしいことが苦手な方は途中で考えるのを放棄してしまうかもしれません。

2016年度このミステリーがすごい!国内部門16位
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門 8位
東京結合人間
白井 智之
KADOKAWA/角川書店
2015-09-30


影の中の影(月村了衛) 日本に亡命してきたウイグル人たちを中国の刺客が襲う。そこに救いの手を差し伸べる最強のヒーロー登場!
荒唐無稽なド派手なアクションで彩られたスーパーエンターテイメント。物語は徹底した勧善懲悪なベタベタの展開なので、そこが賛否の分かれるところですが、頭を空っぽにして読むには最高の作品です。

2016年度このミステリーがすごい!国内部門12位
影の中の影
月村了衛
新潮社
2015-09-18


惑星カロン(初野晴) 高校吹奏楽部の美少年ハルタと元気少女チカが日常の謎に挑むハルチカシリーズ第5弾。
主役2人の掛け合いは面白く、それでいて、読後に切ない余韻も残る青春ミステリーの秀作です。4つの短編の中では、各エピソードのすべての伏線が収束する表題作も捨てがたいですが、話の完成度としては『理由ありの旧校舎』が頭ひとつ抜けています。

惑星カロン
初野 晴
KADOKAWA/角川書店
2015-09-30


Aではない君と(薬丸岳) 殺人容疑で逮捕され、弁護士にも黙秘を続ける息子に対し、吉永は付添い人制度を利用して真相を探る。
著者が一貫して描いてきた、少年犯罪に対する問いかけの集大成的な作品。罪を償うというのはどういうことなのかがテーマの中心になっており、読者自身が考えさせられる非常に重たい仕上がりになっています。
第37回吉川英治文学新人賞受賞
Aではない君と
薬丸 岳
講談社
2015-09-16


新しい十五匹のネズミのフライ: ジョン・H・ワトソンの冒険(島田荘司) 赤毛連盟の犯人が脱獄し、コカイン中毒で使いものにならないホームズに代わり、ワトソンが事件の謎を追う。
ホームズもののパスティーシュとしては珍しい、完全にワトソンが主人公の作品です。各所に、赤毛連盟をはじめとする原典の裏話を盛り込み、色々な解釈を展開しているので、原作を読んだことがある人には非常に楽しい作品に仕上がっています。ただ、本格ミステリーというよりもワトソンの恋と冒険の物語なので、その辺は好みが分かれる所でしょう。
2016年度このミステリーがすごい!国内部門18位
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門 15位

2015年8月

柘榴パズル(彩坂美月)
暖かな家族に囲まれて充実した日々を送る19歳の美緒。そんな彼女が見聞きする、日常の小さな謎を解いていく連作ミステリー。
ほのぼのとした雰囲気の中で、日常の謎を解いていく各章の物語もなかなか魅力的なのですが、その一方で、章の間に挿入される一家惨殺の記事が不穏な空気を掻き立てます。そして、最後に訪れる驚きの結末。ミステリーとして巧みな上に色々考えさせられる作品でもあります。ただ、最後のどんでん返しは丁寧に伏線を張っているために、ミステリー好きの人なら真相を見破ってしまうかもしれません。

柘榴パズル
彩坂 美月
文藝春秋
2015-08-25


署長・田中健一の憂鬱(川崎草志)
プラモ作りだけが趣味の無気力署長・田中健一。しかし、部下たちは彼の言動を勝手に深読みして難事件を解決に導いてしまう。連作ユーモアミステリー。
署長が何気なくつぶやいたひと言を、部下が勝手に解釈して事件を解決するというワンパターンなエピソードが続きます。しかし、それで飽きるということもなく、とにかく軽くて、肩の力を抜いて楽しめるので気分転換や暇つぶしにはもってこいの作品です



中野のお父さん(北村薫) 大手出版の文芸部に勤める女性が出くわす日常の謎を、国語教師の父親が解き明かす連作ミステリー。
全体的に、さらっと読める日常ミステリーといった印象です。父と娘の関係が微笑ましく、会話の中で謎が解けていく過程も楽しめます。ただ、文学的な蘊蓄が多く、興味のない方にとっては少し鼻につくかもしれません。

中野のお父さん
北村 薫
文藝春秋
2015-09-12


掟上今日子の挑戦状(西尾維新) 眠ると記憶がリセットされる忘却探偵が、アリバイ、密室、暗号と3つの謎に挑戦するシリーズ第3弾。
ヒロインのユーモラスな言動や推理のロジックが印象的で、キャラクターの魅力にますます磨きがかかった感があります。また、ミステリーの代表的な謎を扱ってあるだけあって、シリーズの中では一番本格色の強い作品です。


