更新終了☆☆☆


 
2016本格ミステリ・ベスト10
探偵小説研究会
原書房
2015-12-04


2015年4月

福家警部補の追及(大倉崇裕)
福家警部補と犯人たちとの対決を描いた倒叙型連作本格ミステリー。シリーズ第4集。
安定した面白さ。特に、今回は中編2本と長めの作品になっているため、犯人の心情などがより細やかに描けており、物語を盛り上げます。ただ、ミステリーとしての切れ味がこれまでよりやや落ちているのが残念です。



掟上今日子の推薦文(西尾維新) 眠るとその日の記憶がリセットされてしまう忘却探偵・掟上今日子。語り部が1作目の隠館厄介から親切守にバトンタッチしてのシリーズ第2弾。
本格ミステリーとしてはごく小粒で、
1作目と比べると
全体的に失速を感じます。しかし、相変わらずキャラは立っており、軽快な文章によって楽しく読み進めることができる作品です。


森は知っている(吉田修一) のどかな南の島の裏には全国から集められた孤児が暮らしており、スパイの訓練を受けていた。そのひとりが手紙を残して姿を消す。産業スパイ・鷹野一彦の少年時代を描いたシリーズ前日譚。
冷徹なスパイの世界で、友情や恋愛など、瑞々しく切ない青春を描いた完成度の高いエンタメ作品に仕上がっています

森は知っている
吉田 修一
幻冬舎
2015-04-22


ビッグデータ・コネクト(藤井太洋
行政サービス民営化のシステム開発エンジニアが誘拐され、プロジェクトの即時凍結が要求される。京都府警サイバー犯罪対策課の万田は凄腕ハッカーである武岱と共に捜査に望むが、今度はその
武岱に関する疑惑が浮かびあがってくるのだった。近未来のテクノロジーを描いたSF小説を得意とする著者による、ITミステリー。
全体にIT情報がたっぷり詰まっており、知的好奇心を満たすのには最良の本です。また、個人情報保護やマイナンバー制度など、現代の時事問題を強く意識する作りになっています。その上、物語にもスピード感があり、歯切れのよいエンタメ小説に仕上がっています。しかし、その反面、展開が大雑把な部分があり、これまでの藤井作品に比べると、やや精緻さに欠けるのが残念です。



アンダーグラウンド・マーケット(藤井太洋) 東京オリンピックを控えての移民自由化に伴い、経済格差が広がった結果、表の経済とは独立した仮想マネーが貧困層の間で普及していた。しかし、その二重経済体制を揺るがしかねない事件が勃発する。
舞台となる2018年までに、日本がここまで急速にに変化するのかという疑問はありますが、そこに目をつぶれば、世界観そのもは近未来SFとしてリアリティあふれるものであり、非常に魅力的です。ITや経済に興味がある人ならより楽しむことができるでしょう。また、物語にもスピード感があり、一級の娯楽小説に仕上がっています。

アンダーグラウンド・マーケット
藤井太洋
朝日新聞出版
2015-03-20


2015年3月

黒野葉月は鳥籠で眠らない(織守きょうや) 法制度の盲点をついた様々なたくらみ。現役弁護士が描く新感覚連作リーガル
ミステリー。
弁護士が法を武器に戦うのではなく、依頼人たちが法律の抜け穴を利用して弁護士を操ろうとする構成がなかなか斬新です。また、依頼人たちの狂気すら感じる信念、そして、人の心と法律の現状がかみ合わない違和感などが、この作品を印象的なものにしています。情にもろい主人公とクールな先輩とのコンビも好印象。

2016年度このミステリーがすごい!国内部門19
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門
18位


槐ーエンジュー(月村了衛) 合宿先で、残虐な半グレ集団相手に生き残りを賭けてのサバイバルをすることになった中学生とその教師たち。
ご都合主義とテンプレのかたまりなので。そこが気になりだすとこの作品を楽しむことはできないでしょう。一方で、畳みかける怒涛の展開に身を任せることができれば、ラストシーンまで一直線な娯楽小説の見本のような痛快な作品でもあります。ただ、話に深みはないので、後に残るものはあまりないかもしてません。あと、最初から最後までかなりどぎつい殺戮シーンが続きます。したがって、その手のシーンが苦手な方は気をつけてください。