孤狼の血(柚月裕子) 昭和63年の広島。新人刑事・日岡がやくざとの癒着が噂されている刑事・大上とコンビを組み、やくざの抗争に挑んでいく。
慣れない広島弁に最初はとまどいますが、やくざと丸暴刑事のやりとりには女性作家とは思えない迫力があって引き込まれます。また、筋を通すためには法をも破る大上のダークヒーローぶりが魅力的で、最初は反発していた日岡が、次第に大上に惹かれていく過程が秀逸です。ストーリーに関しても手に汗にぎる展開の連続で、最後は泣ける結末へとつながる展開が、ベタながら非常によくできています。
2016年度このミステリーがすごい!国内部門
3位
第69回日本推理作家協会賞受賞

孤狼の血
柚月裕子
KADOKAWA/角川書店
2015-08-29


戦場のコックたち(深緑野分) 第2次世界大戦中の戦火のフランスで、合衆国陸軍に所属するコックが日常の謎に挑む異色ミステリー
日常の謎といってもあくまでも、「戦場の日常」における謎なのでほのぼのした要素は皆無で、前線での悲惨な現実が容赦なく描かれています。そして、ひとつひとつの謎に意味があり、それがラストに向かって繋がっていく構成が見事です。戦争体験記とでも言うべきシビアな内容と謎解きの面白さが有機的に結びついた希有な傑作。

2016年度このミステリーがすごい!国内部門2位
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門 12位
戦場のコックたち
深緑 野分
東京創元社
2015-08-29


2015年7月

血の弔旗(藤田宜永) 4人の男は金融会社の裏金11億円を強奪し、4年隠した後、みんなで分け合う。しかし、さらに10年たった時、新たな事件が起きのだった。
昭和のノスタルジーがたっぷりと詰まっていて、この時代を実際に生きた方なら、懐かしさと共にこの作品をより楽しむことができるでしょう。ストーリー自体も緊迫感に満ち、ページをめくる手がとまりません。一級のクライム小説です。
2016年度このミステリーがすごい!国内部門
9位
血の弔旗
藤田 宜永
講談社
2015-07-22


王とサーカス(米澤穂信) 『さよなら妖精』から10年。高校生だった太刀洗万智は記者になり、取材中のネパールで王族殺害事件に遭遇する。
悲劇的な事件も娯楽として消費されるジャーナリズムの矛盾について問いかける重いテーマを主題にしながらも、あくまでもエンタメ作品の枠組みを崩さない著者の手腕は見事。物語も最初はやや冗長に感じられますが、後半にいくにつれて展開が加速し、どんどん面白くなっていきます。ただ、テーマ性が強い作品だけあって、狭義のミステリーとしての謎は薄味で、その辺にミステリーファンは物足りなさを感じるかもしれません。
2016年度このミステリーがすごい!国内部門1位
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門 3位

王とサーカス
米澤 穂信
東京創元社
2015-07-29


生還者(下村敦史) 多くの人命を奪った雪崩の事故から奇跡的に生還したふたりの証言は全く異なるものだった。嘘を言っているのはどちらなのか?
謎の出し入れ、伏線の張り方など、とにかく技巧に優れた作家という印象で、二転三転する物語からは目が離せません。臨場感あふれる登山描写も見事で、その中で繰り広げられる人間ドラマも一級品です。しかし、最後の解決へと至るエピソードだけは展開が、やや強引な印象を受けました。
2016年度このミステリーがすごい!国内部門
15位
生還者
下村 敦史
講談社
2015-07-22


2015年6月

ライオンの歌が聞こえる/平塚おんな探偵の事件簿 2(東川篤哉) ライオン探偵ことエルザと天然助手の美伽が、難事件に挑む連作ミステリー第2弾。
個性的な女性二人が殺人事件の謎を解いていく軽いノリのユーモアミステリーです。しかし、その割に、本格ミステリーとしてのロジックはしっかりしており、好印象。



松谷警部と三ノ輪の鏡(平石貴樹) 元プロゴルファーが殺された事件を契機に、湧き出る関係者たちの様々な疑惑。本格推理シリーズの第3弾。
入り組んだ事件の謎を地道な捜査で解きほぐしていく。伏線の張り方も丁寧で、派手さはありませんが、本格ミステリーの妙味をたっぷり味わえる佳作です。

ミステリー・アリーナ(深水黎一郎) TVのクイズ番組で読み上げられるミステリー小説から犯人を推理する解答者たち。犯人の名前とその犯行方法を言い当てれば20億円。果たして正解者は出るのだろうか?
叙述トリックのオンパレードで、ひとつの事件を何度もひっくりかえすという、ミステリーマニアにとってはなんとも贅沢な作品。長々と捜査をして、最後に探偵が推理を披露するのではなく、短いサイクルで問題と解答が繰り返されるのでテンポよく読むことができます。いわゆるバカミスに分類される作品ですが、単なるおふざけではなく、本格ミステリーの本質を洞察しつくした優れた批判本にもなっている異色の傑作です。その一方で、物語の設定のありえなさ加減が半端ないので、いくら本格ミステリとはいえ、その辺が気になる人もいるかもしれません。また、推理の内容や解答者のキャラクターが似通ったものが続く場面があるので、そこに単調さを感じる人もいるでしょう。