槐(エンジュ)
月村 了衛
光文社
2015-03-18


さよならは明日の約束(西澤保彦) 高校生カップルが推論に推論を重ねて日常の謎を解き明かす連作ミステリー。
ほほえましいカップルのテンポの良い推論合戦とふたりの可愛らしさを楽しむ作品。青春時代の甘酸っぱい空気をうまく表現した青春ミステリーの佳作です。ただ、導き出される推理は実証されるわけではなく、机上の空論にすぎないので、その辺りにミステリーとしての物足りなさを感じる人もいるかもしれません。


誓約(薬丸岳) 罪を犯した男は過去を捨てて別人となり、慎まやかに生きていた。しかし、ある日、人を殺すという過去の誓約の実行を迫る手紙が届く。
先が気になってぐいぐいと読ませるパワーのある作品です。ただ、リアリティには欠ける話であり、ラストも強引にまとめた印象が強いので、その辺をどのように感じるかで評価が分かれるでしょう。
誓約
薬丸 岳
幻冬舎
2015-03-26


星読島に星は流れた(久住四季)
定期的に隕石が落ちてくる孤島。そこで毎年行われる天文学者主催の天文観察の集い。殺到した応募の中から選ばれた招待客たちが島に上陸するが、その数日後、ひとりが死体となって海で発見される。
斬新な大トリックなどはありませんが、端正なロジックに沿った王道の本格ミステリを堪能することができる作品です。文章も軽快で読みやすく、キャラクターも魅力的。隕石に関する蘊蓄も、この小説の面白さに彩りを添えています。あえて難を言うとすれば、ラノベ出身の作家だけにラノベっぽい雰囲気は随所に感じられ、肌に合わない人がいるかもしれないということぐらいでしょうか。
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門 10位

星読島に星は流れた (創元推理文庫)
久住 四季
東京創元社
2016-08-31



2015年2月

火星に住むつもりかい?(伊坂幸太郎) 住民に相互監視をさせ、危険とみなされた人物は平和警察によって有無を言わせず処刑される。その偽りの正義に立ち向かう孤独なヒーロー。
想像以上に恐ろしいデストピアの世界が描かれ、嫌な気分にさせられますが、先が気になってページがめくる手が止まらなくなります。テーマは偽善VS正義。重苦しい話ながらも、最後の伏線回収の心地よさとさわやかなラストが救いです。
火星に住むつもりかい?
伊坂 幸太郎
光文社
2015-02-18


人魚と金魚鉢(市井豊) 聞き役に徹する大学生が日常の謎を解く聴き屋シリーズ第2弾。
前作に比べると事件は小粒になっていますが、魅力的なキャラクターの掛け合いや上質な文章から醸し出される雰囲気がよく、楽しく読むことができます



粗忽長屋の殺人(河合莞爾) 落語の有名な噺を膨らませて、推理小説に仕立てたコミカルな連作時代ミステリー。
古典落語をうまくミステリーとしてアレンジしていて、ご隠居が謎を解く傍らでくり広げられるドタバタやボケっぷりが楽しい作品です。ただ、江戸時代が舞台なのに、現代ネタがちょこちょこ挿入されるのには違和感を感じてしまいます。



虹の歯ブラシ・上木らいち発散(早坂吝) 援助交際を生業としている美少女が、遭遇するする様々な事件の謎を解く連作ミステリー。
バカネタと下品なエロが満載ですが、ロジックは意外に緻密、で本格度は高い作品です。よくも悪くも今風の作家さんで、最後の壮絶なオチに対して、拍手喝采か本を壁に投げつけるかで読者としての資質が問われるのではないでしょうか。

2016年度本格ミステリベスト10 国内部門 11位


2015年1月

恋と禁忌の述語論理(井上真偽)

他の探偵が解決した事件を数理論理学者のアラサー美女が再検証し、真相をひっくり返す連作ミステリー。
ロジックの柱となる論理学は少々難解でついていけない部分もありますが、名探偵の推理を再検証するという構成はユニークで、ミステリーとして十分楽しめます。また、探偵役のアラサー美女、硯をはじめとする個性的なキャラクターたちも魅力的です。ただ、読者によっては、狙いすぎで鼻につくと感じるかもしれません。



からくり探偵・百栗柿三郎(伽古屋圭市)
時は大正。発明家の柿三郎がからくり猫のお玉さんと共に奇怪な事件に挑む連作ミステリー。 
本格ミステリとしては小粒。しかし、最後にすべてのエピソードが繋がっていく構成は見事です。さらに、B級感溢れる物語のテイストも楽しいのですが、からくり探偵という割には秘密道具とかの活躍があまり見られなかったの少々残念ではあります。


叛徒(下村敦史
通訳捜査官は、息子が犯人とも思える中国人の証言を隠すためにわざと誤訳をするが・・・。
着眼点のユニークさ、構成の素晴らしさ、伏線回収の妙とデビュー2作目とは思えない完成度の高さです。デビューして1年にも満たないこの作家の力量には目を見張るものがあります。ただ、ミステリーとして見た場合、江戸川乱歩賞受賞作の『闇に香る嘘』に比べると謎解きのスケールは小さく、また、主人公の家族の描写がやや類型的で、深みが感じられない点が残念なところです。
叛徒
下村 敦史
講談社
2015-01-21


透明カメレオン(道尾秀介) 美声で知られるラジオのパーソナリティが雨の日にびしょ濡れの美女と出会い、彼女の殺人計画に加担することになる。
ユーモラスな展開で話は進み、最後に切なくなる。その落差が読者の涙を誘います。また、多くの伏線が散りばめられ、ラストで一気に回収される快感もなかなかのものです。ただし、道尾作品に慣れた人だとオチは読みやすいかもしれません。それに、色々な要素を詰め込んだために作品全体としてやや散漫な印象があります。
透明カメレオン
道尾 秀介
KADOKAWA/角川書店
2015-01-30


悲嘆の門(宮部みゆき) 死体の一部を切り取る連続殺人の謎を、ネットの噂を手掛かりにして追う大学生。やがて、事態はミステリーを離れ、ファンタジーの様相を帯びてくる。
ネットで言葉が氾濫している現代において、言葉の力、言葉の怖さにつて言及した大作。また、主人公の正義が歪んでいくさまが気になり、ページをもくるてが止まらないという点では、著者のストーリーテリングが存分に発揮された作品とも言えます。しかし、本作は後半にいくほどファンタジー要素が強くなるため、ミステリーを期待して読むとそこに違和感を覚えるかもしれません。
悲嘆の門(上)
宮部 みゆき
毎日新聞社
2015-01-14


ラスト・ワルツ(柳広司) 第2次大戦時のスパイを描いたD機関シリーズ第4弾。中編1作と短編2作を収録。
人気シリーズだけあって安定した面白さを提供してくれますが、それが、逆に、ワンパターンと感じる人もいるでしょう。
ラスト・ワルツ (角川文庫)
柳 広司
KADOKAWA/角川書店
2016-03-25


死と砂時計(鳥飼否宇) 死刑囚専門の監獄で起きる奇怪な事件を、死刑囚の老人が解き明かす連作ミステリー。
魅力的な設定、魅力的な登場人物、魅力的な謎が揃った完成度の高い連作集。ひとつひとつの短編は単独でも十分に楽しめる出来ですが、本当に秀逸なのはエピローグです。ここに本作の真髄があります。
2016年度このミステリーがすごい!国内部門13位
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門 9位
第16回本格ミステリ大賞受賞


2014年12月


放課後に死者は戻る( 秋吉理香子)
崖から突き落とされたオタクがイケメンに生まれ変わり、自分を殺した犯人を探す。
さらりと抵抗なく読めてしまう文章がまず好感触。そして、『暗黒女子』のようなドロドロした話を予想していると、少年少女の成長を描いた青春小説だったことに驚き、爽やかな読後感を味わえます。なお、ミステリーとしては意外だったという意見と物足りないという声があり、賛否両論です。
放課後に死者は戻る
秋吉 理香子
双葉社
2014-11-19


機龍警察・火宅(月村了衛 警視庁が近接戦闘兵器を配備している世界を描いた近未来警察小説シリーズの短編集。
8つの短編でシリーズの各キャラクターが掘り下げらており、どの話もよい出来です。また、機龍の登場しないエピソードはSF要素がほとんどなく、まるで、横山秀夫の警察小説のような味わいがあります。


アールダーの方舟(周期律) 箱舟の遺物を求めて聖なる山を訪れた調査隊に次々と不可解な死が襲いかかる。
本書の大半を占める宗教談義を興味深く読むことができるかどうかで評価は大きく変わってくるでしょう。それを難なく乗り切ることができたならば、そこに散りばめられたミステリー的趣向を楽しむことができます。特に、箱舟に関する新しい仮説はなかなか興味深いものです。