2016年度このミステリーがすごい!国内部門6位
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門 1位


キングレオの冒険(円居挽) 京都の街を舞台に、次々と起こるホームズ冒険譚に見立てた殺人。その挑戦的な事件に、名探偵キングレオとその助手の大河が挑む。
探偵と助手の掛け合いが楽しい作品です。全体的に軽くてさらっと読める作品ですが、謎解き自体はしっかりしています。また、ショーロック・ホームズのオマージュ的作品なので、原典を知っている方がより楽しむことができるでしょう。

キングレオの冒険
円居 挽
文藝春秋
2015-06-20


オールド・テロリスト(村上龍) 閉塞した現代の日本を変えるため、原発テロを画策する怒れる老人たち。
現代日本の問題を老人の目を通して鋭く批判した作品。コミカルさを予見させる設定に対し、内容は意外にシリアスでリアリティを感じさせます。ただ、老人たちの暴走に巻き込まれた主人公の精神状態が不安定で、しばしば支離滅裂な描写が続きます。それを、トリップ感覚として受け入れるか、単にうざいと感じるのかで評価が分かれそうです。

オールド・テロリスト
村上 龍
文藝春秋
2015-06-26


アノニマス・コール(薬丸岳) 警察を辞め、妻とも離婚した男に、娘が誘拐されたという報せが。やがてそれは、彼が警察を辞めた事件と繋がっていく。
二転三転する展開に手に汗握る誘拐ミステリーの傑作です。ご都合主義が目につく部分もありますが、怒涛の展開に身を任せればそれもあまり気にならないでしょう。本作はエンタメに徹しているため、著者の特徴である犯罪を巡る心理的葛藤描写などは皆無です。したがって、その点に期待していた方はがっかりするかもしれません。

アノニマス・コール
薬丸 岳
KADOKAWA/角川書店
2015-06-27


救済のゲーム(河合莞爾)
全米プロの18番ホールのフラッグに串刺しの死体。新人ゴルファーが事件解決に奔走する軽妙なユーモアミステリー。
洋画のノリで展開する作品で、軽快な会話が印象的。ゴルフの蘊蓄が楽しくて興味深く読むことができます。逆に言えば、洋画独特の掛け合いが苦手だったり、ゴルフに興味がなければ、面白さは半減するでしょう。また、古き良き本格ミステリーの香りがする雰囲気はよいのですが、謎解き自体はやや凡庸な印象です

救済のゲーム
河合 莞爾
新潮社
2015-06-22


2015年5月

あなたが消えた夜に(中村文則)
連続通り魔事件を捜査する男女ふたりの刑事。真相を追う中で彼らは自らの闇と対峙する。
登場人物がすべて病んでいて、物語はミステリー的な謎から心の闇の解明へと移行します。ひとこで言えば、この作品はミステリーと純文学の融合です。次第に、狂気に飲み込まれていく展開には迫力を感じますが、純粋なミステリーを期待していた読者は戸惑いを覚えるでしょう。
あなたが消えた夜に
中村文則
毎日新聞出版
2015-05-15


リバース(湊かなえ) 平凡なサラリーマンの男に恋人ができるが、彼を名指しで人殺しと書かれた告白文が彼女の元に送られてくる。男はその手紙の差し出し人を探しだそうとするが・・・。
著者の作品としては珍しく男性が主人公。少しずつ明らかになっていく事実が読者の興味をつなぎ、ページをめくる手が止まらない一気読み本です。そして、最後にすべてが明らかになる衝撃のラスト。非常に面白い作品ですが、主人公が内向的な根暗なのでその言動には少しイライラするかもしれません。
リバース (講談社文庫)
湊 かなえ
講談社
2017-03-15


流(東山彰良) 舞台は70年代~80年代の台湾。祖父が殺された事件を軸に、少年から大人へと成長していく主人公の姿を描く。
台湾で育った主人公の青春とその時代背景を圧倒的な筆力で描きあげた傑作。祖父が被害者となった殺人事件から始まり、不良たちとの抗争、幽霊話、主人公の悲恋、そして日中戦争や中国共産党との戦いを生き抜いた大人たちの生き様と、様々な要素を盛り込み読者を飽きさせません。台湾の当時の雰囲気もリアルに描かれており、時代の流れを興味深く体感させてくれます。ただ、ミステリー要素はごく一部なのでそこに期待はしない方がよいでしょう。

第153回直木賞受賞
2016年度このミステリーがすごい!国内部門5位
流
東山 彰良
講談社
2015-05-13


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