アールダーの方舟
周木 律
新潮社
2014-12-18


2014年11月

鳩の撃退法(佐藤正午)
かつての売れっ子作家で、今は風俗店の送迎ドライバーに身をやつした津田伸一は、ある日、ドーナツショップで幸地秀吉という男に出会うが、彼はその日の内に家族と共に姿を消してしまう。それから1年と2カ月後、懇意にしていた古書店の主人が亡くなり、津田が形見として受け取ったバックの中からは、3000万円以上の現金が出てくる。津田は歓喜するが、使用した1万円札が偽札であることが判明して・・・。
ミステリー色の強いストーリーに見せかけていますが、その正体は現実と虚構の境界線を曖昧することで、小説を書くことの意味を問うた観念的なメタフィクションです。したがって、王道ミステリーを期待していた人は、この時点で弾かれてしまいます。本書の真価は、緻密に築き上げられたプロットに組み込まれた豊饒な言葉にあるのです。それを紐解き、じっくりと租借すれば、内包された豊かな物語性に気づくでしょう。しかし、その楽しみ方を見つけることができなければ、単に、まわりくどくて冗長で退屈なだけの作品になってしまいます。
第6回山田風太郎賞
2016年度このミステリーがすごい!国内部門11位
鳩の撃退法 上
佐藤 正午
小学館
2014-11-13


キャプテンサンダーボルト(阿部和重 /伊坂幸太)郎) 子供のころ野球仲間だった男たちは大人になって再会し、世界危機の謎に立ち向かう。
合作を思わせない自然な文章、緊密なプロット、巧みな伏線回収が見事です。現実離れした話なので緊迫感は今ひとつですが、読んで楽しく、上質なエンターテイメントに仕上がっています。
2016年度このミステリーがすごい!国内部門19位
キャプテンサンダーボルト
阿部 和重
文藝春秋
2014-11-28


ナオミとカナコ(奥田英朗) DVに悩む主婦が友人のOLと共謀し、夫を殺害。完全犯罪だと思われた犯行に綻びが生じ、次第に追い込まれていくふたりの運命は・・・。
テンポの良い一気読み本。キャラクターが魅力的なので、殺人犯のふたりをつい応援してしまいます。
ナオミとカナコ
奥田 英朗
幻冬舎
2014-11-11


フィルムノワール/黒色影片(矢作俊彦) 幻の映画フィルムを追って香港に飛んだに二村の周囲で起こる連続射殺事件。二村シリーズ4弾。
実在の俳優・宍戸錠が登場するなど、全体に日活アクション映画のオマージュ的作品になっています。ストーリーが複雑で、映画に関するマニアックな知識も要求されるので少々読み進むのに苦労するのが難点ですが、ハードボイルドとしてもミステリーとしても一級の作品です。
2016年度このミステリーがすごい!国内部門17位


オルゴーリェンヌ(北山猛邦) 焚書で書物の失われた世界。少年検閲官エノは孤島での連続殺人の謎に挑む。シリーズ2弾。
終末感漂う世界と派手な物理トリックの合わせ技という北山ワールド全開の作品。また、哀切を帯びたストーリーも絶品です。
2016年度このミステリーがすごい!国内部門10位
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門4位


さよならの手口(若竹七海) 休業中の女探偵、葉村晶は元女優から20年前に家出した娘探しを依頼される。葉村晶シリーズ13年ぶりの新刊。
軽い語り口に重い内容というシリーズの特徴はそのままに、40代になった葉村晶の活躍と不運体質故の受難を描いています。話のテンポがよく、多くの謎や伏線も過不足なく収束されるので、読後の満足感は非常に高いものになるでしょう。
2016年度このミステリーがすごい!国内部門4位
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門18位
さよならの手口 (文春文庫)
若竹 七海
文藝春秋
2014-11-07


化石少女(麻耶雄嵩 名門高校で次々と起きる殺人事件に対して、強引な推理を繰り広げる化石おたくの少女とその推理の問題点を指摘する後輩男子のコンビを描いた連作ミステリー。
迷推理を連発する探偵役とそれにダメ出しをするワトソン役。それでいながら実はその迷推理が正解もしれないという、相変わらずミステリーのお約束をこねくり回すことに余念がない麻耶ワールドが展開されます。ふたりのやり取りが楽しく、十分面白い作品ですが、著者の一連の代表作に比べると、少々大人しく感じてしまう点が評価の分かれる所です。
2016年度本格ミステリベスト10 国内部門 16位
化石少女 (文芸書)
麻耶 雄嵩
徳間書店
2014-11-12


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